玉川上水で女性と入水自殺をしたはずが、なぜかずぶ濡れの状態で道を歩いていた太宰治。あたりはまるで見たことのない風景で、「7」と書かれた商店で見かけた新聞には「2017年」とある。驚きのあまり卒倒した太宰は、傍にいた女性――長峰夏子に助けられ、しばらく彼女の家で療養することに。なぜか自分が未来の東京にやってきてしまったことを悟った太宰は、はかなげな美女・夏子が生きることに疲れている様子を見てとり、心中を持ち掛ける。しかし現代の玉川上水で溺死できるはずもなく、ふたりはあっさり助かり、太宰はそのまま病院から逃げ出すのだった……。

あの太宰治が2017年の東京に転生!?というまさかの展開から始まる、ある意味「転生もの」な長編作。

カプセルホテル、ライトノベル、メイドカフェ、インターネット……等々に接し、その都度カルチャーショックを受ける太宰。一方で、生前とは異なり、自作が高く評価されていることに満足感を覚えて有頂天になる。かと思えば、現代が文学にそれほど重きを置いていないことを知り落胆する。語り口調のテンションは低いが、感情は常に乱高下しており、しかも新たな文化に驚きつつも深く疑問を抱かないという妙な割り切りの良さがなんとも面白い。

一方で、彼は昭和を生きていた作家のひとりだからして、当時の文壇の様子を事細かに思い出し、現在のそれと比較して嘆くこともしばしば。そんな中、彼は生前に欲しくて仕方なかった芥川賞を手にするべく、夏子の妹で地下アイドル(ただし人気はない)をしている乃々夏にアドバイスし、彼女に芥川賞を取らせようと画策し始める。まさにプロデューサーといったところだが(ちなみにその後、彼はアイマス二次創作にハマる・笑)、そこでもやはり、作家としての能力の片鱗を見せつける。ただしその考え方が、ののたん(乃々夏の芸名)というキャラクターにギャップを持たせて構築するという、ある意味「キャラ文芸」のようなことをしているのがますます面白い。すでに続編が出ているようだが、太宰のプロデュースで乃々夏は作家として大成できるのか、気になるところ。