phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 穂村弘

鳥肌が
穂村 弘
PHP研究所
2016-07-15

2012から2015年の間に連載された「鳥肌と涙目」をまとめたエッセイ集。
タイトルの通り、不意に鳥肌が立つような出来事(想像含む)が綴られている。

例えば、駅のホームで、電車待ちの列の先頭に立つこと。小さな子どもと大きな犬が遊んでいるのを見ること。自分だけが知らない「ルール」があることと、それを知らず知らずのうちに破ってしまっているかもしれないこと。コンタクトレンズが無数に増える夢を見ること。これまで付き合って来た女性のタイプがすべて似通っていたこと。初めてできた彼女が初めて自分の部屋に来た時、突然ベッドの下に手を突っ込んだこと。

コミカルなものから本当にぞっとするようなことまでいろいろと挙げられているが、個人的に共感できるものもあるし、一方で「それは考え過ぎだろう」と思うようなものもある。そのあたりはまあ、この作者らしい考え方といったところだろう。

一番印象に残ったのは「フラグ」の話で、目の前にある出来事に対して、普通に考えればありえない行動を自分がしてしまうのではないか、という内容。例えば演劇を見ている最中に自分が舞台に上がってしまったり、赤ちゃんを手渡された途端放り投げてしまったり。自分のことなのに、自分が何をしでかすか分からないという不安感。そんな感じは私にもある。例えば仕事で電動裁断機を使う時、刃の下に手を差し入れてしまいそうな気がいつもする。実際はしないけど、いつかスイッチが入るかもしれない。けれどそんな予想のつかない部分を抱えているのが人間なのかもしれない、と思ったりもして。

君がいない夜のごはん君がいない夜のごはん
穂村 弘

NHK出版 2011-05-25
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「月刊ベターホーム」「きょうの料理ビギナーズ」に連載されていた、料理や食べ物にまつわるエッセイ集。といっても料理に役立つ話ではなかったりする(笑)。けれどどこかに「ああ、あるある」と言いたくなるようなエピソードがちらほら。

たとえば「我がダイエット」。
標準体重をオーバーしているのを気にしてダイエットを考えた穂村さん。不意に訪れた食欲――甘いものを食べたいという欲求に対して、カロリー控えめの五穀米シリアルを食べることに。しかしばりばりばりばり(以下略)と食べ続け、ついに完食してしまう。そして愕然とする。最初のうちは自分の意志で食べていたのに、そのうち惰性というか慣性というか、食欲の赴くままに食べてしまっていたことに気付いて。しかも五穀個目シリアルは「ほの甘い」ので、当初の欲求――甘いものを食べたいというそれはまったく満たされていない。
また、サイン会で差し入れにミニあんぱんをもらってしまった穂村さん。6個入りのそれを持って電車に乗り、1個くらいなら……と食べ始めたら、いつの間にか5個も食べてしまって、また愕然。
袋もののスナック菓子を開けると、私も同じ状態に陥ってしまう。気付けばカラ、みたいな。となると、私も穂村さんと同じく、つい食べてしまう「魔」と戦うための呪文を探さなければ……。

絶叫委員会絶叫委員会
穂村 弘

筑摩書房 2010-05
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映画や小説の中の名台詞、歌詞、日常会話、演説……いろいろなものを見聞きする中で、ほむらさんが気になった言葉を取り上げ、その意味や距離について考える、「ちくま」に2005〜2009年にかけて掲載されたエッセイ集。

たとえばトイレなどで見かける「いつもきれいにご利用いただきありがとうございます」という文言。ほむらさんはこれに衝撃を受け、気味の悪さを覚える。「一線を越えている」「何かを捨てている」とさえ思う。この違和感には、こちらもなんとなく覚えがある。

作者は歌人でありエッセイストでもあるせいか、言葉というものに対するアンテナの角度が、常人のそれとは違う様子。何気なく目にし耳にする言葉も、作者にとっては奇妙なものに見え、聞こえてくることも。そしてそんな時、自分と言葉――あるいは世界――との間に距離が見えてくる。

読んでいるこちらも、ほむらさんの感覚に引きずられ、いつしかその「距離」について考え始める。ほむらさんの感じた「距離」に自分も思い当たるときもあれば、そうでないときもある。そうでないときはくすりと笑えたりもするが、一度距離が――断絶が見えてしまうと、不意に恐ろしくなってしまう。そしてほむらさんはたいてい、その恐怖と闘っている。けれど、その言葉を使う職業をやめることはないのだろう。

人魚猛獣説―スターバックスと私人魚猛獣説―スターバックスと私

かまくら春秋社 2009-12
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スターバックスのHPにて2008年に連載されていたエッセイの書籍化。作者のスタバに対する想いを、読者の投稿したスタバ短歌と共に綴っていく。

「スターバックスの克服」(「にょっ記」所収)や「クリスマス・ラテ」(「本当はちがうんだ日記」所収)というエッセイを書くほど、スタバを恐れ、同時に憧れているのがほむほむ(笑)。にこやかな店員、よさげな雰囲気、長い商品名……どれをとっても素敵で不思議な未知の世界に見えているのかもしれない。
かくいう私もスタバのない町に住んでいるので、どうもスタバにはなじめない、でも憧れる……そんな気持ちはよく分かる。そして、中に入ってもどうしていいのかわからなくなるのも(笑)。

投稿された短歌も、作者の想いも、なんとなく「ああ、わかるなあ」と思える、共感型エッセイ。これを読んだらスタバに行ってみたくなる。まだこわいけど。

いじわるな天使いじわるな天使
穂村 弘

アスペクト 2005-09-22
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「いじわるな天使から聞いた不思議な話」改題の本作は、タイトルの通り「天使」から聞いたというエピソードを収録した不思議なSS集。

一番気に入ったのは「僕の夏休み」というエピソード。
夏休みの自由研究のテーマを「恋愛」にしたクラス委員のマコトは、あらかじめネットで知り合っておいた担任教師・小林先生に接触する。メールのやりとりをするうちに、実際に会うことに。そして当日、待ち合わせ場所にマコトは向かうが、現れた先生は「いち生徒」であるマコトに声をかけ、そのままどこかへ行ってしまう。

先生がマコトをメールの相手と思っていたのかどうかは分からない。けれどマコトは自分が先生の相手たりえないことに、そしていつしか芽生えていた自分の気持ちに気付いてしまう。ささやかな夏の物語であり、少年の成長の物語。

あとがきで作者は「どんな本なんですか」と読者に聞かれてもうまく答えられない、と自ら言っている。そしてこうも答えている――「こんな本です」と。とりあえず読めばわかる本――確かに、それが本作だとしか言いようがない気がする。

にょにょっ記にょにょっ記

文藝春秋 2009-07
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「ほむらさん」による架空の日記……ならぬ「にょっ記」第2弾。

前作にもあったのだが、気になるのが古本シリーズ。
ほむらさんが古書店で買った古本についての日記……もとい「にょっ記」なのだが、いちいち内容が怪しいというか、そもそもそれらの本が実在するのかどうか、そこまで含めて面白い記事。

例えば昭和9年刊行の「新語新知識附常識辭典」について。
当時の新語・新知識をQ&A方式で解説していくものらしいが、質問自体がなにやら変。「キリスト教の十字架は何を意味するのですか?」という質問について、そもそもなんでそんなことが気になるのかというのもあるが、その回答もふるっている。とりあえずイエス・キリストの磔刑の話をした後、「日本の例としては、佐倉惣五郎の磔の刑を大きくしたものと思へば先ず間違ひありません」と締めくくられる。なんで佐倉惣五郎?

そんな感じで、いちいちおもしろく、なんとなく脱力系な日記。それが、「にょっ記」。

整形前夜整形前夜
穂村 弘

講談社 2009-04
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約2年ぶりのエッセイ集。女性誌に連載されていたものを中心に、2005〜2008年にかけて発表されたものを収録。

女性誌掲載のエッセイでは、そのエッセイの掲載号の特集について書かれていたりするのだが、そんな視点がまた面白い。「男の証」というエッセイでは、女性は男性がすることを同じように体験できるということが多いが(ズボンをはくとか)、逆はあまりない、ということから始まる。ほむらさんは化粧をしたこともないし、ストッキングやヒールの高い靴を履いたりすることもない。スカートは1度だけ学生時代のイベントで履かされたことがあるが、心もとなくて仕方なかったという。そんなほむらさんが「男」として、女性の真似できない「あること」を思いつくのだが、よりにもよってそれか、と笑えることしきり。

あと、「共感と驚異」という連作エッセイでは、「小説」と「詩歌」の違いについて、歌人である作者ならではの視点で語られている。小説にあるのは「共感」で、詩歌にあるのは「驚異」。そして人は「驚異」より「共感」の方をより多く求めるから、わけがわからない(から驚けない)とばかりに詩歌を読まず、泣けるなど感動できる(つまり共感できる)小説ばかり読む。若い頃はそれでも「驚異」を求めるから詩歌に触れようとする人もいるが、年をとると次第に「驚異」より「共感」への傾倒が強くなるから、よけい詩歌は読まれなくなるのだと言う。詩人・歌人から作家になる人は多くても逆が少ないのは、この現象のせいだとも。
なんとなくわかる気はする。「共感」できるということはわかりやすいと言うことだから、そちらを求める人が多いのも不思議ではない。言われてみれば納得はできるが、それをたちどころに察知した作者は、やはり「言葉」が形作る世界に対しては敏感なのだなと思った。

にょっ記 (文春文庫)にょっ記 (文春文庫)
穂村 弘

文藝春秋 2009-03-10
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歌人である作者による、架空の日記という体裁の作品。どうでもいい疑問、時々現れる天使のこと、他人の会話、妙な妄想……思わず納得したり、くすりと笑ってしまうようなことがたくさん詰まっている。

例えば8月1日のタイトルは「ジャニーズ」。ジャニーズの一員になることを想像するほむらさん。可能性は限りなくゼロに近い。が、ゼロではない。記者会見の会場で「最年長です」と恥ずかしそうに言う。キムタクに「アニキ」と呼ばれ、「芸能界では君が先輩だから」と恐縮する。そんな日記。
……いや、日記ではなく、にょっ記。

かつて作者は自分のことを「おじさんの皮をかぶった女の子」と言ったことがあった。そんなかわいらしさもたくさんあるし、中にはちょっとした下ネタ的ジョークも混じる。そのギャップもまた楽しい。

ジャンル的には川上弘美「椰子・椰子」に似た雰囲気なので、そちらが好きな人もぜひ。

求愛瞳孔反射求愛瞳孔反射
穂村 弘

新潮社 2002-12
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歌人である作者が2002年に出版した詩集。最近、河出書房新社にて文庫化されたけれど、あの表紙はファンシーすぎるよ。
もともとの新潮社版は中のページがパステルカラーできれい。でも内容はほむほむっぽくてえぐかったりもする。そこがよいのですが。
特に印象に残ったのは「海へ来たのは」。

 海へ来たのは
 想い出のためではありません
 だいいちここに想い出はない


胸をえぐられるような冷たさ。

あと「デニーズ・ラヴ」もほむほむらしくて好きだ。

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