年が明けた頃、鹿乃は知人からある男性を紹介される。佐伯稜一と名乗るその青年の祖母が、かつて野々宮家に着物を預けていたのだという。果たして蔵に残されていたのは椿が描かれた振袖。しかし鹿乃たちの目の前で、咲き誇っていた椿の花はすべて落ちてしまう。後日、稜一の祖母・瀧子と対面した鹿乃が聞かされたのは、その振袖の持ち主が瀧子の姉であり、その姉は養子だった義兄との恋を両親に咎められ、心中したのだという悲しい過去だった。瀧子から彼女の遺品を託された鹿乃は、収められていた書付や目録から、椿の花が落ちてしまう理由を探ることに。一方、年末に慧に告白した鹿乃だったが、明確な返答を得られたわけでもなく、しばらくぎくしゃくした関係が続いていた。しかし今回の調査のさなか、慧は鹿乃に「妹みたいに大事に思っている」と告げ……。

鹿乃と慧、ふたりの恋心が揺れ動くアンティークミステリ連作、第6弾。

今巻、鹿乃のもとに持ち込まれた依頼には共通点がある。それはいずれも、立場や年齢など様々な理由で、周囲からその関係をよく思われない恋人たちの持ち物ばかり。彼女たちは愛する相手のため、身を引くか、それとも愛を貫くかの選択を強いられ、その想いが野々宮家に預けられた着物にも宿っている。そんないくつもの恋路を見つめる中で、鹿乃と慧もまた、自分たちの想いに向き合うことになるのだ。

とにかく思い切りが悪いというか後ろ向きなのが慧。結局のところ出発点が「兄と妹」的な関係だったせいで、そのことにとらわれ過ぎて、大事なものが見えなくなっているという状況に。特に似た境遇の恋人たちが今回登場するだけに、どんどん慎重に――あるいは臆病に――なりすぎているというのがなんともつらい。そしてそんな慧の気持ちを察して、自分の気持ちを押し殺そうとする鹿乃の行動にも。だからこそ周囲の説得もあってようやく迎えたラストには心の底から安堵させられる。ふたりの関係はこれまでとはがらっと変わってしまうけれど、それは必要な変化なわけだし、だからこそ見えてくるものもあるだろうな、と。

一方、今回の良鷹編「羊は二度駆ける」は今まで以上にホラー&オカルト風味。しかし一方で、良鷹の心境にもいろいろと変化があった様子。真帆との関係も含め、彼も前向きに変わってくれればいいのだが。


◇前巻→「下鴨アンティーク 雪花の約束」