天盆 (中公文庫)
王城 夕紀
中央公論新社
2017-07-21

蓋の国ですべての人が熱狂し、あるいは国を統べる者を見極める手段としても使われる盤戯――それが「天盆」であった。大工のかたわら、賭け天盆に勤しむ少勇は、妻と共に夜の河原で赤ん坊を拾う。凡天と名付けられたその子供は、12人の兄姉たちに見守られながら成長していくが、言葉も発しない頃から天盆に興味を持ち、瞬く間に兄姉たちを負かしていくのだった。そんなある日、借金取りから返済を迫られた一家は、代替案として夏街祭の天盆大会で優勝し、その賞金を返済に充てるよう命じられる。そこで出場することになったのは、天盆士を目指す次男の二秀と、いまやその二秀にも時折勝てるようになった凡天のふたり。しかし決勝戦に勝ち残った凡天は、街の有力者の息子を負かしてしまい、以後一家は村八分の状態に陥ってしまう。それでも一家は家族のため、と日々を過ごし、その一方で凡天はただひたすら天盆の研鑽に励み続け……。

第10回C・NOVELS大賞・特別賞受賞作である著者のデビュー長編。「天盆」と呼ばれる盤戯にすべてを懸ける10歳の少年・凡天の戦いを描く中華風ファンタジー。

将棋、あるいはチェスのようなものだろうか。12の駒をそれぞれが動かし、他の駒を使って相手の「帝」を奪うという、蓋の国固有の盤戯。しかし単なる遊びではなく、東西南北それぞれの地区で行われる戦いを制した4人の「天盆士」が頂点を競い合い、優勝すれば国政に携わることができるという――なぜならこの国の成り立ちそのものにこの「天盆」が深く関わっているからである。しかし主人公である凡天にとってそんなことはどうでもよく、とにかく「天盆」をしたいという、ただその一心で10年間生き続けていくのだ。もはや何かに――「天盆」そのものに――取り憑かれでもしたかのように。

一方、そんな凡天を支えるのが彼の家族。しかしその実、12人の兄姉たちはすべて拾い子であり、誰ひとりとして血がつながっていないのだという。そんな寄せ集めの家族なのに――いや、だからこそというべきか、その絆はとても強固で、どんなことがあっても互いを見捨てず、支え合ってゆく。いくら第三者に否定されたとしても。一時はその「絆」の在り方に反発し、家を飛び出した十偉までもが、最終的には家族のために戻って来るという展開が印象に残った。

迷いなく天盆に挑み続ける凡天と、そんな末弟を目の当たりにして、どこかで諦めかけていた夢を取り戻す次兄の二秀。あるいはそんなふたりの前に立ちはだかる、同じ志を持つライバルたち。そんな彼らの姿は、数学に挑む高校生たちの姿を描いた「青の数学」に通じるものがある。しかし「青の数学」と異なるのは、凡天はただひたすら「天盆」に挑み続けたいというぶれない意志を持ち続けていて、悩んだり苦しんだりということがないという点。むしろそんな彼と向き合うことで、周囲の人々が悩み、壁にぶつかり、そして最終的にはそれぞれの答えを見出していくのだ。まるでありのままを映し出し行く先を示してくれる鏡のような凡天の在り方は、やがて内乱と戦争に苦しむ民衆たちを勇気づけてゆくことになる。きっと彼はただ人ではなく、蓋という国に現れた新たな天意だったのではないか――と、そんな風にも感じられた。