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読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 須賀しのぶ

荒城に白百合ありて
須賀 しのぶ
KADOKAWA
2019-11-21

会津藩士の娘として江戸で生まれた青垣鏡子は、長じては白百合と称されるほどの美貌の持ち主。しかし安政の大地震で崩落する家や町を目の当たりにし、その惨状に魅入られて外へと飛び出してしまう。そんな彼女を救ったのは薩摩藩から昌平坂学問所への入所を果たした青年・岡元伊織だった。彼も同じく地震で荒れた町をその目で確かめるために学問所を飛び出したところで鏡子に出会い、そのただごとではない様子に知らず知らずのうちに心を奪われてしまったのだった。娘の命の恩人であると、鏡子の父親や兄が伊織と親しくなり、屋敷に招き入れるようになるが、地震の際の様子を――「本性」を見られてしまった鏡子は苛立ちを隠せない。そんな折、鏡子の縁談が調い、彼女は会津へと戻ることになり……。

「文芸カドカワ」および「カドブンノベル」にて2018〜2019年にかけて連載されていた時代小説。幕末の江戸と会津を舞台に、図らずも敵同士となってしまった男女の数奇な運命が描かれていく。

会津藩士の娘として、幕府の忠臣たれという藩祖の言葉を刻み込まれて生きてきた鏡子。薩摩藩から江戸へ出て、尊王攘夷に逸る人々の狭間で奔走し続ける伊織。大地震という、まさに世界の終わりのような状況の中でふたりは出会い、そして惹かれ合うことになる。それもすべて、ふたりが似た者同士――何事にも情を抱けず、生きるためにこれといった目的も見出せず、がために「世界の終わり」にどうしようもなく惹かれてしまう、そんな性状を抱えているがゆえに。

鏡子は「会津の女」として、いつでも周囲の誰かの真似をしながら、そしてそれを周囲に感づかれないようにしてなんとか生きてきた。だからこそ、鏡子はそんな自分の在り方に戸惑い、これを唯一知ってしまった伊織に対して憎しみにも似た想いを抱くようになる。空っぽだった彼女の中に、伊織という存在は唯一灯った炎であり、深く打ち込まれた楔のようなものだったのだ。だから同じ性状を持ちながら、それでも「男」であるがゆえに鏡子とは別の生き方を選ぶことができる伊織を、どこかうらやましくも思っていたのかもしれない。いよいよ自身の命も危険にさらされるというまさにその最期の時に、ようやく彼女は自分の望みと正面から向き合うことになる。そんな彼女に訪れる結末は、彼女にとってはきっと、知らず知らずのうちに育っていたたったひとつの「望み」が叶う瞬間だったのだろう。だからそこには悲壮感のというものはいっさい存在しない。ただただ苛烈、あるいは壮絶といった言葉がふさわしいラストシーンだった。

夏の祈りは (新潮文庫)
須賀 しのぶ
新潮社
2017-07-28

県立の進学校である北園高校は野球部の強豪校としても名を知られている。過去最高成績は、30年前の埼玉大会準優勝。以来、北園高校野球部にとって、甲子園出場は悲願であると言われていた。昭和63年――北園高校創立60周年にあたるこの年は、OBたちからも特に期待をかけられており、ゆえに主将である香山はその重圧を人一倍感じ、同時に忌々しくも思っていたのだった。そして迎えた準決勝、相手は香山の妹がマネージャーを務めている溝口高校。今大会では「逆転の溝口」として連日地方メディアに取り上げられるほどに勢いのいいチームとなっていた。試合中、主将の支倉が実に楽しそうにプレーする姿に、香山はますます苛立ちを募らせ……。

「yomyom」に連載されていた、県立北園高校野球部における、ほぼ10年おきの「夏」を描く年代記的連作集。

すべての元となるのが昭和33年大会での「準優勝」の結果。ここから北園高校は悲願の甲子園進出を目指し続けることとなる。節目ということもあってか、特に10年おきに期待値が高められる部内で、在籍する選手たち、あるいはマネージャー、あるいはそれを支える大人たちの姿が描かれていく。

何十年もの間かけられ続ける「期待」というのは想像を絶する重さだと思う。そんな重みに押しつぶされそうになりながら、それでも選手たちはそこにさらに自分たちの夢を積み重ねていく。大矢博子による解説にもある通り、高校生として実際にプレーするのはたった3年間だが、その夢は、期待は、その先の世代へと連綿と受け継がれていく。たくさんの人々が試合で得た喜びが、悲しみが、悔しさが、すべてが「祈り」となって積み重なってゆくのだ。それぞれの年代で起きる問題を描いているそのかたわらで、「過去があるから現在がある」というのがまざまざと浮かび上がってくるようなエピソード――例えば過去の部員が野球部顧問やマッサージ師として学校に戻ってきたり、女子マネージャーの存在が認められるようになっていたり――が存在するという点でも、時間の積み重ねというものを感じさせられて、なんだか自分もこの高校のOBとして彼らの活躍を見守っているような気さえしてきたのだった。


三ツ木高校野球部は、主将の笛吹とエースの月谷によって急成長を遂げようとしていた。厳しい練習や格上相手との練習試合を経て着実にチームとしての実力をつけていくが、その一方で、かつてのゆるい活動内容とのギャップに苦しむ者や、自身の能力に悩む者もいた――特に捕手の鈴江は、進化を続ける月谷の能力と、それを最大限に引き出せない自分の状態に悩み始める。精神的にも追い詰められてきた鈴江は、夏の大会を前にして、退部すら考えるようになってきて……。

高校野球を題材にしたシリーズもこれにて完結。今回は前巻までに登場していた三ツ木高校野球部をメインに据え、彼らが挑む夏の大会までを描いてゆく。

甲子園を目指す三ツ木のエース・月谷を軸に、その周辺の人々を浮き彫りにしてゆく今巻。月谷の相棒となる鈴江。一度は部を辞めたものの再び戻ってきて、主将としてあえて憎まれキャラを買って出る笛吹。いつもどこか本気になりきれない高津。名門・東明高校のエースであり月谷のライバルでもあるが、思わぬアクシデントに見舞われる小暮。そしてそんな彼らを見つめるマネージャーの瀬川と、新聞記者の泉。どんなに華々しくても、あるいは格下だと見下されても、最終的に目指したいのは甲子園であり、「勝つ」ということ。もちろんその願いは誰しもかなえられるはずはないけれど、それでもあがきながら彼らはひたすら、目の前にあるたったひとつの勝利だけを夢見て全力で走っていく。けれど敗れたからといって、これまでのすべてが否定されるわけでもないし、まったく報われないなんてことはひとつもない。そんな当たり前だけど、どこかで見落としてしまった気がすることを、不意に思い出させてくれるような物語だった。


◇前巻→「エースナンバー 雲は湧き、光あふれて」


県立三ツ木高校に赴任した27歳の生物教師・若杉は、経験もないのになぜか野球部の監督を任されることに。初戦敗退が当たり前なチームであることにほっとする若杉だったが、主将の中村の熱意にほだされ、自身も生徒たちと一緒になって練習に励むようになる。そんな中で若杉は、2年生のピッチャー・月谷の投球スタイルにバラつきがあること、そしてキャッチャーである中村との息が合っていないことに気付き……。(「監督になりました。」)

昨年発表された、高校野球を題材とした短編集「雲は湧き、光あふれて」の続編となる作品集。三ツ木高校野球部がメインの2作と、スポーツ新聞記者・泉が主人公の1作が収録されている。

当事者、つまり学生サイドのエピソードとなる「主将とエース」も青春真っただ中!というモヤモヤ感とそれを吹き飛ばす清涼感にあふれているのだが、大人になった身としては、教師サイドのエピソードとなる「監督になりました。」も興味深い。野球経験がほぼないにも関わらず野球部の監督を任された男性教師・若杉が、次第に部員たちのひそやかな熱意を掘り起こし、名実ともに「監督」となっていくまでが描かれていくエピソードなのだが、やはり難しいのが、才能と努力のどちらをとるべきかということ。前任の監督が努力と協調性を重視しており、そのためにトラブルが起きたということも、この問題の複雑さに拍車をかけてゆくことになる。

伸びしろがなくとも、人一倍努力し、なおかつ3年生でもうすぐ引退になるという中村をどうするか――勝つために外すか、それともその努力を認めて使うか。おとなにだって判断できないのだから、こどもである他の部員たちが判断するのも難しいはずで、だからこの問題に正解というものはきっと存在しないのだろう。しかしそれでも決断しなければならないのが監督であり、若杉はそれをやり遂げて見せるのだ。これもまた青春だなあ、としみじみ思わされる結末にはひと安心といったところ。そしてそんな選択がそこらうちじゅうに転がっていることもまた、青春なのかもしれない。


◇前巻→ 「雲は湧き、光あふれて」


とある公立高校の野球部で、足の速さと勘の良さを買われ、ピンチランナーとしてベンチ入りするようになった須藤。春の大会が終わり、夏の大会に向けて練習を始めようかという時期に、須藤は監督に呼び出されてある命令を受ける。いわく、益岡専用のピンチランナーになれ、と。チームの大黒柱として、そして超高校級スラッガーとして、内外から注目を受けていた益岡だったが、激しい練習がたたって腰を痛め、野球選手としての活躍は難しいという状態になっていた。それでも益岡はマネージャーと共に部員をサポートする一方で、リハビリを続けていた。そんな努力の甲斐あって、1打席であれば試合出場も可能になった益岡を、監督は代打として試合に起用し、出塁後は須藤を益岡の代わりに走らせようというのだ。益岡もそれを強く望んでおり、どころか自分がいない今のチームが試合に勝ち進むのは難しいとすら言い放つ。腰の故障以来、益岡の存在に複雑な想いを抱いていた須藤は、そんな彼の態度に反発を覚え……。(「ピンチランナー」)

高校野球を題材にした短編集。
故障により代打としてしか試合に出られない少年と、その代走をするために試合に出ることになった少年との衝突を描く「ピンチランナー」、野球経験のない新人女性記者が、強豪校と弱小校との試合の取材に向かう「甲子園への道」、甲子園を目指しながらも戦争によって夢をあきらめざるを得なかった球児たちの最後の夏を描く表題作「雲は湧き、光あふれて」の3編が収録されている。

《代打》と《その代走》という、試合にほんの一瞬しか出られないふたりが、衝突しながらも野球に――甲子園行きにかける想いを認め合う「ピンチランナー」もいいが、「甲子園への道」に登場するふたりの選手の意外な繋がりや、仕事がうまくいかずくじけそうになった主人公がその少年たちに励まされるという展開もいい。唯一、舞台が現代ではない表題作も、戦争というどうしようもない大きな歴史の動きに翻弄される少年たちの様子と、それでも唯一の希望となっていた甲子園という存在がありありと描かれていて、こみ上げるものがある。つまり、どの話も良い。良すぎる。

高校野球に縁のない私でも(母校には野球部がなかった)、甲子園という場所が高校球児にとって重要な場所であることはわかる。この3編に登場する彼らも例外ではなく、体を壊してまでその場所へと向かおうとする。あるいは届かないと分かっていても、それでもなお手を伸ばさずにはいられない。そしてその強い意志は、周囲の人間たちも巻き込んでゆく。様々な葛藤もしつつ、真っ直ぐに夢に突き進んでゆく彼らの姿が眩しくて仕方ない。ちなみにタイトルとなっている「雲は湧き、光あふれて」というのは、夏の大会歌の一節だという。このフレーズがすべてを表していると、素直に感じられるような短編集だった。

北の舞姫  芙蓉千里II北の舞姫 芙蓉千里II
須賀 しのぶ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-04-29
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「酔芙蓉」がなくなり、山村とも別れた後、フミは黒谷の庇護の元、芸妓「芙蓉」としてハルピンで暮らしていた。時には軍関係の席にも呼ばれ、もてはやされるフミの前に、ふたりの人物が現れる。ひとりは黒谷の友人でもある著名なプリマ、エリアナ。そしてもうひとりは黒谷の弟、武臣。ふたりはフミの舞が小手先のものであると一蹴する。ふたりの言葉を聞いて以来、フミは舞うことができなくなってしまい……。

単身中国に渡った少女・フミの一代記「芙蓉千里」、第2部は舞姫「芙蓉」として成長する姿が描かれてゆく。
穏やかに、それなりに日々を過ごしていたフミの胸に、エリアナや武臣の言葉が刺さる――元が辻芸人あがりで、中国に渡ってからも本格的に舞を習ったわけではないフミ。芸妓として黒谷に囲われているのに、その黒谷を満足させられていなかったことにフミは愕然とする。自分のやってきたことが無駄かもしれない、と一瞬でも思ってしまった時の気持ちはいかばかりか。

けれどそこで打ちひしがれることなく、次のステップに向かおうとするのがフミ。修行のためにシベリアへ向かうのだが、またそこでひどい目に遭ったり。そこで意外な人物が彼女を救ってくれるのだが、その人物とも満足に言葉も交わせぬまま。じりじりしてるところに、さらにあれやこれやとフミに苦難が押し寄せる。
だというのに、そんな困難をものともせず、毅然として舞に向き合ってゆくフミの姿がまぶしい。しかしそんなフミに、かつて「狐憑き」と呼ばれていたウメは残酷な「お告げ」をする。フミが舞姫への道を歩むのは神仏へ向かう道であり、そこに「フミ」の幸福はないのだと。

黒谷と穏やかな関係を築くこと。芸妓として舞の道を究めること。けれどそこにフミの――女としての、人としての幸せはないのだという。それを身をもって感じたフミは、再び新たな方向へと走り始める。舞姫「芙蓉」ではなく、ただの「フミ」として走り始めた彼女がたどり着くのは、一体どこなのだろうか。


◇前巻→「芙蓉千里」

神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)
須賀 しのぶ

早川書房 2010-08-25
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1940年になり、ナチスドイツの暴虐は次第にエスカレートしてゆく。そんな中、SS将校のアルベルトは、行方不明になった妻が反政府運動に関わっていたとして逮捕、激しい尋問を受ける。やがて解放されたアルベルトは特別行動隊での任務を課せられ、戦場に向かうことに。一方、マティアスはファウルハーバー大司教から司祭になるために神学校に入るよう勧められる。最初は拒もうとしたマティアスだったが、かつての師からの手紙を読み、司祭になることを決意。だが戦況が厳しさを増す中、志半ばでマティアスも徴兵され、衛生兵として前線へ向かう。そんな中でふたりは再会して……。

第2次世界大戦中のドイツを舞台に、それぞれナチス将校と聖職者となったふたりの男の足跡と苦悩を描く歴史ロマン長編作、完結編。

神を棄て、ナチス将校として行動するアルベルト。そして神を一途に信じ、聖職者として行動するマティアス。一見正反対の道を歩むふたりだったが、その信念は決して他人から与えられたものではなく、自身の中にある信念によるもの。単純な狂信ではなく、そこには自身の意思が介在している。だからこそ、アルベルトは無抵抗のユダヤ人やパルチザンを皆殺しにすることを避けようとするし、マティアスは教皇も含むカトリック上層部の動向に疑問を呈す。そうしてふたりがたどり着いたのは陰惨たる戦場。この世の地獄を見たふたりは再会し、共にローマを目指すことになる。アルベルトが提案したその理由は、死にゆく兵士たちを救済するため、マティアスを司祭にするということ。このあたりから、アルベルトが冷酷無比なSS将校ではなく、ナチス盲信とはやや異なる別の信念を持って行動していることに気付かされる。

やがてヒトラーが死に、ドイツは降伏。ドイツにとっての受難が始まる中、マティアスはアルベルトが捕らえられたことを知る。そして時を同じくして、行方知れずになっていたアルベルトの妻・イルゼと再会。ここで語られるすべての真相にはただ瞠目させられるばかり。凄絶な戦争を通じて、「信仰」とは何だったのかを考えさせられる。そして、絶望と希望が混ざり合って、ただ白い光が差し込んでくるようなラストはあまりにも美しかった。


◇前巻→「神の棘1」

神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)神の棘 1 (ハヤカワ・ミステリワールド)
須賀 しのぶ 多田由美

早川書房 2010-07-22
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1936年、ドイツ。ナチス親衛隊保安情報部(SD)の一員であるアルベルトは、上官の指示で国内のカトリック教会摘発任務に就くことになった。そんな彼の最初の任務は、とある死亡事故の調査。亡くなった修道司祭が事故の直前に訪れていた養護施設が、ヒトラー政権に反発する有名な神父・ベールンゼンが院長を務める場所だったことから、ゲシュタポがこれは事故ではないと言い出したことによるものだった。しかも亡くなったというその司祭は、アルベルトが嫌っていた実兄・テオドールだった。アルベルトは「兄を亡くした弟」という立場を利用してベールンゼンに接触しようとするが、そのさなか、幼なじみだったマティアスと再会。幼い頃は「皇帝」と呼ばれ、子供たちの間に君臨していた彼が修道士になっていたことに驚きつつ、アルベルトは彼を利用しようと働きかけ……。

新作は全2巻構成。ナチス台頭下のドイツを舞台に、SDのエリート士官・アルベルトと、ナチスを憎み、反政府運動に手を貸す修道士・マティアスの苦悩と攻防の物語。

アルベルトはその有能さを買われ、どんどん出世していく典型的エリート。けれど兄・テオドールやマティアスとの関係が、わずかずつではあるが彼の足跡に影を落としていく。
そしてマティアスは家族をすべて亡くして修道士となるものの、今度はアルベルトの裏切りによってさらに深く絶望し、反政府運動に身を投じるようになる。

次第に非道さを増すナチスの政策は、ドイツ国内の、ひいては欧州全体の状況を悪化させていく。そんな中でアルベルトも、そしてマティアスも無事でいられるはずもない。今のところは史実をなぞっていく展開ではあるが、ここからふたりの運命がどう変わっていくのか――マティアスだけではなく、アルベルトもまた坂の上から転がり落ちようとしているこの状況が、これからどうなっていくのかが気になる。次巻は8月末予定とのこと。

芙蓉千里芙蓉千里
須賀 しのぶ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-01
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時は明治40年頃。満州、ハルビンの女郎屋「酔芙蓉」にふたりの少女が売られてきた。器量の良い方であるタエは親に売られた身であったが、それにくっついてきた器量の良くない方――フミは、自ら「買われて」やってきた。辻芸人だったフミは、ここで大陸一の女郎になると息巻くが……。

須賀しのぶの新作は、角川書店の携帯小説サイトにて連載されていた、女郎を目指す少女フミの女一代記……とはいえ、まだ結構「途中」な感じ。

女郎になりたいフミは、女郎になりたくないというタエと助け合いながら、下働きとして「酔芙蓉」で暮らす。他の女郎たちの生活を見つめ、偶然出会った謎の青年・山村のことを胸に秘めつつ、成長していくフミの姿が描かれていく。「流血女神伝」や「アンゲルゼ」などと同様、作者お得意の、少女の成長譚を軸としたスケールの大きな物語が展開されていて、読み応えもたっぷり。
ちなみにフミが女郎になれたかどうか……は、読んでからのお楽しみということで(笑)。

時代設定や女郎という特殊な職業のせいもあってか、フミの半生も波瀾万丈。でも、ここで終わりとは言わせない……!なところで本作は幕を閉じる。とりあえず携帯サイトでは現在、タエをメインに据えた外伝が公開されており、さらに秋からは第2部の公開も予定されているらしいので、ますます期待。

アンゲルゼ―永遠の君に誓う (コバルト文庫)アンゲルゼ―永遠の君に誓う (コバルト文庫)
須賀 しのぶ

集英社 2008-11-28
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ついに有紗が倒れた。孵化の兆候が現れた夜、陽菜は敷島から彼女の血を吸うよう命じられ、拒みつつも有紗のためにその命令に従う。有紗のRV能力を得、さらに食事を人工血液に変えたことで、陽菜の「未孵化」としての能力は飛躍的に伸びてゆく。そんな陽菜の様子にマリアは喜び、いつかは孵化した陽菜と共に島を出て、人間たちを駆逐して一緒に暮らしたいと語るのだが、陽菜はマリアの、アンゲルゼとしてのメンタリティにショックを受ける。覚悟を決めた陽菜は、ついに自分の過去と向き合うため、敷島にすべてを聞きに行くことに……。

シリーズ4巻。コバルト文庫というのが信じられないような字の詰まり具合とページ数、さらに本文イラストなしというボリュームで、これにて完結。

近づく人としての「終わり」から目をそむけていた陽菜に覚悟を与えたのは有紗の生き様と、自身の生い立ちに隠されていた真実。わずかではあるが、今までにいろいろな人に守られてきたことを知った陽菜は、今度は自分が皆を守るために立ち上がる。人の後ろに隠れてばかりだった少女が前面に立ち、自らの過酷な運命を受け入れるその姿は、残酷だけど美しい。
やっぱり須賀しのぶは凄い――そう思える結末だった。

アンゲルゼひびわれた世界と少年の恋 (コバルト文庫 す 5-67)アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋 (コバルト文庫 す 5-67)
須賀 しのぶ

集英社 2008-09-02
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新学期。陽菜の身を案じる覚野は、楓や西原を誘い、文化祭でアンゲルゼについての研究発表を行うことに。そんな彼らを横目に訓練を続ける陽菜だったが、ついに彼女にも未孵化としての「進化」の症状――味覚の変化が表れはじめる。食欲を失い教練中に倒れた陽菜は、意識のない状態にも関わらず、そばにいた敷島の血を吸おうとしていたことを知ってショックを受ける。さらにその直後、ついに陽菜に実戦への出撃指令が下り……。

シリーズ3巻。まだ3巻なのに、やっぱり怒涛かつ過酷な展開。
陽菜の未孵化としてのタイプが判明したことで、彼女はさらに過酷な運命の中に投げ込まれてしまう。まだまだ覚悟が足りない彼女がこの運命に耐えられるのかどうかが重要なポイント。そして覚野がどれほど彼女の支えになれるのか。

……というか、殺伐とした状況にあって、意外とうっかり者な覚野にちょっと和んだり。作者があとがきで、サブタイを「もーちゃんがんばれ」にしようとした、と書いていたが、確かに「がんばれ」、な感じではある。がんばれ。

アンゲルゼ最後の夏 (コバルト文庫 す 5-66)アンゲルゼ 最後の夏 (コバルト文庫 す 5-66)
須賀 しのぶ

集英社 2008-06-03
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親友を失った傷も癒えぬ間に、陽菜は夏休みを迎える。しかし能力の検査、そして訓練のために、夏休みいっぱいは基地での合宿を強いられることに。過酷な訓練もさることながら、同じ「未孵化」の少女・有紗の冷たい態度に戸惑う陽菜。さらに次々と明かされる事実に、次第に陽菜は追い詰められて……。

シリーズ2巻。
中学生の少女には耐えられないような訓練、実験、そして迫りくる戦争の恐怖――2年後には「アンゲルゼ」の大活動期が来るというのだが、それはすなわち人類とアンゲルゼとの戦争の開始を意味する。しかも、先の戦争で人間側が使役していたアンゲルゼ・ロンが、現在アンゲルゼ側に寝返っているという可能性をも示唆される。そのため、急ピッチで陽菜の訓練が進められていく。これは「流血女神伝」のカリエ以上に厳しい状況。
さらに、義母の持つ秘密や「未孵化」となった子供の行く末なども明かされ、「最後の夏」というサブタイトルが比喩ではなくなってくる。希望もなにもない、そんな雲行き。

そんな中、救いとなるのは、陽菜の幼なじみである覚野の存在。彼は陽菜の置かれている状況が何なのかを探り始める。いつもは陽菜に冷たい態度をとる覚野だが、これからは彼女の支えになるのかも。今後、陽菜と覚野の関係がどうなるのかも楽しみ。

アンゲルゼ―孵らぬ者たちの箱庭 (コバルト文庫 す 5-64)アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 (コバルト文庫 す 5-64)
須賀 しのぶ

集英社 2008-03-01
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中2の陽菜は父を戦争で亡くし、母も何らかの理由で亡くしていた。しかし母の死因は全く覚えておらず、残っているのは母の形見だというメダイだけ。現在、親戚に引き取られた陽菜は東京から離れた神流島で暮らしていた。
引っ込み思案で思ったことを口に出せず、目立たず嫌われず平凡に、と周囲をうかがいながら過ごす陽菜の心の支えは、近くの山中にいる「マリア」だけ――陽菜の歌声にひかれて集まり、いつしか女性のかたちをとるようになっていた不思議な光。その日もマリアに向けて歌っていると、突然見知らぬ少年が現れる。隣の中学に通っているというその少年、湊の快活さに惹かれる陽菜だったが……。

新シリーズは現代もの+ミリタリー+異生物ファンタジー?
今回の主人公は前シリーズの主人公・カリエとは正反対の超ネガティブ少女。けれど陽菜も恋や友情を経験して、少しずつ成長……していくのだけど、いずれも妙にマイナスな経験ばかりなのはカリエと同じかも知れない。陽菜も今巻だけでも非常に過酷な体験をしたし、おそらくこれからもそうなるのだろうが……。

タイトルの「アンゲルゼ」は、ウイルスで突然変異を起こし、超常的な能力を手に入れた人々の総称。彼らは人を襲い、人を食う。だから世界では、アンゲルゼと人類との間で戦争が起こっている。ゆえに中学生でも兵役はまだないものの訓練は義務付けられているという設定。神流島に派遣されている軍人で、かつて父の死を陽菜に告げた敷島少佐は、陽菜の母の死にも関与しているようだが、さてどうなる。

流血女神伝喪の女王 8 (8) (コバルト文庫 す 5-63)流血女神伝 喪の女王 8 (8) (コバルト文庫 す 5-63)
須賀 しのぶ

集英社 2007-11-01
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カリエは夢の中で神に邂逅する――エティカヤの眠れる神であり、タイアスの負の部分から生まれたオルと。そしてカリエや、彼女の周囲を翻弄しつづけた流血女神・ザカリアと。カリエそっくりのザカリアは彼女に別れと、これから起こることを見届けるよう告げる。
目覚めたカリエはその言葉の通り、神々の伝説の終焉を見届けることになる――。

ついに流血女神伝シリーズも完結。8年かかったそうです。私が読み始めたのが5年ほど前からですが、それだけでもじゅうぶん長い。なので感慨もひとしおです。

エティカヤの、そしてユリ・スカナのルトヴィア侵攻。多くの人々の最期。絶望的な状況の中で、それでも滅びの運命に抗う人々……この最終巻だけでも、シリーズ全体を象徴しているように思えます。

これで神と人との物語は終わり。ということで、もしかしたら子供たちの物語が今後あるかもしれないとのこと。もし本当に番外編のような形で書いてくれるのであれば、ぜひカリエとアフレイムをもう一度会わせてほしい、和解させてほしいと思います。

流血女神伝喪の女王 7 (7) (コバルト文庫 す 5-62)流血女神伝 喪の女王 7 (コバルト文庫 す 5-62)
須賀 しのぶ

集英社 2007-08
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王宮から脱出するためにも、ザカールでの恐怖を克服し、ユリ・スカナにいるザカール人たちに歩み寄り始めたカリエ。一方、いったんラクリゼと別れたエドは、呼ばれるままにイーダルのもとへ身を寄せるが……。

字が詰まってる……。
クライマックス直前とあって、もりだくさんな7巻。他もルトヴィアに戦乱が広がりそうだし、皇帝夫妻もいろいろあるし、イーダルはあんなだし、フィンルはエティカヤでアフレイムに会うものの、アフレイムもアレな感じだし。
長く続いたこのシリーズ、さみしいけれど、泣いても笑ってもあと1冊……って、本当にあと1冊で終わるのか? まったくこの後の展開が読めません。

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