phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


リチャードが店を閉め、姿を消した。もう戻ってこないともとれるメッセージにショックを受けるも、彼がどこにいったのかまるで手掛かりがつかめない正義。しかしある日、閉店中のエトランジェにリチャードの師匠であるシャウルがやって来る。リチャードがイギリスへ向かう飛行機に乗ろうとしていることを知った正義は、シャウルからもたさられた情報をもとに、単身イギリスへと向かうことに。するとその途上で現れたのはリチャードのいとこと名乗る青年・ジェフリー。ジェフリーは正義の身の上についてすべて調査済みらしく、さらにはリチャードの過去と、その身に降りかかっている問題についても滔々と語り……。

リチャードが消えた!?という驚愕のラストから待ちに待ったシリーズ4巻は、美しき宝石商リチャードの正体と過去に迫るという展開に。

まるで恋人に突然逃げられたかのような心境に陥る正義に、リチャードの師であるシャウルは告げる――「納得したい」からリチャードの行先を探すとして、その先になにがあるのか、あるいはどうしたいのか、と。確かにそれは気になるところで、会ってその真意をただすことができれば当座は納得できるだろうが、正義のこの状態を見る限りでは、それで「じゃあそういうことで」と落ち着けるとも思えない。しかし本人にも言語化できないこのもやもやを整理してくれたのは谷本さん。鉱物になぞらえた彼女の説明はとてもわかりやすくて、さすが(正義にとっての)天使!いい娘だ……これで決定的に正義との間の「好意」がすれ違っていないのならなおさら……と思いつつも、まあそのズレもまた天使だなあということで。

ともあれ、ようやく自分の気持ちをひとまず整理したところで、イギリスに向かった正義を待ち受けていたのは、リチャードの実家・クレモント伯爵家の「呪い」ともいうべき因縁。宝石に罪はないとリチャードはよく口にするし、まさにその通りではあるのだが、しかしその宝石を核に、ひとは争いの種を仕掛けてしまう。あるいはそれすらも罪なき美しさがはらむ業のようなものなのか。それでも正義はその呪いに惑わされず、リチャードを救おうと腐心する。そしてリチャードもまた、正義を自分の事情に巻き込まぬよう心を砕くのだ。なんという不器用で似た者同士なふたりなんだ、と読んでいて胸が熱くなってくる。もういいよふたりが相手をどう思っているかとかそれは愛かどうかとかそういうのは、としか言えなくなってくるのだ。そうやって新たな一歩を踏み出したふたりの関係をまだまだ見続けていたい。


◇前巻→「宝石商リチャード氏の謎鑑定 天使のアクアマリン」


湖西の騒動の後始末に追われる文林をなだめつつ、新設された軍の整備にいそしむ小玉。そんな折にもたらされたのは、小玉の貞節に問題ありというまさかの疑惑だった。根拠は薄弱で具体的な証拠もないものの、ひとまず小玉は根拠のひとつとされる軍との関わりを断ち、後宮に引きこもらざるを得なくなってしまう。そんな小玉の憂さ晴らしも兼ねて文林は狩猟の会を開催。しかし小玉の愛騎・白夫人の餌に毒草が混入されており、誤ってそれを食べた司馬淑妃の馬が死んでしまう。後宮をめぐる問題がますます膠着化する中、打開策として新たな妃――しかも皇后たる小玉に次ぐ「貴妃」が新たに招き入れられることとなり……。

シリーズ5巻となり、小玉と文林の関係も新たな局面を迎えることに――ただし、残念ながら悪い意味での。

小玉を追い落とそうとしているのは言わずもがな司馬淑妃の父である司馬氏。そんな司馬氏が胡乱すぎる疑惑を掲げてきたのは文林たちが予想する通り単なる準備不足で、その原因は娘である淑妃の考えなしの暴走によるもの……という展開はまあ笑える話ではある。ついでにいうと後宮に新たにやってきた貴妃・紅燕はあの王太妃の娘だからして、お目当ては文林ではなく小玉。まあそれもいい(もちろん面白すぎることになっている)。問題はそれら一連の流れの中で、小玉が自身の立ち位置に疑問を持ち始めたこと。子を産むわけでもなく、かといって新しい貴妃含め、他の妃嬪たちを勧めることもできていない。疑惑のせいで軍にも関われない。そしてそんな中、ついにふたりが文字通りの「初夜」を迎えてしまったことが、大きな問題となって小玉と文林の間に横たわってしまう。

こんな時でなければうまくいったのではないかと思う。けれどこんな時だったからこそ、小玉はただひたすら傷ついてしまったのかもしれない。あるいは疲れてしまったのかも。文林との気持ちが決定的にすれ違ってしまっていて、しかも小玉はそれに気付いているのに、文林ははっきりとは気付いていない。その齟齬もまた致命的である。隣国との戦が近づく中で、このどうしようもない溝が埋まることはあるのだろうか。


◇前巻→ 「紅霞後宮物語 第四幕」

職場の自販機にコーンポタージュが戻ってきました!
なんでもコンポタが消えたことを憂えた同僚が、たまたまメンテに来ていた自販機メーカーの人に訴えてくれたらしいんです。その行動力もすごいんだけど、わりとはやくその要望が通ったというのもびっくりしました(笑)。ちなみにそのメーカーの撤去理由は「シーズンが終わったから」だそうですが……早くないか? ともあれ、その日のうちにさっそく1缶飲んでしまいました。美味しいなあ。

さてさて、この週末からポケGOに金・銀のポケモンが追加されたと聞きつけたので、さっそく長距離散歩に出てきました。最近遠征することがなく、私の行動範囲内では見たことあるやつしか出てこなくなってたので、久しぶりに新種たちを捕まえ放題で楽しいです。ボールが減るのが早い早い。

金・銀プレイ時にネイティオとヨーギラス(注:進化はさせない)を含めたカワイイパーティを形成していた身としては、当然この2匹をゲットしたい気満々なんですが、今日のところはどちらも現れず。ネイティは影だけ見えたんでいつかゲットできるだろうなとは思ってるんですが、ヨーギラスの方は出てきにくいという噂がちらほらと……えっそれは困る。出てきにくいのならせめてたまごから孵りますように……って邪念を持ってたら出なくなりそうですけど(笑)。


*ここ1週間の購入本*
九井諒子「ダンジョン飯4」(ビームコミックス/KADOKAWA)
藤崎竜「銀河英雄伝説5」(ヤングジャンプコミックス/集英社)
栗美あい「紅霞後宮物語〜小玉伝〜2」(プリンセスコミックス/秋田書店)
雪村花菜「紅霞後宮物語 第五幕」
喜咲冬子「黎明国花伝 茅舟の王女」(以上、富士見L文庫/KADOKAWA)
夕鷺かのう「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜未来へ続く協奏曲〜」(ビーズログ文庫/KADOKAWA)
辻村七子「宝石商リチャード氏の謎鑑定 導きのラピスラズリ」(集英社オレンジ文庫/集英社)
直原冬明「十二月八日の幻影」(光文社文庫/光文社)
直原冬明「幻影たちの哀哭」(光文社)
福田和代「S&S探偵事務所 最終兵器は女王様」(祥伝社)


英一の弟・光が、小暮写眞館に出るという前店主・小暮氏の幽霊について気にしているらしい。見かねたテンコが写真ソフトを使って小暮氏の心霊写真を作り、それを光に渡していたことを知った英一は、光の意図をはかりかねながらも、まずは小暮氏の写真をテンコに提供したST不動産の社長・須藤のもとを訪れる。しかし英一の抗議をあっさり受け流しながら、須藤は英一にある写真を渡すのだった。それはとあるフリースクールでの誕生日会の風景だったのだが、その背景によくわからないふいぐるみのようなものが写りこんでいたのだ――ただし、それは明らかに合成されたもの。この写真を撮影し、プリントアウトした少年・牧田は、このぬいぐるみを「カモメ」だと言い張っているのだという。クラスの人気者で成績優秀、いじめの事実もないはずなのに不登校だという牧田少年に何らかの事情があると考える英一だったが、その事情がまったくつかめない。しかし調べを進めていくうちに、この「カモメ」が登場する映画の存在が明らかになり……。

今回も謎の写真を前に奔走することになるシリーズ3巻。本筋はもちろん、「カモメ」の写真と牧田少年の真意を探るという展開なのだが、それ以上に気になるのは光と垣本さんの件。

まず光の方は、なぜか小暮氏の幽霊に会おうと行動を起こし始めている件。実は今巻中で花菱家に泥棒が入るのだが、未遂に終わり逮捕された犯人は幽霊を見たというのだ。やっぱりここに小暮氏の幽霊はいるんだ……ということで、ふたりは小暮氏の娘を訪ねることに。そこまではまあいいのだが(その話を受け入れてくれる小暮氏の娘もなんというかすごいと思う)、最後まで疑問が残るのは、なぜそこまで光が小暮氏の幽霊の実在に執着するのかということ。英一は薄々気付いているようだが、光は小暮氏の向こうに、亡き姉――つまり英一にとっては妹――の風子を見ている。幼い頃に病死した風子の存在は、一見明るく楽しい花菱一家にとって、確実に深く刺さり抜けない棘となってそこにある。だが、いったいなぜそこまで彼女の死が問題なのか――前巻でも描かれていたが、母・京子は光に対して、時折過剰なまでの過保護ぶりを見せることがあった。幼い娘を亡くしたことのある母親の対応としては仕方ないとは言え、そこには何か別の問題があることが英一のモノローグから示唆されている。おそらく次巻で明かされるであろうその過去が気になって仕方ない。

一方、垣本の存在もまた、今なお英一に爪痕を残しまくっている――いい意味でも、悪い意味でも。前巻で線路に飛び込んだ――本人は「電車を真正面から見たかっただけ」と言い張るが――そのあとで、英一は垣本が家族との間に何らかのトラブルを抱えていること、そして時折自殺めいた事態を起こしていることを、須藤から聞かされていた。しかし一方で、他人との関わりを持ちたがらないという垣本が、なぜか英一には興味を示しているということも判明する。今回の依頼を通じて距離が縮まりつつある英一と垣本の関係がどう変化していくのか――垣本は自身の「問題」から抜け出すことができるのか。このどこか危なっかしいふたりからも目が離せない。


◇前巻→「小暮写眞館2 世界の縁側」


最近リーベルの常連となった沖名は、自称「売れない小説家」。霊媒師の噂をどこからか聞きつけた沖名は、ネタのためにアーネストに接触しようとしては佐貴に断られる日々。しかしある時、沖名はとあるアパートの大家だという老人・大槻を連れて来店。なんでも大槻のアパートには、入居者が決まって同じ「池の夢」を見てしまう部屋があるのだという。ふたりの押しの強さに断りきれなかった佐貴は、地守家でホームステイ中のアーネストを伴い、そのアパートを訪ねることに。すると誰も住んでいないはずのその部屋に、気を失った少女が横たわっていた。しかも佐貴とアーネストには、その少女が人形を抱きしめている幻が見えていたのだ。この件に三神が関わっている可能性を否定しきれないふたりは、やがて意識を取り戻し、身元が判明した少女の実家を訪れるが……。

講談社タイガにレーベルを移してのシリーズ4巻は、記憶喪失の少女と、彼女の実家で奉られている「人魚」を巡る展開に。

アパートで発見された少女・汐見聖蓮は記憶喪失だが、その歌声にはアーネストのヴァイオリン同様、浄化の力が備わっているという。まずこの時点で謎なのだが、彼女の実家である汐見家にはさらに不可解な点が。聖蓮の父親の不審死、祖母が信仰する「人魚」の存在と淀んだ池、そして聖蓮が行方不明となった時期と前後して、汐見家の池で死んでいたフリーライター。聖蓮はなぜ大槻のアパートで倒れ、記憶を失ったのか。その部屋で見られるという夢に出てくる池が汐見家の池であるのはなぜか――その部屋にかつて住み、病死した辻と汐見家の関係は。――などなど、謎ばかりがどんどん増えてゆく中、アーネストのヴァイオリンが壊されるわ、一方で三神はまったく姿を現さないわで、なにやらこれまでの事件とは雰囲気が異なる展開に。

そんな中、ヴァイオリンを壊されたことで自棄的になるアーネストに対し、佐貴が思いがけず強く反発するという流れが印象的。これまで以上にアーネストに踏み込んでゆく佐貴からは、かつて三神の告げた「呪い」をはねのけようとする強い思いが感じられて、ふたりの関係の変化を強く認識させられる。そしてそれを受け入れたアーネストも、以前より強くなったと思わされる。しかし同時に、三神のアーネストに対する「執着」の強さも浮き彫りとなる結果に。事件は解決しても、不穏さは晴れないラストがなんとも苦い。


◇前巻→「雪に眠る魔女 霊媒探偵アーネスト」


女子バレー部に所属する先輩に呼び出された英一。実は先日の心霊写真の件が尾ひれがつきまくった状態でネット上に流れており、本人の知らぬ間に「花菱英一は心霊写真を浄化できる霊能者」という噂になっていたのだ。有無を言わさぬ圧力をもって英一に依頼をしてきたその先輩・田部から渡されたのは、田部の先輩である河合とその家族の写真だった――にこやかに写る3人家族、しかしその背後には、3人が泣いている姿が浮かび上がっていたのだ。撮影者は当時河合と婚約していた男性だったが、のちに婚約は破棄され、さらに河合の父親の工場が倒産し、そのまま父親は亡くなったのだという。田部は河合を含めた当事者に知られないよう、この写真の謎を解くよう言い渡すのだった。困惑しつつ、親友のテンコや、例の噂を聞いて興味を持ったというテンコの友人・寺内千春と共に、当時の状況を調べ始めるが……。

不可思議な写真につくづく縁のある?高校生・花菱英一の奮闘を描くシリーズ2巻。

いつの間にか霊能力者という噂を流されてしまっていた英一は、はからずも新たな心霊写真の謎を追うハメに。そこで今回、そんな英一の助手を務めることになるのは、その肌の黒さから「コゲパン」と呼ばれている同級生の千春。ちなみにここで甘酸っぱい展開に……となるかと思ったらそうでもなかったのであしからず(笑)。

突然の婚約破棄、行方知れずとなった元婚約者、父親の病死。写真の泣き顔は、その後起きたいくつもの不幸を予知していたのか――そんな突拍子もない、けれどなんとなく納得はできそうなその仮定を、英一と小春はひっくり返してゆく。ある意味超常現象であることに変わりはないのだが、そこに介在していたのは前回同様、生きている人間の意志だった。しかし今回は前回と違い、やり直せる余地はある。それを当事者たちに気付かせたのは英一と千春。若さゆえか、それとも外部にいるからこそ見えてくるということか――ともかく、そうやって人の絆を取り持つ中で、ふたりにもまた、自分たちの問題を見つめなおす時がやってくる。千春の告白にはそれはもう驚いたが、それで彼女も救われたのならそれでいいと思った。

しかし一方で、新たな火種というか心配事も。ひょんなことから英一は、毒を含みまくったその言動で英一の心に文字通り爪痕を残していったST不動産の女性従業員・垣本が何か抱え込んでいることを知る。ますます存在感を増してゆく垣本にはどんな問題が潜んでいるのだろうか。


◇前巻→「小暮写眞館1」

小暮写眞館I (新潮文庫nex)
宮部 みゆき
新潮社
2016-12-23

ちょっと変わり者の両親に悩まされている高校生・花菱英一は、だから今回の引っ越しにも困惑を隠せないでいた。両親が購入した「念願のマイホーム」は、さびれた商店街の真ん中に位置する、築33年・木造2階建ての元写真館だったからだ。父親の主張で「小暮写眞館」という看板を掲げたまま、その家で暮らし始めた英一だったが、ある日見知らぬ女子高生から1枚の写真を押し付けられてしまう。その写真は彼女がフリーマーケットで買ったノートの間に、「小暮写眞館」の封筒に入った状態で挟まっていたのだという。法事かなにかの後に撮られたと思しきその写真には、6人の男女と、どう見ても幽霊的なものにしか見えない女性の顔が写っていて……。

古びた写真館に住むことになった男子高校生が、奇妙な写真に秘められた謎を追う現代ミステリ長編。元々は講談社から刊行されていたようだが、このたび新潮文庫nexから刊行されるにあたり、4分冊されることになった模様。

というわけでこの1巻ではイントロダクションからの心霊写真騒動が語られてゆく。英一の家族について――時々突拍子もないことを言ったりしたりする両親、どこかマセた雰囲気の7歳下の弟・光、そして幼い頃に亡くなった真ん中の妹・風子の存在。そんな一家が住むことになった写真館――前の持ち主が死ぬ直前まで経営していたという「小暮写眞館」には、その老店主の幽霊が出るという噂ものちのち明らかになったりするのだから驚き。一方で、撮影スタジオがリビングになっているというのが、住んでいる英一にとっては珍妙極まりないのかもしれないが、なんとなく楽しそうでもある。そしてそこに持ち込まれた心霊写真。越してきたばかりで周囲のこともわからない英一は、親友のテンコ(本名は「店子力(たなこ・つとむ)」)と共に、ひとまずこの家を買うときに仲介した不動産屋で情報収集を試みるのだが、社長の須藤はともかく、女性社員の垣本は客商売に向いていなさそうな辛辣さでふたりを出迎える。……とまあ、のっけからクセのありすぎる展開にどんどん引き込まれてしまう。

やがて英一は須藤から、写真に男女のうち3人が火事で亡くなっているといることを知らされ、その3人について調べていくことに。いつしかテンコはその地道さに辟易して手を引くのだが、英一は根気強く、細い糸を手繰り寄せるかのように真相へと向かってゆくのだ。家族に対する描写や学校生活から、英一の性格はシニカルで冷めた感じの「イマドキの若者」タイプかと思っていたのだがそんなことはなく、むしろ几帳面で真面目、そして好奇心が思いのほか強いということがわかってくるのも面白い。しかし一方で、そんな彼の行動が「好奇心は猫も殺す」にならなければいいのだが、と思いつつ……。


片想いの相手であった少女・襟仁遥人と共に高校の屋上から落ちてしまった少年・神田幸久は、気付くと地縛霊のような状態で高校の教室にいた。そこで目にしたのは、かつての遥人のようにクラスメイトからいじめを受けている少女・穂積美咲の姿だった。しかも美咲にも幸久の姿が見えているらしい。以後、幸久を唯一の友人として接してくる美咲に対し、幸久はイメチェンすることをアドバイスしたり、勉強を教えて成績を上げさせるなどして、彼女を周囲に認めさせようとするが、ことごとく裏目に出るのだった。しかしある時、隣の席の高木綾香が美咲をかばったことがきっかけとなり、美咲は綾香と仲良くなっていく。これを皮切りに、少しずつではあるが美咲が他のクラスメイト達にも受け入れられるように。と同時に、幸久にも異変が起こり始め……。

第18回えんため大賞ファミ通文庫部門・優秀賞受賞作。地縛霊になってしまった少年が、いじめにより孤立していた少女を救おうと触れ合い、「再生」してゆく日々を描く青春小説。

幸久の視点から描かれるのは、現在目の当たりにしている美咲のことと、今の状態になる前のできごと――すなわち遥人とのこと。クラスメイトたちからイジメに遭っていた――しかも何か具体的にしたわけではなく、ただ「そういう空気」を作られ、疎外されていたという同じ境遇のふたり。誰よりも正しくまっすぐであろうとした強い少女・遥人と同様に、最初はすべてをあきらめていた美咲も、幸久のアドバイスもあってか次第にその芯の強さを見せるように。しかしどんどん周囲に受け入れられ、最終的にはイジメの主犯格である香苗とも和解してゆく美咲とは対照的に、結果的には幸久の前で死を選ぼうとした遥人。やがて物語は、遥人の抱えていた悩み、そしてなぜ幸久が高校に縛られているのか、その理由に迫ってゆくことになる。

幸久の状況や遥人のことなど、わりと序盤から予測がつきはするが、あくまでも軸となるのは美咲と幸久に訪れる変化の時。幸久は遥人に出会ったことで、そして美咲は遥人に出会ったことで変わることができた。そして幸久はまた、美咲と出会ったことでも生まれ変わることになる。自分の気持ちとまっすぐ向き合うこと。出会いと別れを越えて成長してゆく彼らの姿がなんとも眩しい作品だった。


地方豪族の娘であり、巫女としてこの地を守る任を負う少女・瑠璃の前に現れたのは、大倭王朝の皇子と名乗る青年・紫苑だった。大王の命によりこの出水国にやってきたという紫苑は、出会うなり「オレのこと、お婿さんにしてくれる?」と瑠璃にまさかの求婚。以後も何かと瑠璃の周囲に現れては、仕事を手伝ってくれるように。最初は警戒していた瑠璃だったが、自分だけでなく周囲に対しても分け隔てなく接する紫苑の振る舞いに次第に気を許すようになり、いつしか惹かれるように。しかし身分の違いや朝廷との関係、さらに婚約者の存在などもあって、素直に気持ちを伝えることはどうしてもできず……。

敵対しあう一族の皇子と巫女が禁断の恋に落ちる古代和風ファンタジー。

出合頭に求婚してくるし、以後もなにかと瑠璃に接近してくる紫苑の振る舞いには、当初は瑠璃同様驚かされたものの、手を出してくるわけでもないし、実は過去に何かしらあって……という背景もあってのことだったのでとりあえず安心(笑)。女性を味方につけておけばのちのち有利というそのスタンスはまあ軽くないとも言い切れないが、彼なりの処世術と考えればこれはこれで。最終的に、紫苑の優しさが瑠璃のかたくなさを溶かしてゆくという展開は、そこに隠された過去のあれこれとあいまって、とても印象に残った。ふたりの今後は前途多難のようだが、きっと大丈夫だろうと感じさせる結末がとても良い。欲を言えば、瑠璃の婚約者でもある従兄・翡翠が、実際のところ瑠璃をどう思っていたかを見てみたかった気も。

うちの職場には3種類の自販機が置かれてるんですが、毎年冬場になるとコーンポタージュが入れられるので重宝――という言い方が合っているのかどうかわかりませんが――していました。小腹が減ったときとかにいいんですよアレ。で、今冬ももちろん導入されてたんで時々飲んでたんですが、先日ふと自販機を見たところ、なんとどの自販機からもポタージュが消えているではありませんか! な……なんで……!?

周囲を見る限り愛飲者は結構いたし、休憩室のごみ箱にも空き缶が捨てられているのをよく見かけてたので、決して「売れないから」という理由ではないと思うんですが……しかも1台だけならまだしも全部って。ついでに言うと私がポタージュの次によく飲んでいたホットココアも姿を消し、やたらとコーヒーばっかりになってました。元々コーヒーは多めに入ってたんだけどそれにしたって多すぎないかこの量……と言いたくなるくらいになってます。いやまあ私も缶コーヒー飲むけどさあ……なんかがっかり……なんかの陰謀かな……。


*ここ1週間の購入本*
さらちよみ「マーメイド・ボーイズ2」(KC×ARIA/講談社)
KANA「女の友情と筋肉5」(星海社コミックス/星海社)
織川あさぎ「竜騎士のお気に入り 侍女はただいま兼務中」(一迅社文庫アイリス/一迅社)
宮部みゆき「小暮写眞館2〜4」(新潮文庫nex/新潮社)
彩瀬まる「骨を彩る」(幻冬舎文庫/幻冬舎)
折口真喜子「踊る猫」(光文社時代小説文庫/光文社)
松浦千恵美「しだれ桜恋心中」(早川書房)
「SFが読みたい!2017年版」(早川書房)

SFが読みたい! 2017年版
S‐Fマガジン編集部
早川書房
2017-02-09

毎年恒例の「SFが読みたい!」、国内ベスト30中、既読6冊、積み6冊でした。微妙な成績です(笑)。加えて今回は、特別企画として「2010年代前期ベスト30」ってのもあったのですが、そっち(国内編)は既読12冊、積み10冊でした。
あと、毎回楽しみにしているのが各社の2017年の刊行予定なのですが、文藝春秋から5月に山尾悠子の新作が出るって書いてあるんですけど……えっ、本当に……!?


ルルディ国の王女アティナは、成人まで生きられないと言われるくらいの病弱な体質だったが、アレサンドリ神国から招いた薬師ルイスのおかげでなんとか普通の生活が送れるようになっていた。辺境に位置するフィニカの町で療養しつつ領主生活を送る彼女の日課は、片思い相手であるルイスに告白することなのだが、毎日あっさりとかわされているのだった。そんな中、亡くなったアティナの父の跡を継いで国王となった叔父の悪政に加え、天候不順による食糧難と難民の増加が深刻化。やがて、王都で反乱がおこったという知らせがもたらされ……。

ひきこもりシリーズ第6弾は、第4弾にも登場したルビーニ家の魔術師にしてビオレッタの兄・ルイスが再登場。病弱だけど健気で前向きな王女・アティナとの攻防が描かれてゆく。

4巻で兄コンラードと義妹アメリアを取り合ったりもしたルイスだが、ふたりが結ばれたのちにいつの間にかアレサンドリの隣のまた隣にあるルルディ国に招かれていたということで、暗くじめじめした屋敷を手に入れて王女アティナのための薬を作りつつ、一方で食糧難にあえぐ人々のために農薬や肥料を作って助けるなど、フィニカの町の領主でもあるアティナにとってなくてはならない存在に。でもってそんなルイスに恋したアティナは何かにつけて「好きです」と告白するのだが、ルイスは「気持ちだけもらっとく」とつれない返事を繰り返すばかりか、アティナが成人するまで見守る、の一点張り。しかもアティナが成人とみなされる17歳の誕生日まであと少し……ということで、進展の兆しが見られないまま物語は進んでゆく。

食糧危機と難民の増加、さらに現国王からの嫌がらせ(課税の増加)などもあり、一時は大ピンチに陥るアティナだったが、自分の身を犠牲にしてなんとかこれを乗り越えることに成功。とか思ってたらルイスの真意も判明して中盤でもうめでたしめでたし……という雰囲気になってきて面食らっていたら、本当の危機はこの後に待ち構えていたという展開がなんともつらい。やがて国家存亡の危機に立たされたアティナは、王族としての務めを果たすべくさらなる決断を下すのだが、それがまた健気というか献身的すぎるというか……王族として、そしてフィニカの領主としての務めをきちんと果たしていた彼女が、なぜここまでの犠牲を強いられねばならないのか、と絶望的な気持ちになってくる。……とはいえ最終的には彼女が報われる結末が用意されていたのでひと安心。ルイスも幸せになれて本当に良かった。


◇前巻→「ひきこもり魔術師と社交界の薔薇 それで口説いてないなんて!」

ひとごろしのうた (ハヤカワ文庫JA)
松浦千恵美
早川書房
2017-01-24

かつて人気3ピースバンドのフロントマンとして活躍するも、音楽性の違いにより解散し、ソロ活動もうまく行かず、バンドマン時代の伝手でディレクター見習いとして音楽業界に留まることを決めた大路樹。新人オーディションコンテストに応募された音源を聴いていた樹は、ある1枚のCDに衝撃を受けるのだった。そのタイトルは「ひとごろしのうた」。瑠々という歌手名以外何もわからず、連絡も取れない状況だったが、樹は上層部に掛け合い、ラジオを使って瑠々を探し始める。しかしいっこうに有力な手掛かりが得られないため、樹は思い切ってインディーズレーベルを立ち上げ、CDをリリース。SNSを使ったプロモーションも功を奏し、「ひとごろしのうた」はチャートで1位を獲得するほどの人気を博すことに。しかしその直後、週刊誌に「ひとごろしのうた」にまつわる記事が掲載され、大問題になる――それは最近起きた、少女による祖父母撲殺事件と、予備校生による通り魔事件の容疑者が、いずれも「ひとごろしのうた」のリスナーであったという内容。あっという間にCDに対するバッシングが起き、店頭からCDが撤去されるという事態になってしまう。樹はショックを受けながらも、瑠々探しに加え、これらの事件についても調査を始めるが……。

第4回アガサ・クリスティー賞受賞後第1作となる本作は、音楽業界を舞台に、謎の歌が様々な過去を暴いてゆくミステリ長編。

タイトルこそかなりショッキングではあるが、内容はまったく異なっていて、決して殺人賛美の歌ではないのがこの「ひとごろしのうた」という歌。これに魅せられたのは樹だけではなく、それゆえに事件は起き、また一方でこの歌そのものに秘められた悲しい事実が明かされてゆくという展開に。持ち前の耳の良さ、そして周囲の音楽関係者の助力を得ながら、樹が細い糸を丁寧に手繰り寄せて真実に迫っていく展開はとてもスピーディーで無駄がなく、思わぬ方向へ転がっていくという流れに驚かされはするものの、最後の最後まで目が離せなかった。決してハッピーエンドではない真相にはやりきれない思いも残るが、それでも樹が再び音楽への情熱を取り戻すという希望あるラストで本当に良かった。


リーベルにやってきた客から佐貴が依頼されたのは、とある亡くなった女性に紅茶を淹れてほしいというものだった。首をかしげつつ依頼人である地守時彦の邸宅を訪れた佐貴だったが、そこにいたのはアーネストだった。なんでもアーネスト自ら地守時彦に接触し、訪問したいという申し出があったのだという。当初の依頼をこなした佐貴は、時彦がアーネストに浄霊を頼んだことを聞き出し、しぶるアーネストに同行することに。アーネストが浄霊を依頼された「雪花堂」は、かつてこの地にあった地守の屋敷が火事に遭ったため、その慰霊を目的として建てられたものだという。しかしその後、ここでの自殺事件が何度もあったのだとも。ふたりが泊まることになった宿「三椿荘」の女将の娘である牧緒は、それは自殺ではなく雪女に殺されたのだとふたりに語るのだが……。

霊媒探偵シリーズ3巻では、ついにアーネストの出自に迫るという展開に。

これまではまず佐貴のところに依頼があって、ふたりで現場に赴き事件解決!という流れだったのだが、今回は現場でたまたま遭遇した、という状況のふたり(まあ依頼人が同時に呼び寄せたのだからそう変わらないのかもしれないが)。しかもアーネストの方はどちらかといえば単独行動する気満々だったということで、なにやら冒頭から怪しい雰囲気。結局のところ、アーネストが佐貴に黙って来日したのはやっぱり三神の差し金だったわけだが、それが最終的にはアーネストの出自に繋がるという結末に。人づてにではあるが、ジェラール・アンティーニの死がアーネストのせいではないということを伝えたことで、三神の目的が変化したのかどうかはわからない。よって今回の真意もいまいち伝わってこないのだが、結果としてはそう悪いことにはならずひと安心といったところ。しかし一方で、終盤でアーネストが下した「預言」が気になっていたりもする。あえてその言葉を使ったというあたりに、彼の闇を垣間見たような気がしないでもないが……今回明らかになった「繋がり」が、今後どう作用していくのか――あるいは特に作用せず続くのか――いずれにせよ気になるところ。


◇前巻→「清らかな煉獄 霊媒探偵アーネスト」


浜本理佳と名乗る女性客から、霊媒師――すなわちアーネストへの伝言を頼まれた佐貴。彼女がイニシャル入りのハンカチを忘れて去っていったこともあり、佐貴はしぶしぶ、渡されたカードに書かれた番号に電話をかけることに。すると電話に出た相手は、偶然にも佐貴の小学校時代の知人・竹内麻梨乃だった。しかし事情を聞いた麻梨乃は驚きを隠せない様子で答えるのだった――浜本理佳という女性は、昨年自殺したのだ、と。タイミングよく来日していたアーネストを伴い、佐貴は麻梨乃に会いに行く。そこで聞かされたのは、理佳が自殺に至るまでの経緯と、彼女の死後に出てきた心霊写真の存在だった……。

なぜか個人的にずっと放置してしまっていた(苦笑)、霊媒師・アーネストと霊感ゼロの喫茶店マスター・佐貴が幽霊がらみの事件を解き明かすミステリシリーズ2巻。

今回は自殺した女性と、彼女の死後に見つかった集合写真の怪、そして彼女が中心となって作った「思い出帳」に隠された真実を佐貴とアーネストが暴き出すことに。そしてついでに(というわけでもないが……)アーネストの過去に関わる人形師・三神が再登場し、師の人形を送り付けることで彼の過去を暴こうとする一幕も。

相変わらずツン90%の(本当にたまに、という頻度だがデレることもある)アーネストだが、三神によって過去のトラウマを刺激され、今回は精神的にもピンチに陥ることに。アルグライト家から追放されたという人形師ジェラールとの因縁、そしてそれを暴くために佐貴を通してアーネストに揺さぶりをかける三神。本筋となる浜本理佳の事件もなかなか事情が錯綜していて読み応えがあるのだが、個人的にはアーネストの過去の方が気になってしまう。結局のところ、三神の目的はいったい何なのだろうか、と。そして彼が口にする「アルグライト家の呪い」は果たして存在するのか、あるいはこじつけなのか。三神は佐貴がその呪いに巻き込まれていると言うが、三神自身も呪いにとらわれたひとりであるはず。ならば佐貴とアーネストの関係が、彼の今後を変えてゆくのかもしれない。


◇前巻→「渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト」


クリスマスの夜、都心の総合病院で大量殺人事件が発生した。調査の結果、10階および11階に睡眠導入ガスが流され、10階に収容されていた数名の患者が殺されていたという。この病院は警察との関係があり、ふたつのフロアには受刑者が収容されていた――つまり、殺されたのは受刑者のみ。しかし無差別ではなく、また11階の収容者には被害がなかったのだ。監視カメラの映像等から、容疑者は受刑者ではなく、外部からの侵入者によるものと推測されたが、逃亡に使われた車は盗難車であるうえ個人パーキングに乗り捨てられており、犯人の足取りは杳としてつかめないのだった。そんな中、麗華たちカフェの従業員たちが「スイッチを押す者マンセー」というブログを発見。調べた結果、運営者がこれまでもネット上で「犯罪者は殺すべき」という主張を繰り返していたことが判明する。比奈子は中島のことを指し示すこのブログタイトルに懸念を抱きつつも、この人物の足取りを追ってゆくが……。

シリーズ7巻は新展開。病院で起きた大量殺人事件が、新たな陰謀の気配を示唆してゆく。

謎の侵入者と、警察の内部情報に通じるかのような事件。事件前後から消息不明となっているスタッフの存在。そして「スイッチを押す者」――つまり中島のことをブログタイトルに冠する人物の思惑。今回の捜査の推移はこれまでに比べるとわりと単純で(とはいってもその所業はやはりおぞましいものではあったが)、捜査班の面々がさほど消耗させられるような展開にはならなかったのだが、その事件に隠れていた何者かの思惑は、確実に比奈子たちの行く先を影を落とそうとしていた――すなわち、敵の狙いが中島にあるということに。そしてそのためには手段を選ばないだろうということに。このこともあり、事件の幕引きはしたものの、なかなか消化不良な結末となった今巻。実際に中島が収容されている「センター」にも何か不穏な存在がいるということが判明する中、真の黒幕はいったい誰なのかが気になって仕方ない。


◇前巻→「ZERO 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」「ONE 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」

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