カラヴィンカ (角川文庫)
遠田 潤子
KADOKAWA
2017-10-25

ギタリストの青鹿多門が元義兄である吉井から依頼されたのは、ある女性シンガーの自伝のためのインタビューだった。相手は「実菓子」――かつて多門の父、次いで兄と結婚し、ふたりを死に追いやった最悪の女――そして多門もまた、一時期思いを寄せていた娘。実菓子は多門のインタビューであればこの仕事を受けるという。吉井の妹と離婚したという負い目がある手前、彼の依頼を断り切れない多門は、しぶしぶ故郷へと戻ることに。しかし実家で待っていた実菓子は何も語ることなく、ただ多門から見た自分を文章にしてほしい、とだけ告げるのだった。結局、多門は言われるがままに実菓子との出会いから回顧し始める――多門が生まれたこの小さな村にはふたつの大きな権力を有する家があった。一方は多門の家である「藤屋」。もう一方は「斧屋」と呼ばれていたが、「斧屋」の方は先代が狂死し、ほぼ絶えたも同然の状態だった。その「斧屋」の娘である鏡子が、自分の娘である実菓子を連れて「藤屋」へとやって来る。前時代的な厳格ぶりを示す父は鏡子母娘を客分として迎え入れるが、実際のところ鏡子を愛人として囲っているのだった。多門は病弱な兄・不動と共に実菓子を迎え入れ仲良くしようとするが、不動が実菓子に惹かれていることを隠さなくなった頃から、次第に3人の関係が――そして青鹿家自体がどんどん狂い始め……。

2012年に「鳴いて血を吐く」というタイトルで刊行された長編ミステリの改訂文庫版。新タイトルの「カラヴィンカ」とは、頭は美女、身体は鳥で、美しい鳴き声を持つ想像上の生物「迦陵頻伽」のことで、もちろん実菓子のことを指している。

旧弊な山村に存在する権力者たちの因縁と怨嗟。美しい少女に惑わされる兄弟。多門に憎まれていることを知っているせいか、現在の実菓子は周囲に対する露悪的な態度を崩さない。しかし多門の思い出の中に出てくる実菓子はそんな蓮っ葉で態度の悪い娘ではなかった。周囲の欲望によってゆがめられた娘は、唯一持っていた歌声で何を伝えようとしていたのか――少しずつ提示される謎と、明かされる真実。すべてを知った多門に実菓子が最後に差し出したのは、たったひとつのささやかな願いだった。彼女がどんな思いで2度の結婚を経て、今でも青鹿家にいたのか――それを考えると、改めて胸が締め付けられる思いがした。