phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

青が破れる (河出文庫)
町屋良平
河出書房新社
2019-02-05

ボクサー志望の秋吉が友人のハルオから頼まれたのは、「もう長くない」ため入院中の彼女・とう子のお見舞いにひとりで行くことだった。初対面のとう子はなんの遠慮もなく煙草をふかし、秋吉は「確率の問題」と告げた彼女の台詞に思いを巡らせながらも、帰宅してトレーニングに励む。後輩の梅生の恵まれた体格やボクシングに対する姿勢に対して時折羨望を抱きつつも練習に付き合い、そして自分がボクサーに向いているのかどうかを思案する。そうしつつも、夫と子がいる夏澄との関係を断ち切ることもなんとなくできないでいた……。

第53回文藝賞を受賞した表題作に、短編「脱皮ボーイ」「読書」の2作を加えた作品集。

ひらがな混じりの秋吉の一人称で綴られるのは、ボクサーを志望しつつも本腰を入れられない青年の心の声、あるいは葛藤。そんな彼の目の前には、不意にいくつもの「死」、あるいはそれに向かう存在が投げ込まれていく。ハルオととう子は心の底から相手のことを想っているが、同時にそれが相手を傷つけることになるかもと怯え、間に秋吉を挟むことでコミュニケーションをとろうとしている。あたかも秋吉はふたりの間に置かれたサンドバックのようで、それぞれの抱える恐怖だったり愛情だったりをはからずもぶつけられることになるが、そのことを彼がきちんと理解できていたかどうかはわからない。だからこそというべきか、ハルオは秋吉の後輩である梅生をもその関係の中に巻き込んでいく。

物語の終盤で、梅生は秋吉に「なにがわかる」と問う。「他人に関心のあるひとのかなしみを、他人に関心のないひとのかなしみを」と続ける梅生の言葉に、秋吉は何を感じていただろう。身体は大人であるはずなのに、秋吉にはどこかこどもっぽいというか、成長しきれていないような部分があると何度も感じさせられる。けれどそれはこどもだからということではなく、本当に「わからない」、あるいは一歩進めて「わかりたくない」のかもしれない。だからこそ彼は走る。おそらく彼は、身体を動かすことでしか何かを感じられないのだろうから。そんなどうしようもなさを抱えたままで人は生きていくしかないのだと、そのことにようやく気付き始めた彼の背中が見えるような気がした。

NICO Touches the Wallsが活動休止を発表!というネットニュースを見た途端、「えっ!?」とマジで声が出ました。ここ何年かは離れていましたので余計にびっくりです。あの思いがけず渋めな歌声と、エッジの効いた独特の歌詞が好きだったなあ……かつてニコ見たさ初めて夏フェスに行ったのもいい思い出です。ニコに限らずこういうのって、追いかけていた時はそれこそ、彼らの活動はずっと続くと思っていたので、月並みですが失って初めて気づくというか……変わらないものってないってことですよね……(しみじみ)。

まあそれはそれとして。
夏は角川・新潮・集英社が、秋には文春が文庫フェアをやるというのは恒例行事になって久しいですが、今年の秋は河出文庫もフェアをやっていました。いやまあ河出だって以前にもフェアはやっていましたが、今年のフェアはなんかすごいらしいです。というのも、人気声優の斉藤壮馬を起用し、読書家であるという彼がセレクトした5冊に撮りおろしワイドキャップカバーを付けて販売したところ、各地であっという間に売り切れたとのこと。

私もTwitterで10月下旬にそのことを知り、先日の上京時に探してみたところ、確かにフェアはやってたのですが、カバー付き文庫はほとんど見当たりませんでした。池袋の丸善ジュンク堂と八重洲口の八重洲ブックセンターでは売り切れ、日本橋の丸善ではかろうじて1作品のみという状態。ただしその翌週、岡山の丸善でも(東京に比べたら小規模でしたが)フェアコーナーがありましたが、そこでは5作中3作が残ってました。さすが田舎です(笑)。ちなみにこの週末あたりに1回目の重版分が配本されているようですので、今なら比較的目にできるのではないかと思います。

個人的に河出文庫というのはかなりマニアックなレーベルという印象しかないので(褒め言葉)、そんなにも売れていることとか、(斉藤さんカバーのもののみですが)アニメイトにまで置かれていたとか聞くたびに「マジで!?」と思ってしまいます(笑)。しかもこの5冊のセレクトがまた濃いんですよね……なおこの特別カバーにはQRコードがついており、短いですが斉藤さんによる書評が読めるようになっているということで、ついミーハーにも見かけるたびにちまちまと買っていたら……あれ?気付いたら全部そろってる……?

20191117河出文庫
こ、これは仕方ないんですよ!だって収集癖のあるオタクだからつい……!(笑)


*ここ1週間の購入本*
matoba「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。11」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
荒川弘「アルスラーン戦記12」(マガジンKC/講談社)
椹野道流「壺中の天 鬼籍通覧」(講談社文庫/講談社)
雪村花菜「紅霞後宮物語 第零幕 四、星降る夜に見た未来」(富士見L文庫/KADOKAWA)
青木祐子「派遣社員あすみの家計簿」(小学館文庫/小学館)
木皿泉「Q10 全2巻」
町屋良平「青が破れる」
ホルヘ・ルイス・ボルヘスほか「ボルヘス怪奇譚集」
リチャード・ブローティガン「西瓜糖の日々」
ダグラス・アダムズ「銀河ヒッチハイク・ガイド」(以上、河出文庫/河出書房新社)
博学こだわり倶楽部「日本刀 妖しい魅力にハマる本」(KAWADE夢文庫/河出書房新社)
高殿円「グランドシャトー」(文藝春秋)


書店をぶらぶらしているときにたまたま見つけたのですが、帯の「審神者様に感謝!」という叫びに度肝を抜かれてつい買ってしまいました(笑)。とうらぶのサービスが始まる前に出ていた本みたいですが、おそらくゲームの影響で売れたんでしょうね。審神者おそるべし(笑)。

先週の話ですが、11月10日に渡會将士さんのツアー「JAPAN?TOUR」岡山公演に行ってきました。場所はおなじみ城下公会堂です。

フォズ時代にもあまり岡山に来ていなかったことがそんなに気になるのか、今回も岡山に来た回数を指折り考えるわっち。今回は「ママ2に2回ほど、ここ(城下)も2回目、あとブレチャ」とか言ってたけど、フォズの時にペパーランドにもきてるよ!などと思いつつ(笑)。

あと、城下公会堂はステージ横にトイレの入り口があるので、トイレに行きたい人はステージを縦断する必要があるんですね。「もうここのシステムにも慣れた」と言いつつ、そのことをさっそくイジってましたね(笑)。とはいえこの日、開演前にトイレはすぐ外の地下広場のを使うよう言われてたので、誰もステージ上には上がりませんでしたが。

今回はレコ発ツアーというわけではないせいか、フォズ、ブレチャ、ソロといろいろ取り混ぜたセトリ。途中で休憩があります。あとアルコールありのカフェなので、歌いながら酒も飲みます(笑)。なおこの日が20か所目なので、そろそろグダグダ的な宣言もされました(笑)。そしてなかなか珍しくも懐かしい曲もちらほら。なんせフォズの「LOVE」で始まり、途中では「水際」に「音楽」!そして「海老名前」!個人的に「音楽」は約10年前(ってそんなに前か!)に初めてフォズに出会った曲ということで思い入れがあるし、「水際」はフォズの中で1・2を争うくらいに好きな曲だったので、どちらもものすごくうれしかったです。特に「水際」には涙が出るかと思いました。

あと「海老名前」もライブではやらなさそうな曲だと(勝手に)思ってたので聴けて嬉しい……のですが、どうやら今回のツアーでは、各都道府のあるあるネタを事前に仕込み、「海老名前」の2番で替え歌にするということをしているようなんですね。ということで岡山では「岡山駅前」になってました(笑)。ただ、どうも各地で遠征組が多く現地人が少なそうなので、つい「県外の人にウケる地元ネタ」というメタな視点で収集してしまっていたそうです。そして岡山では何を調べていても最終的には千鳥のネタ動画に行きつくらしいです(笑)。
なお、「岡山駅前」で取り上げられていたのは以下の通り。

・台風が来て周囲の県で警報が出ても岡山だけ出てない
・「でーこんてーてーて」という台詞は岡山弁の代表的な感じでよく言われているけど、実際にはそんなこと言わないという話(それはそれとして、本人的にもリズムがよくてツボったとか)
・千鳥の「クセが強いんじゃあ」に対して岡山県民はそんなことないと否定するが、外野から見れば確かにクセが強い
・オダジョーと甲本ヒロトと稲葉さんの出身地。最終的にはみんなでウルトラソウル!
※曲には入っていないネタ:「〇〇している」というのを岡山弁で「〇〇しょーる」というんですが、ここから派生して「ゴキブリが死んでいる」を「ゴキブリが死にょーる」って言うんですよ。その「しにょーる」の響きもツボったそうです(笑)

加えてこのツアーではもうひとつ、毎回ご当地出身の歌手のカバーをしているそうで、今回はB’zの「恋心」。最後にはライブでやっているらしいアオリというか振り付けまでやってました。芸が細かいです。わかる人はどうぞ、と最初言ってたけど、すぐに「B’zのガチなファンは俺のライブにはこないか!」と撤回してましたけど(笑)。

アンコールはブレチャの「Rock Band on the Beach」。今回のコーレスは「カキオコハッスル」です(笑)。わっち的には前回のブレチャライブでこの曲をやった時の「(わっち)桃から生まれた」→「(客)桃太郎!」という反応が予想以上の出来栄えだったらしく、今日もやってました。しかも太郎繋がりで「バイオリニストは」→「葉加瀬太郎」、「増税5パーセント」→「麻生太郎(わっちは「山本太郎」を期待していたが全員こっちしか出てこなかった)」、「35億は」→「ブルゾンちえみ」(笑)。とはいえどれも1回目はみんな「???」になってたのが面白かったです。

そんな感じで約2時間、ユルくも楽しいライブでした。どうやら今回のツアーでは場所によってセトリも全然違うみたいなので、他のところでなにをやってるかも気になりますね。ということで以下、岡山のセトリ(ご本人のブログより抜粋)です。

《セットリスト》
LOVE(FoZZtone)
Better Day to Get Away(brainchild’s)
ハレルヤ(セカイイチとFoZZtone)
Old school
風によろしく
Dance Lesson
Ebinamae〜岡山駅前〜
(休憩)
水際(FoZZtone)
音楽(FoZZtone)
Blow(brainchild’s)
half myself(FoZZtone)
恋心(B’z)
Pretty Little Baby(ベイビーレイズJAPAN)
Vernal Times
カントリーロードアゲイン
(En)Rock Band on the Beach(brainchild’s)

くらげが眠るまで (河出文庫 き 7-10)
木皿 泉
河出書房新社
2019-11-06

出町家のリビングで、今日も夫の信之と妻の杳子はたわいのない会話を繰り返している。例えば昔飼っていた犬のこと。例えばなにひとつ口に出していないのに、信之が思い出そうとしていた昔の俳優の名前を杳子が言い当てること。例えば葬式帰りに、どちらが先に死んでしまうのかと考えること。そんなふたりの姿を、出町家で飼われているくらげがゆらゆらと見つめている……。

1998〜1999年にかけてスカパーで放送されていた同名ドラマの脚本集。バツイチで年上だけどどこか頼りない夫・信之と、しっかり者の若奥さん・杳子のユルくも楽しい日々が描かれていく。

特に大きな問題が起こるわけでもなく、ふたりの日々はささやかに過ぎていく。たわいもない会話からふたりの職業や性格、関係性、実家との繋がり具合など、何の説明もなくとも様々なことがうかがえるのだが、そこにもやはりびっくりするような問題やその種が潜んでいるということもなく、ただただありふれた、どこにでもいそうな夫婦の姿が描かれていく。けれどそこには確かに「しあわせ」が見えてくる。価値観が同じだったり、互いの考えていることがわかったり、自分のヘンなところを相手が受け入れてくれたり――そんな相手がそばにいてくれたらどんなにか幸せだろうと、そう微笑ましく思えるふたりの姿が印象に残った。


授業を終え、帰ろうとした茜は、潮の筆箱が机の上に残ったままであることに気付く。かねてから潮の家を訪ねて見たくて仕方なかった茜は、これを好機と潮の家へと向かうことに。彼女の家があるという浅草六区は、すぐそばの歓楽街の豪華さとは裏腹に、古びた長屋が立ち並ぶうら寂しい場所だった。わざわざやってきたという茜の行動力に戸惑いながらも、潮は彼女を自宅へと招く。そこで茜が目にしたのは、雨も降っていないのにびしょ濡れになっている2本の傘だった。隣家の持ち物だというその傘だけがなぜ濡れているのか、ふたりは推理を試みるが……。

昭和六年の東京を舞台に、ミッション系の女学校に通う少女たちが周囲で起きる謎を解決してゆく連作集第2弾。

今回も茜たちの周囲で起きるのはなんとも奇妙な事件ばかり。濡れた2本の傘の謎に始まり、茜の親友・加寿子の「お姉さま」が遭遇したマリヤ様の怪、前巻で茜たちが顔見知りになった青年警官・鬼頭が受け取った奇妙な亡父の「遺産」、そして見世物小屋で起きたボヤ騒ぎの真相……いずれも昭和という時代を色濃く反映した事件ばかりだが、日々に退屈している女学生たちにとっては格好のネタであるというのもうなずける。しかし時代は確実にきな臭くなっており、潮の異母姉である「芳兄さま」こと男装の麗人・川島芳子もまた歴史の渦の中にその身を投じていくことになる。続編があるならば彼女たちを取り巻く情勢はますます厳しいものになっていくだろうから、なんとも心配になってくる。


◇前巻→「昭和少女探偵團」




政に関心を見せず、王宮の奥深くに閉じこもったままの阿選に対し、泰麒はかつて正頼に教えてもらった抜け道を使って直接接触を試みる。相対してもなお泰麒の訴えに耳を傾けない阿選だったが、驍宗を追い落とした理由を尋ねられたことで、自身と驍宗との関係について思いを巡らすように。一方、老安という里にたどり着いた李斎が聞かされたのは、6年前からこの里に匿われていた重傷の武人が、少し前に亡くなったという話だった。名は名乗らなかったというその武人の外見的特徴が驍宗と同じだったことから、絶望を深める李斎だったが……。

王を失い荒れる戴国の行く末を描くシリーズ第9弾、その完結編となる3〜4巻。行方不明の驍宗を探すため、李斎は消息を絶った場所といわれる山の周辺を巡り、泰麒は王宮内部で情報収集を試みながら、苦しむ民たちを救うために奮闘する姿が描かれてゆく。

前者では、行く先々で味方を増やしたり、あるいは阿選の目を逃れて生き延びていたかつての仲間たちと再会したりしつつ、6年前に驍宗に何が起き、どうなったかが明かされてゆく展開に。後者では、泰麒が「慈悲の生き物」とは程遠い深謀遠慮ぶりを発揮し、周囲を戸惑わせながらも阿選や自己保身に走る官僚たちと相対していく。3巻では仲間が増え、有力な手掛かりを見つけるなど、なんとなく明るい方向へと向かっていくのだが、4巻でまたしてもひっくり返されるという、最後の最後までどうなるか油断のできない展開にはハラハラさせられた。

その中で描かれていったのは、「王」という存在を巡る民たちの想い。一般の民にとって、王とは国の安寧そのものであり、自分たちの生活をダイレクトに左右するものだから、実際のところそれが誰であっても構わない――善政を敷いてくれれば一番いいが、最低でも「王」としてそこにいてくれさえすればいいのだ。しかし阿選の麾下にとっては、自分たちの主人が王であることが重要となってくる。だから彼らは自分たちの主に大義があるとして今もなお阿選に従っている――彼がかつて驍宗に何をしたのかを知っていても、いなくても。けれど時が経つにつれ、驍宗や泰麒に肩入れするものも出てくるようになる。それは人としての「正しさ」を求めての行動であり、あるいはこの世界を成立させるシステムそのものに対する信頼――つまりは「正当ではない王」に対する忌避感でもあるのだろう。李斎はこの捜索行の中で、自分が探しているのが「王」なのか「驍宗」なのかという問いを突き付けられることがしばしばあった。そしてそのたびに彼女は、「驍宗」という「人」を重要視していることを自覚することになる。正しさの基準を何に求めるかというのは意外と難しい話で、しかも私たちはきっとそれを無意識のうちに行っているからこそ、いざという時に判断を誤ることもある。今回の偽王にまつわる出来事は、そのあたりについてもいろいろと考えさせられた。

そしてもうひとつ、1〜2巻でもあらわになっていた泰麒の変貌ぶりについて。これまで見てきた他の麒麟たちとはまったく異なり、良くも悪くも「人間らしい」ものの考え方をする泰麒。それは蓬莱で凄惨な体験をし、今もなお王を失い国が荒れるのをただ見ていることしかできないという無力感からくるものだったのかもしれない。あるいはこれこそが、国を支えようとする麒麟の本能、その究極の発露であったのかもしれない。阿選が新王であると謀ったり、本来であれば本能的にできないはずのことを強い意志でもってやってのけたのも、これまでの経験があってこそなのだろう。角を失い、その存在意義を問われていた泰麒だったが、今回のエピソードで彼が麒麟であるということはこれまで以上に証明されたし、その神秘性も十分すぎるくらい裏打ちされたような気がするが、同時にその裏に――あるいははるか高みに――存在する「天」というものが恣意的に動いている可能性があることを改めて思い知らされもした。ある意味で世界の綻びともいえそうなこれらの事実が、今後どこかに影響してくる可能性はないのだろうかと少し心配になってくる。


◇前巻→「白銀の墟 玄の月(一)(二)」

毎年恒例の「おかんと都会の高いところに登るツアー」……もとい、東京旅行に行ってきました。ライブでもイベントでもなく、単純に母を接待しつつ東京をふらふらする1泊2日の旅です。

今年は「六本木ヒルズに行ってみたい!」という要望をいただきましたので、田舎からふたり、場違いにも都会のオシャレタウン・ギロッポンへと行ってまいりました。とはいっても実は私、友人と一緒に一度行ったことがあるんですけどね(笑)。

20191106森タワー

まあそれはさておき、行ってみました六本木。とはいえ親娘そろって中の店にはほとんど興味がなく、とにかく展望台へと一直線です。まずは52階の展望台へ。みんな同じフロアにある森アーツセンターギャラリーのバスキア展に吸い込まれていく中、我々はわき目もふらず屋内展望台「東京シティビュー」へ。フロアの中心部分がエントランス(エレベーターホール)やギャラリーとなっており、それを取り囲む外周部分が展望台となっています。なのでフロアをぐるっと一周する感じ。遠くに富士山も見えるようですが、あいにくよくわかりませんでした(苦笑)。過去に登ったタワー系だと、窓際に見える建物の図解パネルなどがあったりするのですが、ここにはそういったものはないので、土地勘のない私たちにはどのへんが見えているのかさっぱり(笑)。一応「富士山」とか「新宿方面」といった垂れ幕がある所も数か所ありましたが。なので詳しい配置はパンフで確認するしかないようです。

で、プラス500円でさらに上に登れるということで、もちろん行ってきました「屋上スカイデッキ」へも。その名の通り、こちらは外です。つまり森タワーの頂上。真ん中にはヘリポートもありました。ここから見ると東京タワーも近く感じますね。この日は風も気持ちよく、絶好の屋上日和でした。ちなみに屋上へはカメラ・スマホ以外は持ち込み禁止と言われたので、備え付けのロッカーに荷物を預ける必要があります。外ですので落としたりしたら大変だからでしょうかね。

20191106クモ

これテレビとかでよく見るやつだ!なんか蜘蛛みたいなやつ!と喜んで撮影。「ママン」というタイトルのパブリックアートだそうです。でかかった。

そのママンさんを通り抜け、お次は新宿へ。買い物をしたいということで連れて行ったわけですが、その前にタカノフルーツーパーラーでお茶。シーズンメニューとなっている苺とベリーのトライフルをいただきました。果物の甘みを前面に押し出した作りになっていて、なんともみずみずしい。色も鮮やかでとてもキレイです。

20191106トライフル

そこからは別行動で、母は新宿、私は池袋でふらふら。翌日は東京駅を別行動でふらふらしてました。ちなみに今回、池袋ではいつものジュンク堂池袋本店へ行ったのですが、東京駅をふらふらした際はちょっと駅から外に飛び出しまして、八重洲ブックセンター本店と、丸善日本橋店へ行ってみました。どちらもビルがほぼまるごと本屋という大型店舗で、大変心洗われました。このうちのひとつでいいから地元にもほしいですね……(かつて紀伊國屋書店の岡山店がそういう感じでしたが、ずいぶん前に縮小されてしまい、もはや見る影もありません……涙)。

20191106カバー

ちなみにこちら、今回の戦利品の一部。記念に各書店でカバーをかけてもらいました。左から丸善、八重洲、ジュンク堂。丸善は「白い恋人」でおなじみのISHIYAのカフェが日本橋にできたらしく、そのコラボカバーのようです。で、ジュンク堂の方は福島県とのコラボカバーだとか。

20191106おみやげ

ついでにこちらも戦利品(食べ物編)。ピンクの箱は豊島屋の鳩サブレー……なんですが、このイラストはなんだろう……ホントにハト?
もうひとつは「治一郎」のバウムクーヘン(カット)。なんかおいしいらしいという噂を聞いていたのでお試しに買ってみたんですが……噂は本当でした。なんかしっとりしてて超美味しかったです。……って実はどちらも東京土産ではないのですが(鎌倉と静岡)……ま、いっか(笑)。


*ここ1週間の購入本*
加藤和恵「青の祓魔師24」(ジャンプコミックスSQ./集英社)
凪良ゆう「神さまのビオトープ」(講談社タイガ/講談社)
凪良ゆう「すみれ荘ファミリア」(富士見L文庫/KADOKAWA)
木皿泉「くらげが眠るまで」
稲垣足穂「ヰタ・マキニカリス 21世紀タルホスコープ」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「幻獣辞典」(以上、河出文庫/河出書房新社)
小野不由美「白銀の墟 玄の月(三)(四)」(新潮文庫/新潮社)
岸本佐知子「ひみつのしつもん」(筑摩書房)
岩下悠子「漣の王国」(東京創元社)

さんかく
千早 茜
祥伝社
2019-10-31

大学時代を過ごした京都に戻り、古い町屋で暮らしながらフリーデザイナーとして働く高村は、フリーター時代の後輩である伊東と食事をすることに。かつて彼女が作っていたまかないが好きだったと言い、ひとり暮らしの彼女が作る料理に興味を示す伊東。大阪で営業職に就いている伊東は、アパートの契約更新が間近だったため、京都の大学院に所属している年下の彼女・華と同棲しようと考えていた。しかし誰かと一緒に暮らすのは無理だという華の言葉で諦めた伊東は、高村の勧めに応じて彼女の家でシェアハウスすることになるが、そのことを華には打ち明けられずにいたのだった……。

2018〜2019年に「新刊ニュース」に掲載されていた作品の書籍化。3人の男女の視点から、彼らの「三角関係未満」の繋がりを描く物語となっている。

伊東と華は付き合ってはいるものの、華は大学院での研究(様々な動物を解剖するのがメイン)に没頭しており、会うこともままならない日々。そんな折、アパートの契約更新をきっかけに、伊東は高村と一緒に暮らすことになったのだが、そこには「同棲」だの「ひとつ屋根の下」だのというような甘いものはほとんど感じることはできない。伊東にとっては賄い付きの下宿に入ったような――しかも大家はさばさばとしていて、気心もそれなりに知れてはいるが適度な距離感を保てる大人の女性――気分でいたのだろう。そしてそんな伊東を受け入れた高村もまた、自分のためだけに作っていた料理を褒め、喜んでくれる相手ができたことで、失っていた自信、あるいは自尊心のようなものを取り戻しつつあったのかもしれない。さらに言えば華も決して伊東のことを邪魔に思っているわけではなく、ただ自分の研究にリソースをすべて向けてしまいたい一方で、そんな「普通」ではない自分を「普通」の側に引き留めてくれる――またはその証明となる「彼氏」を必要していただけなのかもしれない。結局のところ3人は、そんな世間一般で言うところの「普通」であるための居場所を探し続けていたのではないかと思う。

しかし、そんな関係がいつまでも続くわけはなく、やがて3人はまた、それぞれの道を歩み始めることになる。誰かと一緒に生きる幸せがあれば、ひとりで生きる幸せだってある。食べて、寝て、働いて、そして誰かと繋がって――そんな当たり前の日々を、無理なく過ごしていくことが大事なのだろう。完璧でなくても、分かり合えなくても、それでいいのかもしれない。

kaze no tanbun 特別ではない一日
我妻俊樹
柏書房
2019-10-28

西崎憲による書き下ろし「短文」アンソロジー第1弾。小説でも、詩でも、エッセイでもあるし、そうでもないような「ただ短い文」が収録されている。以下、特に気に入ったものをいくつか。

◇山尾悠子「短文性について機廖崙鵜供
気肋説風、兇魯┘奪札どの短文。気暴个討る鳥のエピソードは「小鳥たち」を彷彿させると同時に、最後の「びんがびんが」という台詞がなんとも愉快な気持ちになってくる。

◇岸本佐知子「年金生活」
おそらく遠い(もしくはわりと近いかもしれない)未来、人口は減り、国としてもほとんど機能していない日本で、ある老夫婦のもとに届いた「ねんきん」とはいったい何だったのか。でもこれが夢だったとしても、確かにそれでもいいような気がする。少なくとも戸棚に隠されたモノの存在を意識しなくてもよくなったという点では。

◇勝山海百合「リモナイア」
母親と檸檬の木のエピソードが印象深かったのか、勢宇の家に檸檬の鉢植えを持って行った「わたし」。果たして出迎えてくれた勢宇の正体は……という不思議な作品。急に展開ががらっと変わるのがなんとも。

◇皆川博子「昨日の肉は今日の豆」
老化と共に肉体の一部が豆化していく。その豆を狙って雀たちがやってくるので、老嬢は宿六と自分の豆化した部分を今日も雀たちに与えていく。何もない日々のありふれた出来事――タイトル通り、「特別ではない一日」の風景。

◇谷崎由依「北京の夏の離宮の春」
北京を訪れている日本人作家は、友人であるドイツ人作家と英語でしゃべりながら頤和園――「オールド・サマー・パレス」へと向かう。かの西太后ともゆかりのあるこの庭園を巡りながら、作家の頭の中では様々な言語が渦巻いている。中国語、日本語、ドイツ語、英語。中国語の表記を日本語読みすると自分にとってはわかりやすいが、それではドイツ人である相手には伝わらない、そのもどかしさ。

◇藤野可織「誕生」
子供が生まれてすぐの時期は、母親はベッドに繋がれて動けない。しかしそこはかとなく漂うのは違和感――救急車のサイレンが頻繁に聞こえるのはここが病院だからか、それとも別の理由があるのか。個室のブラインドを開けてもらえないのはなぜなのか。スマホの電源は落ちていて、外部との連絡手段はない。夫が仕事を早めに切り上げてやってきたのはいったいなぜか。ひとつひとつの事象には納得できるけれど、最後の最後までどこか疑念が拭えない、まるでボタンを掛け違えているのにそれに気付けないままというような、不穏な空気がたまらない。

◇西崎憲「オリアリー夫人」
パーティーを開いてくれた「王冠くん」の友人が語る、「オリアリー夫人」なる人物の逸話。くちぐちに語られるそれは真実なのか、それとも作り話なのか。煙に巻かれたようなその語りの後に「王冠くん」がいなくなったのは、偶然なのか、それとも。


先の事件の功績を買われて、トウヤと珠子は本物のCIRO-Sに捜査官として採用されることに。腕試しも兼ねて命じられた最初の任務は、とある大学で起きている連続不審死事件の原因を探るというものだった。ある教室で3人の学生が次々に亡くなったというが、その3人にこれといった共通点もなく、時期も死因もバラバラ。それらしい手掛かりもないという状況や、自分たちに割り振られたという点から鑑みて、能力者が関与していると気付くトウヤたちだったが……。

特殊な異能を駆使し、不可解な事件に挑む捜査官たちの奮闘を描くシリーズ第2弾。

謎だらけの不可解な不審死事件に関わることになったトウヤと珠子だったが、同時に警告ともとれるような、様々な接触を受けるように。警察が不審に思っている――もちろん証拠も何もないから逮捕はできない――准教授の鳥野辺と、彼に付き従う双子。トウヤの名前や能力を見抜いていると思しきフードの少女。さらにブラックの敵討ちにやってきたフォウォレの殺し屋。事件と彼らの関係もはっきりしないまま、しかし――あるいは「やはり」というべきか――トウヤは今回も死線をすれすれで潜り抜けるような方法で真相へと迫っていくのだが、その手法は前巻にも増してリスキーで、珠子でなくてもハラハラさせられる。

自分が嘘を吐けない代わりに、嘘を吐いた相手を操ることができるという異能を持っているトウヤ。それは単に彼の大好きな賭け事のような勝負で使えば有利になる能力だが、今回はまた違った使い方をしているのも興味深い。そして珠子も異能に目覚める中、新たな「敵」の存在が明らかになっていく。ふたりの上司である未練もどこまで信用できるのかわからない中、ふたりは生き延びることができるのだろうか。


◇前巻→「破滅の刑死者 内閣情報調査室『特務捜査』部門CIRO-S」

昭和少女探偵團 (新潮文庫)
彩藤 アザミ
新潮社
2018-11-28

昭和6年の春。私立の女学校に通う花村茜は、机の中に見知らぬ便箋が入っていることに気付く。差出人は不明で、「貴女の重大な秘密を知っています」という一文と、フランス語らしき文言の羅列のみが記されていた。その「秘密」に心当たりはないものの、動揺した茜は、フランス語に堪能な級長に翻訳を依頼。しかしその内容はでたらめで、何の意味もなしていないという。しかも周囲に話を聞いてみると、その文書は茜だけでなく、茜と同じ窓際に席があるクラスメイトたちにも届いていたのだという――たったひとり、茜の親友である寒河江加寿子だけを除いて。音楽の授業中に手紙が忍ばされていたという状況から、その授業に遅れてやってきた茜と、同じクラスの夏我目潮のいずれかが犯人ではないかと噂される中、潮は真犯人の目星がついたと言い出して……。

昭和6年の東京を舞台に、女学生たちが身近で起きた謎を解決していくレトロ青春ミステリ、第1弾。

売れない詩人の父と売れっ子作家の母を両親に持つ主人公・茜は、私立の女学校に通うお嬢様。両親に代わって家事を一手に引き受けるというしっかり者である一方、お人好しで人を疑うということを知らない、ある意味箱入りな性格の持ち主だったりする。そんな彼女が怪文書事件に関わったことで、クラスメイトの才女・夏我目潮や、電機メーカーの社長令嬢である変わり者・丸川環と共に「探偵團」を結成することに。基本的に推理するのは潮で、茜や環はそのサポートに回るのだが、三者三様の性格および行動パターンが思いのほかうまく噛み合い、事件を解決していくという流れがなんとも楽しい。

クラスに出回った怪文書、茜の「ドッペルゲンゲル」出現事件、そしてとある脳病院に隠された狂人の秘密……と、少しずつ事件がスケールアップしていくのも面白い本作。また、昭和初期という和洋入り乱れた風俗が見え隠れするのも楽しい。個人的には脳病院のエピソードがほのかに夢野久作っぽいところもいい。さらに気になるのは、潮の隠された出自のこと。続編がすでに刊行されているようなので、彼女たちの活躍と友情がどうなっていくのか気になるところ。

聞きました奥さんもう11月ですってよ。まじすか。

ということで11月になりました。2019年も残すところあと約2か月です。ここ何年もの間、毎年自宅用にワカマツカオリの壁掛けカレンダー、職場用にカピバラさんの卓上カレンダーを買っているのですが、今年はまだワカマツカオリのカレンダーに関する情報がまったく出てきていません。もしかして来年は出ないのかしら……だとしたら残念です。

ちなみに、わたくしは年に1度の超繁忙期をなんとかやり過ごし、ようやく年に1度のリフレッシュ休暇に突入いたしました。しかし休みというのは時間が過ぎるのが早いもので、もう折り返しに来てしまいました。休みに入る前はあれをしよう、これを片付けよう、あの本を読もう……と画策していたわけですが、蓋を開けてみると何も片付いてないし本もまだ2冊しか読めてないし気付いたら寝てばかりです(笑)。

あ、でもこの休みの間に、高校時代の友人と久しぶりに会いました。気付いたらもう20年来の付き合いというのだからびっくりです。ライフスタイルの違いとか住む場所の違いもあって、年に1度会えればいい方という感じですが、会うと高校時代に戻ったような気がして楽しいやら懐かしいやら。まあもうイイ年なはずなんですけどね(笑)。


*ここ1週間の購入本*
三川みり「一華後宮料理帖 第十幕」(ビーンズ文庫/KADOKAWA)
吹井賢「破滅の刑死者2 内閣情報調査室CIRO-S第四班」(メディアワークス文庫/KADOKAWA)
安井健太郎「ラグナロク:Re 3.大敵」(オーバーラップ文庫/オーバーラップ)
彩藤アザミ「謎が解けたら、ごきげんよう」(新潮文庫nex/新潮社)
千早茜「さんかく」(祥伝社)
西崎憲・他「kaze no tanbun 特別ではない一日」(柏書房)


遠い未来、衰退の一途を辿る人類は、生き残るためにある「賭け」に出る。集団は各地に隔離され、「見守り」と呼ばれる存在が注意深く彼らの生存を文字通り見守る中、人々は「母」と呼ばれる存在に育てられ、国も宗教も争乱もなく、かつて「人間」が引き起こしたおびただしい出来事も知らぬまま、ただ生きているのだった……。

第44回泉鏡花賞受賞作となった本作は、遠い未来の地球で、様々なかたちで生き延びる人類と、それを見守る存在たちの姿を描く長編小説。

今のわたしたちのような者もいるだろうし、他の動物と融合あるいは交雑して、姿が変わってしまっている者もいるのかもしれない――そうして生き延びた「人間」たちは、各地で穏やかに暮らしている。そんな彼らを見守っているのは「母」と呼ばれる存在と、彼女たちのもとで観察者あるいは監督者として育てられた「見守り」と呼ばれる存在だった。短編連作のような形で、人間、「見守り」、母それぞれの視点から、遠い未来の姿が描かれていく。その様は確かに「神話」のようなもので、やがて物語は「母」の正体、そしてこの「世界」を創ったであろう少女の物語へと収束していく。エリという少女は自らの手で人間(のようなもの)を創り、レマという少女は夢の中で、神の視点から人類の歴史を垣間見る。見守り、見守られる人々の位置が入れ替わりながら、この「神話」は円環を成していく。人の営みが繰り返されるという、その神秘をひしひしと感じさせられたような気がした。

流浪の月
凪良 ゆう
東京創元社
2019-08-29

優しくて自由な両親の間でのびのびと育ったのも束の間、父が死に、母が姿を消したことで、まだ小学生だった家内更紗は伯母の家に引き取られる。しかし伯母の家はなにもかもが窮屈な上、中学生の息子からは様々な嫌がらせを受けていたため、家に帰ることが苦痛でならなかった。なるべく家にいる時間を減らそうと、近所の公園で時間を潰していた更紗。雨の中、家に帰れずにいた更紗の前に傘をさしかけたのは、いつもこの公園で本を読んでいた青年だった。友人たちは彼のことを密かに「ロリコン」と呼び蔑んでいたが、更紗は青年の誘いに応じて彼の家へと向かう。時折こちらを凝視するような素振りを見せることはあるものの、基本的には彼女の望む通りにさせてくれる青年――佐伯文のことがすっかり気に入った更紗は、そのまま彼の家に居ついてしまう。世間では失踪、あるいは誘拐された少女としてマスコミに取り上げられもしてはいたが、ふたりは幸せな日々を送っていた。しかしある時、気を緩めてしまった更紗は、文に動物園に行くことを提案。そこで周囲に気付かれてしまい、ふたりは引き離されてしまうのだった。――それから幾年も経ち、更紗はバイトをしながら会社員の彼氏・亮と暮らしていた。そんな折、同僚に誘われてたまたま入ったカフェで、マスターをしている文に再会し……。

周囲から非難され反対されながらも、たったひとりの「彼」を追い求める少女の半生を描く長編小説。

「少女を誘拐したロリコン男」と「誘拐された可哀想な少女」というレッテルを貼られた文と更紗。ふたりの関係はそんなものではなく、居場所も拠り所もなにもかもを失い、傷付いた心を抱えたまま、どこか似た者同士なふたりが出会い、惹かれ合ったという、ただそれだけのことだった。けれど周囲が勝手に貼ったそのレッテルはいつまでもふたりに貼り付いたままで、誰もふたりの関係を理解しようとはしない。そんな周囲の無理解に苦しみながらも、更紗は文を追いかけずにはいられないのだ。

結局のところ、人間というものは自分の見たいものしか見ず、理解できないものは排除するばかりの存在なのだろう――プロローグで描かれた一組の男女の会話を、ファミレスの店員は微笑ましく見つめる。しかしエピローグでその男女の正体に気付いた時、自分がそのファミレスの店員や、無神経な男子高生の集団と同じであることに気付いて愕然とさせられる。そんな絶望感に苛まれながらも、ふたりが築き上げたその関係の美しさには息をのまずにいられない。表紙に描かれた3つのアイスクリーム、そして文の最後の独白が胸に刺さる。ふたりが幸せでありますようにと、深く祈りたくなるような、そんな物語だった。


内閣情報調査室内に秘密裏に設置されている「特務捜査」部門――通称「CIRO-S」。その新人捜査官である雙ヶ岡珠子は、「Cファイル」と呼ばれる国家機密級の資料を追って、ある大学生のもとを訪れる。その大学生――戻橋トウヤは、例のファイルが置かれていた可能性のある事務所を訪れ、友人の負った借金をチャラにさせるため、ヤクザ相手に麻雀勝負を持ち掛けたうえ、そこでたまたま起きた襲撃事件に乗じて金庫の中から借用書などを持ち出し、まんまと逃げおおせたのだというのだ。しかしトウヤがその襲撃相手を目撃し、もちろん向こうにも姿を見られていたことで状況は一変。珠子は上司の命により、トウヤと共に行動し、彼を守りながらも「ファイル」の調査を続ける羽目になり……。

第25回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作。謎のファイルを巡り、どこか刹那的に生きる大学生・トウヤと、彼に振り回される新米捜査官・珠子が奮闘するサスペンス長編となっている。

超能力ともいうべき「特異能力者」が存在する世界で、その能力者に関わるとされる「Cファイル」。その所在をめぐってトウヤと珠子は秘密結社「フォウォレ」の一員であり、目が合えば必ず死ぬという魔眼の持ち主・ウィリアム=ブラックを追うことに。とはいえ秘密結社の一員などという接触不可能な存在に対し、トウヤは一介の大学生ながら、思いもよらない方法で彼とのコンタクトを図り、なおかつおびき出すことに成功する。しかしそれに協力させられる珠子には――もちろん読者にも――、彼のメンタリティはとうてい理解しがたいものだった。自分の命がかかっているにも関わらず、なぜそんなにも冷静な判断が下せるのか――しかもそうとは見えないほどの飄々とした態度で。

「眠れる森の美女症候群」とも呼ばれる病を患っているという「トウヤの初恋の人」五辻まゆみは、彼に欠けている――あるいは明らかに肥大しているとでもいうべきか――精神の在り様について語る。しかしそれは果たして彼ひとりの問題なのだろうか。どこかで鍵を握っていそうな彼女の存在と合わせて、トウヤという人物は一体何なのかが気になって仕方ない。

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