phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

我輩さまと私 (アイリスNEO)
雪之
一迅社
2017-05-02

魔力を持つ子供が集められる「魔導学園」こと国立魔力指導学園では、それぞれが持つ能力の属性によって色分けされたクラスに所属することになっている。その中でも最下位である無色のクラスに属する音無弥代子は、ある日廊下に黒い毛皮的なものが落ちているのを発見する。それは最高位である黒のクラスの級長の魔獣(の抜け殻?)だった。弥代子は魔獣を持ち主である黒の級長に返しに行くが、黒の級長は魔獣の正体が弥代子にバレたこと、そしてその魔獣が弥代子になついたことを理由に、彼女を自分の補助役に任命。しぶしぶではあるが従うことになった弥代子は、名も知らない黒の級長を「我輩さま」と呼びながら、彼の手伝いをすることに。しかしそんな弥代子の立場を妬む人々や、他の属性の級長たちから目を付けられる羽目になり……。

第5回アイリス恋愛ファンタジー大賞・銀賞受賞作。学園のトップである「我輩さま」こと黒峰十夜と、そんな彼に目を付けられてしまった平凡な女子生徒・音無弥代子の微妙な関係を描くじれじれ学園ラブストーリー。

能力的にも家柄的にもとにかく上から目線な「我輩さま」と、彼に振り回される弥代子の日々が綴られていく本作。立場の違いのせいもあって問題が起きることも多々あれど、そんな問題そのものがふたりの距離を縮めていく。しかもお互いに惹かれ合っているにも関わらず、揃いも揃って色恋沙汰とは無縁の人生を送ってきたふたりなので、相手への想いをなかなか自覚できないというか理解自体できないというどうしようもない距離感にはなんともむずむずさせられる。だがそこがいい。

そんなふたりの恋路を邪魔するのは、名家である黒峰家とその周辺の人々。そこに弥代子自身の性格が拍車をかけてゆく。生い立ちのせいもあって、とにかく何か起きたら自分の感覚をシャットアウトしてやり過ごすという処世術が染みついてしまっている弥代子。それゆえ、肉体的なダメージを受けてもそうやってやり過ごし、第三者から危害を加えられることに対してはひたすら諦めようとする。そんな弥代子の自己犠牲ぶりは、我輩さまでなくとも見ていてつらいものがある。けれどそんな彼女の性格を解放してくれるのは我輩さまだろうし、逆にその立場ゆえに孤独を囲っていた我輩さまを変えたのは弥代子の存在があったからこそ。それぞれ内にこもっていたふたりが、手を取り合って世界を広げてゆく結末がとてもよかった。


空自の音楽隊では、年に1度の競技会が行われる。外部からも審査員を招き、演奏技術の向上を磨くことが主な目的である。今回は木管楽器と打楽器の競技会が開催され、サックス担当の佳音だけでなく、パーカッション担当の真弓も参加していた。しかし直前からガチガチに緊張していた真弓は、ステージでも派手に転び、その後の演奏もさんざん。さらに戻ってきた真弓は、佳音たちにある相談をする。それは審査員のひとりが偽者ではないかという疑惑だった。一方、転属先の沖縄から、競技会参加のために立川に戻ってきていた渡会。彼は佳音に勝負を挑み、この競技会で自分が勝ったら、話があるから聞いてほしい、と宣言する。「話」の内容に心当たりがなく、首を傾げる佳音だったが、自分の出番の直前に、渡会が佳音に告白するつもりだと話しているのを聞いてしまい……。(「サクソフォン協奏曲」)

「小説宝石」に2016年に発表された4作を含む、航空自衛隊の音楽隊を舞台にしたライトミステリ連作集、第3弾。

今巻ではついに佳音と渡会の関係に決着が!ということで、冒頭のエピソード「サクソフォン協奏曲」で告白されてから、4件の事件・エピソードを通じ、佳音が答えを出すまでが描かれてゆく。ちなみに告白してきたのは渡会だけではなく、明るく爽やかな後輩の松尾までも便乗告白してきたものだからさあ大変。しかも周囲がやきもきする中、佳音の鈍感力は最後の最後まで炸裂。これまで色恋沙汰に縁がなかったうえ、渡会とは長年の付き合いで気心が知れすぎているせいで、逆に「好き」とか「付き合う」ということの意味が分からず、また渡会との関係にそれらをあてはめることが全くできないという、重症を通り越してどこから手をつけていいのかわからない状態に陥ってしまうのだ。

そんな佳音の戸惑いをよそに、今回も奇妙な事件が連発。真弓が出会った音楽家の秘密、とある漫画家に付きまとう「守ってくれるストーカー」の正体、演奏会のために向かった旅館での幽霊騒ぎ、そして最後は沖縄基地での佳音ストーカー疑惑。これらを佳音や美樹、狩野夫人といった音楽隊の面々が解決してゆくのだが、その中でやはり佳音が意識するのは渡会と松尾の存在。幽霊騒ぎのエピソードで松尾との距離が縮まりかけたかと思いきや、沖縄でのストーカー事件で佳音が気付かされたのは、自分にとって渡会の存在がどれほど大きいかということ。オチには驚かされたが(まさかの展開・笑)、落ち着くところに落ち着いてくれてひと安心といったところ。できれば両想いになったふたりのその後も見てみたいと思った。


◇前巻→「群青のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート2」

カカノムモノ (新潮文庫nex)
浅葉 なつ
新潮社
2017-04-28

大手食品会社に勤めている坂口麻美は、新規プロジェクトにマネージャーとして抜擢され、多忙を極めていた。しかし有能すぎるあまりこちらを舐めてかかる部下、可愛さを武器に男性社員に媚びてばかりの後輩、結婚したいと言いつつ大型プロジェクトを成功させ上司の覚えもめでたい同僚、週末に子守を頼んでくる妹……そんな多くのストレスを抱えるうえ、最近では何者かに追われる悪夢も見るようになり、疲れがとれない日々が続いていた麻美。そんなある日、重要な会議の日程が麻美にのみ連絡されておらず、代わりに部下が出席していたことを知らされる。上司からは部下の管理ができていないことも責められ、追い詰められる麻美。そんな彼女の前に現れたのは、仕事帰りに時折立ち寄っていたアクアショップの美しい店員・浪崎碧。彼は麻美に対し、「それはあなたの罪です」と告げ……。

「yomyom」に掲載された3本に書き下ろし1本を加えた、「カカノムモノ」という宿命を背負わされた青年が主人公の連作集。

ヒトが抱える負の感情が凝り固まってできた濁り「大禍津日神」を喰らい、浄化するのが「加加呑ム者(カカノムモノ)」という存在――海府の女神が、人間に憧れた魚に与えた呪いの成れの果て。当代の「カカノムモノ」である碧は、そのせいもあってかどこか浮世離れした青年で、自らの身を蝕む呪い――定期的に「大禍津日神」を喰らわなければ魚になってしまう――から逃れるため、街中をさまよっては「大禍津日神」を抱える人を探し続けるという、なんとも悲しい存在だった。

「大禍津日神」を抱えているということは、強い負の感情を持っているということ。そのため、碧は否応なしに、剥き出しの醜い感情を直視しなければならない。それはどう考えても愉快なことではないし、できることならそんなふうに人と関わりたくはないはず。感情をなくしたような彼の淡々とした性格や言動は、自分の心を守る鎧なのかもしれない。だとしたら、「大禍津日神」をその身に生じさせながらも抑え込んでいるというカメラマン・桐島の存在は、碧にとってはどんなものなのだろう。1年前に桐島に何があったのか、そしてなぜ碧はこれを喰らわず、どころか桐島を協力者として扱っているのか。いろいろと謎は尽きない。

記憶屋II (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店
2016-05-25


記憶屋III (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店
2016-06-18

中学生の頃、周囲の友人たちと時同じくして記憶を失うという奇妙な体験をしたことのある女子高生・夏生。そんな彼女の前に現れたのは、新聞記者を名乗る猪瀬という男だった。彼はずいぶん前から「記憶屋」という都市伝説的存在を追っており、その中で夏生たちの体験について知ったのだという。何年も消息を絶っていたはずの「記憶屋」が、4年前に夏生たちの前に現れたということは、夏生の周辺に「記憶屋」がいるのでは――と彼は考えているのだ。そしてその最有力候補が、夏生の親友である芽衣子だということも。芽衣子の潔白を信じたい夏生は、猪瀬の取材に協力することになってしまう。かくして夏生は猪瀬と共に、「記憶屋」に会い、記憶を消された形跡のあるふたりの人物――女子大生で読者モデルのリナと、イケメンシェフの毬谷に接触するが……。

記憶を消してくれるという都市伝説「記憶屋」をめぐる切ない青春ホラーシリーズ、前後編形式となる2〜3巻。

今巻の主人公・夏生は中学生の頃に「記憶屋」に記憶を消されたとおぼしき女子高生。知人の記憶を消した「記憶屋」を追う記者・猪瀬に目を付けられた夏生は、いつの間にか一緒に「記憶屋」を追うという展開に。もちろん自分が当事者であることこそ第一の理由ではあるが、それ以上に夏生には猪瀬の手伝いをする動機が存在した――夏生がごく最近にもネット上で「記憶屋」に呼びかけ、何らかの理由で記憶を消してもらっていたこと、そしてなにより猪瀬が「記憶屋」として親友の芽衣子を疑っていること。特に前者についてはそれこそ自分の記憶がないがために、なぜそんなことをしたのかという理由がわからず、またなにより夏生が「記憶屋」に接触していた――つまり「記憶屋」が存在することを自分で立証していたという事実がなんとも怖い。しかし夏生はいったい何を忘れたかったのか。

そうして夏生が「記憶屋」という存在に対し苦悩する一方、同じく「記憶屋」を探し、接触したという人物がふたり登場する。ふたりとも忘れてしまいたい記憶があるということは共通しているのだが、それは記憶を消すことでした乗り越えられないことなのかどうか、と猪瀬は考える。ひいては、たとえ当人の希望であったとしても、「記憶屋」が自分のものではない「記憶」を消してしまっていいのかということを。猪瀬はあくまでも「記憶屋」の行動に反対の立場をとっているが、記憶を消された側である夏生は、改めて苦悩する。忘れなくても乗り越えられることは確かにある。けれどその是非を決められるのは自分しかいない。しかしそうやって簡単な方法に流れてもいいのか。いろいろと人によって考え方は違うし、正しい答えが存在するものでもない。しかしそんな問いを「記憶屋」は真っ向から受け止め――そして受け入れている。あるいは、諦めている。最後に明かされた「記憶屋」の正体にはもちろんびっくりさせられたが、しかしいずれにせよ、「記憶屋」は最後までひとりぼっちなのだと、そんな事実が改めて突き付けられるラストには胸を締め付けられるような思いがした。


◇前巻→「記憶屋」

夏ですね(早……くはないか。立夏は過ぎてるし)。しかしここ数日、急に暑くなったような気がします。一昨日くらいから職場でもクーラー入り始めたし、うちでも今日、ついに扇風機を出しました。いやまあほとんどの部屋では必要ないんですが、私の部屋が2階の角部屋なんで、扇風機がないと生きていけない温度になりつつあるんですよね、もう。おかげで快適です。今もこれ打ちながら扇風機の風に吹かれてますがなにか。

でまあそんな季節なんで、職場のおやつとしてチョコレートを持っていけない今日この頃(溶けるから)。この冬、明治の「The Chocolate」にハマって日々貪り食ってたわたくしですが、もうそれもできないのね……と一抹の寂しさを感じております。しかも最近、コンフォートビターを見ないな〜と思って調べたら生産休止になってるしっ!

どうやら売れすぎて原材料が確保できなくなったため、とのことですが、最近ビターのおいしさに気付き始めた矢先だっただけに、ショックもひとしおです。今後はミルクとジャンドゥーヤを交互に食べることにします……家で。


*ここ1週間の購入本*
pako「スカアレッド1」
藤崎竜「銀河英雄伝説6」(以上、ヤングジャンプコミックス/集英社)
三輪士郎「RWBY」(ヤングジャンプコミックス・ウルトラ/集英社)
大井昌和「すこしふしぎな小松さん」(ヤングアニマルコミックス/白泉社)
朝前みちる「男装王女の波瀾なる輿入れ」(ビーズログ文庫/KADOKAWA)
犬村小六「やがて恋するヴィヴィ・レイン3」(ガガガ文庫/小学館)
白川紺子「契約結婚はじめました。〜椿屋敷の偽夫婦〜」(集英社オレンジ文庫/集英社)
井上真偽「探偵が早すぎる(上)」(講談社タイガ/講談社)
神林長平「だれの息子でもない」(講談社文庫/講談社)
森谷明子「春や春」(光文社文庫/光文社)
結城充考「捜査一課殺人班イルマ ファイアスターター」(祥伝社)


2浪中の予備校生・長島の前に現れたのは、高校時代に少し気になっていたクラスメイト・広崎ひかり――ではなく、彼女にそっくりな自称「新型爆弾」のピカリだった。ピカリの胸元には懐中時計のようなものが埋め込まれており、ピカリが青春的なときめきを感じるたびに時間が進み、12時を指すと爆発を起こすのだという。そして爆発を起こすために協力してほしいと、ピカリは長島をデートに連れ出すのだが……。(「ある日、爆弾がおちてきて」)

2005年に電撃文庫から刊行されたボーイ・ミーツ・ガールSF短編集の新装版。書き下ろし「サイクロトロン回廊」が新たに収録されている。

ドラマ化もされた表題作をはじめ、書き下ろし以外の7作は、普通の少年がすこしフシギな少女たちと出会う時間SFものとなっている(書き下ろしのみ主人公が少年ではなくおっさんだったりする)。個人的に気に入っているのは、記憶が退行する奇病に罹った幼馴染の少女を描くコメディチックな「おおきくなあれ」、毎日3時間目にのみ教室の窓ガラスに映る少女との交流を描く「三時間目のまどか」、そして過去の戦争で使用された時空潮汐爆弾により、60億分の1の速さで流れる時間の中に取り残された少女のエピソード「むかし、爆弾がおちてきて」の3作。これ以外もそうだが、コメディだったりホラーテイストだったり純愛ものだったり、時間SFという縛りはあるものの、いろいろと作風が幅広いのも楽しい。また、改めて読んでみても、10年以上前の作品とは思えない内容には、単純にすごいと思った。

ちなみに書き下ろしの「サイクロトロン回廊」は、亡き伯父が住んでいたボロ家を管理することになったフリーライターが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見ている最中に、時空を超えて現れた親戚のタミコ姉ちゃん(失踪中の伯父さんの娘!)に遭遇するというまさかの展開。失踪の原因がこの時空転移なのかも、という展開には、(実際笑い事ではないが)つい笑ってしまった。

記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店
2015-10-24

呑み会で出会った先輩・杏子に一目惚れした大学生の遼一。彼女が夜道恐怖症で心療内科に通うほどだということを知った遼一は、これを克服させるために協力を申し出る。しかし何度一緒に夜道を歩いても改善される兆しはないのだった。そんなある時、杏子の口から「記憶屋」という都市伝説的な存在について聞かされた遼一。「記憶屋」は本人が望む記憶を消してくれるのだという。杏子から「記憶屋」を本気で探していること、そして遼一が一緒だとしても夜道が怖いことに変わりないということを聞かされ、遼一はショックを隠せない。しかもその直後、杏子とぱったり連絡が取れなくなってしまう。何日も経ってようやく杏子と再会した遼一だったが、なぜか彼女はあれだけ怖がっていた夜道をひとりで歩いており、なおかつ驚いて声をかけた遼一の存在自体をすっかり忘れてしまっているようで……。

第22回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作の切ない青春ホラーシリーズ第1弾。

物語の軸となるのは、都市伝説だと思われていた「記憶屋」の存在。遼一は先輩である杏子が一部の記憶を失っていることに気付き、その存在に確信を持つようになる。しかも後に明かされるのだが、遼一の周囲にはほかにも不自然に記憶を失った存在がいたのだ――それは年下の幼馴染・真希。そして遼一自身。

ネット上の都市伝説サイトや、同じく「記憶屋」について興味を持った弁護士・高原と共に、遼一は「記憶屋」に接触を試みる。やがて仲間たちが「記憶屋」に関する記憶を失っていたり、また遼一自身も記憶の欠落に気付いたりと、「記憶屋」なる謎の存在がひたひたと近付いてくる恐怖が描かれてゆく展開はさすがホラー小説といったところだが、一方でなんとも切ないエピソードがその間に挟まれてゆく――すなわち、高原弁護士が「記憶屋」を探していた本当の理由、そして「記憶屋」の正体と狙い。特に後者についてはとにかく物悲しい、の一言に尽きる。「記憶屋」は依頼された相手の記憶を消すだけではなく、自身の記憶も一緒に消してしまわねばならない。たとえ相手が自分に近しい人であっても。そうやってかの人は、ずっとひとりで、何度も誰かの記憶を消していったのだろう。そして消された記憶は「記憶屋」の中に降り積もってゆく。そこにはきっと、寂しさも一緒に積もってゆくのだろう。得体のしれない怪人ではなく、誰からも理解されない――理解してあげることのできないさみしいいきものとしての「記憶屋」という存在が浮き彫りになってゆく、そんな結末が印象的だった。


侯爵令嬢でありながら騎士道一直線、宰相である祖父の応援を受け、実力で女騎士としてのし上がり研鑽を積むクロエのもとに舞い込んだのは、国王アルセニオスとの婚約話だった。悪政を敷いていた前王を倒した元騎士団長にして現国王のアルセニオスだが、それゆえに国内の政情はまだ安定していない状態。周囲の思惑も相まって、普通の令嬢を王妃に据えるのは難しいと考えた宰相や側近が白羽の矢を立てたのが、家柄も申し分なく、また自分の身だけでなくアルセニオスも守ることのできるクロエだったのだ。当初は渋っていたクロエだったが、この婚約はかりそめのものであり、かつ婚約破棄の暁にはクロエに求婚してくる男性など現れないだろう――という言葉に即座に食いつき、婚約(仮)を承諾するのだった……。

ひきこもりシリーズ第7弾は、前巻の舞台となったルルディ国のその後。革命を起こし新王となった「魔王」アルセニオスと、そんな彼の婚約者(仮)となった女騎士・クロエの恋物語。

タイトルに「イノシシ令嬢」とある通り、これと決めたら猪突猛進な行動力の持ち主であるヒロインのクロエ。女だてらに騎士として祖父(宰相)の護衛を務めていたかと思えば、周囲の言葉にあっさりノセられ(これは将来的に誰かと結婚しなくてよくなる、という未来予想図につられてのことだが)、執務中のアルセニオスを守るためと言われたらメイド代わりに部屋の掃除を行い、刺客からアルセニオスを守るためという名目に納得して同じ部屋で眠ることを承諾し……と、素直なんだかうかつなんだかよくわからないが、とにかくどこまでもまっすぐに職務を全うしようとするクロエ。その素直さが眩しく映るのは、きっとアルセニオスも同じだったに違いない。危なっかしくて目が離せない、という意味も含まれているかもしれないが(笑)。

なのでそんなクロエがいつしかアルセニオスに惹かれ、戸惑い始めるという流れがなんとも可愛らしくて仕方ない。まあまさか悩み過ぎて知恵熱を出すとは思わなかったが(笑)。そしてそんなクロエに先んじて彼女に惹かれ始めていたアルセニオスの手際の良さ(主に外堀の埋め方)は鮮やかの一言に尽きる。いい夫婦になるという未来図しか見えない結末がとてもよかった。


◇前巻→「虚弱王女と口下手な薬師 告白が日課ですが、何か。」


王家専属の探偵――「王立探偵」であるシオンの仕事は、その名の通り王族からのあらゆる依頼を受け、解決してゆくこと。そんなシオンに対し、このたび王太子リジュールから下された任務は、マウダ伯爵という地方貴族の家に、血の涙を流し、さらにその涙がルビーに変わってしまう肖像画の真偽を確かめろというものだった。助手の少女・ラナを伴いマウダ伯爵家に向かったシオンを出迎えたのは、このたび事故死した当主の妻・サレーヌ。サレーヌがいうには、くだんの肖像画は数十年前に亡くなったマウダ家の令嬢・レジーヌのもの。――屋敷に迷い込んできたという紅い毛並みの獣を可愛がっていたレジーヌは、その数年後、獣と共に姿を消す。さらに数年経って発見された時にはすでに身ごもっており、まもなくして紅い髪と毛に覆われた異形の子を産み落としたレジーヌ。子は数年も経たずに亡くなったが、レジーヌはそのまま屋敷に幽閉され、ひっそりと亡くなったのだというが……。

王族の命でしか働かない「王立探偵」シオンの活躍(?)を描くファンタジー連作。

瞳の色と同じ紫ずくめの燕尾服に身を包み、はたから見るとインチキ魔術師にしか見えない風体の人物――それが主人公のシオン。ミニスカートドレスがお気に入りの助手・ラナと共に、王太子リジュールから与えられた任務を飄々とした態度で、あるいはふたりで夫婦漫才(?)を繰り広げつつも難なくこなしてゆく。もちろんリジュール以外からの依頼――例えばうっかり逃がした珍しい蝶を探したり、借金取りから証文を取り返したり――も受けるが、中でも特別なのが「過ちの魔物」が絡む事件を解決することだった。

かつて王族によって蒐集され、そして野に放たれたという、様々な人の「過ち」が具現化した存在が「過ちの魔物」。それらに取りつかれた人は、自らの過ちの記憶を呼び覚まし、当人を不幸に陥れる。それを回収することこそがシオンの役目なわけで、毎回奇妙な事件に遭遇しては、シオンが魔物と対峙し、封じるという展開になるのだが、やはり気になるのは「なぜシオンにそんなことができるのか」というこの1点に尽きる。魔物たちが食らいつくせないほどの「過ち」をその裡に秘めているらしいシオンはいったい何者なのか。その紫ずくめの衣装には何か意味があるのか。起きた事件は解決され、物語としてはきれいに閉じてゆくけれど、シオンに関する謎は今巻では解けないまま。言葉の端々に上るラナの素性についてもわからないことだらけで気になるので、ぜひ続編希望ということで。


お年頃の伯爵令嬢でありながら社交界に出ず、専ら魔法石の研究に没頭しているマリー・ブライディ。そんなマリーの前に、酔っぱらった父親が連れてきたのは、花婿候補だという青年・デューイだった。父親に説教の後、デューイを追い払おうとするマリーだったが、その姿を見ているうちにあることに気付いてしまう――なんとデューイはこのオムニア王国の王子だったのだ。驚きながらも引き続き拒絶するマリーだったが、デューイはまったく意に介さず、「異論は認めません」としてブライディ家に居座ってしまう。かくしてこの日から、デューイはあの手この手でマリーへのアプローチを始め……。

「若奥様、ときどき魔法使い。」と世界観を同じくする恋愛ファンタジー。クールで男性不信気味の令嬢・マリーと、そんな彼女に一目惚れしたという王子・デューイとの攻防が描かれてゆく。

「若奥様〜」は主人公・ローズが王国を支える「春荒れの魔女」として見出される物語だったが、本作はその「春荒れの魔女」に憧れ、しかしなれなかった少女・マリーが主人公。さらには昔、とある出来事が原因で恋心を砕かれてしまったという経験から、恋愛や結婚にまったく価値を見出せなくなってしまい、結果として魔法石の研究にのめりこんでしまっているという状態。しかしそんな彼女のかたくなな心を溶かしてゆくのが「押しかけ花婿」であるデューイ王子だった。

実は以前からマリーのことを知っているというデューイは、押し過ぎず引き過ぎずの絶妙なタイミングでマリーに接近し、ある時は小動物に変身して警戒心を緩め、ある時は友人にまでヤキモチを焼いてみせ……と、様々な表情を見せてゆく。その手際はあまりにも鮮やかすぎて、ともすれば「ストーカー……?」と言いたくなるようなアプローチもなくはないのだが、そこはイケメン王子という立場、そしてあまりにもさらっと行動してしまうので、これはマリーが惹かれてしまうのも無理からぬこと。これまで頑なになりすぎたせいでなかなか自分の恋心に素直になれないマリーが、葛藤も重ねながらも少しずつ自分の想いに向き合ってゆく流れ、そして認めたのちにふたりの関係が逆転してしまうという結末がなんとも微笑ましかった。

不死探偵事務所 (WINGS NOVEL)
縞田 理理
新書館
2017-03-28

「魔の法(セレマ)」の素質がなく、唯一の取柄である美貌を活かしたエスコート・サービス業で細々と食いつないでいたシモン・セラフィン。そんな彼が散々考えた末の転職先が、この魔都ホワイトヘヴンの裏社会を牛耳るスカンデュラ一家の殺し屋になることだった。そんなシモンにテストも兼ねて命じられた初任務は、もぐりの魔導師ながら高級住宅街に探偵事務所を開いているというアンブローズ・ネロを殺すことだった。組織から与えられた魔弾をネロに撃ち込むことに成功したシモンだったが、なぜかネロは血まみれになりながらも死ぬ気配はなく、どころか着られなくなったスーツの弁償をシモンに迫ってくる。かくして主に逆らうと首が締まる「奴隷首輪」を付けられ、ネロの従僕にされてしまったシモン。しかし翌日から彼に命じられたのは事務仕事で、さらに豪華な食事や給料まできっちり与えられ……。

「小説Wings」で2016年に発表された、顔だけがとりえの天然お人好し青年と、謎だらけの探偵という奇妙なコンビによるバディもの連作。

「魔の法」という能力が存在し、これによって職業選択にも影響が出たりする世界の中で、しかし主人公であるシモンはなぜかこれがまったく使えない。一方、不幸な事故(?)からシモンの主ということになったネロは最強レベルを通り越して測定不能という域に達する魔導師だという。しかも外見は20〜40歳という幅の広さだったり、しかして実年齢は100歳を越えている噂があるだとかで、同業者からは畏怖の象徴というかできる限り関わりたくないと考えられているような人物。そんな人物に特攻を仕掛けるシモンの世間知らずさとか軽さとかにはびっくりしたが、物語が進むにつれ、とにかく根がいいひとすぎるゆえの鉄砲玉気質なんだなあ、と納得させられた(笑)。

一方でネロの方はといえば、シモンが同居を始めてからというもの、その素性には謎は深まるばかり。冷酷そうな人物に見えたけど、シモンの面倒をしっかりみていたり、事件が起きれば(自分の都合があるにせよ)最終的には被害者に対して最も良い解決を導いたりと、実は悪い人ではないのでは……?という疑惑が浮上。しかもそんな態度や振る舞いも、天然シモンにかかれば「心根の優しい男だけどシャイだから表にそれを出せないだけ」という、言われる側としては悶絶必至の表現になってしまうものだからさあ大変(笑)。やがて明かされるネロの正体、そしてシモンにも隠されていた事実が発覚していろいろ驚きはしたけれど、最終的にはシモンフィルターのおかげでほのぼのとした読後感に落ち着いてしまうという、なかなか不思議な物語だった。

さあ明日から楽しい6連勤ですよ!しかも明日は1日立ち仕事ですよ!明後日からは先月の締めに入るから過酷ですよ!いやだあああああ(じたばた)!

……というわけで、明日は職場の催事により、日曜ですが出勤です。お年寄りな身としては体力が持つかどうか心配です。暑くならなきゃいいんですけどねえ。がんばろ。

久しぶりにCDの話。最近、こちらの2枚をゲットしました。まずはMOTORWORKSのベスト盤というかリマスター盤。

MOTORWORKS~COMPLETE BEST~
MOTORWORKS
ドリーミュージック
2017-04-26


黒沢健一さんがいなくなってしまってもうすぐ半年になるんですね。L⇔Rの活動休止後、初めて黒沢さんの声を聴いたのがこのMOTORWORKSでした。大学時代、バイト中に有線からたまたま流れてきた曲がどう聴いても黒沢さんの声で、帰って調べたら「Missing Piece」だったんです。で、大学生協にアルバムの取り寄せを頼んだ記憶があります。それがこのたび、シングル3枚とアルバム1枚をリマスタリングし、2枚組にして再リリースされました。この10年ほどの間、くりかえし聴いてきたアルバムですが、今聞いてもやっぱり色褪せていないなとしみじみ。

そしてもう1枚、フォズのわっちこと渡會将士さんが参加しているbrainchild’sの新譜「PILOT」です。

PILOT(DVD付)
brainchild’s
BAJ
2017-05-10


ゴーイングやランク、テナーなど、他の好きなバンドのボーカルが、自分のバンドを離れてソロ活動していても、あんまり興味が持てなかったというか「なんか違う」感がしてしまうんですけど、なぜかわっちの場合はソロもブレチャも普通に聴けるんですよね。なんでだろ。自分でもよくわかってないんですけど。今回も然り。リード曲「恋の踏み絵」がとても好きです。恋は奇跡や偶然ではなく、個人の意志で成り立ってるっていう内容。この能動的な感じがたまりません。実は今日、広島でライブあったんですよね。もっと早く知ってれば……!


*ここ1週間の購入本*
荒川弘「アルスラーン戦記7」(マガジンKC/講談社)
志村貴子「こいいじ6」(KC kiss/講談社)
小玉ユキ「月影ベイベ9」(フラワーコミックスα/小学館)
伊藤悠「シュトヘル14」(ビッグスピリッツコミックスSP/小学館)
向井湘吾「ショダチ! 藤沢神明高校でこぼこ剣士会」(ポプラ文庫/ポプラ社)
織守きょうや「301号室の聖者」(講談社)


重傷を負った「久遠の書」のガーディアン・ザクロは、ヒースに「黄昏」――すなわちイースメリアと敵対する隣国・シテにあるという「黄昏の書」とその主人――を連れてくるよう命じる。でなければヒエンを殺すと脅されたヒースは、先だって出会った「黄昏」の関係者である青年・シドと接触する。するとシドは協力の代償として、ヒースがシテに出向き、直接「黄昏」を説得するよう要求。この条件を呑むかどうかを決めるまで5日の猶予が与えられたのだった。しかしそのさなかに騎士団が現れ、修繕のための「久遠の書」の解放――すなわち主であるエリカの殺害を決定し、イルシオーネらに通達する。それを知ったヒースは、シドの要求を呑み、単身シテへと向かうのだが……。

世界の根幹に関わる書物とそれに宿る「ガーディアン」をめぐるビブリオファンタジーシリーズ2巻。

相変わらずヒースの前には大きすぎる問題が次から次へと積み上げられ、右往左往するはめに。しかしヒースの書物に対する愛情、そして自分の身近な人を守りたいという気持ちがブレることはなく、騎士団の――ひいてはイースメリアという国の思惑に背いてでも、エリカとザクロを助けるために行動し続ける。そんな彼女のことを、「黄昏の書」の関係者であるシドや「黄昏」、さらにイルシオーネらの前に現れた謎の人物・サールヴァールは、「真の書の友人」と呼ぶ。その呼称はこれまでの彼女にとって蔑視の象徴だったが、彼らがこれに込めた理由はまったくの別物で、言葉通りの意味であることが分かる。そしてこれが意味するのはやはり、ヒースという人物の特殊性に他ならない。その意味が今巻では次第に明かされてゆくことになるのだ。

エリカの持つ「久遠の書」、イルシオーネの持つ「暁の書」、そしてシテにある「黄昏の書」。この3冊は元は1冊の書物だったということは当初から明らかになっていたが、今巻ではなぜそれが分かたれかのか、ということが明らかになる。次いで、ヒースが愛読している「ランバートル」に隠された真実も。そんな「ランバートル」の写本からヒースがガーディアンを召喚したこと――この事実は最後まで大きなカギとなるのだろうが、それがなんなのかはまったく予想がつかない。そしてここにきて本性を現したヒエンの思惑も。ただ願わくば、ヒースが望む結末が訪れてくれればそれでいいのだが。


◇前巻→「ガーディアンズ・ガーディアン1〜少女と神話と書の守護者〜」

冬雷
遠田 潤子
東京創元社
2017-04-28

害虫駆除の会社に鷹匠として勤めている夏目代助は、弟・翔一郎の葬式のために魚ノ宮町に戻ってきたが、住人たちの視線は冷ややかだった。なぜなら、代助こそがかねてから行方不明になっていた翔一郎を殺した犯人だと疑われていたのだから。代助をストーキングし続けたのちに自殺した三森愛美の兄・龍の家に身を寄せつつも、気になるのは従姉妹である加賀美真琴のことだった。翔一郎の遺体の第一発見者が真琴であり、その遺体のそばには真琴の持ち物が落ちていたのだという。しかし発見場所である神社の氷室は、当時代助が探し、何もなかった場所。代助はこれまでのことに思いを馳せながら、事件の真相について考え始めるのだった――孤児だった代助が魚ノ宮町の名士であり、町を支える神事で重要な役割を果たす鷹匠の千田家に引き取られたこと。同じく神事に携わる神社の跡取り娘である真琴と出会い、成長し、惹かれ合うようになったこと。やがて千田夫妻に実子・翔一郎が生まれ、代助が居場所を失ったこと……。

怪魚と姫君の伝説に端を発した神事に支配される小さな町で、しきたりに縛られながらも未来を夢見た男女の姿を描くミステリ長編。

冒頭では現在の代助の状況が描かれているが、その時点ですでに彼の人生にあまりにも多くの不幸が絡みついていることがわかる。同郷の後輩である三森愛美にストーカーされ続けたあげく自殺されたばかりで、しかもその矢先に判明するのが行方不明だった義弟が遺体となって発見されたという事実。やがて故郷に戻り、過去の回想が始まってから判明するのは、どちらの件でも代助は被害者でしかなく、なのに周囲から犯人扱いされ、追い立てられるように町を出ざるを得なかったということ。そもそものスタート地点が親に捨てられた孤児だったということも拍車をかける。周囲の者が自分から離れていくのは、自分に問題があるからで、どこに行っても不要になればあっさりお払い箱にしてもいいような、あとくされのない人物――代助の自己評価はおおむねそのようなもので、だから被害者であるにも関わらず、彼は常に自問し、悔やみ続ける。あの時ああしていれば、こんなことにはならなかったのだろうか、と。そしてそれは、神社の跡取り娘でもあった真琴との関係でもそうだった。

町の神事を司る重要な役割を担っていたのが「冬雷閣」の鷹匠と、鷹櫛神社の巫女。周囲からの尊崇を受け、同時に敬遠される存在――それが代助と真琴の置かれた環境だった。そんなふたりが惹かれ合うのは無理からぬことで、周囲に傷つけられながらも、互いの存在を支えに生きてゆくふたりの健気さだけが救いだった。けれど鷹匠と巫女は結ばれてはならない――そんな掟と、さらに代助の身に降りかかった災難により、真琴は代助の手を離してしまう。これもまた、代助の心にひとつの澱として残り続けていたのだろう。終盤で明かされるいくつもの真実はふたりの傷を完全に癒すものではなかったけれど、しかし離れた手を再び近付けるには十分だったのかもしれない。誰もが幸せになれるという結末ではなかったけれど、それでもかすかな光の差すような真琴の台詞には、そして遠くで鳴った冬雷の音には、代助でなくとも救われるような、そんな気がした。


東大の法医学研究室に所属する大学院生の石上妙子は、自殺とされた少女の検死中、遺書と思しき紙片の一部が口内から出てきたことに疑問を抱く。そんな折、週刊誌や新聞で、何人もの少女が失踪しているという記事を目撃した妙子。やがて妙子が作った先の少女の検死結果について、厚田と名乗る新米刑事がやって来る。彼との会話の中で、他にも口の中に詩のような文面の紙片が押し込まれていた女性の他殺体があることを知った妙子は、週刊誌で取り上げられていた連続失踪事件と関わりがあるのではないかと考え始めるのだった。一方その頃、妙子が恩師でもある教授から紹介されたのは、英国からやってきたという見目麗しい男性。ジョージと名乗る彼は法医学者であり、死体に発生する虫を研究しているのだという。ジョージの助手を務めることになった妙子は、彼の知見も借りつつ、厚田と共に連続女性失踪事件を追い始めるが……。

「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズ初の番外編は、本編で「死神女史」と呼ばれる検死官・石上妙子の学生時代の物語。連続少女失踪事件を通じ、比奈子の上司である厚田、そして本編5〜6巻に本格的に登場した法医昆虫学者・ジョージとの出会いが描かれてゆく。

今やベテラン検死官として、比奈子たち「猟奇犯罪捜査班」にとってなくてはならない存在である妙子だが、本作ではまだ大学院生。検死業務に携わっているものの、今のように犯罪捜査に関わっていることもなければ、そもそも妙子本人がいまだ「女だてらに法医学者、しかも検死官」という周囲からのレッテルに悩む一面も。そんな折に出会ったのが、彼女の運命を大きく変えることになるふたりの男性だった。すなわち、法医昆虫学者のジョージと、新米刑事である厚田との。

特にジョージについては本編ではその肩書の前に「変態」と付けられるほどに謎めいた、そして不気味な人物として描かれていたが、妙子と出会ったばかりの頃のジョージはまだ来日したばかりのまっとう(?)な学者。とはいえ虫に対する興味は今とまったく変わらないのだが、出会った頃から妙子を機にかけているような素振りを見せる。加えて初対面の彼は美貌の英国紳士といったところで、本編での姿とのギャップが半端ない。しかし事件の真相――これがまた本編に負けず劣らずひどい事件なのだが、その凄惨さはおそらくジョージのせいで虫の描写が多いからかもしれない――がわかるにつれ、そして事件がひとまずの解決を見せてからが、ジョージに関するエピソードとしては本番ともいえる。おそらく妙子にとっては初めてだったのではないかというジョージとの関係、そして残酷すぎる結末には言葉を失ってしまう。だからこそ、同じ時期に彼女が厚田と出会えていたのは唯一の救いだと思った。いつか厚田とも離れてしまうとしても、それでも。


◇本編(1巻)→「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」

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