phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

最愛の子ども (文春文庫)
松浦 理英子
文藝春秋
2020-05-08

「わたしたち」のクラスにはある「親子」がいる。〈パパ〉の日夏、〈ママ〉の真汐、そして〈王子様〉の空穂。「わたしたち」は〈目撃者〉となり、クラス内で繰り広げられる3人の微笑ましい関係性を、見えないところで起きているなにかを想像し補完しながらも見守り続けていた。しかし時間が経つにつれ、3人の関係は少しずつ変化していき……。

2017年に「文學界」に発表され、泉鏡花文学賞を受賞した長編作の文庫化。女子高生3人が「演じ」ている疑似家族の行く末を、その周囲の目から描いていく。

舞台は共学でありながら男女でクラスが分けられている私立高校。特に「わたしたち」の学年では、男子クラスのリーダー格がなぜか女子たち――特定の人物ではなく、「女子」という存在そのもの――を激しく敵視しており、男女間の交流がまったくない。そんな特異な状況も手伝ってか、日夏と真汐というどこか大人びたふたりと、そんなふたりに可愛がられる空穂を、クラスメイトである「わたしたち」は家族とみなして扱っていくし、本人たちもその役割を(少なくとも表面上は)受け入れ、そのように振舞っていく。

しかしふたを開けてみれば、この3人はたまたま仲が良かっただけで、例えば日夏と真汐が夫婦に例えられるような関係であったわけではもちろんない。しかしその役割を演じることで、彼女たちの関係は少しずつ、だが確実に変容していく。「役割」を与えられたことで、それぞれに向ける感情もその「役割」に沿っていくかのように。そんな彼女たちの葛藤を知ってか知らずか、「わたしたち」は彼女のたちの行く末を無責任にはやし立て、想像し、消費していく。それはあたかも、テレビの向こう側にいるアイドルを熱烈に応援し、さらにそのアイドルたちの私生活をも想像しているかのように。

クラスメイトひとりひとりにはもちろん名前があるし、それぞれの個性もある。しかし日夏たち家族に対しては「わたしたち」という一個の存在となってしまう。その匿名性もまた、日夏たち「家族」を変容させていった原因でありはしないか。けれどその「わたしたち」も日夏たち同様、揺らぎやすい少女であり、迫りくる現実と戦うためのよすがとして、日夏たちが紡ぎ出す「家族」の幻想にとらわれ、あるいは救われていたのかもしれない。日夏たちがおそらくそうであったように。


精霊の声が聞こえる能力を持っていた少女サリは、ランカトル王国の公安局で「精霊使い」として働いていた。能力は高いが傲慢な「魔法使い」ラルフをパートナーとし、数々の問題を解決してきたサリ。だがある時、魔物や精霊に興味を持つ王弟デューカによる「鑑賞会」に駆り出されたサリは、精霊使いと思しき少女が「魔物の子」として捕らえられ、見世物にされていることにショックを受ける。さらにその時、少女を助けるために美貌の魔物が姿を現してしまう。デューカの命令で魔物を攻撃しようとしたラルフだったが、とっさに少女をかばおうとしたサリもろとも、魔物の放つ光に包まれて昏倒。数日後、目覚めたサリは、自身の能力が失われていることに気付き……。

「精霊使い」サリと「魔法使い」ラルフの能力が入れ替わってしまった上、諸事情により追われる身となってしまってさあ大変!なファンタジー長編1巻。雑誌「小説Wings」にて2018〜2019年にかけて発表された2作と、過去編となる書き下ろし番外編が収録されている。

目に見える異能力である「魔法使い」は人々から認められ、尊敬される存在ではあるが、普通の人には見えも聞こえもしない精霊の声を聴きとる「精霊使い」は、大きな街でこそその存在を認知されているものの、地方では魔物の成りそこないのような扱いを受け、迫害されることも多い存在だった。主人公のサリも幼いころから迫害を受けていたし、公安局の「精霊使い」となってもなお、「魔法使い」たちからは見下され、相棒となったラルフとの折り合いもあまりよくないという状況。特にラルフは魔法使いとしても名門の出でプライドが高く、サリのことも能力こそ認めているものの、彼女をひとりの人間として見ているかどうかは怪しいので、もともとのサリの生い立ちともあいまって、仲良くするなんていうのは難しいにも程があるとしか言いようがない。

しかし、そんなふたりの能力が入れ替わってしまったことで事態は急変。シロガネと呼ばれる魔物によって能力を入れ替えられたふたりだが、簡単に元に戻すこともできないということで、ふたりはそれぞれ、相手の能力と向き合い、折り合いをつけつつ、連携をとって解決策を探さねばならないという状況に。サリの方はともかく、ラルフの方がいろいろと心配な点が多いのだが(主に性格的な面で)、今巻だけでもずいぶん視野が広がった模様で少しは安心できなくもない。そんな今後のふたりの関係の変化が気になるところ。

先日、年に1度の健康診断がありました。
職場を通して申し込む際に希望月を選べるので4月か5月にしておいたのですが(それ以降だと仕事が忙しくて平日に休みにくいので……)、まさかこんな状況になるとは思っておらず……とはいえ相手は病院併設の健診センターだったので、特に断られることもなく、健診日の少し前には緊急事態宣言も解除されたので、とりあえずそのまま行ってみました。

したらばなんと!今年はコロナの影響で、経鼻胃カメラをやってなかったんです!まじすか!
胃レントゲン検査の対象年齢となって数年経ちましたが(年がバレる・笑)、周囲からバリウム検査の大変さをイヤというほど聞いていたので、ずっと胃カメラ(経鼻)オンリーだったんですよ私。だからこれには焦りましたね……。経口ならやってるということでしたが、これまた経験者からは「ゲーゲー言ってたら終わるよ」と聞かされ、いやそれはそれで(吐き気を感じること自体が苦手)……と悩んだ末、せっかくなのでバリウムコースを選んでみたのでした。余計なお金もかかりませんしね(笑)。

私が行った健診センターでは、バリウムにフレーバーをつけてくれるということで、最初に選ばせてもらえました。確か青りんご、グレープフルーツ、コーヒー、ヨーグルトだったかな? なしというルートもあるみたいですがさすがに初心者にはハードルが高いので却下し、よく選ばれるという青りんごにしました。で、てっきり先に発泡剤とバリウムを飲み干してから撮影スタートかと思っていたのですが、発泡剤はともかく、バリウムを飲むところからもう撮影は始まっていたのでした。イヤン、そんなところまで撮られちゃうの……?(笑)

これまではバリウムのことを「白くてドロドロしたシェイクっぽい半液体」だと思っていたのですが、プラスチックのコーヒーカップに入っているそれはサラサラの液体で、細いストローで普通に飲めるモノでした。また、これまた想像してたよりはクソマズ(失礼)でもなかったので安心しました……が、いかんせん前夜から絶食してて空腹状態なのでそこそこ気持ち悪いことに変わりはなく、しかも私がもともと液体を一気飲みするのが苦手なので、1杯飲み切るのに大変苦労していたのですが、「おいしいものじゃないから早く飲んでね〜」と技師さんにハッパをかけられるうえ、そうするうちにどんどん直立状態だった撮影台が傾いていくので、慌てて飲むしかなかったのでした。味よりもそっちの方がキツかったです(笑)。

しかも始まったら台の上でごろごろ回転させられたり、上下さかさまな状態になったりと、およそこのかた経験したことのないようなアクロバティック体勢の数々。息を止めたり腰だけ上げたり横向きになったりと矢継ぎ早な指示に無我夢中で対応し、その間にも「はいそのままストップ!」「いいよいいよその調子!」などとグラビア撮影中のカメラマンのような掛け声が飛んできて、だんだん面白くなってきたのは秘密です(笑)。まあ終わったら終わったで心身ともに疲労困憊してたんですけどね……グラビアアイドルも大変だ……(違)。

とまあそんな感じで今年の健康診断も終わりました。結果はまだ来てないですけど無事を祈っておきます。しかし来年はどうしようかな……後のこと(ビロウな話で恐縮ですが、バリウム排出までのストレスがわりとキツかった……)も考えるとやっぱり鼻からカメラの方がいいような気もしてきました。あとそれはそれとして、去年と比べて身長が2ミリ減り、一方で視力がよくなってました。なんでだ(笑)。


*ここ1週間の購入本*
青木祐子「これは経費で落ちません!7〜経理部の森若さん〜」(集英社オレンジ文庫/集英社)
汀こるもの「探偵は御篇の中 検非違使と奥様の平安事件簿」(講談社タイガ/講談社)
森川秀樹「わたしの旦那はタイムトラベラー」(富士見L文庫/KADOKAWA)
川上稔「EDGEシリーズ 神々のいない惑星で 僕と先輩のウハウハザブーン〈上〉」(電撃の新文芸/KADOKAWA)
絲山秋子「薄情」
深水黎一郎「最後のトリック」
町田康「ギケイキ 千年の流転」
J・L・ボルヘス「夢の本」(以上、河出文庫/河出書房新社)
古賀太「美術展の不都合な真実」(新潮新書/新潮社)
芝健介「ホロコースト」(中公新書/中央公論新社)
松田青子「持続可能な魂の利用」(中央公論新社)

「河出文庫グランドフェア」なるものが一部書店で始まってまして、2冊買うとブックカバー、5冊買うとトートバッグがもらえるっていうからつい……(うち1冊は先週購入済)。
20200523河出

少女の鏡 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)
佐藤 さくら
東京創元社
2020-04-20

高校3年生になり、大学受験を控えるも、勉強になかなか身の入らない遠野美弥。そんな彼女が悩んでいるのは、いくら努力しても成績が良くならないことや、将来の夢が特にないことだけではなく、クラスメイトから聞かされた、「美弥にそっくりな人物」の噂のせいだった。旧校舎の鏡に姿を映すと、鏡像が抜け出て襲いに来るという「学校の七不思議」はあれども、その鏡とやらを見たことがない美弥。しかし彼女によく似た存在の目撃談は日増しに増えてゆき、ついには自分でもその人影を目撃してしまう。驚きながらもその人影を追ううち、階段から落ちてしまった美弥。そんな彼女を救ったのは、千蔵朱鷺と名乗る少年と、彼が「兄さん」と呼ぶ、人語を解す黒い犬・冬二だった。各地を旅して「呪物」を集めているという朱鷺は、美弥の見たモノが呪物に関わっている可能性が高いと考え、調査を始めるが……。

かつて千蔵家に封じられていたが、ある事件をきっかけに流出してしまった「呪物」――千蔵家の唯一の生き残りとされる少年・朱鷺が、人に災いをもたらす呪物を取り戻そうと奮闘する現代ファンタジーシリーズ1巻。

「もうひとりの自分」の影におびえるヒロイン・美弥を救うべく――と思って行動していたのは、かつては朱鷺の兄だったが、ある呪いによって犬に変身してしまった冬二のみ。朱鷺の方は美弥がどうこうというより、とにかく呪物の正体を暴き、それを「解放」することに重点を置いているため、美弥や冬二と衝突することもしばしば。物語の中では朱鷺と冬二の過去と、ふたりに降りかかった呪い――呪物が千蔵家から流出することになった事件についても語られるのだが、それを読む限りでは、朱鷺が生まれたときから「普通」ではなかったことが浮き彫りにされているので仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。けれどドライかつ実利主義的な朱鷺も、今や「自分」を知る唯一の存在である兄に対する執着心は思いのほか強いよう。彼にも人間らしい部分もあるのだなとちょっと安心する半面、いつかそのせいで足をすくわれてしまうのでは、と少し心配になったりもする。


ある大学病院で、骨標本作りに長年携わっている初老の男・倹四郎。しかし本物の人骨を使った標本は作るのに時間がかかり、劣化もまた早かった。樹脂などを使えば永久に利用できる標本が作れるのでは、という話を聞いた倹四郎は、生涯を懸けてきた仕事を失ってしまうことを懸念し、新たな道を模索し始める――それが、新鮮で美しい、透明な骨標本を作ろうという試みだった。動物の骨で実験を進め、実用化まで間近という段階まできてはいたが、彼のもとに持ち込まれる遺体は腐乱しているか、あるいは轢死体などの損傷の激しいものばかり。死後間もない、新鮮かつ完全な遺体を求める倹四郎だったが、なかなかその機会は訪れなかった。そんな中、かねてから折り合いの悪い妻の連れ子・百合子の様子がおかしくなり……。(「透明標本」)

1990年に新潮社から刊行された「吉村昭自選作品集」1巻を2分冊にして文庫化。2巻には1961〜1966年にかけて発表された短編7編に加え、底本に収録されていた「後記」も併録されている。

1巻に引き続き、2巻もやはり「死」がモチーフになっているものが多い。中でも表題作の「透明標本」は、1巻の表題作である「少女架刑」と繋がりがある作品。「少女架刑」において、主人公・美恵子の身体にメスが入れられたまさにその時、新鮮な遺体を求めて乱入してきた老人がいたのだが、これが本作の主人公・倹四郎だったのだ。透明な骨標本を作るべく、新鮮な遺体を求めていたこの男は、連れ子の異変を目の当たりにして、ある企みを実行することになる。「少女架刑」では、死したのちに自分の身体が「モノ」として扱われていくことを少女が目の当たりにしていく短編だったが、「透明標本」の倹四郎は、遺体を――否、周囲の生きた人間ですら、彼にとっては「骨」、すなわち「モノ」としてしか見ていないのだ。その意識は歪んでいるように見えるが、しかし彼は何も狂っていたわけではないと思う。その微妙な「差異」がまた恐ろしく感じられた。


◇前巻→吉村昭「少女架刑 吉村昭自選初期短編集1」

銀花の蔵
遠田 潤子
新潮社
2020-04-24

画家を目指す父と、料理上手な母に囲まれ――たまに起きる母の万引き癖には悩まされていたが――、幸せに暮らしていた山尾銀花。しかし大阪万博を目前に控えた頃、一家は父の実家に戻り、父は家業である醤油蔵を継ぐことになってしまう。もともと後を継ぐ気がなく、醤油作りも商売事も向いていなかった父は日に日にやる気を失い、気の弱い母は厳格な姑・多鶴子と折り合いが悪く、少しずつ家族の雰囲気はぎくしゃくし始める。そんなある日、銀花は蔵の中で着物姿の見知らぬ少年を目撃する。父から聞いていた「蔵に住む座敷童」だと思った銀花は、驚いて周囲の大人たちにそれを話すが……。

老舗の醤油蔵で育った少女が、様々な困難を乗り越え、「家族」のかたちを問いながら懸命に生きてく姿を描く長編小説。

夢を追い求める父、どこか浮世離れした母、厳しい祖母、美しい叔母(とはいえ実際は1歳年上なだけ)、蔵を守りたい杜氏、そしてそんな父に反発して不良になった杜氏の息子……銀花の周囲にいる人々はけして悪い人たちではなく、自分の理想を追い、あるいはその理想と現実との間にできる限りの折り合いをつけて生きようとしていただけなのに、どこかでひとつボタンを掛け違えてしまったかの如く、少しずつその想いも思っていたものとはズレてゆき、いくつかの決定的な破滅を引き起こしてしまう。銀花はそんな彼らの生き方に翻弄されながらも、自分がなにを大切にすべきかをひとつひとつ選び取り、時には打ちのめされながらも、なんとか前に進んでいく。だからきっと、そんな銀花があの日見たのは、本当の「座敷童」だったに違いないと、そう思う。

我が地元を含めた多くの県で緊急事態宣言が解除されたということで、行きつけのイオンも営業再開してくれたので、ちょこっと行ってきました。コロナ流行後かつ休業前はずいぶん人が減っていたものですが、この週末は久しぶりに人が多かったですね。まあ平常時に比べれば8割程度といった感じですが。通りかかったいくつかの店では、複数あった入口を封鎖してひとつにまとめ、検温したり、入場制限してたりもして。そこらへんは各企業の指示の違いなんでしょうね。なお私の目的地=本屋は某人気コミックの新刊が発売されたばかりということもあってか、その新刊(または既刊も)を買う人がたくさんいましたね。はやってるなー……(遠い目)。

さておき。最近の我が推し・佐藤拓也さんの誕生日イベントが、本来であれば今日開催される予定だったんですね。まあもちろん昨今のコロナ事情によって中止になりましたが、有料で無観客配信をしてくれるということだったので、参加予定だった昼の部を観ました。

今年は佐藤さんにとっては先輩にあたる関智一さんと日野聡さんがゲストとして登壇。もちろんソーシャルディスタンスをキープ!ということで、トークも一定の距離を空けて行ってました。途中からは机と椅子が用意されていたんですが、これもそれぞれの机が離されたうえ、両サイドに透明な板を置いているという徹底ぶり。さすがです。

構成としては昨年とほぼ同じで、「お誕生日様ゲーム」(それぞれが札を引き、「お誕生日様」になった人が、リスナーから出されたお題を残りのふたりにさせるというもの)、朗読劇、シチュエーション当てゲーム(ひとつの台詞を、異なる4シチュエーションのうちから3つを選んで演じ分け、それぞれがどのシチュか当てるというもの)の3本立てでした。

実は今回のイベントにあたり、3人によるミニドラマCDが作られているらしいのですが、その中から2本を朗読劇コーナーでは披露されたとのこと。しかもCD版とはキャストを一部入れ替えているということなので、ますます気になってきました。買おうかな。

前述の通り、今回のゲストはどちらも先輩(しかも関さんに至っては、佐藤さんが声優を志すきっかけになった憧れの存在)だったため、イジられてわちゃわちゃしてるさとたくが大変かわいかったです(笑)。ご本人曰く、自分で出したオファーが叶ったということなので、それだけでも彼にとっては最高の誕生日プレゼントになってるんでしょうね。なんてほほえましい……! 今年も(今のところはこんな状況ですが)ますますの活躍をお祈りしております。


*ここ1週間の購入本*
九井諒子「ダンジョン飯9」(ハルタコミックス/KADOKAWA)
荒川弘「アルスラーン戦記13」(マガジンKC/講談社)
河上朔「声を聞かせて1 精霊使いサリの消失」(ウィングス文庫/新書館)
つづ井「まるごと 腐女子のつづ井さん」
松浦理英子「最愛の子ども」(以上、文春文庫/文藝春秋)
村田沙耶香「消滅世界」(河出文庫/河出書房新社)
水無田気流「『居場所』のない男、『時間』がない女」(ちくま文庫/筑摩書房)


肺炎で亡くなった16歳の水瀬美恵子は、両親によってその遺体をどこかの病院に売られてしまう。遺体は皮膚や臓器を取り去られ、ホルマリンに漬けられ、さらには医学生たちの実習に提供される。病の苦しみから解放されたのも束の間、美恵子は実に2か月半もの間、自分の身体が切り刻まれていくのをじっと見つめていたのだった……。(「少女架刑」)

1990年に新潮社から刊行された「吉村昭自選作品集」1巻を2分冊にして文庫化。1952〜1960年にかけて発表された短編7編に加え、エッセイ「遠い道程」が併録されている。

巻頭に置かれた第1作目は、列車事故で死んだ男と、その隣家に住む人妻との秘された関係を浮き彫りにする「死体」。以降、どの短編にも死、あるいは病の影がまとわりついている。表題作となっている「少女架刑」に至っては、主人公の少女が解剖され、さらには火葬され骨壺に入れられるまでが、少女自身の視点で描かれてゆくのだ。骨壺の中で骨が崩れ灰になっていく音を聞き続けるラストは、なんともいえない衝撃をもたらしてくれる。

死をテーマにする物語では、しばしば残された人々の感傷に焦点があてられることが多いが、この作品集ではそればかりではなく、どちらかと言えば「死体」というモノになってしまった存在との関係性が綴られていく。それは確かに少し前まで生きて動いていた存在だというのに、今や物言わぬ、朽ち果てるだけの存在になってしまう。残された人々はそれをヒトとして見るか、モノとして見るか――喪失の哀しみのなかで、しかし無意識のうちに彼ら彼女らは、その切り替えを絶えず行っているのだろう。それを残酷だということは、きっと誰にもできない。


ある出版社の装丁部に勤めていたものの、部署の解体によりフリーの装丁デザイナーになった蒲田は、先輩編集者・真壁に誘われてゴミ屋敷の取材を進める中で、かつての同期であった元編集者・飯野の家へ向かうことに。しかしふたりが家にたどり着くと、ゴミだらけの部屋の中で飯野が首を吊っているのを発見する。幸い一命はとりとめたものの、飯野が寿退社後に夫を亡くし、その影響で流産してうつ状態に陥っていたことを初めて知り、蒲田はショックを受けていた。そんなある日、真壁の紹介で蒲田が引き合わされたのは、人気覆面作家の雨宮縁。かつて編集者としての飯野に世話になったという雨宮は、彼女の夫の死に不審感を抱いていたのだという。実はふたりに会う少し前、蒲田は写真投稿サイトで、妊娠が発覚して喜びの笑顔を見せる飯野と亡き夫の写真が掲載されているのを発見。しかし撮影・投稿者である「U」という人物は雨宮の知人ではなく、当時たまたま病院で出会った見知らぬ患者なのだという。さらに雨宮が投稿サイトを調べたところ、「U」が投稿した家族写真のいくつかで、写っている人物が不審な死を遂げていることがわかり……。

執筆中の作品の主人公になりきる覆面「憑依」作家・雨宮縁が登場する新シリーズ第1弾。幸せそうな家族の写真を撮り、のちに一家を不幸に陥れる「U」を追い詰めていく長編クライム・ミステリとなっている。

ある時は和装の老人姿、またある時は真っ赤なスーツの40代女性、さらには20歳前後の白皙の美青年――という具合に、その時書いている作品の主人公の姿で現れる「憑依作家」の雨宮縁。しかしその洞察力の鋭さは、雨宮が書く作品の主人公たち――すなわち雨宮が扮しているそれぞれのキャラクターたちと全く同じで(まあ雨宮が作り上げたキャラクターなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが)、どこか非現実的な雰囲気も漂わせつつ、事態の真相を明らかにしていく手腕はさすがのひとこと。個人的には雨宮本人もだが、雨宮の部下?(または秘書?)の庵堂氏の存在も気になるところ。

憑かれた女 (角川文庫)
横溝 正史
KADOKAWA
2020-04-24

ある時からバラバラ死体の幻を見るようになり、心身ともに疲れ果てていた西条エマ子。そんな彼女に酒場のマダムは金払いのいい外国人男性を紹介するという。すぐさまやってきた使いに連れられ、エマ子はとある洋館へとたどり着く。そこで彼女が見たのは、浴槽に沈められた女性の死体や、暖炉で燃やされる人体の一部だった。さらにおびえるエマ子の前には謎の外国人男性が現れ、彼女に覆いかぶさってきて――そうして目覚めたエマ子がいたのは洋館ではなく自宅近くの野原で、彼女を揺さぶり起こしたのは知人の井出江南だった。それから数日後、洋館で見た光景が忘れられず酒浸りになるエマ子のもとに江南が現れ、エマ子が連れ去られたと思しき洋館を突き止めたと告げる。連れ立って向かった洋館でふたりが目にしたのは、エマ子と仲の悪かった酒場仲間・みさ子の遺体で……。(「憑かれた女」)

〈由利麟太郎シリーズ〉復刊第2弾となる短編集。表題作を含む3作品が収録されている。なお、表題作と「首吊り船」には由利先生&三津木俊助コンビが登場するが、もう1作の「幽霊騎手」には先生たちは登場しておらず、シリーズ外の作品となっている。

表題作ではヒロインのエマ子が繰り返しバラバラ死体の幻を見てノイローゼになっていくのだが、その流れはもはやホラーとしか言いようがない。しばらくエマ子メインのエピソードが続き、なかなか由利先生が出てこないので、余計に物語がどの方向に向かっているのか、また犯人やその狙いがわからず、最後までエマ子と同じような気持ちで推移を見守るしかなかった。が、これに限らず、由利先生の手にかかれば、複雑な事件もシステマティックに整理され、あっという間に解決されてしまうのだから脱帽のひとこと。しかし動機が分かっても、その猟奇性が薄れるわけではないというのがなんとも。


◇前巻→「蝶々殺人事件」

少し前にまた新作が出ていたので、またTiTiさんでバッグチャームを買ってしまいました。今回は「ふわふわスフレパンケーキのバッグチャーム」です。めっちゃ食べたい(違)。
20200502Tommy

前回もパンケーキ山盛りなやつをゲットしてたんですが、よくよく考えてみると、今までなんだかんだとパンケーキ系のバッグチャームをしょっちゅう買ってるんですよね。ということで、部屋のあちこちに飾ったりしまったりしているパンケーキバッグチャームを全部引っ張り出してみました。
20200502パンケーキズ

我ながらいつの間にこんなにも買っちゃってたんだ……。
まあいっか、かわいいので許す(笑)。


*ここ1週間の購入本*
伊藤成郎「新選組 2245日の軌跡」(新潮文庫/新潮社)
吉村昭「少女架刑 吉村昭自選初期短編集1」
吉村昭「透明標本 吉村昭自選書記短編集2」
和田誠「装丁物語」
戸部良一ほか「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」(以上、中公文庫/中央公論新社)
吉田裕「日本軍兵士――アジア・太平洋戦争の現実」
佐藤猛「百年戦争」(以上、中公新書/中央公論新社)

久々に大型書店に行けたのでついいろいろ買っちゃった……ノンフィクション(というか評論・研究系?)に興味が沸きつつある今日この頃。

タイタン
野崎まど
講談社
2020-04-21

2205年の日本――だけでなく世界は、「タイタン」と呼ばれるAIによってあらゆる問題が解消され、人々は働くことなく自由に生きていた。そんな中、心理学を「趣味」とする内匠成果のもとに、ナレインと名乗る男が現れる。彼はいまや数少なくなっている「就労者」――「仕事」をする人物であり、なかば脅迫めいたやり方で成果に「仕事」を与えるのだった。それは北海道の第二知能拠点にある「タイタン」――12あるAIのうち2番目に生み出された「コイオス」が機能不全を起こしたため、その一部を「人格化」して抽出し、カウンセリングを施してその理由を探るというもので……。

2019〜2020年にかけて「メフィスト」に掲載された作品の書籍化。「仕事」から解放された世界で、「仕事」とは何なのかを探るSF長編となっている。

様々なリソースが常に不足しているからこそ、人々は働き、その対価でもってリソースを分配する。であれば、供給が十分であり、それを公平に分配できるのであれば、そもそも対価を得る必要はな い――「タイタン」は人間が行っていたあらゆる「仕事」を肩代わりし、その対価として得ていたあらゆるものを無条件で与えてくれる。それはユートピアであり、一方でディストピアなのかもしれない。

そんなふうに完全ではないにしろ、ほぼ完璧な「理想」の世界において、その根幹である「タイタン」自身が「仕事」というものに疑問を抱き、「仕事」を経験したことのない成果と共にそれを考えていくという展開がなんとも面白い。

「コイオス」と一緒に過ごした日々の中で、あるいは彼女とは正反対の立ち位置にあったナレインとの関係の中で、成果はあるひとつの答えを選ぶこととなる。それはどちらかといえば感傷的なもので、世界の在り方にある意味で逆行しているのかもしれない。それでもただ流されるままに「自由」を謳歌していた時の彼女と、いまの彼女とは確実に違う。成果だけでなく、読んでいるこちらもまた、「仕事」とはいったい「何」なのか、考えさせられる作品だった。

翼の帰る処 番外編 (2) ことば使いと笑わない小鬼
妹尾 ゆふ子
幻冬舎コミックス
2020-04-28

ヤエトを追って博沙国へとやってきたものの、すでにヤエトはおらず、かといって行く当てもないのでそのまま滞在を続けていたファルバーン。だがある時、博沙相の依頼でアルハンの水源の調査を依頼される。いつの間にか水源の汚染は消えており、行く必要がないと思われていたが、第2皇子の伝達官たちに促され、仕方なくアルハンへ向かうことに。同行していたのは伝達官に加え、北嶺からやってきた鳥の世話役・アルサールと、同じく世話役と思われる少年――に扮していた皇女本人であった。そんな奇妙な組み合わせの一行は、ひとまずアルハンの地下迷宮へと足を踏み入れるが……。(「ことば使いと笑わない小鬼」)

久々の新作となる番外編2巻。アルハンの地下迷宮を訪れたことでファルバーンに転機が訪れる表題作、ヤエトの養子・キーナンの学園生活を描く「ヘルムデル先生の帽子」、そしてヤエトが目覚めたことを知ってたくさんの人々が屋敷に押し掛ける掌編「それからのこと」の計3編が収録されている。

実は「ヘルムデル先生の帽子」にて、表題作の後でファルバーンがどうなったかも描かれているので、今巻は実質的にファルバーン巻のようになっている……がそれはさておき。表題作ではファルバーンが自身の存在意義、あるいは立ち位置について悩み、そして皇女と接することで考え方を変えていくという中編。一方で「ヘルムデル〜」は、同級生たちとの暮らしの中で、いずれ《黒狼公》になるにあたり、キーナンが何をどう考えているか、そしてどんな人物になろうとするかのビジョンを明確にしていくという展開になっている。いずれも彼らの意思決定に――直接ではないにせよ、結果的に――関わっているのはヤエトの存在であり、眠り続けていてもなお、その影響力の大きさがうかがえるエピソードとなっている。

ちなみに「それからのこと」において、そんなヤエトを変えるのは――変わろう、と自覚させたのは皇女だったりするのだからなんというかもう……ということで、最後の最後までいいコンビだとニヤニヤさせられたのはきっと私だけではないはず。


◇前巻→「翼の帰る処 番外編−君に捧ぐ、花の冠−」

永遠の夏をあとに
雪乃 紗衣
東京創元社
2020-04-21

1999年の夏。ある田舎町に住む小学6年生の羽矢拓人は、弓月小夜子と名乗る女性と「再会」する。かつて拓人は母・花蓮と共に、小夜子――サヤと一緒に暮らしていたことがあるらしいのだが、拓人にはその記憶がまったくなかった。それはかつて、拓人が「神隠し」に遭い、その時の記憶を失っているからかもしれなかった。母が入院しているため、サヤと一緒に夏休みを過ごすことになった拓人は、サヤのことを思い出そうとするが、なかなかうまくいかず……。

ある少年と少女の不思議な出会いと、その結末を描くファンタジー長編作。

神隠しに会って記憶を失ったことがあるという経験のせいか、あるいはなぜか町の住人から母ともどもつまはじきにされているせいか――この理由はのちほど明かされるのだが――、どこか大人びた雰囲気の持ち主である主人公の拓人。そんな彼が、かつて一緒に過ごしていた「らしい」年上の少女・サヤと再会したところから、物語も、彼の運命も、音を立てて動き出す。1999年の夏――世界が滅びるという「ノストラダムスの大予言」を拓人がどこまで信じていたのかはわからないが、そんなふうにどこかで「終わり」あるいは「滅び」を感じさせる刹那的な夏の熱と光の中で、拓人とサヤ、失われた記憶、けして入ってはいけない扇谷の山の奥……様々な情景が現実と非現実のあわいで揺らめいては消えてゆく。

断片的に拓人が思い出す「記憶」は、すなわちサヤの出自にも関わることである。サヤはなぜ羽矢家で暮らしていたことがあったのか。彼女が持つバイオリンの意味は。拓人が視た、降りしきる花びらの中で眠るサヤのビジョンは、美しくもあり、どこか恐ろしくもある。そんな中で拓人が選び取った未来を、母・花蓮の友人である鷹一郎はどこか危ぶむような眼で見つめていた。果たして彼がその手を取ったことが正解だったのかどうか――それは誰にも分からないけれど、それでも、何年経ったとしても、夏はまたやってきて、拓人とサヤの世界は融け重なり合っていく。そんなラストがどうしようもなく印象に残った。

5月に入っていきなり暑い日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか。私はさっそく扇風機を出しました。もうムリ(笑)。

というのはさておき。
突然ですが買ってしまいました……国書刊行会から出ている、澁澤龍彦による「泉鏡花セレクション」1巻(8,800円+税)を……!
20200502鏡花1

その昔、澁澤龍彦と種村季彦による泉鏡花の作品集刊行企画があったのですが、諸事情により立ち消えになったそうです。で、このたび鏡花没後80周年企画ということで、当時の澁澤による構想を元に、泉鏡花賞受賞作家でもある山尾悠子が解説を務めた選集(全4巻予定)ができたとのこと。もうこの時点でなんというか豪華すぎてそわそわしますね。

とはいえこの選集の刊行を知った頃、恥ずかしながら鏡花の名前は知っていても、読んだことのある作品は「外科室」1作のみ、ゆえに手を出すつもりはあまりなかったのですが……実は今回買ってしまったのは、某コロナのせいなんです……。

というのも最近読んだ小説(雪乃紗衣「永遠の夏をあとに」)のモチーフとして、鏡花の「春昼」および「春昼後刻」が挙げられていて、興味を持ったのがきっかけ。そこでこの2作が収録されている本がないかと調べてみると、真っ先に出てきたのは岩波文庫とこの選集でした。そこでまずは安価な岩波文庫の方を探そうと思ったのですが、コロナによる緊急事態宣言のため、私の活動範囲内のにある本屋のうち、岩波文庫の取り扱いがあるところは、いずれも休業または時間短縮(あるいは「平日時短・休日閉店」というまさかのコンボ営業)で物理的に捜索不可能。ならば通販で、と思ったのですが、私が利用しているいくつかのネット書店では「在庫切れ」。一方、選集の方であればネット書店で在庫が残っているところがあったので、もうそこに手を出すしかないですよね、ということで。なお後で「岩波書店のサイトなら在庫があったのでは……?」と思い至りましたがまあいっか(笑)。

まあ1巻には「外科室」も収録されてるし、なによりコンセプト(編者・監修者含む)が私の趣味を直撃してますので、いつかはこうなると思ってたんですよええ。残念ながらGWは仕事ですしもちろん毎日要出勤ですので、少しずつ読んでいけたらなあと思います。

……ところで国書刊行会さん、夢野久作全集の続きはどうなってますか……?


*ここ1週間の購入本*
今村陽子「夜鳴きのシィレェヌ5」(ヤングキングコミックス/少年画報社)
横溝正史「憑かれた女」(角川文庫/KADOKAWA)
佐藤さくら「少女の鏡 千蔵呪物目録1」(創元推理文庫/東京創元社)
青谷真未「読書嫌いのための図書室案内」(ハヤカワ文庫JA/早川書房)
妹尾ゆふ子「翼の帰る処 番外編2−ことば使いと笑わない小鬼−」(幻冬舎)
「澁澤龍彦 泉鏡花セレクション1 龍蜂集」(国書刊行会)

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