小鳥たち
山尾悠子
ステュディオ・パラボリカ
2019-07-29

〈水の城館〉には華奢な編み上げ靴を履いた侍女たちがいる。赤髭公やその母親である老大公妃からも「可愛い小鳥たち」と呼ばれる彼女たちは、小鳥のように驚きやすく、すぐに動揺する性質がある。広い庭園のそこここにある噴水にすら驚き、その姿を小鳥に変じさせて逃げ惑ってしまうくらいに……。

山尾悠子による掌編をモチーフに、人形作家・中川多理が人形を創作し、その人形を元に新たな物語が紡がれる――「小鳥たち」という存在が往還し、その世界を広げていく幻想譚。

物語は3編の短編で構成されている。まずは2016年に再刊行された歌集「角砂糖の日」の付録として発表された短編「小鳥たち」。これを元に中川多理が小鳥たちの人形を創作。これを受け、ステュディオ・パラボリカから2018年に刊行された「夜想♯ 中川多理――物語の中の少女」に山尾悠子が「小鳥たち、その春の廃園の」を寄稿。この続編を元に新たな小鳥たちの人形が創作され、そして最終章となる「小鳥の葬送」が書き下ろされたのだという。まるで往復書簡のように、小鳥たちが物語と人形というふたつの表現方法を使って、現実世界に顕現していく。

侍女たちは人間の少女であり、時には本当に「小鳥」となり飛び立ってゆく。それはすべて彼女たち自身の意志で行われることであり、誰かに強制されることでもなければ、彼女たちが望まないことでもない。軽やかな――時には慌てふためき騒々しいのかもしれないが――羽音と、ひそやかな囀りが、文章の間から、そして人形の写真から、不意に聞こえてくるような気がしてくる。〈水の城館〉と呼ばれる、噴水と迷路のような庭園に囲まれた屋敷。赤髭公と呼ばれるその主と美しい妻たち。そして公の母親である老大公妃の死と束の間の復活。やがて廃園となるその城館は、それでも往時の美しさをきっと留めたままに違いない。少女が小鳥に変じてしまうような場所なのだから、そのくらいの奇跡が残っていても不思議ではないだろう。短い作品ながらも、あっという間にその異質な世界に取り込まれてしまうような、そんな緻密な美しさが滲み出てくるような物語だった。