名探偵シャーロック・ホームズの助手であるジョン・H・ワトスン「として」生きることをモットーとする女子高生・岩藤すずは、そのために医師になることを志し、私立蔦野医科大学を受験していた。しかし自己採点の結果は合格圏内だったにもかかわらず、実際は不合格。自分以外にも同じ境遇の女生徒がいることを知ったすずは、なんらかの不正が働いているのではと考え、無謀にも大学構内に侵入を試みる。運よく答案用紙が保管されている場所を聞き出せたすずは、8階の〈ルームD〉と呼ばれる部屋に向かうが、そこで目にしたのは散乱した答案用紙と血に濡れた犬の巨大な足跡、そして窓から転落したとみられる男性の遺体。さらにその直後、安藤という名札を付けた美女が遺体を見下ろしながら「化け犬の呪いですわね」と呟くのを聞いてしまう。帰宅してからもこの事件のことが気になって仕方ないすずは、翌日も大学に侵入しようとするが、学生でないことがあっさりとバレて追われるハメに。そんな彼女を助けてくれた男性――上野公園に住むホームレスらしい――は、すずがイメージしていた「シャーロック・ホームズ」そのものの容貌をしていて……。

ワトスンを自称するちょっと変わった女子高生・すずと、ホームズのイメージぴったりな謎のホームレスとが、医大で起きた殺人事件の謎を解くライトミステリ長編。

一応いいとこのご令嬢……なのだが、行動や思考パターンが素っ頓狂というか、なかなかユニークな性格の持ち主の主人公・すず。実は片目が義眼であること――ひいては幼い頃、何らかの事件に巻き込まれたこと――が、現在の彼女のパーソナリティーをかたち作っているのかもしれない。そんな彼女が出くわしたのは、シャーロック・ホームズに「そっくり」なホームレスの男。素性も過去もさっぱりな彼は、しかし変装が得意だったり洞察力に優れていたりと、見た目以外にもホームズっぽい面が見え隠れ。ワトスンであることを自らに課し、日々研鑽(?)に励んでいるすずにとっては、まさに相棒たるにふさわしい相手。とはいえ彼にとってすずは他人だろうし、そんな彼女のいわば「ごっこ」に付き合ういわれもないのでは……と思っていたら、実は過去に何かしら接点があった模様。物語は〈化け犬〉にまつわる殺人事件と、ふたりの過去の両方が語られていくという展開になっている。

タイトルに「低コスト」と書かれているので、よもやホームズ役が様々な節約術を駆使するのでは……と思っていたのだが特にそんなこともなく(笑)、思った以上に山あり谷ありしつつちゃんと「ホームズ」が推理の末に事件を解決するというまっとうな流れ……と思ったら、「ホームズ」と「ワトスン」の過去については意外などんでん返しもあり、最後まで目が離せない。もし続編があるとすれば、そのあたりを詳しく知りたいと思う。