内閣情報調査室内に秘密裏に設置されている「特務捜査」部門――通称「CIRO-S」。その新人捜査官である雙ヶ岡珠子は、「Cファイル」と呼ばれる国家機密級の資料を追って、ある大学生のもとを訪れる。その大学生――戻橋トウヤは、例のファイルが置かれていた可能性のある事務所を訪れ、友人の負った借金をチャラにさせるため、ヤクザ相手に麻雀勝負を持ち掛けたうえ、そこでたまたま起きた襲撃事件に乗じて金庫の中から借用書などを持ち出し、まんまと逃げおおせたのだというのだ。しかしトウヤがその襲撃相手を目撃し、もちろん向こうにも姿を見られていたことで状況は一変。珠子は上司の命により、トウヤと共に行動し、彼を守りながらも「ファイル」の調査を続ける羽目になり……。

第25回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞作。謎のファイルを巡り、どこか刹那的に生きる大学生・トウヤと、彼に振り回される新米捜査官・珠子が奮闘するサスペンス長編となっている。

超能力ともいうべき「特異能力者」が存在する世界で、その能力者に関わるとされる「Cファイル」。その所在をめぐってトウヤと珠子は秘密結社「フォウォレ」の一員であり、目が合えば必ず死ぬという魔眼の持ち主・ウィリアム=ブラックを追うことに。とはいえ秘密結社の一員などという接触不可能な存在に対し、トウヤは一介の大学生ながら、思いもよらない方法で彼とのコンタクトを図り、なおかつおびき出すことに成功する。しかしそれに協力させられる珠子には――もちろん読者にも――、彼のメンタリティはとうてい理解しがたいものだった。自分の命がかかっているにも関わらず、なぜそんなにも冷静な判断が下せるのか――しかもそうとは見えないほどの飄々とした態度で。

「眠れる森の美女症候群」とも呼ばれる病を患っているという「トウヤの初恋の人」五辻まゆみは、彼に欠けている――あるいは明らかに肥大しているとでもいうべきか――精神の在り様について語る。しかしそれは果たして彼ひとりの問題なのだろうか。どこかで鍵を握っていそうな彼女の存在と合わせて、トウヤという人物は一体何なのかが気になって仕方ない。