先の戦の影響もあり、皇族でもある尚書が引退することになった。皇族と官僚の橋渡し役として皇族官吏が必要であることから、10数年前に引退した茄王が復帰することになり、その権威付けのために彼の長女が後宮入りすることに。しかしその直前に長女が病死し、代わりに庶子である妹姫の仙蛾が後宮入りすることが決まるのだった。後宮にやってきた仙蛾は、悪女顔ではあるがとても美しい娘で、かつては病弱だった姉姫を献身的に看病していたという逸話や、化粧が上手であることから他の妃嬪や女官たちからの人気も集め、当初は後宮内の雰囲気も穏やかなままだった。しかしある時、小玉が皇帝に他の妃嬪への渡りを勧めていないことを知った仙蛾は、表立って彼女を非難し、以後は反皇后派や中立派の妃嬪たちと積極的に接触するように。しかし彼女の非難はあまりにも正論であるため、小玉には反論することができないでいた……。

司馬淑妃がいなくなったことでパワーバランスが崩れかかる中、新たに現れた野心的な妃嬪のために後宮内が本格的に荒れ始める、シリーズ本編10巻。

文林を独占したいという想いを自覚し、いつしか意識的、あるいは無意識的にそのように振舞っていた小玉。そんな彼女を正論でもって弾劾したのは、庶出の皇族である新たな妃嬪・仙蛾だった。しかも彼女は某司馬淑妃と違って隙がなく、いくら手を尽くしても小玉たちにその尻尾を掴ませない。小玉に肩入れして読んでいるこちらとしては「なんと小憎たらしい……!」と言いたくなってくる展開なのだが、とはいえ前述の通り、仙蛾の指摘は「後宮」という場所の存在意義からすれば至極当たり前のことであり、皇后であるにも関わらずそれをしない小玉に非があるというのは、本人も認めざるを得ないのだからたちが悪い。

しかもそんな中で、小玉の周辺の女官たち、そしてついには小玉本人にも迫る謎の病の影。今まで静観を決め込んでいた麗丹が、小玉のため――正確には彼女に仕える女官たちのため――に動き始めてくれたことはなんとも頼もしいが、一方でほんとなにやってくれてんの文林、としか言えない出来事も発覚し、さらには周辺国の動きも(戦ではなく王族内の問題で)きな臭くなっているしで、なんというかこの先どう転ぶのかますます予測できない展開に。まあ文林のしたことも皇帝としては間違いということではなく、そもそも皇帝と皇后の関係を普通の男女のそれと同列に扱うことはできないとわかってはいるのだが、それはそれとしてなんというか……とぼやきつつ、続刊を待ちたいところ。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第九幕」