「山崎の合戦」の歴史再現として武蔵を追う安土。艦上に次々と乗り込んでくる羽柴十本槍の面々が明かしたのは、彼女たち自身の正体だった――10人のうち竹中と石田を除く8人は、未来から抽出された武蔵勢の実子たちだというのだ。さらに彼女たちの生まれた未来では武蔵勢は失敗し、運命は失われて世界は滅んでしまったのだとも。ゆえに武蔵を止めると宣言する羽柴勢に対し、正純は戦闘の続行を決断。かくして各所で相対(親子対決含む)が始まり……。
10-中巻はシリーズ最大の急展開。帯にて完全にネタバレ(苦笑)されている通り、「武蔵」が羽柴勢によって撃沈させられるという最悪の結果が描かれていく。
かねてから似てる似てるとは思っていたが、まさか未来の子供たちだったとは……という衝撃の告白から始まる今巻。しかしまあ驚きなのは8人のうち3人の父親がトーリだという事実だったりする。しかもその3人の母親の内訳が浅間、ミトツダイラ、そして鈴だということにも。どうやらトーリとホライゾンの子もいたらしいが、それは十本槍には含まれていないということ、そしてそもそも彼女たちの生まれた「未来」では、三河争乱の時点でトーリとホライゾンがそろって失われているということも判明し、武蔵勢同様、読んでいるこちらも「な、なんだってー!」と何回叫んだことか(笑)。
というわけで前半は武蔵勢と羽柴勢による相対戦。結果として勝率は大した差がついていないものの、武蔵側は特務級がほとんど負けているうえ、主力はその武器を壊されてしまうという後のない流れに。そして後半では武蔵と安土による艦隊戦に持ち込まれるのだが、武蔵優勢かと思われた戦闘の流れはあっという間にひっくり返されてしまう。「未来」を知るが故の周到さと言ってしまえばそれまでだが、個人戦でも艦隊戦でも、武蔵側が優勢に見えていると羽柴側が新装備を出してきて逆転ホームラン!な流れが頻発するので今度は「ズルい!」と何回叫んだことか……特に武蔵が撃沈されるシーンは悲しいというより悔しいという意味で涙が出てしまった。”武蔵”の「また、いつか」という言葉が、その短さに反してなんと重たいことか。
……しかしここで終わらないのが10巻。これまで王として皆を牽引してきたトーリが、ついに自身の信念を揺らがせてしまう。彼の「子供」たちが、彼のやり方に否定を突き付けたというのはいかほどの衝撃だっただろう――まして戦闘の果てに「武蔵」を失ってしまったのだからなおさら。しかし再び「後悔」を得たトーリの前には――否、その境界線上にはホライゾンがいた。すべてを受けとめてくれる人がいるからこそ、彼は泣くことができたのだろう。たとえそのせいで命を失うことになるとわかっていても。次巻ではそんなトーリの魂を呼び戻すための儀式がスタートするのだが、その方法はまさかの……ってまあ予想はついていたけれど、ということで次巻ではホライゾンに続き、浅間&ミトツダイラのターンが始まる模様。なかなか(広い意味で)えぐい展開になりそうな予感。
◇前巻→「GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン10〈上〉」
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