phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


幼稚園から高等部までの一貫教育を旨とする女子校「私立藤凰学院」に赴任することになった生物教師・伊藤。高等部を担当することになった伊藤は、女生徒だらけという環境にやや尻込みしつつも、広末涼子似の同僚教師(ただし男性)・受谷や、寮監も務める美人教師・有賀とも親しくなり、それなりに平和な教師生活を送っていた――はずだった。そんな彼が耳にしたのは、学院に古くから伝わる「永遠の命を持つ生徒がいる」という噂。伊藤が副担任を務めるクラスの転入生・天名は、クラスになじめず伊藤に相談している中で、「永遠の命を持つ生徒」と友達になりたいと言い始める。驚きつつも天名を説得しようとしていた伊藤だったが、そこに識別組子と名乗る女生徒が現れる。自分こそがその「永遠の命を持つ生徒」だという識別の発言に対し、伊藤も天名もその証拠を求めるが、識別はふたりに証拠を示してやる理由も義務もない、とはぐらかしてばかり。しかし後日、識別が何者かによって殺されてしまい……。

「不死者」というありえない存在、そしてそれが殺されるというさらにありえない事件に翻弄される教師と生徒を描く、矛盾だらけのミステリ長編。

永遠の命を持つという識別、そんな彼女――というよりそういった「存在」――と友達になりたいと願う天名、そして生物学的観点から不死など認めることができないのにそれを目の当たりにしてしまった伊藤。彼女たちの目の前に横たわる「ありえない」事象は3人を最後の最後まで翻弄し続ける。しかしこの「ありえない」事象の中で、伊藤は識別の不死性について納得させられるというエピソードがある。それは識別が伊藤に描いて見せた「四角形と五角形の中間の図形」というもの。まさに理解しがたいその図形を見せられたことで、伊藤は識別の異質さに気付かされるのだ。この「異質さ」は、作者の他の作品にもしばしば現れている――ヒトには検知しえない超常的な感覚によって成立する、言葉にすらできないような異質な、あるいは異次元のモノ……としか形容できない事象。それは常に純粋な恐怖めいたものとして私には感じられる。しかしこわいとわかっていてもなお、その深淵を覗くのをやめることはできない。この中毒性も恐ろしいと思う。

あとは野となれ大和撫子
宮内 悠介
KADOKAWA
2017-04-21

中央アジアに位置する沙漠の小国アラルスタン。初代大統領が作り上げた後宮は、2代目である現大統領アリーにより女性官僚候補を育成するための教育機関となっていた。幼い頃に紛争で両親を亡くした日本人の少女ナツキは、若手の中でもリーダー格として慕われているアイシャ、そしてルームメイトで姉的な存在のジャミラと共に、将来は技術系の分野に進むことを夢見てこの後宮で勉学に励んでいた。しかしアリーが暗殺され、周辺国からの侵攻を恐れた議員たちが逃げ出したことで、アラルスタンは存亡の危機に立たされることに。そこでアイシャはこの国を救うべく、大統領代理として立つことを決意。ナツキもその片腕として臨時政府の運営に身を投じてゆく羽目になり……。

「文芸カドカワ」に2015〜2016年にかけて連載されていた長編作の書籍化。ややこしい問題ばかりが山積の小国アラルスタンを建てなおそうと奮闘する少女たちの姿が描かれてゆく。

元々エリート官僚候補として育成されていたとはいえ、もちろん経験は皆無なナツキたち。しかも目の前に積まれた問題は、民族や宗教に端を発する紛争やら、テロリストの陰謀やら、さらにはアラルスタンという国家の成立の根幹にある大規模な環境破壊など、どれも一筋縄ではいかず、歴史は短いとはいえどもこれまでの政府が解決できなかったことばかり。しかしナツキたちはこれまで学んできたことを最大限に生かし、とにかく「あとは野となれ」とやってみる。さらには彼女たちが理想とする国家を作るために、これまで考えてきたアイディアを磨くことも忘れない。そんなとてつもない行動力にはただただ驚かされるばかり。もちろんうまくいくことばかりではないし、やってみて初めて理想と現実の乖離に気付かされることもあるが、それでもナツキたちは止まらない――止まれないのだ。信頼されなくても、裏切られても、自分たちの国のために。

武器商人でもある吟遊詩人イーゴリ、理想を信じて突き進むテロ組織の青年幹部ナジャフ、現場主義者の軍人アフマドフなど、ナツキの周囲にいる男たちは一癖も二癖もある人物ばかり。そんな彼らを利用し、時に利用されながら、強かに突き進んでいくナツキたち。一方で、ナツキとナジャフの間にロマンス的な展開があったり、後宮の女子たちが預言者生誕祭の出し物として創作劇を練習・披露するなど、どこか女子校めいた流れも見え隠れするのがなんとも楽しい。とにかく全速力で駆け抜ける少女たちの日々から最後まで目が離せなかった。


皇臥のもとにこのたび依頼を持ち込んできたのは、芹の同級生である沙菜と、その知人である本間。ふたりが所属しているサークル「廃墟研究会」が、活動の一環としてとある廃村へ向かったのだが、その直後から沙菜と、あともうひとり八城というメンバーに異変が起こり始めたのだという。廃村で撮影したメンバーの写真には黒い線のようなものが絡みついた状態で写っており、それ以後、沙菜と八城にどこからともなく黒い髪の毛が巻き付くようになったのだとも。明らかに怨霊絡みと思しき依頼に尻込みしつつも、芹の知人の依頼だからと皇臥は引き受け、芹も改めて協力を申し出るのだった。かくして本間、沙菜、八城、さらに同じサークルのメンバーだという在原と共に、芹と皇臥はくだんの廃村へと向かうことになるが……。

ぼんくら陰陽師と契約結婚してしまった女子大生の奮闘を描くシリーズ2巻。

携帯の電波も届かないような廃村、絡みつく長い髪と女の影、村に残されていた人身御供の風習……と、今回の依頼も皇臥にとっては苦手分野そのもののホラー案件。しかし依頼者の本間の家がお得意様であることを差し引いても、芹の友人が関わっているからと前向きに依頼を受けてくれるという気遣いがたまらない。また、危険な現場ということで、万が一のために芹に「切り札」を用意してくれたりするところも(とはいえこれは後々面白いオチがついてくるのだが)。

一方、わりとしょうもない嫌がらせを続ける姑やら、噂話を鵜呑みにして反発してくる新顔の式神・錦(少年型または文鳥・笑)など、北御門家における芹の周囲も相変わらずにぎやか。しかし一方で式神の在り方をめぐり、芹と皇臥が衝突する場面も。確かに式神は生き物ではなく「モノ」ではあるが、しかしそれでも簡単に使い捨てていい存在ではない。一見冷たいような発言をする皇臥にも、底にはやはり芹と同じ想いがあることがわかるこのエピソードにはひと安心。と同時に、なんだかんだ言って気の合う夫婦になりつつあるふたりがなんとも微笑ましくていい。


◇前巻→「ぼんくら陰陽師の鬼嫁」


シュティーア辺境伯の公女であるエリカは、美しい異父兄・ジークに比べて地味すぎる自身の容貌にコンプレックスを抱きながらも、王都に行ったきりのジークの帰還を待ち続けていた。そんなある日、領地に魔物が出現したということで、エリカは領内の騎士団と共に現場へ向かうことに。しかし領民の避難を指示しようとしていたエリカの前に魔物が現れ、窮地に陥ってしまう。そんなエリカを救ったのは、このテルンビルト王国の第3王子でもあるヴォルフ騎士団の団長・ラルフだった。ついでエリカの前に現れたのは、ラルフの副官を務めているジークだったが、彼のエリカに対する視線は以前と変わらず冷ややかなもので、エリカだけでなく両親の言葉にも耳を貸さない態度も相変わらず。ジークが家に戻らない理由のひとつがラルフの副官を務めていることだと考えたエリカは、ジークを実家に戻す代わりに自分を騎士団に入れるようラルフに要求。ラルフはエリカにジークの代わりが務まるのであれば、と仮入団を許可するが……。

自分の居場所を探し続ける少女の成長を描くラブファンタジー長編。

その長身や剣術、さらに魔獣を操れるという特性を生かし、公女でありながら領地では魔物との戦いに身を投じることもあるエリカ。しかし例えば男装して騎士団に入るというような大胆さを持ち合わせているわけではなく、かと言って社交界に出たり政略結婚の相手がいたりするわけでもないという中途半端な状況。そしてそれらはすべて、自分に対する自己評価の低さが原因で、どこにも進めないというような状態。それは母や義兄であるジークが月光に例えられるほど美しいことだったり、過去にジークとの「事故」がきっかけで喉元に大きな傷跡が残っていることだったり――そしてなにより、敬愛するジークが実家に寄り付かず、それを自分のせいだと思っていたり。よく言えば健気、悪く言えば自虐的なエリカの姿にはなんともじりじりとさせられるものがある。

そうやっていろいろなものが綯い交ぜになり殻に閉じこもっていたエリカだったが、ようやくその殻が破れたのはラルフとの出会いがきっかけ。自身を否定し続けるエリカをまっすぐすぎるくらいに肯定し(まあ手段はともかく……)、認めていくラルフは、エリカにとって文字通りの王子様になったのだろう。まさにロマンス!ということで、お互いに認めまいとしつつも想いを止められないふたりの距離感には、胸の奥をぎゅっと掴まれるような気分にさせられた。ただしジークのエリカに対する態度の真意がアレなので、ふたりの関係はある意味前途多難なような……とりあえずラルフは死ぬ気でがんばれということで(笑)。

ぼんくら陰陽師の鬼嫁 (富士見L文庫)
秋田 みやび
KADOKAWA
2016-09-15

天涯孤独の女子大生・野崎芹は、火事により住んでいたアパートから焼け出され、なおかつその直前にバイトもクビになっており、ただひたすら途方に暮れていた。あてもなく近所の公園で思い悩んでいた芹の前に現れたのは、黒い振袖姿の少女と、彼女の保護者と思しき長身の青年だった。芹の身の上話を聞いた青年――北御門皇臥は、護里と名乗る少女が芹になついたことを理由に、芹に新たな就職先兼住居を提供しようと言い出すのだった――すなわち「北御門家への永久就職」を。やむにやまれぬ事情で結婚を急いでいるという皇臥との利害が一致したということ、さらに皇臥が公務員であるということでむりやり自分を納得させた芹は、彼との(仮)結婚を承諾。しかし彼の職業「公務員」というのはすなわち、古くは応仁の乱にまでさかのぼる由緒正しき「陰陽師」業であることが判明し……。

ひょんなことから出会って数分で青年陰陽師と結婚するハメになった女子大生の奮闘記、シリーズ1巻。

芹の結婚相手である北御門皇臥は、見た目的には問題のない青年であるようだが、それ以外はわりと問題だらけ。周囲からの結婚への圧力に耐えかね、とりあえず一時避難的に結婚しておきたいというそのスタンス(しかも結婚相手に求める特殊条件に芹がぴったりハマってしまったのも敗因)もさることながら、家に戻れば歴史は感じられるがひたすらにボロく(とはいえ皇臥本人は現代風の別邸で暮らしているが)、陰陽師としての収入は現物支給が多いため経済状況は芳しくない。さらに陰陽師ではあるがよくある霊障・呪詛系の術はてんでダメ……ということで、なにかと前途多難としか言いようのない人物&状況。しかし芹は文字通り背水の陣でこの結婚生活に挑むことになるのだ。

これまでの生い立ちのせいか、わりと何事にも冷静に対処し、皇臥だけでなく姑(これがまた元お嬢様ということでいろいろとほほえましい)の扱い方もあっさりと把握し、ごねる皇臥をなだめすかしながら依頼をこなさせるという手腕はなかなかのもの。タイトルの「鬼嫁」というのは確かに皇臥にとってはそうかもしれないが、皇臥のぼんくらぶりを考えたらちょうどいい感じなので仕方ないかと(笑)。しかも契約結婚とはいえ、皇臥の方はわりと芹のことを気に入っているというのもポイント高なので、ふたりの関係の進展にも期待したい。


警視庁公安部に所属する特別チーム「公安機動捜査隊特捜班」――彼らにこのたび与えられた任務は、横浜の39階建てホテルが武装集団に占拠されたという案件だった。「十三士」と名乗るテロリストたちは潜入に際して警備員を殺害、ホテルを封鎖し500名以上に及ぶ宿泊客を人質に取っているのだ。現場となったホテルが大臣の関係者が建てたものであったことから、上層部は事件をマスコミに漏らさず、秘密裏に解決させるために、特捜班へ命令が下されたのだという。しかしテロリストたちの計画は巧妙で外部から容易に入り込む隙がない。そんな中、ホテル内に女性刑事・高石が内偵のため滞在していたことが判明。特捜班の面々は高石からの連絡をたよりに潜入計画を練るが……。

現在放送中の、金城一紀が原案を務める同名ドラマのオリジナルストーリー。こちらの原案もドラマ同様に金城一紀が務めており、周木律がノベライズしているとのこと。

昨今流行りの「政府関係者に対する忖度」的な意図によって事件が、あるいは事実そのものが捻じ曲げられてゆく――そんな暗澹たるエピソードがありふれているという世界。今回の事件も右翼系テロリストによるホテルジャックだったはずが、最終的には意外な結末へとたどり着くことになる。しかし特捜班の中心的人物でもある稲見と田丸は、それでも自身の信じる「正義」をできうる限り遂行しようとするのだ。メンバーたちのアクションや荒唐無稽ともとれる事件解決までの流れに目を奪われがちだが、それらに隠された稲見と田丸の考え、そして彼らがそうなるに至った過去――このあたりはドラマを見ていかないとわからないのだろうが――も気になって仕方ない。

さてみなさま、本日は4月22日でした。
つまり「劇場版 Free! -Timeless Medley-絆」公開初日なわけです。ええいてもたってもいられないので朝イチで観てきましたがなにか(笑)。

というわけで今回は岩鳶サイドの総集編。といってもほぼ2期の内容がメインで、遙が将来について思い悩み吹っ切っていくまでを軸にまとめられています。ザ・青春です。とか言いつつ、いきなり真琴が遥とのなれそめを回想し始める(それこそ幼少期の出会いから)というエピソード(もちろん新規カット)を冒頭からぶっこんできたので、そういう属性がないにも関わらず「尊い……」という感想しか浮かばずもうここで「〜完〜」でよくない?という境地に一瞬にして達してしまったのは秘密です(笑)。

さておき。こうしてまとめてみるとなおさら際立ちますが、あんなに大人ぶっているというか冷静かつつかみどころのない遙もやっぱり10代の子供なわけで、ようやく新しい仲間を見つけてさあこれからって時に周囲から過度な期待を向けられ、なおかつその仲間との別れだって近付いているとなるとナーバスになるのもあたりまえ。そういった遙の複雑な機微が丁寧に描かれています。

そして先日のハイスピイベントでも言われていたように、この劇場版はハイスピとTV版を繋ぐもの。なのでここで高校生になった旭と郁弥の登場です。凛とのことがきっかけで、遙が中学時代に水泳部を辞めていたという設定がありましたが、ここにTV版の後で作られたハイスピが関わってくるということに改めて気づかされました。つまり、水泳を辞めたことで、遙は旭や郁弥との関係を(少なくともチームという面で)絶っていたのだということに。そーだよなんで今まで気づいてなかったのわたし! というわけでそのあたりも今回、そして夏の「約束」編、さらに秋の新作で語られていくんだと思います。重たい宿題が残ってたってことなんですね、このシリーズには……。というわけで夏の鮫柄サイド総集編も楽しみです。宗介が見た「光景」がなんだったのかも気になるし。

ちなみに。今回の映画は、本編が始まる前に「キャラクターたちによる舞台挨拶」という謎映像が週替わりで流れます。そしてそこで「フォトセッション」と称し、登壇キャラたちの静止画(キメ絵?)が一定時間映されてて、その間のみ写真撮影可、SNS等での公開もOKという仕様。というわけでちゃんと撮ってきましたともよ。ど真ん中の席取っといてよかった。なお今週は岩鳶チーム&凛の5人態勢です。それはいいんだけど最後に「それではまた来週」的なことを言い出した怜ちゃん……毎週来いってことですか……(笑)。

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*ここ1週間の購入本*
赤瓦もどむ「兄友5」
高尾滋「マダム・プティ9」(以上、花とゆめコミックス/白泉社)
森下真「Im〜イム〜 2〜6」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
あらゐけいいち「CITY 2」(モーニングKC/講談社)
志村貴子「娘の家出6」(ヤングジャンプコミックス/集英社)
青木祐子「これは経費で落ちません!2〜経理部の森若さん〜」
山本瑤「エプロン男子 今晩、出張シェフがうかがいます」(以上、集英社オレンジ文庫/集英社)
瑞山いつき「双翼の王獣騎士団 狼王子と氷の貴公子」(一迅社文庫アイリス/一迅社)
秋田みやび「ぼんくら陰陽師の鬼嫁1〜2」(富士見L文庫/KADOKAWA)
西尾維新「人類最強のときめき」(講談社ノベルス/講談社)
皆川博子「辺境図書館」(講談社)
福田和代「薫風のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート3」(光文社)
宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」(KADOKAWA)
「文学ムック たべるのがおそい vol.3」(書肆侃侃房)


ナルラ伯爵オーガストと秘密結婚したアップルだが、ハーキュリーズ神との契約の影響で正式な夫婦にはまだなれておらず、またアップルも新婚および伯爵夫人としての生活にはまだまだ不慣れな状態。そんな折、アップルの父に挨拶をするために実家に向かったふたりだったが、そこに現れたのはアップルの婚約者だというインカラ国の青年商人・アスラン。父が遭難前にアップルとの結婚を決めていたのだという。オーガストのこともあり婚約破棄を承諾する父だったが、当のアスランは諦めきれず、オーガストに決闘を申し込んできて……。

飲んだくれヒロインと下戸の青年貴族の結婚に暗雲が?なシリーズ2巻。

神のみぞ知る秘密結婚とはいえ、一応は夫婦となったアップルとオーガスト。しかしアップル側には婚約者が現れるわ、オーガスト側には没交渉かつ絶賛引きこもり中の義母がいるわでさあ大変。さらにアスランが契約しているヘスティアー神は、アップルのそばにいるディオニューソス神と因縁があるらしく、そっちのごたごたにも巻き込まれる羽目に。さらにそんな騒動の中、思うように距離が縮められないふたりはとうとう喧嘩。次々と問題が起こるという目まぐるしい展開ではあるのだが、喧嘩がふたりの距離を縮めてくれるエピソードにはほっとするやらニヤけるやら。しかも事件が解決し、ついにふたりは正式な結婚式を挙げることになるのだが、派手過ぎるとアップルが難色を示していた式のあれこれの意味がわかるエピソードもまたなんというかごちそうさまでしたー!ということで。


◇前巻→「杖と林檎の秘密結婚 神に捧げる恋の一皿」


過疎化を食い止めるため、人とあやかしの共存計画が密かに進められている龍神町。七生はあやかしの代表たる「龍公」として町おこし案を考えるも却下され続ける日々。そんな中、夜になると軽微ではあるが怪異が発生しているため、白井たちが夜回りをすることになったという。あやかしたちが騒いでいるのは「龍公」たる七生が街に戻ってきたためだということを知った七生は、責任を取るという意味も込めて夜回りに参加することに。するとその夜、送り犬が現れ、見回り中に転んだ人を襲ってしまう。あやかしに対して理解を示していたはずの白井までもが否定的な意見を述べ始めるのを見て、七生は共存計画の難しさを改めて突き付けられるかたちとなり……。

ひょんなことからあやかしの代表として裏町長になってしまった青年の奮闘を描くシリーズ2巻。

町おこしというだけでも大変なのは目に見えているのに、そこに「人とあやかしの共存」というのも絡んでくるのだから、そう簡単にいくはずもなく……という展開の今巻。特に浮き彫りにされていたのはやはり、人があやかしを受け入れることはできるのか、ということ。もちろん、その逆も。

イケメン唐傘青年に運命の恋を感じて添い遂げる覚悟を表明した女子高生・芽衣のハートの強さはどう考えても例外で(しかしこのエピソードはテンション高すぎて好きだ……)、あやかしの生態は、そのつもりはなくとも人にとっては害になることがしばしば。どちらかのルールに完璧に合わせるというのはどだい無理な話で、どこかで折り合いをつけるしかないのだが、理屈としてわかってはいても、感情的に理解できるかどうかというのはまた別もの。さらに人とあやかしにはそれぞれがもつ時間の長さが極端に違いすぎるため、いろいろな点で齟齬が生じてしまう。それらを理解して受け入れることができる七生もやはり規格外で、だからこそあやかしたちに好かれるわけだが(今回もますますモテモテであった)、そんな彼だからこそ町を変えられるのではないかという期待はあやかしでなくとも膨らむ一方。今後の活躍にも期待したい。あとあやかしたちからのモテっぷりも(笑)。


◇前巻→「今日から、あやかし町長です。」

ニアデッドNo.7 (電撃文庫)
九岡 望
KADOKAWA
2017-04-08

気付いた時にはダークスーツを身にまとい、火の粉をまとう刃を振るう「境死者(ニアデッド)No.7」となっていた赤鉄。仲間だという「No.6」紫遠と共に「外死者(アンデッド)」なる異形を狩る中で、彼は自分が何者なのかを探り続けていた。そんな中、赤鉄はかつての自分が普通の男子高校生だったこと、そして代替わりで存在し続ける「境死者」において、赤鉄は先代の「No.7」緋霧に殺されたために現在の姿になったということを知り……。

「エスケヱプ・スピヰド」のコンビによる新作は、生者でも死者でもない7人の「境死人」が、死してなお動き人に害をなす「外死者」を狩るダークアクション長編。

愛した人を殺すことで代替わりし、その能力を受け継ぎ進化させながら外死者 たちと戦う「境死者(ニアデッド)」。7人しかいないという存在の中でも、現時点で一番の新参者なのが主人公の赤鉄なのだが、なぜか彼には生前の記憶が残っていたり(普通はニアデッドになる前のことは覚えていないらしい)、それゆえか先代の能力を完全に受け継げきれていなかったりと、なかなか規格外だというところから物語はスタート。やがて明かされる先代である緋霧との関係、そして彼がニアデッドになるきっかけとなったアンデッドとの再会など、赤鉄がニアデッドとして覚醒するまでがじっくりと描かれてゆく。単なるホラー系アクション一辺倒ではなく、さりげなく赤鉄と緋霧のロマンスめいたものが織り込まれているのがとてもいい。今巻では赤鉄と紫遠の他にふたりのニアデッド(リーダー的存在の「No.1」緑狗と、メカニック的存在の「No.3」青薇)が登場したが、残る3人も気になるのでぜひ続編希望ということで。


ヘクセンナハトを間近に控え、魔女たちは学院を中心として準備を進めていた。そんな中、堀之内から「黒の魔女」である妹について問われた各務は、ハンターやメアリーを伴い、品川のファミレスで腹ごしらえをしつつ説明をすることに。そこでハンターはフルールも呼び寄せるのだが、道中でフルールはある少女と出会い、行先が同じということで同行することに。しかしふたりを出迎えた各務は驚きを隠せなかった――フルールに同行していたのが、妹にして「黒の魔女」たる各務・硝子であったがために。各務が自分を追ってこの世界に現れ、仲間を得て、いまやその仲間たちと自分を倒すための算段を立てていたと思い込んだ硝子は逆上して各務を刺し、「黒の魔女」として顕現。各務と堀之内が召喚したジオフレームに一撃を加え、翌日の再戦を宣言して姿を消すのだった。しかも各務は硝子に刺された後に昏倒し、そのまま意識が戻らず……。

川上稔によるロボットSF的魔法少女シリーズ、4巻にしてついに完結。いくつもの世界を越えた壮大な姉妹喧嘩にもついに決着の時が。

「黒の魔女」の想像によって作られた世界なのだから、彼女の想像を越えれば勝機がある――という、言葉にすれば単純だが実際やるとなるとどうすればいいんだ的な命題からスタートした最終巻。ようやく硝子が姿を現し、独白を重ねることで、彼女が各務に対して抱えていたコンプレックス、ひいては彼女が世界を次々と滅ぼしてゆくその理由が明かされてゆく。ある意味まっすぐなその性格はさすが各務の妹と言ったところで、まあなんとなればすべて各務が悪いのでは(笑)と思えなくもないがそこは置いておいて。想像すること、そして創造すること――図らずも各務が有していたのも、無から有を作り出すクラフト能力。絶対的にすら見える力ではあるが、かと言ってひとりが想像し、創造できることには限りがある。束ねられた力はいつしか「神」の想像すらはるかに超えてゆく――そんな希望に満ちたラストがとても印象的だった。


◇前巻→「OBSTACLEシリーズ 激突のヘクセンナハト3」


野崎まどが脚本を務めるファーストコンタクトSFアニメ「正解するカド」にちなんだ、様々な「ファーストコンタクト」がテーマの短編アンソロジー。国内作家6人、海外作家4人の計10作が収録されている。以下、特に気に入ったものについてひとこと。

◇小川一水「コズミックロマンスカルテット with E」
「NOVA7」収録につき既読……ではあるがやはり面白い。性別だけでなく種族もなにもかもを越えての婚姻が認められている世界での、ヒトの男性・田中雅美、ゲル状宇宙人ヴィクリット(美女に擬態中)、宇宙船のAI・紅(現在の設定は女性タイプ)、そして補助ワゴンのオブスキューアによる四角関係(?)の顛末は見もの。

◇シオドア・スタージョン「タンディの物語」
エキセントリックな少女・タンディの身にいったい何が起きていたのか――「ブラウニー」は何者だったのか。終わったと見せかけて実はここからが始まり、という結末には背筋が凍る。

◇円城塔「イグノラムス・イグノラビムス」
読んだのがこれで何回目かはわからないが、円城作品の中では好きな方に入る短編。センチマーニが気を失うくだりが特にお気に入り(笑)。

◇コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」
編者もあとがきにて書いているが、問題作にして異色作。結局「テッセル」がなんだったのかはわからずじまいだが、その存在、そしてそれに遭遇したことで変わってゆく世界が直截的に描かれてゆく。もしかしてあれは何かの寓意なのだろうか。

◇野崎まど「第五の地平」
「NOVA+ バベル」収録に付き既読……ではあるがやはり面白い(2度目)。ただ、以前読んだとき、実はあまりピンと来ていなかったのだが、今回改めて読むと以前よりは意味が分かるような気がするのは私のSF強度が上がったのだろうか(笑)。さておき、ボオルチュの仮説にチンギスが説得されてゆく流れが面白い。あとボオルチュがプレゼンに使ったソフト「力点」がそのまんますぎて笑ってしまった。

それにしても今日は変な天気だったな……朝からいきなり土砂降りで、しかし30分程度で止んだから単なる通り雨だなーとか思ってたら午後からも雷雨。夕方散歩に行こうかと思ってたけどいつまでもゴロゴロ言ってたから断念しつつニュース見てたら、岡山市内ではあられが降ったところもあったみたいで。さらにいうと高松では今年初の夏日だった……ってどーゆーことだよ。多少葉が出てきたとはいえまだ桜は見られる状態みたいですが、今日お花見してた人は大変だっただろうな……。

最近のお買い物。
久しぶりにTommyさんとこで新作をゲットいたしました。マカロンてんこもりだよ!

マカロン


あと、イラストレーターの雲屋ゆきお氏が同人誌として出した商業イラスト集(クリアファイルつき)もゲット。Twitterで見た時からすごい気になってたので買えてよかったです。う、美しい……!コバルトのピンナップ絵と青薔薇伯爵の番外編絵と精霊歌士の口絵がすき。いやもうやっぱり全部すき。

雲屋ゆきお


*ここ1週間の購入本*
森下真「Im〜イム〜1」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
黒乃奈々絵「PEACEMAKER鐵12」(MGコミックス・ビーツシリーズ/マッグガーデン)
米代恭「あげくの果てのカノン3」
ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール5」(以上、ビッグコミックススピリッツ/小学館)
西炯子「ちはるさんの恋3」(アクションコミックスまんがタウン/双葉社)
長崎ライチ「ふうらい姉妹4」
長崎ライチ「地球に生まれちゃった人々」
原鮎美「織子とナッツン3」(以上、ハルタコミックス/KADOKAWA)
仲村つばき「杖と林檎の秘密結婚 新婚夫婦のおいしい一皿」(ビーズログ文庫/KADOKAWA)
糸森環「今日から、あやかし町長です。二」(富士見L文庫/KADOKAWA)
川上稔「OBSTACLEシリーズ 激突のヘクセンナハト4」
九岡望「ニアデッドNo.7」(以上、電撃文庫/KADOKAWA)
兎月竜之介「歌姫島の支配人候補」(ノベルゼロ/KADOKAWA)
周木律「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(角川文庫/KADOKAWA)
須賀しのぶ「ゲームセットにはまだ早い」(幻冬舎文庫/幻冬舎)

舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)
野崎 まど
アスキーメディアワークス
2010-04-24

大学院生の舞面真面(まいつら・まとも)は、暮れの押し迫る時期に叔父・影面から呼び出しを受ける。影面の娘である従姉妹の水面と共に聞かされたのは、真面の曽祖父・舞面彼面が残した「遺言状」の謎を解くことだった。「遺言状」に示されている「箱」「石」「面」のうち、「箱」は蔵に残されていた金属製の箱、そして「石」は舞面家の土地に置かれている正方形の巨大な石であろうことだけはわかっているが、このふたつに何が隠されているのかはまったくわからない。そしてもうひとつ、「面」の所在も。大学の仲間に頼んで「箱」の解析を進めようとする真面だったが、その矢先、「石」のそばで動物のような奇妙な面をかぶった謎の少女・みさきと出会い……。

名前に「面」を冠する青年が、面をかぶった少女と出会ったとき、いったい何が起きるのか――という、予測不可能な異色ミステリ長編。

「箱」と「石」と「面」、これらを解けば「よきもの」が待っている――そんな奇妙な「遺言状」を残したのは、一代で大財閥を築いた真面の曽祖父・彼面。戦後の財閥解体により、彼面が築いた財閥は現在に残されてはいないが、しかしそんな大人物であったならさぞかしすごいもの――例えば大金――が残されているのではないか、と考えてしまうのは私だけではないはず。しかしそんな期待を裏切るかのように、真面たちが挑む「謎」は奇妙な結果をもたらすことに。そしてまた、真面の前に現れた謎のお面少女・みさきも。

かつて彼面のそばに侍っていたお面の少女と、現在真面たちの前に現れたみさきの関係、そしてその面がもつ意味。「解く」とは一体どういうことか。そんな謎解きの傍らで、みさきは真面にあることを指摘。それが物語の顛末に深く関わってゆくことになるのだが、今回もやっぱり「まさか!」と思わされる結末が。ある意味反則技と言えなくもないが、しかし力ずくだとしても納得させられる「なにか」が宿るラストだったように思う。


甲賀忍者の少女・翠は、双子の兄である烈と共に、凄腕の忍者と名高い先輩・天竜に呼ばれ、江戸へと向かうことに。尊敬する先輩からの指名で、なおかつ忍びとしての任務ということで喜ぶふたりだったが、向かった先で天竜が営んでいたのはまさかのそば屋で、翠は配達、烈は店の手伝いと近所の猫探しを命じられる。気落ちしながらも仕事をこなしていた翠だったが、近所の子供が仕掛けた落とし穴にうっかりハマってしまったところを、通りすがりの見目麗しい青年絵師・狩野皓幽に助けられるはめに。バカにされ悔しがる翠だったが、その後も何度か会ううちに親しくなってゆくのだった。そんな折、天竜から明かされたのは、そば屋を隠れ蓑にした彼の本来の任務のこと。天竜に協力することになったふたりは、幕府を狙う組織から将軍・徳川佳継を守ることになり……。

忍びの少女が恋に任務にと奮闘する和風ファンタジー長編。

一人前の忍びではあるものの、まだ少女ということもあってか、後方支援的な仕事しかさせてもらえず不満を抱いたりすることもしばしばな主人公の翠。双子の兄とはいえ同い年の烈が前線に出ていくこともあるため、そのコンプレックスはひとしお。しかし現在は吉原で太夫となっている先輩忍者の葛葉や、彼女を呼び寄せた天竜の言葉、そして初めての恋が翠を成長させ、強くしていくという展開は正しく少女小説!という感じでとてもよかった。ついでに言うと、天才忍者だったはずの天竜が即席そば(つまりカップラーメン的な)を江戸で流行らせていたり、コンビニ的なものを作ろうかと発案したりと、妙なところで商才を発揮していたり、そんな天竜にひたすら思いを寄せ、口を開けば「押し倒す」と意気込む葛葉など、周囲の面々もなかなか濃ゆい感じが面白い。

ちなみに、敵組織「黒牙」の目的や主要メンバーは判明したものの決着はついていないし、中でも禁断の呪術を使用して戦う強力な忍び「逆呪禁」の正体が(翠にのみ)バレていなかったりと、いろいろと微妙なところで終わっている本巻。翠と皓幽、そして将軍佳継の三角関係(とはいえ完全に佳継の負けが見えているのだが・笑)にも決着がついていない……と思っていたら、実は続編は作者のpixivアカウントにて公開されているとのこと。また文庫版同様、雲屋ゆきおによる挿絵付きで同人誌化もされているということで、こちらまで読めば完結するという仕様になっている。こちらでは黒牙との決戦、三角関係の行方、ついでに天竜の初恋話(わりと重い)まで絡んでくるという展開となっているが、過去、あるいは様々なしがらみに囚われていた面々が、それらの呪縛を飛び越えることのできるラストで本当に良かったと思う。なお、同人誌版には翠と皓幽のイチャラブ的な後日談が収録されているのだが、その先の道中も読んでみたくなった(笑)。

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