ストロベリーナイト (光文社文庫)
誉田 哲也
光文社
2008-09-09

警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子がこのたび担当することになったのは、溜め池近くの植え込みにブルーシートにくるまれ放置されていた男性の遺体だった。全身に大小さまざまな切創があるが、ひときわ目を引くのはみぞおちから股関節にかけて大きく切り裂かれた痕。被害男性は普通のサラリーマンで、こんな無惨な殺され方をするくらいに恨まれるような理由も見当たらない。そんな中で玲子が気になっていたのは、植え込みに遺体が放置されていた理由と、大きな裂傷をつけた理由。やがて玲子は、この遺体を本来は別の人物が溜め池に捨てる予定だったのではないかと推理し、溜め池内の捜査を進言。すると似たような遺体がもう1体見つかり……。

ドラマ化もされた人気警察小説「姫川玲子シリーズ」、第1弾。

本作でなんといっても特異なのが、主人公・玲子の事件に対する「カン」としか言いようのない直感的な捜査。もちろん聞き込みなどの地道な捜査も行うが、いくつかの状況証拠を繋ぎ合わせて一足飛びに事件の真相に迫ろうとし、そして見事それを的中させてしまうのだ。今回もその直感で、この事件が連続殺人であることを当ててしまうのだからすごい。

しかしそんな彼女のやり方を苦々しく思い、目の敵にしているのが、「ザ・悪徳刑事」といった感じの男性刑事・勝俣。玲子が学生時代にある事件の被害者となっていたことを知っている人物で、そのあたりを巧妙につついて玲子を牽制しつつ、地道なアプローチで真相へと近づいていく。物語はそんなふたりの視点を交互に切り替えつつ事件の真相を暴いていくことになるのだが、タイトルにもなっている「ストロベリーナイト」が意味するものはなんともえげつない。そしてそんな事件を起こした犯人に玲子が肉薄できたのはなぜなのか――目の敵にしていた勝俣がその理由を看破してみせるラストには、なんだかうすら寒いものを感じるのと同時に、ふたりの奇妙な関係が浮き彫りになっている象徴的なシーンのようにも感じられた。玲子と部下・菊田とのロマンスも気になるが、個人的には勝俣との関係がどうなるかも気になるところ。