phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 感想



矢樹純「不知火判事の比類なき被告人質問」
タイトルの通り「比類なき被告人質問」をすることで有名な若き裁判官・不知火春希を、彼が担当する事件のルポを手掛けるフリーライター・和花の視点から描く連作短編集。ニートの娘が母親を殺した事件、飛び降り自殺を図った人物が他人を巻き込み大怪我を負わせた事件、不倫の末の殺人および放火事件、ふたつの奇妙な強殺事件、そして和花本人が証人として裁判に参加することになった殺人事件……どのエピソードでも犯人にはやむにやまれぬ事情があり、がために事件を引き起こしてしまったわけだが、不知火はその「やむにやまれぬ事情」のさらに裏に隠されている、どうしようもない事情まで暴き出してしまう。そのため、事件の再捜査が必要になることもしばしばなのだ。そんな彼の鋭い推理力と、普段のちょっとおっちょこちょいな面のギャップがまたいい。


どこの家にも怖いものはいる (中公文庫)
三津田信三
中央公論新社
2017-07-28


三津田信三「どこの家にも怖いものはいる」
著者と同じ名前の作家「三津田信三」が、同じ怪談好きとして意気投合した編集者・三間坂と共に、ある怪談について調べていく「幽霊屋敷」シリーズ第1弾。三間坂が最初に持ち込んできたのはふたつの怪談だった――ひとつめは念願のマイホームで起きた異変を描く「向こうから来る」、そしてもうひとつは「割れ女」という怪異に襲われ、奇妙な屋敷に迷い込んだ少年の体験談「異次元屋敷」。最終的に5本集まった屋敷の怪談は、舞台となる場所や時代、状況は異なるものの、なんとなく似た「何か」があった。これらの根底にあるモノは同じなのか、そもそもそれはいったいなんなのか――ということで、ふたりの会話パートと、彼らが読んだ怪談5本によって構成される本作。怪談を読み進めるうちに、ふたりもその怪異に「感染」したかのような状況に陥るなど、じわじわと迫りくる恐怖がなんとも。三津田はこの怪異に危険性に気付き、最終的には追及・言及を避けるわけだが、三間坂は果たして……。


六色の蛹 サーチライトと誘蛾灯
櫻田 智也
東京創元社
2024-05-31


櫻田智也「六色の蛹」
昆虫オタクの青年・魞沢泉(えりさわ・せん)が主人公のミステリ連作集、第3弾。今回はタイトルに「六色」とある通り、虫だけではなく色にもまつわる6本の短編が収録されている(うち3本は書き下ろし)。山中で射殺された猟師をめぐる「白が揺れた」と、その続編となる過去の誤射事件の真相を泉が暴いてしまう「黄色い山」。ある花屋で起きたささやかなすれ違いを泉が解き明かす「赤の追憶」と、その後日談となる「緑の再会」……など、今回は連作としての結びつきが強い作品が収録されており、シリーズものとしてはますます楽しめる構成に。しかし泉が導き出す「真実」は、その当事者たちを救うばかりではない。もちろん彼自身もそのことに気付いているのだが、結局はいつも「解決」してしまう。だからこそ、「緑の再会」のラストで泣き出してしまった泉の姿に「よかったね」と声をかけたくなってしまった。

【前巻:蝉かえる】


ノーメイク鑑定士
石田夏穂
中央公論新社
2026-03-24


石田夏穂「ノーメイク鑑定士」
2024〜2026年に発表された2本に、書き下ろし2本を加えた短編集。今回も社会人たちのちょっとズレた悲喜こもごもが描かれているのだが、やはり個人的に一番気になったのは、表題作の「ノーメイク鑑定士」。塗料メーカーに営業職として勤めている中村は、上司からあることを命じられる。それはなんと「同僚の谷本と原田が化粧をしているかどうか確認し、ノーメイクであれば今後は化粧をするよう伝える」というものだった。取引先から苦情が入ったとのことだが、それを聞かされた中村は内心で焦りを隠せない。なぜなら彼女自身がノーメイク(濃い目の顔立ちなのでバレていないらしい)だったのだから……!というまさかの展開に。自分のことを棚に上げながら同僚にそんなことを聞かざるを得なくなる悲哀……というのももちろんあるが、それ以上に背後からにじみ出てくるのは「なぜ女が化粧をすることが当たり前とみなされ、それを(化粧などいっさいしない)男からジャッジされなければならないのか」という点。こう書くともはや怒りしかわいてこないのだが、一方でここまで悪びれることなく言われてしまうと逆に肩透かしを食らわされた感もあるし、なにより彼らがそう命じながらも、部下がメイクしているかどうかわかっていないという点にもおかしみを感じてくる。他の作品もそうだったが、「会社」という社会の中で当たり前とされているあれこれが、実はそうではないのだと気づかされる、そんな作品集。


燃える氷華 (光文社文庫)
斎堂 琴湖
光文社
2026-03-11


斎堂琴湖「燃える氷華」
第27回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の文庫化。主人公の蝶野未希は17年前に息子を亡くし、それ以来現場一筋の刑事として走り続けてきた。そんなある時、大宮駅前で車の爆発炎上事件に遭遇した未希。その被害者が、かつて息子の葬儀を担当した三上という男であることを知る。さらにその数日後、三上の同僚だった男が、同じく大宮駅で刺殺される。実は未希の息子の事件は、現在も未解決のまま。今回の事件がなんらかの手掛かりになるのではと考えた未希は、過去と現在、ふたつの事件を追い始める。最初は偶然では?と思ってしまったりもしたが、次第に周囲の人物がどんどん怪しくなってきて、最後の最後まで目が離せない展開。特に未希を取り巻く3人の男たち――別居中の夫・隼人、その隼人および未希とは同期で、現在は未希の良き相棒・宇月、そして今回の事件の被害者たちが運営していた葬儀社のバイトで、なぜか未希になついて(?)つきまとう大学生・ハルーーが本当に未希にとっての味方なのかどうか二転三転するというのも面白かった。

激流上 〈新装版〉 (徳間文庫)
柴田よしき
徳間書店
2025-11-11


激流下 〈新装版〉 (徳間文庫)
柴田よしき
徳間書店
2025-11-11


柴田よしき「激流(上)(下)」
ある1件のメールが過去の過ちを呼び覚まし、そして人生を狂わせていくサスペンス長編。中学校の修学旅行のさなかに失踪した少女、小野寺冬葉。同じ班で一緒に行動していながら、彼女が姿を消したことに気づけなかった同級生たち6人は、後悔を抱えつつもそれぞれの道を歩んでいた。それから約20年が経った頃、歌手兼作家の美弥と、専業主婦の貴子のもとにあるメールが届く――それは失踪した冬葉からのメッセージだった。冬葉は生きているのか、そしてこのメールは何を意味するのか。ふたりはそれぞれ当時のメンバーと連絡をとり、真相を追おうとする。文芸編集者の圭子、刑事の耕司、サラリーマンの豊、そして現在は音信不通となっている悠樹……同じ班だったとはいっても全員が仲良しだったわけではなく、その中でもいろいろと複雑だった人間関係。さらに20年も経てばみな大なり小なりプライベートでも問題を抱えているため、冬葉のメッセージ以降に彼女たちに起きた様々な事件が、冬葉の問題に関係しているのかどうか、その時点でわからないことだらけ。そのうえ、それぞれに持っている情報が異なるし、それを全員に共有しているわけでもないし(特に刑事の耕司)で、事態は混迷を深めるばかり。そもそもあのメールは、なぜ6人のうちの2人にしか届かなかったのか、という問題もある――美弥も貴子も、冬葉と特に仲が良かったわけではないのだから。だからこそ、最後の最後で明かされる真相には驚くばかり。結局ところ、本当に「冬葉」が彼女たちを呼んでいたのかもしれないと、そうも思わされる。




櫻田智也「サーチライトと誘蛾灯」
昆虫オタクの青年・魞沢泉(えりさわ・せん)が、昆虫目当てで訪れる先で様々な事件を解決していくミステリ連作集、第1弾。なお本作には5本の短編が収録されているが、このうち表題作は第10回ミステリーズ!新人賞受賞作となっている。ある時は夜の公園で見回りをする老人の前に、ある時は山登り中の女性の前に、またある時は虫の名を冠した隠れ家的バーに……全国津々浦々、虫のいるところ、あるいは虫にまつわる場所に現れるのが主人公の泉。虫の観察を得意としているということは、人間観察も得意なのかもしれない。そんなふうに思ってしまうほど、泉は鮮やかに、しかし当人としてはなんでもないことのように、目の前に横たわる謎を解き明かしてしまう。つかみどころのないキャラクターであるがゆえに、その手つきは魔法のようにさえ見えてくる。そんな彼の活躍がつい気になってしまう、そんな1冊。




櫻田智也「蟬かえる」
昆虫オタクの青年・魞沢泉(えりさわ・せん)が主人公のミステリ連作集、第2弾。表題作は第74回日本推理作家協会賞および第21回本格ミステリ大賞をダブル受賞しているというのだから恐れ入る。そんな表題作「蟬かえる」は、16年前に震災に襲われたある村が舞台。かつてボランティアとして村を訪れたことのある糸瓜京助は、森の中でセミを探しているというふたり組――大学の非常勤講師である鶴宮と、彼女の講義に興味を惹かれてやってきた虫好き青年・魞沢泉だった。会話の流れで京助が語ったのは、ボランティア中に起きた奇妙な出来事だった……というエピソード。幽霊を見たという京助に対し、彼の会話、そして鶴宮から受け取ったある文章をもとに、泉はその真相を明らかにしてしまうのだ。まさかの展開に「なるほど……」としみじみしてしまうのがこのシリーズのいいところなのだが、個人的には泉の中学生時代のエピソードである「ホタル計画」もいい。その頃からこんな感じだったというのも微笑ましいやらおかしいやら。

神前酔狂宴 (河出文庫 こ 31-1)
古谷田 奈月
河出書房新社
2026-03-06


古谷田奈月「神前酔狂宴」
第41回野間文芸新人賞受賞作。主人公の浜野は軍神を祀る高堂神社、その中にある結婚式場「高堂会館」で働くフリーター。彼は無数の結婚式と披露宴を目にするうちに、それらが「幻の金を生み出すもの」であるとみなすようになってしまう。しかしそのことが逆に、彼をこの仕事にのめりこませるきっかけとなっていくのだ。正社員にならないかという誘いを突っぱね続け、いつしか式全体をまわす「キャプテン」にまで上り詰める浜野。神に永遠を誓う「結婚」を「金を生み出すもの」という即物的な見方しかできないという面を持ちながらも、一方で神社の持つ「神性」なるものを、どこかで信じてしまえている。だからなのか、彼は式の主役である新郎に全身全霊で仕えるような素振りさえ見せ始める――あたかも神職にある者が信ずる神に仕えるかのように。けれどそれだって結局は虚構であり、式が終われば解消される幻の主従関係なのだ。その狭間で揺れ、あがき続けていた浜野だったが、最後の最後で本当に信じていたものが崩れ去る瞬間が来てしまう。しかしその瞬間こそが、彼にとっての「始まり」となるのかもしれない。


宙わたる教室 (文春文庫 い 106-3)
伊与原 新
文藝春秋
2026-03-04


伊予原新「宙わたる教室」
同名ドラマの原作でもある青春小説。舞台はとある定時制の高校。かつて科学者として研究に打ち込んでいた藤竹は、わけあってこの定時制高校で教師として働いている。そんな彼が出会った生徒たちもまた、様々な事情を抱えていた。不良青年の岳人、日比ハーフのアンジェラ、過去のイジメがきっかけで不登校になっている佳純、元工場経営者の老人・長嶺。彼らは藤竹に誘われて科学部に入部。やがて火星のクレーターを再現する実験に打ち込み始めるのだ。ただその道のりはなかなか問題だらけで、てんでバラバラの境遇の4人がひとつの目標に向かえるようになるまでには様々な困難があった。それでも彼らが学ぶことを止めず、研究に突き進んでいく姿はとてもまぶしい。まさに青春!と言いたくなる作品だった。


残星を抱く (祥伝社文庫 や 19-2)
矢樹 純
祥伝社
2026-03-11


矢樹純「残星を抱く」
専業主婦だった主人公が命を狙われることになるサスペンス長編。幼い娘とのドライブのさなか、暴行の現場を目撃してしまった主婦の柊子。逃げる途中で犯人のひとりを車ではねてしまったこともあり、刑事である夫・哲司には相談できずにいた。しかしそれ以降、柊子の周辺を不審な人物がうろつき始める――ひとりは先の暴行事件と関係があると思われる、「8」のタトゥーを入れた男。そしてもうひとりは夫の同僚で、過去に彼と不倫関係にあると思われていた女性警官・真野だった。柊子は探偵業を営むかつての同級生・葛西に相談しながら、哲司に打ち明けるタイミングをはかっていたのだが、その矢先に哲司が変死体となって発見される。さらに真野からは、彼が独断である案件の再捜査を行っていたことを知らされるのだった。それはタクシー運転手だった柊子の父親が乗客と共に亡くなった「事故」のことで……ということで、誰もかれもが信じられないし、状況がつかめないし、夫はなぜか昔のーーそれも柊子と出会うより前、彼女が学生の頃に起きた死亡事故について探っているし、そもそも夫が真野と不倫してたのかどうかも今となってはわからないし……と「五里霧中」という言葉がぴったりすぎるくらいなにもわからなさすぎる状況。そんな中、ただの専業主婦だった柊子は、幼い娘のため、そして夫のために暴漢に立ち向かおうとするのだ。最後の最後まで気の抜けない、けれどラストはどこか切ない物語だった。

疑心殺人 捜査一課女管理官2 (ハルキ文庫)
松嶋智左
角川春樹事務所
2026-02-13


松嶋智左「疑心殺人 捜査一課女管理官2」
S県警本部刑事部捜査一課の女管理官・風石マリエの活躍を描く警察小説の続編が登場。今回の事件はパート主婦の殺人事件なのだが、その被害者が元アイドルであることが判明。とはいえ今回の事件が過去の職業に関するものなのか、それとも現在の生活に関するものなのかは不明なまま。そんな中でマリエが動こうとすると、周囲に不可解な動きが。単に管理職なのに現場に出ようとするマリエを心配しているか、または動きを制限したいだけなのかと思いきや、まさかの怪文書の存在が明らかに。実は本作の冒頭に置かれているその怪文書の犯人は……という問題も含め、事態は思わぬ方向へ。とりあえずマリエが失脚ということにはならなくてひと安心ではあるが、やはり警察という組織の男社会ぶりたるや、と思わされるエピソードだった。

【前巻:使嗾犯 捜査一課女管理官】


対決 (光文社文庫 つ 17-2)
月村了衛
光文社
2026-02-10


月村了衛「対決」
2026年春にドラマ化も決定している社会派小説。実際にあった「医大入試女子受験者一律減点事件」を題材に、ふたりの女性――事件を暴こうとする新聞記者・檜葉菊乃と、大学の理事長のひとり・神林晴海の視点から描いていく。菊乃は医大を受験しようとしている娘のためにも真相を暴こうとするもなかなかうまくいかないし、晴海も他の理事たちから事件のもみ消しを押し付けられて苦悩する。そのどちらにも共通しているのが――そしてこの事件自体の根底にあるのが女性差別。この社会は男性中心に成り立っているがゆえに、女性がその中で生きていくのはあまりにも困難なようにできている。歯を食いしばり、多大な犠牲を払い、なんとか頭角を現すことができたとしても、他の男性から疎まれ、侮られ、結局は従属させられる。そしてそれすらも「当たり前のこと」とされる現実。そこで生きていくためには、傷つきながらも自分を貫くか、それともいわゆる「名誉男性」となるか。菊乃も晴海も前者を選び、そしてひとつの結末を勝ち取ることになる。とはいえそれは完璧な勝利ではない。だからといってそれに納得するのではなく、さらに前へ突き進んでいこうとする彼女たちの強さが素晴らしい。


グレタ・ニンプ
綿矢りさ
小学館
2026-01-27


綿矢りさ「グレタ・ニンプ」
雑誌「女性セブン」にて2024〜2025年にかけて連載されていた、驚天動地の妊娠出産小説。不妊治療が実らず悩んでいた呉田夫妻。しかしある時、自然妊娠していることが発覚。そしてその日を境に妻の由依は変わってしまった――彼女は長い髪をバッサリと切り、紫色の坊主頭に。服装は原色バリバリの派手なヤンキールックになり、一人称は「ワタイ」、口調も態度もそれまでのまじめで清楚な感じとはかけ離れたものとなってしまったのだ。いつの間にか「すちぃむアイロン」というスピリチュアルっぽいママサークルに入り、その主催者の勧めもあって昔ながらの産院で産むと言い出し、少子化問題に関するデモに参加してはプラカードを持って絶叫。いつしか家事はしなくなり、自治体の出産前教室的なイベントで講師にかみつき、例のサークルが主催するイベントに登壇して妊娠について語る。そんな彼女の豹変ぶり、そして暴走に振り回されながらも、いつしか夫・俊貴もそれを受け入れつつあったのだった……もちろん面白い(?)展開ばかりではなく、由依の抱えていた不妊治療についての悩み、そして俊貴が抱えている仕事上の悩みを、互いに相談できていなかったり、出産直前に俊貴が転勤を伴う辞令を受けたりと、夫婦の問題、あるいは仕事の中で起きる様々な問題についても提起されており、いろいろと考えさせられる。考えさせられる、の、だが……とにかく由依による有形無形の主張が激しすぎてそのあたりがなかなか入ってこなかったりもする(笑)。

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先週の話ですが、香川へ行って来ました。King Gnuのライブ「CEN+RAL TOUR 2026」高松公演を観るためです。

初めてのヌー! そして会場はあなぶきアリーナ!
そう、会場はまだできて1年ほどの新しいアリーナです。初めてですよ行くの。まあそもそもアリーナクラスのライブに行くこと自体がめったにないですからね(笑)。入ったら通路にモニターがいくつもあって、現在地とトイレの位置、そしてそのトイレの込み具合が常にモニタリングされてて「ハイテク!」となりました。これは便利ですね。席はスタンド席にしてたんですが、センターステージ形式ということもあってか、スタンドからでもステージがよく見えたのでひと安心です。

でまあそれはいいんですけどすごいぞステージセットが。
開演前はこんな感じ。なお今回のツアーはスマホでの撮影・録画OKとなってます。海外基準だそうです。意識が高いです。まあライブ中はやはりそっちに熱中しますので、延々と撮影・録画してるような人は(少なくとも私の周辺には)いませんでしたけどね。
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……というのはさておきまして。モニターなくない???と疑問に思ってました。始まるまでは。で、始まったらこうなりました。
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どう見ても金網的なところに映像が映し出されてるんですけど……な、なんで?????? どういうテクノロジー? すごすぎでは?

もちろんライブもすごかったです。なんというかもう会場も演奏もなにもかも「す、すげえ……!」という感想しか湧いてこないほどに圧倒されました。スケールが思ってたのと全然違うんです。びっくりです。

詳しいセトリは書きませんが、最新曲「AIZO」から始まり、初っ端から盛り上がる曲がひたすら続きます。なんならなにかしらが爆発もしてました。序盤なのに。「Flash!!!」でブチ上がる会場の中で「もうラスト……?」とかうっかり思っちゃいましたヨ(笑)。その後もMCを挟みながら緩急のあるセトリ。レコ発ツアーではないのでわりと古めの曲も多い印象。個人的には「一途」「逆夢」「雨燦々」が生で聴けたのがとてもよかったです。好きなので。感動しました。ラスト直前、即興で1曲増やしたのはいいものの、歌詞か演奏を忘れたのか、いったん中断してちょっとおしゃべりしてからまた再開、という流れもなんだか微笑ましかったです。増えたのは単純に嬉しいですし。

ちなみにヤフーニュースとかにもなるくらい話題になってた「観客による合唱問題」でしたが、少なくとも私の周辺ではのべつまくなしに歌ってるヤツはいなかったのでひと安心です。ちゃんとヌーの演奏も歌声も聴こえました。いやーホントすごかったです(また言ってる)(でもホントそれしか言えねえ……)。行ってみてよかった。というかチケット取れてよかった。


*ここ1週間の購入本*
和山やま「ファミレス行こ。(下)」(ビームコミックス/KADOKAWA)
山本アリフレッド「力技のシスター2」(メテオコミックス/フレックスコミックス)
浦野月鼓「彼は友達3」(モーニングKC/講談社)
藤モロホシ「黄昏町プリズナーズ3」(KCマガジンDX/講談社)
荒川弘「アルスラーン戦記24」(KCマガジン/講談社)
柴田よしき「お勝手のあん」(時代小説文庫/角川春樹事務所)
朝井まかて「朝星夜星(上)(下)」(PHP文芸文庫/PHP研究所)
平野紗季子「生まれた時からアルデンテ」(文春文庫/文藝春秋)
マルセル・シュオッブ「黄金仮面の王」(河出文庫/河出書房新社)
山尾悠子・編「山尾悠子偏愛アンソロジー 構造と美文」(ちくま文庫/筑摩書房)
矢樹純「残星を抱く」(祥伝社文庫/祥伝社)
今村翔吾「書店を守れ!」(祥伝社新書/祥伝社)



柴田よしき「初雪 海は灰色 第一部」
2009〜2015年に電子書籍サイト等で連載されていたという麻生龍太郎シリーズ最新作が、2025年にようやく書籍化。「RIKOシリーズ」内で逮捕されたことにより、私立探偵としての職を失った麻生龍太郎。彼は知り合いの探偵の手伝いなどをしつつ、失踪した元妻・玲子の行方を追っていた。彼女が山内錬と駆け落ちし、その後自ら温泉芸者に身を落としたというところまでは明らかになっていたが、現在の居場所は不明なまま。そして麻生は彼女に何を求めているのか自覚しないまま、ただその足跡を追って新潟へと向かったのだった。しかし鄙びた温泉街で起きたのはやくざ者の殺人事件。さらに麻生が宿泊していた旅館の女将も何者かに襲われて入院するという事態に。麻生を追ってきた山内と共に、事件の真相を探ることになり……ということで意外な感じもするが、麻生と山内がバディ的にひとつの事件を追うというのはシリーズ始まって初めてのことのような(笑)。相変わらず平行線のままのふたりの関係だが、それでもそこに相手への想いは残ったまま。けれど麻生にとって、玲子の存在はまた別の次元にあるのだろう。自分のエゴかもしれないと突きつけられてもなお、麻生は玲子を追うし、山内も玲子の窮状を知っていたからこそ、麻生を糾弾しながらもその行動を止めることができないのだろう。玲子を間に挟むことで、緑子の時とはまた違って見えてくるものもあるような、そんな予感がする物語の幕開けだった。




日本推理作家協会・編「ベスト8ミステリーズ2017」
2017年に発表されたミステリ短編の傑作選。特によかったのは以下の3作品。

芦沢央「ただ、運が悪かっただけ」
病で余命半年となり、自宅で療養している「私」は、迷惑をかけている夫への罪滅ぼしのような心持で「何か苦しいことを抱えているのなら、私があちらへ持っていきましょうか」と口にする。果たして夫は告げるのだった――昔、人を死なせたことがある、と。それは一見すると事故でしかない出来事。その原因を作ったのが自分であると思いつめている夫の言葉から、「私」はひとつの可能性にたどり着くのだった。ある意味「安楽探偵もの」ではあるが、その理由も、そして彼女が導き出した「真相」も悲しみに満ちている。ひとつの可能性に過ぎないとわかっていても、その答えが彼女の夫をわずかでも救ってくれればいいと、そう思う。

柴田よしき「理由」
ある女性イラストレーターが、自身の作品をこきおろした毒舌タレントを刺した。彼女は刺したことは認めているものの、その動機についていっさい口にしないのだった。そこで登場するのが刑事の麻生龍太郎。自白しない被疑者というのは、自白より証拠を重んじるスタイルの麻生にとっては、ある意味で得意分野だったのかもしれない。とはいえ彼は「間に合わなかった」わけだが。タイトルの「理由」が結末に鋭く突き刺さる。

若竹七海「葬儀の裏で」
その土地で特に由緒ある一族の当主・水上サクラ、その姉の六花が何者かに殺され、まさにその葬儀が執り行われようとしていた。参列した所轄の女警官は、お悔やみついでに捜査状況を伝えてくるが、その言葉の端々には、サクラに対する疑念をにじませていた。そんな中、喪主となった六花の孫から遺産を要求されるサクラ。そこで彼女がとった行動とは……ということで、思いも寄らない結末が待ち受けている本作。六花と一族の因縁、そして六花が殺される直前に言い争っていた相手は誰だったのか……そんな真相も吹き飛ぶような展開には驚かされた。



柴田よしき「RIKO−女神の永遠−」
第15回横溝正史賞受賞作にして作者のデビュー作である本作は、男性優位社会たる警察組織の中で、満身創痍になりながらも懸命に生きる女性刑事・村上緑子(むらかみ・りこ)が主人公の警察小説シリーズ1巻。新宿署刑事課所属の刑事・緑子は、防犯課の鮎川と共にある事案を追っていた――それは男が大多数の男たちに襲われるという裏ビデオの存在だった。しかしそのビデオ内での被害者の男が遺体となって発見されたことで、警視庁捜査一課が乗り出してくることに。しかもそのチームの責任者は、かつて緑子と不倫関係にあり、彼女が所轄へ異動させられるきっかけとなった男・安藤明弘だった。複雑な思いを抱えつつ事件の捜査に当たる緑子だったが、被害者たちの共通点が見つからず、捜査は難航。さらにそんな折、何かをつかんだらしい鮎川が突如消息を絶ち……ということで、事件のことも、そして緑子自身の過去も、あまりにも凄惨な展開が続く本作。特に緑子が警視庁を追われるきっかけとなったふたつの出来事と、その張本人であるふたり――かつての上司の安藤、そして同僚の高須義久の登場とその振る舞いには、読んでいるこちらもつい歯軋りしたくなる。だからこそ、緑子が高須に対して行った「復讐」にはある意味スカッとさせられたし、異動先の新宿署では鮎川と麻里というふたりの「恋人」ができて自由にやれていることがとても嬉しく思えてくる。だというのにそんな彼女のささやかな居場所まで失ってしまう結末には「血も涙もない……」と言わざるを得ない。それでも強く前を向いて生きていく緑子の姿から目が離せなかった。




柴田よしき「聖母の深き淵」
RIKOシリーズ2巻。一児の母となり、下町の所轄へ異動となった緑子。そんな彼女が相談を受けたのは、失踪した親友を探してほしいというトランスジェンダーの「女性」、磯島豊だった。緑子は磯島を伴い、かつての同僚で今は私立探偵となっている麻生龍太郎の事務所を訪ねる。果たして麻生は磯島の親友・牧村を見つけ出してくれたものの、彼女は自らの意思で売春婦となったうえ薬物にも手を出したのだという。しかもその真意に気づいた緑子の説得に応じ、一度は足を洗う決心をした牧村だったが、直後に何者かに殺されてしまう。緑子は麻生と連携しながら犯人を追うが……ということで、ついに麻生が登場。そして麻生がいるところにはもちろん(?)山内あり。ただし本作は「私立探偵・麻生龍太郎」から数年後のエピソードであり、現在は春日組の若頭として暗躍している真っ最中。その残虐さは以前の比ではなく、緑子もさんざっぱら追いつめられることになるのだ。しかし山内との関わりの中で事件解決のヒントを得られたのだから痛しかゆしといったところか(「痛し」の比率の方がかなり大きい気もするが……)。なおなんだかんだあって結局子供を産んだ緑子は、本作で安藤と夫婦になる決心を固めることに。高須との関係もそれなりに良好で、私生活は問題なしではあるのだが、山内との繋がりを得てしまったことで危険度がさらに増しているのも確か。しかもラストでは麻生があんなことに……緑子の行く末も気になるが、麻生と山内の関係ももちろん気になって仕方ない。中盤で麻生が名前を出さずに山内のことを惚気る(!)シーンがあるのだが、そこで緑子が行った指摘にはうなずかされる。しかしその指摘こそが、あの結末を招いてしまったのかもしれないと思うと……。




柴田よしき「月神の浅き夢」
RIKOシリーズ3巻。若い男性刑事が犠牲となる連続猟奇殺人事件が発生し、警察内に動揺が広がる中、緑子はその捜査本部に参加することとなる。ターゲットの要件を満たしていることで動揺している高須を叱咤激励しつつ捜査に当たる緑子は、ひょんなことから事件の手掛かりを次々と入手。しかしそれは、過去のある冤罪事件に繋がっている可能性が浮上する。しかも当時その事件を指揮していたのは、緑子の夫である安藤だった――もうこの時点で、緑子にとって今回の事件が過酷なものになることがはっきりしたわけだが、この後も彼女にさらなる試練が課されることとなる。そしてその一端を担うのはやはり山内。犯人の周辺に山内の存在が見え隠れするだけでなく、麻生のかつての部下で彼を異性としても慕っている刑事・宮島静香が山内の周辺を個人的に嗅ぎまわっているのも悩みの種――などという生易しいものではない悪い予感を緑子に抱かせるわけだが、それはついに的中してしまう。しかもそんな中で麻生とある「関係」を持ってしまった緑子は、否応なしに麻生と山内の因縁に巻き込まれてしまう。緑子、麻生、そして山内の3人は、どこか根底の部分で似ているところがある――だから互いに惹かれ合い、あるいは反発しあうのだろう――要は同族嫌悪というやつかもしれない。けれど、だからこそ無意識のうちに相手を赦し、受け入れてしまうのかもしれない。破滅にしか向かいようがないように見えた麻生と山内の関係、そのはざまに存在する緑子は、もしかしたらふたりにとっての鏡のような存在だったのかもしれない。

聖なる黒夜(上) (角川文庫)
柴田 よしき
KADOKAWA
2012-10-17


聖なる黒夜(下) (角川文庫)
柴田 よしき
KADOKAWA
2006-10-22


柴田よしき「聖なる黒夜(上)(下)」
あるヤクザの殺人事件をめぐり、ふたりの男の運命が激しく交錯するサスペンス長編。高級ホテルの一室で殺されたのは春日組の大幹部である韮崎。捜査に乗り出したのは捜査一課所属の麻生龍太郎と、その先輩で四課所属の及川だった。ヤクザ絡みの殺人かそうでないかで捜査の方針が二分される中、容疑者のひとりとして浮上してきたのが、韮崎の愛人のひとりであった山内錬という男だった。麻生は過去に大学生だった山内を傷害の容疑で逮捕したことがあったが、麻生の予想とは裏腹に山内は実刑判決を受け、刑に服したのちに韮崎に拾われたのだという。殺人事件の手掛かりがまったくつかめない中、山内と関わるうちに彼の壮絶な過去を知ることになる麻生。そしてそれは、麻生自身が知らず知らずのうちに抱えていた「闇」を呼び起こすことになるのだった。「所轄刑事〜」から本作までの間には何年もの年月が経過しており、その間に麻生は及川との関係を清算し、玲子という女性と結婚までしていたが、数年前に彼女は失踪。そんな矢先に起きた山内との再会は、麻生の心を激しくかき乱し、そして思いも寄らぬ方向へと彼を導いていく。麻生と山内の「関係」はまさに愛情と憎悪が複雑に絡み合ったもので、ふたりの間に渦巻く感情のすべてはどこまでも純粋であり、あるいは不純であるともいえる。根本には「加害者」と「被害者」という明確にして不均衡な関係があるはずなのに、それは時に大きく、しかし一方では無に帰するほどの意味のなさを露呈させることもある。いくら言葉を尽くしても、あるいは行動で示しても、その底にある「真実」をふたりとも直視しようとしないし、よしんば直視していたとしてもそれを表に出すことは決してしない。そんな危ういふたりの関係から、最後の最後まで目が離せなかった――その先に破滅しか見えないとしても。


私立探偵・麻生龍太郎 (角川文庫)
柴田 よしき
KADOKAWA
2022-04-14


柴田よしき「私立探偵・麻生龍太郎」
「聖なる黒夜」の続編となる連作短編集。韮崎の事件が解決した後、山内の事件について調べていた麻生。そのことが警察内部で問題視されたうえ、事実上の左遷人事を受けた麻生は刑事の職を辞し、探偵になっていたのだ。元妻と暮らしていたマンションを売り払い、取り壊し寸前ともいわれる古いビルで住居兼事務所を構えている麻生のもとには、様々な依頼が舞い込む。子供のころに埋めたタイムカプセル探し、身に覚えのないセクハラ加害の調査、殺人事件の容疑者と目される青年に感じたデジャヴ、そして刑事時代の知人でもある弁護士から依頼された、盗まれた指輪の行方……面白いのは、どの依頼にもその裏に別の意図が隠されているということ。そこはさすが「石橋の龍」、隠された依頼者の意図を読み取り、丹念に謎を解いていくのは刑事時代と同じだが、「警察」という肩書がなくなったこともあり、より人情系というか麻生の人たらしな一面が垣間見えるのも面白い。そしてその裏で深まっていく山内との関係――ただしそれはふたりの幸福に通じるものではないのだ。そもそもこのふたりの関係には、断ち切れない――あるいは断ち切りようのないしがらみが多すぎるのだ。彼らの関係はこの先、どこへ向かうのか――どこへ向かえばいいのだろうか。



乃南アサ「雫の街 家裁調査官・庵原かのん」
離婚や相続など様々な「家事事件」の調査を行う家裁調査官が主人公の連作集第2弾。前巻では北九州にいたかのんだったが、今巻では横浜家裁へ異動。遠距離恋愛中だった動物園勤務の彼氏・栗林とも結婚し、二重の意味で新生活スタート!かと思ったら作中はまさにコロナ禍まっさかりの時期。本来であれば不特定多数の人々に調査を行わなければならない職業なわけだがそれもなかなか思うようにいかず、しかしだからといって事件が減るわけでもなく……ということで今回も様々な問題に対峙するかのんの姿が描かれる。記憶喪失の男性の正体を突き止めたり、失踪宣告が出されそうになっている人物を探したり、離婚事案から性的虐待の事実を明らかにしたり。そしてそれらの事案の合間合間でかのんを悩ませているのは、モラハラで妻子を失ったにもかかわらず、自分の非を認めず、なんど却下されても手を変え品を変え申し立てを繰り返す男。さらにそのたびに、調停に関わった判事や調査官の手際が悪いと逆恨みしてねちねち電話をかけてくるというまさかの行動に(苦笑)。かのんには悪いが、この男がどこまでやるつもりなのか気になるところ(笑)。

【前巻:家裁調査官・庵原かのん】




佐々木譲「分裂蜂起」
日露戦争に負け、ロシア帝国に共同統治される大正時代の日本を舞台にした、歴史改変警察小説シリーズ3巻。完結巻となる本作は、ロシアで起きた革命のあおりを受けている東京で起きた殺人事件の捜査から物語は始まる。名前以外の素性がまったく知れない被害者の身元を追ううち、なぜか新堂は労働争議へ巻き込まれていく。国家間の情勢を含めた政情の見通しが立たないのもさることながら、ロシアで起きていることと同じようなことが民間でも起きようとしているという展開も興味深いが、一番驚いたのはラストの展開。あることをきっかけに、新堂を心身ともに蝕み続けていた先の戦争がようやく「終わった」のも束の間、日本はロシアの軛から逃れ、現実と同じ道を辿ろうとしている――歴史改変ものとして始まった本作が「正史」に収束していくとは思っておらず、最後の最後までびっくりさせられた。

【前巻:偽装同盟】


所轄刑事・麻生龍太郎 (角川文庫)
柴田 よしき
KADOKAWA
2022-07-21


柴田よしき「所轄刑事・麻生龍太郎」
著者のデビュー作「RIKOシリーズ」にも登場しているという刑事・麻生龍太郎が主人公の短編連作集。ただしこちらはその麻生龍太郎がまだ刑事になりたての時期の物語。植木鉢の連続破壊事件、自殺に見せかけたOL殺人事件、ホームレスの女性が起こした通り魔的な傷害事件、密室状態のマンションで起きた主婦の突然死に隠されていた真相、飼い犬がくわえてきた人間の手首の正体……日常で起きる小さな事件、あるいは「事故」にしか見えない事案、それらに隠された真相を麻生は次々と暴いていく。しかし「名推理!」というような勢いではなく、穏やかながらも淡々と事件を解決していく麻生の姿には、なにか底知れぬものを感じてしまう。それは彼が警察官を志した理由――ひいては大学時代の先輩であり、刑事としても先輩である及川との「関係」のせいかもしれない。ひとに言えない「秘密」を抱える麻生は、この先どこへ流れ着くのだろうか。

昨年の10月から毎月せっせと映画館に通っていたわたくしですが、ついに今月でラストとなります。「月イチエヴァ」、2/13から新劇場版第4弾にしてシリーズ完結編「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開が始まりましたので、いの一番に行ってまいりました。

物語はコア化したパリ市街からスタート。ユーロネルフに保管されていたエヴァのパーツの奪取のためにやってきたヴィレと、それを阻もうとするネルフとの攻防からスタートします。「Q」に引き続き、いきなりエヴァの戦闘シーンから始まるというスタイルがいいですね。一方、アスカはレイ(仮)とシンジを連れ、ニアサードインパクトを生き延びた人々の集落「第3村」にたどり着きます。そこで3人を迎え入れたのは、かつての旧友たち――トウジやケンスケ、そしてトウジの妻となったヒカリでした。レイが村での生活になじんでいくなか、カヲルの死やこれまでの自分の行動が引き起こした結果にショックを受けていたシンジは廃人状態に。しかしヒトらしい心の在り方を知ったレイや、辛抱強く見守ってくれた旧友たちのおかげで、なんとか立ち直ることができたシンジ。直後にレイを喪いつつも、シンジはミサトの監視下に戻る決意をするのでした。一方、ゲンドウたちが新たなる儀式を始めようとしていることを察知したミサトたちはこれをくじくべく「ヤマト作戦」を開始。セカンドインパクトの爆心地へ向かい、壮絶な戦いを繰り広げます。そんな中、シンジは父ゲンドウと対峙するために初号機に乗り込みますが……。

ということで約3時間という長丁場ですが、「エヴァンゲリオン」という存在、そして人間の在り方を巡る最後の戦いが描かれる本作。謎は解けたり解けなかったりしますが、ひとまず30年の時を経て大団円を迎えられたという、この事実だけでも感無量ですよホント。TV版と旧劇場版では他者を拒絶するしかなかったシンジが、新劇場版では他者を受け入れ、自身のしたことに「落とし前」をつけようとする成長ぶりまでも見せつけてくれます。そしてそんな息子の姿を目の当たりにしたからこそ、ゲンドウ自身もようやく「父親」としての自覚を得ることができたのかもしれませんね。

結局「時間を戻すわけではなく、ただエヴァだけがなくなった世界」というのが作中で何を意味したのか、そしてそれからどうやってあのエンディングへと繋がったのかははっきりしませんが、けれど少なくとも観ている私たちに対して、「エヴァのない(物語が完結した)現実への帰還」をようやく示してくれたということなのかもしれません。そう、ここでようやく私たちの30年間も「終わった」んです。真っ白い画面に「終劇」という文字が現れたあの瞬間に。

まあそうは言いつつ、何度もあの「終わり」を観たくて映画館に足を運び、あるいは家でBDを再生するという行為を当分やめられそうにはありません。だってこれは私の人生の大半を占めてきた物語なのですから。


*ここ1週間の購入本*
ウラモトユウコ「くらやみガールズトーク3」(KADOKAWA)
大須賀めぐみ「マチネとソワレ18」(ゲッサン少年サンデーコミックス/小学館)
月村了衛「対決」(光文社文庫/光文社)
五十嵐貴久「十字路」(双葉文庫/双葉社)
松嶋智左「疑心殺人 捜査一課女管理官2」(ハルキ文庫/角川春樹事務所)
岡啓輔「蟻鱒鳶る!自力でビルを建てた男」(ちくま文庫/筑摩書房)
佐藤雅彦「毎月新聞」
井伏鱒二「珍品堂主人 増補新版」
深沢七郎「みちのくの人形たち」(以上、中公文庫/中央公論新社)
柴田よしき「RIKO−女神の永遠―」
柴田よしき「聖母の深き淵」
柴田よしき「月神の浅き夢」
柴田よしき「私立探偵・麻生龍太郎」(以上、角川文庫/KADOKAWA)
柴田よしき「初雪 海は灰色 第一部」(KADOKAWA)
綿矢りさ「グレタ・ニンプ」(小学館)
鳥飼茜「今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった」
藤野知明「どうすればよかったか?」(以上、文藝春秋)

ところで柴田よしきのRIKOシリーズを買ったんですが、なぜか2巻のみ絶賛品切れ中で、版元もそれ以外もネット書店では全滅。もちろん行ける範囲の書店(古本屋含む)も探したけど見つからないので、ネットで中古本を購入したんですよね。ただこのシリーズ、途中で表紙が変わってるし、そもそも角川文庫自体が途中でカバーのフォーマット自体(特に背表紙の部分)を変えてまして。新刊で購入した1・3巻はもちろん新カバーかつ現行フォーマットになってるので、中古も新カバーの画像を使用しているところを探してポチったんですよ。しかし届いてみたらまさかの旧カバー。なんでや!と購入ページを改めて見てみると、説明文の最後に「この画像はサンプルです」との文言が。……やられた……!(泣)
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堀川夢・秋永真琴:編「北海道SFアンソロジー 無数の足跡を追いかけて」
北海道にゆかりのある作家たちによる、北海道の様々な土地を舞台にしたSF短編のアンソロジー。ちなみに版元のKaguya Booksではこれまでも同様の「地域SFアンソロジー」を出しており、本作は京都・大阪・徳島・東京下町に次ぐ第5弾とのこと。特によかったのは以下の通り。

伊藤なむあひ「不完全なQたち」
昭和新山のふもとに生息する熊たち、その群れの中に現れた謎の球体は、熊たちから「にせくま」と呼ばれ、のちに「キュウ」という名前を与えられた。それからというもの、キュウは名前を変えながら様々な生物たちの間を渡り歩く……というか流れ流れていく。キュウはこの先、この世界で何が起こるかを知っている。そしてその果てでいつか起こる未来を心待ちにしながらたゆたっていく。不穏なのにどこかおだやかな語り口がクセになる。

林譲治「デレッキ」
タイトルにもなっている「デレッキ」とは、石油ストーブのそばに置かれた鋳鉄製の火かき棒を指す。幼い頃、アイヌであることで教師から虐待を受けていたという教授の告白。けれど彼女が世界に顕彰された今、「日本人」として過剰に持ち上げようとする国家に対して行ったのは復讐であり、突きつけたのは世界を変えようとする意志そのものなのだろう。短いながらも壮絶な物語。

貝塚円花「ヒナタとアメンコ」
自己増殖するソーラーパネル「アメンコ」と、それに寄り添う少女「ヒナタ」。これだけだとどこかノスタルジックな雰囲気も漂うが、もちろんそれで終わるはずはない。「アメンコ」が生み出された背景と「ヒナタ」の正体はなかなかハードなものがあるが、それらが「死神」と呼ばれる主人公をほんの少し変えていくという展開が救いでもあるように思える。

秋永真琴「夜会」
長命種である主人公・蘭城たまきが暴く函館の闇。異能を持ち、永きを生きる彼女にあっては、必要以上にヒトと関わることをしないというのがモットー……のように見えるも、まわりまわって誰かを助けたりもする、そんな彼女の気まぐれさ、あるいは回りくどいやさしさがいい。麻宮との微妙な主従関係も気になるところ。

みちのみそ「時はその背に」
何の変哲もない道端に突如現れた馬、その名は「デロリアン」!?……ということで馬型タイムマシン(!)に乗って未来からやってきたという少女と共に、主人公が彼女の兄を探し出すというショートロードノベル(?)。カギとなるのはメロン熊とサカナクション!?ということで(笑)。


離婚弁護士 松岡紬(新潮文庫)
新川帆立
新潮社
2025-12-23


新川帆立「離婚弁護士 松岡紬」
北鎌倉にある有名な縁切寺の門前にある、離婚専門の弁護士事務所が舞台のリーガルミステリ連作集。浮気、モラハラ、熟年離婚、親権争いなど、様々な夫婦間のも課題を抱えてやってくる依頼者たちを迎え撃つ(?)のは、離婚問題を専門とする弁護士・松岡紬。彼女はとても優秀な弁護士で、幼馴染の探偵・出雲と共に問題を立ちどころに解決する。が、解決してくれるのはあくまでも法律に基づいた物理的な現実問題だけであり、双方の――特に依頼者の心のケアまでしてくれるわけではもちろんない。けれど依頼者は紬に助けられることで、自然と救われて前を向けるようになってていくという展開がいい。一方、紬本人は結婚事態に興味がなく、どころか誰かとお付き合いするということにも消極的なタイプ。それはおそらく彼女の生い立ちにも原因があるのだろうが、そんな彼女だからこそこの仕事を続けられているのかもしれない。と同時に、この仕事が拍車をかけているのかもしれないけれど。


シリウスの反証 (角川文庫)
大門 剛明
KADOKAWA
2025-10-24


大門剛明「シリウスの反証」
冤罪被害者の救済に取り組む有志の団体「チーム・ゼロ」に所属する若手弁護士・藤嶋が、ある殺人事件の捜査に隠された闇を暴き出す社会派ミステリ。きっかけとなったのは、一家4人殺人事件の容疑者とされ死刑囚となった宮原からの「俺はむじつだ」という手紙。とはいえ確たる証拠もなく、凶器に残された宮原の指紋が逮捕の決め手となったことから、再審請求は困難かと思われていた。しかし「チーム・ゼロ」のリーダー的存在である大学准教授・東山の強い意志もあり調査を始めることに。新たな証拠が見つからない中、しかし東山は再審請求に自信を見せているという不可解な状況。果たしたこの事件に何が隠されているのか……ということで、最後の最後まで行方のわからない展開にハラハラさせられた。

天上の宴 おくり絵師 (時代小説文庫)
森明日香
角川春樹事務所
2026-01-15


森明日香「天上の宴 おくり絵師 五」
絵師見習いの娘・おふゆの成長を描くシリーズ第5弾。前巻で地震の被害に遭い、師匠ともども大変な目にあったおふゆだったが、少しずつ仕事も増え、生活がたてなおされつつあった。しかしそんな矢先に「ころり」が大流行。周囲の人々が次々と亡くなり、おふゆたちはさらなる苦境に立たされることになる。おりしもおふゆ本人は死絵への向き合い方について悩んでいたのだが、これを機に改めて死絵を描く意味、あるいは意義を見出していく。それにしても周囲の人々が亡くなり、あるいは去っていくという、まさに別れ続きの展開には、読んでいるこちらもつらいものがある。だからこそ、今回のタイトルが「天上の宴」なのかもしれない。

【前巻:恋女房】


超 すしってる
須藤アンナ
中央公論新社
2025-12-08


須藤アンナ「超すしってる」
タイトルからして意味が分からない時点で面白すぎる本作。物語は主人公の高校生・サッチャー(中学の卒業式で泣かなかったことからつけられたあだ名)が、東大受験に失敗するところから始まる。家にはすでに浪人中の兄がいることもあり、自身の進路に悩んでいたそんな矢先、「西東京すし養成大学」からの合格通知書が届く。怪しみながらもその「大学」へ向かったサッチャーだったが、そこには高校時代の親友たち3人も集まっていた。かくしてサッチャーたち4人は「すし」になるための研鑽を積むことになる……ってどういうこと?となるのだが、カリキュラムをこなすにつれ、本当にサッチャーたちは「すし」になりつつあるのだ。影はシャリの形になり、水中でも呼吸ができるようになり、いつしか手からはワサビやシャリ、ネタなどが出るようになっていく。仲間たちとノリノリで「すし」になっていくサッチャーだったが、その心の奥で常に渦巻いているのは、姉が好きなアニメに出てくる決め台詞「きっと何者にもなれないお前たちに告げる!」(まさかの「輪るピングドラム」!)。高校生でもなく、大学生にもなれず、今のサッチャーはまさに「何者にもなれない」状態。であれば人であることを捨てて「すし」になるべきなのか、というかそのまま「すし」になっちゃって本当にいいのか――まさにモラトリアム、あるいは自分探しを「すし」で表現するというまさかの物語だった。




乃南アサ「家裁調査官・庵原かのん」
罪を犯した少年少女が抱える問題を調査する「家裁調査官」、庵原かのんが主人公の短編集第1弾。万引き・窃盗・傷害・JKビジネス……常に複数の事案を抱える調査官は多忙だが、様々な問題を抱える少年少女たちの心の声を聴こうと日々奔走する姿が描かれる。調査することが目的であり、事件の解決を図るわけではないので、最終的に彼ら彼女らがどうなったのかわからないまま終わることも多いのだが、それでもかのんがここまで調べたことで、彼ら彼女らの状況はきっと改善されるだろうし、家庭に問題のある子供たちが多いこともあり、こうして親身になって寄り添ってくれるかのんの存在が彼ら彼女らを救ってくれるのだろうと思いたい。あと個人的には遠恋状態の彼氏・栗林との関係も気になるところ。



松嶋智左「大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報2」
その美貌と高い捜査能力で一目置かれる女刑事・遠楓ハルカが主人公の倒叙ミステリ短編集第2弾。モラハラ夫をつい殺してしまった主婦、ドーピングに気づかれた監督を殺した実業団ランナー、親友と共に犯した罪が暴露されるのを恐れた老人……彼ら彼女らをハルカが追い詰めていくその鮮やかな手腕はあいかわらずのすばらしさ。それだけでなく、今回はひょんなことから殺人計画を知ったハルカが、これを阻止しようと奮闘するエピソードも。大阪を飛び出しての事件というのもさることながら、まだ事件が起きていないのにこれを防いでしまうという展開には驚かされた。

【前巻:大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報2】


同じ星の下に (幻冬舎文庫)
八重野統摩
幻冬舎
2026-01-08


八重野統摩「同じ星の下に」
誘拐から始まる奇妙なサスペンス長編。中学2年生の有乃沙耶は、学校帰りに児童相談所職員を名乗る男・渡辺に誘拐されてしまう。渡辺は沙耶を身代金目的で誘拐したというが、監禁後は逃亡を防ぐために片足に鎖をつけられただけで、それ以外は衣食住が完備された普通の――否、彼女にとっての「普通」よりはるかに素晴らしい日々を送ることになる。というのも沙耶は幼い頃からずっと両親からあらゆる種類の虐待を受けており、数日前には自ら児童相談所に連絡していたくらいなのだから。だからこそ両親が渡辺の求めに応じて身代金を払うなどありえないと考える沙耶。やがて彼女は渡辺の持ち物から、渡辺が足裏に「有乃」と書かれた赤ちゃんを抱っこしている写真を発見。自分が父親と血の繋がりがないらしいことを知っていた沙耶は、渡辺が自分の本当の父親ではないかと考え始めるのだった……ということで、最後の最後まで渡辺の正体と目的がわからないまま誘拐事件が推移していくという展開に。物語は沙耶視点のパートと、この事件を担当することになった刑事・進藤視点のパートで展開していくのだが、進藤パートで描写される沙耶の両親の描写がひどすぎて、この誘拐事件が終わらなければいいのにと何度願ったことか。


廃用身
久坂部羊
幻冬舎
2013-08-09


久坂部羊「廃用身」
2026年に映画化されることが発表された著者デビュー作。刊行当初(2003年頃)は「映画化不可能」と言われていたらしいが、それから20年以上たって映画化される――できるようになってしまったということがいいことなのかどうなのかわからない、そんな恐ろしい物語だった。タイトルにもなっている「廃用身」というのは、脳梗塞などによる麻痺で動かなくなってしまった手足のことを指す。本作の前半は老人のデイケアクリニックを営む医師・漆原の手記というスタイルで、彼がクリニックで行った「Aケア」――すなわち廃用身の切断という「治療」について綴られていく。しかし法外な費用を請求するわけでも、名声を得ようとするわけでもなく、ただひたすらに患者のため、そしてそれを支える家族や看護師・介護士のために倫理観をかなぐり捨てて邁進する漆原。しかしやがてマスコミがこの所業を暴き立て、クリニックと漆原はスキャンダルの渦中に立たされることになる。本作の後半は、漆原に手記を依頼した編集者・矢倉による「編集部註」となっており、その後の経緯が描かれていく。フィクションだとわかっていても、本作の中で繰り広げられる狂騒は、もしかして現実に起こっていることなのではないかと思わされてしまう――ありえないはず、あるいはあってはならないはずなのに、もしかしたらありえてしまうかもしれない、そんな物語だった。


分水―隠蔽捜査11―
今野敏
新潮社
2026-01-15


今野敏「分水 隠蔽捜査11」
シリーズ第11弾はユーチューバーVS竜崎!?ということで、鎌倉で起きた大物議員宅の不審火事件と、その直後に起きたユーチューバー殺人事件を竜崎が追うという展開に。不審火が発生した屋敷の持ち主は、何代にもわたって議員を輩出し、現在も親子そろって議員を務めているという人物。警察官僚ともなると政治への接近も増えてくるもののようだが、相変わらず我が道を行く竜崎はそのあたりの忖度をするはずもなく……とはいえ、周囲から配慮を迫られるので仕方なく気を遣ってみる(そして最終的には怒らせる)あたりが竜崎らしい。そして大物議員の父の方(つまりより権力が大きい方)になぜか気に入られているのも(笑)。そして殺人事件の真相として、まさに現実にも起きている状況――ウェブメディアVSオールドメディアの構造をなぞっている。メディア対決としては新興勢力の方が勢いを増す今日この頃だが、警察と犯人との攻防という点においては、昔ながらの熟練の技が光るという展開が面白かった。

【前巻:一夜 隠蔽捜査10】

昨日の肉は今日の豆
皆川 博子
河出書房新社
2025-12-09


皆川博子「昨日の肉は今日の豆」
久々の最新作品集は2010〜2025年の間に各種雑誌・アンソロジーなどで発表された短編小説や詩歌が収録されている。個人的によかったのは「椿と」「夏を病む」「昨日の肉は今日の豆」「ソーニャ 序曲」の4作。「椿と」は雑誌の企画で露天風呂めぐりをすることになったふたりが遭遇した奇妙な出来事について綴る短編。大輪の椿の光景は、本作より後に置かれた「川のほとり」の一節に通じるものがある――視野を覆い尽くす花の幻影が意味するものはなんだったか。「夏を病む」は奇妙な街で迷子になった少女の物語。結末が物悲しくも美しい。表題作でもある「昨日の肉は今日の豆」は、肉体が豆に変化する「豆化症」が感染症かつ老化現象とされる世界が舞台。その病そのものがなんとも奇妙。そして「ソーニャ 序曲」は「風配図」の続編のスピンオフとのことで、ソーニャという娘が歌姫(正確には「農奴役者」)となる前夜のエピソード。彼女がこの先どうなるのかとても気になるのだが、これが続編の外伝的位置づけなのか、それとも続編とイコールなのか、そのどちらなのかが気になるところ。


カフェーの帰り道
嶋津 輝
東京創元社
2025-11-12


嶋津輝「カフェーの帰り道」
人通りの少ない場所にひっそり佇むカフェー「西行」を舞台に、戦前から戦後に生きた女給たちの日々を描く連作短編集。カフェなのに「西行」とはシブすぎる名前だが、その理由にほっこり(笑)。しかしそんな雰囲気の序盤とは裏腹に、彼女たちの日常は戦争が生み出す影に覆われてゆく。特に恋人を戦争で失ってしまったセイの悲しみ(これは作中では具体的には描かれないが)、そして戦地へ赴いたひとり息子への手紙に苦悩するタイ子の姿は胸に迫るものがある。そして最後のエピソードは戦後のものだが、主人公である幾子は、息子(つまり幾子の兄)を戦争で亡くした悲しみに暮れる母親に対し、複雑な感情を持て余している女性。そんな彼女が母親と衝突しながらもなんとか乗り越えていこうとするのだが、その陰にはかつての女給たちのアドバイスがあったのだ。そうやっていろいろなものを繋いでいく物語なのだな、とも思った。

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