入学して1か月の間に12人もの男子を振ったという同級生・架能風香に告白した深海楓。しかし楓もまた、渡した恋文の内容の不備を指摘されたうえであっさり振られてしまう。なおも食い下がる楓に、風香はこう告げるのだった――「カフカにおなりなさい」と。カフカをこよなく愛する風香の言葉に一念発起し、カフカの作品を読みながらそれらしい小説を書きつつ、風香とのコミュニケーションを図る楓。しかしそんな楓のもとには、よりにもよってカフカ作品のごとき不可思議な相談が持ちかけられる。そのことを風香に相談すると、風香はカフカの小説を引用し、楓にヒントを与えてくれて……。

カフカの作品を軸に、どこか不思議なふたりの関係の変化を描くライトミステリ連作。

さえない天然系男子を装っている楓だが、実際は元・肉食系男子で、来るもの拒まずの女子ホイホイ的な存在。恋愛面では中学の時にあらかたやりつくしたのでもういいと言わんばかりに、高校では地味男子に擬態していた楓だったが、興味本位で近付いた風香に本気で惹かれてゆくことに。しかし小脇にヘルメットを抱え(もちろん被る。ただしバイクや自転車に乗るわけではなく、日常生活の中で)、周囲との間に高すぎる壁を作り生きている風香は、その外見だけではなく性格もなかなかエキセントリック。カフカを偏愛し、告白してきた楓に対し「カフカにおなりなさい」と命じる風香の振る舞いには、楓でなくとも「???」となってしまうのだが、物語が進むにつれ、その真意は次第に明らかになってゆく。

「彼女が遊園地で消えた」「彼氏が拷問具のようなものを買おうとしている」「姉が芋虫になった」……周囲の人々から、なぜかカフカの作品になぞらえるかのような謎が寄せられるようになる楓。そんな楓の姿をどこかから観察し(振ったくせに!?)、相談に乗ってくれる風香。近くて遠いふたりの距離は、見ていてなんとも甘酸っぱい。一方で、楓が風香の抱える秘密と真意を知るという流れは切なくもある。そうしてあたかも風香に試されていたかのような日々の中で、楓は自分の殻を破ってゆくのだ。もしかしたら、これこそが風香の望んでいたことなのかもしれないなと思いつつ、ところで風香はいったいいつから……と思いを馳せずにはいられない。