陸上部のエースとして活躍する女子高生・一ノ瀬ときわの隠れた趣味は、少女漫画を読むこと。特にお気に入りなのは藤原ホイップ先生が描く大正ロマン系の人気恋愛漫画「恋色ノスタルジック」なのだが、周囲では「もう少女漫画は卒業」という雰囲気が流れているため、幼馴染の結を除いて、その趣味を明かすことはできないでいた。そんなある日、帰宅中に行き倒れているスーツ姿の男性を見かけたときわ。彼女の父が経営するアパート「ヒット荘」の住人だというその男性――鈴木桂太を部屋まで送り届けるときわだったが、中に入るとそこには少女漫画誌と「恋ノル」の単行本、そして漫画を描く道具が並んでいた。実はこの桂太と、その直後に帰宅してきたノリの軽い金髪の青年・長山レオこそが、ときわの崇める少女漫画家「藤原ホイップ」の正体だったのだ……。

少女漫画好きの女子高生(兼・大家の娘)が、男性の少女漫画家コンビを食事でサポート!な短編連作。

母親を早くに亡くしたことや、自身がアスリートであることも加わり、栄養バランスを考慮した料理が得意なときわ。そんな彼女の前に現れた憧れの漫画家は、欠食児童よろしく食事を満足にとっていない男性2人組だったからさあ大変――ということで、なし崩し的にときわはふたりにも料理を振る舞うことに。地元の食材や旬の野菜を使って繰り出される数々の食事の描写には、読んでいるだけでお腹がすいてきそうになってしまう。

そしてもうひとつ面白いのは「藤原ホイップ」が置かれる少女漫画界の現状についての描写。アプリと紙媒体での描き方の違いや、アプリ(電書)化に対する漫画家・編集者・読者の三者三様の意見……紙と電子書籍の過渡期ともいえる現在の状況がありありと描かれているので、基本的に紙派の私としては目からうろこだったりする。しかし媒体が何であれ、描く側も、送り出す側も、そして読む側も、漫画が好きという事実に変わりはない。そんな想いも強く感じられる作品だった。