慶国との戦を決めた文林。配下に慶の出身者がいることもあり、小玉が行軍元帥に選ばれることがなかったが、そのことに対して文林はふたつの相反する気持ちを抱えていた――小玉に手柄を立てさせたいと考える一方で、彼女を失いたくないという気持ちが芽生えていたのだ。一方、小玉はいまだに文林へのわだかまりが消えないでいたが、その理由に――すなわち自身の心に目を向けることを無意識のうちに恐れていた。そんな矢先、朝廷では皇太子の問題が議題に上る。司馬淑妃の息子である長男の鳳か、皇后である小玉が養育している三男の鴻か。当初は小玉も、そして文林自身も鳳を推すつもりだったが、やがて後宮にてふたりの皇子に関わる事件が起こり……。

シリーズ6巻はまたしても転機の巻。前巻に引き続き、深い溝ができてしまった皇帝夫妻のその後と、そして帝国を揺るがすふたつの事件について綴られてゆく。

ひとつめの事件は隣国・慶との戦のこと。開戦の時点で小玉の出番は見送られたが、ここで文林の心境に変化が。元々軍人としての出世をさせたいというのが、小玉を皇后に据えた理由のひとつ。であれば今回の戦は好機であるはずなのに、文林はそれを躊躇してしまう。つまり、小玉を死なせたくないと考え始めたがゆえに。

そしてもうひとつの事件は皇位継承問題。戦ともなれば、ことによっては文林が死ぬことも考えられる。となれば後継者を決めることは必須ではあるが、長男である鳳をそのまま立太子させることにも、文林は躊躇する。それは後宮で起きた、小玉を巡って皇子たちが起こした「事件」のせいもあろうが、それ以上にここでも文林は小玉の立場を慮ることになる。自分が死に、司馬淑妃の子である鳳が次期皇帝となれば、小玉の立場が悪くなることは必至だからだ。

そんな感じで、文林の中で小玉の存在がこれほどまでに大きくなっていたということが思い知らされた今巻。ではそこで小玉がどう出るかというところだが、彼女は彼女でやはり変化があった。もしかしたら流産していたかもしれないという事実。そしてそれを文林が「残念だ」のひとことで片付けたこと。さらに謝賢妃のことも含め、自分たちを道具として使おうとする文林の態度。それらが「皇帝」の態度として当たり前だとは頭で理解していても、気持ちが付いていっていないのだ――それは小玉にとっても、文林の存在が大きくなっていたからに他ならない。けれどふたりはすれ違ってしまった。だからこれからいくら言葉を重ねても、再び歩み寄ったとしても、もう同じ場所には戻れない。そしてそれをきっと小玉は肌身をもって理解したに違いない。そんな想いを胸に戦地に赴くことになった小玉を、文林はどんな気持ちで見送るのか。そして彼女を帰還したならば、その時はどのように迎えるつもりなのか――物語はここからが本番。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第五幕」