あやかし絵専門の画家・富嶽北斗には、あやかしを見るだけでなく、自身の描いた絵にそれらを封じることのできる能力を持っていた。しばしばやってくる大学時代の同級生で怪奇小説家の多喜沢にうらやましがられつつ、展覧会に出品する絵を描いたり、多喜沢の小説の装画を担当したりと、それなりに充実した日々を送る北斗。そんなある日、いつものようにネタを求めて押しかけて来た多喜沢と共に、地元である浅草の蕎麦屋へと向かうことに。その帰り道、傘にまとわりつく暖簾のようなあやかしに遭遇し……。(「観音裏の縄簾」)

浅草を舞台に、あやかしが見える画家と見えない小説家が、おいしいものを食べながら様々な怪異に遭遇するという、あやかし&下町グルメ連作集。

タイトルに「グルメ」と付くだけあって、蕎麦、かにコロッケ、揚げまんじゅう……と、なんともおいしそうな単語が連なる本作。個人的な話になるのだが、これを読んでいたのが夜なので、なんともお腹がすいてきて困ってしまった(笑)。

さておき、そんな感じでおいしいものを食べに外出した先で、北斗と多喜沢、そして北斗の姪で同じくあやかしを感知することのできる女子高生・美紗緒たちが遭遇するのは様々なあやかし。かれらは人に害成すモノであることもあるし、そうではないこともある。ただ道に迷っているだけだったり、美紗緒に危険が迫っていることを察知して守ろうとしてくれていたり。いいものも悪いものもいて当たり前――そんな雑多な、しかし人情味のある雰囲気が、舞台である浅草、そして北斗の「あやかし画家」という職業によくマッチしているなあと思う。

子どもの頃のトラウマ的な体験(あやかしが見えることを信じてもらえないとかそういうこと)のことがあるのでわりと人付き合いが苦手なのかと思いきや、ちゃんと彼女がいたりする(ただし本作の時点では別れているが)という北斗の人物像がわりと謎なので、続編があれば元カノなんかにもぜひ登場していただきたいところ(笑)。