黄昏の岸 暁の天 十二国記 8 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社
2014-03-28

王が即位して1年もたたないうちに、戴国はあっという間に復興を遂げた――かのように見えた。しかし泰王の統治の足下では地方での反乱が相次ぎ、ついには驍宗ゆかりの地である文州でも反乱が勃発。驍宗は自ら軍を率いて鎮圧に向かうが、途上で行方不明になってしまう。その知らせを王宮で受け取った泰麒は、驍宗を救うため使令を向かわせようとするが、まさにその瞬間、ある人物によって襲われてしまう。角を失った泰麒は本能のままに蝕を起こし、蓬莱へと流れてしまうのだった。それから約6年、戴の女将軍・李斎が満身創痍の状態で慶国の王宮へとたどり着く。朦朧とする意識の中、戴国を救ってほしいと懇願する彼女の言葉に心動かされた景王陽子は、まず行方不明の泰麒を探そうと試みるが……。

シリーズ8巻は2巻や4巻、そして7巻に収録されていた「冬栄」「帰山」の続編となるエピソード。国王・麒麟ともに不在となり荒れる戴国を救うべく、陽子たちが奔走するという展開に。

困っている国があれば、周辺の国がそれを助けてあげるというのは至極当たり前のことのような気がするが、この世界ではそれができないことがある。物資を送る程度ならいいのだろうが、王が軍を率いて他国へと入れば――それが武力行使ではなく、民たちを救うという理由であっても――、それは「覿面の罪」とされ、王と麒麟の両方がたちまち無残な死に至るという故事があったのだという。ただし、陽子が偽王と戦うため、雁の軍を借りて同行していた件については問題なかったのだとか。明文化されてはいないが、明らかに禁に触れるルールというのがこの世界には存在しており、陽子たちはそのルールをかいくぐりながら、戴国を救うための方策を講じることになる。

しかしそれに納得がいかないのは李斎(そして、もちろん陽子本人も)。天が麒麟を通じて選んだ王がなぜその道を失うのか、あるいは今回のように王を追い落とし、悪政を敷く人物が現れたとしても、なぜ天はそれを罰しないのか――そんな疑問を持つのも当然だし、ましてや蓬山において女仙を統べる存在である碧霞玄君のように、「天」に属する存在を目の当たりにしてしまったらなおさらだろう。しかし李斎の渾身の訴えを聞き、陽子はある答えにたどり着く。すなわち、「天」というものが実在するのであれば、それが完璧であるはずもなく、決してこちらを救ってくれる存在ではないのだということを。だからこそ、自らを救うのは自らしかありえないのだということを。

これまで見てきたような、あまりにも厳然と、かつ漠然としたシステムに支配された世界において、それを決めているであろう存在が、それゆえに例外を許さない存在であることは、理不尽にも感じるが一方で納得できることでもある。そんな世界で唯一のよすがとなるのもまた、王と麒麟という存在なのだろう。「魔性の子」を経て再びこちらの世界に戻ってきた泰麒は、王を探すために戴へ戻ることを決意する。もはやただ人同然となった彼が、しかし麒麟としての使命を胸に旅立つさまは、そのことを強く感じさせる。戴でいったい何が起きているのか、そして驍宗は無事なのか――実に18年を経てようやく続きが綴られることになったこの物語の行く末が気になって仕方ない。


◇前巻→「華胥の幽夢」