90分が生む歪み~劇場版『若おかみは小学生!』感想~

『劇場版若おかみは小学生!』は素晴らしい出来の作品だった。
上映開始すぐに分かる出来の良さ、それでいて妙に尖ったり妙にでしゃばったりすることのない描写。
淀みなく的確に進む個別のエピソードの連なり。
ホントに出来が良い作品だなあこれはってそりゃ思う。


しかし、これで良いのだろうかとも思う作品だった。


この思いは、中盤まではそれほど浮かび上がることはなかった。
事故のシーンが終わってから若おかみになるという発言までのフワッとした導入は、決して悪いものではない。

急に両親を失い、しばらく経ってからの描写として考えうるものはいくつかあるだろうが、どこか感情面に置いて日常に回帰してしまい、なんとなしに別の家に住むこととなるということもありえないことではないと思えるからだ。
そこから、幽霊によって若おかみになることを宣言させられてしまう。それにお婆さん含め食いついて、そのまま旅館での仕事を始めることとなってしまう、というのも割とありがちな話の流れだ。
その描写も、見ていて楽しくなるような描き方がされていて、殊更騒いだり、荒立てたりすることなく、ちょうどいい塩梅で進んでいく。

その後も、終盤まではうまいこと話が組み立てられており、しかもシーン一つ一つがまあなんとも質が高いので感心してしまう。


そして、終盤。この映画における最後のお客が来る。
ここで、今作の主人公であるおっこが2度決断をする。
この2つの決断の背景に感じてしまうものが、問題なのである。
2度の決断の結果、
  • 1つは謝ったのち、お願いをする
  • もう1つは受け入れる
というシーンが描かれる。

このシーンに行き着いた理由として、おっこの成長というのはもちろんあるだろう。
だが、成長の裏に、仕事という暗い香りが漂っている。
彼女が、そのような決断をして、そのような行為に及んだのは、仕事によって規定されてしまったからではないか、と感じてしまった。


1つ目のシーンでは、彼女が何に対して謝っていたのかが分からなかった。
口にしている言葉からすると、仕事、舞を踊るという自らに課せられた役目に対し忠実でなかったことに対する謝罪のように見て取れたが、そんなに駄目だったのだろうか。
多少のミスは当然に生じうるもので、仕方のないものだと思えた。
それを、旅館の経営をやりたくてしょうがなく実際にやっているような真月から指摘されたとして、本当に理にかなっているのだろうか。
そこまでに描かれたシーンからすると、以前に比べると格段にうまくなっていることは確かであり、教える側がその上達速度さえうまく見込めれば本番には無事間に合うというように取れた。
結果として、このシーンについて、なんかよく分からんけど謝ってから協力してもらうと取れてしまった。

2つ目のシーンは、「花の湯温泉は神さまから授かったもの!だからこそ花の湯温泉は誰も拒まない。どんな人でも受け入れる」という今作品で一貫して示された考え方の終着点なのだろうとも思えた。
それでも、彼女が今、この時にその大原則を受け入れ、体現することが本当にいちばん大事なのだろうか。
これは、働かせる中で彼女が身につけてしまった仕草、処世術のようなものではないか。本当にこれで良いのか、と思ってしまった。


あまりに淀みなく的確に進んでいるからこその歪みを、この2つのシーンに感じてしまった。
すると、周囲の優しい人たちが示すおっこへの表現も、この歪みを下支えしているのではないかと怖さを覚えた。
彼らには悪意はないのだろうが、思ってみれば若おかみになると宣言させられたときから、彼らは若おかみにふさわしいような人間になるように優しさを示し、巧妙におっこを若おかみへと仕立て上げてきたのだ。
更に、幽霊や鬼が消えれば、おっこはどうなるのだろう。
もはや彼女には若おかみしかない。若おかみしかないのである。


今作品が、この歪みに対して自覚的だったかどうかというと、無自覚だったのではないか。
90分で物語のエッセンスを抽出し、必要なものを必要なだけ用意し、最初から最後まで的確に組み上げていった素晴らしい今作品について、このようなヘンテコな思いを抱く人はあまりいないのかもしれない。
ただ、今作品を見て、手放しに称賛できないとしたら、このような部分に原因があるのではないだろうか。

そして、これは90分という尺の短さではとても解決できない。
抜本的に解決しようとすると、原作の設定や構成を大幅に見直していく必要が生じる可能性がある。

ある程度時間があれば、さらなるシーンの追加が見込め、おっこの成長という観点から生じた行動であるということを強く打ち出すことができたのかもしれない。
ただ、これも結局のところ、時間で薄めただけで、歪みは残っているのだろう。

ならば、どうすべきかというと、やはり若おかみみたいなありそうな職業ではなく、魔法使いとか怪盗とか正義のヒーローとかそういうので世界を救うか。明らかに前時代的にするかとかその辺があるのかもしれない。



それにしても、視聴前にこんなポスターを見るべきではなかった。
「小学生からキャリア教育」と言っている文科省に鼻クソ投げつけたい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/09/__icsFiles/afieldfile/2018/09/04/1408822_01.pdf



おしまい