phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 感想


寛と康という2国と同時に戦うことになってしまった小玉。川を挟んでにらみ合いを続ける中、女性優位で有名な康から密使がやって来る。文林を倒し女帝として立つよう勧めてくる密使に小玉は激怒し、その首を刎ね戦端を開く理由としたのだった。一方その頃、後宮で司馬淑妃の不穏な動きを察知した薄充儀は、病床にある梅花の元を訪れ、詳細を報告。ほどなくして淑妃が犯した罪は後宮だけでなく皇帝の前にもさらされることとなるが、後宮の主である小玉が不在である以上、彼女を断罪することは未だできないでいた。そんな揺れる王宮にもたらされたのは、戦闘中に小玉が負傷したという知らせで……。

激動の中華風ファンタジーシリーズ、第7巻。ついに軍人皇后・小玉が他国との戦に赴くという展開に。

男性優位の寛と女性優位の康という対照的なふたつの国が手を組んで宸に攻め入るという状況。その背景にあるものはなかなか興味深いとはいえ、攻め込まれる側にとってはなんの理由にもならないのは当然。おそらく数も兵の練度もほぼ互角という状況の中、それでも小玉ならなんとかしてくれるに違いないし、実際そうなるんだろうな、と思っていた。簒奪を促す康の密使に対して怒りを見せる姿――文林を国の父、自分を母、そして臣民をその子になぞらえて軍勢を鼓舞あるいは煽動するというエピソードはまこと小玉らしい。皇帝に従いその手足になるとはいえ、それは思考を停止させただ臣従するのではなく、あくまでも自分の意志で彼に従うのだという決意。それはきっと彼女が皇后になった時から変わらないのだろう。文林と小玉、ふたりが互いに抱いている感情は一枚岩ではもちろんないし、一方通行な部分も確かにありはするものの、それでもその信頼は揺るがないという関係が素晴らしい。立后した時から彼女はいくつかのものを得はしたけれど、同時にたくさんのものを失ってきた。それはこの戦いでも同じ。それでも彼女は文林の剣となることを止めないのだろう。文林もそれを理解し受け入れてはいるものの、同時に彼女が彼女自身のために不利益を被ることだけは避けたいと考えていることが分かったので、この夫婦はきっと大丈夫だと思う。そう信じたい。

しかしそんなふたりに次々と立ちはだかる問題。小玉の怪我も気になるが、それ以上に恐ろしいのは司馬淑妃の行く末。彼女がしでかしたことはもちろん断罪されるべきというか死罪レベルのことなのだが、それを暴露し、実際は陰でそそのかしさえもしたのが、彼女の実の息子である鳳だった。けれど彼が小玉や、父親である文林を利するために動いたとも思えない。彼の思惑はいったいどこにあるのだろうか。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第六幕」

いとしい君に愛を乞う(オパール文庫)
宇奈月 香
プランタン出版
2018-02-05

ホテル王の娘として生まれた美緒だったが、両親の仲が冷え切ったまま父は死に、母はそんな父に似た美緒を憎んでいた。愛情に飢えていた美緒が初めて好きになったのは、お目付け役である板垣の友人・伊織。ふたりはたちまち恋に落ちるが、娘を自分の駒としたい母親によって、伊織がバイトをクビになったうえ奨学金を打ち切られそうになっているという事実を知った美緒は、一方的に伊織に別れを告げ、逃げるようにアメリカへと留学するのだった。しかし帰国し就職してから2年が経った頃、実業家として成功した伊織が美緒の前に現れ、美緒のことを金で買ったと宣言。母の会社の経営はこの数年ですっかり傾いており、伊織はその援助と引き換えに美緒との結婚を認めさせたのだという。しかし結婚後、償いの気持ちも込めて美緒がどんなに尽くしても、伊織は冷たい態度で彼女を詰るばかりで、ついには一方的に離婚を切り出すのだった。心のどこかでほっとしつつも伊織への愛情が冷め切らないことに苦悩する美緒だったが、その直後に事故に遭って大怪我を負ってしまう。しかも驚いて見舞いに来た伊織に対してだけ、なぜかまともにしゃべれなくなってしまったのだ。やがて従兄の征の援助もあり、伊織から逃げひっそりと新生活を始めた美緒だったが、なぜか伊織は彼女の居場所を突き止め、「お前が欲しい」と懇願してきて……。

お互いに好き合っているにも関わらず、不幸な勘違いが重なってすれ違い続ける夫婦の行方を描くラブロマンス。

この手のすれ違いは「ちゃんと言いたいことを言っておけばこんな問題は起きなかったのでは……?」のひとことに尽きるのだが、もちろんそう簡単に行くはずもなく。特に母親に抑圧され続けていたため身を引くしかなく、また生来の優しい性格のために伊織にどんな仕打ちをされても逆らうことができなかった美緒が、自分の感情をすべて胸の内に秘めてしまうのは仕方ないことで、だからこそ伊織相手にだけ失語症になってしまうというまさかの展開に。これだけでも可哀想なのに、伊織は伊織でこれまた美緒のことが好きすぎるけど口より先に手が出るタイプになってしまったからさあ大変。冒頭の再会シーンが強烈すぎただけに、次第に伊織がかつての心優しい青年に戻っていくというそのギャップに多少戸惑いつつも、結果としてはふたりがようやくわかりあえたのでよかったねということで。

しかし個人的に気になるのは美緒の従兄である征の存在。その美貌や肩書(元華族で超エリート)もあってモテモテなはずなのに特定の相手は作らず(告白されたら付き合いはするが続かないし自分から告白することは皆無)、昔から常に美緒のことを気にかける「博愛主義者」なのだが、実は美緒の見えないところであれこれ手をまわしているということも判明。しかしそれが美緒のためになっていることもあれば、彼女を結果的に傷つけていたということもあるので、ただの溺愛ではなさそうな雰囲気。彼女が幸せになってくれればそれでいい、ということだろうが、どこか歪みすら見えるその愛情表現が気になって仕方ないので、難しいだろうが彼にも美緒以外の相手と幸せになってほしいなと思ったり。まあそうなるとその相手が大変なことになりそうだけど……(笑)。

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)
古橋 秀之
集英社
2018-02-02

家事全般を担う旧式の自動家政婦が寝物語に語るのは、「すこしふしぎ」ないくつものお話だった――例えば宇宙船の前に現れた死神の話。培養された受精卵を人工子宮ごと格納した「まだ生まれていない兵士」たちの戦争の話。目に付く星を喰らっては知識として自己の中に収めていく究極の百科事典と、ポケットの中に納まるポータブル百科事典との対決の話。見た目も性格もすべてが好ましい青年が、恋人と結婚するにあたり「身の丈ひとつ」になろうと借りていたものを皆に返していくお話……これらはすべて、百万光年のちょっと先、今よりほんの3秒むかしの物語。

2005〜2011年にかけて「SF Japan」に掲載されていたSFショートショートの書籍化。書き下ろしを含む全48話が収録されている。

「百万光年のちょっと先、今よりほんの3秒むかし」という出だしで始まる、すこしふしぎな物語の数々。SF的な設定に満ちているものもあれば、ラブロマンスあり、おとぎ話ありといった、バラエティに富んだ内容となっている。個人的に気に入ったのは、胎児を兵隊とする戦争で起きた奇蹟(?)を描く「卵を割らなきゃオムレツは」、タイトル通りその身ひとつで恋人のもとへ向かう「身の丈ひとつで」、10億個の恒星を管理する男性のもとにやってきた少女の正体が驚きの「十億と七つの星」、自分以外の人間の存在が許せない高慢なお姫様の顛末を描く「首切り姫」、パンがバターを塗った面を下にして落ちることからまさかのアイディアが生まれる「パンを踏んで空を飛んだ娘」の5編。どれもこれもユーモアと奇想に満ちていて、最後まで楽しく読めた。


大学受験のための勉強に励むタカシは、日々の生活が――受験勉強も含め――ルーティンワークであるということに気付いていた。そしてその日々の中で、なんとなく父を避けていることも。なるべく顔を合わせないように気をつけて生活しつつも、通学はなぜか父が車で送ってくれる。そのちぐはぐさもまたルーティンとなっている。しかしいつの間にそうなったのか、タカシには思い出せないでいた。大学進学を機に親元を離れることになるまで――職場から帰ってくる父の車の音が聞こえなくなるまでは……。(「父の足音篇」)

自動車メーカー「スバル」のTVCMとして放送されているショートフィルム「Your story with」の公式ノベライズ。

まず最初に思ったのは「なぜ秋田禎信がこれを手掛けたのか」というところなのだが、まあそれはさておき……帯に「ネットで泣けると話題!」とあるように、どれも「いい話」ではある。父と息子の微妙な関係を描く「父の足音篇」、仕事で会社が傾くほどのミスをやらかした会社員が「誠意」について考える「以心伝心篇」、写真家になる夢を諦めた男が、その夢をかなえた友人と再会する「路篇」、遠方の支社への転勤が決まり、新しい職場に戸惑う父親の姿を描く「新天地篇」、そして遠距離恋愛をしていた彼女との結婚を決意する男性が、彼女に会いに行くまでを描く「助手席篇」。

私はこのCMを見たことはないのだが、おそらく内容は最後まできちんと決まっており、それに沿って書かれているはず。しかし著者が著者なだけに、突然誰かが死んだり、何かに失敗したり、突拍子もないことを言い出すキャラが出てくるのではないかとひやひやさせられた……が、まあそんなことはないので安心して読んでほしいと思う(笑)。どれもストレートにいい話なので。

ディレイ・エフェクト
宮内 悠介
文藝春秋
2018-02-07

ある年の元日から東京じゅうで起きた怪現象は「ディレイ・エフェクト」と名付けられて今に至る。1944年1月からの――つまり太平洋戦争下の東京の様子が現実世界に重なって見えるようになったのだ。原因はもちろん不明。婿養子である「わたし」と妻子が住む家にも、妻の曾祖父一家が住んでいた当時の家が重なり合っており、なんとも奇妙な「同居」状況になっていた。翌年にはこの一帯が空襲に襲われることがわかっているため、妻は8歳の娘を連れて疎開することを望んでいたが、「わたし」は密かに、教育の一環としてその様子を見せてやりたいと考えていて……。

第158回芥川賞候補作となった表題作を含む短編集。「たべるのがおそい vol.4」掲載の表題作に加え、「オール讀物」に発表された「空蝉」(「ナイト・クラウン・クイーン、そしてキング」改題)と「阿呆神社」が収録されている。

表題作の主人公は、奇しくもこの怪現象の通称の元ネタとなった「ディレイ」を専門としており、警察にほぼ取り調べのような聞き取り調査を受けたりもするのだが、戦時下の日本を追体験しているがゆえに「特高警察による尋問」かと一瞬考えたりもする。そんな感じで、「ディレイ」となった過去の記憶は、主人公たちの生活も精神もなにもかもを侵食していく。

目の前で繰り広げられるのが戦時下の、しかも1944年の情景であるということはつまり、この先には敗戦とこれにまつわる惨状しかないということ。娘への影響をめぐって妻と対立する「わたし」だが、最も懸念していた空襲の幻影の中で「わたし」はようやくすべてを自覚する。重なって見えていたのは過去の情景だけではなく、自分の心の在り方そのものだったのかもしれない。その直後に起きたあらたな「現象」は、予めそうなるよう誰かが決めていたことなのか、それとも「わたし」の自覚に起因するものなのか、まったくわからない。しかし後者であればいいのに、と願ってしまう。あるべきところに、あるべきものを戻すために。

併録の「空蝉」は、「ナイト・クラウン・クイーン、そしてキング」というインディーバンドに起きた事件の真相を追う、ドキュメンタリー調の短編。カリスマ性と破滅的な性格を併せ持っていた六ノ宮の死に隠された真実もまた、「あるべきところへの帰結」という点では表題作と似ているような印象がある。ただしこちらは人為的な原因が明かされてはいるが――そしてその行いが、結果はともかくとして正しいのかどうかは判断しがたいものであろうが。

「阿呆神社」の方は、とある神社の「神様」らしき存在の視点から語られた、神社で起きた珍騒動を描く短編。とはいえこの存在が、彼のもとにやって来る人々を救っているかというとそうではない。まさに「なるようになる」あるいは「なるようにしかならない」という現実のどうしようもなさが突き付けられているようで、くすりと笑いつつも最終的には神妙な気持ちにさせられた。


詠見の手がけた六道の新作が「読みたい本大賞」を受賞した。とはいえ妖怪であり、見た目10代の六道が受賞式に出られるはずもなく、詠見がスピーチを代読することに。過去作を売り出すチャンスということで張り切る詠見だったが、話題性を見越した上層部が、メディアミックスありきの企画モノ――つまり六道の作風とは真反対の作品を書かせるよう要請してくるのだった。しぶしぶ六道の家に向かう詠見は、その道中である人気作家・踊場漂吉に出くわしてしまう。先日の受賞式で詠見と知り合ったばかりの踊場は、顔出しをしない六道の正体に興味津々で……。

同族を食らうことで日々の糧と小説のネタを得る妖怪作家と、そんな彼の担当編集者が織りなす、オカルト&お仕事小説、第2弾。

詠見でなくとも、2時間ドラマのようなエンタメ性の高い作品なんて六道先生に書けるはずないのでは……と思ってしまうのは仕方ないような気もするが、一方で依頼してみると意外とあっさり承諾されたので、さらに肩透かしを食らったのは私だけではないはず(笑)。とはいえそんな中で六道の様子がどうやらおかしいことに気付く詠見。「髪切り」という妖怪によく似たネット発の怪談「カミキさん」の存在と、六道に興味を持つ人気作家・踊場の登場が、六道を追い詰めていくという展開に。「カミキさん」の出自にはなかなか驚かされるものがあったが、それを自分の責任で仕留めようとする六道に対し、編集者として手伝いたいという詠見との絆が深まったようでなにより、ということで。


◇前巻→「六道先生の原稿は順調に遅れています」


朱西が鳳家当主となった――それはつまり、皇帝である槌瑤氾対することと同義だった。その影響で理美の立后式は延期。槌瑤汎韻犬、理美もまた朱西の真意が読めず、動揺を隠せないでいた。そんな中、「鄙の仁者」として人気の高い県吏・関朝雲が宮廷に現れ、向こう1年の徴税を拒否すると宣言。事前に有力商人・馬維順から地方県吏の専横の噂を聞かされていた槌瑤呂發舛蹐麋身し朝雲を捕らえようとするが、それを押しとどめたのは朱西だった。彼は槌瑤琉娶に真っ向から反対する姿勢を見せ、朝雲の身柄を一時預かることで事態をいったん収拾させるのだった……。

食で人を繋ぐ中華風ファンタジー、混乱と動揺の6巻。

朱西が鳳家の人間となったことで、理美以上にショックを受けたのは槌堯最も信頼していた臣下の裏切りともいえる行為――さらには槌瑤后にと望む理美までも望まれてはもう何を信じたらいいか、という槌瑤竜せちもわかる。しかしそのおかげで見えてきたものがあったのも確か。今の槌瑤砲肋翕瓦簀賣蕕世韻任覆、理美や四夫人もいる。そのことに気付かされた槌瑤、水面下で暗躍する朱西に真っ向からぶつかり、さらには朝雲を説き伏せるまでに成長したというのはなんだか感無量。

とはいえやはり気になるのは朱西の動向と真意。理美もここにきてようやく朱西と袂を分かつ決意を固めたようだが、朱西の言葉をどこまで額面通り取っていいのかどうかには、やはりまだまだ疑問が残る。鳳家を完全掌握しようとしているというのはわかるのだが、その先にあるのが本当に皇帝位と理美の奪取なのか、それとも別の理由があるのか……敵に回せば恐ろしいという事実を今巻で目の当たりにさせられただけに、まだまだ彼の動向からは目が離せない。


◇前巻→「一華後宮料理帖 第五品」


生後6か月にしてアイドルオタクとなり、高校進学を機に本格的にアイドルを目指し始めた古月みか。しかしみかのアイドル好きに費やす金額が大きくなりすぎて生活は破綻し、両親は離婚。さらに高校を卒業し、単身上京して入った事務所は半年で倒産してしまい、貧困と孤独、見えない未来にみかはただあえいでいた。そんな中、高校時代の親友である新園眞織がみかの前に現れる。眞織に売れっ子アイドルになっていると嘘をついていたみかだったが、眞織は事務所倒産の事実を知り、みかを助けるべくやってきたのだという。しかし実家が裕福な眞織がみかに金銭的な援助を申し出たこと、さらにその場面を両親の離婚により久しく会っていなかった妹・みやに見られてしまったことで、みかは絶望のあまり投身自殺をはかり……。(「最後にして最初のアイドル」)

第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞および、第48回星雲賞(短編小説部門)を受賞した作者のデビュー作を含む短編集。

表題作に付けられた「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」というコピーはいったい……と思いつつ読み進めていったのだが、最後まで読むと確かにそのとおりだということがよくわかる(笑)。ポップかつキュートな美少女アイドルの表紙からは思いもよらない展開が繰り広げられるので、とりあえず騙されたと思って読んでほしい、としか言えない作品。しかし大丈夫、古月みかは完璧に、そして完膚なきまでにアイドルだった。「会いに行けるアイドル」から「会いに来るアイドル」に、そしてさらにその先へとたゆまぬ努力による進化を続けるみかの姿に読者はきっと感動し、そして自分に課せられた使命に気付かされるに違いない。

なお、併録の「エヴォリューションがーるず」はソーシャルゲーム(け○のフレンズ……?)、書き下ろしの「暗黒声優」は声優がモチーフ……のはずだが、やはり表題作同様、そのモチーフからは思いも寄らぬところに着地点が設定されている。デビュー直後にこれなのだから、今後この作者はどこへ行ってしまうのだろうか。気になる。


2.5次元舞台「オメガスマッシュ」の初日公演を観に行ったのは、この作品のオーディションに落ちた青年・麦倉。同じ事務所に所属する売れっ子役者・水口の演技を見上げていた麦倉だったが、クライマックス直前、ステージが暗転したたった15秒の間に、キャストのひとり・柳がステージ上から忽然と消えてしまうのだった。主役である水口の機転でなんとかこの日の公演は終えたものの、やはり柳はどこにもおらず、連絡も取れなくなってしまう。ことのあらましを聞いた引きこもりの友人・鹿間は、柳の行方を追おうとする麦倉にいくつかの調査を命じて……。

「小説屋sari-sari」にて2016〜2017年にかけて発表されていた作品が書籍化。2.5次元舞台の世界で、売れない役者である麦倉が、その裏側で起きた事件を解決してゆく青春ミステリ連作。

漫画やアニメ、ゲームといった2次元媒体の作品を原作とする「2.5次元舞台」の世界で、役者を目指すもオーディションに落ちてばかりの麦倉。しかしなぜか舞台にまつわる事件に遭遇してしまい、そのたびに引きこもりの友人・鹿間の助言を得て謎を解いていくことになる。ステージ上で役者仲間が消えた理由、オーディションと称して集められた雪の山荘で役者たちが次々と消えていく謎、そして麦倉の過去――演劇にのめり込んでいた兄の自殺――にまつわる脚本「猫の首」と、役者たちが次々と負傷する劇に秘められた真相。そしてその謎に迫る中で麦倉が目の当たりにするのは、「演劇」というものにとらわれた人々の苦悩だった。

麦倉自身もまた役者を志してはいるものの、オーディションには落ちるばかりで、なぜ――あるいはなんのために役者を目指していたのかを見失いかけている状態。ライバルである水口が2.5次元舞台の世界でスター役者となっていくのを苦々しく見つめる一方、どこかで2.5次元舞台という演劇の形態そのものを軽侮しているかのようなふるまいを見せる麦倉。しかしそれはおそらく負け惜しみのようなもので、いくつかの事件を経る中で麦倉は演劇に対する自分の想いを見つめ直すことに。「舞台には魔物が棲んでいる」とはよく言ったもので、結局のところ麦倉もまたその魔物に囚われていることを自覚できたのだろう。そしてその「自覚」は、麦倉いわく「最近はわかりやすい演技ばかり」な水口の意識をもきっと変えていったに違いない。「やりたいこと」を見出して前へと歩き出した麦倉はきっといい役者になるだろうと、そう思う。

翼の帰る処 番外編 ―君に捧ぐ、花の冠―
妹尾 ゆふ子
幻冬舎コミックス
2018-01-25

ヤエトを頼り《黒狼公》領に滞在していたタナーギンに遭遇した皇妹は、《白羊公》の縁者である彼の存在に違和感を得て一計を講じることに――すなわち、まず本人が希望している金品を与え、なおかつスーリヤを彼の元に送り込むのだった。身の回りの世話をすると申し出るスーリヤを追い返そうとするタナーギンだったが、彼女を送り込んできたのが皇妹であるため無碍にもできず、翌日からは条件付きでしぶしぶ受け入れることに。それもそのはず、彼は皇帝が追放したセンヴェーラ妃を匿っていたのだから……。(「君に捧ぐ、花の冠」)

先日完結したファンタジー長編「翼の帰る処」の番外編。とはいっても本編のその後ではなく、あくまでも本編中に、ヤエトの知りえぬところで起きていたエピソードを描く短編集となっている。

やはり一番読み応えがあるのは、サブタイトルにもなっている「君に捧ぐ、花の冠」と、その後日談である「黄昏の底の国」。ヤエトが自失状態にあるさなかに起きた出来事を、前者はタナーギン・スーリヤ・エイギルの視点から、後者は皇妹の視点から描いていく。ひとが思いもよらぬ理由で心を壊し、あるいは簡単に命を失うような世界で、それをまっすぐに見つめるというのはどんなにか難しいことだろうか。タナーギンは、あるいはスーリヤは実際にそんな絶望を見て、しかしそれでも前を向く力を得ることができた。人を絶望に至らしめるのは人だが、そんな人を癒し支えるのもまた、人なのだろう。

一方でそんな素振りを一切見せない皇妹だが、スーリヤが彼女と心を繋げたことで知った、その裡に渦巻く激情というのはいかほどのものだっただろうか。また、初めて彼女を視点に据えることで見えてきたものもあった。すべてを超越し、まるでなにもかもをお見通しといった顔でその力を振るう皇妹だが、しかしそれは力ゆえにそう振る舞わざるを――あるいはそんな役回りを演じざるを――得なかったということなのかもしれない(まあもちろん本人が好んでやっている部分は多分にあるだろうが)。いつか自分が向かう場所を「黄昏の底」と称する皇妹の姿が、彼女という存在の本質を物語っているよう気がした。


◇前巻→「翼の帰る処5−蒼穹の果てへ−(下)」


かつての豪商・藤沢家が所有していた品々を展示している「藤沢本家博物館」で改装工事が行われることになり、その下見にやってきた春菜。しかし現場にはパトカーがやってきており工事は中断。なんでもその前夜、作業していた職人が振袖を首に巻き付けた状態で死んでいたという。さらにはその少し前にも、帯締めを握ったまま死んでいた職人がいたというのだ。展示品ではないそれらの品々がどこにあったのかと意見を求められた春菜は、立ち入り禁止となっている開かずの蔵があることを思い出して見に行くことに。すると同行していた職人の持っていたお守りが音を立てて裂けてしまうのだった。かつてこの蔵に仙龍の父が関わっていたことを知った春菜は、仙龍に相談を持ち掛ける。そこで判明したのは、仙龍の父である先代ですら祓えなかった凶悪な存在が蔵に封じられているという事実で……。

広告代理店勤務の春菜と、因縁物件専門の「曳き屋」である仙龍が、怨念絡みつく建物に次々と遭遇してはそれを祓っていくオカルトミステリシリーズ第3弾。今回は仙龍の父にも太刀打ちできなかった「死の花嫁」と対峙することに。

春菜が「サニワ」と呼ばれそういったモノを引き寄せやすい性質持ちだというのはわかっていたが、その春菜の天敵である「パグ男」こと長坂もまたある意味そういう才能(?)に長けているのかどうか……今回の事件の発端は(正確には「も」か?)、まさにその長坂だというのだからたまらない。男を取り殺す悪霊となった女性の、その生前に起きた出来事は凄惨としか言いようがないものだったが、そのために仙龍がまたしても命を懸けるという展開に。本人は父親がやり残した仕事であること、そしてそれ以前にそういう性分なせいか、自身の身の危険を顧みず今回の案件にも積極的に関わろうとするが、仙龍に絶賛片想い中(ただしツンデレ属性発動中につき仙龍本人に伝わっているかどうかは不明・笑)の春菜は気が気ではない。さらに今回、仙龍と謎の和服美女とのツーショットを目撃してしまったのだから心中穏やかでないのは仕方ないというかなんというか。

そんな春菜の揺れる恋心を、しかし嘲笑うかのように現れ、仙龍をターゲットとして襲い掛かる「死の花嫁」。ふたりとも一時はかなり危ないことになったものの、結論としては事なきを得てほっとひと安心……なのだが、ところでそろそろ仙龍は春菜の気持ちに気付いたりはしないのだろうか? あるいは自分の生業のことがあるので、気付いていて無視しているのかもしれないが……そのあたりが気になって仕方ない。


◇前巻→「首洗い滝 よろず建物因縁帳」


槐帝国の公主であるにも関わらず、とある事情でおんぼろ離宮に暮らし続ける雛花。そんな彼女の夢は、皇帝に宿る神と対になる女神「女媧」をその身に降ろす「天后」となり、長年想いを寄せている幼馴染・志紅の助けとなることだった。しかしある時、それまで彼女を応援してくれていたはずの志紅が、急にその夢を全否定。怒って飛び出した雛花は魔物に襲われてしまうが、そこで「天后」としての力を発動してしまうのだった。後日、その祝いと称して志紅、そして現皇帝である異母兄・黒煉との宴席に参加した雛花。しかしそこで志紅は黒煉を殺して帝位を簒奪したうえ、雛花を後宮に閉じ込めて自身の妻にすると宣言し……。

「(仮)花嫁」シリーズ作者の新作は中華風ファンタジー。創世神の力を振るうことのできる「皇帝」と「天后」をめぐり、簒奪帝となった幼馴染とそれに抗おうとするヒロインの攻防を描くラブコメ(?)ということで。

ヒロインが片想い相手に兄を殺された挙句自分も軟禁され……と、出だしも展開もなかなかハードな本作。しかし帯には「後宮脱出ラブコメ」「安心してください。ラブコメです!!!」などと書かれているのでいったいどういうこと?……と思いつつ読んだところ、ラブコメとシリアスの配分は前シリーズと同じくらい(つまり半々といったところ)なのでひと安心。自虐癖が半端ないものの向上心も人一倍な雛花と、ヤンデレと優しいお兄さんを行ったり来たりする志紅との掛け合いが楽しかったり、あるいはドキリとさせられたり。

最後の最後で志紅の思惑と簒奪の真相が描かれるのだが、このことについて雛花はまだすべてを知らぬまま。人ならざる超常の存在にひとりで抗おうとする志紅の決意は悲壮そのものだが、雛花が彼のためになげうってきたものを考えれば、志紅が彼女を犠牲にすることを厭うのも仕方のないこと。けれどここはやはり、ふたりで手に手を取って立ち向かってほしいと思う。例えば雛花が女媧を召喚したときに得た違和感が何かの鍵になってくれればいいのだが。


就職活動に励む正義の前に現れたのは、実の父親である染野だった。家庭内暴力が元で離婚し、慰謝料もろくに払わず行方をくらましていた染野は、母親の死により家も失い金も尽きたところ、たまたま正義に電話をかけている同級生に出くわし、そこから正義の立ち寄りそうな場所を探り当てたのだという。父親なのだから一緒に暮らして当たり前という自分勝手な言い分、そしてなにより母や自分へのかつての仕打ちが許せない正義はとにかく追い払うが、相手は正義のアパートや携帯の電話番号まで突き止めて付きまといを繰り返すように。アパートの大家や大学の同級生・教授たちにも接触していることを知った正義は、母だけでなくリチャードにも迷惑がかかると考え、バイトを辞め自らも姿を消そうと試みるが……。

美貌の宝石商と就活中のバイト生が宝石にまつわる謎を解き明かすジュエルミステリシリーズ6巻。前巻まではリチャードの過去や家族関係についての問題を解決するという流れだったが、今巻では正義の過去にまつわる問題が浮上するという展開に。

前半はこれまで通りお客様、そして正義の片想い相手である谷本さんが抱える問題をふたりが解決していくという流れなのだが、中盤で正義の実父・染野が現れてからは雲行きが怪しくなる。「言葉が通じない人間」のお手本のような染野は、自分がこれまでしてきたことに対していいとか悪い以前にそもそもなんとも思っておらず、なおかつ自分が一番かわいいタイプの人間なのだろう。彼の台詞は当事者である正義でなくとも腹立たしくなるようなものばかりで、そんな言葉を聞かされては正義がまともに思考できなくなってしまうのも無理からぬ話。制度上ふたりは「他人」であり、または「元家族」であるからこそなおさら。

しかし誰にも頼らず姿を消そうとしていた正義の動きに、やはりちゃんと気付いたのはリチャード。まあそれを知った方法(というかそれをもたらした人物)はアレだが(笑)、そこでリチャードがもらした本音がなんとも刺さる。これまでの事件を通して距離を縮めていっていたはずのふたりなのに、心はどこかで隔たっていた――正義の方が明らかに線引きをしていたというリチャードの訴えは、思い起こしてみれば確かに、とうなずけるもの。あれだけリチャードのために心を砕き行動に移した正義が、それでもどこかで相手が自分には近付けないよう線を引いていた――相手の方に踏み込みはするが、自分の方には踏み込ませないようにしていたという事実に傷ついたのはリチャードだろうが、しかしそこで彼が「傷つく」という心境に至ったのは、彼が正義に踏み込まれることをよしとしているからこそ。その美貌のせいもあって、これまで他者と深い関係をほとんど持ってこなかったであろうリチャードが、正義の存在をここまで認めていたということがわかるエピソードになっていて、かなりぐっとくるものが。

そんなこんなで絆が深まったふたりだが、実は今巻で第1部完結。続刊はあるようで、今巻の最初と最後に置かれたエピソードがそれにつながるのかもしれない。なのでとにかく第2部の再会をお待ちしております、ということで。


◇前巻→「宝石商リチャード氏の謎鑑定 祝福のペリドット」


両親を亡くし、叔父であるバウンゼン伯爵に引き取られることになった13歳の少女カティルーナは、叔父と共に訪れた獣人貴族ベアウルフ侯爵家で、錯乱状態に陥っていた嫡男・レオルドに《求婚痣》を付けられてしまう。相手が本当に結婚するまで3年は消えないという痣を付けられ怒り心頭のカティルーナに対し、謝罪にやってきたレオルドはおおよそ悪いとも思っていない態度で、ふたりの関係は最悪としか言いようのない状態。幸いカティルーナは少年と見まがう外見のうえ、本人も男名である「カティ」で通していたため、ひとまずは男であると偽って3年間やり過ごそうと決めるのだった。しかしその後、カティが志願して勤めることになった治安部隊は、レオルドが長を務める王都警備部隊の直属部隊。その後も顔を合わせては言い争いが絶えない(あるいは無視)という関係のまま2年と数か月が経過。しかしまもなく仮婚約者の立場から解放されるという時期になった頃から、なぜかレオルドがカティに対して態度を軟化させ、やたらと接近するようになってきて……。

第5回New-Generationアイリス少女小説大賞・銅賞受賞作家のデビュー作。男装少女と獣人青年による、婚約(仮)から始まる異種族間恋愛ファンタジー。

人間だけでなく「獣人」と呼ばれる種族が登場する本作。人間よりも強い力を持ちながらも共存している獣人には、人間とは異なる制度というか性質がもちろんあって、そのひとつがカティも被害(?)に遭った《求婚痣》と呼ばれるもの。対象となる相手は何人いても構わないが、相性や好みなどが合う相手(性別問わず)に付ける魔術的な紋様で、付けた側か付けられた側のいずれかが結婚するか、または3年程度経てば自動的に消えるものだという。うっかり事故――とカティは思っているが、レオルドにしてみれば本能的な行動だったに違いない――で《求婚痣》を付けられて迷惑千万としか思っていなかったカティだったが、なぜか突然レオルドが和解を申し出てきたり、やたらと構いにきたり、しかもそのたびお菓子を持ってくるようになったりと態度を一変させたところからが面白い展開に。

実はカティより12歳も年上なレオルドだが、カティに女癖の悪さを指摘されて以来遊ぶのを止めたし(しかもそれはまだカティを構い倒すより前の話)、カティが周囲の仲間に笑顔を見せることに苛立つし、仕事が忙しくカティに会えなくなると面白いくらいに不機嫌になるし、獣人は頭部に触られるのを嫌う性質のはずなのにカティに頭を撫でられて喜んだあげくその後も所かまわず自分の頭を撫でさせるし……と、28歳男性(しかも最強獣人)とは思えない振る舞いのオンパレード。しかもそれらを行っている間、カティは男であるという認識のままなのだから恐ろしい。とはいっても本人は男色のつもりはなく、ただ(名目上は)友人として仲良くなりたい一心だという、想像だにしなかったピュアさ加減にはもういったいどうしたらいいか。

とはいえ最後の最後でカティが女であることに本能的に気付き、そこから流れるように再び婚約者としての約束を取り付けるという手際はさすがオトナの男性(?)、時折なかなかきわどい展開になったりもするので、とりあえずカティ逃げてー!ということで(笑)。


辺境伯ヒューバードの婚約者となったメリッサだったが、両親、そして国にもまだ正式には認められていない状態。そこでふたりは王都へ向かうことにするのだが、一番の問題はメリッサを母と慕う青を置いていかざるを得ないことだった。なんとか説得に成功したメリッサたちは王都へと向かうことになるが、ふたりを出迎えた王弟オスカーから、ヒューバードの母の生家である隣国キヌートのフェザーストン伯爵家の人間が、外交官としてやってきていることを聞かされる。彼らの目的はすべての竜を従えることのできるメリッサの存在そのもの。メリッサとフェザーストン伯爵家との縁談話を、国家間の問題に持ち込もうとしていたのだ。しかもそんな折、青が辺境を離れ、メリッサを追って王都へと勝手にやってきて……。

竜好き侍女が竜を巡る騒動に巻き込まれるシリーズ3巻。今回は婚約成立に暗雲が!?&青の独り立ち!?の2本立てということで。

今回の舞台は王都イヴァルト。竜の存在を慮りつつ、ヒューバードとも良好な関係を築いていたメリッサ。あとは許可を得るだけ……と思っていたら、青の代理親という立場ゆえに彼女の結婚に政治が絡みそうになってしまったり、独り立ちを試みる青に振り回されたりで、なかなかゆっくりする暇もないという状況に。無条件に竜に好かれる唯一の存在という類稀なるスペックを持ってはいるものの、結局のところメリッサはただの平民の娘。不安に押しつぶされそうになるという展開もあったものの、婚約者であるヒューバードや、王弟であるオスカーの助力もあってなんとか問題もクリア。彼女の周りに力を持つ味方が多くてよかったね、ということで。

……とまあこういった問題が起きっぱなしなので、なかなかふたりきりになれないメリッサとヒューバード。特にメリッサは常に青の面倒を見る必要があるので、ヒューバードにとっての最大の敵は、メリッサ父ではなく青なのかもしれない(笑)。とはいえ青もそろそろ名実ともに独り立ちしそうな感じだし、婚約も認められたしで、続刊があればふたりの関係の変化にも期待したい。


◇前巻→「竜騎士のお気に入り2 侍女はねがいを実現中」

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