phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


期末テスト明けで久々にバイトにやってきた杏が見たのは、「SOLD」のカードが置かれた見覚えのないアンティークチェアだった。帳簿を調べたところ、店のルールに反し、取り置き期間が過ぎたままになっていることに気付いた杏は、確認のため工房へと向かうことに。そこで彼女が目にしたのは、古びた鉄道用の椅子と、それを眺めているヴィクトール以下職人たちの姿だった。なんでもこの椅子は、店にあった予約済のアンティークチェアと一緒に、職人仲間である星川から買い取った――というより押し付けられたのだという。そんな折、ヴィクトールたちを取材するため、望月という男性編集者が工房にやってくる。しかしその望月は、例の椅子、さらに店舗のアンティークチェアを目にした途端に血相を変え、逃げるように立ち去ってしまう。さらにその直後から、杏にはアンティークチェアに座る女の幽霊が見えるようになって……。

椅子が代か好きで人類が大の苦手な椅子職人・ヴィクトール(霊感ゼロ)と、彼の店で働く女子高生高田杏(霊感体質)が、店に持ち込まれたアンティークチェアにまつわるオカルトな事件を解き明かすシリーズ第2弾。今回は「小説Wings」102〜103号に掲載された表題作の他に、書き下ろし短編「彼と彼女のおいしい時間」が収録されている。

今回もヴィクトール以外にはばっちり見える幽霊騒動が発生。ふたつの椅子の出所と、取材に来た編集者・望月の豹変の理由といった「原因」がどのように展開されるのか、思いのほかもホラーすぎる怪奇現象も相まって、あっという間に読んでしまった。

そんな中でじわじわと進行しているのが杏とヴィクトールの関係性。今回、なにかと杏が怖い目に遭ってしまうのだが、それを(たまたまかもしれないが)毎回助けてくれるのはヴィクトール。しかしその時の態度が明らかに焦っている風にも見えるのは気のせいだろうか。そこに恋愛感情はなく、あくまでも彼女に降りかかる災難の、そのつらさを知っているからこそ、彼女を救おうとしているというような素振りを見せるヴィクトール。そして杏もまた、ほんの少し期待しつつも、ヴィクトールの反応から「そうではないのだろう」と思い込んでいる――または思い込もうとしている――のがなんとも。それは単に杏が自分にとってやさしく、話をちゃんと聞いてくれて、そばにいてもいいと思える関係だからなのか。それとも本人は否定しているけれど、その気持ちが「好き」に変わりつつあるのか。とはいえ、そのあたりの見極めがまだ難しい感じではあるので、今後のヴィクトールの行動には注目したいところ。


◇前巻→ 「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録1 欺けるダンテスカの恋」

基本的に「最新のものがほしい」とか「流行を追いたい」とかそういう欲求は(本以外では)持ち合わせていないはずなんですが、急にそういうスイッチが入るということは往々にしてあるもので、まあ何が言いたいかというと、スマホと財布を変えました。わりと唐突に、です(笑)。

まあどちらもわりと老朽化してたという面はあるんですが(スマホはそろそろ4年経つ上に1年ほど前に電池を取り換えたはずなのにもう1日もたなくなってるし、財布は傷だらけだった)、勢いに乗ってみたというところでしょうか。ある日の夜、急に「そうだ、スマホ機種変しよう」となり、さらにその手続き中に「ついでだから財布も買っちゃおう」と思い付き、速やかに実行してみたわけです。ちなみに機種変はメーカーのショップではなくオンラインで済ませました。ハイテクな世の中ですね。そのせいもあってか、毎日どこかから何かが私宛に届く(スマホやその周辺機器、財布、その他もろもろ)という状況になり、家の人に白い目で見られたのは秘密です(笑)。

手元に新しいものばかりがあるとなんとなくウキウキするもので、今回はそれがスマホと財布だったものだから、まあスマホをいじり倒すのは新旧関係ないっちゃないのですが、財布をやたら使いたくなるのにはある意味大変ですね。だって財布を出す=お金を使うということですから……カバンから財布を出すのが苦にならないというのはまったくもってダメですね。気を付けます(笑)。


*ここ1週間の購入本*
菅野文「薔薇王の葬列13」(プリンセスコミックス/秋田書店)
高尾滋「ミセス・マーメイド2」
山田南平「恋するMOON DOG 3」(以上、花とゆめコミックスSP/白泉社)
松浦だるま「いまかこ」(イブニングKC/講談社)
伊藤悠「オオカミライズ2」
伊藤悠「面影丸」
伊藤悠「歌屑 伊藤悠初期短編集」(以上、ヤングジャンプコミックスウルトラ/集英社)
永瀬さらさ「鬼恋語り」(集英社オレンジ文庫/集英社)
川上稔「GENESISシリーズ 境界線上のホライゾンNEXT BOX 序章編」(電撃の新文芸/KADOKAWA)
岩城裕明「事故物件7日間監視リポート」(角川ホラー文庫/KADOKAWA)
若竹七海「さよならの手口」(文春文庫/文藝春秋)
若竹七海「プレゼント」(中公文庫/中央公論新社)
若竹七海「暗い越流」(光文社文庫/光文社)


神戸で事務所を立ち上げるという葉二からのプロポーズを受け、大学卒業と共に神戸へ移り住むことを決めたまもり。双方の両親とも顔合わせを行い、葉二の引っ越しも終わり、次はまもりの就職活動が始まることに。しかし、ある会社の役員面接で婚約者のことを正直に告げたまもりは、あまりにも心無い対応をされてしまいショックを隠せない。しかもそれ以後、他の会社を受けてもなかなか内定をもらうまでに至らず……。

ベランダ菜園がきっかけで付き合い始めてはや3年(いつの間に!)。シリーズ8巻からは「神戸編」スタート!ということで、新生活を始めることになったふたりのその後が描かれていく。

葉二の方はデザイン事務所を立ち上げたばかりということで、忙しいのはまあわかっていたことだし、部下たちからも最初はいろいろと思われていたようだが(特に女性デザイナーの茜からは「いけすかないイケメン」的に思われていたりして・笑)、婚約者が絡むと面白いということが(主に勇魚のせいで)バレ始めると、あっさりウォッチ対象みたいになっているようなので、とりあえず問題なさげでなによりということでひとつ(笑)。

しかし問題なのはまもりの方。婚約についてはひと安心な流れだったのだが、就活の方では想像以上の暗雲が。確かに東京の大学にいるのに関西で就職しようとしていることや、婚約者がいるというようなことは、残念ながら現状の「就活」においてネックになるのだろうとは思っていたが、想像以上にダメージを受けてしまったまもりがなんとも可哀想。もちろん最終的にはなんとかなりはするのだが、理由は違えど就活で苦労したことのある身なので、他人事とは思えず胃が痛くなってきたりもして。

そんなこんなでとりあえず第1(結婚のお許し)および第2(就活)のハードルを切り抜けたまもり。あとは無事大学を卒業できるのか、そして今巻で危惧されていた「同棲が始まってもすれ違いになってしまうのでは問題」はどうなるのか、気になるところ。


◇前巻→「おいしいベランダ。返事は7日後のランチで聞かせて」

依頼人は死んだ (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋
2003-06-10

高校時代の友人・幸田カエデに招かれたイベントで葉村晶が出会ったのは、カエデの友人だという佐藤まどかだった。探偵業を営んでいる晶に、相談したいことがあるというまどか。なんでも昨夜、市役所から彼女あてに封書が届いたのだという。内容は市役所主催の健康診断の結果、まどかが卵巣ガンに罹っているという告知。しかし役所がいきなりガン告知の文書を送ってくるわけはなく、そもそもまどかはそのような健診を受けたこともなかった。おそらく単なる嫌がらせの可能性が高く、役所に問い合わせても解決しそうにない案件だったため、念のため名刺だけもらってその場は別れることにしたふたり。しかしその数日後、カエデからもたらされたのは、まどかが自殺したという知らせで……。(「依頼人は死んだ」)

「ハムラアキラ」のタイトルで現在ドラマ化もされている、「決して手加減をしない女探偵」あるいは「仕事はできるが不運すぎる女探偵」葉村晶を主人公に据えたミステリ短編シリーズ、第1弾。

3番目の姉に長らく付きまとわれた挙句殺されかけ、最終的には姉自身が自殺したことでようやく解放されたものの、「まっとうな生き方」がどうしてもできなくなっている主人公の葉村晶。そんな彼女のもとに持ち込まれることになる事件は、どれもこれも奇妙なものばかり。様々な人々から逆恨みされいちどきに嫌がらせを受け続ける女性の身辺警護。同居している友人・みのりの婚約者が自殺した本当の理由。真面目なOLが上司を突如刺した意味。早逝した画家の作品に秘められた、彼の妻の死の真相。……等々あるが、どの事件の真相もどこかトリッキーで、そしてなんともほろ苦い。「知らなくていいこともこの世にはある」とはよく言われるセリフだが、手加減なく事実を追求した結果、晶が暴き出すのは、そういったセリフがよく似合うような事実ばかり。あるいは晶だからこそそういった事件ばかりが舞い込んでくるのだろうか――まるで「類は友を呼ぶ」とでもいうような。

そんな中にあって、冒頭に置かれた「濃紺の悪魔」と、最後に置かれた書き下ろし短編「都合のいい地獄」はさらに毛色の変わった展開に。特に後者では晶本人が標的となり、ある人物に翻弄されることになる。その中で晶が向き合わざるを得なくなるのは、「手加減も妥協もなく、ただひたすら真実を追い求めてしまう」という自分の性質について。それは探偵という職業にぴったりな性質であろうが、「普通」の人間にそんなことは到底無理なのだという。そもそも探偵などという存在にものを頼む人間が「普通」ではないのだから、そんなものとまともに向き合っていれば、自分だって「普通」ではなくなってしまうという理屈はたしかにわかる。その「普通」ではないことを自覚した晶はいったいどこへ向かうのだろうか。どこか危なっかしい彼女から、どうにも目が離せない。

朽ちていった命:被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)
NHK「東海村臨界事故」取材班
新潮社
2006-09-28

まずはNHK「東海村臨界事故」取材班による「朽ちていった命−被曝治療83日間の記録−」。先日読んだ「ワン・モア・ヌーク」の巻末にあった既刊案内で気になったので探してみました。事故が起きたのは1999年ということなので、今から約20年前。核燃料の加工作業中、杜撰な作業工程により臨界事故が発生したということは今でも覚えていましたが、この時に作業員が大量被曝し、そのうちの2人が亡くなっていたということは覚えていませんでした。本書はこのうちのひとり、大内久さんが病院に搬送され、亡くなるまでの83日間の経過を追っていくルポ番組の書籍化となっています。

広島や長崎の原爆について多少なりとも学んでいるため、人体に対する放射線の危険性というのを少しはわかっているつもりでしたが、本書を読んで、その「わかっている」は、「ほとんどわかっていない」というのに近いものだと認識させられました。そのくらい、大内さんの身体に起きた変化は甚大にして不可逆的で、当時の最先端の医療技術をもってしても、太刀打ちすることができなかったということです。そしてこの「治療」という行為が、本人の命を損なっただけに留まらず、その家族、さらには治療にあたった医師や看護師たちにも大きな傷跡を残してしまうということに。

搬送された直後はまだ普通に会話ができていて、一時は「治るのではないか?」とまで思えた患者が、日に日に「人間ではなくなっていく」という状況――医師や看護師たちがそのようにとらえざるを得なくなるという現実。機械に繋がれ、身動きは取れず、タイトルの通り日に日に「朽ちて」いく身体。大内さんが苦痛に耐えかねて「おれはモルモットじゃない」と叫んだという一節が忘れられません。

担当医師が「海図のない航海」と述べたように、助かる見込みのなかった治療を最後まで続けたことに対し、どう考えるかは人それぞれだと思います。立場によって見方は変わってきますし、そこに是非を問うことはおそらくできないのだろうと思います。実際、これを読んでからずっと私も考え続けていますが、答えは出ません。放射線の恐ろしさを知るという点だけでなく、こういった意味でも読まれるべき1冊だと思いました。


次いでこちらはノンフィクションライターの門田隆将による「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」です。2011年3月11日に起きた東日本大震災――この時、福島第一原発で起きていた事故についてのルポルタージュですが、これを題材にした映画が間もなく公開されるということで、改めて現場では何が起きていたのかを知りたくて手に取ってみました。

東日本を襲った地震、そして大津波により、全電源を喪失してしまった原子力発電所。所長の吉田氏を中心とした職員たちが、原子炉の暴走をいかにして食い止めようとしていたかが克明に書かれています。驚くべきはその責任感で、地震の際にもともと勤務していた職員だけでなく、非番で家にいたベテラン職員たちが、混乱の中を原発に駆けつけ、事態の収拾に当たっていたのだそうです。しかし、事態はあまりにも深刻なうえ、東京からは本社だけでなく政治家からの横槍も入る。一番驚いたのは、この緊急時に当時の菅首相がわざわざヘリで現地に駆けつけていたということ。首相が来るとなるとなにかと融通を利かせなくてはならなくなるうえ、当の本人はキレて手が付けられないという状態。本人はのちに正当性を主張していたようですが、読んでいるこちらとしては首をかしげざるを得ませんでした。

本書を読んで改めて認識させられたのは、もしこの時、なにかひとつでも失敗していれば、日本が分断されていたかもしれないという可能性。最前線にいた職員の方々がどれほど大変な事態に当たっていたのかというのがよくわかりました。

もう過ぎてしまいましたが、先週の金曜日はいわゆるバレンタインデーでした。平日なので当日はもちろん仕事してたわけですが、うちの部署は8割がた女性なので、ここ数年、チョコを含めた雑菓子をみんなで渡し合ってるという状態。おかげで私の引き出しの中もお菓子だらけで、うかうか引き出しを開けられません(笑)。

それよりも少し前にニュース番組でバレンタイン商戦についての特集をしていたのですが、昨今では人にあげるよりも自分が食べるためのチョコをたくさん買う女性が増えているそうですね。インタビューを受けていたある女性は、職場や彼氏、家族用に買ったものの倍以上の量および金額を自分用に費やしているとのこと。それに触発された……のかどうかわかりませんが、気付いたら私も今年は大量に自分用のチョコを買ってしまってました。あれ、いつの間に……(笑)。

ということでここからは自分チョココレクション2020です(笑)。

20200215チョコ1

まずはモロゾフの「マドラー」という、ハイボールをイメージしたというチョコ。5個中4個にウイスキーが使用され、抹茶や苺が掛け合わされているようです。個人的には金色の紙で包装されている「エキストラミルク」の中に炭酸キャンディが入っているのにびっくりしました。パチパチしました(笑)。

20200215チョコ2

お次はル・シャトーのオレンジピールチョコ。文字通り、オレンジピールをチョコでコーティングしたものです。ほかにもレーズン、コーヒー豆、さらにはイチジクといった変わり種まで。円筒状のパッケージもカワイイです。

20200215チョコ3

そしてこちらは再びモロゾフで「ティーブレイク」。紅茶のティーバッグと見せかけて、中はちゃんとチョコレートです。そして紅茶味です。こちらもパッケージがカワイイですね。

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最後は自分で買ったのではなくもらい物です。メリーの「THE STYLE」。半分はウイスキーボンボン、のこり半分はカクテルイメージのチョコが入っています。ちゃんと何のカクテルかを箱に書いてくれているのは親切ですね。余談ですがボンボンを食べてたら中の液体が喉に一気に流れ込んでむせたのは私です。喉を灼くとはこういうことか……(笑)。


*ここ1週間の購入本*
wako「サチコと神ねこ様3」(フィールコミックス/祥伝社)
岩本ナオ「マロニエ王国の七人の騎士4」
田村由美「ミステリと言う勿れ6」(以上、フラワーコミックスα/小学館)
大須賀めぐみ「マチネとソワレ7」(少年サンデーコミックスSP/小学館)
灰原薬「応天の門12」(バンチコミックス/新潮社)
NHK東海村臨界事故取材班「朽ちていった命−被曝治療83日間の記録−」(新潮文庫/新潮社)
糸森環「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録2 カンパネルラの恋路の果てに」(ウィングス文庫/新書館)
竹岡葉月「おいしいベランダ。8番線ホームのベンチとサイダー」(富士見L文庫/KADOKAWA)
若竹七海「悪いうさぎ」(文春文庫/文藝春秋)
西條奈加「刑罰0号」(徳間文庫/徳間書店)
綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版)
今尾恵介「ゆかいな珍名踏切」(朝日新書/朝日新聞出版)
竹宮ゆゆこ「いいからしばらく黙ってろ!」(KADOKAWA)
「SFが読みたい!2020年版」(早川書房)

SFが読みたい! 2020年版
早川書房
2020-02-06

毎年恒例、ハヤカワの「SFが読みたい!」です。今年は国内SF30位中、読了12・積み2でした。まずまずの成績だと思います。あと今年の刊行予定、東京創元社から秋田禎信と雪乃紗衣の新作が出るとのことでたのしみ。講談社は野崎まどの「タイタン」……ってそれはそれとして「バビロン」は……?

ワン・モア・ヌーク (新潮文庫)
藤井 太洋
新潮社
2020-01-29

日本政府の要請で、東日本大震災における福島原発事故のレポートをまとめていたIAEAの技官・舘埜健也。そんな彼のもとに、CIAの調査員であるシアリー・リー・ナズが突然現れる。彼女が告げたのは、1年半前のシリアでの調査中にふたりを罠にかけ、爆殺しようとしたISISのテロリスト・イブラヒムが核爆弾の原料であるプルトニウムを日本に持ち込んだという知らせだった。一方そのころ、日本に入国したイブラヒムを、モデルでデザイナーの但馬樹が出迎えていた。――そして3月9日、但馬の企図通り、「原子爆弾の予告」と題された動画がアップロードされる。それは3月11日の0時、都内のある場所で原爆テロを起こすという宣言だった……。

「yom yom」vol.38〜46にて連載されたサスペンス長編の書籍化。2020年3月11日――まさに現在!――に予告された原爆テロと、それを阻止しようとする人々の奮闘が描かれてゆく。

日本人の但馬とウイグル出身のシェレペット、そしてテロリストであるイブラヒムたちが企てたのは、東京都内での原爆テロ。これを事前に察知したCIAのナズとIAEAの舘埜、そして別件でシェレペットを捜査していた公安部外事2課の早瀬と高嶺は、はからずも事件の最前線に立つこととなる。但馬がわざわざテロリストを日本に呼び寄せてまでテロを起こそうとした理由は、爆発予定日である「3.11」――東日本大震災と密接に繋がっていたが、その真意を見抜けていたのは舘埜たちと早瀬たちのみだったからだ。まさに最初から最後まで、舘埜たちや早瀬たち、イブラヒム、そして読者であるわたしも含め、但馬に翻弄され続けたといっていいこの物語は、彼女の独白でひとまずの幕を下ろす。自らの行為が確実に死刑に問われることをわかっていてもなお、彼女を動かしていたものはいったい何なのか――その「答え」はまさに現在、等しく目の前に横たわっている大きな問題に違いない。

おかんに誘われ、岡山シティミュージアムで開催されている蜷川実花の写真展に行ってきました。展示は4部構成で、1〜2部はおなじみ、色鮮やかな花の写真が満載の「桜」と「永遠の花」。この2か所は写真撮影OKでしたので撮ってみました。
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特に「桜」は部屋一面、壁も床もすべて桜だらけ。隣の部屋への入り口に張られた幕にも桜柄をプリントしてあるという念の入れようで、最初、その入り口があることにまったく気が付きませんでした(笑)。
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「永遠の花」では、桜を含めた様々な花の写真が展示されています。どれもこれも色鮮やかで、でもとっちらかった印象はなく、逆に調和がとれているという印象。

この次の部屋は各界の著名人の写真が並ぶ「Portraits of the Time」となっており、モノクロも含まれてはいますが、こちらも基本的にはわりと色味のきつい写真が並んでいます。こちらは植物写真とは異なり、「作られた色鮮やかさ」ではあるのでしょうが、これも花同様、印象としてのきつさはまったくありません。でも、目が離せないビビッドさ。

そして最後の部屋は、父親である蜷川幸雄の死の前後の日々を切り取った「うつくしい日々」。これまでとは一変して、やわらかくはかなげな光に満ちた写真ばかりです。静謐な空気そのものを切り取ったかのような光景に、こちらの胸もしんとなります。

個人的に、写真展に行くことはめったにない(というかこれが初めてかも?)のですが、現実の光景だからこそ、読み取れる情報は無数にあるはずなのに、ちゃんと写真家の「ねらい」のようなものが確実に届いてくるというのが不思議です。それこそが写真家の腕前であるということなのかもしれません。すごいなあ。


*ここ1週間の購入本*
伊井圭「啄木鳥探偵處」(創元推理文庫/東京創元社)
宮内悠介ほか「宮内悠介リクエスト!博奕のアンソロジー」(光文社文庫/光文社)
安田登「イナンナの冥界下り」(ミシマ社)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社
2020-01-30

小山内さんに誘われ、名古屋にできた新しいパティスリーへ向かった小鳩くん。彼が誘われた理由は、その店で出される「ティー&マカロンセット」でマカロンが3種類選べるのに対し、小山内さんが狙っている味が4種類であるためだった。首尾よく注文した小山内さんは手を洗いにトイレへ向かったため、小鳩くんが席でひとり待つことに。するとその瞬間、外の時計台から5時を告げる音楽が鳴り響く。驚いて外を見ていた小鳩くんに対し、トイレから戻ってきた小山内さんは首をかしげるのだった――なぜなら席に届けられた小山内さんの皿には、マカロンが4つ乗っていたのだから……。(「巴里マカロンの謎」)

つい謎解きにふけってしまう小鳩くんと、つい復讐に燃えてしまう小山内さんのふたりが、ふつうの高校生――「小市民」目指して互恵関係を結ぶも、なかなかうまくいかない《小市民》シリーズ、約11年ぶりとなる新刊は番外編となる短編集。シリーズ1〜2巻の間に位置するエピソードで、2016〜2019年に雑誌「ミステリーズ!」に発表された中短編3本に、書き下ろしとなる「花府シュークリームの謎」が収録されている。

注文していないマカロンが増えた謎を解く表題作から始まり、小山内さんが隠した謎のCDのありかを探る「紐育チーズケーキの謎」、新聞部にて激辛揚げパン(正確には「ベルリーナー・プファンクーヘン」)を食べてしまった人物を探す「伯林あげぱんの謎」、そして捏造された写真のために停学処分をくらった少女を助ける「花府シュークリームの謎」……と、タイトルを見ているだけでもなんだかお腹がすいてきそう(笑)な本作。起きている事件もライトだったりそこそこヘビーだったりとバラエティに富んでいるのだが、相変わらずこのふたりは小市民になりきれていなかったりする。

特に「花府〜」での小山内さんの行動は苛烈のひとことで、たとえ本人が嫌がることが分かっていても、目的を果たすために、利用できるものは容赦なく利用していく。そして小鳩くんもそれを止めることなく見守っているし、自分もそれに乗じて推理を進めていく。なんだかんだ言ってこのふたり、あまりにも自分に正直すぎて、結局のところ「小市民」になる気はなさそうだなあ……という流れが面白かった。


◇前巻→「秋季限定栗きんとん事件(下)」


茶州での采配の責任を問われ、官位を剥奪され謹慎処分を言い渡された秀麗。それでも官吏としてできることを、と街の人々の悩み相談などを受け付けているうちに、幼馴染である慶張の父親が贋作をつかまされたことを知った秀麗は、調査のために街へと出向くことに。そんな彼女の前に現れたのは、見知らぬ青年貴族・蘇芳。彼はいきなり秀麗に求婚してくるのだが、その言い方も内容もとんちんかんで……。

高官への大抜擢から一転、無位無官となった主人公が新たな騒動に巻き込まれる、中華風シリーズ第9弾。今回は本編に加え、秀麗や影月を「心の友」と呼んではばからない藍龍蓮の実態が垣間見える短編「王都上陸!龍蓮台風」が併録されている。

本人は割り切って、あるいは納得ずくで振舞っているようではあるが、周囲――特に彼女の頑張りを知っていた近所の子供だとか、あるいは父親の命令で秀麗に告白し、図らずも街で起きていた贋作騒動に巻き込まれてしまった貴族の青年・蘇芳からしてみれば、彼女が朝廷によって都合良く使われ、そしてすべての責任を押し付けられ使い捨てられたようにしか見えず、そしてその見方は秀麗本人にも突き付けられることとなる。それでも彼女は、何の権限がなくとも、困っている人々のために奔走する。それは茶州での事件のこともあるだろうし、彼女が葉医師から宣告されたという「あること」――結婚だけでなく、あらゆる未来を断念せざるを得ないような「事情」――のせいもあるだろう。だとしても、すべてを受け入れ、あくまでも「官吏」であること全うしようとする秀麗の姿が何とも眩しい。

しかし一方、朝廷内でも改めてきな臭い動きが見え隠れ。特に気になるのは門下省長官である旺季なる人物。王家と七家の特権を疑問視し、しかし自身も七家の傍流とはいえど貴族であり優遇される存在であることを当然視し、どころか平民との身分差の存在を(あまりよくない意味で)肯定するような発言も見える上、今巻ラストでは無位無官である「冗官」(もちろん秀麗も含まれる)の処分を進言するなど、今後の台風の目となりそうな予感。秀麗も、そして劉輝たちも、今度は朝廷内の勢力争いに大いに巻き込まれていきそうでなんとも心配になってくる。


◇前巻→「彩雲国物語 八、光降る碧の大地」

2月です。逃げる2月です。しかし今年はうるう年なので1日多いんですね。そして今年から天皇誕生日が2月になりました。まあ私にはあまり関係ないんですが(祝日は仕事休みにならないので)。

さておき。2月のイベントといえば節分、そしてバレンタイン。ということで今日、お誘いを受けたので天満屋のバレンタイン催事に行ってきました。午前中だったので比較的人は少なかったはずですが、それでもショップによっては人だかりが。しかしいつものことながら、こうしてフロアいっぱいにいろんなチョコレートが所狭しと並んでいるのを見ると、もう目移りしすぎて自分が何を買いに来たのかわからなくなってきますね(チョコレートです)。

普段は聞いたこともないようなメーカーだったり、有名パティスリーの限定チョコだったりと、とにかくいろんなものが並んでいるので、あげるチョコはともかくとして、自分用にはなにか珍しいものや、こういうときじゃないと手を出せないお高いものなどを買うべきかなーと悩んだりもしたのですが、やはりそこは自分が食べたいものにすべきだと思い直し、ゴンチャロフの「リーフティーガーデン」という、お茶をテーマにしたチョコレートを買ってみました。

20200202チョコ

そしてもう開けたっていうね。

しかしこんな片田舎のデパートでさえ目を回してる私ですので、東京や大阪など、都会のデパートなんかに行った日にはもう何も買えなさそうな気がしますね……都会の女性たち、恐るべし(笑)。


*ここ1週間の購入本*
野々村朔「おとなりコンプレックス4」(クロフネコミックス/リブレ)
ぱんだにあ「ねこむかしばなし」(KADOKAWA)
石持浅海「殺し屋、やってます。」
若竹七海「依頼人は死んだ」(以上、文春文庫/文藝春秋)
米澤穂信「巴里マカロンの謎」(創元推理文庫/東京創元社)
藤井太洋「ワン・モア・ヌーク」(新潮文庫/新潮社)
門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫/KADOKAWA)
大塚明夫「声優魂」(星海社新書/星海社)


唯一の血縁者である叔母・キャロルが結婚するという知らせを受けたジョー。しかも結婚のタイミングで、相手であるヘンリー・バスカヴィルがデヴォン州アルスター一帯を治めていた領主の跡継ぎであることが発覚し、彼女は男爵夫人になるのだという。結婚式のために単身アルスターを訪れたジョーだったが、そんな彼女を出迎えたのは、以前の幸せオーラ全開な姿から一転して、どこか元気のない様子のキャロルだった。なんでもヘンリーの結婚およびバスカヴィル家当主就任を歓迎していないという文面の手紙が届いたのだという。しかもヘンリーが継ぐことになったバスカヴィル家には、オカルトめいた伝説や儀式が存在しているらしく……。

男女逆転&現代版ホームズ・パスティーシュシリーズ、久々の第2弾。2019年に雑誌「ミステリマガジン」に連載された表題作と、同誌に2010年に発表された短編「ミシェール・ホームズとハロッズの段ボール箱」の2作が収録されている。

シャーリーはその職務、そしてなにより体調のこともあってロンドンを離れられないため、ひとりでアルスターへと向かうジョー。となると、今巻でのシャーリーは本格的に「安楽椅子探偵」としての活躍になってしまうのか……と思ったら、中盤でジョーを助けるためにシャーリーがやって来るのだから驚くやら嬉しいやら。常日頃から「自分には心がない」とのたまうシャーリーだが、なんだかんだ言ってジョーのことが心配なんだな、と思わず頬が緩んでしまう。そしてシャーリーの電脳探偵ぶりはロンドンを離れても精彩を欠くことはなく、どんどん事件の真相に近付いていくその手腕の鮮やかさには目を瞠るばかり。ジョーのシャーリーに対する評価も好意もうなぎのぼりなわけだが、その行為をあっさりといなすのもまたシャーリーらしい。それが本心からきているのかどうかはさておいて。

そんな中、またしても謎が深まるのはシャーリーではなくジョーのこと。前巻ではさらっと、アフガン時代にテロリストに拉致され、半年後にひとり生還したことや、テロ組織の頭領の愛人だったこと、そして軍医であることとは別にして人を殺しているらしい、ということが明かされていたが、今巻ではさらに、アフガン時代以前の彼女の生い立ちらしきものが示されている部分がある。おそらく人を殺すための方法を幼い頃から仕込まれていたと思しき彼女の正体は、いったい何なのだろうか。そしてシャーリーはそれを知ってもなお、彼女を「信頼」しているようだが、その真意はいったい。


◇前巻→「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」


探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」に、志田と名乗る依頼人がやってくる。いわく、DIYが趣味の友人・石住が離れで殺されているのを発見したが、出入口はひとつのみ、窓は嵌め殺しで開かない、しかし壁に内側から大きな穴が開けられていたのだ、と。室内にはペンキが撒かれてもいたという。現場を見た倒理と氷雨は、被害者の家族――妻と娘、弟と甥の4人の中にいると断定するが……。(「穴の開いた密室」)

不可能な謎専門の御殿場倒理と、不可解な謎専門の片無氷雨のふたりが営む探偵事務所「ロッキンオン・ノックドドア」を舞台とするミステリ連作集、第2弾。2017〜2019年に発表された作品4本に加え、特設サイトに掲載された「最も間抜けな溺死体」およびその続編となる書き下ろし「ドアの鍵を開けるとき」の全6本が収録されている。

謎の大穴が開いた密室での殺人事件に始まり、様々な不可能、あるいは不可解な事件がふたりの前に立ち現れる。彼らがお互いに意見(皮肉や憎まれ口も含む)を交換し合い、まるで「ふたりでひとり」とでもいうかのように補い合いながら事件を解決していく流れは相変わらずあざやか。中にはふたりの大学時代のゼミ仲間であり、現在はエリート女刑事である穿地決(クールビューティ、しかし駄菓子大好き)がメインのエピソードもあるのだが、そこでもちらっと出てくるふたりの息の合ったコンビネーションがなんとも微笑ましい。

しかし書き下ろしのエピソードでは、倒理と氷雨、そして穿地の前に、ゼミ仲間の最後のひとりである糸切美影が現れる。彼は「チープ・トリック」と名乗り、これまで3人が関わることになった事件のいくつかの裏で糸を引いていた存在。そんな美影を交えた4人の大学時代のこと、ひいては倒理が被害者となった事件の顛末が描かれていくことになる。いつか過去編(厳密には倒理と氷雨がなぜふたりで探偵をすることになったか)が出てくるだろうし、ぜひ読みたいとは思っていたが、まさかそんなことが起きていたとは思っても見なかったし、数年の時を経て明かされた真相にも驚くしかなかった。

しかしそんなことがあっても――もちろん当事者である彼らは、口には出していないものの、その真相は知っていたはずなのに――、ふたりはそれでも一緒に探偵業を営むことを決めて、ここまで来た。当時起きた出来事がふたりの関係に何ら影響を及ぼさなかったのは――あるいはその関係をより強固にしたのは、相手への信頼があったからなのだろう。あるいはそういうメンタリティの持ち主だからこそ、探偵という仕事を選んでいるのかもしれない。いずれにせよ4人の間で長らく謎だったことが謎ではなくなってしまった今、彼らの関係はどう変化するのか、あるいはしないのか。続編があれば、ぜひそのあたりにも注目したい。


◇前巻→「ノッキンオン・ロックドドア」

普段あまり「コールセンター」とか「カスタマーセンター」みたいなところに縁がない私ですが、今週はなぜかそういうところに立て続けに関わることがありました。電話がかかってきたのと、こちらからかけたのと2件あったのですが、どちらもオペレーターの方が懇切丁寧に説明・対応してくれて、起きた(あるいは起きかけていた)トラブルは事なきを得ましたのでひと安心です。

しかし、特に前者についてですが、こちらがまだ何もしていないし言ってもいないのに、ちゃんと情報を管理・確認して事前に連絡をくれるってのにはすごいなあと。まあそれが仕事だろうし、利用料にそういうのも含まれてる(はず)と言われたらそれまでですが、それはそれとして感謝の気持ちは忘れないようにしないとね、という話でした。世の中にはこういう人に延々といわれのない苦情を申し立てたり無理難題を押し付けたりする「カスハラ」なるものがあるらしいですが、こんなにちゃんとしてくれてる方になぜそんなことができるのか、理解に苦しみますね。いっそのこと、社会人になる前に、社会人としての研修という名目で、一定期間は接客業に従事することを義務化したら減るんじゃないかしらん(笑)。


*ここ1週間の購入本*
平方イコルスン「スペシャル3」(トーチコミックス/リイド社)
よしむらかな「ムルシエラゴ16」(ヤングガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
斜線堂有紀「詐欺師は天使の顔をして」(講談社タイガ/講談社)
雪乃紗衣「彩雲国物語 九、紅梅は夜に香る」(角川文庫/KADOKAWA)
辻山良雄「本屋、はじめました 増補版」(ちくま文庫/筑摩書房)
三浦竜「日本史をつくった刀剣50」(KAWADE夢文庫/河出書房新書)
高殿円「シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗」(早川書房)

スペシャル 3 (torch comics)
平方イコルスン
リイド社
2019-12-11

既刊の奥付を見ながら「2巻発売から1年以上経っているのでもしや……」と思って調べたら、なんと先月半ばに新刊が出てたみたいです「スペシャル」。一応毎月、翌月の新刊一覧をさらってはいるんですが、見落としていたのか……不覚……!なお、今巻ではなんだか話が深刻な方面に動き始めた模様。伊賀さん、大変なことに。

憤死 (河出文庫)
綿矢 りさ
河出書房新社
2015-03-06

小学生の頃の友人・佳穂が自殺未遂をしたと聞き、興味本位で見舞いに行った「私」。自宅のバルコニーから衝動的に飛び降りたという彼女は、しかし足首の骨を折っただけで命に別状はないという。あっけらかんとしている佳穂を見ながら、「私」は彼女との関係を思い出していた。小学生の頃、佳穂はまるで「女版の太ったスネ夫」という感じの少女だった。金持ちの娘で、自慢しいで、選民意識が高く、しかし本物のスネ夫とは異なり、気前のいい部分もあったため、嫌われるというほどではないが、何かくれるわけでもない限りは近付きたくないと、そんな風に思われているようだった。小柄で強度の近眼持ち、そして弁は立つが実力が伴わないために周囲から好かれていなかった「私」は、必然的に佳穂と一緒に行動するしかなかったのだった……。(「憤死」)

2011〜2012年にかけて文芸誌等に掲載された作品4本を収録した短編集。

現実かどうか定かではない《こどものころの夢》を淡々と語る「おとな」を始めとして、どことなく不穏な物語ばかり収められている本作。中でも個人的に気に入った表題作の「憤死」は、かつての「親友」に対するねじくれた好意がこれでもかというくらいに描き出されている。

嫌われ者同士だった「私」と佳穂は、ひとりであることがこの上なく不名誉とされる小学生時代において、その不名誉を回避すべく「親友」として結びつき、振る舞うことになる。本作は「私」の視点から描かれているので、佳穂の方が主人公をどう思っていたのかは定かではないが、「私」の方は佳穂のことを完全にネタというか、ウォッチング対象としてしか見ていなかった。表向きではふたりの関係は佳穂が上で「私」は下なのだが、「私」の中で佳穂は見下すべき対象であり、その過剰すぎる自意識を常に嘲笑していたのが見て取れる。しかし同時に、自分にはとうてい理解できないそのメンタリティに憧れ、ある種の理想とみなしている部分もまた、「私」の中には確かに存在している。ケーキの苺を一番に食べるのもそうだし、自殺未遂に至った理由もそう。

お見舞いに持ってきたケーキを差し出すと、かつてのように苺から真っ先に食べる佳穂を見て、「私」が「お姫さま、死ななくてよかった。人には嫌われるかもしれませんが、いつまでも天真爛漫でいてください」と思うシーンで物語は終わる。いつまでも純度の高い、怖いもの知らずの「こどもらしさ」を持ち合わせている佳穂という存在が、ただの奇矯な女ではなく、どこか純粋な存在に見えてくるから不思議だ。そうなりたいというわけではもちろんないが、「こども」という存在の不可思議さを――かつて自分もそうであったにも関わらず――思い知らされるような、そんな作品集だった。

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