phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。




家では両親の、学校ではクラスメイトや教師たちの言うことを聞き、波風を立てないよう日々を過ごしている女子高生の中嶋陽子。しかしある時から、暗闇の中で異形の獣に追われる夢を見るように。その矢先、校内で金髪の見知らぬ男性から名前を呼ばれた陽子。彼は「ケイキ」と名乗り、彼女を守りながらどこかへ連れて行こうとする。彼の言葉に戸惑い拒む陽子だったが、彼の周辺には人語を喋る異形、そして彼らに――ひいては陽子に向かって襲い来る異形が次々と現れた。「ケイキ」の指示により陽子は異形の背に乗せられて海を通り抜け、見知らぬ土地へと連れ去られてしまう。しかし途中でまたしても襲撃に遭い、陽子はたったひとりで海辺へと投げ出される。唯一手渡されていた剣を手に彷徨う陽子だったが、陽子は「海客」と呼ばれる忌むべき存在として追われるようになり……。

天帝によって創られた「十二国」を舞台とする異世界ファンタジーシリーズ、第1弾。今巻では現代日本からこの世界へと連れてこられた女子高生・陽子が、いかにしてここで生きていく覚悟を決めていくかという物語。

印象としては中国の神話で描かれるような感じだろうか――12の国に12の王、そしてこれを選び支える12の麒麟。天帝と呼ばれる大いなる存在の意志が世界のシステムにがっちりと組み込まれたこの世界で、右も左もわからない――もちろん土地勘という意味だけではなく、世界そのものを知らないとい意味で――少女が、身ひとつで人間や妖魔といった彼女を害する存在から命懸けで逃げてゆくという展開はあまりにも過酷で、読んでいてとてもつらくなる。もちろん彼女を追い詰めるのは知らない環境だけではない。陽子が手にした剣に映し出される、彼女がいなくなった後の「現実」は、彼女の心を容赦なく削り取ってゆく。しかしそれでも彼女は自死を選ぶことなく、ただ生きるために立ち向かっていく。

道中で、そして剣に映し出される「現実」のせいで、誰も信じられなくなった陽子。しかし彼女を助け、雁国まで同行してくれた半獣の楽俊・存在が彼女を救い、改めてその在り方を見直すきっかけをくれるのだ。彼女に課せられていた運命――ひいては彼女がこの世界に来るはめになった理由は驚くべきことではあったけれど、しかしこの旅のおかげで――楽俊のおかげで、彼女はその器を知らず知らずのうちに手にしていたことになる。そのことだけでも、彼女がいい王になるには十分だと言ってもいいのだろう。そんな彼女の今後の活躍にも期待したい。


◇前巻→ 「魔性の子」

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2012-06-27

教育実習生として母校に戻った大学生の広瀬は、初めて参加した担当クラスのホームルームで、明らかに異質な生徒の存在に気付く。高里というその生徒は、幼い頃「神隠し」に遭っており、それ以来、彼の周辺では不審な事故が起きるため、「高里は祟る」と噂され、周囲からまるでいないもののように扱われているのだという。そんな中、橋上という生徒が神隠しのことを聞きつけ、わざわざ本人に尋ねにやってきた。高里は淡々と事実を認めたが、その日の放課後――体育祭の準備中に、橋上、そして彼に神隠しのことを伝えたというクラスメイト・築城が相次いで怪我をする。見舞いがてら事情を聴きに行った広瀬に、ふたりはそろって怪我の原因が自分の不注意ではなく、道具が勝手に動いたり、あるいはそこにあるはずのない謎の「白い手」が出てきたりしたせいだと訴え……。

講談社ホワイトハートから刊行されていた(のちに講談社文庫、そして新潮文庫から再刊行)異世界ファンタジーシリーズ「十二国記」。本作はその序章として新潮文庫から刊行されていた、オカルトファンタジー長編。

神隠しに遭い、しかし1年後に戻ってきたという高里。しかしその1年の間に何が起きたかはまったく覚えておらず、だからできればそれを思い出したいのだという。そんな彼の周囲には「祟る」という不穏な噂が付いて回る。彼に悪意を持って――時にはそうでなくとも――接触、干渉した人物は、次々と怪我をし、あるいは死に至りさえもする。かつて臨死体験のようなものを経験したことがある広瀬は、そんな高里にどこか共感を得てしまい、親身に彼に接するように。しかしたった10日程度の間に、高里の「祟り」はより凄惨に、かつなりふり構わない方向へとエスカレートしていく。この「祟り」を起こしているのは何者なのか、そして何が狙いなのか――という謎が膨らんでいく中、広瀬は自分と高里の決定的な「違い」を突き付けられることになるのだ。

広瀬はこの「祟り」を高里のエゴが引き起こした超常現象だと決めつけた。しかしそのレッテル貼りこそが、高里に抱いている想いが屈折し始めていることの証左だったのかもしれない。本編は読んでいるため、高里の正体はこちらにはすでに分かっている。だからこそ、ふたりの違いはあからさまに見えてくる。広瀬の恩師である後藤の言葉は確かに正しく、そして広瀬は絶望を深めていくことになる。けれど高里が自身の正体を思い出したその時、波はすべてをさらっていく。広瀬の絶望も、エゴも、なにもかも。おそらく高里はその本性ゆえに、広瀬と過ごしたことも含め、すべてを忘れ――もしくは気に留めることなく元の世界へと戻っていく。しかし残された広瀬はそうではない。似て非なる存在だった高里のおかげで、ようやく現実と向き合うことができるようになるのかもしれない。それは本人にとっては不幸なことであり、同時に幸福なことであるはずだと、そう信じたい。

昨日の話ですが、神戸に行ってきました。もちろん私のことですので観光ではなく、あるイベントのためです。

というわけで今回の目的は、新神戸駅からほど近い神戸芸術センターで開催されていた「声優朗読劇 フォアレーゼン」です。こちらは日本全国津々浦々、ピアノやチェンバロの生演奏と共に、声優によるオリジナルの朗読劇(アフタートークつき)を披露するというイベントとのこと。なお参加声優は毎回3人前後で、会場によって異なります。今回の神戸公演は白井悠介さんが出るということでつられてしまいました。

そこそこ早めにチケットはとっていたものの(しかも「S席」というちょっと割高なやつ)、私の席は12列めくらいだったかな? しかしその列の中ではどセンターで、舞台に並べられた5席のうち、真ん中の椅子とまったく同じ位置でした(笑)。なお、今回の参加声優は前述の通り5人。過去の公演と比べても、なぜか今回は人数が多いようです。ステージ向かって左から順に、沢城千春さん、白井悠介さん、田丸篤志さん、村瀬歩さん、石谷春貴さんという立ち位置でした。

内容は「嫌がらせ」というオリジナル脚本。時代設定は今よりも昔(19世紀頃?)のパリで、カフェ・コンセール(歌劇などを見ることができるカフェ)が舞台です。ふたりの殺し屋が依頼を受け、深夜にとあるカフェの店長を捕らえます。成功すれば大金が入ると喜び、一服しながらその場にあったピアノを弾き始める殺し屋A。すると店長は殺し屋Bに、Aを殺してくれれば報酬をやると密かに依頼します。金に目がくらんだBはAを殺そうと背後から近寄って……というストーリー。話の中で登場人物たちがピアノを弾くシーンが何度かあるのですが、そこは5人の後ろにピアニストがいて、生で弾いてくれるというわけです。

内容が二転三転するし、声優は5人ですが1人何役もして登場人物が入れ替わっていくので、最終的にどこに落ち着くんだ!?とハラハラさせられっぱなしの物語でした。タイトルの意味が分かるラストはホラーというかなんというか……。それにしても台詞とピアノ演奏だけで、これほどまでに臨場感あふれる舞台を作り出せるとは、さすがプロ!といったところです。

ちなみに後半はトークコーナーで、司会の方がテーマを出し、5人にそれぞれ答えさせるという形式だったのですが、申し訳ないんですがあれは司会なしの方が良かったんじゃないかな……と思ったり。いちいち司会の方が「それでは●●さん」と呼びかけるたびに話がぶった切られちゃってテンポが悪くなってしまうのがちょっと残念でした。あとそれはそれとして、ピアニストの方ももう一度出てきて、作中で弾いた「月の光」を途中からラストまで弾いてくれたんですが、その時に後ろで踊り出す5人はいったいなんだったの(笑)。

そんな感じで劇+トークコーナーで約1時間40分。意外とあっという間だった気がします。で、終わってからは三宮へ移動し、本屋やらなんやらうろうろして帰宅しました。ちなみに、今回は珍しくお土産らしいお土産(注:自分用)を買ってきたので見てください(笑)。

20190914神戸

上から反時計回りに、ルピシアの神戸限定紅茶(ガトーショコラ)、ハロウィン缶の神戸風月堂ゴーフル、そして神戸が舞台の小説です。書評で見かけて気にはなってたんですが、せっかくだから現地で買ってみようと我慢してたんですよね(笑)。


*ここ1週間の購入本*
田村由美「ミステリと言う勿れ5」(フラワーコミックスα/小学館)
石据カチル「空挺懐古都市4」(フラワーコミックスSP/小学館)
九井諒子「ダンジョン飯8」(ハルタコミックス/KADOKAWA)
和泉統子「ミルナート王国瑞奇譚〈上〉女王陛下は狼さんに食べられたい!」(ウィングス文庫/新書館)
川上稔「EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈下〉」(電撃の新文芸/KADOKAWA)
西東三鬼「神戸・続神戸」(新潮文庫/新潮社)
椹野道流「新装版 暁天の星 鬼籍通覧」(講談社文庫/講談社)
宮内悠介「遠い他国でひょんと死ぬるや」(祥伝社)

化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2017-06-22

夏休みを迎え、シフト勤務に切り替わった舞衣。そんな中、四宮大学に飛び級で大学生となった16歳の少女・エリーが留学してくることになった。知人からの依頼もあってエリーの監督をすることになった沖野と共に、舞衣はエリーの生活をサポートすることに。他者との交流にあまり積極的ではないエリーとなんとか距離を縮めようとする舞衣は、エリーが有機化学の世界に入ってきたきっかけが、四宮大に所属する学生・二見の影響であることを知る。しかし舞衣が調べた結果、二見はエリーが沖野と共に手掛けている「トーリタキセルA」の合成実験に失敗し、大学を中退して現在は行方不明になっているらしく……。

化学系ライトミステリシリーズ第6弾は初の長編作。留学生のエリーと、彼女が手掛けている実験を巡り、学内で起きていたきな臭い事件をふたりが解決していくという展開に。

今回も舞衣の好奇心と行動力、そしてこれまでに培ってきた観察力と人脈によって、失踪していた二見青年の居場所を突き止めることに成功。一方、二見が失敗した研究は、沖野の母校である東理大と共同で行っていたということで、そちらについては沖野が調べを進めてくれるという、まさに二人三脚で挑んだ今回の事件。そんな中、母校に関わるということは、沖野を連れ戻したがっている先輩・氷上が出てくるということ。今回もそのツンデレっぷりは健在で、なんだかんだ言いつつ(そして相変わらず舞衣のことを目の敵にしつつ)、沖野のためにいろいろと調べごとをしてくれるあたり、いい人だなあと思わずにはいられない(笑)。

「ギフテッド」――天才と呼ばれるエリーの存在を巡り、氷上からの問いかけに答えられなかった沖野。しかし舞衣のある言葉がきっかけで、その答えはすんなりと導き出されてしまう。この1件だけでも、ふたりの関係性――少なくとも沖野にとっての舞衣という存在がどういうものであるかがなんとなく見えてくる。相変わらず、あるいはますますいい関係になっているようで何より、となんだか母親のような気持ちになってくるのは私だけではないと思いたい(笑)。


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー5」




エルメイア皇国の建国祭を控えて慌ただしくなる王城。そんな中、ふたりの前に突如現れたのは、この世界の最初の魔王にして魔を司る神・ルシェル。彼はクロードの父であると称し、アイリーンとの結婚を認めないと宣言。かくして翌日からルシェルによる壮絶(?)な嫁イビリが始まるのだった。さらに時同じくして、ハウゼル女王国から多数の女性たちがエルメイア目指してやって来る。彼女たちはハウゼルの次期女王候補であり、今回の試験の内容が「魔王と愛を育むこと」であるため、クロードと子を成すつもりであるというのだ。アイリーンは試験のルールを逆手にとり、多数の候補たちを規則違反として本国に送り返すことに成功するが、唯一残ったグレイスという少女のことが気にかかり……。

シリーズ5〜6巻は前後編形式。web版第5部の書籍化となる今回は、クロードの本性である「魔王」という存在を巡り、国家の存亡をかけた大事件へと拡大していくという展開に。

「運命」などと嘯きつつ、表裏双方で暗躍を続けるグレイスの手口はあまりにも巧妙で、アイリーンたちはシリーズ最大のピンチに陥ってしまう。エルメイアという国の存亡や、自身たちの生死にも関わる騒動のさなか、しかしアイリーンはどこまでも自分と、そしてクロードのために戦い続ける。

アイリーンやリリアが「前世」でプレイしていたゲーム「聖と魔と乙女のレガリア」そのものであるこの世界は、その中で生きる彼女たちにとってはまごうことなき「現実」ではあるけれど、しかし同時に「ゲーム」であることの制約からは逃れられない。魔物が存在し、魔法が飛び交う世界ではあっても、そこには乙女ゲームとしての枠組みやルール、前提条件が存在している以上、それを知っておりなおかつ最大限に利用していくことで――つまりアイリーンが捻じ曲げた流れを正そうとするグレイスの行動により危機が訪れ、しかしそれを逆手に取った行動で、再度物語が収束していくという流れがなんとも面白い。最後の最後まではらはらとさせられたが、これまたゲームのようにハッピーエンドルートを迎えることができて本当に良かった。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました4」


いつの間にか、つぐみの祖父・吾妻正義の事務所に新たなバイト事務員が加わっていた。正義の友人である墨田弁護士の孫だという大学生・大介はしかし、墨田氏の希望とは裏腹に弁護士になるつもりはないのだという。どうも訳ありそうなうえ、金次第で客を選ぶ正義のやり方にも刺々しい態度を示してはいるが、弁護士事務所の事務仕事には慣れているらしく、つぐみも様子を見つつ一緒に働くことに。そんな折やってきた依頼人は、夜須という弁護士のもとで事務員をしている女性・柴平。彼女は夜須からパワハラを繰り返されたうえ、依頼人に返すべき金を着服する片棒を担がされたのだというが……。

敏腕だが金に汚いことで有名な弁護士・吾妻正義のもとに持ち込まれる様々な依頼を、嘘をついている人の顔がゆがんで見えるという特殊な能力を持つ孫娘・吾妻つぐみの視点から描く法廷ドラマシリーズ第2弾。

パワハラ&横領、親子間での交通事故慰謝料請求、痴漢冤罪……と、今回の依頼人たちも曲者だらけ。さらに今回から加わった、弁護士になりたくない事務員・墨田大輔による守秘義務違反&SNS炎上も加わり、つぐみの周囲はなんというか本当に厄介ごとがよく起きる……といった感じ。まあこれはつぐみのせいではなく、祖父・正義のせいなのだろうが。ちなみに、個人的には2つ目の「親子間での交通事故慰謝料請求」が一番印象的というか、現実に起きそうなトンデモ事件すぎて目が離せなかった。

そんな中、ますます謎が深まるのが、つぐみの幼馴染兼許嫁?である草司の父親にまつわる件。草司本人が周囲からも言われていたが、証拠捏造の疑惑をかけられ失踪した検察官の息子を、あえて採用し同じ職に就けるというのはどこか奇妙な気も。父親と本人は関係ないというのはもちろん当たり前のことではあるが、公的機関というある種旧弊な組織であればこそ、そういうバイアスはなおさらかけられそうなものなので、そう考えると確かにおかしさが増してくる。そのあたりをはっきりさせるためにも続刊に期待したい。


◇前巻→「法律は嘘とお金の味方です。京都御所南、吾妻法律事務所の法廷日記」

9月になりました。ということはつまり消費税10%&軽減税率導入まで1か月切ってしまったということです。増税はまあ仕方ないとして(まあイヤなものはイヤですけど……)、軽減税率!なにそれ!ということで、職場ではいまだにてんてこまいしております。なにせわたくし経理ですので、これから増税で一番めんどくさい「過渡期」が来てしまうわけですよ。まだ9月だけど10月利用分の支払だから新税率で処理しなければならないとか、10月だけど内容的には9月の話なので旧税率で処理しなければならないとか、現行の8%と軽減税率の8%は別モノということを理解していない人が多いとか……。他部署と打ち合わせをすればするほど問題がボロボロ出てくるのでもう大変です。これホントに大丈夫なのかな……。

というストレスを解消するには買い物ですよ(違……わないか)! Tommy fell in love with sweets! さんがこのタイミングで送料無料キャンペーンをしてくれてたので、新作をひとつゲットいたしました。「ハートのこんぺいとう缶バッグチャーム」です。少しズレた蓋からのぞくこんぺいとうがなんともファンシーです。色合いがパステルカラーなのもまたよし。色合いが私にはちょっと甘すぎる感じはしますがたまには許してください(笑)。これからちょくちょく外出の予定があるので、さっそくつけていく所存です。
20190907Tommy


*ここ1週間の購入本*
wako「サチコと神ねこ様1〜2」(フィールコミックス/祥伝社)
縞あさと「君は春に目を醒ます4」(花とゆめコミックス/白泉社)
永瀬さらさ「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました6」(ビーンズ文庫/KADOKAWA)
辻村深月「東京會舘とわたし(上)(下)」(文春文庫/文藝春秋)
凪良ゆう「流浪の月」(東京創元社)
劉慈欣「三体」(早川書房)




ロード・エルメロイ2世が私室に隠していた「とある英霊の聖遺物」が何者かに盗まれたという。隠し金庫には代わりに「魔眼蒐集列車」への招待状が置かれていた。手掛かりを求めて、エルメロイ2世は内弟子のグレイ、そして教え子のひとりであるカウレスと共に列車へと乗り込むことに。法政科の菱理、天体科のロードの娘であるオルガマリー、さらにはエルメロイ2世の教え子であるイヴェットらがこの列車に乗り込んでいるその理由は、列車の名前にも冠されている「魔眼」のオークションがここで開催されるためだった。しかしオークションが開催される前に、未来視の魔眼持ちでもあるオルガマリーの従者・トリシャが何者かに殺され、頭部が行方知れずとなってしまう。そんな中、聖遺物を盗んだ犯人と思しき人物から呼び出されたエルメロイ2世。果たして彼の前に現れたのはヘファイスティオンと名乗る女サーヴァントで……。

魔術師たちの間で起きる殺人事件を巡るミステリシリーズ4〜5巻。今回は「魔眼」を巡る魔術師たちの攻防と、そのさなかに起きたふたつの事件について語られていく。

ひとつめが未来視の魔眼を持つ女性が殺される事件。しかしここで疑問なのが、いかに断片的かつ限定的であるとはいえ、「未来が視える」という能力を持っているはずの人物がなぜ殺されたのか。これに関しては、化野菱理がオークションの参加者のひとりで、過去視の魔眼を持つカラボーなる人物を犯人として弾劾するが、のちにエルメロイ2世がその推理を(ある意味で)ひっくり返してしまう。最初の菱理による推理の際、エルメロイ2世は例のサーヴァントの襲撃により負傷し不在だったのだが、なんとか復帰したのちの短い時間で、あっという間に正しい結論を導き出していく。ここまで鮮やかな推理を見せられると、本人による「自分は平凡」的な自己評価を覆したくなってくるが、しかし彼の生きる世界はあくまでも魔術師の世界であるがゆえに、推理力に長けていたとしても、小細工がなければ他の魔術師たちと対等に渡り合うことすら難しいという事実の方が重要だし、答えであるのだろう。そう考えると、彼こそが他のどの魔術師たちよりも努めて「魔術師」たらんとしているような気さえしてくる。

そしてもうひとつの事件が、彼から聖遺物を奪った存在と、それに付き従うサーヴァントの存在。聖杯戦争でもないのにサーヴァントを召喚できるという状況からすでにおかしいのだが、さらにイスカンダルを召喚した聖遺物から彼以外の人物が召喚されたことや、その召喚された「ヘファイスティオン」なる女性の正体など、次から次へと謎がわいてくるという展開に。しかしこの件を機に、エルメロイ2世はあるひとつの決断を下す。それはこれまでの彼の生き方にひとつのピリオドを打つことであり、同時に新たな抗争に身を投じる、その始まりでもある。シリーズ的にも転換点となった今エピソードだが、今後彼がどのような道を選んでいくのかが気になるところ。


◇前巻→「ロード・エルメロイ2世の事件簿2〜3 case.双貌塔イゼルマ(上)(下)」


新人警官の堀北恵平は刑事課鑑識係での研修中、東京駅近くのラブホテルで起きた事件に駆り出されることになる。殺されたのはAV女優で、撮影現場だった部屋に残されていた遺体からは一部が切り取られて持ち去られていた。凄惨な現場に衝撃を受けながらも、恵平は鑑識係の一員として事件に当たることになるが、たった3人の撮影スタッフは容疑から外れ、ほとんど手掛かりがない状態。しかもそんな中、同じ手口の事件が新たに発生し……。

新人警官・堀北恵平(という名前だが女性)が、都内で起きた猟奇殺人事件に挑む警察小説シリーズ第2弾。

新米、しかも研修中の身ということで、すべてが勉強という状態の恵平。しかし実際に起きる事件はそんな彼女を待ってくれるわけもなく、様々な遺体と向き合う中で、恵平は少しずつ、しかし確実に、警察官としての決意と覚悟を固めていくことになる。そんな彼女が今回挑むのは、ふたりの女性が殺害後に身体の一部を切り取られているという事件。性を売り物にしていたというひとりめの被害女性へつい偏見を持ってしまうことに悩みながらも、周囲の男性警官たちが気付かないことやおざなりにしていることにも、同じ女性としてひとつずつ向き合っていく姿がなんとも心強い。

どうしても前シリーズの比奈子と似てしまう部分はあるが、大きく違うのは彼女がまだ新米であり、本人もそのことを強く自覚しているということ。自分の誤った考え方をひとつずつ見直し、できることとできないことを見極めようとする恵平は、きっといい警官になることだろう。

しかし今回もわからなかったのは例の「うら交番」のこと。東京駅に住み着いているホームレスのメリーさんが実際にうら交番を利用していたことや、他の先輩警官たちも幻の「うら交番」の存在を知っているなど、ますます謎が深まるばかり。


◇前巻→「MASK 東京おもてうら交番・堀北恵平」

きのうの影踏み (角川文庫)
辻村 深月
KADOKAWA
2018-08-24

友人から聞かされたのは、彼女が子供の頃に流行った「十円参り」という都市伝説の話だった。団地の裏山にある神社の賽銭箱に、嫌いな人――「消したい人」の名前を書いた紙を10円玉と一緒に投げ入れる。これを誰にも見られることなく10日間続けると、「消したい人」が本当に消えてしまう。その時、投げ込んだ10枚の紙は真っ赤に染まるのだという。団地に住む小学5年生のミサキとマヤは、親友のなっちゃんが消えてしまったのは、この「十円参り」のせいではないかと疑い始める。3人は仲良しではあったが、その実、ミサキとマヤが水面下でなっちゃんを取り合っているような状態。ふたりはそれぞれ密かに「十円参り」を行い、そこになっちゃんや相手の名前を書いていたのだった……。(「十円参り」)

日常に潜む、あるいは忍び寄る様々な怪異を描く短編集。それぞれの作品の長さはまちまち。ある作家のもとに届いた妙なファンレターが、彼女の周辺の作家たちにも届くようになる「手紙の主」や、大学生が合宿中に潰した虫のようなものの正体を描く「殺したもの」のような得体のしれないホラーが多いが、中にはそれを通り越してふっと笑ってしまったり、あるいはどこか心温まる結末を迎えるものもある。もちろんどちらのエピソードにしても、その原理がわからないのだから怖いことには違いない。実際に私たちの見ている現実の皮を1枚めくれば、こういった世界があるのかも、と思わされるような物語だった。

なめらかな世界と、その敵
伴名 練
早川書房
2019-08-20

平行世界にいる無数の「自分」との間を行き来できるということが当たり前になっている世界で、女子高生の葉月もまた、その当たり前の現実を謳歌していた。そんな折、「この世界」では父親の仕事の都合で引っ越していった幼馴染のマコトが戻ってくるという知らせを受け、喜ぶ葉月。しかし現れたマコトは他の世界のマコトとは異なる硬い表情で、必要がなければ自分に近付かないようにと宣言する。どうやらこの世界のマコトは、転校後に遭遇したある事件のせいで「乗覚障害」――すなわち、平行世界との行き来ができなくなる状態に陥ってしまったのだという。葉月をはじめとする周囲からの干渉をことごとく拒むマコトだったが、葉月はどうしても諦めきれず……。(「なめらかな世界と、その敵」)

「少女禁区」以来、約9年ぶりとなる第2作品集。2010年以降に様々な媒体で発表されたSF短編5編に加え、書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」が収録されている。

平行世界を瞬時に往還する人々を描く表題作に始まり、2000年代ではなく1900年代の〈ゼロ年代〉におけるSF小説の隆盛を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃「ハーモニー」のオマージュでもある「美亜羽に贈る拳銃」、特殊能力を持つ姉に向けて亡き妹が書簡を送り続ける「ホーリーアイアンメイデン」、1960年代に達成された技術的特異点を巡るソ連とアメリカとの攻防を描く「シンギュラリティ・ソヴィエト」、そして突如2600万分の1のスピードに〈減速化〉した新幹線を巡り、その新幹線に乗るはずだったふたりの高校生が解決策を探る「ひかりより速く、ゆるやかに」の6作品が収録されているのだが、どれも共通しているのは「先に進む者」と「それを追う者(または置いていかれる者)」の2者が描かれている点であるかもしれない。

SFというジャンルにおいてそれは当たり前のことかもしれないが、しかし「先に進む者」が必ずしも幸福であるかどうかはわからない。現存しない未知の技術は世の中を変えていくかもしれないが、それを用いるべき人の意識がついて行けるかどうかは別の問題であり、そしてこれらの作品群では、その意識の変遷がくっきりと浮き彫りになっている。新たな技術がもたらすものが何なのか――それを見極めようともがき、悩み続ける人々の姿が淡々と、しかししっかり描かれているこれらの作品群に、あっという間に引き込まれてしまった。今後の活躍にもますます期待したい。

半端なく周回遅れ感が否めませんが、最近、炭酸水を飲めるようになりました。
この場合の「炭酸水」はサイダーやコーラ等の甘いやつではなく、いわゆるウィルキンソンなどの無糖炭酸のことです。

まあなにせ今年の夏は暑い!ということで、毎日職場にはお茶を作って持って行っているのですが、そんなに大きな水筒ではないので、昼食時間の前になくなることもしばしば。そうなると自販機で調達せざるを得なくなるのですが、職場の自販機の単価が今年から値上がりし、以前はペットボトルが100円だったのに、いつの間にか120円になってたんですよね。まあ外で買うよりは安いですが、それでもこの間まで100円で買えてたのに……とうらめしく眺めていたところ、水と炭酸水だけはお値段据え置きなことに気付いたわけです。

元々甘党で、紅茶にも砂糖を入れなければ飲めないたちでしたが、ここ数年無糖紅茶を飲めるようになってきていたので、もしや無糖炭酸もイケるのでは……?と思って飲んでみたところ、これがなかなかおいしく感じられたわけです。「甘くない炭酸なんて……」とこれまで敬遠していたのですが、単純に飲まず嫌いだったんですね。

ということで自販機に入っていたウィルキンソンのレモン味から始め、無糖かつなにかしら味(匂い?)付きの炭酸水を立て続けに飲んでいる今日この頃です。どちらかといえばやはりレモンやグレープフルーツなどのフレーバー付きの方が好きですね。個人的には紅茶ウィルキンソンが好きなのですが、すでに終売なのか、コンビニではほとんど見かけなくなりました。でもたまにスーパーやドラッグストアで売れ残っている(しかも安い)ので、地道に探しています。世の中はタピオカブームですが、私は炭酸水ブームで夏を乗り切ろうと思います。ってもう9月になっちゃいましたけどね(笑)。


*ここ1週間の購入本*
市川春子「宝石の国10」(アフタヌーンKC/講談社)
よしながふみ「大奥17」(ヤングアニマルコミックス/白泉社)
三田誠「ロード・エルメロイ2世の事件簿5 case.魔眼蒐集列車(下)」
水生大海「教室の灯りは謎の色」(以上、角川文庫/KADOKAWA)
内藤了「COVER 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」(角川ホラー文庫/KADOKAWA)
彩瀬まる「朝が来るまでそばにいる」(新潮文庫/新潮社)
大森望・日下三蔵/編「おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選」(創元SF文庫/東京創元社)
ナイツ 塙宣之「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」(集英社新書/集英社)


キャンディで起きた商店の焼き討ち事件により、スリランカ国内では戒厳令が発令される。これを受けて一時帰国することにした正義だったが、その準備中にヴィンセントからの連絡が入る。当初は「話をしたい」というメッセージのみだったが、話を進めるうちに、連絡をくれた相手がヴィンセント本人ではないことが判明。日本に帰国し、友人や家族に顔を合わせた後、正義は連絡をくれた「ある人」の助言に従い、香港へと向かうことに。果たしてヴィンセントに遭遇した正義は「ある人」からの伝言を伝えつつ、彼の真意を聞き出そうとするが……。

2020年にアニメ化も決定したジュエル・ミステリシリーズ9巻。今回はサブタイトルに「邂逅」とある通り、正義が各国で様々な人々と「邂逅」し、気持ちの整理をつけていくという展開に。

何の整理かと問われれば、それはもちろん正義自身の今後の身の振り方、そしてリチャードとの関係について――この2点に尽きる。帰国して友人たちと会った正義は、同席していた公務員の先輩から、リチャードとの関係を「愛人」と言われて深く傷付く。仕事上では上司あるいは師匠であり、プライベートでは友人である――そう、これまでの関わりの中で認識していったはずなのに、それでも他者からの心ない指摘に心を揺らがせてしまうのは、まだどこかリチャードに対する自分の気持ちを、正義自身が定め切れていなかったからなのかもしれない。ヴィンセントを探す「ある人」(これは本作を読んだ人へのお楽しみということで伏せておくが)、ヴィンセント本人、そしてシャウルから、彼らの半生を聞くことになった正義。その中に見え隠れするリチャードの存在を目の当たりにしたことで、正義はやっと本当に「リチャード」という人物の輪郭をはっきりと捉え、自分の中で改めて定義することができたのだろう。そしてもちろん、そこには家族や谷本さんとの再会の中で、人との関わりであるとか、愛情であるとか、そういう目には見えないけれど大切な気持ちを再確認できたことも大きく関わっているに違いない。これからも続くであろうふたりの関係にとって――それと正義が向き合うための、今巻はターニングポイントとなったのだと思う。スリランカで再会したリチャードとの対話では、きっとこれまで以上に深く相手の懐に踏み込んでいて、ようやくふたりは名実ともに「親友」になれたのだろうなと、心温まる思いがした。

……という感じでようやく折り合いがついたところで、今後はオクタヴィアとの対決について。スイスで引きこもっていたとされるオクタヴィアが動き出したとの知らせを受け、リチャードは正義にオクタヴィアとの関係について語り出す……というところで今巻は終了。彼女の狙いは一体何なのか、そしてふたりはそれにどう立ち向かうのか、今から気になって仕方ない。


◇前巻→「宝石商リチャード氏の謎鑑定 夏の庭と黄金の愛」

化学探偵Mr.キュリー5 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2016-12-21

社会人2年目の春を迎えた舞衣は、庶務課主催の新入生歓迎会の準備に追われていた。そんな折、四宮大学にあるふたつの科学系サークルの代表者から相談を受けることに。なんでも部員減少により両サークルとも存続が危ぶまれているため、統合してひとつのサークルとして再出発しようと考えているらしいのだが、統合後のサークル名を巡って対立しているのだという。そのため、ある実験で対決し、勝った方のサークル名を残すことになったので、その対決を新入生歓迎会の中で開かせてほしいのだ、とも。すでに参加サークルの応募は締め切られているため、舞衣はその依頼を却下するが、その代わりにと対決の審査をしてくれる科学系の教授か准教授を紹介してほしいと言われ、引き受けざるを得なくなってしまう。そこで舞衣は沖野に相談に行くのだが、あっさりと断られてしまい……。(「化学探偵と無上の甘味」)

好奇心旺盛な庶務課職員・舞衣と、そんな舞衣に毎度振り回されてしまう准教授の「Mr.キュリー」こと沖野が、学内で起きる様々なトラブルを解決していくシリーズ5巻。ふたりの関係も2年目に突入ということで、今回も息の合った(?)コンビぶりを見せてくれる展開に。

サークル存続を巡る甘味調合対決から始まり、学生時代の同級生のダイエットに隠された秘密、四宮大生を襲う通り魔事件、引きこもり高校生の進路相談……等々、今回も舞衣のもとには様々なトラブルが持ち込まれてくる(中には大学は関係なく、舞衣の友人知人からのトラブルも含まれていたりするが……)。そんな舞衣を、沖野はことさら「災厄を呼ぶ祟り神」のように茶化し、拝んでは遠ざけるような素振りを見せるのだが、結局はやはり手を貸してくれるという流れがなんとも楽しい。

そんな中、「化学探偵と冷暗の密室」では、ふたりが地下の冷蔵室に閉じ込められてしまうというハプニングが発生。もちろん無事に助かりはするのだが、その前後でふたりが示していた態度がなかなか意味深。沖野の方は、閉じ込められる前に舞衣に対してやたらと不機嫌な態度をとっているのだが、実はその少し前に沖野の教え子である女生徒が舞衣を合コンに誘っていたので、もしかしたらそのことを知っていたのでは……?と勘繰りたくなってくる。一方、事件後に沖野のことを「カッコいい」と感じていた舞衣。例の合コンの参加者に言い寄られていた舞衣はその誘いをきっぱり断るのだが、その際に相手から「沖野先生と付き合っているのでは?」と言われたこともあり、無意識のうちに気にし始めているのかもしれない。ということで、ふたりの微妙なようやく前進なるか……?


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー4」


1990年代の夏、人類は宇宙進出に向けて「新開拓」に乗り出していた。そんなある日、何かのゲームをして、そこで何かにやられて死んでしまった夢(または寝落ちしただけ?)から目覚めた住良木・出見(すめらぎ・いずみ)。隣の部屋に長身の巨乳美女が引っ越してきて歓喜に打ち震えつつ、向かった学校で彼を待っていたのはゲーム部の友人たち。そこで話題は昨夜やっていたゲームのことに。住良木たちがプレイしていたのはテラフォーミング系のゲームらしいのだが、意味が全くわからない住良木は、その知識を得るために資料を調達したりもしつつ、とりあえず再プレイ。そこでゲーム内に現れたのは、昨夜も一緒にプレイしていたゲーム部の面々、そしてお隣の美女だった。このゲーム内では住良木以外のメンバーはみな「神」であり、住良木だけが「人」なのだという。そして住良木のパートナーとなるのが例の美女――「先輩」だというのだが、住良木は彼女をパートナーにした記憶はまったくなく……。

新シリーズは小説サイト「カクヨム」で連載されている、前作「GENESISシリーズ」において「神代の時代」と呼ばれていた世代の物語。今回は神話をベースにテラフォーミングで宇宙進出という展開に。

主人公である住良木・出見は境ホラのトーリ同様(?)、まともではないというかまあいわゆる「(安定の)異常者」キャラ(笑)。その信仰基準は巨乳であるため、パートナーとなった「先輩」への食いつきはもちろん半端ない。その一方で自身の記憶が虫食い状態というか、「今」しかないことに気付いていない(または気付かないふりをしているか、どうでもいいと思っている?)という不安定な状態。そんな中で明かされるのは、現実だと思っていた学校生活の方がむしろ仮想空間であり、ゲームの方が(つまり1度死んだ「夢」の方が)現実であるということだった。けれどそんな現実を住良木は受け入れ、どころか「先輩」と一緒にいられることを喜ぶばかりなのだから能天気というか、本能に忠実というか(笑)。

しかしそんな「先輩」一筋の住良木の周囲に伸びる影。なんでも開発すべき惑星そのものの反抗に遭い、AIによるテラフォーミングは難航。そんな中で発覚したのが、神の加護を受けた道具があればその反抗を抑えることができたという事実だった。そこでAIは世界中の神話に基づいた「神々」を創り出し、神話単位で神々の「奇跡」によるテラフォーミングを進めているのだという。ゲーム部のメンバーである雷同、紫布、桑尻は北欧神話の神々であるし、部長の四文字は某唯一神、そして「先輩」は本人曰く「ドマイナー」で「アウト系」な神道の神。この「先輩」の正体が明かされぬまま、とりあえず今回の上巻はイントロダクション的に話が進むのだが(なにせ主人公である住良木にもそのあたりの記憶や知識がゼロなため)、住良木にとっては「先輩」が「先輩」であるだけで他はもうどうでもよく、そしてそんな住良木の態度に「先輩」が救われているのが見て取れる。ふたりの関係はまだ「産土神とその氏子」というものではあるが、今後どのように変化していくのかが気になるところ。そして9月刊行予定の下巻は北欧神の雷同・紫布コンビと、目下唯一の「人類」である住良木を狙うメソポタミア系のビルガメス・エンキドゥコンビによる戦闘からスタートしそうなので、そのあたりも楽しみ。

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