記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店
2015-10-24

呑み会で出会った先輩・杏子に一目惚れした大学生の遼一。彼女が夜道恐怖症で心療内科に通うほどだということを知った遼一は、これを克服させるために協力を申し出る。しかし何度一緒に夜道を歩いても改善される兆しはないのだった。そんなある時、杏子の口から「記憶屋」という都市伝説的な存在について聞かされた遼一。「記憶屋」は本人が望む記憶を消してくれるのだという。杏子から「記憶屋」を本気で探していること、そして遼一が一緒だとしても夜道が怖いことに変わりないということを聞かされ、遼一はショックを隠せない。しかもその直後、杏子とぱったり連絡が取れなくなってしまう。何日も経ってようやく杏子と再会した遼一だったが、なぜか彼女はあれだけ怖がっていた夜道をひとりで歩いており、なおかつ驚いて声をかけた遼一の存在自体をすっかり忘れてしまっているようで……。

第22回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作の切ない青春ホラーシリーズ第1弾。

物語の軸となるのは、都市伝説だと思われていた「記憶屋」の存在。遼一は先輩である杏子が一部の記憶を失っていることに気付き、その存在に確信を持つようになる。しかも後に明かされるのだが、遼一の周囲にはほかにも不自然に記憶を失った存在がいたのだ――それは年下の幼馴染・真希。そして遼一自身。

ネット上の都市伝説サイトや、同じく「記憶屋」について興味を持った弁護士・高原と共に、遼一は「記憶屋」に接触を試みる。やがて仲間たちが「記憶屋」に関する記憶を失っていたり、また遼一自身も記憶の欠落に気付いたりと、「記憶屋」なる謎の存在がひたひたと近付いてくる恐怖が描かれてゆく展開はさすがホラー小説といったところだが、一方でなんとも切ないエピソードがその間に挟まれてゆく――すなわち、高原弁護士が「記憶屋」を探していた本当の理由、そして「記憶屋」の正体と狙い。特に後者についてはとにかく物悲しい、の一言に尽きる。「記憶屋」は依頼された相手の記憶を消すだけではなく、自身の記憶も一緒に消してしまわねばならない。たとえ相手が自分に近しい人であっても。そうやってかの人は、ずっとひとりで、何度も誰かの記憶を消していったのだろう。そして消された記憶は「記憶屋」の中に降り積もってゆく。そこにはきっと、寂しさも一緒に積もってゆくのだろう。得体のしれない怪人ではなく、誰からも理解されない――理解してあげることのできないさみしいいきものとしての「記憶屋」という存在が浮き彫りになってゆく、そんな結末が印象的だった。