ウィザーズ・ブレイン (9) 破滅の星 (上) (電撃文庫)ウィザーズ・ブレイン (9) 破滅の星 (上) (電撃文庫)
三枝 零一 純 珪一

KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2014-12-10
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真昼の死を受け、サクラは賢人会議の代表として全人類に宣戦布告する――I-ブレインを持たない人類をすべて駆逐し、世界を覆う雲を除去して魔法士のための世界を作るのだと。そしてその言葉を裏付けるように、各地で次々と魔法士やマザーシステムに関係する施設が攻撃され始める。人類の魔法士に対する反発が否応なく高まる中、これまでシティに与していた多くの魔法士たちは次々と離反し、賢人会議へと参加してゆく。そんな中、賢人会議に対して中立の立場をとるニューデリーを除く主要4都市――ロンドン・モスクワ・マサチューセッツ・シンガポールは、賢人会議を追い詰めるべく、協働してその本拠地を攻撃。イルやファンメイ、エドもシティ側として攻撃に加わることになってしまう。しかしシティ連合の動きをすべて読んでいたサクラは、その攻撃をかいくぐり、かつてシンガポールで入手していた理論を元に作り上げた転送システムを利用し、南極にある大気制御衛星の管理施設へ仲間たちと共に逃げのびるのだった。一方、シティ・モスクワの上層部は、以前北極の衛星でサクラが情報制御のみでセキュリティを突破していた事実に目を止める。そしてその時、同じ方法で衛星に侵入した少年――すなわち錬の身柄を確保すべく動き出し……。

まさか前巻が出て1年以内に続きが読めるとは……としか言えないシリーズ最新巻。人類と魔法士の共存を願っていた真昼が斃れたことで、これまでの交渉はすべて水の泡。ついに人類と魔法士、それぞれの存亡をかけた全面戦争へと突き進んでゆくことになる。

魔法士のために人類を殲滅すると告げるサクラ。そうして開かれた戦端のさなか、他の魔法士たちはしかしサクラほどに割り切ることはできない。セラは殺し合いなどしたくないと思っているが、他の解決策も見当たらず、誰にも自分の気持ちを伝えられずにいた。ディーも本心ではセラと同意見だが、そのセラを守るためにはサクラに同意せざるを得なかった。シティ側に与したままのイルやファンメイ、エドは、自分の周囲にいる人たちのために、サクラの意見には賛同できずにいた。祐一やヘイズ、クレアは人類と魔法士の共存の道を探るため、「世界再生機構」としてシティと賢人会議双方の妨害を続けようとしていた。そして兄を失った錬は、未だ失意のうちにいた――かつてシティ・神戸を滅ぼしてまでフィアを救ったことすら、疑問のひとつとして数えながら。

本当にどうしようもないこと――そうとしか言えない、不幸な条件が重なって引き起こされた状況。それは現在も、そしてかつてアリス・リステルがその命を賭した「大気制御衛星暴走事件」の真実もそう。一度突き出した拳を引っ込めることは誰にもできない。だからシティと魔法士は相争い、そしてこの期に及んでまだシティ上層部は利権を巡って争い続ける。ヒトがいる限り争いは止まないのだと、そう突きつけられるような展開にはどこまでも救いがない。腹を括ったサクラとは対照的に、今も迷い悩み続ける錬はこの先どんな結論に行きつくのだろうか。そしてクレアが感じた、サクラの宣戦布告に対する違和感――これが意味するものは一体何なのだろうか。


◇前巻→「ウィザーズ・ブレイン8〈下〉落日の都」