phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


B専の超絶美形上司・久世からのひどすぎる口説き文句(※本人にとっては褒め言葉のつもり)に辟易しながらも、日々ウェディングプランナーとしての業務に励む北條香澄。そんな彼女が教育係を命じられた相手は、元CAだという中途採用の年上新人・財前だった。1年かかるはずの現場研修を半年でクリアしたという実力の持ち主である財前は、自身の美貌や学歴の高さ、また前職での経験をひけらかし、周囲からはあまりいい目で見られてはいなかったが、仕事ぶりはかなりのもので、香澄もしばしば言い負かされてはへこむ日々が続いていた。そんなある時、財前が単独で飛び込み客から契約を取ったのだが、久世はそれでも香澄とふたりで担当するよう指示。香澄を差し置いてどんどん話を進めていく財前だったが、挙式後、その夫婦から式の費用が払えないと言われてしまい……。

自他ともに認める「絶世のブス」なウェディングプランナー・香澄の奮闘と、「意識の高いB専」な美形上司・久世との攻防を描くお仕事ラブコメ、待ってましたの2巻。

毎日ラブレター渡してくるししかもその中身は1行平均3回「ブス」と書かれている――という戦慄のエピソード(笑)から始まる今巻。久世課長がまったくブレていないところに笑いが止まらない……と思っていたものの、その心境にもずいぶんと変化が。前巻の終盤でも本人が語っていた通り、香澄を「可愛い」と思うことが増えていることに戸惑っている模様。もうこの時点でちょっと意味わからない感じなのだが(もちろん香澄も同じような感想を抱いている)、そんな久世はさておき、香澄の前向きな働きぶりは相変わらず。マウンティング女子・財前との対決でへこんだりはするものの、周囲には理解してくれる人がたくさんいるというのは、どれほど救いになることか。彼女の人柄や人望が今回も色濃く反映された展開にはすっきりさせられた。

しかし終盤になってまさかの新キャラが登場。ホテルに併設されている花屋の新スタッフが、香澄と同じジャンルの女性だったからさあ大変。ここで久世がどう出るのか、次巻(はあるよねきっと!?)の展開が今から気になって仕方ない。


◇前巻→「Bの戦場 さいたま新都心ブライダル課の攻防」


年が明けた頃、鹿乃は知人からある男性を紹介される。佐伯稜一と名乗るその青年の祖母が、かつて野々宮家に着物を預けていたのだという。果たして蔵に残されていたのは椿が描かれた振袖。しかし鹿乃たちの目の前で、咲き誇っていた椿の花はすべて落ちてしまう。後日、稜一の祖母・瀧子と対面した鹿乃が聞かされたのは、その振袖の持ち主が瀧子の姉であり、その姉は養子だった義兄との恋を両親に咎められ、心中したのだという悲しい過去だった。瀧子から彼女の遺品を託された鹿乃は、収められていた書付や目録から、椿の花が落ちてしまう理由を探ることに。一方、年末に慧に告白した鹿乃だったが、明確な返答を得られたわけでもなく、しばらくぎくしゃくした関係が続いていた。しかし今回の調査のさなか、慧は鹿乃に「妹みたいに大事に思っている」と告げ……。

鹿乃と慧、ふたりの恋心が揺れ動くアンティークミステリ連作、第6弾。

今巻、鹿乃のもとに持ち込まれた依頼には共通点がある。それはいずれも、立場や年齢など様々な理由で、周囲からその関係をよく思われない恋人たちの持ち物ばかり。彼女たちは愛する相手のため、身を引くか、それとも愛を貫くかの選択を強いられ、その想いが野々宮家に預けられた着物にも宿っている。そんないくつもの恋路を見つめる中で、鹿乃と慧もまた、自分たちの想いに向き合うことになるのだ。

とにかく思い切りが悪いというか後ろ向きなのが慧。結局のところ出発点が「兄と妹」的な関係だったせいで、そのことにとらわれ過ぎて、大事なものが見えなくなっているという状況に。特に似た境遇の恋人たちが今回登場するだけに、どんどん慎重に――あるいは臆病に――なりすぎているというのがなんともつらい。そしてそんな慧の気持ちを察して、自分の気持ちを押し殺そうとする鹿乃の行動にも。だからこそ周囲の説得もあってようやく迎えたラストには心の底から安堵させられる。ふたりの関係はこれまでとはがらっと変わってしまうけれど、それは必要な変化なわけだし、だからこそ見えてくるものもあるだろうな、と。

一方、今回の良鷹編「羊は二度駆ける」は今まで以上にホラー&オカルト風味。しかし一方で、良鷹の心境にもいろいろと変化があった様子。真帆との関係も含め、彼も前向きに変わってくれればいいのだが。


◇前巻→「下鴨アンティーク 雪花の約束」


一族出身の娘が皇后となったことで、法により一族殉死を命じられた名門・星家。その唯一の生き残りである病弱な少年・遊圭は、ひょんなことから女性と偽って後宮勤めをする羽目になっていたのだが、皇帝の側近でもある美貌の宦官・玄月に正体を見破られ、彼の手駒として今度は皇帝の妹・麗華公主の宮へ潜入することになってしまう。表向きの目的は引きこもりで体調不良の公主の治療だが、実際はその母親にして現皇帝の養母である皇太后の身辺を探ること。皇太后は先だっての星皇后暗殺未遂事件、さらにさかのぼっては現皇帝の実母である当時の皇后暗殺にも関わっている可能性があり……。

後宮で生き抜く少年女官の活躍を描く中華ファンタジー第2弾。

今回は皇族にまつわる陰謀を暴け!ということで、玄月に弱みを握られている遊圭はしぶしぶ女官勤めを継続中。しかもそのために(というだけではもちろんないのだが)、医者の資格を得て「女医生(見習い)」として、引きこもりで不摂生がたたりまくっている公主の治療を命じられるのだからさあ大変。もちろん相手は気位の高いお姫様だからして一筋縄でいくわけもないし、そもそも本来の仕事は諜報活動ということになるのだから、まだ10代の、しかも素直で世慣れていない少年には荷が重すぎるとしか言いようがない。しかし後ろ盾もなければ、存在がバレれば殺されることが確定しているということで、遊圭は懸命に任務に当たってゆく。しかしここで単なる義務感のみで動くのではなく、公主や偶然知り合った最下層の宦官、また体調の悪い女官たちの相談を親身になって受け止め考える遊圭の姿からは、彼の生来のやさしさが垣間見える。

とはいえやっぱりまだ10代男子ということで、いろいろと見誤ることもあれば、焦りから失敗することも。そんな彼をフォローするのが完璧すぎる宦官・玄月だが、今回の彼の「作戦」や、その中で遊圭が見聞きした彼の来歴などを考えると、彼の本意がどこにあるのかますますわからなくなってくる。私心なき忠実な官吏なのか、それとも何か企みをその美しい顔の下に隠していたりするのか……遊圭でなくとも簡単に信じられないというか、まだなにかあるんじゃないかとつい疑ってしまったりして。


◇前巻→「後宮に星は宿る 金椛国春秋」


大学進学のため、東京から長崎に越してきた女子大生の日高乙女は、アルバイトの面接に落ち、落ち込みながら雨のオランダ坂を歩いているときに、1軒の洋館カフェ「小夜時雨」を見つける。中に入ると客は誰もおらず、店員は不愛想な美形男性がひとり。メニューは「五三焼き、暖かい酪奬」と墨書された貼り紙のみだった。奇妙に思いつつも、出されたお菓子のおいしさに喜ぶ乙女。しかし代金を払おうと金額を問うと「考えておく」とだけ言われ、乙女はしぶしぶ店を出るのだった。後日、代金を支払おうと乙女は店に向かうが、何度立ち寄っても開いておらず……。

Webサイト「小説家になろう」掲載作の書籍化。メニューが日替わりの1品しかない不定期営業のカフェで、どこか謎の多いオーナーと好奇心旺盛な女子大生が長崎の名物をめぐり距離を縮めてゆく、長崎カフェグルメ小説。

日本・中国・南欧の文化が融合してできた長崎の「和華蘭文化」。ここから生まれた様々な絶品スイーツが、カフェ「小夜時雨」の日替わりメニューとして提供される……ということで、短編連作の形式で毎回登場する様々なお菓子がおいしそうで仕方ない1冊。長崎の歴史とも密接に関わっているということで、様々な雑学もちりばめられているのが面白い。

そしてもうひとつ、物語の軸になるのが、主人公である乙女と、カフェのオーナー・向井潤との恋愛模様。わりと正反対めな性格のふたりだが、逆に相性がいいのか、お互いを振り回したり振り回されたりしながら少しずつ距離を詰めていくのがなんともいい。オーナーの「正体」はわりと早い段階で察しがつく(ただし乙女は気付いていない)のだが、最後の最後でバレた時のお互いの反応がこれまた面白い。両想いになってからも、「正体」が判明した後でも、ふたりの関係が相変わらずな感じで、最後までほっこりとさせられるお話だった。


かつて自分を助けてくれた騎士クライヴに憧れを募らせ、彼と結婚したい一心で花嫁修業に邁進してきた伯爵令嬢のアシュリー。しかしこのたび父親から告げられた縁談の相手はもちろんクライヴではなかったからさあ大変。ショックを受けるアシュリーに、絶賛引きこもり中の双子の弟・アッシュが提案したのは、正式に結婚する1年後までふたりが入れ替わり、アシュリーが「アッシュ」として騎士団への社会勉強に行くことだった。かくして一も二もなくその提案に飛びついたアシュリーは、運よくクライヴが所属する第一部隊への配属が決まり、意気揚々と王城へ向かうことに。女だとバレないように見習い騎士としての仕事に励みつつ、なにかとクライヴに付きまとってはすげなくあしらわれるが、それすらも幸せでたまらないアシュリー。しかもその執着ぶりにおそれをなしたルームメイトたちによって部屋を追い出されたアシュリーは、なりゆきでクライヴの部屋に転がり込むことになり……。

ストーカーよりタチの悪いクライヴ様命の暴走令嬢と、そんな彼女にロックオンされてしまった青年騎士との攻防を描くラブコメ長編。

まず登場人物紹介ページで主人公・アシュリーの説明が「伯爵令嬢。クライヴが好きで好きで好きで好きで男装した」としか書かれていないところがすでに意味不明な本作(褒め言葉です念のため)。双子の弟と入れ替わって騎士団生活というのはまあなくはないシチュエーションだが、ここで問題なのは、アシュリーがストーカー通り越してもはや変態としか言えないくらいにクライヴを偏愛しているということ(笑)。クライヴと結婚できないなら来世は彼のシャツに生まれ変わりたいと嘆き、手に触れられれば「指紋をつけていただけた」と喜び、声を聴けば「僕の鼓膜を震わせてくださったああああ!」と叫び……ととにかくオーバーリアクション(ただし本人は本気)でその喜びを表現しまくるのだからもうどうしたらいいか(笑)。

まあそんな感じで大きな事件も特に起きず、終盤ではお約束でクライヴにのみ女であることがバレたりもするが(ただしアシュリーはバレたことに気付いていない)、ただひたすら「クライヴ様ああああ!」なアシュリーのブレない態度がいっそすがすがしい本作。続編があれば、アシュリーが女だと知ったクライヴが今後どう出るのか気になるところ。

先日、元同僚ふたりと新年会(いまさら)をしてきました。なぜ新年会かというと、今年に入って3人で顔を合わせるのはこれが初めてだからです(笑)。もう6月も終わろうとしているのに。

……ってそうそう、もう6月が終わりそうなんですよ。つまり今年もそろそろ後半戦突入です。時間が流れるのがはやすぎです。その新年会でも、健康診断の話になり、いつの間にか私ともうひとり(元同期)がバス検診の対象外になる年齢になってしまったということで、時の流れの速さに落涙を禁じえません(おおげさ)。ちなみに経験者ふたりからはバリウム検査の大変さ&胃カメラの苦しみを滔々と語られてしまい、唯一どちらも未経験な私はいったいどうしたら(年末に鼻カメラ予定ですが)。あと検診を受けたらなにかしら引っかかるという話とか。まあ私に関しては、そのへんは特に心配してませんよ……いろいろと加療中につき、検査受ければなにかしらに引っかかることはもうすでにわかってますから(苦笑)。

……というような華麗なる加齢の話で盛り上がった翌日、職場の後輩(20代半ば)から「時間の流れが速くてヤバい」的なことを言われてぅおーい!(裏拳ツッコミ)となったのは秘密です(笑)。まあ私もそのころから同じようなこと考えてたような気はしますけどね。


*ここ1週間の購入本*
清家雪子「月に吠えらんねえ7」(アフタヌーンKC/講談社)
松浦だるま「累11」(イブニングKC/講談社)
なま子「ドラマティック・アイロニー2」(シルフコミックス/KADOKAWA)
篠原悠希「後宮に月は満ちる 金椛国春秋」(角川文庫/KADOKAWA)
織川あさぎ「竜騎士のお気に入り2 侍女はねがいを実現中」(一迅社文庫アイリス/一迅社)
白川紺子「下鴨アンティーク 暁の恋」
ゆきた志旗「Bの戦場 さいたま新都心ブライダル課の機略」
三木笙子「月世界紳士録」(以上、集英社オレンジ文庫/集英社)
菅浩江「ID-0 1 Cognosce te ipsum.−汝自身を知れ−」
上遠野浩平「製造人間は頭が固い」(以上、ハヤカワ文庫JA/早川書房)
内藤了「首洗い滝 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ/講談社)
横谷昌宏「TV Animation Free! Novelize」(KAエスマ文庫/京都アニメーション)


事務所へ向かう途中、具合の悪そうな少年を見かけた莉莉。靫正と名乗るその少年の行先は十六夜ビル1階の喫茶店――つまりあやかし専門の医師・晴と嵐の事務所の階下にある「エリュシオン」だった。靫正の叔父でもある喫茶店のマスターと共に話を聞くところによると、かつて靫正は烏天狗のあやかし・サクヤと「ゆびきり」による契約を交わしたが、最近になってサクヤの具合が悪く、さらにそれが靫正にも影響を及ぼしているのだという。晴たちの見立てによれば、サクヤの不調は病ではなく呪いによるものらしいが、それをかけた相手だけでなく、理由すらサクヤにはわからないようで……。

あやかし専門のお医者さんな双子(うち片方は幽霊)と、その弟子になった女子高生が織りなす癒し系シリーズ第3弾。

今回やってきたのは呪いを受けた烏天狗と妖狐。どちらのケースも呪った張本人はわからなかったものの、呪いそのものがそれぞれのあやかしを指定して直接狙ったものではなく、無差別な犯行的な感じだったので大事には至らなかったが、前巻で双子が示唆していた、反あやかしを掲げるだけでなく実行する人物が確実に存在しているということがなんともうすら寒い。そしてその中で莉莉が直面したのが、リヒトとの関係そのものだった。

ヒトとあやかしが死ぬまで一緒にいるという契約を意味する「ゆびきり」――式神との契約とは異なるこの関係を結んでいた莉莉とリヒトだが、リヒトの方は思うところがあった模様。それは今回登場した烏天狗のサクヤも同じだった――つまるところ、そばにいるだけではなく、相手のためになにかしたいのだということ。莉莉も靫正も「そばにいてくれるだけでいい」というが、相手の気によって自分の存在を保っていられるリヒトやサクヤにしてみれば、捨てられたくないから役に立ちたいと思ってしまうのは当然のことかもしれない。

そんなふたりに晴は告げるのだ――「そばにいてくれるだけでいい」というのはつまり、「絶対に離れないでいてほしい」ということではないか、と。だから莉莉は怒るのだ。こんなにもやさしいあやかしたちを呪おうとする人物に。そして自分のもとから黙って離れようとするリヒトに。莉莉とリヒトは同じ種族ではないし、関係性も人間同士のそれとは違うから、今回のようにすれ違ってしまうことはあるかもしれない。けれどこうして互いのことを思いやるという点では、種族の違いなど問題ではない。そんな当たり前のことに気付かせてくれる結末がとても良かった。


◇前巻→「あやかし双子のお医者さん二 付喪神と千羽鶴の願い」


希実の母・律子が亡くなって約5年が経ち、ブランジェリークレバヤシに関わる人々にもそれぞれ変化が起きていた。脚本家の斑目氏は(自分でも信じられないことに)結婚して子供も生まれ、マタニティーブルーな義妹夫婦を励ます側に立っていた。ソフィアは安田氏と3度目の破局を迎えた者の、なぜ自分が今回に限り、あれほどまでに彼をこっぴどく振ったのか、その理由がわからずにいた。弘基は両親の借金返済のためブランジェリークレバヤシを辞めて別のパン屋に就職し、その流れでフランスへと派遣され日本に帰れない状態に陥っていた。そして大学生になった希実は、入学直後に謎の引きこもり期間を経て復学し、やがてある疑念を解消すべく、年の瀬も近くなった頃にアメリカへ短期留学していたのだった……。

真夜中にのみ開店する不思議なパン屋「ブランジェリークレバヤシ」が舞台の本シリーズも、6巻の今巻をもって完結。前巻から5年を経て、それぞれのその後が描かれてゆく。

5年もあれば環境なんていくらでも変わる――ということで、それぞれの現状と、現在抱える問題について群像劇的に描かれていく今巻。斑目氏の結婚や、高校生になったこだまの変貌ぶりには驚かされたが、それ以上に驚いたのが、弘基と希実が付き合うようになっていたこと。ある程度予想はしていたが、でもやっぱりまさかの展開!

そしてもうひとつ、やはり一番紙幅を費やして語られていたのが、この5年間の間に希実に起きた心境の変化。早い段階で自分を捨てた存在だとはいえ、実の母親の死というのは希実の精神に大きく影響を及ぼしていた――もちろん、彼女の心境は、普通の「母親を亡くした娘」のそれとは大きく異なる。希実にとって母の死に対しては好悪様々な感情が綯い交ぜになっているはずだが、周囲はどうしても「亡くなった母親のために健気にがんばった娘」というレッテルを貼る。その乖離に希実は苦しんでいたのだろう。しかしそんな彼女を救ったのは、父親や叔父ではなく、暮林さんと弘基の存在。特に弘基への恋心を抱くたびに母親の行状を思い起こし苦悩しているようだが、そしていきなり遠距離恋愛ということもあってお互い戸惑いもあるようだが、このふたりなら大丈夫だろう、きっと。なぜならふたりの帰る場所には暮林さんがいるのだから。ラストに置かれた「いつも通り」の暮林さんのエピソードが、このシリーズすべてを象徴しているようで、胸に迫るものがあった。


◇前巻→「真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者」


彼氏と別れ、仕事にも疲れていたOLの鳩鳩子は、他界した祖母の家へ整理のために向かうことに。しかし東北の田舎にある祖母・鳩言子の家には、謎の青年が棲み着いていたのだ。阿壱と名乗る青年は人間ではなくあやかしの類で、言子含む鳩家の人間は、代々あやかし相手の相談役をしていたのだという。そして阿壱はその相談役の世話役として、代々の相談役に仕えているのだとも。言子が亡くなり、その息子である鳩子の父が役目を拒む以上、次の相談役は鳩子だという阿壱の言葉をもちろん拒否する鳩子だったが、そんな矢先に彼女の勤め先が倒産し、さらに彼女の住むマンションが放火により全焼。仕事も家も失ってしまった鳩子は、否応なしに相談役の仕事を受ける羽目になり……。

富士見L文庫での新作は、前作に引き続き今回もあやかしもの(続編ではないが)。OLの鳩子さんがあやかしの相談役になってしまうまでを描く物語。

苗字が「鳩」、名前が「鳩子」というフルネームがなかなかインパクトのある主人公・鳩子だが、中身はいたって普通のOL。「相談役」にあやかしが悩みを相談することで、自動的にフラグが立って解決に導かれるという設定がなんとも面白いのだが、そんなふうにある意味うまくいきすぎるあやかしとの関係の中で、どうしても意識せざるを得ないのが人間とあやかしの違いだった。永きを生きるあやかしたちと、そんなかれらの永い生を一瞬かすめてゆく人間たち――特に世話役として人間に仕え続けてきた阿壱と、一瞬で消える側の立場である鳩子との間に、その問題は大きく横たわることになる。

阿壱の片割れというべき存在・吽零と、先代の相談役であった言子の存在は、そんなふたりの関係に大きな影響を及ぼす。と同時に、ふたりに覚悟を背負わせることとなる。そうして「永遠」の一端に触れた鳩子が、こっそり書き記した「人間は、すこしだけ永遠なの」という言葉がひどく印象に残った。限りある時間を生きるものの方が「永遠」の意味を理解できるのかもしれない。


12月になり、慌ただしい中でちょっとしたすれ違いなども経験しつつ、順調にお付き合いを続けていたまもりと葉二。しかし恋人同士になって初めてのクリスマスを迎えようとしていたふたりの前に現れたのは、まもりの弟であるユウキだった。受験生であるユウキはどうやら最近成績が下がり気味らしく、ノイローゼになって家出してきたのだという。「お隣の亜潟さん」の正体がバレて慌てつつも、まもりはユウキを泊めてやることに。すると翌日、まもりがバイトで不在の間に、葉二はユウキを昼食に誘い……。

園芸ライフが運ぶラブストーリー、シリーズ第3弾は年末年始編。ついに葉二の存在が実家にバレてさあ大変!の巻。

元々ひとり暮らしを反対されていたこともあり、「お隣の亜潟さん」を頼れる年上の女性として実家に伝えていたまもり。しかし弟、ついでは母親の襲来により、ついにお隣さんが30代男性でしかもお付き合いしていることまでバレてしまいまもり大ピンチ、ということで。交際どころかひとり暮らしまで禁止されそうになっていたまもりだったが、そんな彼女を救ったのはもちろん葉二。完璧に猫をかぶっている状態ではあるが(笑)、それでも大人の男性として真摯に対応し、まもりへの本気度をアピールする姿にはまもりじゃなくてもきゅんとさせられる。

ということで今回、葉二がまもりに対して本気の本気ということがよくわかるエピソードに。実家襲来編の前にあったふたりのすれ違いエピソード(葉二が涼子の容姿を褒めたりまもりと比べたりしたせいでまもりの地雷爆発事件)の顛末も本当にニヤけが止まらない流れで本当にもうどうしたらいいか……としか言えなくなってくる。まもり両親の許可もとりあえず得られたことだし、今後のふたりの関係にますます期待。


◇前巻→「おいしいベランダ。2人の相性とトマトシチュー」


慶国との戦を決めた文林。配下に慶の出身者がいることもあり、小玉が行軍元帥に選ばれることがなかったが、そのことに対して文林はふたつの相反する気持ちを抱えていた――小玉に手柄を立てさせたいと考える一方で、彼女を失いたくないという気持ちが芽生えていたのだ。一方、小玉はいまだに文林へのわだかまりが消えないでいたが、その理由に――すなわち自身の心に目を向けることを無意識のうちに恐れていた。そんな矢先、朝廷では皇太子の問題が議題に上る。司馬淑妃の息子である長男の鳳か、皇后である小玉が養育している三男の鴻か。当初は小玉も、そして文林自身も鳳を推すつもりだったが、やがて後宮にてふたりの皇子に関わる事件が起こり……。

シリーズ6巻はまたしても転機の巻。前巻に引き続き、深い溝ができてしまった皇帝夫妻のその後と、そして帝国を揺るがすふたつの事件について綴られてゆく。

ひとつめの事件は隣国・慶との戦のこと。開戦の時点で小玉の出番は見送られたが、ここで文林の心境に変化が。元々軍人としての出世をさせたいというのが、小玉を皇后に据えた理由のひとつ。であれば今回の戦は好機であるはずなのに、文林はそれを躊躇してしまう。つまり、小玉を死なせたくないと考え始めたがゆえに。

そしてもうひとつの事件は皇位継承問題。戦ともなれば、ことによっては文林が死ぬことも考えられる。となれば後継者を決めることは必須ではあるが、長男である鳳をそのまま立太子させることにも、文林は躊躇する。それは後宮で起きた、小玉を巡って皇子たちが起こした「事件」のせいもあろうが、それ以上にここでも文林は小玉の立場を慮ることになる。自分が死に、司馬淑妃の子である鳳が次期皇帝となれば、小玉の立場が悪くなることは必至だからだ。

そんな感じで、文林の中で小玉の存在がこれほどまでに大きくなっていたということが思い知らされた今巻。ではそこで小玉がどう出るかというところだが、彼女は彼女でやはり変化があった。もしかしたら流産していたかもしれないという事実。そしてそれを文林が「残念だ」のひとことで片付けたこと。さらに謝賢妃のことも含め、自分たちを道具として使おうとする文林の態度。それらが「皇帝」の態度として当たり前だとは頭で理解していても、気持ちが付いていっていないのだ――それは小玉にとっても、文林の存在が大きくなっていたからに他ならない。けれどふたりはすれ違ってしまった。だからこれからいくら言葉を重ねても、再び歩み寄ったとしても、もう同じ場所には戻れない。そしてそれをきっと小玉は肌身をもって理解したに違いない。そんな想いを胸に戦地に赴くことになった小玉を、文林はどんな気持ちで見送るのか。そして彼女を帰還したならば、その時はどのように迎えるつもりなのか――物語はここからが本番。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第五幕」

5まで数える (単行本)
松崎 有理
筑摩書房
2017-06-08

5年生になったばかりのアキラの前に現れた新任のファン先生は、一番好きな教科が数学なのだという。彼女の授業はこれまでのそれとは少し変わっていて、単なる計算練習だけではなく、柔軟な応用問題を多く扱っていたが、数学が苦手なアキラにとっては手ごわい存在となる。物心ついたころから数字を認識できず、指を使ってでさえ数を数えることができない――アキラは親も含めた周囲にそれをひた隠しにしていたのだ。単なる計算問題であれば、答えをまる暗記すればなんとかなる。しかしひっかけのような文章問題となると難しい。そんな折、教会でアキラは突如現れた謎の老人に話しかけられる。アキラのことを「イプシロン」と呼ぶ彼は、自称「数学者の幽霊」だという。最初は彼を恐れていたアキラだったが、彼と話すうちに「数字を使わない数学」の存在を知り……。(「5まで数える」)

2015〜2016年にかけてウェブや雑誌「ちくま」で発表された短編3本を含むSFホラー短編集。

表題作の「5まで数える」は、数字にまつわる障害を持つ少年が「数学者の幽霊」と出会い、悩みを解決していくといういい話系のエピソード。このほかにもホラー寄り、あるいはコメディテイストの短編が5本収録されている。

倫理上の観点から動物を使った生体実験ができなくなった世界で、自らの身体を実験体として不治の病「彗星病」の治療方法を確立しようとする実験医たちの挑戦と苦悩を描く「たとえわれ命死ぬとも」。ゾンビならぬ「アル・クシガイ」の存在を信じる人々の噂が世界にパニックを引き起こす「やつはアル・クシガイだ」。インチキ科学を本物の科学者と奇術師が暴いてゆく「バスターズ・ライジング」。移送中の事故で砂漠に投げ出された少年受刑者たちが生き延びるために砂漠踏破を目指す「砂漠」。そして新型の日焼け止めで九死に一生を得る掌編「超耐水性日焼け止め開発の顛末」。

一番こわいと思ったのは「たとえわれ命死ぬとも」で、そりゃあまあ人間のために動物を犠牲にすることがいいことではないとは思うが、かと言って「なら医者(研究者)本人が自分の身体で実験すべき」というポリシーのもとに「実験医」という存在があり、毎年多数の殉職者が出ている……というのもさることながら、そもそもその世界では科学やら医学やらの啓蒙が進んでおらず、いくら彼らの実験結果によって画期的な治療方法が発見されたとしても、患者たちがそれを受けようとせず、自然治癒だとかまじないだとかの方が効くと信じている――つまり死んだ医師たちがまったく報われないという世界観がとにかくこわいし悲しい。いったい正気なのは誰なのか、と問いたくなるラストにやりきれない気持ちでいっぱいになる。

一方で、同じく科学に対する理解が進んでいない世界(「たとえ〜」と同じ世界?)で、カルトまがいの「科学」を駆逐していく疑似科学バスターズが登場する「やつはアル・クシガイだ」と「バスターズ・ライジング」は、結末こそ苦いものがあったりもするが、バスターズの活躍には胸がすく。どちらにしても、「人は見たいものしか見ない」というどうしようもない事実に真っ向から立ち向かってゆく展開が良かった。

先日、外で思いっきりこけてしまい、右手と膝を負傷してしまったんですが、2週間たってもまだ治る気配がありません。膝はズボン越しに擦り剥いたのがやっと乾き始めたかどうかという具合だし(ちなみにこの時のズボンは死んだ)、スマホ握った状態でコンクリでごりっと擦ったので、手の指の関節部分が思いっきりえぐれ、なにやら大穴が開いた感じになってます。母および妹に治りが悪いことを嘆いたところ、どちらからも「年だな」とばっさりやられました。そうか年か……自然治癒力が衰えちゃってるのか……。

そういや最近、本棚の奥から芥川龍之介の「奉教人の死」が出てきたので、ふと思い立って去年ゲットした文ストアクリルチャームを引っ張り出して一緒に激写するという遊びをツイッターの方でしてみたんですが(?)、よくよく考えると私、芥川の本ってこれしか持ってないんですよね……。芥川に限らず、いわゆる近代の文豪の方々の本って持ってないもんだなあとしみじみ。まあ学校でも公立でも、図書館に行けば必ずありますし。あっでも夢野久作ならいっぱい持ってますよ!ただし「ドグラ・マグラ」単体では持ってないんですけどね……なぜかというとその昔 「ドグラ・マグラ」を読むにあたり、角川文庫版ではなく創元推理文庫版の「夢野久作集」的なやつを買ってしまったからです……。

Qちゃんと夢野久作集

分厚いから支えとかなしでひとりで立てるよ(笑)! なんたって「瓶詰の地獄」と「氷の涯」も併録されてるからね!
……しかし表紙こわいな……。


*ここ1週間の購入本*
栗美あい「紅霞後宮物語〜小玉伝〜3」(プリンセスコミックス/秋田書店)
若林稔弥「徒然チルドレン8」(マガジンKC/講談社)
片瀬茶柴「虚構推理6」(KC月マガ/講談社)
伊東七つ生「新上海エピキュリアン1」(itコミックス/KADOKAWA)
夏野ちより「暴走令嬢の恋する騎士団生活」(ビーズログ文庫/KADOKAWA)
椎名蓮月「あやかし双子のお医者さん三 烏天狗と押しかけ弟子」
竹岡葉月「おいしいベランダ。 3月の桜を待つテーブル」
野梨原花南「鳩子さんとあやかし暮らし」
雪村花菜「紅霞後宮物語 第六幕」(以上、富士見L文庫/KADOKAWA)
大沼紀子「真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥」(ポプラ文庫/ポプラ社)
竹本健治「かくも水深き不在」(新潮文庫/新潮社)
吉川トリコ「ミドリのミ」(講談社文庫/講談社)
織守きょうや「SHELTER/CAGE」(講談社BOX/講談社)
松崎有理「5まで数える」(筑摩書房)
桜庭一樹「じごくゆきっ」(集英社)

夜見師 (角川ホラー文庫)
中村 ふみ
KADOKAWA
2017-01-25

曽祖父から始まった謎の呪いのせいで、20代半ばで死ぬことが決められている21歳の五明輝。唯一の肉親である妹のため、死ぬまでにとにかく金を稼いでおきたい輝がこのたび紹介されたのは、ワケありな屋敷での家政夫業だった。家主は車椅子に乗った美貌の青年・多々良克比古で、屋敷に住むのは彼ひとりというありさま。不愛想で口は悪いが根は優しい多々良の元で働くことを決めた輝だが、やがて明かされたのはこの屋敷には多数の祟り神が封じられており、多々良はそれを滅する「夜見師」という存在であるという事実だった。呪いのせいもあってか霊感もある輝は、否応なしに多々良の仕事を手伝うことになるが……。

それぞれワケありなふたりの青年が、元・神社である屋敷に封じられている祟り神と戦いながら自分の運命と向き合ってゆくオカルトホラー長編。

輝は20代半ばで死ぬという呪いを、そして多々良は不自由な身体と「夜見師」という望まぬ生業を抱えこんでいるという状態。さらに物語が進むにつれ、多々良の身体に隠された秘密、そして輝にかけられた呪いの正体が明かされていくという展開に。最初は家主と家政夫というビジネスライクな関係だったふたりが、祟り神との戦いを通じて互いを理解し合い、やがてそれぞれの運命に抗いながらも互いに助け合い、時にすれ違いながらも名実ともに良き相棒になっていくという流れがなんともいい。今巻でうまい具合に輝の呪いは解けたけれど、多々良の「夜見師」としての仕事が終わったわけではないし、その身体が抱える事情が解決したわけではないので(むしろ悪化する可能性大)、今後のふたりの活躍にも期待したい。

密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク
三雲 岳斗
双葉社
2017-03-18

大正12年、東京。防諜組織として設置された内務省保安局第6課に所属する手嶋眞十郎は、中堅商社である久慈川貿易が陸軍と癒着しているらしいという情報を追っていた。リークしたのは久慈川貿易で経理を担当していた高瀬という男だったが、彼は法外な情報提供料を各所に要求した末、謎の事故死を遂げていたのだ。6課は当時華族の屋敷に預けられていた高瀬の妹・志枝がその資料を預けられている可能性に気付き、志枝の働くカフェーに日参して彼女に接触。しかし6課と同じく彼女に目を付けていた警察に横槍を入れられたうえ、志枝は殺されてしまうが、そこで判明したのは、亡くなった志枝と、眞十郎たちがカフェーで会っていた「志枝」は全くの別人であるという事実だった。そんな折、調査がてら久慈川貿易の社長の婚約披露パーティーを訪れた眞十郎は、そこで「志枝」と再会。実は久慈川の婚約者である悠木志枝嬢こそが、カフェーで働いていた「志枝」ということが判明する。さらにこの志枝はいわゆる「千里眼」の持ち主で、その能力により眞十郎の存在に気付き、助力を乞うのだった――この先、東京が戦場になる可能性があるのだ、と……。

異能力を持つ青年・手嶋眞十郎が、その能力を生かしながら軍のクーデターを防ぐため暗躍するスパイアクション長編。

眞十郎の持つ異能力は「ドッペルゲンガー」あるいは「離魂病」と呼ばれる類のもので、相手に眞十郎の幻を見せるというもの。しかしこれは眞十郎が自在に操れるものではないようで、またどういった条件下で発動するのかを本人が把握しているかどうかも定かではないという、実にランダム性の強いもの。なのでこれが役に立ったり立たなかったりするのだが、その不自由さが逆に面白い。

物語は汚職から始まり、軍のクーデター、そして遠くない未来に引き起こされる戦争へと向かってゆく。その中で眞十郎と対立するのは、かつては彼の親友であった高柳芳彦という存在。過去の事件がきっかけで決別してしまったふたりだが、それゆえに互いの考え方はよくわかるらしく、今回は敵同士として相手の考えを読みながら一進一退の攻防を繰り広げる。国家の存亡をかけた危機というスケールの大きな事件が、男ふたりの戦いに集約されるという展開に最後まではらはらさせられた。

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