phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

水光舎四季 (徳間文庫)
石野晶
徳間書店
2014-10-17

ささやかな、しかし不思議な能力が生まれながらに備わった子供たちに対し、その能力との付き合い方を学ばせ、伸ばしていくために、年に1度、3か月ずつ施設に寄宿させる「特別能力期待生」――通称「特期生」という制度がある。植物の声が聞こえる能力を持つ潤也もまた、この春から特期生として「水光舎」と呼ばれる山中の施設へ行くことになった。潤也は「庭師」として、これから毎年4〜6月の春の間だけ、水光舎の美しい庭を保つという仕事を与えられるが、新参者である潤也に対して庭の植物たちはどこかよそよそしく、文句ばかり。他の季節の「庭師」たちはこれまでに築いた関係性があるし、いま水光舎にいる他の子供たちもすでにみな顔見知りであるため、どこにいっても新入生である潤也はなかなかなじめず……。

毎年3か月だけ滞在できる施設「水光舎」を舞台に、ささやかな能力を持つ子供たちが自分の力と向き合い、成長していく連作集。

水光舎に集められた子供たちはみな何らかの能力者ではあるが、同じ季節に同じ能力の持ち主は存在しない。子供たちは季節ごとに入れ替わり、18歳で「卒業」するまで、各季節にやってくる同じ能力者たちとネット上に置かれた「日誌」の中で交流しながら、それぞれの能力者に与えられる課題をこなしていくことになるのだ。例えば「庭師」は水光舎の庭を世話すること、「画家」は生徒たち全員の肖像画を描くこと……等々。そんな不思議な空間で、能力を持つ子供たちは成長していくことになる。

本作でも各章を季節で区切り、それぞれ異なる能力者たちを主人公に据えている。春は「庭師」の少年が初めてやってきた水光舎で、戸惑いながらも自分の能力と向き合い、居場所を築いていく。夏は、本来であれば春担当の「画家」の真澄が、夏担当の「画家」に片想いし、こっそり水光舎に居座るものの、意外な真実を目の当たりにする。秋は「霊能者」の涼示が、デザイナーの少年にとりついた少女の幽霊を成仏させる中で、ルームメイトの「書記」薫平の正体を知る。そして冬は「飼育員」の歩が、春の担当者が見つけた狼のような動物と信頼関係を築いていく様が描かれていく。

どのエピソードもみずみずしく、可能性に満ち溢れている彼ら彼女らの姿が見て取れる。そこに悩みや苦しみは確かに存在するけれど、まだ幼いなりにも自分たちが「スペシャリスト」としての自信を身に着けていくさまがなんとも眩しい。現実にありえない、隔絶され守られた空間だからこそなせることなのだろうが、その不完全な完全さにもまた、愛おしさを感じさせられた。

暇を持て余した妹に誘われ、パフェを食べてきました。
目的地は倉敷の美観地区にある「くらしき桃子」倉敷中央店。この地区内に「くらとき桃子」は3店舗あるのですが、我々は倉敷中央店でのみ提供されているという、期間限定の「まるごと桃パフェ」が食べたかったのです。このパフェ、その名の通り、桃がまるごとひとつ乗っているというなかなか力業的な感じのシロモノ。しかも偶然にも、今日と明日は「白桃の日」(8月9・10日だから?)ということで、桃が2個乗っている特別版もあるとのこと! もうそちらを頼む以外の選択肢はありませんでした(笑)(ちなみに2個にするとお値段がちょっと上がります)。
20200809桃1

というわけでこれですよ。どうですかこの圧倒的な佇まいは!
ちなみに食べるときはもう1枚小皿がついてきて、桃を皿に下ろしてから食べるよう言われました。まあそりゃそうだ。
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今日の桃は清水白桃という品種だったのですが、とにかく甘い!そして柔らかい!
歯を使わずとも、口の中で簡単に摺り潰せるんです。もはや飲み物レベルです。見た目の通りボリューミーではありますが、食べるだけであればスイスイいけます。とはいえその質量が変わるわけではないので、全部食べるとさすがにおなか一杯になりました。しかし炎天下の下、並んで待っても後悔しないおいしさです。これ以外にもいろいろなフルーツもりだくさんのパフェがあるようなので、また行ってみたいです。


*ここ1週間の購入本*
和山やま「夢中さ、きみに。」(ビームコミックス/KADOKAWA)
あおのなち「きみが死ぬまで恋をしたい3」(百合姫コミックス/一迅社)
wako「サチコと神ねこ様4」(フィールコミックス/祥伝社)
星野桂「D.Gray-man 27」(ジャンプコミックス/集英社)
石野晶「水光舎四季」(徳間文庫/徳間書店)
麻見和史「警視庁文書捜査官」(角川文庫/KADOKAWA)
横田増生「ユニクロ潜入一年」
赤江瀑「八雲が殺した」(以上、文春文庫/文藝春秋)
赤江瀑「月迷宮」(徳間書店)
町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)

半月ほど前に、地図や旅行ガイドでおなじみの昭文社から「チョコミント本」なるガイドブックが出ることを知り、チョコミント好きの私としてはいてもたってもいられず捜索開始。で、それを探してる間に見かけた他の本にもつられてしまいました。あまりこういうガイド本的なものを買ったことがないのでなかなか新鮮な感じです。

チョコミント本
昭文社
2020-07-21

まずは「チョコミント本」。チョコミント大好きな大学生「うしくろ」が監修しているそうで、前半は東京を中心としたチョコミントスイーツを提供するカフェのガイド、後半は専門店からコンビニまで、自宅に持ち帰れるチョコミントスイーツのガイドとなっています。

ここに掲載されている実店舗に行ったことはもちろんないのですが、ひとくちに「チョコミントスイーツ」といっても、その種類は様々。パンケーキにタルト、ドーナツ、かき氷、パフェ、マカロン、アイス……どれをとってもミントブルーがきれいで、食べるだけではなく映え感が半端ない。後半に置かれた、お菓子やコンビニスイーツの変遷も読みごたえがありました。


次は「プリン本」。こちらは「チョコミント本」の姉妹的な感じで、昨年刊行されていたそうなのですが、その時は東京の店舗がメインだったそうです。で、このたび京阪神バージョンが出たとのこと。私が購入したのは、この京阪神バージョンの方です。

こちらの構成も「チョコミント本」と同様で、カフェのページと、市販の持ち帰り商品のページに分かれています。が、どちらかというとカフェページの方がメイン。まあどうしてもプリンはチョコミントのように商品のバリエーションが多数あるわけではないので致し方ないのですが。ですがこちらは各店舗のプリンの大きさや甘さ・かたさなどのデータが細かく記載されているなど、よりガイド本らしい内容となっています。

また、京阪神といえばやはり「モロゾフのプリン」ですが、この歴史について書かれたコラムが興味深かったです。なお、その中で個人的に一番気になったのは容器の変遷について。モロゾフのプリンはガラス製のコップとなっているため、我が家ではその昔、この容器をコップ替わりに使っていた記憶があります(たぶん他にもそういう家庭はあったのではないでしょうか?)。なので、そのコップがいつ頃使われていたのか――ひいては、いつ頃からうちにあったのかを考えるのもまた面白かったりして(笑)。

空色のクリームソーダRecipe
tsunekawa
ワニブックス
2019-08-10

最後はガイドではなくレシピ本です。「空色のクリームソーダRecipe」というタイトルの通り、様々なオリジナルクリームソーダの写真と、その作り方が掲載されています。表紙の「青空を注いだクリームソーダ」の美しさときたら!

この本では「フルーツ」「宝石」「季節」などいくつかのテーマに沿って作られた色とりどりのクリームソーダが並んでおり、写真集としても楽しめます。個人的には「大人のクリームソーダ」(アルコール飲料を使用したもの)の中にある「カルーアコーラのクリームソーダ」が気になりました。


九州で展開しているコンビニチェーン「テンダネス」の門司港こがね村店には、老若男女問わず様々な人を虜にしてしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦がいることで有名。高校生の息子を持つパート店員・中尾光莉は、そんな彼のフェロモンの影響を受けないため、店長とそのファンたちを観察しては漫画化してネットに上げ、人気を博していたのだった。そんなある日、廃品回収業者らしき髭面の常連客(ツナギに「なんでも野郎」と書かれているため、店員たちもそう呼んでいる)が店長と店の外で会っているらしいという話を聞いた光莉。ふたりの関係が気になって仕方ない光莉は、自宅の壊れた自転車を回収してもらうという名目で、彼に接触を試みるが……。

とあるコンビニに集まる人々の悩みを、店長や常連客たちが解決していく短編連作集。

軸になるのはやはり、無差別にフェロモンを振りまきつつも、至って真面目で穏やかな性格の店長・志波三彦の存在。彼が店頭に出ようものならレジには長蛇の列ができるため、店長は集まった客たちひとりひとりを丁寧にさばいていくという、初見の人にはドラマの撮影か何かかと思われるような光景がしばしば見られるというのだから(はたから見るぶんには)面白い。ゆえに店員として雇われるのは、そんな店長のフェロモンに反応しない人に限られており、常に店は人手不足という悲しい状況。しかしそんな勤勉な店長がいるためか、この店は他の支店とは異なる施策をテスト的に行っていることもあり、客層も特殊だったりする。そのせいもあってか、何かと問題を抱える人々がやってくるのも仕方ないといったところか。

常連客の中には志波店長の兄もひそかに混ざっており、店長だけでなくその兄も一緒になって、悩みを抱える人々の背中をそっと押していく。また、以前このコンビニに関わったことで救われた人が、ほかの悩める人を救う手伝いをしたりもする。このコンビニと店長が、人と人がゆるやかにつながっていく中継点となっているのだ。それこそが店長の理想であり、夢なのだろう。エピローグでようやく語られた店長本人の想いからもそれは見えてくる。帯にある「このコンビニには、やさしいものが売っています」という惹句通りの、やさしい物語だった。


とりあえずは夏合宿!ということで奥多摩のキャンプ地へ向かった出見たち。水妖調査の中で出会った「ゲロのオッサン(略してゲッサン)」ことローマ神話の海神ネプトゥーヌスも交えて情報交換をしつつも、カレー作りなどを楽しむことに。そんな彼らの前に、ギリシャ神話の神々であるデメテルとアテナが現れる。水妖を追っている彼女たちは、出見たちによる介入を防ぐために強く牽制してくるが、神道側の交渉役として出見たちに同行していた菅原・天満はそれを逆手にとって武力行使を宣言し……。

夏の山でテラフォームしながらウハウハザブーン(???)な2−下巻。

もちろん今回の焦点となるのは、上巻から執拗に人類=出見を狙ってきた水妖の正体と目的、そして木戸・阿比奈江の正体。どちらもこの場における「唯一の人類」である出見にまつわるものであり、それらが明らかになったことで、不可解だったオリンポス勢の意図も明かされるという展開に。上巻の感想で、先輩・木戸・出見の三角関係が出来上がるのでは?と書いたが、でまあ実際はその通りになりそうではあるが、ちょっと木戸の立ち位置が特殊なので、この先どう転ぶかがわからず、そのあたりも楽しみになってきた。


◇前巻→「EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩のウハウハザブーン〈上〉」

えっ、いつの間に……(定型文)。

ということで8月になりました。梅雨も明けたし、やっと夏らしくなってきた気がしますね。
先日、仕事中に倉庫で作業する必要があったのですが、窓はあっても諸事情により開けられず、またエアコンも扇風機もないので、ものの15分ほどで汗だくになってしまいました。作業が終わって立ち上がろうとしたら、首元から汗が滴り落ちたのでびっくりです。しかしこの日、わたしはたまたま某エアリズム製品を着ていたので、そのあとがわりと快適でした。ほんとにさっと乾くんだ……すごい……。

さて、久々にガチャガチャを回したのでひとつ。
先日、イオンモール岡山に久しぶりに行ったのですが、実は5月にガチャ専門店ができてたんですってね!わたし聞いてないよ!……というのはおいといて(笑)、とにかく天井まで積みあがったガチャ機が圧巻でした。で、ここでまわしてきたのがこちら。「ねこのパン屋さん」です。
20200801ねこパン

直立するネコがパンを持っているというただそれだけなんですが、なんとなくシュールな佇まいがいいですね。私がゲットしたのは「ちゃしろとフランスパン」(左)と「みけとロールパン」(右)でした。もっと買えばよかった……これはたくさん並べるとカワイイやつだと思うので……。


*ここ1週間の購入本*
最東対地「寝屋川アビゲイル 黒い貌のアイドル」(講談社タイガ/講談社)
町田そのこ「コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店」(新潮文庫nex/新潮社)
石井遊佳「百年泥」(新潮文庫/新潮社)
大森望・編「ベストSF2020」(竹書房文庫/竹書房)
市川俊介「備中高松城の水攻め」(岡山文庫/日本文教出版)
津堅信之「京アニ事件」(平凡社新書/平凡社)
松原始「カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん」(幻冬舎新書/幻冬舎)
「チョコミント本」
「プリン本 大阪・京都・神戸」(以上、昭文社)
tsunekawa「空色のクリームソーダRecipe」(ワニブックス)

ベストSFアンソロジー、以前は東京創元社から出ていましたが、今後はタイトルも改めて竹書房から出るようです。びっくり。

木になった亜沙 (文春e-book)
今村 夏子
文藝春秋
2020-04-06

保育園に通っていた頃、亜沙は母親と一緒に作ったひまわりの種のおやつを親友のるみちゃんにあげようとしたが、どれだけ勧めてもるみちゃんは受け取ろうとしなかった。それ以降も、亜沙が誰かに食べ物を渡そうとすると、なぜか誰も受け取ってくれないのだった。クラスメイトだけでなく、親族も、小学校で飼っていた動物でさえも。やがて母の入院を機に親戚の家に引き取られ、中学校に進学しても、不良になって更生施設に送られても、その状況は変わらない。自分の手が汚いからだろうか、と施設の先生に涙ながらに打ち明けると、先生は亜沙の悩みに寄り添い、その手が「きれいすぎる」からだと告げる。しかしその先生もまた、亜沙が渡したチョコレートを受け取ってはくれなかった。その直後、施設の友人たちと向かったスキー場で遭難してしまった亜沙。近寄ってきたタヌキがそばの木から落ちた果実を食べるのを見ながら、生まれ変わったら木になりたいと願い――そして気付くと、本当に1本の木になっていて……。

2017〜2020年にかけて発表された短編3作を収録した作品集。

表題作では、主人公の亜沙はそのタイトル通り「木」になる。「自分の手で渡したものを誰かに食べてもらいたい」と願う彼女は果実をつける木になりたいと思っていたが、彼女が実際に変化したのは杉の木。しかしその木は割りばしとなり、コンビニに運ばれ、やがてある青年にもらわれていくことになる。

この短編の次に置かれているのが「的になった七未」という作品なのだが、タイトルともども、表題作とは姉妹編のような内容になっている。こちらは七未という少女がそのときどきで何かをぶつけられそうになる――つまり「的」になるも、なぜか彼女にはいっさい当たらない。しかも投げつけられるもの――どんぐりやドッジボール、あるいは空き缶――から逃げる中で、七未は周囲の人々が自分を応援している光景を幻視する。七未より先になにかをぶつけられ、的になることを終えた人たちは、「がんばれ」「はやく」と七未に声をかける。逃げ続ければいつまでたっても終わらないと思った七未は、逃げるのを止めて当たろうとするが、それでも彼女には何も当たらないのだ。

当たり前のことがこのふたりにとっては当たり前ではなく、しかしそれに気付いてもどうすることもできない。失ったのではなく、もともと持っていなかったのかもしれない「なにか」を追い続け、最後の最後でそれを手に入れることができたふたりは、本当にこれで「幸せ」になれたのだろうか。


クラゲの姿をした海神への信仰が根付く港町で暮らしている遠田湊。学校図書館の司書として働くかたわら、一緒に暮らしている恋人・凪の「家業」も手伝っていた――日ごとに姿を変えるクラゲの水槽を持つ「海月館」は、後悔を抱え、海神のもとへたどり着けない死者がやってくる場所。凪はその死者たちの抱える公開を解消し、海へと還すことが務めなのだった。ある時、湊は自分の前任者であった櫻子という女性司書が通り魔に殺されていたこと、そして図書委員の吉野が櫻子の親戚であったことを知る。その日の夜、海月館に櫻子が現れ、「桜の栞」を渡してほしいという言葉を残していき……。

海神信仰の根強い港町で、後悔を抱える死者を送り続けるふたりの姿を描く連作集。

どちらかといえば穏やかで物静かそうな雰囲気の持ち主ではあるが、死者たちの後悔に寄り添い、解決しようと奔走する湊。そんな彼女を時にやさしく、時に意地悪に見守りながら、死者たちの声に耳を傾け続ける凪。しかし物語が進むにつれ、湊と凪の関係そのものにも謎が深まっていく。凪の「正体」については早い段階で提示されるのだが、すると今度は湊という人物が次第にとらえがたくなってくるのだ。

湊もまた、海月館を訪れる死者たちよりも深い後悔に囚われ続けている。その理由はもちろん凪にあるのだが、その立場や環境上、いくら不可思議な現象に対する理解があるのだとしても、彼への執着の度合いが尋常ではないのだ。凪は湊のことを離さないとうそぶきつつも、いざとなれば彼女を守るために身を引いてしまいそうなところがなくはないが、湊の方はそうではないように見える。自分の「おかしさ」を自覚しつつも、意識的にそれを止めるつもりはないし、本当の「最期」まで――あるいはそれを超えたとしても――凪の手を離すまいという心情が見て取れる。暗い夜にたゆたうクラゲ――そんな幻想的で、しかしどこか恐ろしいほどに美しい海月館の光景は、湊のこころの姿そのものなのかもしれない。

禽獣の門 (光文社文庫)
赤江 瀑
光文社
2007-02-08

能楽の家元の次男でありながら家を捨て、美術社で絵を描いている立花春睦。当初は政略結婚の相手と目されていた財閥令嬢・綪と心から愛し合うようになり、結婚して幸せな日々を送っていた。しかし取材旅行で向かった港町で、ふたりはある悲劇に襲われる。その出来事以降、あからさまによそよそしくなった春睦に対し、綪は愛情だけではない複雑な想いを抱きつつも、寂しさを行きずりの男との関係で埋めるよりほかないのだった。一方、綪を襲った男が「つる」によってつけられたという背中の傷跡を目にして以来、丹頂鶴に心奪われるようになっていた春睦。やがて実家にいた頃から後見として世話を焼いてくれている雪政と共に、丹頂鶴が飛来するという山口の山中へと向かうが……。(「禽獣の門」)

2007年に光文社文庫から刊行された傑作選全3巻のうちの第2弾。2006年末までに発表された短編から、特に情念にあふれる作品10作が収録されている。

ある「事件」を経て、自分ではない何者かに捕われるようになった能楽師の行く末を描く表題作をはじめとして、サブタイトルの通り、どれもが男女の間に燃え立った昏い情念がこれでもかというくらいに描かれている。相手を想うあまりにあらぬ方へと向かっていく人々は、もはや当たり前の幸せなどという生易しいものは求めていないに違いない。しかし彼ら、あるいは彼女らはそうすることでしか生きていけないし、そうなることこそが本望なのだろう。死や背徳といった悦びに囚われてしまったら、もう逃れることはできない――そんなどうしようもない地獄を、あるいは本能のままに生きる世界を、目の当たりにさせられてしまった。

タイトルとは関係ないんですけど、国書刊行会から出ている「定本 夢野久作全集」、7巻が8月にようやく出そうです。当初の予定では去年の11月刊行だったので、気付けばあと数か月で1年延期になるところでした。実は刊行前の時点で全巻予約しているんですが、その書店が6月末までのキャッシュレス還元対象店だったので、それまでに出てくれると戻りが大きい……とひそかに願っていたのですが(笑)。でもまあ楽しみです。

さておき、先週の続き(?)です。
傑作選2巻を購入した古本屋にて、他にも何冊か文庫本の在庫があることが確認できていたのですが、昔の文庫本は今みたいに裏表紙にあらすじとか書かれていない場合が多いので、これが長編なのか短編なのか、また短編集なら何が収録されているのかまったくわからないわけです。そこでいったん帰宅し、河出のムック本に収録されていた作品リストを改めて確認。さらにこれを単行本のみのものと文庫化されているもの、また長編/短編集/エッセイ集/アンソロジーというくくりで分類し、自分用にリストを作り直してみました。完全にヲタクのやることですね(笑)。

リストが完成したら、収録作のタイトルやムック本解説などから気になるものをピックアップし、どれを優先的に買うかを決め、再度古本屋へ。すると特に気になっていた4作品がぜんぶありました!やったね!ということでこちら。
20200725赤江瀑1

「海峡」だけは長編(というか散文詩的な?)なのですが、あとの3冊は短編集。個人的に驚いたのは「花曝れ首」が1981年刊行の講談社文庫なのですが、今とはフォーマットが全く異なり、本体表紙(カバー下)が青緑っぽい色になっていること。あと「海峡」(角川文庫/1986年)の本文の色が青いんですよ! これはデフォルトではなく、この本だけわざとこうしているんだとは思いますが……その凝りようがステキですね。
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という感じでまだ前に買った本を読み終わっていないのに積みを増やすというのは私の悪い癖ですが、大目に見ていただけると幸いです(笑)。ついでに宣言しておきますと、私、まだこの古本屋の単行本コーナーを見ていないので(文庫と単行本が全く別のフロアにあるため)、今度は単行本を見に行こうと思ってるんですよね……(フラグ)。


*ここ1週間の購入本*
和山やま「女の園の星1」(フィールコミックスswing/祥伝社)
高尾滋「ミセス・マーメイド3」
山田南平「恋するMOON DOG 4」(以上、HCスペシャル/白泉社)
市川春子「宝石の国11」(アフタヌーンKC/講談社)
よしむらかな「ムルシエラゴ17」(ヤングガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
窪美澄「すみなれたからだで」(河出文庫/河出書房新社)
今井秀和・訳/解説「世にも不思議な化け猫騒動」(角川ソフィア文庫/KADOKAWA)
皆川博子「写楽」(角川文庫/KADOKAWA)
赤江瀑「海峡 この水の無明の真秀ろば」(角川文庫/角川書店)
赤江瀑「花曝れ首」(講談社文庫/講談社)
赤江瀑「野ざらし百鬼行」(文春文庫/文藝春秋)
赤江瀑「春喪祭」(徳間文庫/徳間書店)
松原始「カラスは飼えるか」(新潮社)
青山透子「日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす」(河出書房新社)

黄色い夜 (集英社文芸単行本)
宮内悠介
集英社
2020-07-03

エチオピアと国境線を争っている砂漠の小国・E国にはこれといった資源がなく、唯一の観光資源かつ産業はカジノのみ。砂漠にそびえたつカジノ・タワーはいまだに建設途上で、最上階にいるこの国の最高権力者に勝つことができれば、この国を手に入れることができるのだという。日本人の龍一ことルイは、ある目的をもってこのカジノ・タワーへ挑もうとするが……。

2020年に雑誌「すばる」に掲載された中編は、作者お得意のギャンブルもの。

主人公は向こう見ずなギャンブル狂とかそういうわけではない。目的はただ「勝つ」ことではなく、一国を手に入れること。仲間を集め、様々な搦手を使いつつ、確実に「勝ち」を狙っていくルイだが、とはいえその過程すらもまるで博打のようなものなので、読んでいるこちらとしては二重にハラハラさせられることになる。

タイトルにもなっている「黄色い夜」というのは、激しい砂嵐の内部に閉じ込められている状態のこと。視界ゼロとなる激烈な空間、そしてその中でも神への祈りを欠かさない人々を見て、ルイはひとつの理想をそこに見出していたのかもしれない。やがてタワーへの「挑戦」を終え、日本に残していた彼女・スミカの近況を目の当たりにしたルイは、ある言葉を彼女に向けたのだという。かつて砂嵐の中で彼が見たものは、まだその手に留まっているのか、それとも指の間をすり抜けてしまったのか――明示されなかったその「言葉」の行方もまたわからないままだが、そこにもやもやとした感情は不思議と残らなかった。


閉鎖された遊園地から出られなくなってしまった芹たち。亡き父の知り合いだという黒ずくめの作家・鷹雄光弦は、芹が北御門家に嫁いでいることを知ると、「北御門をここから出すわけにはいかない」と告げて姿をくらます。北御門家に何らかの呪詛が向けられているということを知った芹は、ひとまず鷹雄から詳しい話を聞くため、遊園地の奥にあるアトラクション跡地へと向かうことに。呪詛のことだけでなく、朽ち果てた観覧車のゴンドラがひとつずつ落ちていること、鷹雄と亡き父の関係、そしてその鷹雄の顔色が悪かったことも、芹には気になって仕方なく……。

へっぽこ陰陽師としっかり者の女子大生との(仮)夫婦物語、シリーズ6巻。前巻からの続きで、北御門家だけでなく芹の実家ともなんらかの因縁がありそうな男性・鷹雄光弦の正体と目的が明かされるという展開に。

廃遊園地と、これを取り巻く幽霊たち――芹の後輩で皇臥の弟子である大学生・八城が名付けた「ダイナミック握手会」もなかなかコワイが、それ以上に気になるのが、ひとつずつゆっくりと落ちてくる観覧車のゴンドラ。中に古びたぬいぐるみが載せられているということや、鷹雄本人の言から、彼の言う「呪詛」と何らかの関係がありそうなのだが、その意味がわかるまでも、そしてわかってからも、なんとも怖い。

鷹雄の正体は意外に思う反面、思い返してみれば腑に落ちるところも多々あるのだが、その裏でもうひとつ、芹の身にも呪詛がかけられていることが判明する――しかもそれは、北御門家とは関係のないところで。それはおそらく彼女の出自にまつわることかもしれず、今後の展開が気になるところ。でもまあその前にもっと気になるのは、ふたりの初デート(!?)の行方なのだが(笑)。


◇前巻→「ぼんくら陰陽師の鬼嫁 五」

クライマーズ・ハイ (文春文庫)
横山 秀夫
文藝春秋
2006-06-10

1985年8月、御巣鷹山に日航機が墜落した。かつて部下を死なせたせいか、最古参となっても遊軍記者として地方新聞社に勤務していた悠木和雅は、全権デスクとしてこの未曽有の事故の報道に携わることになる。上司や周囲の同僚、あるいは若手記者たちとの衝突を繰り返しながら誌面を作る一方、悠木は事故当日に倒れた同僚・安西のことも気になっていた。登山仲間であった安西と共に、「魔の山」と呼ばれる衝立岩に挑戦することになっていた悠木だったが、この事故と安西の入院でそれもままならなくなっていたのだ。植物人間状態になってしまった安西の、倒れる直前までの行動に不審なものを感じた悠木は、安西の妻から借りた手帳を元にその理由を探り始め……。

実際に起きた史上最悪の航空機事故を軸に、これを追う新聞記者・悠木の苦悩を描く長編小説。

物語は過去と現在を往還するかたちで描かれていく。過去の方は1985年の夏、日航機墜落事故と、そのさなかで悠木の身に起き、あるいは彼が体験した様々な出来事について。そして現在はそれから約17年後、安西の息子である燐太郎と共に、かつて果たせなかった約束である「衝立岩」へ挑戦する中で、事故当時から悠木が抱え続けていた葛藤や問題に対する糸口が見え始めるという展開に。

「事故を報道する」ということは、実際に起きたことを広く知らしめるということに他ならないが、その一方で報道される側のプライバシーに深く踏み込み過ぎるという問題ももちろん浮上してくる。さらに本作では新聞社の内部で起きる様々な軋轢――「組織」であればどこでだって起こりうる権力闘争、部署間での縄張り争い、あるいはベテランと若手の対立が起き、そのそれぞれに悠木は巻き込まれ、苦悩することになる。そして、外部から見れば不謹慎かもしれないが、結局のところこの事故は東京と大阪間を結ぶ航空機がたまたま群馬に墜ちたというものであり、ゆえに「もらい事故」のようなものだという空気感が上層部に流れていたことが、長らく悠木を苦しめることにもなるのだ。しかし一方で、遺族と思しき女性が新聞を求めて直接やって来たり、あるいは悠木がかつて死なせてしまった部下の親族がある投書を持ち込んだりする中で、報道するということの意味を問い直し、改めて見出していく悠木の姿には、はっとさせられるものがある。この事故が発生した当時、作者自身も地方紙の新聞記者だったそうなので、単なるフィクションではないという点がますます迫ってくるようで、そういった点でもいろいろと考えさせられる作品だった。

本というものは意外と簡単(?)に絶版になるもので、ここ10数年ほどの間、読みたいと思った作家の本が絶版という憂き目に何度も遭いました。夢野久作、佐々木丸美、笙野頼子、皆川博子、山尾悠子、倉橋由美子……などなど。まあ中にはひそかにブームになったのか、文庫の再刊や選集、全集が出るようになった方もいたのでおおいに助かりました。なので恩返しがてら、すでに持っていても別の版元で再刊されたらまた買っちゃうというようなこともしてますが(笑)。

でまあ、本屋はおろか出版社にも在庫がない場合は、古本屋を駆けずり回るか、ネットで探すしかないわけです。で、最近、赤江瀑という作家が気になり始めまして。6月に河出書房新社からこの作家を取り上げたムック本が出ることを知り、類稀なる幻想小説の書き手的な惹句に釣られてつい買ってしまいました。
赤江瀑の世界: 花の呪縛を修羅と舞い
吉田房世
河出書房新社
2020-06-20


その後、偶然にも積んでいた長編小説を読み、ますます気になったので他の作品も読んでみたいと思って調べてみたら……ないんです。単行本も文庫も、全然ない。電子書籍であればいくつかあるようですが、わたくし、完全なる「紙の本」派なので、どうにかして現物を入手しようと試みたわけです。

そして私の行動範囲内にある古本屋を回ること数軒、ついに発見しました。絶版になっている本の中で、一番気になっていたのが、2007年に光文社文庫から出ていた傑作選全3巻。このうちの2巻目だけがあったので、即決で購入。帰宅後、その勢いで残りの2冊をネットで探し、1巻をメルカリで、3巻をAmazonのマーケットプレイスで注文しました。で、週末にそろったのがこちら。
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1巻のみ帯付きの状態だったのですが(というか1巻はまるで新品のように真っ白でキレイだった)、黒地に金文字というセンスに脱帽です。タイトルもなかなかそそられますね。

しかし1点、ちょっと残念なことが。1巻はメルカリで写真が掲載されていたし、2巻は現物を手に取っていたので、古本としての状態のよさをわかって購入したわけです。しかしアマゾンはそうはいかない。一応出品者が状態を「良」とか「可」とかで表示しているので、「良」になってるところから買ったんですが(他は「可」ばかりで、唯一「非常に良い」となっているのは2,000円超えだったので断念)……実際に届いたのを見ると、「良」というほどいい状態ではなかったんですよね……。元の持ち主の読みグセなのか、真ん中のあたりで本そのものが折れ曲がっていて、平らなところに置くと「V」のような状態になって端が浮いてしまうし、あからさまにカバーの日焼けやスレがあるし……。なお、上の写真で右の1冊だけ小口が見えていると思いますが、これは角度や置き方のせいではなく、そのくらいこの1冊だけが歪んでしまってるってことです……。評価自体、出品者のさじ加減だろうから仕方ないとは思いますが、ほかの2冊がかなりきれいだったので、そこらへんはちょっと残念です。
20200718小説2

まあでも読めるだけでもラッキー!と思い直し、少しずつ読み進めていこうかと思います。楽しみ……!


*ここ1週間の購入本*
matoba「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。12」(ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス)
藤崎竜「銀河英雄伝説18」(ヤングジャンプコミックス/集英社)
東堂燦「海月館水葬夜話」(集英社オレンジ文庫/集英社)
秋田みやび「ぼんくら陰陽師の鬼嫁 六」(富士見L文庫/KADOKAWA)
川上稔「EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩のウハウハザブーン〈下〉」(電撃の新文芸/KADOKAWA)
赤江瀑「花夜叉殺し 赤江瀑短編傑作選〈幻想編〉」
赤江瀑「禽獣の門 赤江瀑短編傑作選〈情念編〉」
赤江瀑「灯籠爛死行 赤江瀑短編傑作篇〈恐怖編〉(以上、光文社文庫/光文社)
東雅夫・編「平成怪奇小説傑作集1」(創元推理文庫/東京創元社)
阿曽山大噴火「裁判狂時代 喜劇の法廷★傍聴記」(河出文庫/河出書房新社)
吉岡忍「墜落の夏 日航123便事故全記録」(新潮文庫/新潮社)


なんとか出見と「先輩」との契約関係も正式に決まり、引き続きテラフォーム作業に取り掛かるようになった面々。自転と地軸の設定が終わり、次は「水」についての設定を進めることに。その一方で、夏休みになり、地脈の乱れを直してほしいというバランサーの依頼で、出見たちは福生市へと向かう。なんとか精霊たちをなだめることに成功した面々だったが、その精霊たちが上半身は女性、下半身は蛇体という存在に怯えていることを知る。しかも地元に戻った出見の前に、その水妖が現れて……。

人類(ただし1名のみ)と神々が世界創造!?なシリーズ2−上巻。

今回のテラフォーミングのテーマは「水」ということで、水にまつわる謎の存在が現れる。ひとつは上半身が女性、下半身が蛇体という姿をとる水妖。ただし「日常」側では水、「現実」側では炎でできていることや、今巻、監査役として新登場したオリンポス神話のアテナとデメテルがこの水妖を確保しようとしていたり、かと思えばローマ神話のゲロのオッサン……もとい(笑)ネプトゥーヌスはそれを阻止しようとしていたりで、出見たち現場の人間からすると何が起きているのかさっぱりわからない状態。かといって思兼やシャムハト、あるいはエシュタルたちが真相をどこまでつかんでいるのかも不明なので、このあたりは下巻を待ちたいところ。

そしてもうひとつは、今巻の表紙を飾っている新キャラ、木戸・阿比奈江(きど・あびなえ)のこと。出見のことを知っているというか、彼に対してさりげなく過保護すぎる態度をとっているが、その反面、出見とは距離を置こうとしていることが明白な彼女。もちろん出見本人は木戸との関係を知る由もないといった具合なので、彼女の神としての正体は今のところ不明。倉敷(あるいは地中海、ギリシャ方面)に関係があることや、水を操れることがヒントになりそうだが……。さらに不可解な怪我の状況も含め、例の水妖とも何かしらの関係がありそうな気配もあるが、こちらも下巻を待つしかない模様。まあそれはそれとして、出見を挟んで先輩および木戸の穏やかな三角関係が成立しそうな予感(境ホラにおける浅間とネイトのような……)。


◇前巻→「EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈下〉」

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