汎用AIの導入により、事務職であった「彼」は解雇を言い渡される。ベーシックインカムの導入で必要最低限の収入は保証されるものの、今の暮らしを続けるのは難しいという状態。しかしこのかたずっと事務職で、他の有用な資格を持っているわけでもないため、新たな職に就くことはできそうになかった。そんな中、「彼」はネット上で「人間にしかできない仕事」を見つける――それはずばり「新薬の治験」。「彼」は直ちに治験のバイト――もとい「有償ボランティア」となることに。しかしそんな「彼」に最初に投与されることになったのは、なんと「くじ運が良くなる薬」で……。(「イヴの末裔たちの明日)

2018〜2019年にかけて発表された短編3作に、書き下ろし2作を加えた短編集。

やがて人間の仕事は一部を除いてAIに置き換えられる――というのはしばしば目にする話だが、それを現実化させたのがこの表題作。主人公はそこで「人間にしかできない仕事」に従事することになるが、読んでいるこちらも、最初は主人公と同じく無邪気に「再就職」を喜び、その内容が思いのほか楽であることにうらやましさを感じていた。しかしそのもっともらしさが一気に胡散臭さに一転してしまうラストにはぞっとさせられるものがある。そこまで見透かされてしまうなんて、と。

表題作、そしてその人生を賭けてひとつの目標を追いかけ続けるトレジャーハンターと数学者のエピソードを交互に描く中編「ひとを惹きつけてやまないもの」の2作と世界観を同じくする――あるいはおそらく「ひとを惹きつけて〜」のラストとリンクするであろう書き下ろし「箱舟の座席」も、その行方が気になるという点で面白かったが、個人的に一番面白いと思ったのは、もう1作の書き下ろし「まごうかたなき」だった。

物語はある村に妖怪が出たというところから始まる。妖怪が出ると村人たちは「介錯人」と呼ばれる人物を呼び寄せる決まりになっていた。果たしてやってきた「介錯人」は専用の武器を村に持ち込み、立候補した――あるいは選ばれた――村人たちと共に妖怪退治に行くと宣言。村の有力者の娘に片想いし続けている主人公は、最初は行く気などなかったが、もし退治に成功して「英雄」になれば、あの娘も自分のことを認めるに違いないと考え、立候補することに。

……と、ここまでだったら普通の昔話だし、ならば主人公は「英雄」となり村に戻るのだろうと、最初は考えていた。しかし物語は意外な方向へと転がっていく。わざわざ村の外から「介錯人」がやってくるにも関わらず、足手まといにしかならなさそうな村人たちを妖怪退治に伴う意味はなんなのか。物語の類型を逆手にとったような――そして最終的には類型に収めてしまうというラストがなんとも恐ろしかった。