グランドシャトー
高殿 円
文藝春秋
2019-11-14

高度経済成長期のさなか、父を亡くして困窮した母子。のちに母は親戚の勧めで意に染まぬ再婚をするも、なかなか子供ができなかったことから、再婚相手の両親は年頃になった娘を差し出すよう要求する。母親の計らいで娘は大阪へと逃げ延びるも、頼りにするつもりだった知人はすでに転居しており、行く当てのない娘は当時流行っていた素人女性専門のサロンやクラブに潜り込み、「ルー」という源氏名で働き始める。しかし彼女の人気を妬む同僚たちと喧嘩してはクビになるといったことを繰り返し、途方に暮れていたルーは、京橋で駄菓子を差し出してくる謎の女に出会う。彼女こそが京橋でもっとも有名なキャバレー「グランドシャトー」のナンバーワンである真珠。ルーもまたグランドシャトーの一員となり、憧れの存在となった真珠と共に働くことになるが……。

産経新聞および「別冊文藝春秋」にて連載された、京橋のキャバレー「グランドシャトー」を舞台に育まれたふたりの女の絆を描く物語。

グランドシャトーで働き始めてからのルーの成長ぶりはすさまじく、あっという間に頭角を現していく。それは彼女がただ若いからちやほやされていたということではなく(まあ一面にはそういう部分もあったがそれだけではなく)、機を見て対応方法を瞬時に判断し、男たちの懐に上手く入り込むことができていたからだろう。それはきっと彼女が父親を亡くして以来、居場所を奪われ続けていたことによって培われた無意識化の処世術であったのかもしれない。その才能、あるいは手腕は、第2幕で仕事場を東京に移してからのことや、傾いたグランドシャトーを再建する時にも最大限に発揮されることになる。その展開に痛快さを感じつつも、一方で彼女がそんなスキルを身につけざるを得なかった境遇についても考えさせられる。

そんな彼女が一途に慕い、憧れてきたのが先輩ホステスである真珠。その本名も出自もまったくわからないが、ただそこにいるだけで男たちを癒し、惹きつける魅力を持っている女性。年老いてもなおその魅力が衰えることもなく、であればそうとう稼いでいるであろう彼女が、なぜ下町の長屋で日々つつましく暮らしているのかというのが本作の大きな謎となっている。彼女の稼ぎの行き先がわかるのは彼女が亡くなった後のことになり、そこで彼女の出自も断片的ではあるがわかるのだが、それもまた、ルーが求めていたものと重なり合う部分が確かにあった。

あまり饒舌に物事を語らない真珠が、「城」について語るというエピソードがある。「城」は男のものであり、女はそこに住まわされるだけ。けれどそれを聞いたルーは、そこに女がいなければ「城」は機能しないのだとも言う。これはきっと、女たちが居場所を得るための、そして守るための物語だったのだろう。だからこそ、その城の名前は「グランドシャトー」なのだ。たくさんの楽しいことを始める場所――女たちの大いなる城という意味で。