phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 壁井ユカコ

2.43 清陰高校男子バレー部 春高編 (単行本)
壁井 ユカコ
集英社
2018-09-26

「春高バレー」として知られる高校生バレーの全国大会。清陰高校男子バレー部は福井県代表の切符を手にし、東京へと向かっていた。清陰と同じブロックには夏と秋の覇者である福岡の箕宿高校や、2m超えのウイングスパイカー・川島を有する鹿角山高校といった錚々たるチームがそろっていたが、灰島はただひたすら勝ち進むことしか考えておらず、メンバーたちもその勢いに引っ張られるように夢の舞台へと向かうことに。初戦では難なく勝利を収めた清陰高校だったが、次の鹿角山高校との対戦では、川島の高身長から繰り出される攻撃にさしもの灰島も手を出しあぐね……。

「WEB文芸レンザブロー」で2017年4月から2018年7月にかけて連載されていた、高校男子バレー小説シリーズ第3弾。弱小どころか無名だった清陰高校バレー部が初の「春高」に挑む姿が描かれてゆく。

これを読む直前に第2弾を読み返していたこともあり、大会の開会式の時点ですでに涙腺が緩みつつあったがまあそれはさておき。完全にノーマークだった清陰が初戦を勝ち抜き、さらに有名プレイヤー擁する鹿角山を撃破して強豪校に挑むという流れにははらはらさせられる。しかし同時に、文字通り死力を尽くして戦う彼らが、試合の中でチームワークを深め、さらに強敵たちと相対することによってどんどんレベルアップしていく姿はとにかく眩しい。チームの力をここまで引き上げたのは灰島の力によるところがもちろん大きいだろうが、黒羽がその灰島をしても図り切れないほどの潜在能力を秘めたエースであることを示し続けていたのももちろんすごいことだと思う。もちろんまだ1年生ということで不安定な部分や戸惑いもあっただろうが、それをねじ伏せてあれほどまでに戦えたのは、ひとえに相棒である灰島への絶対的信頼感によるものなのだろう。もちろん1年生コンビだけでなく、3年コンビである小田と青木の関係性であるとか、次代を支えることとなる2年グループの結束もまた、チームを押し上げていく力となっていく。

一方、清陰と戦うことになる箕宿高校、そしてそのライバル的存在である東京の景星高校のエピソードも同時に語られる本作。どちらも強豪校ではあるが、ここ数年チームとしての成績はぱっとしていない部分もあったりするだけに、プレッシャーもひとしおといった状態。作中でも繰り返し語られていたが、いくらいいチーム、または強いチームが現れたとしても、そのメンバーが卒業してしまえば勢いを失うことは避けられない。卒業生たちが作り上げてきた「バレー部」という歴史と、「県の代表」たることという大きな荷物を背負いながら、たった3年の間にいかにして成績を残すことができるか――というのは強烈なプレッシャーとなって彼らを苛むこととなる。けれどいつだって、最後に彼らを突き動かすのは「勝ちたい」あるいは「バレーを楽しみたい」というただそれだけの純粋な願い。今しかできない何かをひたすら追い求める彼らの姿から目を離すのはとても難しい。

しかし一方で、彼らはきちんと「今」の「その先」を見据えている。今回の大会を経て、灰島と黒羽はある決断を下すこととなる。かつて灰島は、自分が黒羽を春高のセンターコートに連れて行くと言った。おまえはおれのエースだ、とも。今回のラストでは、その言葉に本当の意味で黒羽が答えを返すのだ。その瞬間を、私もきっと忘れることはできないと思う。これからが彼らにとってのスタートになるのだと、そう信じたい。


◇前巻→「2.43 清陰高校男子バレー部 second season」

空への助走 福蜂工業高校運動部
壁井 ユカコ
集英社
2016-10-05

身長168センチ・体重70キロという体格ながら、明日岡高校陸上部でロングスプリントの選手として活躍しつつ、部長も務めていた荒島涼佳。引退試合も終わり、受験勉強に勤しむ涼佳にとって気がかりなのは、走り高跳びを専門とする後輩・柳町渉がいつまでたってもやる気を出さないことだった。昨年の部長で涼佳の憧れの存在でもある先輩・荒島拓海を引き合いに出してハッパをかけようとする涼佳に対し、柳町は、自分が荒島のレベルに近付けば付き合ってくれるのか、と告げる。驚きながらも本気にとっていなかった涼佳だったが、なぜか翌日から柳町に避けられるように。しかし一方で、荒島の過去の映像を参考にしながら、熱心に練習に励む姿を目にするようにもなり……。(「空への助走」)

福井県の男子高校バレーを題材とした「2.43」シリーズと舞台を同じくする、運動部を題材とした短編集。タイトルに「福蜂工業高校運動部」と書かれているが、実は表題作のみ違う高校のエピソードだったりする(一応福蜂の陸上部もちらっとは出てくるが)。

雑誌「小説すばる」に発表されていたのが、バレー部ものの「強者の同盟」、陸上部ものの「空への助走」、柔道部(プラス釣り部)ものの「途中下車の海」。そしてその3作の後日談的な内容となっているのが、書き下ろしの「桜のエール」。特に「強者の同盟」および「桜のエール」は、「2.43」2巻の福蜂工業側の前日談とも言える内容なので、清陰との試合よりも前、三村たちがどのようにして今のようなチームとなり、何を誓っていたかというのを改めて知ることができて、なかなか感慨深いものがある。

一方、表題作の「空への助走」では涼佳と柳町のじれったい恋愛模様が、「途中下車の海」では柔道部主将の主人公・長谷が、柔道から離れることで改めてその競技との向き合い方について考えるという状況が描かれてゆく。それぞれのスポーツの魅力だけでなく、高校生というか思春期ならではの悩み、あるいは不器用さが浮き彫りにされているというのがいい。青春のきらめき、などと言うと安っぽくなってしまうのだが、この時期だからこそ向き合えるものというのは確かにある。その一瞬を鮮やかに切り取ったような作品集だった。


亡き師の後を継ぎ、兎雨で道士として忙しく働くユギ。しかしこの頃、兎雨では獣の屍がひとりでに動き出し、人々を襲うという事件が多発。ユギも屍退治に勤しむが、そんな中、町人の中からこの事態そのものが、金儲けをしたいがためのユギの自作自演なのではという疑いが上がる。さらにショックを受けたユギが廟に戻ると、亡き師を納めていたはずの棺が盗まれていた。左慈と共に犯人を追いつめたユギに対し、その犯人は趙の義兄弟の汀傑と名乗り、ユギの目の前で棺を燃やしてしまう。それを知った兎雨のもうひとりの道士・毛はユギに町を出て見聞を広めることを勧め、ユギは左慈と共に、趙が道士として修行したという八華山護楽院へと向かうことに。ようやくたどり着いた護楽院でユギを迎えたのは、趙の師匠だという濤華だった。趙の遺体の件を伝えるユギに対し、濤華はそれこそが自分の指示であったと告げる。驚愕するユギに対し、濤華は案内人として1体の符力を呼び出す。その符力はどう見ても死んだはずの趙そのもので……。

本格中華ファンタジー第3巻は再びユギが主人公。師匠亡きあと、ついにユギが旅に出るという展開に。1巻が物語の幕開けとすれば、この3巻は2巻同様、ユギの成長の物語。師匠という大きすぎるものを失い、ただその思い出にとらわれ、守ることしか考えていなかったユギが、外の世界で新たな目標を見出してゆく。優しい過去の幻影に囚われそうになっていたユギが、しかし現実に目を向けて立ち上がる場面には思わず涙が出そうになる。

そしてここでもやっぱりイルラック登場。珞尹に憑けられた蠱のうち、蛙の方は前巻の騒動で胃ごと取り上げられ、代わりに切断された人間の手首が体内に収められてしまったのだから壮絶というよりほかない状態(もちろんもう1体の狗の蠱は健在)。そんなイルラックを護楽院に呼び寄せたのが他ならない濤華。彼の策略で、イルラックは珞尹を殺すための術式をその身に刻まれる羽目に。しかもそれを発動させれば珞尹は死ぬだろうが、術者が死ねば蠱も消え、そうなればイルラックも生きてはいられないという末路まで示されてしまう。濤華との利害が一致した結果とはいえ、今回も受難続きとしか言いようがない状態には、可哀相を通り越して次はどうなるのか逆に気になって仕方ないような気分になってくるのだがまあこれはこれで。

とにもかくにも、ユギもまた碧耀のために都へと向かうことに。すべてが珞尹のもとに集まりつつある中、ユギたちが再会した時何が起こるのだろうか。というかこの物語、続きはいつ出るのだろうか……。


◇前巻→「五龍世界2 雲谷を駆ける龍」


15歳の妓女・碧耀に落籍の話が舞い込んだ。護衛たちと共に従容と都へ向かう碧耀だったが、道中で山賊に遭遇。護衛たちが殺され、絶体絶命の危機に陥った碧耀は、親友の道士・ユギから託された真呪いを唱える。するとそこに現れたのは、ユギの使役する符力・左慈。碧耀はこの先で逗留予定だった新牌高地にある山村・ラオ村へ逃げ込み、左慈が新たな護衛を呼んでくるまでの間、老大嬢と呼ばれる女性の家に身を寄せることになる。一方その頃、珞尹を追って新牌高地へやってきたイルラックだったが、そこから先の足取りがつかめず途方に暮れていた。そんな中、高地周辺の村に鉱害が起きていることに気付いたイルラックは、鉱山を所有している極東人・武智の元に出向いて注進するが、そのまま軟禁されてしまう。やがて鉱害に苦しむ周辺の住民たちが武力蜂起。その影に「清和党」なる組織の存在をかぎ取ったイルラックはどうにかその場を収めようとするが、武智の仲間と見なされて暴行を受けてしまう。そんなイルラックを匿ったのが、その場に居合わせた碧耀で……。

本格中華ファンタジー第2巻は、1巻の主人公・ユギの親友で、千里眼を持つ少女・碧耀が主人公。
その美貌と浮世離れした佇まいで人気の妓女・碧耀だったが、実は家族を皆殺しにされ、ひとり生き残ったものの妓楼に売られたという過去の持ち主。ゆえに自分に自信を持てず、無気力に生きてきたのだった。しかしここにきて外の世界を知り、密かに抱いていたコンプレックスと向き合い、ついに自分の意志で前に進むことを決めるようになるまでが描かれてゆく。まさに、ひとりの少女の成長譚。

それにしても今回も受難続きなのがイルラック。タコ殴りにされたり碧耀に翻弄されたり(逆に碧耀も彼に翻弄されてはいたが)、最終的には仇敵・珞尹と再会し、これまで以上に大変な目に遭わされることに。まあ碧耀とのあれこれはある意味役得というか、そうかそっちかーという生温かい目になること請け合いではあるが、しかしふたりの関係が進展するのは難しそう。碧耀を落籍した人物の正体もさることながら、ふたりの境遇が似すぎていることがネックになるのは想像に難くない。碧耀もごちているが、似たもの同士だからこそ寄り添うことはできても、きっとそれでは救われないのだ。だから碧耀にもイルラックにも、ユギという存在が必要なのだろう。そんななんとも奇妙な三角関係の今後が気になるところ。


◇前巻→「五龍世界1 霧廟に臥す龍」


口減らしのために捨てられた少女・ユギは、柄は悪いが実力は確かな道士・趙に拾われることに。それから時は経ち、15歳になったユギは道士見習いとして趙の補佐をするようになる。そんなある日、ユギは妙な西域人の青年に追われていた子供に遭遇。まともに口もきけないその子供は、なぜか首と手首に重たそうな鉄環が嵌められていた。不思議に思いながらもユギはその子供――珞尹を廟に連れ帰り、世話をすることに。やがてユギは書物で調べた、珞尹の鉄環を外す術に成功。するとこれまで女の子だと思っていた珞尹は、あっと言う間に美しい顔立ちの少年に成長する。驚くユギに珞尹は、ユギを自分の8番目の妻にしてやると言い出して……。

作者初となる本格中華ファンタジー、第1弾。相争い、やがて斃れた龍の屍から出来たという「五龍大陸」を舞台に、今巻では勝気な見習い道士・ユギの成長が描かれている。

腕は確かだが柄の悪いやさぐれ師匠・趙に、白髪の青年道士・左慈という男所帯で暮らすユギは、最年少ながらも廟の経営のためにがめつく生きる、バイタリティあふれる少女。修行は苦手だが行動力は人一倍で、しかしいつまでも自分を一人前と認めてくれない師匠にやきもきする面も。そんなユギが、神仙の血を引くとされる「龍人」の青年・珞尹、さらにその珞尹を追っている西域人の青年・イルラックと出会うことで、物語は波乱万丈の幕開けを迎えることになる。

無鉄砲で向こう見ず、どちらかといえば短慮で、やることなすこと裏目に出るユギの行動にははらはらさせられたが、珞尹やイルラックが巻き起こす騒動の中で大切なものを失い、それでも歯を食いしばって立ち上がる姿には胸を突かれもする。だから、この先ユギがどうなるのか、そして彼女を取り巻く青年たち――姿を消した珞尹、その珞尹を追って再び旅に出たイルラック、そして彼女の側にいることを決めた左慈が、今後どう動いてゆくのかが気になるところ。

代々木Love&Hateパーク (双葉文庫)
壁井 ユカコ
双葉社
2015-06-11

まだ咲いていないはずの桜の花びらが舞う、3月の最後の日曜日。代々木公園には〈チェッコさん〉が現れ、そこに来ていたグループのひとりと知らぬ間に入れ替わってしまう。入れ替わられた人は新たな〈チェッコさん〉となり、別の人と入れ替わるまで公園からは出られなくなるのだ――。ホームレスの鮫洲。駆け出しのイケメン俳優・蓮沼とその彼女・柴。演劇部の仲間たちと練習にやってきた高校生・慶基と、彼らに立ち回りを教えるため付いてきた売れない時代劇役者・不動、そして彼と不倫関係にある女子高生・奈津美。公園で定期的にパフォーマンスを披露しているロカビリーグループと、そこに所属している不動の妻・真栄子。ネットアイドルのパフォーマンスを見に来た、不動と真栄子の息子・弓弦。そして売れないお笑いコンビの暁隆とはじめ。〈チェッコさん〉の都市伝説をある者は知り、ある者は知らぬまま、まさに「3月の最後の日曜日」に代々木公園に集まっていた。いくつかの人間関係が絡まり、こじれる中、ついに〈チェッコさん〉は人知れずその姿を現していて……。

2011〜2012年にかけて「小説推理」に連載されていた、都市伝説を軸にした不可思議な群像劇。

元々はまったく関係のなさそうな面々が、実はどこかで繋がっていたり、もしくはその日その場所に居合わせたことで関係が生じたりしながら、時間はどんどん経過してゆく。不幸な行き違いからある者は自殺し、またある者は自身の信念のために他者をその手にかける。あらゆるものがゆるやかに連鎖してゆく公園内はまさに混沌そのもので、日常と非日常がどんどん重なり、時に入れ替わってゆく展開は、残酷さすら帯びてくるほどの鮮やかさ。

そんな中で、ついに姿を現す〈チェッコさん〉の正体、そして新たな〈チェッコさん〉となってしまった人物が迎えた結末。当然の因果と思いたくもなるし、けれど一方ではこれもまたハッピーエンドなのだと思わざるを得ない。この作者の書く、こういう理不尽さがたまらなく好きだと改めて思わされた。


福井県代表としてインターハイに連続出場している福蜂工業高校バレー部で、越智は憧れのスター選手である同級生・三村とチームメイトになる。しかしベンチ入りできぬまま負傷し、退部を考えていた越智に、顧問はマネージャーになることを勧める。病院でたまたま三村に遭遇した越智は、その苛立ちを三村にぶつけてしまう。そんな越智に三村は、マネージャーになれば選手でなくてもベンチ入りできると力強く宣言。自分が越智を春高のセンターコートに連れて行ってやると言い放ち、越智はその言葉に後押しされてマネージャーになった。――そして高校3年生の夏、春高に挑める最後の大会を前に、三村の調子が芳しくないことに越智は気付いていた。そんな三村に、取材に来ていた記者が清陰高校バレー部の存在をほのめかす。顧問をして「今の福井にいる、もうひとりの天才」とまで言わしめる選手・灰島の存在を知った越智は、後輩・戸倉と共に清陰高校へこっそり偵察に向かうのだが、その場で戸倉がもめごとを起こしてしまう。するとそこに三村も現れ、騒ぎを聞き付けやってきた小田に詫びながらも練習試合を申し込み……。

バレーボールにすべてをかける少年たちを描く青春スポーツ小説、第2弾。
今回は春高出場を狙う清陰高校バレー部の前に立ちはだかる、福井県トップの強豪校・福蜂工業高校との壮絶な対決が描かれてゆく。

清陰高校のユニチカコンビがふたりで上を目指そうとするプレイヤーコンビであるのに対し、福蜂工業高校のエース・三村の相棒とも言える存在はマネージャーである越智。 今回はそんな彼らが激突することになるのだが、目指すものは同じでも清陰と福蜂のチームはまったくの正反対。絶対的エースを中心として厚い選手層を有する福蜂とは裏腹に、清陰はメンバー人数はギリギリだし、灰島を中心とした複雑なプレーを得意とした強いチームにはなりつつあるものの、とにかくまだまだ発展途上。まさに「下剋上」という言葉がふさわしいような戦力差なのだが、灰島は恐れることなくチームを引っ張ろうとし、そしてまたしてもチームメイトたちと衝突することになる。

チームが勝つためにはどうすべきか――灰島も三村もそれを第一に考える。そのために自分を犠牲にし、時にははからずも他人をも犠牲にする。子供の遊戯ではないのだから、仲間意識だとかそういうものは取っ払って「正しい方法」を取るべきだというのは間違いではない。けれどそれだけで物事が前に進むわけではないし、すべてがうまくいくというわけでもない。さらに言えば、その自分の選択が絶対に正しいとは言い切れないことだってある。当然チームを構成しているのは、それぞれ違う意志をもつ人間なのだから、結果として彼らは衝突し、険悪になり、不安になることもある。けれど同時に、それを乗り越えられるだけの絆が、確かにそこにはある。決して短くない時間を費やし、限界を越え、それでもひとつの大きな夢を描いて走る彼らの絆は、いくらほどけかかってもまた結び直せるのだ――今度は前よりも、もっと強く。今回の試合を通して、彼らがチームとしてだけではなく、人間としても成長しているというのが強く感じられた。そしてその中で灰島が見出した新しい未来を、もっと見ていたいと、そう思った。


◇前巻→「2.43 清陰高校男子バレー部」




中学2年生の3学期が始まった頃、黒羽祐仁のクラスに編入してきたのは、かつての幼なじみ・灰島公誓だった。バレーボールをやっているという灰島は、黒羽からバレー部の実情――弱小どころかまともに活動すらしていない――を聞くと、バレー部に入部してひとりで練習を始める。そんな灰島の真剣さに引っ張られ、黒羽も灰島と共に練習を始めるように。そして3年になり、他の部員や新入生たちと共に県大会に出場することになったふたり。しかし試合中、黒羽がプレッシャーでまともに動けなくなり、チームはバラバラ。試合に負けたばかりか、黒羽含む他の部員たちと灰島の間には深い溝ができ、そのままふたりも絶交のような状態に陥ってしまうのだった。それから半年が過ぎ、ふたりは地元の清陰高校へ進学。そこで黒羽はバレー部に入部したものの、相変わらずプレッシャーには弱いままだった。そんな中、かつての県大会の試合を観ていたバレー部の主将・小田は、灰島をどうしてもバレー部に入れたいと考えるが……。

集英社の文芸サイト「レンザブロー」にて連載されていた、高校バレーを題材に少年たちの成長と青春を描く物語。ちなみにタイトルの「2.43」というのは、一般男子バレーのネットの高さ(2m43cm)のこと。そんなに高いのか、とまずここで驚かされる。

物語は黒羽と灰島の再会、そしてふたりの関係を軸に展開。東京の中学から転校してきた灰島は尋常ではない「バレーバカ」で、とにかく生活のすべてをバレーに傾けている状態。バレー以外見えていないのと、あまりにも正直かつ素直すぎる性格が災いして、どちらかといえば周囲に敵を作りまくるタイプ(でもって本人はまったく気にしていないし気付いてもいない)だったりする。そんな灰島にはかつて、チームメイトを自殺未遂にまで追い込んだという過去があった。しかしそんな彼を黒羽は偏見の目で見ることなく、ずっとその背中を追い続けていく。「おまえの評価は、おれが自分で決める」――その黒羽の言葉が、どれだけ灰島の支えになったのだろうか。

そして黒羽にとっても灰島は大きな存在。バレーに本気になるきっかけを与えたのは灰島だし、黒羽の能力を生かしてくれたのももちろん灰島だった。中学時代の県大会敗退がきっかけで黒羽は灰島とは断絶状態に陥るのだが、黒羽だけでなく読んでいるこちらも、灰島は黒羽に愛想を尽かしてしまったのかと思いこんでいた。しかしその灰島の真意が明かされるエピソードでは、先の評価のエピソードと同様、涙が出そうな想いでいっぱいにさせられる。そうやって反発を繰り返しながらも互いを認め合ったふたりの姿はまさに青春そのもので、とにもかくにも眩しくて仕方ない。他のチームメイトも含め、ようやく清陰高校バレー部として揺るぎない絆で結ばれた彼らが、これからどんな試合を見せてくれるのか――次巻が気になって仕方ない。

サマーサイダーサマーサイダー
壁井 ユカコ

文藝春秋 2011-10
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高校1年の夏。倉田ミズ、恵悠、三浦誉の3人は、教師である千比呂の呼びかけに応じ、廃校となった母校で備品の片付けを手伝うことに。幼い頃はそれなりに仲の良かった3人だったが、中学生ともなると次第に疎遠になってくる。さらに中学3年の夏に、担任教師である佐野が変死を遂げたこともまた、3人の関係の変化に影を落としていて……。

「別冊文藝春秋」に連載されていた本作は、微妙な年頃の3人が、過去の「罪」とその在り処を振り返ってゆく青春小説。

バレーで推薦入学を果たしたものの、高校で挫折した恵。視力に関わる病のために自分に劣等感を抱く三浦。そしていつの間にかぎこちなくなってしまった三浦との関係を無視できないミズ。お互いに屈折を抱えながらも日々母校に集まる3人だったが、その3人の過去に大きく影響していたのは、担任であった佐野の変死事件のことだった。自分を「蝉」だと言い、1年前――ちょうど彼が28歳になるその時、脱皮するのだと言っていた佐野。ある種の心の病だろうと言われていた佐野の発言に対し、当時のミズはそれを完全に否定することができなかった。ダメな男にハマるタイプだ、と同級生に言われたにも関わらず、佐野のことが気になる――それは恋愛感情ではなかったが――ミズだったが、そのために彼女は大きな「罪」を抱えることになってしまう。

起きてしまったことを消すことはできない。忘れようとしてもそれは記憶の底にこびりつき、いつか必ず浮かび上がってくる。夏に再会したことで、3人の過去も秘密も、サイダーの泡のようにぷつぷつと立ち現われは消えていく。夏の陽射しの中で明らかにされるたくさんの事実、そして想い。消えずに残ったそれらを手にして、3人はすこしだけおとなになったのかもしれない。

イチゴミルク ビターデイズ (角川文庫)イチゴミルク ビターデイズ (角川文庫)
壁井 ユカコ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-04-23
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それは17歳の頃のこと――調子のいい彼氏・都丸と何度も付き合ったり別れたりを繰り返していたあの頃、千種は思いがけず、転校生の美少女・鞠子と仲良くなった。その外見と性格のギャップもさることながら、千種は彼女が語る「非日常の物語」のとりことなっていく。だがあることがきっかけで千種は鞠子と距離を置くようになってしまった。――それから卒業し、上京した千種はもう24歳。いまだに腐れ縁の都丸を適当にあしらいながらOLを続ける千種の前に、大金の詰まったトランクを持った鞠子が現れて……。

24歳の現在と17歳の過去のエピソードが交互に語られる本作は、奇妙な縁が絡まり合っては解けてゆく、不思議な青春ストーリー。
過去編では千種と鞠子の関係、そして千種と都丸の関係が交互に綴られてゆく。3人の通う高校に語り継がれるお話――とある女生徒が妊娠してしまうが、相手に拒絶され、焼身自殺を図ったという物語。その「女生徒」が鞠子の母親で、亡くなった女生徒から生まれたのが鞠子なのだと、彼女は語る。その「物語」に魅了される千種だったが、やがてその物語に見え隠れする齟齬に気付き始める。そして現在、疎遠だったはずの鞠子がなぜか大金を手に現れる。自分は殺人犯で、殺した相手から奪ってきたお金を持ってきたのだ、と千種に告げて。

昔も今も千種は鞠子に振り回され、翻弄され続ける。同じように自由に生きている都丸にも振り回され続け、職場でも地味に働き続ける千種だからこそ、そんな鞠子の奔放さに惹かれてしまうのかもしれない。けれど17歳の、世界の広さをまったく知らず、井戸の底で夢を見ていたような、あの頃とはもう違うのだ――そう言わんばかりに、千種は再び鞠子を拒絶しようとする。現実離れした行動力と奔放さをいまだに持っている鞠子に、千種はどこか苛立ったのかもしれない。それはきっと彼女の存在そのものが、眩しくて羨ましくて、けれどどこか疎ましい、そしてもう手に入ることのない、なにかきらきらしたものみたいだから。

仲良くなって、喧嘩して、再会してなんとなく仲良くしてみて、でもまた喧嘩して。仲直りしたかと思ったらまたいらん喧嘩したりして、そんな日々が続いて行く。成長して、現実を見て、いろいろなものを諦めてきたけれど、昔も今も変わらないものもある。結局なんだったのかなあ、なんて思いながらも、どこかすっきりした気分になってしまう。そんな不思議な読後感があった。

クロノ×セクス×コンプレックス〈3〉 (電撃文庫)クロノ×セクス×コンプレックス〈3〉 (電撃文庫)
壁井 ユカコ

アスキー・メディアワークス 2010-11-10
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元の世界からクロックバードへと戻ってきたミムラだったが、そこで見た光景――様変わりした故郷、自分よりも男らしい「三村」、そしていなくなってしまった幼なじみの小町のこと――が頭から離れずうわの空。オリンピアとも先の事件以来気まずいままだったが、それすら気にする余裕もなかった。一方オリンピアの方は、ミムラの無実を認め、ミムラをお茶会に誘う。仲直りしたふたりがひょんなことから出会ったのは、風変りな研究生・エマ。彼女が研究しているという太古の地球の姿を見ていたふたりだったが、その中にミムラは、自分が通うはずだった高校の、その制服の切れ端のようなものを見つけてしまう。故郷での「三村」の言葉、そして恐竜時代にあるはずのない制服の切れ端――ミムラはその持ち主が小町である可能性に思い至り……。

シリーズ3巻は急展開、次第に状況は重苦しいものに。
故郷へ戻ったミムラが見たのは、自分以上に男らしくふるまう三村(中身はもちろんミムラ・S・オールドマン)の姿だった。なぜか帰国子女ということになっている三村に連れられて家に帰ってみると、そこは自分がかつて住んでいたのとは全く違う、洋風な家になっていた。ミムラと三村が入れ替わったことで、時間の流れがその状況になじむように変わってしまったためなのだという。そしてその中で、幼なじみの小町は姿を消していた――否、存在自体がなかったことになっていた。その事実に驚くミムラ。そんなミムラに三村は告げる。彼女の目的は、この時間軸の3年後、この場所で〈永久時間剥奪者〉――クロックバードの図書館塔に幽閉されている司書――が、彼を現在の状態に至らしめる原因となる歴史の大改変を行うからなのだと。そしてそれを間近で見届けることが彼女の願いなのだと。狂気の色をたたえた瞳で〈永久時間剥奪者〉のことを語る三村には、ミムラと同様、こちらも慄然とさせられる。

そんな故郷での体験、そして研究室棟で見てしまったもの、さらには以前から〈永久時間剥奪者〉がミムラに告げていた言葉「小町を忘れるな」――これらを結び付けた時、ミムラの中で〈永久時間剥奪者〉の正体、そして彼がやってのけたことが何だったのかが分かる――分かってしまう瞬間は、故郷で垣間見た「三村」の狂気以上に驚いてしまう展開。

だがそんなミムラを健気にも支えようとするのがオリンピア。序盤は妙にお笑い担当(笑)になりつつあった彼女だが、ミムラの無実を認め、彼女の力になろうと無茶な魔術を行使する。その向こう見ずな性格のおかげでいろいろと問題は起こりまくりだが、彼女はへこたれない。初めてできた友人を守りたい。そのためだったらなんだってやってみせる。そんな彼女の決意は無鉄砲だけど、とても眩しい。自暴自棄になりつつあるミムラにとって、彼女が救いになればいいのだけど。


◇前巻→「クロノ×セクス×コンプレックス2」

クロノ×セクス×コンプレックス 2 (電撃文庫 か 10-18)クロノ×セクス×コンプレックス 2 (電撃文庫 か 10-18)
壁井 ユカコ

アスキー・メディアワークス 2010-08-10
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ひょんなことから謎の女子「ミムラ」の意識と入れ替わってしまった普通の少年・三村は、「身体は女・心は男」状態で魔法学校に入学し、女子寮で暮らすはめに。そんなある日、ミムラはついに元の世界に戻るための許可書を手に入れる。元の世界にいるはずの「三村(ただし中身はミムラ)」を探し出し、元の状態に戻りたいと願うミムラだったが、一方でこの学校での暮らしを失いたくないと思い始めていた。その頃男子寮では、バーニーという男子生徒が上級生に押しつけられたウサギをめぐってひと騒動。ひょんなことからミムラはその騒動に巻き込まれることになり……。

久しぶりのシリーズ2巻。
女の子としての暮らしにも慣れつつあり、秘密を知っているルームメイトのニコ、そして目の離せないツンデレお嬢様・オリンピアとの日々を楽しむようになっていたミムラ。だから、元の世界に戻るための手段を得ても、すぐに戻ることができなくなっていた。
そんな中、不意にミムラが気付いたのは、この世界に来るきっかけになった入学許可書のこと。本物の「ミムラ」が入学するはずだった学校の、その書類に書かれていた名前は「ミムラ」ではなく「三村朔太郎」だった。ということは、男子寮に入寮予定だったのに、式の直前に姿を消した人物(=三村朔太郎?)がいたのでは、と考えたミムラは、手掛かりを求めて男子生徒に接触を試みることに。

かくして出会ったのがバーニーという同級生。初対面なのに変な発言を繰り返すバーニーに呆れるミムラだったが、それには理由があった。すなわち、魔法実験を施されたウサギのせいで、タイムリープを繰り返してしまうということ。バーニーとミムラが初めて会った瞬間は、バーニーにとっては「初めて」ではなかった――切り取られバラバラになった未来の時間軸の中で、バーニーはミムラに会ったことがあったから。

そんな感じで初対面は微妙なふたりだったが、さばさばした性格のミムラ(それは中身が男だからなのだろうが……)と接するうちに、女子が苦手だったバーニーは意識を改める。それどころか、そんな男まさりのミムラが時折見せる女らしさに、思いがけず意識してしまう場面も。ミムラの方は中身が男だから、時折ふと出てしまう女らしいしぐさも言葉づかいも計算ではなく、すべて天然のなせるわざ。だからよけいに恐ろしいというか、それに動揺するバーニーを見るにつけ、微笑ましいような可哀想なような、なんとも複雑な気分になってくる(笑)。

ミムラとバーニーの関係、バーニーの過去に起きた事件のこと、そして今回のタイムリープ現象のことなど、いろいろと気になるエピソードが満載なのだが、特に気になるのは終盤の展開。意を決して元の世界に戻ったはずのミムラが再び魔法学校に戻ってきたのはなぜか――ひいては、元の世界で何が起こっていたのか。動揺するミムラが見たものはなんだったのだろうか。

◇前巻→「クロノ×セクス×コンプレックス1」

カスタム・チャイルド ―罪と罰― (メディアワークス文庫)カスタム・チャイルド ―罪と罰― (メディアワークス文庫)

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遺伝子の研究が進み、いつしか子供を産むときに、髪や瞳、肌の色、さらには性格の傾向など、あらゆる形質遺伝子を自分で好きなように選び、思い通りの子供を「作れる」ようになった時代。トランス・ジェネティクスの最大手企業のサポートセンターに勤める知佳の元に、大きなトランクが届けられる。中に入っていたのは彼女の勤め先の「商品」――もとい、遺伝子操作を受けた子供だった。カスタマイズしたはずの子供が思うように育たないというクレーマーの母親が送りつけてきたその子供――倫太郎を、知佳は引き取って育てることになる。――それから10年経ち、倫太郎は予備校でふたりの同級生と出会う。ひとりはトランスジェニックではなく、そのために劣等感を抱き続ける少年・清田。そしてもうひとりは、オタクの父親によってアニメキャラそのものの容姿に作られ、そのキャラと同様の性格や行動パターンを刷りこまれた少女・レイ。どこか歪んだ3人の出会いは、その歪みをさらに大きくしていくことに……。

メディアワークス文庫での新作は、作者の原点だという「遺伝子工学分野だけが極端に発展してしまった仮想現代」モノで、その歪んだ世界の中で、歪められた子供たちが生き、悩み続ける青春小説。とはいえ、その読後感は決してさわやかではない。

そもそも倫太郎の出自からすでに大変なことになっていて、たとえ知佳に引き取られ、愛情を受けて育っていても、幼い頃の屈折が消えることはない。それは清田も、レイも同じこと。幼い頃から踏みにじられ歪められた心は、記憶は、決して消えることはない。傷を抱えたまま互いを救おうとする3人の姿には確かに「救い」があるが、結果としてはそうも言いきれない。サブタイトルの「罪と罰」という言葉が暗く低く響いてくる、そんな結末。けれど、読まなければよかったとは思わず、なんとも奇妙な気持ちが手元に残る。

クロノ×セクス×コンプレックス 1 (電撃文庫 か 10-17)クロノ×セクス×コンプレックス 1 (電撃文庫 か 10-17)

アスキー・メディアワークス 2009-11-10
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ごく普通の時計屋の息子・三村朔太郎のもとに届いたのは、聞いたこともない「魔法学校」とやらの入学許可証。何かのいたずらだと放置していた三村は、そのまま高校の入学式の日を迎える。三村の家に修理に出されていた、亡くなった祖父のものにそっくりなアンティークものの懐中時計の配達を頼まれていた三村は、時計を抱えたまま高校へ向かおうとするが、そこで見知らぬ少女とぶつかってしまう。そのままどこかへ行ってしまった少女を尻目に、父に託された地図を基にたどり着いたのは、例の「魔法学校」その場所。しかも気付けば三村の姿は先ほどぶつかった少女のそれになっている上、彼女――「ミムラ・S・オールドマン」はこの魔法学校の新入生だということを知り……。

壁井ユカコの新シリーズは男女入れ替わりの上、魔法学校でタイムリープという不思議てんこ盛りストーリー。

意識は「三村朔太郎」、けれど身体は「ミムラ・S・オールドマン」――この現象について悩みつつ、三村は学園生活を送ることになってしまう。女子寮暮らし、女生徒としての生活、「ミムラ」と同じく首席合格者であり、ゆえに「ミムラ」ライバル視するお嬢様・オリンピアとの関係、そしてルームメイト・ニコの命による「王子様キャラ」作戦の遂行――まあ「王子様キャラ」のあたりは、元が男子だから多少はやりやすいようだが――。女の子の実態を知ってしまった三村朔太郎(15歳・男子)の受難は続く。

三村が入学するはめになった魔法学校で教えているのは「時間」にまつわるもののみ。呪文に使われるのモチーフがハインライン「夏への扉」や筒井康隆「時をかける少女」というのもなかなか興味深い。オリンピアと三村が何度も「遡行」を試みて歴史を変えようとするところや、それで引き起こされた現象というのも、面白いがやっぱり怖い。時間を、歴史を変えてはならないという、ごくスタンダードな不文律がない世界というのは恐ろしい。

三村と入れ替わってしまった「ミムラ」が今頃どうしているのかとかも含め、なかなか今後が気になるシリーズ。

14f症候群14f症候群
壁井 ユカコ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-29
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制服を着て群れていれば無敵の女子中学生――14歳の彼女たちに、ある日訪れた微熱と関節痛。向かった病院で処方された薬を飲んだ直後、彼女たちにそれぞれ異変が起こる――9日間の異変が少女たちの運命を変える、奇妙な青春小説。

例えば第1エピソード「性」では、主人公のチホはある朝、突然男になってしまう。親にも友達にも、もちろん彼氏の竹田にも言えず、日々思い悩むチホ。男として生きていこうと、それらしくふるまっても、周囲から変な目で見られるだけ。けれど自分のことを真剣に好きでいてくれる竹田のために、チホはある決断をする。
それまで「エロいことしか頭にない」とばかりに竹田を見下していたチホは、自分が男になってみて、竹田の優しさに初めて気付くことに。そして異変を告白したチホに対する竹田の対応にぐっとくる。

そんないい(?)話から始まる本作だが、これ以降の4編はそれぞれ違うパターンで、チホの友人たちに訪れる異変を描いていく。コミカルだったり深刻だったり怖かったり。そのギャップもまた楽しい、「鳥籠荘」シリーズにも似たテイストの短編連作集。

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