帝国による侵攻を見事退けたイスカとフローレンスだったが、なぜかふたりともラハ・ラドマへの帰還が許されず、騎士団領に留め置かれていた。帰還後に行うはずの結婚のお披露目を楽しみにしていたふたりに対し、和平交渉にあたっていたセリスが告げたのは、ふたりの婚約破棄、およびフローレンスの帝国への輿入れだった。和睦の条件ということで拒否することができないフローレンスは、1年の間に皇帝と離縁するとイスカに誓って旅立つのだった。フローレンスの言葉を信じるものの、しかしただ待つこともできないイスカは、アルフルードを伴って帝国へ潜入。どうにかして皇帝と直接対話を試みようと考えるが……。

シリーズ4巻、前巻で恐れていた事態がのっけから実際のものとなるという衝撃的な展開に。

セリスから一方的な婚約破棄および帝国皇帝との結婚を命じられたフローレンス。王族に課せられた義務であるそれを拒むことはできない、しかしイスカと思いを通じ合わせた今となっては受け入れられない――そんな相反する思いに苦しみながらも、表面上は迷うことなく前者を受け入れてみせるフローレンスの王族としての振る舞いがなんともつらい。しかし一方で、国益に反しない範囲で自分の願いを通したいと画策を始める、その強い心には素晴らしい!の一言。あるいはこれもセリスの教育の賜物なのかもしれない。

帝国に入り、さっそく後宮で情報収集に乗り出すフローレンスに呼応するように、イスカもまた帝国に潜入し、カフィエズを頼りに行動を開始することに(とはいえ、彼を頼みの綱と言っていいのか、あるいは泥縄なのか、いまいち測りかねる相手ではあるが)。合理的かつ戦略的に物事を見据え動いていくフローレンスと、理知的な思考を有してはいるが、基本的には人の情を信じ、これを根幹に据えた行動をとるイスカ。同じ目的に向かって動いていても、そのアプローチは似て非なるものではあるが、一方でお互いの足りない部分を補い合っているのがよくわかる。離れていてもいいカップルだとしみじみ感じさせられたエピソードだった。


◇前巻→「花冠の王国の花嫌い姫 騎士と掲げるグラジオラス」