phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

暴虎の牙
柚月裕子
KADOKAWA
2020-03-27

昭和57年の広島。沖虎彦は親友の三島と元のたった3人で、老舗組織である綿船組の賭場を襲撃し、現金を奪って逃走。愚連隊「呉寅会」を率いる沖は、その後も暴力団を相手に襲撃や強奪を繰り返し、やがては呉原最大の暴力団・五十子会からも目を付けられるように。広島北署二課に所属する刑事・大上章吾はたまたま居合わせた喫茶店で起きたいざこざで沖の存在を知り、彼の素性と目的を探り始める。それから時は流れ、平成16年。刑期を終え出所してきた沖は、服役中に因縁の相手である大上が死んだことを知る。墓の場所を突き止めた沖は、そこで呉原東署に刑事として戻ってきた日岡秀一と出会い……。

2018〜2019年にかけて新聞に連載されていた、「孤狼の血」シリーズ第3弾にして完結編。今回はかつての大上、そして現在の日岡が、沖虎彦という男の凶行を止めようと奔走する姿が描かれていく。

本編の約3分の2が大上パート、残り3分の1が日岡パートとなり、沖虎彦という男を追いかけていく本作。大上パートではガミさんの姿に懐かしさを感じ、日岡パートでは彼が言葉遣いだけでなく行動も考え方もガミさんそっくりになっている姿に頼もしさを覚える。時代が昭和から平成に移り変わり、法律や警察組織そのものが変化していく中で、大上のようなやり方はまさに綱渡り。特に今の日岡は極道と兄弟の盃をかわしているというどうしようもない状態なのだが、それでも自分の――同時に大上の――信念に基づいて行動していくその姿がなんともまぶしい。

そんなふたりを過去から現在にわたって手こずらせている沖虎彦は。狂犬などというレベルではなく、タイトルの通り「暴虎」としか言いようのない凶暴性を秘めた男。しかし――というよりは「ゆえに」というべきか――そんな彼のカリスマ性に惹かれて集まる男たちもまた多い。だが大上も、そして日岡も、その眼差しに秘められた危険性にいち早く気付き、なんとか止めようと奔走することに。結果的に沖に訪れた結末は「因果応報」と言ってしまえばそれまでだが、一方で彼を止める――あるいは彼が救われるためには、もはやこの結末しかなかったのかもしれない。


◇前巻→「凶犬の眼」


人類が宇宙へと進出してから約6000年。巨大ガス惑星「ファット・ビーチ・ボール」(FBB)では、人類はその周辺に現れる「昏魚」を捕らえ、これらを利用することで暮らしていた。人類の繁栄と社会の維持も兼ね、漁師は男女の夫婦者と定められている中、エンデヴァ氏族の少女・テラは何人もの男性とお見合いをしては振られ続ける日々。そんなある時、彼女の前に現れたのはダイオードと名乗る小柄な少女。彼女はテラとコンビを組みたいと押し掛けてきて……。

百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」に発表された同名短編を長編小説化。異例の同性漁師ペアとなったテラとダイオードが、周囲の反対を押し切って奮闘する物語となっている。

昏魚を捕らえるための「礎柱船(ピラーボート)」は、船そのものをリアルタイムで変形させる「デコンパ」と、その船を操縦する「ツイスタ」のふたりがそろって初めて動くもの。夫がツイスタ、妻がデコンパとなるのが当たり前――という、未来の宇宙が舞台であるにも関わらず(否、だからこそ?)、男女観が古く懲り固まった世界で、テラがデコンパ、ダイオードがツイスタとなり船を操ることになる。

実はふたりとも規格外の技術および能力の持ち主であるにも関わらず、テラはその突拍子もない想像力=創造力から他の男性ツイスタから敬遠されるし、ダイオードは女であるというだけでツイスタになることを否定されて自身の氏族を飛び出してきた(そして追手がかけられている)という切羽詰まった状態。そんな中でなし崩し的にコンビになったふたりが互いの能力を認め合い、少しずつ距離を縮めていく過程がなんとも微笑ましい。

昏魚の正体、テラがFBBの奥底で手に入れた「鍵」のことなど、終盤では物語世界の根幹も明かされた本作。両想いになったふたりがその後どうなるのか気になるので、ぜひ続編希望。


30歳を過ぎたフリーライターの高原晶は、自身の将来について考え始めていた。仕事仲間の独立、懇意にしていた編集者の異動、そして彼氏から結婚をほのめかされたこと……。そんな中、男性誌の編集者である塩谷といつものように呑んでいた晶は、取材で訪れた「ホストクラブ」という業種のワンパターンぶりに疑問を呈し、「若い子でも簡単に出入りできるクラブのようなホストクラブ」というアイディアを思いつく。それを聞いた塩谷は、憂夜というホストらしき男性を晶に引き合わせ、彼女のアイディア通りの店を開くと宣言して……。

過去にドラマ化もされたライトミステリ連作集「インディゴの夜」シリーズの前日譚。晶と塩谷が「club indigo」を開くまでの紆余曲折を描く長編小説となっている。

今回はミステリ色はなく、当時の晶が置かれていた状況を軸に、「club indigo」開店に至るあれこれ――憂夜やなぎさママとの出会いやメンバー探し、開店までに他のホストクラブとの間に起きていたいざこざ等が描かれていく。なぎさママとのガチンコ勝負(?)や、当時付き合っていた彼氏との関係の変化なども興味深いが、やはり一番気になったのは憂夜の存在だったりする(笑)。塩谷さんが連れてきたという話は本編でもあったが、やはりその経緯はこの前日譚でも謎のまま。さらに終盤には憂夜を「兄弟」と呼ぶ人物はいったい何者だったのか……と、ますます謎が深まった気がしてならない。そんなところも含めて、ぜひ本編の再開を期待したい。


◇本編1巻→「インディゴの夜」

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)
柞刈 湯葉
早川書房
2020-03-18

くしくも30歳の誕生日の夜、帰宅した「僕」の部屋の中には、見覚えのない巨大な岩があった。マグリットの「記念日」という絵に描かれているようなサイズ感の岩は、翌朝になっても消えないし、iPhoneで撮影もできるので、幻覚の類ではないようだった。しかも翌日、通常通りに大学の研究室へ向かい、帰ってくると部屋の隅に移動していた。まるで「部屋の真ん中にあるのは邪魔だ」と思った「僕」の気持ちが通じているかのように……。(「記念日」)

2014〜2019年にかけてWebや「SFマガジン」等に掲載された短編5本に、書き下ろしの表題作を加えた、著者初のSF短編集。タイトルの通り、様々な切り口から「人間」を描く作品が収録されている。

個人的に気に入ったのは「記念日」と「No Reaction」の2作。
「記念日」は自室に突然現れた巨大な岩と共存する男性の姿が描かれていく。しかしこの主人公、岩の存在にびっくりするほど驚かない。まあ驚いてはいるのだろうが、パニックになることもなく淡々と受け入れ、次第に親近感のようなものを覚えはじめ、いつのまにかまるで同棲しているかのような振る舞いに至る。その過程がなんとも奇妙で面白い。

「No Reaction」は透明人間を自称する少年の物語。生まれたころからずっと透明人間である主人公だが、フィクションに出てくるそれのように万能ではない。壁のすりぬけなどできないし、その声が第三者に感知されることはない。もちろん「不透明化」することもできず、そもそもが物質にさわれないので、部屋から出るにも一苦労というなんとも不便な状況が涙を誘う(笑)。しかしそんな彼がある女子に恋をした、その顛末が描かれていく。もちろんその恋が実ることはなく、そもそも彼女に自分の存在を認識してもらうことすらできないわけだが、そんな経験を通じて彼が得たのは、自分の正体――かもしれない仮説。今後の彼の研究の成果に期待したくなってくる(笑)。

来る日も来る日もコロナコロナで先の見えない今日この頃。特に2月の終わりからいろいろなイベントやらなんやらが自粛を余儀なくされているのを眺めていましたが、その波がついに自分にも降りかかってきました。ひとつは4月のユニゾンの対バンツアーが延期になったこと。そしてもうひとつ、「Fate/stay night」劇場版第3部が公開延期になったことです。なんてこった。

今後、5月に某イベントの参加予定があるのですが(昨日チケットを発券したばかり)、こちらもいよいよ怪しくなってきました。なんせ夏のオリンピックだって延期になったわけですし。相手が目に見えないウイルスだけに、終わりが見えずなんとも不安ですね。

まあそれでも季節はめぐるわけで、そろそろ我が家の桜も咲きつつあります。今年もちゃんと咲いてくれてありがとう。
20200328桜


*ここ1週間の購入本*
結川カズノ「雑草譚 結川カズノ百合作品傑作選」(エクレアSpecial/KADOKAWA)
皆川博子「愛と髑髏と」
横溝正史「蝶々殺人事件」(以上、角川文庫/KADOKAWA)
内藤了「PUZZLE 東京おもてうら交番・堀北恵平」(角川ホラー文庫/KADOKAWA)
大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」(岩波新書/岩波書店)
福田和代「東京ホロウアウト」(東京創元社)
石川宗生「アルカディア・ホテル」(集英社)
柚月裕子「暴虎の牙」(KADOKAWA)
松樟太郎「声に出して読みづらいロシア人」(ミシマ社)
「小説WINGS 2019年秋号」(新書館)

こうなったら家でおとなしく本でも読んでますよ!……っていつものことか(笑)

丸の内魔法少女ミラクリーナ
村田 沙耶香
KADOKAWA
2020-02-29

小3の春、流行っていたアニメに影響され、友人と一緒に「魔法少女」ごっこを始めたリナ。36歳OLとなった今でもその「設定」に基づき、「魔法少女ミラクリーナ」としてストレス多き日々をなんとかやり過ごしていた。そんなある日、かつての魔法少女仲間でもある親友のレイコが、彼氏のモラハラに耐えかねて家出してきたため、リナは一時的に彼女を自宅に匿うことに。それを突き止めてやってきたモラハラ彼氏・正志をなんとかレイコから引き離そうと考えたリナは、苦し紛れにある提案をする――それは正志がレイコの「設定」を引き継ぎ、「魔法少女マジカルレイミー」としてリナと共に魔法少女としての活動(主に人助け)をするというものだった。しかしリナの予想に反し、正志はこれを承諾。果たしてリナは正志と共に、仕事帰りに東京の駅のパトロールをする羽目になり……。(「丸の内魔法少女ミラクリーナ」)

2013〜2019年にかけて「小説 野生時代」に掲載された短編4本を収録した作品集。

個人的に気に入ったのはやはり表題作。「魔法少女」という妄想――もとい「設定」によって日々のストレスをやり過ごしていたリナだったが、自らの提案により、その「設定」そのものがストレスとなってしまうという展開に。子供のころからずっと変わらずに演じ続けてきた「魔法少女」という「設定」は、いつの間にかリナの心の奥深くに食い込んでいて、だから正志という他人に収奪されたことが自分の想像以上のダメージであったことにここで気付くこととなる。そしてそれは親友のレイコにとっても同じだった。たとえそれが「魔法少女」という突飛な設定であるとしても、自分の中で大切に育て続けてきたものを変えることはできないのだ、と。

もう1作気になったのは、「変容」と題された作品。こちらは「ミラクリーナ」とは逆に、「変わらないこと」が否定される世界が描かれていく。両親の介護で世間から遠ざかっているうちに、バイト仲間の大学生たちや自身の夫をはじめとして、周囲の人々が「怒り」という感情を失っていることに気付く主人公の真琴。しかし本人の違和感とは裏腹に、夫や親友までもがそれらに何の疑問も抱かず受け入れていることに愕然とする。自分だけが変わっていないことに焦り、やがてそんな世の中に怒りを募らせる真琴の姿は、「変わらない」ことで世界と折り合いをつけていくリナとは真逆の存在となっている。しかしあることを機に、真琴は「変容」を自然と受け入れていくようになるのだ。

「変わること」、または「変わらないこと」。そのふたつは真逆に向いているように見えるが、結局のところどちらかを選び取るという点では同じ。どちらを選んでもそれは本人の意志であり、その選択こそが彼女たちの人生を決定づけ、支えていくことになる。その「支え」こそが生きていくうえで一番大切なことなのかもしれない。

かわうそ堀怪談見習い (角川文庫)
柴崎 友香
KADOKAWA
2020-02-21

そのつもりはなかったのだがデビュー作が恋愛面をクローズアップして映画化され、以後「恋愛小説家」という肩書を与えられてしまった作家・谷崎友希。あまり恋愛沙汰に興味が持てない谷崎は、そのイメージを払拭すべく、郷里のかわうそ堀に戻り、怪談作家になることを決意する。とはいえ霊感があるわけではないし、怪奇現象に遭遇したこともない谷崎は、手始めに中学時代の友人・たまみに連絡をとることに。地元の不動産屋の娘であるたまみは本人が怪奇現象に遭遇したことがあるだけでなく、その人脈を駆使して、似たような体験をした人を紹介してくれることも。と同時に、谷崎本人にもなにか奇妙な現象が起きるようになり……。

2017年に刊行された書籍の文庫化だが、「鏡の中」と題された書き下ろしエピソードが新たに収録されている本作。怪談作家を目指す女性小説家が、中学時代まで暮らしていた郷里で奇妙な体験に遭遇する短編連作集となっている。

書き下ろしを含めて29編の短編からなる本作。これまでそんな体験がなかったという言葉が嘘のように、谷崎は次々と奇妙な現象に遭遇することになる。例えばトークイベントの後で関係者から届いたメールにあった、「鈴木さん」なる人物の存在がまったく思い出せないこと。例えば古書店で買ったはずの怪談本がいつの間にかなくなり、なぜか元の古書店に戻っていること。例えば留守電に吹き込まれていた雑音と「あーああー」という声。友人のたまみや、彼女が紹介してくれた人々が教えてくれた怪談もまた、ただ聞いただけなのに、谷崎の前に「再生」されるかのように、その残滓のようなものがまとわりつく。そして状況は違うのに、時折聞こえてくる「まだ来ないの?」という声……。

わかりやすい「何か」はなかなか襲ってこない。それらしいものが出てきたりもするが、はっきりとその輪郭はつかめないまま。しかし確実に「何か」は谷崎の周囲に手を伸ばしているし、本人もそれを自覚している。鏡に映った自分の姿に対して彼女が得た違和感は、その最たるものだろう。

怪異を語れば怪異が寄ってくる、というのはしばしばいわれることではあるが、この場合の「怪異」は谷崎が語られ、聞いた話ではなく、谷崎本人なのではないかとすら思えてくる展開。彼女はいったい、何と接触してしまったのか。そして今いるのは、本当に「現実」なのだろうか。

天龍院亜希子の日記 (集英社文庫)
安壇 美緒
集英社
2020-02-20

人材派遣会社に勤めている27歳の田町譲は、職場では産休明けの先輩・岡崎さんと、同期のふみかとの間で板挟みとなり、恋人の早夕里とは遠距離恋愛中だが「結婚」の決定的な2文字が出てこないままずるずると関係を続けている、そんな状態。ある時、学生時代の友人がフェイスブックを通じてかつての同級生と再会したという話を聞いた譲は、その友人と同様にネットで検索するうち、あるブログにたどり着く。そこに書かれていた内容、そしてアカウント名から、譲はブログ主が小学生時代の同級生・天龍院亜希子だと確信する。それ以来、彼女にコンタクトをとるでもなく、譲は亜希子のブログを愛読するようになり……。

第30回小説すばる新人賞受賞作となった本作は、まもなく30代を迎えようとしている男性の、停滞していた日々とその未来を描く長編作。

タイトルにある「天龍院亜希子」というのは、主人公である譲の小学生時代のクラスメイト。しかも特に親しかったわけでもなく、どころかその派手な名前をからかって泣かせてしまった思い出くらいしか残っていないような関係だった。しかし10年以上も経って、彼女のものとおぼしきブログを見つけてしまった譲は、その淡々と綴られる日常――食べ物のことや外出したこと、そしてそのたびに同行していた「誰か」の影――を画面越しに見つめることになる。

譲は亜希子のブログを熱心に読んではいたものの、ついに彼女と再会することはなく、もちろん何らかのやりとりをするわけでもない。亜希子本人は物語にまったく登場しないし、今となってはこのブログ主が本当に亜希子だったかどうかは定かではないのだ。しかし譲は亜希子のブログ、あるいは少年時代に憧れていた野球選手・マサオカの存在にいつしか支えられて生きていくようになる。だが亜希子のブログはやがて不穏な雰囲気を漂わせながら消されてしまい、マサオカは今や薬物中毒となり「墜ちたスター選手」として世間から大バッシングを受けていくことになる。

けれど亜希子の最後の記事も、そしてかつて憧れたマサオカの姿も、「なかったこと」にはならない。直接何かしてくれるわけでもない、ただそこにいてくれるだけで触れることのできる、ささやかな希望。でたらめでもいい、呆れるようなものでもいい、それでもそれは確かに「希望」なのだと、そう思わせてくれるものがあるというのは、こんなにも強いのだということをまざまざと感じさせられた。

突然HARCOさんの曲が聴きたくなったので、ラックの一番手前にあったCDを引っ張り出したのですが、他のCDに入ってる曲も聴きたかったので、いっそのこと全部出してきて好きな曲だけ集めてマイベストCDを作るという、なんというか懐かしい手順を踏んでおります(笑)。こういう時に噂のサブスクなるものを活用すればいいのでしょうが、なんせアナログ人間なもので手っ取り早い方法を選んだというわけです(笑)。まあせっかくCD持ってるわけですし。

さておき。先日、河出書房新社より封書が届きました。昨年秋に開催されていた「河出文庫ベスト・オブ・ベスト」の応募者全員サービスのポストカードセットです。とりたてて斉藤壮馬ファンというわけではなかったはずですが、気付けばついフェア対象本を全部揃えてしまった例のアレです。応募したことをちょっと忘れかけてたのは秘密です(笑)。
20200321河出1

なお「ポストカード」とは言いつつも、大半のカードの裏には斉藤壮馬による書評が印刷されているので、もし使うとしたら宛先しか書けそうにありません。まあ使うことはないんですけどね。せっかくだからポストカードファイルでも買ってきて、フェア本と一緒に本棚に並べておこうかな。

忘れた頃にやってきたのでうれしさもひとしおではありますが、個人的には「河出書房新社」と印字された封筒がゲットできたこともうれしいです(笑)。
20200321河出2


*ここ1週間の購入本*
志村貴子「おとなになっても2」(KC kiss/講談社)
藤崎竜「銀河英雄伝説17」(ヤンジャンコミックス/集英社)
加藤実秋「渋谷スクランブルデイズ インディゴ・イヴ」(集英社文庫/集英社)
海猫沢めろん「キッズファイヤー・ドットコム」(講談社文庫/講談社)
内藤了「スマイル・ハンター 憑依作家・雨宮縁」(祥伝社文庫/祥伝社)
小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」
柞刈湯葉「人間たちの話」(以上、ハヤカワ文庫JA/早川書房)
澁川祐子「オムライスの秘密 メロンパンの謎 人気メニュー誕生物語」(新潮文庫/新潮社)
安壇美緒「金木犀とメテオラ」(集英社)

不穏な眠り (文春文庫)
七海, 若竹
文藝春秋
2019-12-05

晶の勤め先兼住居である「MURDER BEAR BOOKSHOP」の近所に住む鈴木夫人から依頼が舞い込む。それは12年前に亡くなった彼女の従妹の家での出来事だった――無人となった従妹の家を知人に貸していたところ、その1年後、知らない女性がその家に居着き、そこで死んでいたのだという。その亡くなった女性・原田宏香の遺品をつい引き取ってしまった鈴木夫人は、彼女の死を悼んでくれるはずの誰かを探し出してほしい、というのだ。11年前の不審死ということで手掛かりも乏しく、とりあえず晶は宏香が死んでいたという家の隣人を訪ねるが……。(「不穏な眠り」)

葉村晶シリーズの最新短編集。2017〜2019年にかけて「オール讀物」に掲載された短編4作が収録されている。

前巻までに住んでいたシェアハウスを立ち退き、「MURDER BEAR BOOKSHOP」の2階にある探偵社にそのまま住み着くことになった晶。しかしなかなか探偵としての依頼は来ず、書店の仕事(プラス富山の雑用)を今まで以上にこなさざるを得ないという状況に。ということで「逃げだした時刻表」は、書店で開催されていたフェアで起きた事件に巻き込まれるという珍しいパターン。他にも「水沫隠れの日々」では蔵書整理に向かった先で出所してくる義娘の出迎えを依頼されたり、「新春のラビリンス」では廃ビルの警備員の代打をさせられたりと、仕事のバリエーション(?)も豊富になっているのがなんとも。そして短編でも負傷率が高くなりつつある今日この頃、晶の健康が気になって仕方ないのはわたしだけではないと思う(笑)。


◇前巻→「錆びた滑車」

錆びた滑車 (文春文庫)
七海, 若竹
文藝春秋
2018-08-03

東都総合リサーチの桜井から回された調査で、石和梅子という老女の行動を追っていた葉村晶は、梅子が知人らしき老女・青沼ミツエと口論になり、階段から落ちてきた際に巻き添えとなり、怪我を負ってしまう。運びこまれた病院で晶は、ミツエの孫である大学生・ヒロトと出会う。少し前に父親と一緒に交通事故に遭い、大怪我を負ってリハビリ中だというヒロトの依頼で、晶はヒロトの亡父の遺品整理を請け負うことに。ミツエの勧めもあり、しばらくはミツエの持つ古いアパートで暮らしつつ、整理を行うことになった晶。そんな中、ヒロトは晶にある依頼をかける。ヒロトは父と自分が遭遇した事故の前後の記憶を失っており、なぜ事故現場にいたのかすらも思い出せないため、その理由を突き止めてほしいというのだ。しかしその直後にアパートで火事が発生し……。

葉村晶シリーズの長編第3作目。今回も冒頭から怪我を負いつつ(しかも40代となったので、そうでなくても体にガタがきている……)、大小さまざまなトラブルに女探偵・葉村晶が巻き込まれていく。

ある老女の行動調査に端を発した今回の事件。青沼ミツエとその孫・ヒロトに肩入れしながら、晶はミツエの息子=ヒロトの父である光貴の過去にも迫るという展開に。事態は周囲を巻き込んでどんどん拡大していき、今作でも文字通り芋づる式に真相が明らかになっていく。人の不幸は……というわけではないが、その流れが面白くもあり、同時にやりきれなくもある。結局誰も得をしないというか、真相がわかったころには何もかも手遅れになってしまっているのだから。きっとそれは晶本人も痛感しているに違いないが、それでも彼女は探偵を辞めないし、自問自答しながらも他人にその手を差し伸べることを止めないのだろう。好奇心と同情心、あるいはそれ以外の様々な感情の板挟みになりながら。


◇前巻→「静かな炎天」

水族館で癒されたい!けど遠出は面倒だよなあ……と思いつつスマホで検索をしてみたところ、今更ですが私の住む岡山県にも水族館(のようなもの)があることが判明。せっかく見つけたのだし、ということでふらっと行ってみました。渋川海岸にある「渋川マリン水族館(またの名を「市立玉野海洋博物館」)です。

まあその前に海ですよ海!海を見るのは久しぶりです。向こうに見えるのは瀬戸大橋(のはず)。シーズンオフですが砂浜で遊ぶ子供たちもちらほら。のどかです。
20200314渋川1

で、水族館。入館料500円というリーズナブルさからもお察しいただける通り、まあこぢんまりとしています。建物に入って右半分が水族館、左半分が陳列館となっていました。水族館側には瀬戸内海に生息する魚介類が中心に展示されているとのことですが、わりと食用の魚が多いみたいで、説明文に「美味しい」とか「やや美味しい」と書き添えられている……というか食用であることを全面的にアピールされている魚が多数いてちょっと面白かったです。いったい誰の感想なんだ(笑)。

個人的に楽しかったのは、ナマコや小型のタコ、ヒトデなどを上からのぞき込める浅めの水槽コーナー。アルビノの白いナマコというのも興味深かったですが、それより気になったのはタコたちの縄張り争いですね。壁伝いに移動したいタコが、同じように壁にへばりついておとなしくしているタコを押しのけたり、先客のいるタコ壺に入りたくなったのか何なのか、中身をどうにか引きずり出そうと威嚇?している姿とか(笑)。

陳列館には貝類やその他魚類の剥製や標本、そしてなぜか様々な船の模型まで。お隣が兵庫県ということもあってか、昔のイカナゴ漁を再現した模型なんかもあったりして。いったい誰得なんだと首を傾げつつ、でもこれはこれで面白かったです。

建物をまっすぐ通り抜けると中庭があるのですが、そこにはキタオットセイとゴマフアザラシの屋外水槽が。アザラシのお嬢さん2頭はとても元気に泳ぎまくっていたのですが、オットセイ2頭はだらーんとしてました。のどかだ。
20200314渋川2

まあこんな感じなのでお客さんもかなり少ないんですが、そのぶんゆっくり見られるのがいい。チンアナゴとかど真ん前でずーっと見てられますし、絡まりあって威嚇してくるウツボとガン飛ばし対決することも可能(笑)。たまに特別展示的なこともしているようなので、また機会があれば行ってみたいですね。

おまけ。中庭にあった標識の魚。いい味出してます(笑)。
20200314渋川3


*ここ1週間の購入本*
肋骨凹介「宙に参る1」(トーチコミックス/リイド社)
ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール16」(ビッグコミックス・スピリッツ/小学館)
鈴木次郎「凸凹嘘漫画装画 妄想凸凹コンビイラスト集+α」(パイ・インターナショナル)
柴崎友香「かわうそ堀怪談見習い」(角川文庫/KADOKAWA)
安壇美緒「天龍院亜希子の日記」
黒川祥子「心の除染 原発推進派の実験都市・福島県伊達市」(以上、集英社文庫/集英社)
若竹七海「ぼくのミステリな日常」(創元推理文庫/東京創元社)
若竹七海「ヴィラ・マグノリアの殺人」(光文社文庫/光文社)
クリスティー・ウィルコックス「毒々生物の奇妙な進化」(文春文庫/文藝春秋)
山尾悠子「翼と宝冠」(ステュディオ・パラボリカ)
村田沙耶香「丸の内魔法少女ミラクリーナ」(KADOKAWA)

静かな炎天 (文春文庫)
七海, 若竹
文藝春秋
2016-08-04

8月となり、厳しい暑さが続く中、晶はとあるひき逃げ犯の素行調査を依頼される。飲酒運転で次々と道行く人をはねた男が出所してきたものの、また以前のように飲酒運転を繰り返しているという噂が被害家族たちの間で流れているのだという。とりあえず1週間の調査ということになったが、調査中に対象がトラブルに巻き込まれ、1日で調査を終了せざるを得なくなってしまう。予定が狂ったとばかりに書店に戻った晶だったが、今度は近所に住む女性から、音信不通となった従妹を探してほしいという依頼が舞い込む。しかしこちらもあっさりと本人を発見。再び店に戻った晶のもとにやってきたのは、これまた近所に住むある夫婦。助けて詐欺の電話がかかってきたのだというが、その声が夫のかつての教え子にそっくりだったため、その子の状況を調べてほしいのだという。が、これも翌日にはあっさりと解決して……。(「静かな炎天」)

「仕事はできるが不運すぎる女探偵」葉村晶シリーズ、文春文庫での第4弾は短編集。2015年に「別冊文藝春秋」に掲載された5本と、書き下ろし1本が収録されている。

表題作は依頼が順調に解決していく中、晶の違和感が事態の真相を暴くという、なんというか狐につままれたような気にさえなってくる短編。その他には、交通事故現場で目撃したいわゆる火事場泥棒の行方を追う「青い影」、35年前に行方不明になった人気作家の足跡を調べる「熱海ブライトン・ロック」、長谷川事務所時代の同僚・村木が立てこもり事件(?)に巻き込まれる「副島さんは言っている」、ある作家の戸籍が不正利用されるに至った経緯を追う「血の凶作」、そしてクリスマスの受難(?)を描く「聖夜プラス1」が収録されている。

個人的に特に気になったのは表題作。次々とご近所から依頼が舞い込み、けれどあっさり解決していくという流れにどうもちぐはぐな印象しか抱けなかったので、オチを知って「なるほど」と思った反面、その真相にはなんともぞっとさせられる。真夏の物語なのに背筋が凍るというかなんというか。そしてもうひとつ気になったのは「聖夜プラス1」。クリスマス当日、いろんな人に振り回される晶の姿が描かれていくのだが、ここまでくると可哀想なのを通り越して面白くなってしまう(失礼)。しかし最後の最後で謎のひったくり犯をやり込めるくだりにはすっきり。さらにその後、ひとりでパーティー会場を去る晶の後ろ姿がなんとも「らしい」感じで、少し寂しい気もするが、これはこれでいいのかも、とも思ってしまった。


◇前巻→「さよならの手口」

さよならの手口 (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋
2014-11-07

震災の影響で所属していた探偵事務所が閉所されてしまい、いまやミステリ専門書店でバイトの日々を送る葉村晶。ある時、遺品整理として蔵書の引き取りに向かった古い家で、晶は大怪我をしてしまう。入院中、たまたま同室にいたのは、かつての有名女優・芦原吹雪。病で余命いくばくもないという吹雪は、晶が探偵であることを聞きつけ、大金とともにある調査を依頼してくる。それは20年前に行方不明となった吹雪の娘・志緒利を探すというものだった。法律改正によって自由に探偵業ができなくなったため、晶は知り合いが勤める大手調査会社に協力を仰いで調査を始めるが、さすがに20年も前ということで証言も目撃談も出尽くしているようで……。

「仕事はできるが不運すぎる女探偵」葉村晶シリーズ、文春文庫での第3弾はシリーズ2作目となる長編作。20年前の失踪事件が意外な真実を暴き出してゆく。ちなみにこの時点では、以前暮らしていたアパートが震災で傾いたため、大家の紹介で別のシェアハウスに引っ越した模様。

遺品整理中に押入れの床が抜けて白骨死体を発見、しかも本人は大怪我……というショッキングな出だしの本作。しかし……というべきかやはりというべきか、神様は晶をゆっくりと休ませてあげるつもりがないらしく、入院中にも関わらず新たな、そして厄介すぎる依頼を引き受けることになってしまう。しかも吹雪はシングルマザーであり、志緒利の父親は明言されていないが、その候補に上げられているのは大物俳優や政界のフィクサーといった、なかなか手の出しづらい人物ばかり。さらに失踪当時にもプロによる調査が行われていたらしく、その報告書は入手できたものの、肝心の調査員まで行方不明とくる。とりあえずは報告書の内容を再確認するしかない晶だったが、関係者に会えば会うほど別の問題が次々と浮上してきて、なんというか「雪だるま式」という単語がここまでぴったりな事件はなかなかないのでは、とため息がでてきてしまう(笑)。

文字通り満身創痍となった晶が目の当たりにした事件の結末はやはりやりきれないもので、さらには例の失踪した調査員についてもその行方がわかってしまうという展開に。救いもなにもあったものではない……というなんとも苦いラストではあったのだが、ひとつだけ面白いオチが。今回、どこの調査会社にも所属していない晶が探偵行為を行うため、東都リサーチという企業に所属しているという体裁を作ったわけだが(そしてそれが問題になったりもしたわけだが)、なんとラストでは、晶が勤めるミステリ専門書店「MURDER BEAR BOOKSHOP」が探偵業の営業許可をもらっていたことが判明。ミステリといえば探偵、という発想はわかるが、実際に許可をもらっているという富山さんの行動力にはとりあえず拍手しておきたい(笑)。


◇前巻→「暗い越流」

いいからしばらく黙ってろ!
竹宮 ゆゆこ
KADOKAWA
2020-02-14

5人きょうだいの真ん中(上も下も男女の双子)として生まれ、両親は大手メーカーの経営者ということもあり、何不自由ない暮らしを送ってきた龍岡富士。しかしそう思っているのは周囲だけで、実際は大学卒業を目前にして、両親の決めた婚約者から突然縁談を断られ、就職はおろかフリーターになることも許されず実家での引きこもり生活が確定となり、さらには卒業式後の打ち上げでゼミの仲間たちからも辛辣な言葉を投げかけられ、絶望の淵に立たされていた。そんな中、打ち上げ会場の近くで行われていた「バーバリアン・スキル」なる小劇団の舞台を観た富士は、その勢いに魅了されてしまう。数日後、実家に帰るための準備をしていた富士は、突然退学してしまい音信不通になっていた同級生・須藤と再会。演劇が好きで自身も小劇団に所属しているという須藤の伝手で、富士は「バーバリアン・スキル」のメンバーと顔を合わせ、さらには彼らから「マネージャー」としてスカウトされてしまう。主宰である南野の持ち家がシェアハウスということもあり、喜んで参加を表明する富士。しかし「バーバリアン・スキル」の現状は富士の想像をはるかに超えた悲惨なもので……。

「カドブンノベル」に2019〜2020年にかけて連載された、愛すべき演劇バカたちが繰り広げる青春ストーリー。

のっけから富士の抱える問題の根深さに頭を抱えてしまう本作だが、彼女が自らの意思で選んだ新たな道――小劇団「バーバリアン・スキル」は、それに輪をかけて問題だらけ。なにしろ金も時間も余裕もなく、なのにメンバーたちはこと演劇にかけては妥協を許さず、とにかく素晴らしい舞台を作るという、それだけに向かって邁進し続けるばかり。そして唯一の良心というか管理者的な立ち位置の人物は、劇団の帳簿や通帳を持ったまま、富士が観た舞台が設備トラブルにより中断されおおわらわになって以来行方不明の音信不通という状態。そこに大学卒業したての、劇団の裏側もなにもまったく知らない素人である富士がどう立ち向かっていくか、というのがメインの流れとなっていく。

基本的に親の言う通り、流されるがままに生きてきた富士だからこそ、自己評価は限りなく低く、自分ができることだけをやるというスタンスで生きてきたであろうことはなんとなくわかる。しかしバリスキのメンバーとなったことで、富士の行動パターンは「できることからコツコツと」、さらには「できないではなく、やる」というところにまでレベルアップ。奔放すぎる上の双子と下の双子の手綱をなんとか握ってきた経験が遺憾なく発揮され、バリスキを蘇らせていくという展開にはすかっとさせられる。とはいえ、ひとつの作品を成功させることがもちろんゴールではなく、バリスキにはこれからも様々な苦難が待っている模様。けれどきっと、富士がいれば大丈夫。そう思わせるラストがとても爽快だった。

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