phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

冬華
大倉崇裕
祥伝社
2021-04-15

大倉崇裕「冬華」
便利屋・倉持が主人公の山岳アクションシリーズ第3弾。前巻で相棒となった元自衛隊特殊工作員の深江が突如行方不明に。倉持は残されたわずかな手掛かりを元に警視庁の儀藤を探し出し、深江の行先とその狙いを知ることに。一方、凄腕の老猟師・植草はある人物からの依頼を受け、雪に閉ざされた穂高岳に向かっていた。依頼内容は、極寒の山中に潜む深江という男を殺すこと。かくして深江と植草、そして倉持の戦いの火蓋は切って落とされた――ということで、今回は前巻以上にハードかつギリギリの戦いを強いられるふたり。特に必要最低限の装備で、手練れの追手から逃れつつも険しい雪山を踏破するというミッションはまさに過酷のひとこと。一方で、深江が倉持を信頼し、すべて計算済みで姿をくらましていたという展開には思わず胸が熱くなる。いいコンビになったなあ、ということで。

【前巻:秋霧】



ゆきた志旗「瀬戸際のハケンと窓際の正社員」
出版社に勤めたいという夢があったものの就活ではことごとく失敗し、やむなく派遣社員として働いていた会社で正社員の道を目指すもあっさり派遣切りに遭い、もはや途方に暮れるしかない岩城澪。そんな彼女に派遣会社が勧めてきたのは、事務職経験者を歓迎するという有名新聞社のグループ企業、しかもゆくゆくは正社員登用の可能性アリというものだった。一縷の望みにかけて澪はその話を受けることにするも、なんと派遣先は新聞社のグループ企業である不動産関連の会社で、しかも仕事内容はさいたま新都心駅近くに建てられた新規タワマンの営業担当だった!?……ということで、のっけから主人公がなんとも大変な感じのお仕事小説。慣れない仕事に自信喪失するばかりだし、同僚となった草刈正雄似のハンサムな紳士・日下部はいわゆる「窓際族」で、温厚な態度とは裏腹(?)にスキあらばのらりくらりとサボっている強者。けれど頑張れば道は開ける。ド素人だった澪がついに部屋を売り、さらにはいろいろと勉強して正社員への道だけでなく新たな夢への道をももぎとろうとするラストはなんとも清々しい。しかしこの日下部さん、いつの間にか澪よりも多く部屋を売っていたり、的確なアドバイスをくれたりと、なかなかつかみどころのない人物。いったい何者なんだろうか……。


永遠の森 博物館惑星
菅 浩江
早川書房
2013-11-15

菅浩江「永遠の森 博物館惑星」
地球の衛星軌道上に浮かぶのは、美の女神の名を冠した巨大博物館〈アフロディーテ〉。全世界の美術品が集められるこの惑星で、学芸員たちは神々の名を冠したデータベースに直接接続し、ありとあらゆる「美」たるものを追求し続けていた……はずなのだが、アポロンと名付けられた総合管轄部署に所属する田代孝弘は、仕事では拡大解釈を基盤とした部署間の縄張り争いに、そしてプライベートでは自由奔放な妻・美和子に翻弄される日々。そんな彼が目にするのは、有名評論家が手放しで絶賛したという無名作曲家の絵、素性の知れないぼろぼろの人形、雪が降っているかのように見えるという着物……などなど。そんな作品と、それらを愛する人々との間に紡ぎ出されるドラマを、孝弘は垣間見てゆくことになる。美とは一体なんなのか――それは誰にでも理解できる普遍的なものなのか、あるいは選ばれし者にしか見出せないものなのか――そんなことを考えさせられる中、ラストに置かれた「ラヴ・ソング」の結末には目を瞠らされる。それはここまでに並べ立ててきた理屈などがすべて取り払われた、あまりにも美しい物語の結末。



溝口敦・鈴木智彦「職業としてのヤクザ」
ヤクザに関する著作も多い2人のライターが、タイトルの通り職業としての「ヤクザ」について対談形式で解説している1冊。漫画、小説、ドラマに映画……「ヤクザ」という存在は様々な媒体に登場するものの、その仕組みというか成り立ちについてはほとんど知らなかったので、なんというかため(?)になる内容だった。個人的には「ヤクザの仕事に休日や祝日はあるのか」というくだりで、「休日というのは基本的にない」あるいは「毎日が日曜日とも言える」と語っているのが面白くて本書を手に取ってしまった(笑)。他にも普通の「仕事」に就いていないのにどうやって稼いでいるのか、「親分」にはどうやったらなれるのか、いわゆる「鉄砲玉」「ヒットマン」として敵対組織の人間を殺して服役した場合の組内での処遇はどうなるのか……などなど、なかなか興味深い内容ぞろいだった。


緑陰深きところ
遠田 潤子
小学館
2021-04-23

遠田潤子「緑陰深きところ」
70歳を越えた今も、生きる気力を失ったままカレー屋を細々と続けていた三宅紘二郎。その彼のもとに、大分に住んでいる兄から葉書が届く。絶縁状態だったはずの人物からの便りは、紘二郎が封じ込めていた殺意を呼び起こした――かつて兄は紘二郎から愛する女・睦子を奪い、挙句の果てにその娘共々惨殺したのだから。紘二郎は睦子との思い出の車であるコンテッサを中古車販売店から購入し、大分へと向かい兄を殺すことを決意。しかし出発直後、中古車販売店の店長だと名乗る金髪の青年・リュウが現れ、その車が欠陥品であると打ち明けられる。構わずにそのまま車を走らせる紘二郎だが、人懐っこいリュウの態度にほだされ、つい彼を運転交代要員として連れていくことにして……という、昏い過去を持つふたりの男が奇妙な旅路を共にするロードノベル長編。紘二郎の凄惨な過去もさることながら、元中古車販売店店長にして現在ホームレスだという青年・リュウが抱える過去と現在の問題もなかなかどうして根が深い。取るに足りないボタンの掛け違い、言葉足らずによる不幸な行き違い、あるいは無意識のうちに行っていた何気ない振る舞いの数々……後から振り返れば簡単な理由だが、少なくともそれを行った「今」はまだわからない。しかし後悔は何も生まないわけではない。どうしようもない現在の積み重ねが、いつもいつも不幸を呼ぶとは限らないのだ――そんな希望が垣間見えるラストがとても印象に残る。

まあもちろんGWは5/1と2の土日だけ休みですがなにか(n回目)。

ということでまあGWではありますが、そもそも世の中は緊急事態宣言やらなにやらで、宣言地域外に住んでいる身ではあれどもGWとは……という気分の今日この頃ですが、それはそれとしてせっかくなのでふらっと出かけたりしました。とは言っても遠出ではなく、近くのショッピングモールとかですけど。で、最終処分バーゲンで靴を買ったり(1足で税抜1,000円!)、久しぶりにスフレパンケーキを食べたり(ふわふわでした)、あとは「るろうに剣心 the Final」を観に行ったり。

今回のるろ剣は原作の縁編にあたるエピソード。原作を読んだのはずいぶん昔なので細部をまったく覚えておらず、新鮮な気持ちで観ることができました(笑)。まあ唯一覚えていた「薫が死んだ!?→実は嘘」というエピソードがカットされてたのはわかりましたけど。まあそれはさておき、6月公開予定の過去編と合わせて、おそらく映画化はこれが最後になるはず。特に過去編は派手な(殺陣ではなく爆発炎上的な)ドンパチがないこともあってか、縁編となる今回の「Final」はオールスター(ほぼ)総出演だしアクションシーンも爆破炎上シーンも大盤振る舞いという感じで大満足です(笑)。

ただひとつ残念なことは、映画そのものではなく、周辺の人のマナー。上映中、右側からも左側からも、スマホの画面の明かりが一瞬ついては消えるということが何度もありました。たぶん時間を確認してたんじゃないかと思うのですが、映画を見ている間くらいは時間を気にする必要なんてないのになーっと。実際、今回の作品は約2時間半あったみたいですが、あっという間でしたし。もちろん約3時間のシンエヴァもね(笑)。

まあそんな感じで久々にアニメ以外の映画を観てきたわけですが、前述の通り、過去編となる「the Beginning」が6月早々に(今のところ)公開予定。もちろん行く予定ですが、でもその前に、5/21公開予定の「地獄の花園」も観たいんですよね。バカリズム脚本のOLバトルアクション(?)です。あとそろそろシンエヴァももう1回(つまり5回目)行っておきたいしな……ということで、予定の調整を頑張りたいと思います(笑)。


*ここ1週間の購入本*
川上未映子「ウィステリアと三人の女たち」(新潮文庫/新潮社)
菅浩江「不見の月 博物館惑星供
菅浩江「歓喜の歌 博物館惑星掘廖憤幣紂▲魯筌ワ文庫JA/早川書房)
赤江瀑「魔軍跳梁 赤江瀑アラベスク2」(創元推理文庫/東京創元社)
溝口敦・鈴木智彦「教養としてのヤクザ」
溝口敦・鈴木智彦「職業としてのヤクザ」(以上、小学館新書/小学館)
千早茜「ひきなみ」(KADOKAWA)




暁佳奈「春夏秋冬代行者 春の舞(上)(下)」
四季を司る神の力を、選ばれし人が代行する世界。「春の代行者」である少女・雛菊が「賊」に誘拐され、春が失われてから10年が経った島国「大和」。しかし今ここに、ようやく「春」が帰還しようとしていた――というファンタジー長編なのだが、この雛菊と、その護衛官であるさくらが辿った10年間というのが、いまだ成人すらしていない少女たちにとってあまりにもつらく厳しく、そして残酷すぎるものだったということが、物語が進むにつれて明かされていく。そして10年前、雛菊を守り切れなかった「冬の代行者」狼星とその護衛官・凍蝶が抱き続けてきた悔悟と無念も。しかも、そんな苦難を乗り越えてようやく立ち上がろうとする雛菊たちの前で起きたのは、「秋の代行者」である少女・撫子の誘拐――10年前の悪夢の再来のような事件だった。現人神であるというものの、その精神も身体もただの人であることに変わりはないはずなのに、世界は彼女たちに想像を絶するような苦痛を与えていく。しかし主従の絆、あるいは愛情をもってそれらをはねつけていく雛菊たちの姿がなんとも眩しい。これからの彼女たちの行く先に光と幸いがあってほしいと、心から祈りたくなる物語だった。



羽生飛鳥「蝶として死す 平家物語推理抄」
第15回ミステリーズ!新人賞受賞作「屍実盛」を含む歴史ミステリ連作集。平清盛の異母弟・平頼盛を探偵役に据え、平氏の栄華と没落を背景に、6つのエピソードが収録されている。例えば「屍実盛」は、木曽義仲からの依頼で、5体の首なし遺体の中から恩人たる斎藤実盛のものを見つけてほしいというもの。わからないというなら殺す!な勢いの義仲をなんとかなだめすかしつつ、様々な角度から答えを見つけていく過程、さらにはその推理の裏に頼盛自身のある目論見が隠されていたというラストにはなんともびっくり。また、一時は権勢を極めた平清盛の異母弟でありながら常に疎んじられ、何度も官職を剥奪されるなどの憂き目に遭い、やがては平家一門から離脱した頼盛。そんな彼の中に常にある最優先事項は、一族郎党を守り抜くこと。一度たりとも異母兄に敵うことがなかったという無力感こそが、彼を突き動かす原動力ともなっていく。そんな頼盛の生き様もまた見どころのひとつと言えるだろう。



青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス3」
約4年半ぶり(!)となる続編。モリアーティ率いる《夜宴》を追い、ドイツへと向かった鴉夜たち。次なる標的は「人狼」ということで、人狼の里のすぐ近くにある村へと向かうが、そこではたて続けに少女たちが惨殺されるという事件が起きていた。崖の下に棲むという人狼の仕業だと浮足立つ村人たちを横目に、津軽たちは人狼の里へと向かうことに。しかし同じ頃、人狼の里でも娘たちが殺されるという事件が起きていた――ということで、ふたつの場所で起きている、どこか似通った連続殺人事件を解決することになる今巻。謎解きもさることながら、人狼を狩るためにやってきた《夜宴》の異形たちと《ロイズ》のエージェントたち――ただし前者は利用するため、後者は殲滅するためという違いはあるが――、さらには村人と人狼たちも巻き込んだ大立ち回りは圧巻のひとこと。帯に書かれた「冒険・バトル・伝奇全部入り 闇鍋本格ミステリ」という惹句には「確かに……」としか言いようがない。

【前巻:アンデッドガール・マーダーファルス2】



青木祐子「これは経費で落ちません!8〜経理部の森若さん〜」
同業他社との合併、恋人との遠距離恋愛、そして経理課にも待望の新人がやってきて……と、主任になっても相変わらずトラブルに巻き込まれがちな森若沙名子。これまで社内の様々なトラブルに関わってきたせいもあり、役職者たちの駆け引きの材料にされたりもするなど、今までとはまた毛色の異なる問題にも関わらざるを得なくなってしまうという展開も。また一方で、遠恋中の太陽との関係にも変化……というか、思った以上に沙名子が太陽のことを好きなことがわかってきてニヤニヤさせられたりもして(笑)。とりあえず、トナカイ化粧品からやってきた新入り・岸に何かしらのトラブルが起きないことを祈りたい。

【前巻:これは経費で落ちません!7】



朱野帰子「わたし、定時で帰ります。ライジング」
入社以来定時帰宅をモットーとする主人公・東山結衣の奮闘を描く新感覚お仕事小説シリーズ第3弾。1巻は転職してきたブラック企業体質の上司、2巻はパワハラ・セクハラ・モラハラ全部乗せの取引先を相手に戦ってきた結衣だが、今回はなんと会社の上層部という手強すぎる相手。新入社員や仙台支社からやってきた社員たちによる小銭稼ぎの残業体質をなんとかするため、なんと賃上げ交渉に乗り出そうとするのだ。しかしそれはつまり、会社の方針に異を唱え、やり方を変えさせるというもの。しかも前巻でよりを戻し、ようやく恋人同士……というか結婚を決めたはずの晃太郎は、プロポーズの(本当に文字通り)直後に、支社の炎上案件を収めるために仙台に行ったきり帰ってこない。社内ではなぜか結衣が「次世代のリーダー候補」という噂が流れ、良くも悪くも注目が止まらない。踏んだり蹴ったり!とうめきながらも、結衣がこの問題をどう解決していくのか、最後まで目が離せず一気読みしてしまった。……と思ったら、なんとラストで結衣は自治体専門の新会社に出向させられてしまうハメに。いやいやいやどうなるのそれ!ということで続編にも期待したい。

【前巻:わたし、定時で帰ります。2】

「まっぷる」などのガイド本でおなじみ昭文社から「いちご本」と「抹茶本」というスイーツガイドが出ていたようです。2〜3月に。聞いてないよ!(笑)ということですかさずポチってみました。

いちご本
昭文社
2021-02-15


抹茶本
昭文社
2021-03-15

以前購入した「チョコミント本」「プリン本」「ゼリー本」「チーズケーキ本」に続くスイーツガイドで、いちご本は東京周辺、抹茶本は京都周辺の店がメイン。前者はいちごの品種について、後者は抹茶の作り方や産地の違いなどの説明もあり、スイーツだけでなくいちごと抹茶についてそれぞれちょっと豆知識が得られるのも楽しいですね。

それにしてもこういう本を見ていたらぜひ食べに行きたい!となりますよね。どちらもうっかり夜中に読んでしまい、口の中がいちごまたは抹茶スイーツ食べたい感じになって仕方ありませんでした。しかしどちらもそのへんで買えるものではないため、やりきれない気持ちが募るばかりです(笑)。まして今、都市圏は緊急事態宣言の真っただ中。前述のガイドも含めて、興味の湧いた店に行けるのはいつになることやら……。

ていうか、こうして並べてみると、たくさん出てるなあ……。ちなみに来月のGW明けには新作「フルーツサンド本」が出るそうです。もちろん予約済みです(笑)。
20210424スイーツ本


*ここ1週間の購入本*
いせざき「whisper & mellow 1」(ピンクシェリーコミックス/三交社)
さいのすけ「ボスとヤス1」(ヤングキングコミックス/少年画報社)
藤崎竜「銀河英雄伝説20」(ヤングジャンプコミックス/集英社)
青木祐子「これは経費で落ちません!8〜経理部の森若さん〜」
ゆきた志旗「瀬戸際のハケンと窓際の正社員」(以上、集英社オレンジ文庫/集英社)
菅浩江「永遠の森 博物館惑星」
日本SF作家クラブ・編「ポストコロナのSF」(以上、ハヤカワ文庫JA/早川書房)
寺地はるな「架空の犬と嘘をつく猫」(中公文庫/中央公論新社)
小島庸平「サラ金の歴史 消費者金融と日本社会」(中公新書/中央公論新社)
大倉崇裕「冬華」(祥伝社)
朱野帰子「わたし、定時で帰ります。ライジング」(新潮社)
遠田潤子「緑陰深きところ」(小学館)
阿部智里「烏百花 白百合の章」(文藝春秋)
「抹茶本」「いちご本」(以上、昭文社)


松本創「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」
2005年4月、JR福知山線にて発生し、多数の死傷者を出した快速電車の脱線事故。都市計画コンサルタントの淺野弥三一氏はこの事故で妻と妹を亡くし、娘も重傷を負ったという。本作はこの淺野氏と共に事故の経緯とその後を綴ったノンフィクションとなっている。淺野氏は遺族として、加害者であるJR西日本と向き合うに際して事故原因の真なる究明を望み、巨大な組織に真摯に立ち向かってゆく。やがてあらわになったのは、JR西日本の傲慢ともいえる上から目線の企業体質だった――例えば10年ほど前にも同様の事故を起こしておきながら、いっさい変わろうともしないというような。しかし淺野氏はそんな企業の姿勢にひとつひとつメスを入れていこうとする。家族を相次いで亡くし、深い悲しみに覆われても仕方ない状況で、どうしてそこまでできたのか。そして本当にJRはその体質を「変えた」のか。その答えがこの中にある。



渡辺優「きみがいた世界は完璧でした、が」
大学に入学したばかりの日野は、見学に行ったサバゲーサークルで宮城エマという女性に出会う。かつてドハマりしたゲームのヒロイン・エリナにそっくりなエマに一目惚れしてはや1年、これまでに2度告白してあっさり振られたが、それでもエマに対する想いが消えることはない。しかしある時、エマのSNSに不穏なコメントが付けられているのを目撃する。日野は「ブス」などとエマを中傷するそのアカウント【シ】の正体を突き止めようと奮闘するのだが、なんというかその手口は1周回ってストーカーじみていて、協力してくれる友人・山口にも多少引かれる始末。しかしそんな中で発覚するエマの真の姿。それでもエマを助けようとする日野の想いは無償の愛とでもいうものだろうか、それともやっぱりストーカー的な歪んだ愛なのだろうか。そのギリギリの部分を低空飛行していく様がなんとも面白いような、うすら寒いような。そしてもうひとつ気になるのは、結局日野は「エリナ」と「エマ」、どちらの影を追っているのだろうか。


NOVA 2021年夏号 (河出文庫)
河出書房新社
2021-04-03

大森望・責任編集「NOVA 2021年夏号」
大変久しぶりの刊行となる(笑)書き下ろしSFアンソロジー「NOVA」第2期3巻目。今回もいつも通り、10作品が収録されている。このうち特に気に入ったのは以下の通り(収録順)。

・高丘哲次「自由と気儘」……亡き主人から愛猫を託されたゴーレムの物語。心を持たないゴーレムが、自由気儘な猫と触れ合い、やがて。とにかく「ねこ……(二重の意味で)」となる。

・坂永雄一「無脊椎動物の想像力と創造性について」……遺伝子組み換え蜘蛛の巣によって全域を覆われ、焼却処分が決まった京都で、ひとりの建築家が母校を訪ねることに。この事態を引き起こしたのはかつての学友――蜘蛛漏出の3日前に亡くなったという葛城絹だった。彼女の狙いはなんだったのか。そしてこの事態は世界に破滅をもたらすのか、それとも。想像もつかないパンデミックをリアルタイムで経験していることもあり、なんとなく身につまされる思いがあったりもして。

・野崎まど「欺瞞」……読んでいる途中で「これはもしやパ……」と思っていたので、それを裏付ける単語が出てきた瞬間に膝を打ち鳴らしたくなったのは私だけではないはず。「あらまほしい」という単語の意味を頑張って思い起こしたのもいい思い出です(笑)。

・斧田小夜「おまえの知らなかった頃」……女性システムエンジニアと遊牧民の恋がもたらしたのは、あるひとつの世界の破滅。高水月の苛烈すぎる性格がクセになってくる。

【前巻:NOVA 2019年秋号】

目的がなくても週に1回は本屋に行かないと死んでしまう(そして予定にない本を買う)人間なのですが、田舎に住んでいること、家から職場まで結構遠いので通勤に時間をとられること、そしてコロナ禍における時短営業……等々の理由が重なり、以前よりも平日に本屋に行くのが難しくなっております。いやまあ定時に仕事を上がれば行きつけにしている本屋のどこかしらには行くことができるのですが、それがまあなかなか難しい。で、仕事帰りに一番行きやすいのが、職場付近ではなく地元にある某書店なのですが、あまり大きい店ではなく、どうしても流行りものやメジャーでない作品は発売日直後にあるかないか……というレベルなので、都会がうらやましくてうらやましくて以下略なのですがそれはさておき(笑)。

しかしその書店、最近なんかおかしいんですよね。というのも、物流の関係で、数年前から岡山は公式発売日に+2日しないと新刊が出回らなくなってるんですが、2日以上経っても並ばない本が出てきてるんです。例えばこれが1つの文庫レーベルの複数ある新刊のうち1作品とかなら、売り切れとか入荷できなかったとかが考えられるんですが、1つのレーベルの新刊がまとめて全部入っていないというのはいったいどういうことなんだろう……と首をかしげる今日この頃です。そのレーベル、4月の新刊は10日以上前に出ているのに、その書店の新刊コーナーにはいまだに3月の新刊が並んでるんだもんな。どういうことだ。

まあ物流の関係だとか、取次との契約だとか、一般人にははかりしれない理由があるのでしょうけど、本屋大好き人間としてはわりと死活問題なので、ひそかに戦々恐々としております。これ以上おかしなことにならなきゃいいけど……。


*ここ1週間の購入本*
matoba「ワンルーム、日当たり普通、天使つき。1」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
大須賀めぐみ「マチネとソワレ9」(少年サンデーコミックスSP/小学館)
ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール20」(ビッグコミックス・スピリッツ/小学館)
暁佳奈「春夏秋冬代行者 春の舞(上)(下)」(電撃文庫/KADOKAWA)
芹澤桂「ほんとはかわいくないフィンランド」(幻冬舎文庫/幻冬舎)
柚木麻子「踊る彼女のシルエット」(双葉文庫/双葉社)
青崎有吾「アンデッドガール・マーダーファルス3」(講談社タイガ/講談社)
菊池秀明「中国の歴史10 ラストエンペラーと近代中国」(講談社学術文庫/講談社)
『新青年』研究会・編「『新青年』名作コレクション」
和田博文・編「石の文学館 鉱物の眠り、砂の思考」(以上、ちくま文庫/筑摩書房)
長尾剛「女武者の日本史 卑弥呼・巴御前から会津婦女隊まで」(朝日新書/朝日新聞出版)
羽生飛鳥「蝶として死す 平家物語推理抄」(東京創元社)


竹宮ゆゆこ「心が折れた夜のプレイリスト」
人生初の彼女に振られて以来、ひとり暮らしの部屋の窓が閉まらなくなった大学生・萬代。そんな怪奇現象に恐れる彼を救ってくれたのは、飲み会でたまたま出くわした超ド級の変態(実際はかなりえげつないワードまみれの人物なので全部ひっくるめてこう書く・笑)な先輩、濃見だった。なんで!?と言いたくなるがこれは本当の話で、その後さらにラーメン大好きな女子に好かれ、自分自身もラーメンに取りつかれていた萬代を再び救ってくれたのも濃見だった。なぜだ。変態は衆生を救うのか。というかなんでそんなにも変態なんだ濃見秀一。「(黙っていれば)実はイケメン」設定なのに。……という疑問が飛び交う脳内を力づくで押さえつけてくれるゆゆこワールドは健在。今回も怒涛としか言いようのないストーリーだった(笑)。


地球星人(新潮文庫)
村田沙耶香
新潮社
2021-03-27

村田沙耶香「地球星人」
自分のことを宇宙人であるとか、あるいは魔法少女だと信じていた少女時代の奈月。本人はだからこそ周囲――家族や友人、あるいは塾の先生など――となじめないのだと割り切っていたが、それは惨たらしいほどに彼女が周囲から傷つけられていた結果であり、だからこそ同じ境遇にいたいとこの由宇と惹かれ合ってしまうのは仕方のないことだったのかもしれない。けれどふたりの想いが暴走した結果、ある悲劇を生むことになる。やがて34歳になっても奈月はあの頃のままで、だからこそ日常生活に(少なくとも表面上は)溶け込んでいたはずの由宇は、再びあの頃の――いや、それ以上の狂気に身を浸すこととなる。彼女たちを追い詰めたものはいったいなんだったのか――周囲がそれを理解することは、もはや無理なのかもしれない。



真梨幸子「ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 万両百貨店外商部奇譚」
万両百貨店の外商部には、想像もつかないような要望を突き付けてくる顧客が山のようにいる。例えば売れない舞台女優のタニマチ候補、引きこもりの娘の就職先、素敵な旦那様……等々。しかしトップの成績を誇る大塚をはじめとする外商員たちは、そんな無理難題を次々と片付けていくのだ。中盤まではそんな無理難題を大塚たちが思いもよらない方法で解決していったり、あるいは他社の「ブラック外商」と呼ばれる謎の女性外商員が登場したりと、文字通りドキドキハラハラしつつも楽しく読んでいたのだが、終盤に差し掛かるとその様相は一変する。行方不明になった「マネキン」(売り子のこと)の行方と、大塚の顧客である作家がバラバラにしてしまったという「あるもの」。だれかがささやいた「外商は蟲毒」という言葉は、まさに「外商部奇譚」というサブタイトルを象徴しているかのようで、すこし背筋がさむくなってくる。


突然、僕は殺人犯にされた
スマイリーキクチ
竹書房
2018-08-31

スマイリーキクチ「突然、僕は殺人犯にされた ネット中傷被害を受けた10年間」
ネットでの誹謗中傷事件が報道される際に時折耳にする「スマイリーキクチ」なる芸人の名前。かつてネットで中傷に遭った方だという程度の認識しかなかったのだが、このたび読んだ本書は、そのスマイリーキクチ氏がどのような中傷に遭い、そしてどのように対処していったかということが克明に記されている。

スマイリーキクチへの中傷がネット上で発生し始めたのは、なんと1999年。まだインターネットがそれほど普及していなかった時期だというのだから驚きだった。今から約30年前に起きた、未成年による集団監禁殺人事件。その犯人と出身地が同じで、年齢も近いというだけで、なぜか犯人扱いされたのだという。そして極めつけは、元刑事だという人物がこの事件について書いた本の中で、犯人のひとりが芸人になったと書かれていたこと。名指しはされていないものの、これまでの噂と合わせて、ネット上の中傷はますますヒートアップしていく。しかしそれとは裏腹に、警察にいくら訴えても取り合ってもらえない日々。何度も相談や電話を繰り返し、ようやくネット事件の経験もある警官に出会えて、まともに話を聞いてもらえたのが2008年になってから――つまり中傷被害が始まってから9年も経ってようやく、ということにも驚きを隠せない。しかしその後も彼には様々な苦難が待ち構えている。ここまででも十分に驚いたのだが、一番びっくりしたのは書類送検後の展開。なんでそうなるの?と何度呟いたことか。そして同時に、本書の被害からさらに10年も経っているのに、同じようなことが何度も繰り返されていること。いったいどうすれば、このいわれなき誹謗中傷というものがなくなるのだろうか。


インフルエンス (文春文庫)
近藤 史恵
文藝春秋
2021-01-04

近藤史恵「インフルエンス」
幼いころ、同じ団地に住む同級生の里子と仲良くなった友梨。しかし彼女が性的虐待を受けていることを知ったために、いつしかふたりの関係は疎遠になってゆく。やがて中学生になった頃、転入してきた美しい少女・真帆と仲良くなった友梨。そんなある日、真帆が見知らぬ男に拉致されそうになったところを目撃した友梨は、その男を刺してしまう。しかしその翌日、逮捕されたのは里子だった――3人の関係は少しずつ歪み、やがて取り返しのつかない状況を次々と招いてしまう。彼女たちを動かしていたのは友情なのか、または罪の意識なのか。結果的に彼女たちが招き寄せたのは破滅だったのかもしれないが、逆にこのことが彼女たちの罪の意識を薄れさせ、あるいは救ったのかもしれないと考えると、なんともいえない気持ちになった。

久しぶりに美術館に行ってきました。面白そうな展覧会が同時期に2つも開催されていましたので。

20210410ムーミン
ひとつめは岡山シティミュージアムの「ムーミンコミックス展」。ムーミンの童話ではなく、新聞等に掲載された漫画の方がメインの展覧会です。当初は童話の方の作者トーベ・ヤンソンが手がけていたのですが、途中からその弟であるラルス・ヤンソンがメイン作者となったのだとか。漫画ですのでひとつひとつの展示物があまり大きくないうえ、基本的にモノクロの線画ばかりなので、一緒に行ったマッマはとても見づらそうでしたがこれはこれで(苦笑)。しかしどれをとってもユニークだったり風刺が効いていたりと、アニメなどで接してきたムーミン像とちょっと違うところも見られたりして。あとネームとかで雑に書かれていても、輪郭でどれがどのキャラだかわかるのも面白かったです(笑)。

20210410おばけ
で、もうひとつは岡山県立美術館の「せなけいこ展」です。「ねないこだれだ」という絵本でおなじみの絵本作家さんなのですが、実は1回も読んだことはなかったりして……。しかしこのおばけのかわいさに惹かれて行ってみました(笑)。この方の絵本は基本的に貼り絵で、だから近付いて見ると、紙をちぎって貼っている、その毛羽立ちもしっかり見えます。さすがにこれはペンか何かで描いているのでは?と思うような細い線も、よくよく見ると細く切った紙が貼られていてびっくり。使われている紙がDMの封筒や店の包装紙だったりするのも驚きです。これを子育てしながら作っていたというのはスゴイですね。

ちなみにどちらも記念に図録を買ってみたのですが、ムーミンの方はペーパーバック風、せなけいこの方は絵本風の装丁になっているのもかわいかったです。いいものを見た。


*ここ1週間の購入本*
姫野カオルコ「彼女は頭が悪いから」(文春文庫/文藝春秋)
大森望・責任編集「NOVA 2021年夏号」(河出文庫/河出書房新社)
松本創「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」(新潮文庫/新潮社)
スマイリーキクチ「突然、僕は殺人犯にされた ネット中傷被害を受けた10年間」(竹書房文庫/竹書房)

STORY MARKET 恋愛小説編 (集英社文庫)
集英社文庫編集部
集英社
2021-03-19

集英社文庫編集部・編「STORY MARKET 恋愛小説編」
秋田禎信、乙一、上遠野浩平、斜線堂有紀、十和田シン、初野晴による恋愛短編アンソロジー。いずれも「JUMP j BOOKS」のサイトおよびnoteにて発表されたものが収録されている。このメンツで恋愛小説!?と驚きつつ読んでみれば、一筋縄ではいかないものの、確かにちゃんと「恋愛小説」だったのでさらに驚いたりして(笑)。個人的には斜線堂有紀の「愛について語るときに我々の騙ること」と秋田禎信の「ボクらがキミたちに恋をして」が特によかった。前者は学生時代からの親友トリオ、鳴花・新太・園生の3人が三角関係であることが判明し(ただし新太のみその全貌を知らない)、がっつり膠着状態に陥ってしまうお話。友情を取るか、愛情を取るか――という究極の選択を目の前にして、語り手である鳴花は何を想うか、という。後者は知らぬ間に宇宙人に身体を乗っ取られていた高校生・光太郎が、彼らの恋愛事情に巻き込まれるというお話。本筋も面白いが、個人的には光太郎の母のノリが好きすぎる(笑)。



内藤了「DOUBT 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」
見習い警察官・恵平が猟奇的な事件に挑むシリーズ第5弾。今回でついに見習い卒業!と言いたいところだが(もちろん卒業はできるけれども)、最後の研修中にも事件は起きる。研修の合間を縫って、東京駅周辺のホームレス失踪事件を追う恵平だが、そのさなかに滑り込んだ「うら交番」で、なんと恵平は若かりし頃の祖父に出会うわ、さらには柏村に未来から来ていることをついに告げるわで、シリーズ全体のターニングポイント的な展開も。現代でも柏村の息子と話し、遺品を見せてもらえることになったということで、次巻以降、「うら交番」の謎にぐっと近づけるか!?ということで。

【前巻:TURN 東京駅おもてうら交番・堀北恵平】


幹事のアッコちゃん (双葉文庫)
柚木 麻子
双葉社
2019-09-12

柚木麻子「幹事のアッコちゃん」
シリーズ3巻、おそらく完結編? 今更ですが1巻から「ランチ」「3時」「幹事」と韻を踏んでますねこのタイトル(気付くのが遅い)。
ということで今巻収録の4エピソードはどれもアッコさんがメインで登場。今回はアッコさんの「アンチ」が現れたり、いつの間にか三智子が結婚したり出世したりと驚くところもたくさん。さらには三智子が交渉役となり、なんとアッコさんの会社の買収計画が持ち上がり……!と、波乱万丈な展開に。しかしそこは我らがアッコさん、相変わらず目からウロコな理論でわたしたちを(いい意味で)振り回し、思いもよらないところに着地させてくれるのはさすが!のひとこと。きっと今もどこかで、彼女は迷える子羊をすごい勢いで振り回し、ひとりで歩ける強さを与えてくれているに違いない。

【前巻:3時のアッコちゃん】

実は先日シンエヴァ3回目を観に行ったんですがさすがにもうその話はおいといて(笑)。
20210404桜

そういえば今年は桜の写真をアップしてなかったなあ……ということでこちら、今年の桜です。なおこれは3月24日のもの。今年の春は例年に比べて暖かくなるのが早くて、このタイミングでもうほぼ満開になってましたね。だからまだ今日は4月4日なのですが、すでに半分くらい散ってしまっていました。残念。


*ここ1週間の購入本*
hagi「後宮に星は宿る〜金椛国春秋〜2」(MFコミックスジーンシリーズ/KADOKAWA)
松浦だるま「太陽と月の鋼2」(ビッグコミックススペリオール/小学館)
奥田亜希子「リバース&リバース」
村田沙耶香「地球星人」(以上、新潮文庫/新潮社)
竹宮ゆゆこ「心が折れた夜のプレイリスト」(新潮文庫nex/新潮社)
柚木麻子「幹事のアッコちゃん」(双葉文庫/双葉社)
真梨幸子「ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 万両百貨店外商部奇譚」(幻冬舎文庫/幻冬舎)
姜尚美「何度でも食べたい。あんこの本」(文春文庫/文藝春秋)
菊池秀明「太平天国 皇帝なき中国の挫折」(岩波新書/岩波書店)
講談社・編「Day to Day」(講談社)

夜想#山尾悠子
山尾悠子
ステュディオ・パラボリカ
2021-03-17

「夜想 特集・山尾悠子」
ついに山尾悠子でまるまる1冊特集される日がやってきたのか……!と感慨深くなる1冊。山尾悠子本人によるコラム付きの年譜や掌編、インタビューに講演録に座談会、若かりし頃のポートレート(表紙も含めてお美しい!)、そして関係者のエッセイ、評論……等々、多彩かつ盛り沢山な内容となっている。とりあえずこれを読むと著作を読み返したくなる。特に「ラピスラズリ」を。あと本筋から逸れる話なのだが、個人的に面白かったのは同級生による金原瑞人によるインタビューで、地元・岡山の話が出てくること。表町商店街にあった書店「細謹舎」におふたりも行っていたとのこと。私も小学生の頃からたびたび利用していたので、久々にその名前を聞いて嬉しくなったりもして(ただその後、この書店はアニメイトになってしまったのだが……)。


つまらない住宅地のすべての家
津村 記久子
双葉社
2021-03-17

津村記久子「つまらない住宅地のすべての家」
便利でも不便でもないある住宅地の一角。そこに横領の罪で服役していた女性が逃げてくるという噂が流れる。正義感の強いある住人の発案で、夜に見張りが行われることになり、これがきっかけで住人たちは交流を深めていくことになる。住人たちはそれぞれ大小さまざまな問題を抱えているのだが、この逃亡劇のおかげで(あるいは「せいで」)、それらの問題が解決に向かったり、あるいは解決とまではいかなくても、確実になにかが変わっていくラストにほっとさせられる。


秋霧 (祥伝社文庫)
大倉崇裕
祥伝社
2020-07-15

大倉崇裕「秋霧」
死期の近い伝説的経営者の老人から登山動画撮影という依頼を受けた便利屋(実は元探偵)の倉持、元自衛隊特殊部隊員の深江、神出鬼没の殺し屋「霧(フォッグ)」がまさかの三つ巴!なサスペンス長編。ちなみに同じ祥伝社文庫から出ている「夏雷」という作品も倉持が主人公で、本作にも時々その時のエピソードらしきものが出てくるが、前作を読んでなくても問題はない模様。深江と「霧」が対立するのはまだわからないでもないが、そこにしがない便利屋がどう絡んでくるのか?しかも深江に襲い掛かってくるのは「霧」とは関係ない第4の勢力?……ということで、事態が錯綜しつつもどんどんきな臭い展開になっていくため、読み始めると先が気になって仕方ない1冊。ちなみに深江に「霧」の追跡を依頼するのは、先日読んだ「死神さん」の儀藤だというのも面白い。そして中盤から深江と倉持が共闘するようになるという展開も。このふたりのバディものとして続編が出てくれたらいいのにと思う。


ランチのアッコちゃん (双葉文庫)
柚木麻子
双葉社
2015-03-27

柚木麻子「ランチのアッコちゃん」
地味な派遣社員の澤田三智子は、彼氏にフラれたばかりで仕事にも身が入らない日々。そんな彼女に声をかけたのは、バリキャリの営業部部長・黒川敦子だった。次の1週間、なぜか三智子が作った弁当を敦子が食べ、代わりに敦子が指示した場所で毎日昼食をとることになってしまう。最初は三智子本人も、読んでいるこちらも「???」だったのだが、敦子の指示通りの昼食をとるという体験をするうちに、三智子の心境にも変化が……という、なんとも不思議な、でもどこか元気づけられる連作短編集。全4話中、タイトルに「アッコちゃん」とついているものは三智子と敦子がメイン、そうでないものは敦子がちらっと出てくる程度、という内容なのだが、それでも敦子がどんな活動をしているのか垣間見られるのが面白い。なお三智子も含めた部下たちは、その容貌が某大物歌手に似ていることから「アッコさん」「アッコ女史」などと(心の中で)呼んでいたのだが、外では「ひみつのアッコちゃん」のごとくいろいろな面を持っていることから「アッコちゃん」と呼ばれている……というのがなんとも微笑ましい。そして同時に謎すぎるぞアッコちゃん。


3時のアッコちゃん (双葉文庫)
柚木麻子
双葉社
2017-12-15

柚木麻子「3時のアッコちゃん」
「アッコちゃん」シリーズ第2弾。ポトフ屋を開業したはずのアッコさんが、三智子の勤める商社の会議にアフタヌーンティー係として5日連続でやってくる表題作をはじめとして、今回もアッコさんがメインの2本と、チラッと出てくるだけの2本の計4本が収録されている。後半2本の舞台は神戸と大阪なのだが、気付いたらアッコさんのポトフ屋が大阪に進出していることが判明。アッコさん、やっぱり謎過ぎる……!

私も以前読んでいた漫画「文豪ストレイドッグス」。タイトルの通り、「文豪」と呼ばれる作家の名前を持つイケメンたちが、その作品名を冠した異能力でもって戦うというアクションものです。で、アニメ化以降、角川文庫にて各キャラのコラボカバーで既存の作品集を再刊行するという流れが続いているのですが、ついに我らが夢野久作作品にもその手が伸びてきていました。い、いつの間に……!
20210327犬神1

なお左が以前のカバー、右がコラボカバーですね。テンションの差!(笑)

これまで基本的には能力名になった作品がコラボ対象となっていたようなのですが、それならば久作の対象作品はもちろん「ドグラ・マグラ」。しかしこれ、角川文庫では上下巻構成なので、2冊もコラボするのはさすがにないだろう……しかも登場して結構経つけど特にコラボされそうな気配もないし、その間に角川文庫の夏フェアの対象から外されたりもしてるし……ということで、もうコラボはされないだろうと(勝手に)思ってたんですけど、まさかここにきて「犬神博士」とは……と驚きを隠せません(笑)。まあ帯にもある通り、美少年チイが女装して云々という話なので、文ストにおいてエキセントリック系ショタキャラになってしまったQちゃんとしては逆にぴったりな作品なのかもしれませんね(笑)。

なお、とりあえず貴重な(笑)コレクションとして購入後、本棚をのぞいてみたところ、すでにうちには角川文庫版の「犬神博士」が2冊ありました。1冊は古書店で購入した昭和49年版、そしてもう1冊は平成20年に再版されたものです。つまりこれで3冊になってしまったわけですな(あるある)。さすがに並べるとヤケ具合が半端ないですねコレ。
20210327犬神2


*ここ1週間の購入本*
柚木麻子「私にふさわしいホテル」(新潮文庫/新潮社)
柚木麻子「ランチのアッコちゃん」
柚木麻子「3時のアッコちゃん」(以上、双葉文庫/双葉社)
内藤了「DOUBT 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」(角川ホラー文庫/KADOKAWA)
吉村昭「冬の道 吉村昭自選中期短篇集」(中公文庫/中央公論新社)
集英社文庫編集部・編「STORY MARKET 恋愛小説編」(集英社文庫/集英社)
光井渉「日本の歴史的建造物 社寺・城郭・近代建築の保存と活用」(中公新書/中央公論新社)
南綾子「ダイエットの神様」(双葉社)


嬉野君「続・金星特急 竜血の娘1」
「金星特急」続編スタート!ということではあるが、前巻の「花を追う旅」とは様相が一変している。主人公は錆丸と金星の娘・桜で、彼女は15歳になっているが、その彼女のそばに錆丸たちはいないし、そもそも日本でもない。過去の記憶を一切持たず、「犬蛇の島」と呼ばれる女性流刑者の島で暮らしていた桜の前に現れたのは砂鉄と三月。なぜこうなった?という疑問を、読者は桜と共に抱きながら――その疑問の内容は実のところ異なるのだけど――読み進めることになる。覚醒したという桜の「能力」、すでに700年が経っているという世界の有様、突然アルベルト王子の魂が宿った蜥蜴、そして錆丸たちに何が起きたのか――。しかもようやくユースタスを助けられたかと思えば、砂鉄のことだけ忘れているときた。書き下ろし短編で砂鉄が抱いているユースタスへの重すぎる愛情を見せつけられただけに、彼の精神状態が心配でならない。

【前巻:金星特急・番外篇 花を追う旅】



菊石まれほ「ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒」
第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作となるSFクライム長編。「ユア・フォルマ」と呼ばれる脳内デバイスが普及した世界で、他者の脳内にダイブしその内容を読み取るインターポールの「電索官」エチカと、彼女の相棒となったヒト型ロボット「アミクス」のハロルドとの凸凹コンビぶりが楽しい。アミクスでありながら規格外の柔軟さを見せるハロルドの振る舞いに、過去の体験からアミクス嫌いなエチカは戸惑うばかり。やがて彼女の虚勢は剥ぎ取られ、ハロルドとも良き相棒になりそう……と思いきや、という展開にはニヤニヤさせられる(笑)。今回の事件を経て、妄執とも言える過去の出来事と決別し、電索官を辞したエチカが迎えた顛末も小気味よい。すでに続編が決まっているようだが、どんな展開になるのか楽しみ。


ニムロッド (講談社文庫)
上田 岳弘
講談社
2021-02-16

上田岳弘「ニムロッド」
第160回芥川賞受賞作。仮装通貨を「掘る」ことになったシステムエンジニアの中本哲史――奇しくも彼が関わることになる「ビットコイン」の創設者と同じ名前を持つ主人公の周囲には、ふたりの人物がいる。ひとりは過去の結婚でトラウマを抱えている外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。そしてもうひとりは同僚で、うつ病を発症後、名古屋に転勤していった「ニムロッド」こと荷室仁。紀子との逢瀬の中でニムロッドについて語ったことがきっかけで、紀子もまたニムロッドに興味を持ち始める。哲史の左目から突然流れだす涙のようなもの。睡眠薬がないと眠れない恋人。ニムロッドが送ってくるメールに綴られる「駄目な飛行機コレクション」なる文章。やがてニムロッドは哲史に小説のようなものを書いては送ってくるようになる。人間の王、ニムロッド。バベルの塔を彷彿させる、天高く聳える塔。バベルの塔の足元で人類は分断されたが、ニムロッドの塔の足元では人類はひとつに溶け合っていく。超越を禁じられたヒトと、許されたヒト――果たして孤独なのはどちらであろうか。目に見えないものを追っていくうちに、ニムロッドも紀子も消息不明となっていく。そこで彼は何を想ったのだろうか。


死神さん (幻冬舎文庫)
大倉崇裕
幻冬舎
2021-03-02

大倉崇裕「死神さん」
無罪判決が出た事件を再捜査するという職務のため、いつしか「死神」と呼ばれるようになった警部補・儀藤堅忍が主人公のミステリ短編集。帯に「連続ドラマ化!主演 田中圭」とあるので、さぞかしシュッとした「死神」なのだろうと思いきや、実際に登場するのは髪のうすい小太りの中年男性。毎回、対象の事件に関わった警察関係者を相棒とするのだが、みな「死神」というあだ名とは似ても似つかないその外見に驚くというところまでがお決まりの流れというのも面白い。もちろん、そんな冴えない風貌とは裏腹に、次々と謎を解いていくそのあざやかな手腕には脱帽させられた。「逃げ得は許さない」という決め台詞というかモットーもいい。



青木祐子「コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアント・ファイル」
有益なアドバイスをするではなく、あくまでもクライアントに寄り添い励ますのがお仕事。そんな「はげまし屋」となった25歳の女性・立花ことりと愉快なクライアントたちの悲喜こもごも4編を収録。とはいえちゃんと相手の悩みや問題に関係のある本を読んで勉強し、相手ががんばろうと思えるように対応するというのは難しいもの。しかもことりのクライアントたちは意外な秘密を隠し持っていたりするのでなかなか侮れない。個人的に一番気になったのは3話の小説家志望のジェーンさんのエピソード。プライドが高く「わたしはやればできる、ただ今はまだやってないだけ」という感じの性格だったのが、ことりに励まされて小説を書くうちに、だんだんと本当に「やっている」状態になっていくのがなんとも微笑ましい。ことりも親身になって彼女のサポートをしているのがよくわかる。そしてだからこそ、ラストの「エイジさん」とのエピソードで、これまで明かされてこなかったことりのプライベートがあらわになってきてちょっとびっくり。

本日、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観てきました。
先週「観た」って書いてなかったっけ?とお思いの方もおられるとは思いますが、先週書いたのは3月8日に観た話で、今回のは3月21日に観た話なので別件ですねええ。

てなわけで2回目です。今回は話の筋がわかっていることもあり、精神的にとてもゆとりを持って見ることができました(笑)。初見時とは違うところに注目したり、周囲の細かいセリフをできるだけ拾おうとしたり、ラストのシンジの声を改めて聴いて「なるほどこれが……!」と驚いてみたり(笑)。

なお、個人的な話をさせていただきますと、新劇場版は昔のテレビ版の時ほど本腰を入れて観てなかったというか、いやまあちゃんと映画は何回も観てるけど、雑誌や設定資料集などでの情報収集はしてなかったし、ネットで考察を調べたりもしてなかったんですよね。なので「破」の対3号機戦後にアスカが姿を消し、「Q」で眼帯をつけて再登場した件については「3号機乗っ取りでアスカ自身が使徒化、あるいは使徒と融合してしまったために封印されたのちに再登場。使徒としてのコアは眼帯に隠されているんだろう」と脳内補完してました。で、このたび「シン」2回目を観ている最中、アスカが使徒化するシーンがあるのですが、ちゃんとヴンダー艦橋では「第9使徒」(=3号機を乗っ取った使徒)と呼称されてたことにようやく気付きました(遅)。というわけで、数年ごしでようやく答え合わせができた気分です(笑)。

まあ何が言いたいかというと、2回目でもやっぱり面白かったです。この調子だと、また数週間後に3回目に行きたくなりそうな気も……(フラグ)。


*ここ1週間の購入本*
伊藤悠「オオカミライズ4」(ヤングジャンプコミックス・ウルトラ/集英社)
森 薫「乙嫁語り13」(ハルタコミックス/KADOKAWA)
菅野文「薔薇王の葬列15」(プリンセスコミックス/秋田書店)
川上稔「GENESISシリーズ 境界線上のホライゾンNEXT BOX HDDD英国編〈下〉」(電撃の新文芸/KADOKAWA)
夢野久作「犬神博士」(角川文庫/KADOKAWA)
青木祐子「コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアント・ファイル」(講談社文庫/講談社)
大倉崇裕「秋霧」(祥伝社文庫/祥伝社)
円城塔「文字渦」(新潮文庫/新潮社)
篠たまき「氷室の華」(朝日文庫/朝日新聞出版)
早川茉莉・編「矢川澄子ベスト・エッセイ 妹たちへ」(ちくま文庫/筑摩書房)
津村記久子「つまらない住宅地のすべての家」
木皿泉「木皿食堂4 毎日がこれっきり」(以上、双葉社)
渡辺優「きみがいた世界は完璧でした、が」(KADOKAWA)
「夜想 特集・山尾悠子」(ステュディオ・パラボリカ)


高殿円「上流階級 富久丸百貨店外商部掘
約4年半ぶりとなる新作。神戸は芦屋のセレブたち相手に、主人公である外商員・静緒が奮闘するのは相変わらず。美容整形に興味があるけど怖くて……というお客様のため、代わりに話を聞いたり簡単な施術を体験したかと思えば、お受験戦争に巻き込まれたり、あるいはネットで誹謗中傷されたお客様の訴訟の手助けをしたり……と、今回も想いもよらない問題が次々と発生するのが面白い。プライベートでは同僚とのシェアハウス生活から脱却し、母親と同居するために家を買おうとしたり、その一方で引き抜きの話も来たりで、本人にもいろいろと問題発生。そんな感じで内容てんこ盛りなのに、まったくごちゃつかずにすべてキレイにラストまでもっていく展開はさすが、の一言。

【前巻:上流階級 富久丸百貨店外商部供





朱野帰子「わたし、定時で帰ります。」「わたし、定時で帰ります。2 打倒!パワハラ企業編」
ドラマ化もされた新感覚お仕事小説を2冊まとめて。webデザイン系企業に勤める主人公・東山結衣は、絶対に定時で帰ることをモットーとする正社員。もちろん仕事に手を抜くわけではなく、時間内にできることをきっちり仕上げるのだから問題ないはずなのに、周囲の目は厳しくなるばかり。そんな中、1巻では部下に無理を強いるが自分は何もしないブラック上司が取ってきた採算度外視の案件のためにデスマーチに陥り、2巻ではセクハラ・パワハラ・モラハラ・男尊女卑とダメすぎるオンパレードな企業と取り引きすることになり、結衣も残業を強いられる展開に。そんな難局をいかにして残業せずに乗り切るか、という結衣の駆け引きが見どころ。しかも困ったことに、同じチームに仕事はできるが社畜気味の元カレがいるということで、公私にわたって彼との微妙なやりとりが繰り広げられるのも面白かった。


ぬるま湯女子会 (双葉文庫)
南 綾子
双葉社
2018-12-13

南綾子「ぬるま湯女子会」
お見合いパーティーで出会った女子4人が、反省したりしなかったりしつつも婚活を繰り広げるオムニバス長編。とはいえみんな結婚したいはずなのに、そのふるまいはどこか逆を向いているような気がしてならない。自分のプライドや過去のトラウマなどが彼女たちをそうさせてしまうのだが、わかっていてもやめられない、というその気持ちはよくわかる、気がする。客観的に見ればおかしな行動かもしれないが、本人にとっては整合性が取れているものだし、そしてそれを他人にわかってもらおうとも思わない――このドライさゆえに、この4人はライバルでもなければ親友でもない、いわば「戦友」になれたのだろうな、と思う。



朱野帰子「科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました」
大手家電メーカーに勤める主人公・賢児は、タイトルの通り「科学オタ」で、だからこそマイナスイオンだのコラーゲンでお肌ぷるぷるだのという「エセ科学」がイヤでしょうがない性格。元々の忖度なし、KYな気質も相まって、このたび異動させられた美容家電の部署でも問題を起こしまくることに。とはいえ、彼自身はこの異動を「島流し」「左遷」と考えているが、果たして……という展開に。タイトルだけ見るとコメディのようにも見えるし、単行本刊行時のタイトル「賢者の石、売ります」ともだいぶかけ離れていることもあり、お仕事コメディ小説なのかと思っていたが、実際はそこまでコメディチックではなかったのが意外というかなんというか。職場パートもさることながら、賢児が「未開人」と非難してやまない姉・美空との関係をメインとする家庭パートの展開はわりとぐっとくるものがあった。

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