天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA) 小川 一水 早川書房 2010-07-10 売り上げランキング : 674 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
全10巻予定のSF書き下ろしシリーズ、第3弾。
今回は1巻と2巻の間に位置するエピソードで、前2作とは打って変わってスペオペ仕様。謎の遺跡「ドロテア・ワット」をめぐり、アダムスたち《酸素いらず》、救世群、海賊が入り乱れて大騒ぎの巻。
冥王斑のために生まれながら虐げられてきた救世群は、人間への憎しみを捨てることができず、ワットに手を出そうとする。電力が不足しつつあるこの世界では、強大なエネルギー炉というだけで十分に示威効果があるもの。だが、救世群たちが力を手に入れるという事態を他の人々が見過ごすはずもなく、まずはその在り処が書かれた文書が強奪される。アダムスたちはそれを追い、大きなダメージを受けながらもなんとか奪取するが、時すでに遅く、暗号化されていたはずの文書は解読されたあと。その次は海賊、救世群、アダムスたちが入り乱れての探索に入り、最終的にはワット攻略、という流れ。まさに戦闘に次ぐ戦闘。
そんな中、いつでも自信たっぷりな美少年艦長であるところのアダムスは、海賊たちに敗れ、仲間たちを失うはめに陥ってしまう。心底落ち込んだ彼の元にやってきたのは、救世群のリーダー格であるグレア。グレアは自身の境遇を語り、すべてを失ってうなだれるアダムスを嘲笑する。私たちは同じだと、そう言わんばかりに。絶望に塗りつぶされそうになったアダムスをすんでのところで救ったのは医師団の一員・セアキだった。
グレアやセアキ、そして海賊エルゴゾーンの首魁・イシスと関わる中で、アダムスは自分が何なのか、その立ち位置を知ることになる。海賊によく似ていて、けれど違う存在。人間ともよく似ているけど、やはり違う存在。そんな自分たちはいったい何をすべき存在なのか。――ハードだったりコミカルだったりするメインエピソードの合間に重いテーマが挿入されるので読み応えがある。
さて、1巻でセアキ・カドム(今回出てきたセアキ・ジュノの子孫?)の家にいたロボットの「フェオドール」と、2巻に出てきたAIの「フェオドール」の繋がりがなんとなく見えてきた感じ。さらにシリーズ通して「断章」で語られる「被展開体」の立ち位置だとか在り方だとか、今までさっぱりわからなかった断片がわずかずつではあるが繋がってきたような印象を受ける。
次は「機械仕掛けの子息たち」という仮題が提示されているが、これはどの時代の話なのか……ますます次巻が楽しみ。
◇前巻→「天冥の標2 救世群」
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