三軒茶屋にある小さなビストロ「三軒亭」は決められたメニューがなく、個性豊かなギャルソンに好みや希望を伝え、料理を作ってもらえると評判のレストランだった。舞台役者を目指しているものの、なかなか芽が出ない青年・神坂隆一は、このビストロのオーナーシェフ・伊勢の友人である姉の勧めで、期間限定でギャルソンとして働くことに。しかし初めて接客を担当した初来店の女性客・雅をさっそく怒らせてしまう隆一。しかし落ち込む隆一に対して先輩ギャルソンの陽介が言うには、雅が食事の一部をこっそりバッグにしまっている姿を見たらしく……。

メニューのないレストラン「ビストロ三軒亭」を舞台に、美味しい食事を通じてお客様の悩みも解決してしまうライトミステリ連作シリーズ1巻。

なんといってもメニューがない、オーダーメイドスタイルのお店というだけでもなかなか気になる「ビストロ三軒亭」。そこでは凄腕のオーナーシェフ・伊勢を始めとして、共同経営者でなぜかオネエ口調のソムリエ・室田、ノリのいいイケメンギャルソン・陽介、栄養に関する知識が豊富な眼鏡男子ギャルソン・正輝、そして舞台俳優を目指しつつバイトとして働く主人公・隆一といった面々が客をもてなし、ある時はその客が抱える悩みを解決したりもする。

食事中に謎の行動を見せる女性客・雅、ふとしたことがきっかけで喧嘩してしまった隆一の姉とその友人、常連客でもある「大食いの魔女」3人組のひとり・芙美子が抱える問題……そして最後には、オーナーシェフである伊勢の過去を巡る問題までもが浮上。けれどそれらを図らずも解決していく隆一も、このまま役者を目指すかどうかという問題を抱えているし、先輩ギャルソンである陽介や正輝にもいろいろと訳アリな過去があるような雰囲気を醸し出している。しかしもちろん、完璧な人間などいるはずはないし、そういった問題を抱え、あるいは乗り越えてきたからこそ、他の悩める人への思いやりを持ち、それを救うことだってできるのだろう。なんとも心温まる展開がとても良かった。