phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。


ヴェストファーレン会議を終えて歓談を始めた各国代表たちの前に現れたのは「運命」の借体。「運命」は「幸運」を自身の守りとし、聖譜顕装を操れることを示して姿を消すのだった。この時の「運命」との会話から得られた情報をもとに作戦を立てた武蔵勢は、年内最後の満月の日に第二の月へ向かうことを決める。浅間がトーリを祭神とした東照宮の設定を進め、ホライゾンやミトツダイラと共に最終調整をかける中、ついに12月30日――決戦の日がやって来る。武蔵と大和、そして各国の代表者たちが第二の月へ向かい進むと、月からは「幸運」――正純たちが「瓦解」と称した竜属や武神群、そして「幸運な自分の分身」たちが現れて……。

戦国学園ファンタジー、開始から10年を経てようやく本編完結(なお分量は約1140ページ!)。

決戦直前の死亡フラグ……ではなく(笑)、武蔵強化のための準備として、ホライゾンと浅間、ミトツダイラによるトーリとのアツい一夜(!)が繰り広げられるというまさかの一幕を経て、始まりました人類の存亡を賭けた最終決戦。トーリたちが第二の月にたどり着くのを阻止すべく「運命」が繰り出してきたのは、生まれてからずっと何の障害もなく順調にここまで育ってきた「幸運な自分」という存在。能力は互角、どころか「幸運」なので当人が持ちうる最高の能力値を誇る分身たちを前に、武蔵の面々、そして世界各国の襲名者たちは様々な工夫を凝らして挑むことになる。

自分たちのことを「不運」と呼ぶ「幸運」たちを前に、人々はその「不運」をこそ誇りに立ち向かう。なぜならその「不運」がなければ今の自分はなかったのだから。「運命」はどこまでも現状に対して否定的で、だからこそ自身の死を望む。しかしトーリたちは、ひとりで抱えきれない現実をみんなで考え、受け止めようとする。世界中で彼らが繰り広げてきたことの下敷きには、いつだってこの想いがある。失わせない。ひとつでも欠くことなく、支え合う。かつて同じ選択をしたホライゾンは涙でトーリの手を取った。そしてこの結末を経て、ホライゾンは笑顔で再びトーリの手を取る。最後まで強い信念を貫き通したラストには思わず涙が出てきた。すばらしい大団円。


◇前巻→「GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン11〈中〉」




流れ星の発生を予測し公表するwebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営している木村和海は、10日前にイランが打ち上げた「サフィール3」の2段目のロケットブースターの行方を追っていた。しかし、米軍が公開しているデータによれば、そのロケットボディはなぜか高度を下げておらず、どころか加速がかかっているようでもあった。そんな中、アマチュア天文写真家であるオジー・カニンガムは、「サフィール3」のロケットボディに何かが接近し、加速させているのを目撃。「神の杖」と名付けてネットに公開するのだった。さらに時同じくして、北朝鮮の指導者が「鉄槌」という言葉を用いて宇宙戦略に関する演説を行い、人々はオジーの「神の杖」とその「鉄槌」とを結びつけて考えるように。それらのせいで〈メテオ・ニュース〉も注目度が上がりつつあったのだが、サイトを作成しているITエンジニアの沼田明利は、オジーが抗議交じりに送ってきた観測データから、実際に「サフィール3」のロケットボディ周辺で起きていることを可視化することに成功。和海もまた、「神の杖」などではない、もっと別の機構によるものだということに気付くが……。

2020年の近未来を舞台に、世界を揺るがすスペーステロを描くSFサスペンス長編。第35回日本SF大賞および第46回星雲賞日本長編部門、さらにベストSF2014国内篇第1位を獲得している。

webサイト〈メテオ・ニュース〉を運営する和海と明利、JAXA職員の黒崎と関口、テヘラン工科大学所属の宇宙工学者ジャムシェド、アマチュア天文家のカニンガム、CIAにNORAD、そしてこのタイミングで民間人として宇宙へと向かったロニーとジュディ親子……様々な立場の人々がいつの間にか軌道上に現れていた宇宙機「スペース・テザー」の存在に気付き、実証を試みる。そんな中、ある目的をもってこれらを周到に用意していたのが、北朝鮮の工作員・チャンスとその協力者である元JAXA職員の白石。物語はひとまず、和海たちがチャンス・白石ペアの目的を探り、彼らの狙いをくじこうとする流れに。一介のweb制作者である和海が、国家レベルの組織と渡り合いながら次々と謎を解き明かしていく展開には清々しいものがある。

一方で、かつてはJAXAの職員だった白石がなぜ北朝鮮に向かい、何のためにこのスペース・テザーによる「事件」を起こそうとしているかという点については、一概に非難するのも難しい。地球には国境があるけれど、宇宙にはそれがない――かといって、誰にでも開かれているわけではなく、そこには資金力や技術力といった厳然たる壁が存在している。さらには早い者勝ちとでもいうべきか、大国がこぞって衛星を打ち上げ、宇宙空間を実質的に占拠している状況であればなおさら。

しかし実力行使で道を切り開こうとする白石たちに対し、和海はあくまでもスペース・テザーが持つ可能性について訴える。たくさんの可能性を秘めた新しい技術の、新しい使い方をみんなで模索すべきだと。作者の訴えるテーマはここでも一貫している。よりよい未来のために。この先に待つ未来がどんなものなのか見てみたくなる。

怖い話、その1。
先日、薄禍企画の同人誌「ゆびさき怪談[黒]」をゲットしました。
薄禍企画というのは作家の岩城裕明さんが中心となり、文学フリマなどで講談社BOX出身の作家や若手ホラー作家が参加するアンソロジー本を出しているサークルです。以前「mint」というアンソロも出してましたね。今回も岩城さんのTwitterアカウントに直接依頼してゲットしました。ていうか作家さんに直接連絡とって本(同人誌)を買うなんてことが起きるとは思ってもみなかった……。

20181209ゆびさき

さておき。この「ゆびさき怪談[黒]」は、以前同サークルが頒布していた「ゆびさき怪談」シリーズ3作(青/黄/赤)をひとまとめにし、なおかつ書き下ろしを収録したものだそうです。

メンバーは岩城裕明、藍内友紀、一田和樹、井上竜、織守きょうや、最東対地、ササクラ、澤村伊智、白井智之、百壁ネロ、堀井拓馬、円山まどか、矢部嵩、ゆずはらとしゆきの14名。気になる方がいましたらぜひ(ダイマ)。もともと岩城裕明さんが好きなんですが、個人的には「新走」で見かけて以来ちょっと気になっている井上竜さんもいるので、新作が読めて嬉しい限り。

で、今作は最大140字のホラー掌編が232本。なかなかのボリュームですが、なんせ140字ですのでさくさく読める……と言いたいところですが、なかなかどうしてそうもいかないんです。

たかが140字、されど140字。短いがために、ささいなフレーズにも意味やイメージといった様々な情報が内包されているようで、想像力がかき立てられます。さらに「ホラー」とは書きましたが、どの話もひとつとして同じ「怖さ」がない。得体が知れない、えぐい、不気味、暗い、悪夢のような、いやいやちょっと待ってそれはどうよ的な……という感じに、いろいろな「怖さ」が手を変え品を変え現れてきます。なので次のページに向かうための切り替えがもう大変。でも止められない。そんな1冊でした。

怖い話、その2。
昨日、久々に映画を観に行ってきました。「来る」です。ホラー作品を、しかもよりにもよってレイトショーで(笑)。原作は日本ホラー大賞を受賞した、澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」(ただし原作は未読)。映画ではタイトルがシンプルイズベスト状態になってます。

結婚し、まもなく子供も生まれて幸せいっぱいな新婚夫婦・田原秀樹と香奈……と思いきや、秀樹の周辺では奇妙な出来事が起こり始めます。それと前後して、フラッシュバックのように秀樹が思い出し始めたのは、子供の頃に行方不明になった同級生女子の存在、そしてその直後から周辺に現れ始めたヒトならざるモノの気配。「何か」に狙われていると感じた秀樹は、親友である民俗学者・津田の紹介で、オカルトライターである野崎、そしてその知り合いであるキャバ嬢霊媒師・真琴に助けを求めることに。しかしふたりが秀樹の自宅にやってきたその日に、その「何か」が現れます。「何か」の強大な力に太刀打ちできず、押し返すことしかできなかった真琴。そこに日本最強の霊媒師である真琴の姉・琴子から電話がかかってきて……。

という感じで、秀樹を狙う存在(原作タイトルで言う「ぼぎわん」)と、霊媒師姉妹の戦いが描かれていくわけです。この霊媒師姉妹の苗字が「比嘉」なので、原作とこれに連なる作品は「比嘉姉妹シリーズ」とも呼ばれてるようですね。

秀樹の過去、田原夫妻が抱える闇、比嘉姉妹の微妙な関係、そして野崎の個人的な問題が絡み合って、被害は拡大の一途をたどります。終盤で琴子が事態の収拾を図るべく、さまざまな霊媒師を呼び寄せて「祓いの儀式」を始めるシーンは圧巻のひとこと。この作品、「最恐のエンターテインメント」というキャッチコピーがついてるんですが、まさにその通りですね。人知の及ばない存在に対する恐怖というのはもちろんあるのですが、それ以上に「次に何が起こるのか」「どう来るのか」というところが気になってドキドキしっぱなしでした。あと邪魔になった野崎(岡田准一)を一発で張り飛ばしたりナイフで刺したりする琴子(松たか子)が最強だと思いました(笑)。


*ここ1週間の購入本*
種村有菜「アイドリッシュセブン Re:member 1」(花とゆめコミックスSP/白泉社)
あおのなち「テオ−THEO−」(gateauコミックス/一迅社)
灰原薬「応天の門10」(バンチコミックス/新潮社)
春河35「文豪ストレイドッグス16」(角川コミックス・エース/KADOKAWA)
川上稔「GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン11〈下〉」(電撃文庫/KADOKAWA)
木村航「revisions 1」(ハヤカワ文庫JA/早川書房)
大森望・責任編集「NOVA 2019年春号」(河出文庫/河出書房新社)
藤井太洋「ビッグデータ・コネクト」(文春文庫/文藝春秋)
倉阪鬼一郎「怖い短歌」(幻冬舎新書/幻冬舎)
森晶麿「黒猫のいない夜のディストピア」(早川書房)


むかしむかし……ではなく遠い遠い未来、環大西洋連合王国にシンデレラというひとりの少女がいました。この頃、ほとんどの人はトランスヒューマンとなり肉体を持っていなかったのですが、彼女は具体(ボディ)を持ち、両親と共に幸せに暮らしていました。ところがある日、母親が事故死。残された父親は傷心のあまり通い詰めたカウンセリングである女性と出会って結婚しますが、この継母の策略で父親はSNSとソーシャルゲームに溺れ、残されたシンデレラはふたりの義姉――継母の精神的クローン――にその具体を奪われ弄ばれた結果、首を折られて運動機能の大半を喪失してしまいました。ろくに治療も受けさせてもらえず絶望するシンデレラ。そんな彼女の前に、〈魔女〉と名乗る微小機械群が現れます。両親のどちらかの知り合いであるらしい〈魔女〉は、お見舞い代わりになんでも願いを叶えてやろうと言いますが、シンデレラは早く死にたいとだけ呟くのでした。するとそれを聞いた〈魔女〉は怒り出します。シンデレラもまた亡き母の言葉を思い出して、お前を助けたいという〈魔女〉の手を取ることを決めました。こうして〈魔女〉が手配した新たな具体に収まったシンデレラは、あるパーティに参加することに。そこにはこの国の王子も参加していて……。(「地球灰かぶり姫」)

小説投稿サイト「カクヨム」発表後、第6回ハヤカワSFコンテスト〈優秀賞〉を受賞した、SF×おとぎ話の短編集。

まず読む前にタイトルのインパクト(というか意味不明さ)に驚かされたのだが、読んでみると本当に内容通りのタイトルだったことに改めて驚かされた。遠い未来、人類はトランスヒューマン化しており、肉体を持たず意識をネット空間やらなんやらに偏在させている状態。本作では、そんな世界を舞台にした「シンデレラ」や「かぐや姫」、「白雪姫」といった童話が繰り広げられる。そしてその物語の途中(あるいは前提条件として)、はるか遠くの恒星が崩壊し、ガンマ線バーストが地球に直撃して地球は壊滅状態……という設定が加わっていくのだ。

この短編集でとり上げられている童話は全部で6作。前述の「シンデレラ」「かぐや姫」「白雪姫」に加え、「さるかに合戦」「おむすびころりん」「アリとキリギリス」をトランスヒューマンガンマ線バースト化した内容となっている。だいたいが原典と同じ流れになってはいるが、もちろんそこに至るまでの展開は私たちの知る童話とはまったく異なっていて、どれも興味深い内容となっている。個人的に好きなのはシンデレラを元にした「地球灰かぶり姫」と、かぐや姫を元にした「竹取戦記」。特に後者で、竹にも人格があって竹取の翁とは仲が悪く、しかし内蔵されているプログラムやらなんやらは低能なのであっさり負けるという設定が面白いし、ひらがなのみで喋る姿がなんとも可愛い(笑)。ある意味アイデア勝負的な作品集ではあるので、他の童話バージョンもぜひ読んでみたい。

ついに12月になってしまったわけですが(師が走る!)、昨日は出勤、そして今日は職場の後輩と一緒に福山に行ってきました。

福山はなぜか一時期、家族でよく駅周辺に遊びに行ってたんですが、超久しぶりに訪れたところ、かつて何度も寄っていたCASPAが閉鎖されて鳩のたまり場になっており、なんというか時間の流れをひしひしと感じました。近くにイーオンとか保険関連の店とかが入った新しい(たぶん)ビルができてたんですが、さりげにアニメイトがその中に混じっててミスマッチ感が面白かったです(笑)。

さておき、目的はリーデンローズで開催された「爆笑!! お笑いフェス」のため。サンドウィッチマンが好きな後輩がぜひ一度生で見てみたいということで行ってみました。本当は9月頃にあった単独ツアーに行きたかったんですけどチケット取れなかったのでね……。

20181202お笑いフェス

ということで、「フェス」というだけあって11組の芸人たちが大集合。知ってる人もいれば初耳な人もあり。しかしどの芸人さんたちも、当たり前だとは思いますがものすごく面白い。お目当てだったサンドウィッチマン(今夜のM1グランプリに富澤さんが審査員として出なければならなかったため、トップバッターで出てきて、終わったらすぐ東京に戻ったらしい)はもちろんのこと、平野ノラの「しもしもー?」も聞けたし、ニッチェのダイエットの歌(12/5発売予定らしい)には他人事とは思えない内容(笑)に思わず深く頷かされたし、我が家のショートコント(3人が入れ代わり立ち代わりで最終的に下ネタになるアレ)はわかっていても面白かったです。あと東京03が「待ち合わせ」というショートコントを何度も繰り返す(しかも途中でオチが変わる)というくだりは、シナリオ通りなのかアドリブなのか、果たしてどっちだったのか気になります。

あと、初めて見た方々の中で一番気になったのは「吉住」という女性ピン芸人。青春漫画のヒロインネタと、与党議員と野党議員の禁断の愛ネタのふたつを披露されていたのですが、なんというか狂気の沙汰みたいなオチが最高でした(笑)。

まあそんな感じで約2時間、ずっと笑いっぱなしでした。こういうイベントに参加したのは初めてで、正直面白くない人とかもいるんじゃないかなーと思ってたんですが(失礼)、まったくそんなことはありませんでした。大変申し訳ありません。で、実は1月にも似たようなイベントに参加予定なので、今から楽しみです。


*ここ1週間の購入本*
柚アンコ「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました1」(角川コミックス・エース/KADOKAWA)
なごり悠「女流作家とユキ1」(MFコミックスジーンピクシブ/KADOKAWA)
平野耕太「ドリフターズ6」(ヤングキングコミックス/少年画報社)
浅野いにお「勇者たち」(裏サンコミックスSP/小学館)
横田増生「仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン」(小学館文庫/小学館)
彩藤アザミ「昭和少女探偵団」(新潮文庫nex/新潮社)
斎藤美奈子「日本の同時代小説」(岩波新書/岩波書店)
佐藤友哉「転生!太宰治 転生して、すみません」(星海社フィクションズ/星海社)
佐藤究「Ank : a mirroring ape」(講談社)
薄禍企画「ゆびさき怪談[黒]」(自費出版物)


お盆のため、弟の翔を伴って九州の実家に帰省した駿。しかしその夜、黒い影が枕元に立ったことに気付く。幼馴染である千夏からの告白に駿が動揺していることに、祭神である久津媛が怒っているのだ。その翌日、これを裏付けるかのように、千夏が行方不明になり、彼女を心配した蛇神までもが現れてしまう。駿は民俗学に詳しい「トワイライト」副編集長の佐藤頭に助けを求めるが、たまたま編集部に居合わせた「預言者」薔薇王院ジャンまでもがやってくることになり……。

ちょっとゆるめのオカルトホラー連作シリーズ、3巻にして完結編。今回は取材中のエピソードだけでなく、駿が当事者となる問題が発生するという展開に。

編集長の娘が通う幼稚園に現れた「スレンダーマン」、とある老人の別荘に現れたレトロな貴婦人の霊……といった感じで、最初の2作はこれまで通り「トワイライト」の取材中に遭遇した怪異がテーマ。しかし最終エピソードとなる「名残の夏」では、男巫女として駿が仕えるべき姫神が祟ってくるというまさかの展開に。

とはいえまさに「最強の敵」というか、手強い相手だと思っていたのだが、そこはやはり「ちょっとゆるめ」だからして、思いがけない方法でやり込めることに成功してしまう面々。めでたしめでたし……と言いたいところだが、本物の霊感少年である駿や、本物の異能力者である薔薇王院、さらに本物の神様である蛇神といった存在をうまく使い、久津媛を退けるきっかけを作ったのは佐藤頭の存在あってこそのこと。エピローグでの蛇神の処遇のことを含めても、実はシリーズ中で一番強いのは「トワイライト」編集部の面々なのでは……?と言わざるを得ない。だからこのタイトルなんだな、と思いがけず納得させられてしまった(笑)。


◇前巻→「怪奇編集部『トワイライト』2」


検査を受けたものの、コトリバコの後遺症らしきものはまったく見当たらなかった空魚と鳥子は、訝しみつつも裏世界探索を再開することに。持ち込んだ農機を使って既知のゲートを繋ぐ(一応)安全なルートを開拓したふたりは、ピクニック気分で弁当を持ち込み、途中で見つけた展望台のような場所で一休みすることに。しかし展望台から出ると周囲の様子は一変。さらに「ヤマノケ」と呼ばれる怪異に空魚が取り憑かれてしまい……。(「ヤマノケハイ」)

ネットロアが現出する「裏世界」での危険な探検を描くシリーズ第3弾。今回は現実世界にも「裏世界」の手が伸びてくるという恐ろしい展開に。

表題作となっている「ヤマノケハイ」は裏世界で遭遇する「ヤマノケ」なる怪異のエピソードだが、続く「サンヌキさんとカラテカさん」「ささやきボイスは自己責任」では、現実世界の側で裏世界の怪異に襲われることに。前者は前巻で登場した空魚の後輩である「カラテカ」こと茜理が持ち込んだ事象、そして後者は前者の事象が起きる原因となったネット動画に端を発するエピソードとなっているのだが、どちらにもやはり見え隠れするのが「閏間冴月」の影。特に空魚は全エピソード通じて彼女の幻影に悩まされており、その影響力や存在感はなかなかのものがある。

「ささやきボイス〜」では、冴月の信奉者である「潤巳るな」なる女が現れ、冴月と接触する手掛かりとして空魚と鳥子、さらに小桜までが狙われてしまう。しかしラストで現れた「冴月」は、以前に空魚が遭遇した時と同様、もはや人間ではなく「裏世界」の存在となってしまっているような状態。今回の事件でようやく鳥子も「冴月」の危険性に気付いたようだが、逆に「冴月をなんとしても取り戻す!」的な方向に頑張ってしまいそうでなんとなく怖い。そして怖いと言えば冒頭でも語られていたが、前巻の「コトリバコ」のダメージが(物理的には)まったく見当たらないという点。このあたりが今後、何らかの影響を及ぼしてきそうな気もする……単なる考えすぎであればいいのだが。


◇前巻→「裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト」

QJKJQ (講談社文庫)
佐藤 究
講談社
2018-09-14

市野亜李亜は女子高生であり、猟奇殺人鬼一家の娘でもあった。父は血を抜いて殺し、母は鈍器で撲殺し、兄は咬み殺し、そして亜李亜は鹿の角で作ったナイフで刺し殺す。しかしある日、兄が自室で殺されていたのを発見してしまう。1階には父が、3階には母がいたにも関わらず、ふたりともそのことに気付いていなかったうえ、驚いた亜李亜が父を呼んで部屋に戻ると、兄の死体は消え去っていたのだった。さらにその翌日には母が姿を消し、連絡がつかない状態に。落ち着き払った父の様子から、亜李亜は父に疑いの目を向けるが……。

第62回江戸川乱歩賞受賞作となった、「殺人鬼」をめぐる長編ミステリ。

かつて一度だけ見た、父の「殺し」の方法――対象から抜き取った血を対象に呑ませて窒息死させるというそのやり方から、古代ローマの刑罰である「ダムナティオ・メモリアエ」を連想する亜李亜。その人が生きた記憶や痕跡をすべて消し去り、なかったことにしてしまうというその刑罰は、亜李亜の心の奥深くに強く刻まれていた。人を殺すということは、相手の人生をなかったことにしてしまう。記憶や痕跡が消えてしまうわけではないが、しかし風化していくという点では、よく似ているともいえるだろう。そんな行為を当たり前のように行う亜李亜とその家族。しかし亜李亜はある日突然、加害者側から被害者側へと転落してしまうのだ。

復讐に燃える亜李亜は、父に刃を向け、さらには家を飛び出して情報収集を試みる。しかしそれもまた、ある意味では父の指示通りの行動である。思わせぶりな――としか思えない――発言を繰り返す父・桐清はあからさまに怪しいが、その一方でこの事件が単なる殺人事件ではないことにも気付かされる。実際、3日間の「家出」を経て、亜李亜の「日常」はまたしてもひっくり返ってしまうのだ。

亜李亜が生きていた「現実」が何度も何度も繰り返されるうちに、どれが本当なのか次第にわからなくなってくる。亜李亜は父の語る「真実」を受けとめ、その「すべてをなかったことにする」言葉に抗おうとしていたけれど、果たして本当にそれは「真実」だったのだろうか。彼女が狂っていないと言い切れる証拠は、あるいは彼女の見たものがすべて現実であるという証拠は、おそらくどこにもないのだから。タイトルの「QJKJQ」を自身の家族に見立てていた亜李亜だが、これは何度も現実をひっくり返されて、結果的に「元いた場所」に戻っていった亜李亜自身のことなのかもしれない。

地方だと漫画や小説などの新刊が公式発売日より数日遅れる(ちなみに岡山は1日)というのは長年身にしみてわかってるわけですが、先日、20日公式発売の本を21日に買いに行ったところ、置いてなかったんです。同じ出版社で同じ発売日の本のうち、文庫は出てたのに単行本の方がない。もしや売り切れ?と思い尋ねてみたところ、その翌日に入ってくるはず、との回答でした。

そんなことってあるんだ……とがっかりしつつ、しかしその日立ち寄ったのは家や職場からかなり離れたところにある書店なので、翌日また行くのはちょっとめんどくさいし、かと言って通勤経路にある書店はあまり大きくないのでそもそも入荷しない可能性が高いし……ということで、Amazon先生に頼むことにしました。ついでにプライム会員サービスが1週間トライアル(79円)!となってたので試しにやってみることに。したらばなんとその翌日には届いたんですよね。びっくりですよ。

まあそういうサービスだとわかってはいたんですけど、実際に目の当たりにするとこれはこれですごいなーと。物流どうなってんの、と素人の目からしてみれば信じられないような早さです。驚きのあまり友人に話してみたところ、彼女は以前からプライム会員だったらしく、「おっくれてるぅー!」という目をされてしまいましたが(笑)。

なおこのサービス、他にもいろいろと特典がある(映像作品が見れたり、一部電子書籍が無料で読めたり)ということで、さっそく気になってた藤井太洋「おうむの夢と操り人形」を読みました。

おうむの夢と操り人形 (Kindle Single)
藤井 太洋
Amazon Publishing
2018-10-23


作中では「パドル」という名前ですが、まあ現実でいうところのペッパー君的なロボットをどう活用するか、という短編です。先日ネットニュースでも見かけましたが、世の中の企業の多くが、ペッパー君を導入したものの活用しきれず、完全にもてあましているんだそうですね。余談ですが先日東京タワーに行ったとき、エレベーターの待ち時間の余興(?)的な感じでペッパー君がいました。しかし彼が「踊ります!」と言った途端にエレベーターが来てしまい、結局歌い踊るペッパー君を見られなかったのが心残りです(笑)。

さておき、この短編では、「パドル」を他のロボットの補助的な感じで使うことで需要を生み、さらには「おうむ返し」を元にした会話プログラムを組み込むことで介護の現場に活かそうという展開になっていくのですが、ここでそのプログラムを組んだ主人公は反発します。ただのおうむ返しであるからして、パドルとの会話は意思疎通の結果ではなく、単なる壁打ちに過ぎません。そんなパドルを老人たちの話し相手として導入するのはよろしくない、というわけです。その気持ちはわかるけれど、一方でいつかそういう日が来るんじゃないかなあとも思ったり。もちろんその後、この「おうむ返し」の機能が思わぬところに作用するという結末になるわけですが、このエピソードは結果的に良心に訴えようとしているのか、それとも意外と皮肉っているのか、どちらか測りかねるところもまた面白いなと思いました。


*ここ1週間の購入本*
松崎夏未「烏に単は似合わない1」(イブニングKC/講談社)
広江礼威「ブラック・ラグーン11」(サンデーGXコミックス/小学館)
おがきちか「Landreaall 32」(ゼロサムコミックス/一迅社)
桃栗みかん「群青にサイレン9」(マーガレットコミックス/集英社)
瀬川貴次「怪奇編集部『トワイライト』3」(集英社オレンジ文庫/集英社)
宮澤伊織「裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ」(ハヤカワ文庫JA/早川書房)
三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」(早川書房)
高原英理「エイリア綺譚集」(国書刊行会)


友人のカスミに頼まれ、秋葉原でロリィタパブのティッシュ配りのバイトをしたあかね。しかしその直後、本来ならカスミと一緒にそのバイトをするはずだった河野という女性が他殺死体で発見される。ベビードールを身に付け、神田川に沈められていた河野の遺体からは、なぜか髪の毛が剃り取られていたのだった。一方、フロイト教授の「夢科学研究所」では、寝具メーカーの依頼で「吉夢を見る枕」を使った実験が始まることに。スポンサーがいるということで張り切る3人だったが、被験者のひとり・塚田翠が悪夢にうなされ、その影響なのか他の被験者までもが悪夢を見たという結果が出てしまう。スポンサーとなっている会社の社長令嬢である翠は睡眠障害を患っており、その解決も今回の依頼の中に含まれているということで、3人は翠が見ている悪夢についての調査を並行して始める。時を同じくして、河野の事件によく似た未解決の殺人事件が、過去にもいくつか起きていることが判明。カスミのことが心配なあかねは、フロイトやヲタ森の力を借りながら、こちらについても調査を進めるが……。

「人を殺す悪夢」の存在を追うフロイトこと風路亥人教授と、その助手たちが、「夢」にまつわる事件を解決してゆくミステリシリーズ第2弾。

今回は「てるてる坊主殺人事件」と呼ばれる、女性を殺しその髪や衣服を奪う未解決事件の真相と、睡眠障害に陥ってしまった女性が見ている悪夢の原因を同時に探ることになったあかねたち。まったく関係なさそうなふたつの謎がいつの間にか繋がり、真相が見えてくるという展開にははらはらさせられる。と同時に、犯人の狙いにも。

そんな不穏すぎる展開とは裏腹に、あかねたちの日常は相変わらずのゆるさ(笑)。特にヲタ森とあかねのかけあいはますます面白い関係になっているが、なんだかんだいってヲタ森もあかねをかわいがっている様子が見て取れるのがいい。とはいえその一方で、フロイトが追っている「人を殺す悪夢」については相変わらずよくわからないまま。特に今回、翠が見ていた悪夢も、それとはまったく関係のなさそうな感じ。しかしヲタ森が言っていた、「フロイトの両親が悪夢によって殺されたらしい」というのはいったいどういうことなのだろうか。そのあたりもますます気になるところ。


◇前巻→「夢探偵フロイト−マッド・モラン連続死事件−」


魔物や魔香が取引されている闇オークションに潜入していたアイリーンは、エリファス・レヴィと名乗る魔道士と出会う。彼が「聖と魔と乙女のレガリア」FDのラスボスになるキャラであることに気付きつつも、エリファスの申し出により、アイリーンはクロードに彼を引き合わせることに。しかしその直後、そのFDでクロードが記憶を失い人間に戻ってしまうルートがあることを思い出す。クロードの元に戻ろうとしたまさにその時、彼が何者かに襲われ、記憶と魔王としての能力を失ってしまったとの知らせがアイリーンにもたらされるのだった。アイリーンのことも忘れ去ってしまったのをこれ幸いと、現国王はクロードとアイリーンの婚約を解消させ、新たな婚約者を選ばせようとする。婚約者選定の舞踏会までクロードとの接触を禁じられたアイリーンだったが、クロードに接触しようとするリリアの目論見をよく思わないセドリックの手引きで王宮への潜入に成功。クロードの配下になったエリファスを伴い、なんとかクロードを取り戻そうと策を練るが……。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった主人公が、ゲームの記憶を頼りに破滅フラグを回避しつつ、ラスボスである魔王クロードとの恋に突き進むシリーズ第3弾。今回はFDの内容がスタートということで、人間に戻ってしまったクロードをめぐり、正ヒロインであるリリアと全面対決することに。

前巻でリリアもまた転生者であることが判明。とはいえゲームをやり込み全ルートの内容を把握しているリリアに対し、アイリーンは続編やFDにはあまり興味が持てず記憶がおぼろげなため、先の展開を読み切れないのがまたしてもネックに。もちろんゲームそのものが正ヒロインであるリリアに有利になるよう作られているため、今までにもましてアイリーンはピンチ続き。アイリーンはクロード奪還だけでなく、ともすれば暴走の恐れがある魔物たちの手綱も握り、さらにFDのラスボス候補である新キャラ・エリファスの動向にも気を配らなければならないという大変な状況に。しかしそんな中で救いになるのは、アイリーンが信頼のおける有能な仲間たちが何人もいるということ。そしてクロードが記憶を失ってもクロードだったということ(笑)。

次々と立ちはだかる困難をものともせず、囚われのクロードを救ってのけたアイリーンの手腕にはとにかく拍手!のひとこと。そして表紙イラストでアイリーンが純白のドレスを着ている通り、ついにふたりは結婚。これでめでたしめでたし……と思いきや、どうやらwebではまもなく第4部がスタート予定とのこと。まさか次は国外に喧嘩を売っていく所存なのでは……と慄きつつ(笑)、続編を待ちたいと思う。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました2」


大学で歴史学を学んでいる寺田凜香は、ある事情があって哲学コースの助手室へと向かう。友人である峯岸美優のレポートが未提出扱いになっており、その理由を代わりに尋ねに行ったのだ。しかし哲学コースの助手である佐藤が調べたところ、確かにレポートは提出されていたことが判明。そこで佐藤は凜香を伴い、担当教官である塩見理人の部屋へ。塩見は凜香がなぜ代理でやってきたのかという理由を言い当てたうえ、「蝋燭の火」の話を始める。蝋燭についていた火を吹き消したとして、その「火」はどこへいってしまったのか、と。首を傾げる凜香に、塩見はこの「蝋燭の火」と美優のレポートは同じだとだけ告げて会話を打ち切り……。

大学で起きる奇妙な出来事を、哲学的知識で解決(?)してゆくライトミステリ連作。

塩見に言わせれば、それは「解決」というより「解釈」という方が正しいのかもしれない。分析哲学に基づいて問題となっている「言葉」を解きほぐし、問題を問題でなくしてしまうのだ。毎度毎度塩見に迷惑をかけられている佐藤に言わせると「屁理屈」なのだろうが、しかしその「解釈」は想像以上にあざやかで、なるほど……と毎回頷かされてしまう。そうやって塩見はレポートの行方だけでなく、構内の猫に起きた異変や暗号文の謎、そして凜香がずっと気に病んでいた親友とのトラブルまでをも解決してくれるのだ。

しかしその一方で、日常生活ではあまりにもぽんこつな先生(笑)。海外モデルのような佇まいとは裏腹に、部屋は汚い、話し中にお茶漬けを食べ始める、メールに文書添付ができない、猫を捕まえようとしてひっかかれる……等々、なにかとひどすぎる状態(笑)。美優のレポート事件解決後、なぜか塩見の研究室や哲学コースの蔵書整理のバイトを頼まれることになってしまった凜香だが、続編があったらますます助手扱いされてしまうというか、これまで以上に世話を焼かざるを得なくなりそうな気がする。

或る毒師の求婚 (ソーニャ文庫)
荷鴣
イースト・プレス
2018-11-02

アルド王国の姫君であるアレシアは、16歳になると隣国の王太子と結婚することになっていた。しかし輿入れの5日前に突如昏倒。やがて意識を取り戻したものの、身体の自由が利かなくなっていたアレシアの前に現れたのは、医師でもあるというバレストリ伯爵ジャン・ルカだった。他の医師では手も出せなかったアレシアの病を、特異体質の持ち主であるジャン・ルカだけが治療できるのだというが、その方法は誰にも言うことのできないような淫靡なものだった。しかしジャン・ルカの献身的な看病ぶりにアレシアはすっかり信頼を寄せ、いつしかそれは恋心へと変化していくが……。

得体の知れない青年伯爵の策略が姫君をからめとってゆく、どこか不穏なラブロマンス長編。

素直で心根がまっすぐな姫君であるからして、ジャン・ルカの治療や彼の素性に多少は疑問を抱きながらも、その献身ぶりに惹かれるのを止められないアレシア。しかしそんな彼女の恋心やときめきが描かれるパートとは裏腹に、ジャン・ルカの行動が描かれるパートはなんとも怪しげ。6年前にふたりは会ったことがあるそうで、アレシアの方はまったく覚えていないのだが、ジャン・ルカの方は彼女に一目惚れ。そこでなんとしてでも彼女を手に入れたいと、6年かけて周到に策を巡らしてきたということで、その執念には恐ろしいものがある。

物語が進むにつれ、アレシアを取り巻く王家内部の問題が次々と明らかに。びっくりするほどろくでもない人物揃いな展開に、思わず「ヒロイン逃げてーーーー!」と叫びたくなるのは私だけではないはず(苦笑)。しかしジャン・ルカはそれらを巧みに利用・誘導してお互いに破滅させ合い、まんまと彼女を手に入れることに成功するのだ。もちろんアレシアは何も知らないまま――薄々は怪しいと感じている部分があっても、そこは「信頼」と「愛情」の名の下に目を瞑り、見ないことにして。そうしてたどり着いた結末は、全貌がわかっているこちら側からしてみれば、ジャン・ルカの周到さに恐れ慄くしかないのだが、ふたりにとっては完璧なハッピーエンド。とにかく不穏すぎる展開がある意味たまらない作品だった。

最近、カーステをHDD全曲ランダム再生にしてるんですが、金曜の朝に職場に到着するまさにその直前、岩崎愛の「Happy Friday Night」が流れました。「金曜ということは明日は週末で休みだから嬉しいな」みたいな歌です。奇跡です。初めて聴いた時、金曜の出勤中か帰宅中に流れたらドンピシャだな〜とか思ってたので、ある意味夢がかなったというかなんというか(笑)。
TSUBOMI
岩崎愛
Only in dreams
2018-05-16



ところで明治の「The Chocolate」が美味しい季節になってきましたが、最近新しい味が増えてました。まさかのジャスミン茶味です。白いパッケージが可愛いですね。ほのかにジャスミンティーの風味がしておいしいです。ジャンドゥーヤ亡き今、新たな好物になりそうな予感……。
20181114ザヂョコ


*ここ1週間の購入本*
瀧波ユカリ「モトカレマニア2」(KC Kiss/講談社)
ジョージ朝倉「ダンス・ダンス・ダンスール11」(ビッグコミックス・スピリッツ/小学館)


高祖が仙人の娘を助けたことにより、100年の加護を得て栄えた基照国。しかしその盟約からすでに95年が過ぎ、残すところあと5年。次代皇帝である紫旗が仙人の血を引くことを快く思わない仙道士たちが、宮廷の加護をおろそかにしつつあることを知った若き宰相・李伯慶は、先帝の落胤と噂される「華仙公主」祥明花を探し始める。紫旗と血縁関係にある明花に、彼を守るよう説得する伯慶。明花はしぶしぶその言葉を受け入れ、儀式のために紫旗が向かう離宮へと赴くことにするが、さっそく呪詛が仕掛けられていることがわかり……。

絶世の美女と名高い公主と、傾いた国の立て直しに燃える若き宰相が、次期皇帝の周辺に起きる問題を解決しようと奔走する中華風ファンタジー。

仙人の血を引くたおやかな美女……と見せかけて、その実態は人より体が丈夫で腕っぷしが強い腕力バカ系公主(得意技はとにかく燃やしてカタをつけること)。そして史上最年少で宰相に任じられた若きエリート官僚……と見せかけて、世直しのためならなんでもする腹黒青年。そんな正反対のふたりは、次期皇帝たる紫旗を守りたいというその一心のみで手を結ぶことになるのだが、もちろんそんな関係がうまくいくはずもなく、序盤は衝突するばかり。どこか噛み合わないふたりの関係がなんとも面白いのだが、ふたりを――というより基照国をとりまく状況は笑ってばかりもいられない深刻さ。5年後に仙人の加護がなくなったときに何が起きるのか――仙人という存在がいることはわかっていても、彼ら側の動きは明花や伯慶の推測や伝聞に過ぎないので、実際になにがどうなっているのかは不明で、そのあたりの説明がもう少し欲しかった気もする。

とはいえこのふたり、ケンカするほど仲がいい……というわけではないが、利害が一致しているということもあり、頑張ればいいコンビになりそう(笑)。続刊があれば、ふたりの関係がどうなるのかも見てみたい。

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