まだ咲いていないはずの桜の花びらが舞う、3月の最後の日曜日。代々木公園には〈チェッコさん〉が現れ、そこに来ていたグループのひとりと知らぬ間に入れ替わってしまう。入れ替わられた人は新たな〈チェッコさん〉となり、別の人と入れ替わるまで公園からは出られなくなるのだ――。ホームレスの鮫洲。駆け出しのイケメン俳優・蓮沼とその彼女・柴。演劇部の仲間たちと練習にやってきた高校生・慶基と、彼らに立ち回りを教えるため付いてきた売れない時代劇役者・不動、そして彼と不倫関係にある女子高生・奈津美。公園で定期的にパフォーマンスを披露しているロカビリーグループと、そこに所属している不動の妻・真栄子。ネットアイドルのパフォーマンスを見に来た、不動と真栄子の息子・弓弦。そして売れないお笑いコンビの暁隆とはじめ。〈チェッコさん〉の都市伝説をある者は知り、ある者は知らぬまま、まさに「3月の最後の日曜日」に代々木公園に集まっていた。いくつかの人間関係が絡まり、こじれる中、ついに〈チェッコさん〉は人知れずその姿を現していて……。
2011〜2012年にかけて「小説推理」に連載されていた、都市伝説を軸にした不可思議な群像劇。
元々はまったく関係のなさそうな面々が、実はどこかで繋がっていたり、もしくはその日その場所に居合わせたことで関係が生じたりしながら、時間はどんどん経過してゆく。不幸な行き違いからある者は自殺し、またある者は自身の信念のために他者をその手にかける。あらゆるものがゆるやかに連鎖してゆく公園内はまさに混沌そのもので、日常と非日常がどんどん重なり、時に入れ替わってゆく展開は、残酷さすら帯びてくるほどの鮮やかさ。
そんな中で、ついに姿を現す〈チェッコさん〉の正体、そして新たな〈チェッコさん〉となってしまった人物が迎えた結末。当然の因果と思いたくもなるし、けれど一方ではこれもまたハッピーエンドなのだと思わざるを得ない。この作者の書く、こういう理不尽さがたまらなく好きだと改めて思わされた。
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