三体
劉 慈欣
早川書房
2019-07-04

文化大革命のさなか、父親が粛清の標的となり、惨殺される様を目の当たりにした葉文潔。彼女も投獄されるところだったが、その経歴を買われ、「レーダー峰」とも呼ばれていた基地で謎の観測業務に携わることになる。それから約40年後、ナノマテリアルの研究をしている汪茲蓮△海2か月ほどの間に高名な物理学者が次々と自殺しているという事実を知る。その中に楊冬の名前を見つけた汪は、彼女の自殺の理由が気になって調べることに。そのさなか、突然彼にだけ見える謎のカウントダウン映像が現れる。楊の夫に紹介された物理学者・申玉菲から理由もなく研究を止めるよう忠告された汪は、その真意を確認すべく、申がプレイしていたVRゲーム「三体」に身を投じてみるが……。

中国で刊行され、アジア圏の作品かつ翻訳小説として初めてヒューゴー賞を受賞した話題のSF小説3部作、第1弾。

物理学者たちの連続自殺と、「物理学は存在しない」という遺言。科学が殺されようとしている、という「実感」。汪にしか見えない謎のカウントダウン映像。「三体」と名付けられた、3つの太陽に翻弄される世界を継続してゆくシミュレーションVRゲーム。冒頭に置かれた文化大革命における粛清のシーンは、一見すると本筋に関係のないようにも見えてくるが、物語が進むにつれ、この事件が葉文潔の精神の在り方を形成し、そして世界の行く末を決定づけているということがわかってくる。出奔した妹、転向して父を弾劾した母、そして父を殺した「世界」。彼女はだから「世界」を呪い、そして絶望してしまっていたのだ。後に夫や子供を得ても、その想いはなにひとつとして変わらなかった。その事実がどこまでも哀しい。

かつて彼女が紅岸の基地で押してしまったボタンは、この世界にとって何を招き入れることとなるのか――単なるゲームではない「三体」がもたらすであろう破滅の――あるいは福音の?――足音は、確実に近付いてきている。ゲームに秘められた問題を解いた時、何が起きるのだろうか。悪い予感しかはらんでいない状態で物語は終わる。続編となる「黒暗森林」は現在翻訳中ということだが、その刊行がすでに待ち遠しい。