phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


例年にない酷暑の中、家の前で行き倒れていた男を助けた秀麗。燕青と名乗るその青年は静蘭の古い知り合いということで、しばらく居候させることに。そんな折、暑さで官吏たちが倒れ、朝廷が人手不足ということで、秀麗に外朝でしばらく手伝いをしてほしいという依頼が舞い込んでくる。もちろん外朝は女人禁制、しかもうっかり劉輝に遭遇してしまう危険性もあるため、秀麗は男装し「秀」と名乗り、同様に軍の仕事に駆り出された静蘭の代わりとして燕青を伴い、働くことになったのだった……。

中華風ファンタジーシリーズ2巻。官吏になりたいという夢を諦めきれない秀麗が、なぜか官吏の仕事に(男装して)就くというまさかの展開に。

官吏になりたいのに、性別が女性というだけでその道を閉ざされてしまっている秀麗。そんな彼女が先の出来事で高官たちと知り合ったり、政務に携わったりする中で、手が届きそうで届かないという現実を目の当たりにさせられる場面も。また、夏という季節は彼女にとってトラウマのある苦手な季節ということで、今巻の秀麗は落ち込んだり悩んだりと気持ちが沈みがち。そんな彼女を支えてくれたのは、謎の行き倒れ青年・燕青と、トンチンカンなプレゼントや手紙を送り続ける国王・劉輝の存在だった。燕青に関しては知り合ったばかりの他人ではあるが、逆に他人だからこそ見えてくるものもあるし、父親や静蘭には決して言えないようなアドバイスをくれることもしばしば。燕青の性格のせいもあろうが、狭い世界だけでは何事もうまくまわらないものだな、と思い知らされる。なお劉輝は……まあ、ドンマイ、ということで(笑)。

類稀なる美貌を仮面で隠す能吏・黄奇人や、その友人で秀麗にとっては叔父にあたる(しかし面識はなさげ)紅黎深らも登場し、また劉輝が女子の官吏登用を目指して動き出したことで、秀麗の運命は再び大きく動き始めることに。秀麗にしても劉輝にしても、周囲の人々に恵まれているなあと思うが、しかしふたりがそれを活かせる力を持っているからこそ、彼らのような有能な人々が集まってくるのだろう。困難しかないであろう道を自ら選び取ろうとする秀麗のまっすぐさや、やろうと思えば力ずくで手に入れることができるのに、彼女の意志を尊重してやまない劉輝の素直さがとても眩しく映る巻だった。


◇前巻→「彩雲国物語 一、はじまりの風は紅く」


仙人の加護を得て建国されたという彩雲国。名門貴族・紅家の令嬢でありながら、なぜか貧乏暮らしに喘いでいる秀麗にもたらされたのは、先だって即位したばかりの国王・紫劉輝の教育係として後宮に入る(ただし期間限定)という賃仕事。破格の報酬に飛びついた秀麗だったが、貴妃として入った後宮には彼女以外の妃嬪はおらず、待てど暮らせど劉輝がやってくる気配もない。それどころか彼には男色家との噂まで流れていた。ある日、暇を持て余した秀麗は、饅頭を作って王宮内で働く父親を訪ねることに。そこに現れたのは「藍楸瑛」と名乗る青年だったが、秀麗はつい先日、同じ名前の官僚と顔を合わせたばかり。翌日からも秀麗の手作り菓子につられてやって来る「藍楸瑛」を餌付けしつつ、秀麗は思い切ってある昔話を彼に語り……。

2003年にビーンズ文庫から刊行された中華風ファンタジーシリーズが、加筆修正されて角川文庫から再刊行。1巻では、後に彩雲国で女性初の官吏となる主人公・紅秀麗が、国王である紫劉輝との出会いが描かれてゆく。

名門貴族のご令嬢だというのに、世渡り下手な父親のせいで、庶民生活が板につきまくっている主人公・秀麗。書物好きな父親、13年前に拾って以来居候している青年武官・静蘭とつつましく暮らす秀麗は、数年前に起きたある出来事がきっかけで官吏になることを目指すも、彩雲国では女性が政治に関わることができないため、その夢を諦めていた。そんな彼女がこのたび関わることになったのは、なんとこの国の王様。政治に興味を持たない彼をサポートし、どうにかまっとうな王様になるよう軌道修正すべく秀麗が奮闘する……と思っていたら、そのへんはわりとあっさり成功。しかし国王の座を狙う陰謀に巻き込まれてしまうことに。

陰謀あり、ロマンス(?)あり、解けずじまいな謎もあり……と、スピーディーながらも丁寧な展開が小気味よく、また秀麗と劉輝の微妙な関係がなんとも微笑ましい。昏君と見せかけて実は文武両道、しかしある理由で「能ある鷹は爪を隠す」がごとく振舞っていた劉輝や、そんな彼を信頼して集い始めた若い官僚たちが、これから国をどう動かしていくのか、そして秀麗の夢はどのように実現するのか……長いシリーズなので波乱万丈が待っていそうで、いろんな意味で今後の展開が楽しみ。

偶然の聖地
宮内 悠介
講談社
2019-04-25

登攀が困難――それは山の険しさだけでなく、入口そのものが見つからないという意味でも――なことで知られ、また登山者に謎の意識変容をもたらすことがあることから、信仰の対象ともなっている謎の山・イシュクト。「わたし」こと怜威の祖父もまた、その山に向かい行方不明となったひとりである。そんな祖父が失踪後にニルファムという女子をもうけていることを知った怜威の両親は、ニルファムがその麓に住んでいるというイシュクト山へ向かうよう、怜威に命じる。バックパッカーになっていた小学生時代の友人・ジョンの助けを得て、怜威はもっともイシュクトにたどり着きやすいというルートで向かうことに。一方、怜威が旅立った直後、なぜか怜威の部屋で謎のミイラ化した遺体が発見される。刑事のルディガーとバーニーもまた、怜威を追ってイシュクトへと向かうのだが……。

講談社の文庫型雑誌「IN POCKET」で2014〜2018年にかけて連載されていた、幻のごとき謎の山をめぐる長編作。書籍化に当たり、作者の実体験を基にした注釈が付記されている。

そもそもたどり着くことが困難だし、たどり着いたとしても登攀できる可能性も低い。謎の意識変容を引き起こし、幻覚を見せられそのまま行方不明になる者も多数。そして山を下りたかと思えば、なぜか登った時とはまったく別の場所(方角的な意味ではなく、国とか大陸とかがそもそも違う)に出てしまう。しかし、もし登攀に成功すれば、どんな願い事でもひとつ叶えてくれるという――代わりにひとつ、何か大事なものを失ってしまうけれど。そんな不思議な山・イシュクトに向かうのは、祖父の隠し子を探しに行くことになった怜威とその友人・ジョン……だけではなく、怜威たちの他に3組の人々。怜威を追う刑事コンビ、ルディガーとバーニー。かつて偶然にもイシュクトに登り、そこで大事なものを失ってしまったティトとレタ。そしてイシュクト山の存在を問題視する「世界医」のロニーと泰志。この4組のイシュクト山への道のりが交互に描かれていく。

秋の後にわずかな期間だけ現れるという「春」――これは「旅春」と呼ばれ、「世界」がかかる病とされる。世界医たちはこの「旅春」によって引き起こされる世界の異変を直していく。それはあたかもプログラマーがデバッグするのと似たようなもので、そして彼らが今まで問題視しながらも果たせなかったのが、世界最大のバグであるイシュクト山の存在だった。この山を巡り、4組の道程は思いがけない方向へと転がってゆく。目的地が同じというだけでほとんど関係なさそうだった彼らの旅が、いつしかひとつの道筋となり、しかしそれぞれの思惑によって絡まり合っていく様はなんとも面白い。そしてそれがひとつの答えに収束してゆくのも。中盤までのロードムービー的な展開がわりとドライに推移していくのに対し、終盤では「旅は道連れ、世は情け」と言いたくなるような流れになっていくのもよかった。

実は今月、イベント参加のために東京に行く予定があるのですが、気付いたら6月も7月も東京に行く予定ができてたのでした。一時期、ライブであちこち飛び回っていたころはこういうこともよくあったのですが、最近はとんとごぶさただったので、いつ何しにどこへ行くのかこんがらがってきております……泊まりの日と日帰りの日が混在してるので余計に。しかも泊まりありの遠征自体も久しぶりなので、何を持っていけばいいかわからなくなっております。慣れって大切ですね(笑)。しかし昔はライブのためでしたが、今回はアニメ・声優関係のイベントばかりというのも、なんというか時の流れを感じますね(?)。

その昔、東京行きに際しては新幹線一択でした。当時は「のぞみ早得きっぷ」という特殊な往復切符が期間限定(といいつつほぼ通年やってた)で発行されており、利用日の21日前から先着順で、確か岡山−東京間が往復24,000〜28,000円くらいで買えたんですよね。しかし今はやってる時期が本当に限られてるようだし、やってても昔より値上がりしてます。どちらかというと今はEX予約などのネット・電話予約サービスに移行してるみたいですね。しかしそっちもびっくりするほど安くはないわけです。サービスによっては専用のクレジットカードを作る必要もあるみたいですし。

しかし数年ほど前から年に1回、母親と東京旅行に行くようになったのですが、旅行代理店でホテル込みのプランを利用すると、基本的に交通手段は飛行機なんです。しかも宿込みでわりとお安い。今までは「飛行機は高い」というイメージがあったので敬遠していたのですが、ちゃんと調べてみると、予約時期や乗る曜日・時間帯によっては新幹線よりも数千円安かったりもするんですね。もちろんそういうのは便の変更ができなかったりしますが、イベント参加であればよほどでない限り予定が変わることはないし、そもそも新幹線だってプランによっては変更できないので、条件的には大差がないんですね。

ということで最近は飛行機に乗るようになりました。昔は飛行機酔いがひどかったんですが、最近はそうでもないし。まあ飛行時間は1時間ちょっとですが、空港から東京駅方面へ向かう時間や、乗り降りの前後にかかる時間も加味すれば新幹線(約3時間)とあまり変わらないような気がします……とはいえ、実は我が家から空港までわりと近いので、トータルで考えると時間的には飛行機の方がちょっと早いかなーという感じですね。まあ一番早いのは、自分が東京に住むことなんですけどね(極論)。


*ここ1週間の購入本*
matoba「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。10」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
荒川弘「アルスラーン戦記11」(KC別マガ/講談社)
ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール13」(ビッグスピリッツコミックス/小学館)
紅玉いづき「悪魔の孤独と水銀糖の少女2」(電撃文庫/KADOKAWA)
秋田みやび「ぼんくら陰陽師の鬼嫁5」(富士見L文庫/KADOKAWA)
雪乃紗衣「彩雲国物語 二、黄金の約束」
雪乃紗衣「彩雲国物語 三、花は紫宮に咲く」(以上、角川文庫/KADOKAWA)


海に浮かぶ麒麟、青龍、朱雀、白虎、玄武の5つの島々は、それぞれの神々の加護に支えられ、常に海上を回転し続けている。5島の中でも中心部に位置する麒麟島は、白虎島との接近の日を迎えていた。孤児院を飛び出し、掏摸で生計を立てている青年・ヤンは、弟分のリーインと共に、白虎島からやってきたという少女・フォニアの懐から玉環のようなものを盗み取るが、それは真っ黒な石でできており、とても値打ちのあるようなものではなかった。落胆するふたりだったが、翌日、彼女がそれを探し続けているのを目撃。見かねたふたりは「拾った」と称してその玉環を返すことに。お礼にと食事に誘われたふたりは、断り切れず付き合うことにするのだが、一方でヤンは、彼女が何者かに後をつけられていることに気付き……。

神々の力の影響が微かに残る島国で、世界の命運を賭けた戦いに掏摸の少年が巻き込まれることになる中華風ファンタジー長編。

回転しながら近付いたり離れたりする島々や、どこからともなく降ってくる光る花びらなど、神秘的な現象がいくつも起こる世界。そんな中で繰り広げられるのは単なるボーイ・ミーツ・ガールではなく、麒麟島――麒麟神皇国の、そして世界の存亡すらもかかってくる大騒動だった。主人公のヤンは孤児であり、掏摸で生計を立てているものの、初めて掏摸を働いた相手のことが心の傷となって残っており、繊細な面と図太い面のふたつを併せ持つどこか不安定な青年。しかも彼には他人に言えない秘密があり……ということで、その「秘密」や後悔が、彼のその後の行動の指針となっていくことになる。

ヤンが直面する問題が、フォニアとのこと、麒麟神皇国のこと、そしてこの世界そのもののこと……とどんどんスケールアップしていくので、1冊でまとめるのはちょっともったいないような気もするし、けれどコンパクトにまとまっている方が読みやすくはあるので、これはこれで。実は5年前の作品なので、さすがに続編はなさそうな気もするが、ヤンとフォニアのその後や、他の島を舞台にした話も読んでみたい。


玉川上水で女性と入水自殺をしたはずが、なぜかずぶ濡れの状態で道を歩いていた太宰治。あたりはまるで見たことのない風景で、「7」と書かれた商店で見かけた新聞には「2017年」とある。驚きのあまり卒倒した太宰は、傍にいた女性――長峰夏子に助けられ、しばらく彼女の家で療養することに。なぜか自分が未来の東京にやってきてしまったことを悟った太宰は、はかなげな美女・夏子が生きることに疲れている様子を見てとり、心中を持ち掛ける。しかし現代の玉川上水で溺死できるはずもなく、ふたりはあっさり助かり、太宰はそのまま病院から逃げ出すのだった……。

あの太宰治が2017年の東京に転生!?というまさかの展開から始まる、ある意味「転生もの」な長編作。

カプセルホテル、ライトノベル、メイドカフェ、インターネット……等々に接し、その都度カルチャーショックを受ける太宰。一方で、生前とは異なり、自作が高く評価されていることに満足感を覚えて有頂天になる。かと思えば、現代が文学にそれほど重きを置いていないことを知り落胆する。語り口調のテンションは低いが、感情は常に乱高下しており、しかも新たな文化に驚きつつも深く疑問を抱かないという妙な割り切りの良さがなんとも面白い。

一方で、彼は昭和を生きていた作家のひとりだからして、当時の文壇の様子を事細かに思い出し、現在のそれと比較して嘆くこともしばしば。そんな中、彼は生前に欲しくて仕方なかった芥川賞を手にするべく、夏子の妹で地下アイドル(ただし人気はない)をしている乃々夏にアドバイスし、彼女に芥川賞を取らせようと画策し始める。まさにプロデューサーといったところだが(ちなみにその後、彼はアイマス二次創作にハマる・笑)、そこでもやはり、作家としての能力の片鱗を見せつける。ただしその考え方が、ののたん(乃々夏の芸名)というキャラクターにギャップを持たせて構築するという、ある意味「キャラ文芸」のようなことをしているのがますます面白い。すでに続編が出ているようだが、太宰のプロデュースで乃々夏は作家として大成できるのか、気になるところ。


理美が五龍共々行方不明となった。槌瑤麓ら探したい気持ちを懸命に抑え、皇帝としての職務に没頭する一方、丈鉄に捜索を命じる。一方、朱西は犯人が周考仁であると考え、利害が一致した丈鉄と共に彼の周辺を探ろうとするのだった。その頃、理美は考仁が管理している廃墟に閉じ込められていた。五龍と引き離してから始末すると告げられた理美だったが、その前に現れた呂蓮佳と名乗る女性に保護されることに。彼女が高位の官吏だと判明したため、自身の正体を明かせない理美だったが、なぜか彼女はそのまま屋敷に置いてくれるようで……。

料理で人の心を繋ぐ……はずが、いつの間にか王宮内の御家騒動やら権力争いやらの渦中に身を投じるはめになる、中華風ファンタジーシリーズ8巻。

引き続き今巻も、宰相・周考仁と、鳳家当主となり暗躍する朱西の親子喧嘩(?)に巻き込まれっぱなしの理美。とはいえここにきて強硬手段に出るあたり、考仁の方も冷静ではいられない様子。そのあたりを解き明かしてくれるのが、今巻で偶然にも理美を助けてくれた女性官吏の蓮佳。かつて考仁、そして朱西の実父である青修とは友人であった彼女によって語られるふたりの関係が、現在の考仁の行動基盤に大きく影響していることがわかるという展開に。

とはいえ考仁は皇帝派の最大勢力であるがゆえに、理美誘拐の犯人として彼を弾劾できないというジレンマ。朱西も皇帝派の勢いを削りたいわけではないため、それぞれが思うように動けず、事態はこんがらがるばかり。そんな中、思いがけず朱西とふたりきりになった理美が彼を問い詰めるシーンには思わず息を飲まされる。今回のことで、朱西の目的があらかた見えてきたような気もするが、もしその予想――もちろん理美の「期待」とは結果的に異なってしまうであろうが――が当たっていれば、それはそれでろくなことにならないような気がして頭が痛い。さらには伯礼が祥飛のため、再び鳳家前当主の寧孫に近付こうとしているのもマイナス要素としか思えない。ラスボスがなんとなく見えてきたものの、肝心な部分はまだ解決しないまま。次巻で少なくとも、考仁と朱西親子のわがたまりだけでも解ければいいのだが。


◇前巻→「一華後宮料理帖 第七品」

久しぶりにTwitterを開いたところ、4月の終わりに宮内悠介氏の新作が出ていることが発覚し、びっくりしてAmazonで調べてたら、下の方の「この本を買った人はこんな本も買ってます」という欄に「波よ聞いてくれ」の新刊が出てきてて、これもいつの間に出てたんだ!(※3月)と思いながら同時にポチりました。その半日ほど後、ふと思い出して「金のひつじ」の新刊もそろそろ出てたりする……?と調べてみたら、こちらも4月の終わりに出てたことが判明し(しかも完結巻)、なんというか自分のアンテナの低さに絶望している今日この頃です。

それで思い出したんですけど(唐突)、実は5月6日を持ちまして、当ブログは12周年を迎えました。ブログ始めた頃に子が生まれてたとしたら、もう小6になっちゃうくらいの年月ですよ。そりゃ物忘れも激しくなるわ(笑)。しかも先日、1年ぶりの現場仕事に出たんですが、なんか業務中に立ったり座ったりを繰り返したせいか腰が痛いし……もうむり……。


*ここ1週間の購入本
松崎夏未「烏に単は似合わない2」(イブニングKC/講談社)
尾崎かおり「金のひつじ3」
沙村広明「波よ聞いてくれ6」(以上、アフタヌーンKC/講談社)
佐藤友哉「転生!太宰治2 芥川賞が、ほしいのです」(星海社フィクションズ/星海社)
宮内悠介「偶然の聖地」(講談社)


魔術師の総本山「時計塔」において「君主(ロード)」の位を持つ魔術師エルメロイ鏡い蓮義妹であるライネスからの「依頼」により、《修復師》ゲリュオン・アッシュボーンが有していた「剥離城アドラ」の遺産相続に立ち会うことに。内弟子のグレイと共に向かったその城には、名だたる魔術師たちが呼ばれており、立会人である化野菱理からは謎解きとしか思えない「遺言」を言い渡されたのだった。集まった魔術師たちにはそれぞれに天使の名が与えられており、これをヒントにそれぞれが城の探索を始めるが、その数日後の朝、立会人であるはずの菱理が両眼を刳り抜かれて殺されているのが見つかり……。

「Fate」シリーズのスピンオフとなる魔術×ミステリシリーズ第1弾の文庫化。「Fate/Zero」シリーズに登場していたウェイバー・ベルベットの10年後の姿であるロード・エルメロイ鏡い、内弟子の少女・グレイと共に、魔術師が起こした事件を解決してゆく。

まさかあのウェイバーがこんなにも渋い感じに……と驚きながらページを繰った本作。時計塔に12人しかいないとされる「君主」のひとりとして有名ではあるが、魔術師としての腕は二流かそこら。相変わらず体力もなく、しぶしぶ向かった剥離城に集う魔術師たちの誰よりも自分が弱いことを自覚し、しかしその知識や観察力、洞察力は他の追随を許さない。他の魔術師たちから畏怖され、あるいは軽侮されながらも、彼は彼のやり方で真相へたどり着こうと試みる。本人にそのつもりはないのかもしれないが、宝石魔術を得手とするルヴィアゼリッタや、蝶魔術の使い手であるオルロック老が使う魔術を自分の謎解きや状況の打破に使うあたりなかなかちゃっかりしており、そういうところも彼の過去を想起させられる。

いうなれば「なんでもあり」の魔術師が事件を起こす以上、「ハウダニット」や「フーダニット」は意味をなさないが、「ホワイダニット」――動機であれば推理することはできる、とエルメロイ鏡い聾世ΑK盻兒佞箸いΑ△修虜澆衒に対して想像もできない「人種」の彼らだが、しかし他者を殺害するに至るにあたり、何らかの動機があることには違いない。そう考えるとこの物語は確かにミステリである。現実と非現実が折り重なり、やがて現実的に解かれる様がなんとも面白かった。そして、いまだエルメロイ鏡い凌瓦留に残り続ける「聖杯戦争」の影――彼が見たくないからという理由でパーカーのフードをかぶり続ける少女・グレイの存在と相まって、その影はますます濃くなってゆく。そのしがらみから彼が解き放たれるときは果たしてくるのだろうか。


どこにでもいる普通の高校生・高城圭。寝坊したところをピンクの髪のドジっ娘幼馴染・河沢素子に起こされ、トーストをくわえて通学すれば金髪縦ロールのお嬢様(のちに転校生であることが判明)・果志奈モモにぶつかり、たどり着いた高校では廊下の壁に激突した緑髪のボクっ娘(実は男性恐怖症)・虚空レムを助けることに。そして気が付けば、この3人に取り合われることになる。まるで学園ラブコメの主人公のように――そのことに気付いた圭の前に現れたのは、言及院まどかなる眼鏡女子。「虚構を作る力が擬人化した存在」だというまどかは、慣れない学園ラブコメ作り(もちろん主人公は圭)に四苦八苦しているらしく、こうしている間にも彼女が作った学園ラブコメの世界は破綻を始めているのだという。圭が先程トラックにはねられ即死したことも、その証拠であるらしい。まどかの力で生還することになった圭は、彼女に命じられるまま「学園ラブコメ」の構造を守るために奮闘するはめになるが……。

自分が「学園ラブコメの主人公」であることに気付いた男子高校生が、その構造を守るため、ラブコメのお約束をなぞらされる羽目になるメタフィクション学園ラブコメ。

第1章の途中までは学園ラブコメのお手本と言いたくなるくらいお約束な展開のオンパレードで面食らってしまったのだが、まどかが現れてから展開は一変。彼女が「学園ラブコメ」作りに疎いせいで、物語はファンタジーからSF、さらに「なんでもあり」な内容へと変化させられてしまう。以後、圭は自分がフィクションの登場人物であることを自覚させられ、なおかつ自分が存在するフィクションの世界を守ることを義務付けられてしまうのだ。ラノベの主人公が世界を守る存在であるというのはこれまたお約束な話ではあるが、本作の主人公は作中の世界ではなく、物語そのものの構造を守らされる羽目になる。

このように一事が万事、フィクションにおける「お約束」を物語の外側から俯瞰し、ストーリーではなく構造そのものを守ろうとする展開は、脱力感がにじむタイトルからはまるで想像もつかない。また、フィクションを読むにあたり、読者が登場人物に感情移入するというのはよくあることだろうが、本作にはその余地がまったくない。最後の最後まで、自分が何を読んでいるのかわからなくなるような、そんな奇妙な作品だった。

ヒト夜の永い夢 (ハヤカワ文庫JA)
柴田 勝家
早川書房
2019-04-18

天皇の崩御により、大正は終わり、昭和という時代が始まった。そんな折、博物学者である南方熊楠のもとに、福来友吉と名乗る男が現れる。千里眼の研究を行っていた福来は、かつて天狗にさらわれ異界に行ったことがあるという熊楠の噂を聞きつけてきたのだという。熊楠の幼少期の奇妙な体験、さらに彼が現在行っている粘菌の研究に興味を示した福来は、彼を「昭和考幽学会」なる異端研究者たちの集まりへと誘うのだった。果たしてその会合に参加した熊楠は、正体を隠すための黒衣に覆われた人々が、新たな天皇と時代を寿ぐために自動人形を作成しようという話に乗ることに。かつて千里眼の能力に目覚めたものの、世間からペテン師呼ばわりされ自死した劇団員の少女・白蓮満子の遺体を加工した人形に、熊楠の研究によって作り出された「粘菌コンピュータ」とも呼ぶべき人工宝石を埋め込んだ結果、「天皇機関」と名付けられた自動人形が完成。熊楠たちは紀州候のはからいで、天皇に「天皇機関」をお披露目する機会を得ることになったが……。

「思考する粘菌」を埋め込まれ、意志を持った自動人形をめぐり一大騒動が巻き起こる昭和伝奇ロマン長編。

序盤では「天皇機関」の構想から完成までが描かれており、異端とされ後ろ指さされていた様々なエキスパートたちが、団結して新発明をしていくという展開に。素体となる人形が自殺した少女の遺体であることや、思考能力を得た粘菌が結晶化した「人工宝石」ができるまでの過程など、倫理的によろしくない部分は多々あれど、それが完成するまでに熊楠たちが奮闘する姿は、なんとも軽妙で面白い。しかしその「天皇機関」が完成し、彼女が秘めている能力があらわになってから、物語は一変してゆく。

タイトルの「ヒト夜の永い夢」が示す通り、物語はいつしか、夢と現の狭間を往来するようになる。人と人との繋がり――因果、あるいは因縁。一夜限りの、しかし永遠に続くようにも感じられる夢のような狂乱の中で、人である熊楠たちと、人ではない「天皇機関」がその目で視ているものは、果たして「同じ」だったのか、否か。ヒトが超えてはならない一線を――あるいはヒトが立っているその「場所」の思いがけない危うさを、まざまざと見せつけられたような気がした。

もう改元されて4日が経過してますが、気が付けば令和元年ですね。私の改元の瞬間は、妹とおしゃべりをしている真っ最中にいつの間にか過ぎてました(笑)。テレビでは特番が組まれ、4月30日が「平成の大晦日」と呼ばれてたり、スーパーでは年越しそばが売られてたりと、もはやなにがなにやらといった感じで面白かったです。

もちろん私もそれなりにいい年ですので、昭和から平成に変わった瞬間も生きてはいましたが、まあ小さかったし、今回とは改元の理由も違うしで、今回の盛り上がりようは初めて体験するものでした。まだ「令和」という元号には馴染めていませんが、いつか「平成」を過去のものと思える日か来るんでしょうね。しかし「平成」が過去となると、「昭和」とかどうしたらいいんだろう……(笑)。

さて、そんな新たな時代を祝して(違)、初ガチャガチャしてきました。
まずはこちら。「とーとつにエジプト神」ソフビフィギュア第2弾です。

20190504ガチャ1

yukaさんというゲーム関係のデザイナーさんが描いている、動物がモチーフとなっているエジプト神のデフォルメキャラシリーズがあるのですが、それをソフビ化したもの。今回ゲットできたのは、左の「ホルス」と右の「ウェネト」です。鳥とウサギですね。元々ウェネトさんが欲しかったんですが、まさか一発で出てくるとは……令和パワーでしょうか(笑)。

そしてもうひとつ。とうらぶのミニフィギュア「すわらせ隊」第7弾です。とうらぶ関連のガチャ、今まで見たことはありましたが、プレイするようになってから見たのは初めてだったので記念に(笑)。

20190504ガチャ2

こちらは左が太郎さん、右が骨喰くん。ちなみに真ん中はTommyさんのシナモンロール。こちらも太郎さんが欲しかったんですが、一発で出てきた……しかもエジプト神同様、ダブってない……! これはますます令和パワーとしか思えません。ありがとうございました(笑)。


*ここ1週間の購入本*
雪乃紗衣「彩雲国物語 一、はじまりの風は紅く」(角川文庫/KADOKAWA)
山川沙登美「麒麟島神記 祈り巡りて花の降る」(幻冬舎文庫/幻冬舎)



今さらですが「彩雲国」です。実はこのブログを始めるよりも前、ビーンズ文庫版の1巻が出た時から読んでたんですが、途中で投げてしまったんですよね……。「レアリア」や「エンド オブ スカイ」が面白かったので、改めて角川文庫版を読んでみようかと思います。しかしこれ、ビーンズ版1巻が出たのって2003年なんですってね……16年前……(遠い目)


23世紀の香港――世界有数の学術都市となったその島において、最高位の遺伝子学博士であるヒナコ・神崎は、学会出席後にSPの監視をかいくぐって逃走し、対岸にあるネオ九龍をさまよっていた。そんな彼女が廃墟で出会ったのは、巷で「幽霊少年」と噂される謎の人物。ゲノム研究が進み、今や出生前の遺伝子編集や、遺伝子コード登録による情報管理が導入されている香港や九龍にあって、なぜかその監視網にひっかからないという少年の存在が、ヒナコはなぜか気になって仕方がない。だから後日、政府が少年を捕えたというニュースを聞くやいなや、ヒナコは自身の研究を盾に、その身柄の保護を申し出るのだった。ヒナコが研究を続けているのは、原因不明にして致死率100%、しかしAIによる検査では死してもなお異常なしと診断される「霧の病」への対処方法。ヒナコが便宜上ハルと名付けたその少年――なぜか彼は喋れないので――が、自分たち遺伝子編集した人々とは異なる遺伝子を持っている可能性に気付いたヒナコだったが、かといって彼を実験材料として扱うこともできず……。

遺伝子工学が飛躍的に発達した未来が舞台のささやかなボーイ・ミーツ・ガールSF。

AIによる検査では「正常」とされながらも、どこかアンバランスな精神の持ち主である――本人はしもかく、周囲からは不安定さを指摘される主人公のヒナコ。同じく遺伝子学者だった母を奇病「霧の病」で亡くして失意に沈む彼女だったが、周囲はそれこそが不安定の証左だとするのだ。この時点ですでに、この世界の人々の感覚が現在の私たちのそれとは大きく異なっていることがわかる。「正常」と判断されているにも関わらずどこかおかしい、そんな(読者にとっては)不穏な世界で、ヒナコは「幽霊少年」と呼ばれる謎の存在と出会い、あっと言う間に惹かれていく。本人にその自覚はなくても、きっとそれは恋だったのだろう。そして彼――「ハル」にとっても。

言葉が通じないにも関わらず、なんとなくではあるが互いの意思の疎通がとれるふたり。会えないときは何をしているかわからないハルと、確実に会えるようになったのは週にたった1度だけ。時に(文字通りに)すれ違いながらも、お互いに少しでも長く一緒にいようと彷徨うふたりが微笑ましくもあり、そしてやがて来るだろう別離の時を思わせて、苦しくなることもある。

やがて物語は香港で爆発的に増加していく奇病「霧の病」の正体へと移ってゆくことに。ヒナコが突き止めたその正体は、香港政府にとって到底認めがたいものであり、ふたりは大きな力によって引き離されてしまうことになる。ヒナコが懸命にハルを助けようとし、そしてハルもまたヒナコを救おうとする、その姿が胸を衝く。ふたりが迎えた結末は完全無欠のハッピーエンドとは言えないものかもしれないけれど、それでもふたりが寄り添う姿を見られただけでとても嬉しいと、素直に思った。


星智慧女学院3年A組、八倉巻早紀の身体から突然ピンクの光が溢れ出したのと同時に地震が発生。揺れが収まった後に3年A組の面々が見たのは、学校の外に広がる薄暗い森の風景だった。他のクラスの生徒たちはなぜかサルのような生き物になっており、かと思うと二足歩行する巨大なネコがサルを襲い、捕食し始めていた。そんな中、彼女たちのスマホの画面に現れたのは、「シンギュラリティAIのシグナ・リア」と名乗る美少女の映像だった。遠い未来からやってきたというリアは、この宇宙が知性を持ったネコが進化した「ネコ宇宙」に置き換わってしまったため、3年A組の面々をネコ宇宙のはじまりとなった時代へ送り込み、その原因を殺すことで歴史を元に戻そうとしているのだというが……。

タイトルの脱力感とは裏腹に、人類の存亡を賭けた青春ハード百合SF群像劇(まさに文字通り)。

女子高が舞台なので登場するのは女子18人。冒頭でそれぞれの関係性が示され、その後も各生徒の視点から「大進化どうぶつデスゲーム」の状況が描かれていく。中盤まではシグナ・リアなる美少女AIのサポートによるチュートリアルというか、状況説明と練習モード(800万年前のサバンナでサバイバル体験)が繰り広げられていくが、物語が進むにつれ、人類の歴史以前に、彼女たちの生命そのものを脅かす戦いが始まってしまうのだ。

命賭けの戦いの中で、彼女たちはそれまでに見ることのできなかった同級生たちの姿だとか、あるいは自分の気持ちだとかに気付いていく。まさに青春の1ページ、思春期の思い出といった風景であり、とても未知の生物と殺し合いの真っ最中だとは思えない。そのギャップが面白くもあり、そしてうすら寒くもある。命の大切さだとか、あるいは人類が今こうして繁栄していることの功罪だとかを考えさせられる物語――と言いたいような気もするが、それをすべて打ち消してくれるようなラストがなんとも。

先日、岡山市内の某大型書店に久しぶりに行ってきました。
その際、仕事で使うカラーペンが欲しかったので、併設されている文具売場にも寄ってみました。いつもサラサクリップの0.3mmの黒と赤を使ってるので、同じシリーズで何か別の色を……と売場を見てたところ、3〜5色分入る軸(というのかな?)とその中身がバラ売りされていて、自分で好きな色を組み合わせるというコンセプトの商品がいくつかのメーカーから出てました。

軸の部分のデザインというか絵柄や色が各社いろいろあって面白いなあ……と思って眺めてたんですが、したらばなんだか他のシリーズに比べて柄が派手めな一角がありまして。全部で12パターンあるのですが、その色の並びになんだか見覚えが……と思い、ひとつ手に取ってみると、バーコードが印字されたシールの部分に、最近(個人的に)よく見かけるキャラクター名が……!

ということで調べてみたところ、2017年頃にぺんてるの「アイプラス」というシリーズがアイナナとコラボした商品だったんですね。もう2年も前のアイテムなのに、その文具売場には全種類そろってたし、なんなら各3〜4本ずつありましたよまだ。企画ものだから、おそらく発売当初は専用什器とかもあったんでしょうが、今は他の商品と一緒に並んでたので、ぱっと見わかりにくいでしょうねコレ。しかもこの「アイプラス」、中に入れる芯がカラーペンだけでなくシャープペンもあり、なおかつ0.3mmも選べるではないですか! 0.3mmユーザーのわたくしとしましては大変テンションの上がる商品です。

というわけでこれですよ(買った)。

20190427アイプラス

ひとつは職場で、もうひとつは家で使う予定です(笑)。


*ここ1週間の購入本*
伊藤悠「オオカミライズ1」(ヤングジャンプコミックス・ウルトラ/集英社)
清家雪子「月に吠えらんねえ10」(アフタヌーンKC/講談社)
三田誠「ロード・エルメロイ鏡い了件簿1 case.剥離城アドラ」(角川文庫/KADOKAWA)
雪乃紗衣「エンド オブ スカイ」(講談社)

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