大学院生として民俗学を研究している名鳥歩は、フィールドワーク中に山で迷子になってしまう。鼬に襲われていた白蛇を助け、逃がしてやった歩は、そのまま山中で一夜を過ごそうとするが、そこに着物姿の白髪の少女が現れ、「山の主に見つかる前に」と歩の手を引いて山から連れ出してくれるのだった。しかしその直後から、歩の周辺でおかしな出来事が頻発。研究室が激しく荒らされたり、自宅前に烏の死骸が置かれていたり……という話を聞いた担当教授は、歩に「怪異喰らい」と呼ばれる青年・朽木田千影を紹介する。先日のフィールドワークが原因だと考えた歩は、渋る千影と共に再び福井の山へ向かうことに。すると千景は、歩が迷ったというその山に蛇が巻き付いていることを示唆し……。
第1回富士見ノベル大賞・審査員特別賞受賞作。山神に呪われた大学院生と、「怪異喰らい」と呼ばれる謎の美青年が、山村に潜む因習の謎を解き明かすオカルトミステリ長編。
図らずも「山の主」である蛇神に呪われ、「そのままだと死ぬ」とまで言われてしまう主人公の歩。しかし呪いや死に対する恐怖はさておき、「呪い」そのものに対する民俗学的興味は捨てきれなかったり、あるいは他者に対する情が深いせいで、自らピンチを呼び込んでしまうことも。一方、「怪異喰らい」と呼ばれ、どうしてか怪異をその通り「喰らう」能力を持つ青年・千影は、そんな彼のために山神を喰らうことになってしまう。明らかに人間嫌いというか、周囲との関わりを持つことを避けようとしている彼が、なぜ報酬さえあれば(しぶしぶではあるが)その能力を発揮しようと考えるのか。そして図らずも歩が「視て」しまった千影の「過去」は何を意味するのか――そもそもなぜ歩は、他者の記憶を無意識のうちに覗くことができたのか、という点も気になるが――、そんな謎を垣間見せつつ、物語は蛇神と、その神を祀っていたはずの神山家との因縁へと移ってゆく。
想像以上に重い因縁に驚きつつも、講評の通り先の読めない展開のおかげであっという間に読み終わってしまった本作。お人好しだがそれだけでもない歩と、冷淡なようでいて少しずつ心を許してくれる(ような気がする)千影のコンビっぷりがなんとも楽しいので、ぜひ続編を希望したい。
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