飲食店のオーナーを自称していた恋人・理空也は単なるフリーターであり、ある日突然あすみの前から姿を消してしまった。彼と結婚するつもりだったあすみはすでに「寿退社」しており、残されたのはふたりで暮らすはずだった家賃9万2千円のマンションと、直近の支払いを除けば残高が428円になってしまう貯金通帳のみ。結婚を反対されていた手前、家族に助けを求めることもできず、親友の仁子からも厳しい言葉をかけられたあすみは、ひとまず家計簿をつけ、最低限の自炊を始めるなどしてやりくりを始めることに。しかし日雇いのバイトをこなしつつ派遣会社に登録したものの、なかなか思うように職が決まらず……。

金欠アラサー女子・あすみが、迷走しつつもなんとか生活を立て直していく節約&お仕事小説。

恋人の理空也の甘い言葉にすっかり乗せられ、カードで買い物をしまくり、挙句の果てには無職だわ結婚の予定は白紙だわ、さらに残高不足で次回のカードの引き落としも家賃の支払もままならない……と、冒頭から人生詰みっぱなしな主人公のあすみ。日々の暮らしはどんぶり勘定で、なるようになるとある意味で無軌道な生活を送っていただけあって、こうなるとどこから手を付けたらいいかわからないという状態のあすみに対して抱くのは同情ではなく、むしろ親友の仁子と同じく説教したい気持ち。しかし物語が進むにつれ、少しずつではあるが考えを改め、こつこつとお金を稼ぎ、つましい暮らしを送るあすみの姿には、だんだんと応援したい気持ちの方が勝ってくる。

友人に誘われた合コンで出会った八城との関係や、日雇いバイトで出会ったミルキーや深谷の存在には救われたし、かと思えば終盤でラスボスのように現れた理空也の行動、さらにそんな理空也の言葉にまたしても流されそうになるあすみにはハラハラさせられたが、そんな数々の出会いを経て、あるいは誘惑をはねのけ、地に足の着いた生活を送るようになったあすみには拍手のひとこと。もちろんそれだけが幸せのかたちではないし、「生きること」と「お金を稼ぐこと」の目的と手段がすり替わるようなことは避けるべきだとは思うが、とにもかくにもまずは「普通」に生きていくことの大切さ、そしてそれが当たり前なようでいて実は難しいという事実を、あらためて教えられたように思う。