会津藩士の娘として江戸で生まれた青垣鏡子は、長じては白百合と称されるほどの美貌の持ち主。しかし安政の大地震で崩落する家や町を目の当たりにし、その惨状に魅入られて外へと飛び出してしまう。そんな彼女を救ったのは薩摩藩から昌平坂学問所への入所を果たした青年・岡元伊織だった。彼も同じく地震で荒れた町をその目で確かめるために学問所を飛び出したところで鏡子に出会い、そのただごとではない様子に知らず知らずのうちに心を奪われてしまったのだった。娘の命の恩人であると、鏡子の父親や兄が伊織と親しくなり、屋敷に招き入れるようになるが、地震の際の様子を――「本性」を見られてしまった鏡子は苛立ちを隠せない。そんな折、鏡子の縁談が調い、彼女は会津へと戻ることになり……。
「文芸カドカワ」および「カドブンノベル」にて2018〜2019年にかけて連載されていた時代小説。幕末の江戸と会津を舞台に、図らずも敵同士となってしまった男女の数奇な運命が描かれていく。
会津藩士の娘として、幕府の忠臣たれという藩祖の言葉を刻み込まれて生きてきた鏡子。薩摩藩から江戸へ出て、尊王攘夷に逸る人々の狭間で奔走し続ける伊織。大地震という、まさに世界の終わりのような状況の中でふたりは出会い、そして惹かれ合うことになる。それもすべて、ふたりが似た者同士――何事にも情を抱けず、生きるためにこれといった目的も見出せず、がために「世界の終わり」にどうしようもなく惹かれてしまう、そんな性状を抱えているがゆえに。
鏡子は「会津の女」として、いつでも周囲の誰かの真似をしながら、そしてそれを周囲に感づかれないようにしてなんとか生きてきた。だからこそ、鏡子はそんな自分の在り方に戸惑い、これを唯一知ってしまった伊織に対して憎しみにも似た想いを抱くようになる。空っぽだった彼女の中に、伊織という存在は唯一灯った炎であり、深く打ち込まれた楔のようなものだったのだ。だから同じ性状を持ちながら、それでも「男」であるがゆえに鏡子とは別の生き方を選ぶことができる伊織を、どこかうらやましくも思っていたのかもしれない。いよいよ自身の命も危険にさらされるというまさにその最期の時に、ようやく彼女は自分の望みと正面から向き合うことになる。そんな彼女に訪れる結末は、彼女にとってはきっと、知らず知らずのうちに育っていたたったひとつの「望み」が叶う瞬間だったのだろう。だからそこには悲壮感のというものはいっさい存在しない。ただただ苛烈、あるいは壮絶といった言葉がふさわしいラストシーンだった。

















