ふたりきりの探偵事務所で事務員を務めるエラリイが所長のルルウから渡されたのは、密室殺人と思しき事件の資料だった。しかしその事件が起きた施設「メゾン・ド・マニ」――その名の通りマニ車を模していて、回る――にはそもそも出入口がなかった。住人は10人いるが、出入口がないこともあって外部犯の可能性はないという。しかも資料を読み進めていくうち、いつの間にか住人がひとり増えていることが判明。どうにも納得できないものを抱えつつ、ルルウはエラリイと共に現場へ向かうことになるが……。(「超動く家にて」)

2010〜2017年にかけて各種媒体に発表された16本の作品を集めた短編集。作者本人によるあとがき(兼、各作品の解説)も併録されている。

作者自らが「ネタに偏った作を集めたもの」と称し、さらに解説で酉島伝法が「俗称、宮内悠介バカSF短編集」と述べる通り、例えばこれまでに芥川賞や直木賞にノミネートされた作品しか読んでいない方にとっては確かにタイトルからして面食らうのではないかと思う。まあ真面目(っぽい)な話もあるにはあるし、リリカルだったり抒情的だったり人情系だったり……といった具合に、想像以上バラエティに富んだ作品集となっている。もちろんこれが作者のすべてではないし、ゆえに入門編に適しているとは言い難い。けれどジャンルだとか作風だとかを断言しにくいこの作者の一部を確実に形成しているものである、という点には間違いないはずなので、騙されたと思って読んでみてほしい1冊。

個人的に好きなのは表題作の「超動く家にて」。読み進めていくうちに後出しのように情報が追加されていくという展開には、エラリイでなくとも突っ込みたくなってしまう(笑)。思いがけないラストも含め、脱力系SFミステリとしか言いようのない短編となっている。

文学部出身者としては「文学部のこと」も見逃せないが、果たしてこの「文学」は私が知る文学と同じものなのだろうか(笑)と首を傾げながら読了。また日めくりカレンダーを巡る家族の攻防(?)を描く「今日泥棒」のコミカルさもいい。最後の最後まで首を傾げながら読んでいると、なんだか自分の頭までがマニ車のように回ってしまいそうな気すらしてくる。功徳が積めそうである。