忘れられたワルツ 絲山 秋子 新潮社 2013-04-26 売り上げランキング : 84236 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
雑誌「新潮」に掲載された短編7本を収録した作品集。
「今」を描き出す作品、とある。「今」というのはつまり、あの震災を経た「今」ということ。直接被災した人、そうでない人、登場人物は様々だが、それでも彼ら彼女らの生活は普通なようでいて普通ではなくなってしまった――「普通」の意味が変わってしまった。訪れる日常はこれまでと同じようでいて、どこかが決定的に違ってしまっている。それは意識の問題であったり、または実際に何かを喪ったことによるものであったりもする。とにかくそれは深い、消えない爪痕を確かに残している。見える見えないに関わらず。
表題作はその決定的な作品と言えるけれど、この作品集では、この後に「神と増田喜十郎」という短編が置かれている。その中で神はごちる――神は誰も救わない。祈りが多いとやや棲みづらい。けれどいつでも、そこにいるのだと。そこで見ているのだと。これを救いと取るか、それとも見放されていると取るかは人それぞれだろう。けれど私は、何もしてくれなくても、見ていてくれる、ただそれだけでも救いなのではないかと思う。失っても、傷ついても、それでも見ていてくれるもの。見守ってくれるもの。それこそが絶望の後に残った唯一の光なのかもしれない。