大学に入った鏡秋太郎がサークル棟で見つけたのは、最上階の最奥、99号室に陣取る「仮面応用研究会」なるサークルだった。物置のような室内にいたたったひとりのサークルメンバー・来見行は他人との接触を嫌う偏屈な人物で、もちろんサークルに興味を持ち入部を希望した秋太郎をすげなく追い返そうとするが、秋太郎はめげることなく、再び部室を訪れようとする。その矢先、彼の前に「キタミショウ」と名乗る青年が現れる。来見行――コウの兄だという彼に導かれるままサークル棟に向かった秋太郎は、階段の途中で死体を発見。それはコウと初めて会った日に、サークル棟かくれんぼに誘ってきた「異界同好会」のメンバーだった。ショウに促されるまま、秋太郎はコウを呼び出して再び現場へと向かう。しかしその間に死体も、そのそばにいた別の「異界同好会」メンバーも、そしてショウも消え失せていたのだった。この現象に「キタミショウ」が関わっていたこと、またコウが事件を解決するよう彼が命じていたことを知ったコウは、言われるがままに「異界同好会」について調べ始める。一方で、秋太郎が出会った「キタミショウ」は死んでおり、すでにこの世にいないというのだが……。

人間嫌いで、それゆえに心理学を志す偏屈青年と、そんな彼に興味を持った帰国子女の哲学青年が繰り広げる超常現象ミステリ。

主人公(探偵の助手役)はわりと普通の常識人で、なにか突出した能力と風変わりな性格をもつ探偵役に振り回される……というのはこの手の作品でよくあるパターンだが、本作では探偵も助手もなにかワケありすぎる雰囲気で、性格もどこかまともではなく、互いに互いを振り回し合っている印象なのだが、その危うい関係性がとても面白い。特に助手役――つまりサブタイトルで言う「ワトスン」?――である秋太郎は、帰国子女ゆえか、どこか一般的な日本人とは一線を画する言動・行動パターンを冒頭から一貫して見せている。その根底にはあるのは深い「喪失」あるいは「欠落」で、加えてそれをどうにか埋めようとする自己防衛機能が働いた結果だろうか。そしてそれは同時にコウにもある。それが意味ありげに秋太郎の前にのみ現れる「キタミショウ」――死んだとされる実兄・来見勝の存在なのだ。

ふたりともとらわれているのは「家族」という存在。しかし秋太郎よりもコウの方がその根は深い。「キタミショウ」という存在はいったいなんだったのか。そして兄を恐れ、そして畏れているコウは、そんな兄にたどり着くことはできるのか。きっとその鍵は秋太郎にある。彼らの行きつく先はどこなのか、最後まで見届けてみたいと思う。