行きつけのバーからの帰り道、ひとりの女と出会った華影忍。かつて彼が書いた小説「がらてあ心中」の主人公・菜穂子を彷彿とさせるその女の魅力に惹きつけられた忍は、彼女に誘われるがまま一夜を共にし、服毒による心中をはかる――はずだった。しかし忍は眠らされていただけで、目覚めた時にかたわらで女だけが死んでいたのだった。しかし事情聴取に訪れた刑事から見せられたその女――柳沼水奈都の写真は、忍が昨夜抱いた女とはまったくの別人。忍は水奈都のふりをしていたその女の正体を突き止めるべく、後輩の大学教授「黒猫」や、出版社の担当編集者・溝渕と共に調査を始めるが……。

「四季彩のサロメまたは背徳の省察」の主人公・華影忍のその後を描くミステリ長編。作家となった忍が、彼の心中癖を利用した殺人事件に巻き込まれてゆく。ちなみに「サロメ」未読でもまったく問題はないのでご心配なく(もちろん読んでいるとなお楽しいが)。

生きることが厭なのではなく、死に触れることでしか生を感じられないとでもいうのだろうか――ひとりで自殺するつもりはなく、あくまでも「運命の女」と共に手を取り合って死にたいという忍の性格は相変わらずというべきか、あるいはますます拗らせたというべきか。女を手玉に取っているように見えて、実のところ女といういきものに深く囚われてしまったままの忍。だから妻となった道子にも見抜かれてしまうのだ――彼には「真実」が見えていないということに。

有無を言わさぬ強引さで独自の調査を進めていく忍だが、破滅願望に満ち満ちている彼には欠けている視点があるのも確かで、そのあたりを意外と有能な編集者・溝渕が埋めてくれるという流れが思いのほか楽しい。だが結局のところ忍が目の当たりにした「真実」は、彼の想像をはるかに超えたものだった。忍が女という存在を理解することはきっとできないのだろう。それこそ、彼が死ぬその日まで。