司馬氏の追放、梅花の死、さらに養い子である鴻が立太子したことで、後宮は少しずつ綻び、荒れ始めていた。妃嬪たちの中には表立って小玉に敵対する者も現れ始め、さらには死んだはずの鳳がまだ生きている、と語る者まで出る始末。文林のため、そして自身の覚悟のために、あらゆる事態に立ち向かうことを小玉は決め――そして紅燕と真桂もまた、懸命に彼女を支えようと力を尽くしていた……。

第2部スタートとなる中華風ファンタジーシリーズ、本編9巻。文林の傍にいることを選んだ小玉の新たな戦いの火ぶたが切って落とされる、まさにイントロダクション的な展開となっている。

今巻でもっともクローズアップされたのは真桂と紅燕。特に真桂は小玉に心酔する妃嬪の筆頭的存在として、その聡明さを活かして小玉を支えようと試みる。しかし一方で、日々消耗してゆく小玉に対して自分がなにをできるか自問し続けることになる。他の妃嬪による妨害や造反程度のことであれば、小玉は皇后であるし、王太妃の娘である紅燕の存在があるので、ギリギリではあってもなんとかなるといえばなる。しかし小玉自身――皇后という存在に与えられる数々の圧力を、どうすれば解消してあげられるのだろうか、と。

なんといっても問題は鴻の立太子。文林の実子であるが、小玉の実子ではない彼の存在は、下手をすると小玉の立ち位置を大きく動かしてしまう可能性がある。文林が懸念している「未来」はあまりにもわかりやすすぎる末路であり、だからこそ絶対に選んではいけない道。しかし市井の人々は、そんな小玉を憐れむのだ――実の子がいないのがかわいそう、などと。そして小玉はその評価に苦しめられることとなる――ただでさえ独り歩きしている自分という存在が、さらに自分の実態とはかけ離れたものになっていくことに。かわいそうなどと思われることに対して苛立ちが募ることに。そしてそれでも、文林を独占しようとしてしまう自分自身に。

だからこそ、そんな彼女に真桂が決死の覚悟で懸けた言葉は強く響いたのだろう。王太妃や紅燕ではない、いち妃嬪である彼女の言葉だからこそ。後宮という場所を確かに信じられるよすがを得られた小玉が、今後どのようにその辣腕を振るうことになるのかが楽しみ。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第八幕」