phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 感想


まもりたちの住むマンションが大規模修繕を行うという連絡が届く。そのためにはベランダにある私物をすべて撤去しなければならないという。まもりも葉二もベランダは菜園状態なので大ピンチといっていい状況。さらにそんな中、ダラスへ出向中だった従姉の涼子が突如帰国。しばらく共同生活を楽しむまもりだったが、やがて涼子が大きな問題を抱えていることが判明し……。

シリーズ5巻はサブタイトル通り「お引っ越し」がテーマ。あとがきによれば今巻が「第1部完!」という感じの内容になっているとのこと。

前半の「お引っ越し」はふたりのベランダ菜園。まもりの方はいくつかの植木鉢のみだったので、最低限に減らして室内に置いておくというのもアリではあるが、問題は葉二の方で、もちろん家に入れられる内容でも量でもないのでさあ大変。結局のところ、葉二姉の家に置かせてもらえることになりひと安心ではあるのだが、家庭菜園が使えなくなるうえ、工事のせいでマンションにいづらくなってしまい、外で待ち合わせての食事デートが増えるふたり。どちらかと言えばこちらが「普通」ではあるのだが、ふたりにとっては新鮮だというのがなんとも面白い。確かにコーヒーショップで待ち合わせるふたり、という光景はなかなか珍しい気がする(笑)。

そして後半の「お引っ越し」はまもり自身のこと。元々彼女がひとり暮らしをしているのは涼子が不在の間のみという話で、大学へは自宅からも十分通える距離だし、そもそもひとり暮らしには反対されていたということをほぼ忘れつつあった今日この頃。つまり涼子が戻ってくるとなれば、まもりのひとり暮らしも――そして葉二とのお隣さんライフも終わりとなってしまう。こちらもまあ一般的な恋人同士としては「普通」なことなのだが、これまでの距離の近さを考えると寂しいというか、「それはナシでしょ!」とつい言いたくなってしまう。

とはいえそういった「普通」の恋人同士のような状態を目の当たりにする中で、葉二がいかにまもりのことを大事に思っているか、というのがますますわかるのが今巻。特に終盤の独白の破壊力たるや(笑)。いつか来るであろうその日がこちらも待ち遠しくなってくる。言うまでもないだろうが、どうぞお幸せに……ということで。


◇前巻→「おいしいベランダ。午後4時の留守番フルーツティー」

デアスミスに心酔するカード使い・デロリスの策略でリッツが昏倒。焦りながらもバーチとの対決に挑むマルタだったが、その場にもデロリスが現れ、バーチ共々攻撃を受けてしまう。目覚めたふたりがいたのは蓑崎のマルタの家。戸惑いながらもマルタはバーチと共に解決策を探ることに。しかしそんなふたりの前に現れたのはデアスミスだった。マルタはその横に控えるクレイとの思わぬ再会に動揺を隠しきれず……。

富士見ミステリー文庫で完結していた同作の改稿版5巻。なお、3巻までは富士見L文庫から出ていたが、電子書籍のみとなっていた4巻を最後に同レーベルからの刊行は中断。しかし今後は私家版として出してくれるとのことなので、作者には感謝しかない(なお4巻も私家版あり)。

というわけで5巻はバーチとの共同生活(?)ふたたび編。しかもカードの影響によるとはいえ今回の舞台はオスタスではなく蓑崎。とはいえここではっきりしたのは、もはやマルタにはオスタスでの生活が現実であるということ。確かにオスタスと比べれば現代日本の生活は快適だし、マルタのとっても生まれ育った世界であるから懐かしさを感じることもある。しかしそれはただの郷愁であり、もう戻れない過去の話になっている。

後半のアラン・レイ高校への潜入捜査や普段の生活ぶりから見てもわかるように、マルタという人間の本質が変わったわけではもちろんない。けれど、巻き込まれたとはいえ右も左もわからない異世界にたったひとりで放り出され、庇護者(という後見人)はいたとしても、じゃあ達者に暮らせよと言われてその通りにできるなんてことはありえないだろう。ではなぜマルタはそうできたのか。それはクレイとの、そしてリッツとの共同生活のおかげであり、「名探偵のカード」という自分にしかない切り札を持てたことにもよるのだろう。つまるところそれは「居場所」であり、蓑崎にはなくてオスタスにはそれがあるということ。自分の依って立つ場所を持てるというのはなんという素晴らしいことなのだろうか。この蓑崎行き(仮)はそんなマルタの置かれた状況が浮き彫りになったエピソードだと思う。

デアスミスの魔手があからさまにマルタやリッツの周辺に伸び始めつつある中、マリアンナとの距離もまた、微妙に近付いてはいる。大切なものが増えるにつれてマルタはおとなになってゆく。マリアンナのマルタに対するまなざしは、そっくり私たちの目線と同じなのかもしれない。マリアンナが思い描く光景はあまりにも眩しくて、涙が出そうだ。


◇前巻→「マルタ・サギーは探偵ですか?4〜オスタスでのこまごまとした事件簿〜」


新人アイドルのマネージャーとして働く小路美雨がレコーディングスタジオで出会ったのは、今をときめくトップアイドル・初ノ宮行幸だった。本業が「霊能相談士」――つまり霊能力者である彼は、スタジオで起きていた機材トラブルが霊障であることを見抜いて解決し、なぜか美雨にこの仕事を辞めるよう忠告するのだった。意味が分からず首を傾げながらも仕事を続けていた美雨だったが、大事なお守りをなくしてしまったその日の現場で、恨みつらみを抱える大量の悪霊に遭遇してしまう。しかしそこに現れたのはまたしても行幸。彼はすべての悪霊を祓ったのち、美雨を自身の事務所に連れ帰り、死にたくなければここから一歩も外に出るなと命じてきて……。

2か月連続刊行となる作者の新シリーズは、霊能力者兼アイドルの行幸と、幽霊を引き寄せる「渡し屋」である美雨が霊的事件を解決していくオカルトミステリ連作。

幽霊を引き寄せ別の場所へ運んでしまう「運び屋」という体質持ちであることが判明した美雨は、その能力を活かして行幸のマネージャーを務めることに。しかし天上天下唯我独尊、ナルシストかつ俺様系イケメンである行幸のぶっ飛んだ行動に振り回されてばかり。幽霊に対しては冷酷とすら取れる行幸の態度や考え方にショックを受けつつも、美雨はなんとかマネージャー業に奮闘する。行幸の双子の妹(つまりこちらは超絶美女)でアイドル側のマネージャーを務める由良も交え、なかなか和気藹々とした感じではあるのだが、終盤でなにやらきな臭い雰囲気が。行幸には昔から何らかの目的があり、そのために美雨を利用しようとしているようなのだが、それがいったい何なのか気になるところ。そしてそのことが美雨を傷つけなければいいのだが。


美大への進学を機に家を出た寺脇友親は、同じ寮に暮らす先輩・柚木若菜に助けられつつもなんとか学生生活を送っていく。そんな彼の前に現れたのは、若菜を探しているという女子大生・進藤恭子。若菜に知られないよう彼のことを探ってほしいという恭子の頼みを躱していた友親だったが、時間が経つにつれ、若菜の謎めいた部分がいくつも見え隠れするように。一方、友親自身も家庭に事情を抱え、実家に帰りづらい身。しかしある日、友親に先んじて家を出ていた義姉・涼が友親のもとに突如やってきて……。

ふたりの青年が抱える絶望と、その先にあるものを描く切ない青春小説。

最初は美大生たちのちょっと変わった大学生活が描かれていた。なぜかオリエンテーションが農業体験であることとか、歓迎会と称してケイドロに興じる姿だとか、試験ではなく授業として絵を描き、評され、また絵を描くことで「壁」を感じることだとか……しかしその中で、友親と若菜の抱える問題が少しずつ浮かび上がってゆく。まるでソーダ水の泡のようにぷつぷつと、消えることなく。

奇しくもふたりが抱えていたのは似たような問題だった。すなわち、片親だった父あるいは母が再婚し、新しい家族を迎える。ふたりはとても仲が良いし、新しい父あるいは母は連れ子である自分をあたたかく遇してくれて、それは傍から見れば絵に描いたような幸せな「家族」の姿だ。しかしその中に組み込まれた子どもは違和感を捨てきれない。新しい家族になじめないか、あるいは親たちのために進んで「家族」を演じようと試みる。若菜は前者であり、友親は後者だった。そして破綻する。静かに、しかし確実に。そんな中で若菜はひとりの少女と運命的に出会い、しかしその後、最悪の結末を迎えていたのだった。

冒頭に「それは、よくある恋愛小説の成れの果てだった」というモノローグがある。絶望というエンドロールのその向こう側に若菜はいて、下手をすれば友親もいずれそこへと向かっていたかもしれない。けれど友親は無力感に苛まれながらも、なんとか踏みとどまり、さらには若菜をも引き留めた。その果てに何が待っているのかはまだわからない。若菜をこの世界に繋ぎ止めるよすがにするかのように、友親は酔いつぶれて眠る若菜の顔を描く。そんな想いすらもいつかきっと、泡のように弾けて消えてしまうだろう。そうだとしても今ここで生きている、それがすべて――そんな瞬間が切り取られたようなラストが強く印象に残った。

天子蒙塵 第三巻
浅田 次郎
講談社
2018-06-21

満洲国が成立したものの、いまだ共和制から帝政へと変わる気配はなかった。そんな折、代々の皇帝が纏ったとされる龍袍が見つかり、溥儀のもとに届けられる。しかしそれを手にしつつも彼が考えていたのは、これまでのことだった――幼くして皇帝と奉り上げられたがゆえに、自身の手で成したものは驚くほど少なく、そしてその結果もまた芳しいものではなかったことを。一方、張学良は妻子たちと共に欧州へ向かっていた。張作霖の死後に起きたことを振り返りつつも、彼の心の奥底にはいまだ龍玉を誰に渡すべきかという命題が重く横たわっていたのだった……。

清朝末期以後の中国近代を描く「蒼穹の昴」シリーズ第5部、転換点となる3巻。

「国」を追われ蒙塵したふたりの天子――溥儀と張学良は、時同じくして自身の来し方について自問する。満洲国というかりそめの国家にすがり、よりにもよって侵略者である日本の力を借りて復辟を成そうとする溥儀と、あくまでも自分たちの国を自分たちの手で守ろうとする張学良。ふたりの行く末はこんなにも隔たっている。そしてその間を縫うように様々な思惑が蠢いてゆく。みな、自身の選んだ道こそが正しいとそう思いながら。戦争という破滅へと向かっていく時代の中、それでも自身の信念に基づいて行動しようとする人々の姿だけが救いなのかもしれない。次巻で第5部完結とのことだが、どのようなかたちで幕は降ろされるのだろうか。そして龍玉は誰に託されるのだろうか。


◇前巻→「天子蒙塵 第二巻」


これまで手掛けた現場で起きた奇妙な事件を解決したという実績(?)を買われ、春菜は橘高組という土木工事専門の会社から調査依頼を申し込まれてしまう。なんでも嘉見帰来山という場所でトンネル工事を行っていたところ、現場事務所に勤める女性事務員が立て続けに不審な死を遂げたのだという。最初は断ろうとした春菜だったが、トンネル付近にポケットパークを作る計画があると聞き、1週間のみという条件でしぶしぶ依頼を受けるのだった。そんな折、コーイチが電話をかけてくる。なんでも仙龍の姉・珠青が春菜にも関係する不吉な夢を見たのだという。さらに現場で春菜が耳にしたのは現場近くの小村が焼失したという過去の事件と、その陰に見え隠れする「犬神」なる存在の祟りのことで……。

霊的存在を引き寄せてしまうOL・春菜と、いわくつきの物件に関係の深い「曳き屋」仙龍が、因縁深い事件に今回も巻き込まれてしまうシリーズ第4弾。今回の標的はタイトルの通り「犬神」。

咬み痕の残る遺体、黒い犬、机やロッカーの裏にひっそりと貼られたお守り、やけに豪華な社食と「ごはんに味噌汁をかけて食べてはいけない」という妙なルール、お祓いの直前に腐った供物、そして村長の一族のみが焼け死んだという謎の火事……これらはすべて「犬神」の存在へと集約していく。そして春菜は現場に足を踏み入れてしまったがために「犬神」のターゲットとなってしまう。これまでの事件は人間の怨念によるものであったが、今回はその怨念によって生み出された、人間とは異なるモノ。ゆえに人間の常識が通じる相手ではないし、がために成仏させるという方法も通用しない。小林先生や仙龍たちが導き出した「犬神」の正体、そしてそのメカニズムであるとか、今回の現場となった山に秘められた意味などは、知れば知るほど凄惨のひとことに尽きる。

そんな中、春菜のツンデレ片想い(?)は相変わらず。珠青の夢の話を聞いて真っ先に電話してきたのが仙龍ではなくコーイチだったことに落胆&憤慨したり、かと思えば出向中の野暮ったい事務服で仙龍の前に出ることを気にしてみたり。今回もまったくといっていいほどふたりの関係は進展していないのだが、ここまでくると逆に仙龍の塩対応(笑)がクセになってきたような気がする。


◇前巻→「憑き御寮 よろず建物因縁帳」


経理部に新入社員の麻吹美華が入ってきた。しかし入社初日からすぐに、教えられる業務についての問題点をひとつひとつ指摘し、「正しい」やり方にするよう提言してくる。しかもその指摘は部内だけでなく部外の人間にも及び、その都度トラブルに。そんな美華の態度に頭を抱える沙名子には、もうひとつ大きな悩みがあった。それはまもなくやってくるバレンタインデー。太陽から手作りチョコを希望されたため、沙名子はしぶしぶチョコの作り方を調べるはめに。さらにそんな折、太陽に学生時代の後輩・樹菜が接近してきて……。

シリーズ4巻では口うるさい新人・美華の加入で沙名子の周囲は波風立ちまくり!?な展開に。

これまで沙名子がクギを刺しただけでそっと胸に秘めていたり、あるいは面倒なやりとりを避けるために便宜をはかっていたり……というようなことのひとつひとつに意見する美華。確かに彼女の指摘は正しく、沙名子たちの対応が間違っているということはわかる。しかし「悪しき慣習」と言われてしまえばそれまでだが、その場その場におけるルールと言うか暗黙の了解というようなものは確かに存在していて、それにいちいち噛みついていては仕事にならないというのもまた確か。個人的には私も波風を立てたくないので沙名子の考え方に賛成ではあるが、しかしそれでもメゲずに声を上げ続ける美華の態度も嫌いではないな、と思ったり。現にいつの間にか経理部にもなじんでいるし――まあこれは沙名子たちが良くも悪くも「大人」であり、美華の扱い方を覚えただけということなのかもしれないが。

一方、今巻ではいくつもの問題が発生し、そしてそれが解決しないまま終わっている。沙名子が尊敬している経理部の同僚・勇太郎と、広報の織子の関係はどうなっているのか。秘書課のマリナの「副業」とそれに絡む経費使用についてはどうするのか。そして樹菜から太陽にあてたメッセージカードを握りつぶしてしまった沙名子はこの後どうするのか。波風を立てたくない、イーブンでありたいというのが沙名子の信条だが、それは必ずしも世間一般的な「正しさ」と合致するとは限らない。そのあたりの齟齬を彼女はどう収めるつもりなのか――否、そのつもりはあるのか。今後の彼女の動向が気になるところ。


◇前巻→「これは経費で落ちません!3〜経理部の森若さん〜」


公務員試験に落ちてしまった正義は、リチャードの勧めもあり、大学卒業後にスリランカへわたり、シャウル氏の下で宝石商としての勉強を始めることに。しかしシャウル氏は忙しく、また慣れない異国暮らしということで時間を持て余す正義。そんな中、ジェフリーの名前で「ヘルプ・リチャード」と題されたメールが届く。中身は世界有数のハイジュエリーブランド「ガルガンチュワ」が開催する豪華客船クルージングの案内で、リチャードだけでなく正義もこれに招待されているらしい。真偽のほどは定かではないものの、とにかく案内に従って船に乗り込んだ正義だったが、久々に顔を合わせたリチャードは「ここで何があっても、決して自分を助けようとするな」と命じてきて……。

第2部スタートとなるシリーズ7巻は豪華客船で起きた事件に巻き込まれてさあ大変!の巻。

前巻のエピローグで正義とリチャードがスリランカで宝石商をやっている的な描写があったので、2部はスリランカ編?と思ってたらその前の話というか、リチャードは銀座で通常運転、正義はスリランカで修行中という遠距離なんとかのような状態に。しかもいつでも明るく元気な正義が異国暮らしにすっかり疲れ果ててしまっているという珍しい状況。そんな中でふたりが向かうことになったのは豪華客船でのジュエリー・ショーなのだが、そこでリチャードを狙う「ガルガンチュワ」理事の目論見によって正義が罪を着せられた!?というまさかの展開に。

もちろんそのあたりはリチャードと正義の絆パワー(もちろん健在……どころかパワーアップしてる?)で乗り切ることができたのだが、今回の「事件」の黒幕だとか、ある人物が明かしたシャウル氏の真意(ただし本当かどうかはわからない……本当のような気もするが)など、気になる点は残ったまま。特に正義にとっては、「学生」という身分を離れ、社会――しかも海外やビジネスの世界に身を投じたことで、無情な現実であるとか「大人」の悪意だとかを直視させられるという厳しい展開に。しかし正義ももちろんもう子供ではなく、自分――だけでなくリチャードも含めた――の立場」というものを考え、「大人」として振舞うことを身に付けていくのだろう。けれどそれに慣れてしまうのではなく、自身の正義感にのっとってきちんと「怒り」を感じてくれる、そのままの正義でいてほしいとも思う。そしてそんな彼がいれば、リチャードもきっと救われるだろう。これから彼に何が訪れるとしても。


◇前巻→「宝石商リチャードの謎鑑定 転生のタンザナイト」


金椛国皇帝の妹である麗華公主と隣国・夏沙の国王との政略結婚が決定した。そこで麗華の近侍として白羽の矢が立ったのは遊圭。男子禁制の後宮にも付き従う必要があるため、またしても女装して向かう羽目に陥ってしまう。しかしてその真の任務は、西方に持ち出されたとされる紅椛王朝の天文記録「天官書」を探し出すというものだった。往路で夏沙国を狙っている朔露国の襲撃に遭いながらも、なんとか夏沙へとたどりつき、つつがなく婚礼の儀を終えた一行だったが、「天官書」の手掛かりを知ると思われる紅椛皇族の末裔探しは難航。さらにその間にも、何者かによって麗華や玄月たちへの贈物や食べ物に毒を仕込まれるという事件が起こり……。

新章スタートとなる中華風ファンタジーシリーズ第4巻は西方編。公主のお供として向かった先で、故国の存亡に関わる事件に巻き込まれていくことに。

族滅法が廃止され、晴れて「星公子」として太陽の下を歩けるようになった遊圭。これで女装ともおさらばし、今後は一族の再興に向けて具体的に動ける……と思っていたはずが、またしても女装して、今度は行くだけでも月単位の日時がかかる遠方へと向かうことに。もうこの時点でご愁傷様……という感じなのだが、往路では賊に襲われ、たどり着いた先でも毒を盛られたり襲われたり。そしてなにより、砂漠の国である夏沙は金椛と違ってあまりにも暑く、病弱な遊圭にとっては常人以上に厳しい展開に。

しかし今回課せられた任務は、帝国の存亡に関わる重大事。国を守ることが自分の大切な人たちを守ることになると理解している遊圭は、自身の体調も顧みず奮闘に次ぐ奮闘を重ねることに。過保護気味の胡娘を説き伏せたり、犬猿の仲だったはずの玄月を以前よりも認められるようになったりと、ひとまわりもふたまわりも大きくなった様子がうかがえてなんだか感無量。とりあえずの懸案事項だった日蝕は終わったものの、天官書自体がまだ西方のどこかに眠っているということで、次巻はそのあたりの話になるのだろうか。ついに元服もしたので、さすがにもう女装はないだろう……と思いつつ、でもどこかで期待してしまう(笑)。


◇前巻→「後宮に日輪は蝕す 金椛国春秋」


負傷し倒れた小玉に代わり、沈太監が軍を率いてこのたびの戦闘はひとまず終結した。しかし小玉の容体は思わしくなく、戦場から動かすことすらできないでいた。同じ頃、宮城にも戦況と小玉の容体、そして樹華戦死の報がもたらされ、関係者たちは動揺を隠せない。そんな中、文林は床に伏していた梅花を呼び寄せる。理由はただひとつ――今回の結果を招いた原因のひとつが彼女の企みにあったからだった。小玉のために司馬氏を失脚させようと暗躍していた梅花だったが、彼女の知らぬところで生じたほんのわずかな綻びが、巡り巡ってこのたびの小玉の負傷に繋がっていたのだ。梅花は身命を賭してその理由を探ろうとするが……。

激動の中華風ファンタジー、第1部完結となるシリーズ8巻。

小玉の闘病と回復、沈太監の作戦によって帝国が負わざるを得なくなった「負債」、そして梅花の目論見とその顛末。特に司馬氏失脚の原因を作り上げたのが梅花であること、そしてその策を利用して「綻び」を作った張本人の正体については前巻でもはっきりしていたが、今巻では具体的に彼女たちかどのように暗躍していたかが描かれてゆく。そしてその中で小玉と文林は、改めて自らの伴侶に対する想いを自覚することになる。

思えば遠くまできたものだ、と皇后になったころからすでに小玉は思っていることだろう。しかしそこからさらに今巻までの間に多くのことがあった。そして歴史は繰り返す――後宮の主として、またしても妃嬪を断罪することになってしまうのだ。しかし文林の予想とは裏腹に、小玉はある決断を下す。それはきっと変節というわけではない。成長というのもやや違うような気がするが、近いといえば近いだろう。彼女が弓引いた相手が皇帝であるという、その事実の重みが小玉の中で変わっているのかもしれない。裏を返せばそれは「皇后」としての自覚が深まっていることに他ならない。いい意味でも、悪い意味でも。こうして小玉と文林との距離は、近くもなり遠くもなってゆく。牢獄で司馬氏が文林に突き付けた言葉を小玉が聞いたら、いったい何と答えていただろうか。しかしどう答えたとしても、それでも小玉の「忠誠」の持つ意味は変わらないのだろう。そして直接その言葉を投げかけられた文林は、今後なにか変わっていくのだろうか。第2部がどのように始まり、どのように閉じてゆくのか、今から気になって仕方ない。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第七幕」

世界の終わりと始まりの不完全な処遇
織守 きょうや
幻冬舎
2018-06-07

9年前に出会った少女に一目惚れし、それ以来彼女との再会を夢見ていた大学生の花村遠野。そんなある日、所属するオカルト研究部の仲間である百瀬千夏から、「彼女」に似た女性を見かけたという話を聞かされる。学祭に向けて幽霊部員にも召集をかけようということで、遠野は親友の辻宮朔、そして千夏と共に、最近引きこもりがちだという部員・竹内の家へ向かい、そのついでに武内の家のすぐそばだという「彼女」がいた場所に行ってみることに。するとその近くにある公園――少し前にOLの惨殺事件があった場所――で、夏野はついに例の「彼女」らしき人物と再会して……。

9年越しの初恋と猟奇的殺人事件が交錯する切ないミステリ長編。

9年前の夜更け、囮捜査的と思しきことをしていた「彼女」に出会って以来、彼女の面影を追い続けていた遠野。ここにきてひょんなことから再会を果たした遠野だったが、そこにいたのはなんとふたりの「彼女」だった。ひとりは9年前とほぼ同じ容姿の朱里、そしてもうひとりは朱里を少し成長させた姿の碧生。普通に考えたら碧生の方が「彼女」のはずなのに、遠野は朱里の方に接近していく。それはなぜなのか――というのがひとつ目の謎。

そしてもうひとつの謎は、遠野たちが暮らす街で起きている殺人事件のこと。夜更けに首元を食いちぎられたような遺体が次々と見つかる中、「彼女」たち――朱里と碧生はこの犯人を追っているのだという。その犯人とはすなわち「吸血種」。とはいっても想像上の「吸血鬼」とはやや異なる存在であり、朱里たちはその「吸血種」を管理し、事件が起きればその収拾にもあたる「対策室」の一員。しかし世の中には対策室の管理外にある吸血種もいるのだという。今回の犯人はその「未登録」の仕業ではあるだろうが、計画性もなければ被害者に共通点もなく、殺害方法も残忍かつ杜撰で逆に手掛かりがないに等しい状態。そこで遠野は地の利を生かし、彼女たちに協力を申し出るのだった。もちろんそこに下心が十二分にあったりするのだが、そのうちそうも言っていられない展開に。

「記憶屋」の時もそうだったが、本作でも物語が進むにつれ、「吸血種」という存在――つまり「普通とは違う」存在ゆえの孤独について描かれてゆく。老いと死から遠ざけられた「吸血種」は、外見からはまったくわからないが確実にヒトとは違う。何もしていなくてもハンターのような人間に追われるし、普通の人にしてみれば受け入れることのできない存在である。そしてなにより、生に限りのある人と寄り添っていくことはどうしてもできない存在でもある。遠野に訪れた結末はまさにタイトル通り「終わりの始まり」としか言えないものだったが、それでも彼の「初恋」はここから始まり、動き出していく。永遠に続くものがあるのかどうかまだわからないし、その「永遠」とは何なのかをまだ肌身に感じられぬとしても、それでも彼の目の前にはまだ希望がある。そんなラストが印象的だった。


皮膚科医の是枝は、脅迫まがいの手段で妻と別れるよう迫ってくる愛人・郁美を深夜の駐車場に呼び出して殺害した。暗がりで空き缶につまづき、階段から転落死したように見せかけたのだ。一晩中、病院で論文の校正をしていたような細工を仕掛けていたため、彼のアリバイは完璧なはずだった。しかしその翌日、病院に福家と名乗る女性刑事が現れる。彼女は郁美が持っていたとされる地図の行き先が是枝の勤務先であることを理由に訪れただけ、と言うが、その後もあれこれと細かな質問を繰り返してきて……。(「是枝哲の敗北」)

冴えない見た目とどこか抜けた感じの雰囲気とは裏腹に、恐るべき洞察力と観察力で犯人を追い詰める女性刑事・福家の活躍を描く倒叙型ミステリ連作集、第5弾。今回は「ミステリーズ!」に2016〜2018年に発表された3作と、書き下ろし1作が収録されている。

愛人を殺した皮膚科医、保険金目当てに自分を殺そうとする夫を返り討ちにした妻、強請屋の男を殺したバーテンダー、そして恋人の敵討ちをした証券マン……誰もが完璧な計画を練り、アリバイも作り、見事に対象を殺してのけたにも関わらず、ほんの小さな綻びから福家警部補は真実を見抜いていく。なんと今回は殺人事件の捜査のついでに、過去に起きた別の事件も解決してしまうのだからさすがとしか言いようがない。最後まで「すごい……」としか言えない鮮やかさは健在だった。

もちろん毎回のドジすぎる登場シーンも健在。まあだいたい名刺は忘れるか、出てきたとしてもよれよれなものが1枚。初対面で警察官だと思ってもらえない。商売柄、客の人柄なり本質なりを見抜くことに長けていたバーテンダーの浦上も、最初は彼女の存在をつかみかねていたのだから面白い。今後もその人を食ったキャラでどんどん活躍してほしい。


◇前巻→「福家警部補の追及」

飛ぶ孔雀
山尾 悠子
文藝春秋
2018-05-11

シブレ山の石切り場で事故があって、火が燃えにくくなった。たくさんの川に囲まれた町では火種がよく売れる。場所によって火が着きやすいところとそうでないところがあるので、料理にも苦労する。停電も増えた。そんな中、大庭園で催されるのは夏の茶会。夜間の特別開放とライトアップの時期に重なり、人々でごった返す中、少女は火を運び、孔雀がそれを襲う。そうしてますます火が燃えにくくなった世界の、ふたつに分かたれた山のてっぺんに建っているのはとある施設。旅館ともラボとも言われるその場所をさまようのはふたりの男。しばしば雷が落ち、地下には大蛇が眠るというこの山でふたりは何を視るのか……。

「文學界」に発表された同名作品に、書き下ろし「不燃性について」を加えた連作長編。

前半「飛ぶ孔雀」は平地での、後半「不燃性について」は山頂での物語。断片的に語られるこの世界では火が絶え、水に満ちている。KとQというふたりの男性は状況がよくわからぬまま彷徨い、そんな彼らに対して町の娘、女子高生、オールマイティな双子、路面電車の運転士、配管工、売店の売り子など様々な女性たちが訳知り顔で近付き、そして通り過ぎてゆく。

大温室、地下浴場、頭骨ラボ、掃除会。芝の孔雀と地下の大蛇。禁忌を犯した娘は孔雀となり、地上に降り立った娘は靴をなくしていたことに気付く。「星」と「塔」のカードは何を意味していたのか。世界は終わりかけていて、けれどまだ続いている。それが滅びへ向かっているのか、再生の兆しを見せているのかはわからないけれど。この世界を理解するにはまだまだ時間が必要なようだ。

烏百花 蛍の章 八咫烏外伝
阿部 智里
文藝春秋
2018-05-10

端午の節句で宮中が沸き立つ中、貴族男性たちの間で話題に上りつつあったのは、自ら出家し桜の君の女房となった美貌の姫・真赭の薄の存在だった。主人である浜木綿は若宮に彼女を側室にするよう迫るが、若宮本人は断固として拒否。とはいえこれから真赭の薄の縁談でもめるであろうことを予見したふたりは頭を悩ませる。そんな折、若宮の側近・澄尾は、山内衆のひとりである雪哉との縁談を提案するが……。(「しのぶひと」)

昨年7月に第1部が完結した和風ファンタジー「八咫烏シリーズ」初の短編集。雑誌「オール讀物」に2016〜2018年にかけて掲載された4作と書き下ろし2作が収録されている。

真赭の薄に降ってわいた婚約話の顛末を描く「しのぶひと」を始めとして、時系列や登場人物はバラバラであるが、山内での様々なエピソードが収録されている本作。個人的に気に入ったのは、雪哉の産みの母・冬木の姿を描いた「ふゆきにおもう」と、時系列的にはおそらく最新エピソードとなる書き下ろしの「わらうひと」の2作。

「ふゆきにおもう」の語り手は、雪哉の母である梓。しかし彼女は育ての親であり、産みの母は彼女の主人であった北家の姫君・冬木だった。病がちではあるが物事の本質を見抜く目を持つ聡明な姫君・冬木が、いかにして雪哉の父・雪正と結婚して雪哉を産むに至ったか、そしてなぜ梓がその雪正の側室となり雪哉を育てることになったかという顛末が語られている。病弱で長く生きられないということ、そして大貴族の姫だったということが冬木の人生を狂わせてゆく。誰かの思い通りになったということは、すなわちその裏では誰かが意に染まぬ現実を押し付けられることに他ならない。しかしそれを呑み込んだうえで振る舞った冬木の姿が悲しくも美しい。そんな彼女の性格をおそらく受け継いだであろう雪哉が、本編で受けた大きな傷をどう乗り越えていくかが気になって仕方ない。

「わらうひと」は「しのぶひと」の続編ともいえる短編で、真赭の薄と澄尾との関係について再び語られていくエピソードとなっている。まあどう見たって両想いなのだが、それぞれの立場、矜持、そして相手への想いがふたりの距離を隔てる原因となってしまう。本人たちはそれでも納得ずくなのかもしれないが、いつかはそれを乗り越えて幸せになってもらいたいと思う。


◇前巻→「弥栄の烏」


今はもう滅びてしまった「死霊術師」の孫娘シュガーリアは、ある望みのために悪魔の島を訪れる。塩の竜に守られ、死霊が自身の死の記憶を繰り返し続けるその島で、シュガーリアが出会ったのは悪魔背負いの男・ヨクサルだった。孤独を糧とする悪魔の力を有するヨクサルに、シュガーリアは力を貸してほしいと懇願するが、ヨクサルはただ島から出るよう命じるばかりで……。

終わりの始まり、あるいは終わらない孤独と愛を巡る物語。

死霊術師たちから愛されて育ったシュガーリアと、誰にも愛されず孤独をかこち続けるヨクサル。その半生は真逆であるはずなのに、ふたりの本質ともいえる芯の部分は、なぜか似ているようにも見える。そしてふたりが寄り添うことで生まれるのは新たな孤独。しかしその孤独はどこかあまく、まるで恋に似たような感情をもたらす――あるいはこれこそが恋、だったのかもしれない。互いの手を取ってしまえば、二度と離すことができなくなってしまう、そんな関係。

悪魔はヨクサルにさらなる孤独を与えるためにシュガーリアを求めた。シュガーリアは自身の目的のためにヨクサルを求めた。そしてその「求め」に応じたのは、その手をとったのは、まぎれもなくヨクサル本人だった――最初は拒んでいたはずなのに。ふたりが迎えた結末は、もしかしたらギブアンドテイクの結果にすぎないのかもしれない。それでもそれがきっとふたりの幸せであり、そして永遠に続く孤独の、その幕開けでもあるのだろう。

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