大阪のとある医科大学にて、法医学教室の大学院生となった伊月崇。法医学医師としては完全に新米の伊月は、先輩医師である伏野ミチルにしごかれる日々が続いていた。そんなある日、駅のホームから転落し、電車に轢かれた女性の遺体が運び込まれてくる。警察によれば、彼女――長谷雪乃はホームで電車を待っていたはずが、何者かに追い詰められて後ずさりするように、背中からホームへ落ちていったのだという。しかし彼女を追い詰めていた第三者は存在せず、目撃証言も一切ないのだった。伊月たちが解剖を進めた結果、轢断による多数の損傷の他に、なぜか髪の毛の一部がまとめて引き抜かれたようになっていたことと、左手の指の付け根に青黒い痣のようなものがあることがわかっただけで、彼女が死の直前に見せた謎の行動についてはわからずじまいだった。それから数日後、今度は交通事故で亡くなった海野ケイコという女性を解剖することになったふたり。しかし警察から聞き込みの結果を聞くうちに、その死の状況が先日の長谷雪乃のそれと似通っているうえ、ケイコの遺体にも髪の毛の一部脱落および指の間に痣があることがわかり……。

実際に法医学者である作者による、法医学研究室を舞台にしたミステリシリーズ1巻。1999年に講談社ノベルスから刊行された同名シリーズの新装版となっている。

遺体からその人物に何が起きたのかを探っていく伊月とミチル。とはいえ彼らは警察ではないので、捜査そのものに関わることはできないし、うかつに自分の主観に基づく所見を述べることすらも憚られる職業ではある。しかしこのたびふたりが遭遇した2遺体には明らかに共通点があり、しかしその共通点が何に由来するかわからなくてモヤモヤする……というところから、ふたりの独自捜査が始まっていくことに。刑事になっていた伊月の小学校時代の同級生・筧の助力もあり、ふたりが真相に近付いていく展開はなんともハラハラさせられるし、結果として導き出された意外な結末には、そういう方向性なのか、とすっかり驚かされてしまった。2巻以降も新装版が連続刊行されるということなので、彼らの活躍に期待したい。