皮膚科医の是枝は、脅迫まがいの手段で妻と別れるよう迫ってくる愛人・郁美を深夜の駐車場に呼び出して殺害した。暗がりで空き缶につまづき、階段から転落死したように見せかけたのだ。一晩中、病院で論文の校正をしていたような細工を仕掛けていたため、彼のアリバイは完璧なはずだった。しかしその翌日、病院に福家と名乗る女性刑事が現れる。彼女は郁美が持っていたとされる地図の行き先が是枝の勤務先であることを理由に訪れただけ、と言うが、その後もあれこれと細かな質問を繰り返してきて……。(「是枝哲の敗北」)

冴えない見た目とどこか抜けた感じの雰囲気とは裏腹に、恐るべき洞察力と観察力で犯人を追い詰める女性刑事・福家の活躍を描く倒叙型ミステリ連作集、第5弾。今回は「ミステリーズ!」に2016〜2018年に発表された3作と、書き下ろし1作が収録されている。

愛人を殺した皮膚科医、保険金目当てに自分を殺そうとする夫を返り討ちにした妻、強請屋の男を殺したバーテンダー、そして恋人の敵討ちをした証券マン……誰もが完璧な計画を練り、アリバイも作り、見事に対象を殺してのけたにも関わらず、ほんの小さな綻びから福家警部補は真実を見抜いていく。なんと今回は殺人事件の捜査のついでに、過去に起きた別の事件も解決してしまうのだからさすがとしか言いようがない。最後まで「すごい……」としか言えない鮮やかさは健在だった。

もちろん毎回のドジすぎる登場シーンも健在。まあだいたい名刺は忘れるか、出てきたとしてもよれよれなものが1枚。初対面で警察官だと思ってもらえない。商売柄、客の人柄なり本質なりを見抜くことに長けていたバーテンダーの浦上も、最初は彼女の存在をつかみかねていたのだから面白い。今後もその人を食ったキャラでどんどん活躍してほしい。


◇前巻→「福家警部補の追及」