phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 高殿円


唯一の血縁者である叔母・キャロルが結婚するという知らせを受けたジョー。しかも結婚のタイミングで、相手であるヘンリー・バスカヴィルがデヴォン州アルスター一帯を治めていた領主の跡継ぎであることが発覚し、彼女は男爵夫人になるのだという。結婚式のために単身アルスターを訪れたジョーだったが、そんな彼女を出迎えたのは、以前の幸せオーラ全開な姿から一転して、どこか元気のない様子のキャロルだった。なんでもヘンリーの結婚およびバスカヴィル家当主就任を歓迎していないという文面の手紙が届いたのだという。しかもヘンリーが継ぐことになったバスカヴィル家には、オカルトめいた伝説や儀式が存在しているらしく……。

男女逆転&現代版ホームズ・パスティーシュシリーズ、久々の第2弾。2019年に雑誌「ミステリマガジン」に連載された表題作と、同誌に2010年に発表された短編「ミシェール・ホームズとハロッズの段ボール箱」の2作が収録されている。

シャーリーはその職務、そしてなにより体調のこともあってロンドンを離れられないため、ひとりでアルスターへと向かうジョー。となると、今巻でのシャーリーは本格的に「安楽椅子探偵」としての活躍になってしまうのか……と思ったら、中盤でジョーを助けるためにシャーリーがやって来るのだから驚くやら嬉しいやら。常日頃から「自分には心がない」とのたまうシャーリーだが、なんだかんだ言ってジョーのことが心配なんだな、と思わず頬が緩んでしまう。そしてシャーリーの電脳探偵ぶりはロンドンを離れても精彩を欠くことはなく、どんどん事件の真相に近付いていくその手腕の鮮やかさには目を瞠るばかり。ジョーのシャーリーに対する評価も好意もうなぎのぼりなわけだが、その行為をあっさりといなすのもまたシャーリーらしい。それが本心からきているのかどうかはさておいて。

そんな中、またしても謎が深まるのはシャーリーではなくジョーのこと。前巻ではさらっと、アフガン時代にテロリストに拉致され、半年後にひとり生還したことや、テロ組織の頭領の愛人だったこと、そして軍医であることとは別にして人を殺しているらしい、ということが明かされていたが、今巻ではさらに、アフガン時代以前の彼女の生い立ちらしきものが示されている部分がある。おそらく人を殺すための方法を幼い頃から仕込まれていたと思しき彼女の正体は、いったい何なのだろうか。そしてシャーリーはそれを知ってもなお、彼女を「信頼」しているようだが、その真意はいったい。


◇前巻→「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」

グランドシャトー
高殿 円
文藝春秋
2019-11-14

高度経済成長期のさなか、父を亡くして困窮した母子。のちに母は親戚の勧めで意に染まぬ再婚をするも、なかなか子供ができなかったことから、再婚相手の両親は年頃になった娘を差し出すよう要求する。母親の計らいで娘は大阪へと逃げ延びるも、頼りにするつもりだった知人はすでに転居しており、行く当てのない娘は当時流行っていた素人女性専門のサロンやクラブに潜り込み、「ルー」という源氏名で働き始める。しかし彼女の人気を妬む同僚たちと喧嘩してはクビになるといったことを繰り返し、途方に暮れていたルーは、京橋で駄菓子を差し出してくる謎の女に出会う。彼女こそが京橋でもっとも有名なキャバレー「グランドシャトー」のナンバーワンである真珠。ルーもまたグランドシャトーの一員となり、憧れの存在となった真珠と共に働くことになるが……。

産経新聞および「別冊文藝春秋」にて連載された、京橋のキャバレー「グランドシャトー」を舞台に育まれたふたりの女の絆を描く物語。

グランドシャトーで働き始めてからのルーの成長ぶりはすさまじく、あっという間に頭角を現していく。それは彼女がただ若いからちやほやされていたということではなく(まあ一面にはそういう部分もあったがそれだけではなく)、機を見て対応方法を瞬時に判断し、男たちの懐に上手く入り込むことができていたからだろう。それはきっと彼女が父親を亡くして以来、居場所を奪われ続けていたことによって培われた無意識化の処世術であったのかもしれない。その才能、あるいは手腕は、第2幕で仕事場を東京に移してからのことや、傾いたグランドシャトーを再建する時にも最大限に発揮されることになる。その展開に痛快さを感じつつも、一方で彼女がそんなスキルを身につけざるを得なかった境遇についても考えさせられる。

そんな彼女が一途に慕い、憧れてきたのが先輩ホステスである真珠。その本名も出自もまったくわからないが、ただそこにいるだけで男たちを癒し、惹きつける魅力を持っている女性。年老いてもなおその魅力が衰えることもなく、であればそうとう稼いでいるであろう彼女が、なぜ下町の長屋で日々つつましく暮らしているのかというのが本作の大きな謎となっている。彼女の稼ぎの行き先がわかるのは彼女が亡くなった後のことになり、そこで彼女の出自も断片的ではあるがわかるのだが、それもまた、ルーが求めていたものと重なり合う部分が確かにあった。

あまり饒舌に物事を語らない真珠が、「城」について語るというエピソードがある。「城」は男のものであり、女はそこに住まわされるだけ。けれどそれを聞いたルーは、そこに女がいなければ「城」は機能しないのだとも言う。これはきっと、女たちが居場所を得るための、そして守るための物語だったのだろう。だからこそ、その城の名前は「グランドシャトー」なのだ。たくさんの楽しいことを始める場所――女たちの大いなる城という意味で。

戒名探偵 卒塔婆くん
高殿 円
KADOKAWA
2018-11-02

東京は麻布に位置し、江戸時代から続く由緒正しい臨済宗の寺の息子である金満春馬は、住職代行である兄・哲彦から古い墓石を押し付けられる。敷地の一部を墓地にするための整備中に発見されたものなのだが、古すぎて誰のものなのかもわからないのだという。法律でも1年は縁故者を探すよう定められているいうことで、哲彦は春馬に持ち主探しを命じるのだった。見つかるまで墓石と同衾させるとまで脅された春馬が頼ったのは、クラスメイトの外場薫。彼はこれまでも、戒名や卒塔婆、墓誌などを読み解き、読み方からそこに込められた意味、そしてその葬られた本人の素性まで明らかにしてしまうという特殊能力の持ち主で……。

「小説現代」に2012〜2017年にかけて発表されていた同名シリーズが単行本化。なぜか戒名や仏教知識に造詣が深い高校生・外場と、寺の息子でありながらそのあたりの知識が皆無に等しい春馬のでこぼこコンビが、周辺で発生する戒名の謎を解き明かしていくライトミステリ連作となっている。

春馬の兄で元ヤン(数多くのヤンチャの末、SM嬢とのプレイによって悟りを開いたというエピソードが気になりすぎる)の哲彦や、春馬の幼馴染兼同級生で他の寺の娘である善久寺尊都といった寺社関係者たちによって春馬にもたらされるのは、戒名からその人の素性を探したいという依頼。彼らに頭の上がらない春馬は、しぶしぶ引き受け、それをクラスメイトの外場に丸投げする。外場はあまりにもおバカな春馬に呆れつつも、彼の持ってくる高級和菓子(もちろん寺のお供え物)を報酬代わりに謎をあっさり解いてみせるのだ。あまりにも早々と謎を解いてしまうが細かいことを語らない外場と、なにもわかっていないので素人丸出しであれこれ質問し説明を求めてくれる春馬のコンビは、なるほどとてもよくできている(笑)。

もちろんふたりが解き明かす謎は戒名に込められた意味だけではない。例えば「西方十万億土の俗物」では、逼迫する寺社経営を盛り立てるはずが、なぜか辣腕コンサルタントと外場がプレゼン対決。十二神将のイケメンアイドル化はアプリとかでどこかにもうありそうではあるが、ぜひ見てみたい(笑)。そして中編となる「いまだ冬を見ず」では、日本有数の大グループの遺産相続問題にまきこまれたふたりが海外にまで行ってしまう。戦争体験を絡めて綴られるこのエピソードは、いろいろと考えさせられるものがある。

そんな中、エピローグでは春馬が外場の「目的」について迫ろうとするものの、惜しくもかわされてしまうというシーンも。なぜ外場は戒名にこれほどまでに詳しいのか。そして「いまだ冬を見ず」よりも前のエピソードでパラオに向かっていたのはなぜか。春馬でなくとも気になるそのあたり、ぜひ続編があれば明らかにしてほしいと思う。

トッカン 徴収ロワイヤル
高殿 円
早川書房
2018-03-20

7月は国税局にとって異動の辞令が出る時期。鏡が伊豆諸島へ異動になるらしいという噂を聞いたぐー子は、これであのトッカンともおさらばだ、と大喜び。そんな中、ぐー子は鏡と共に、脱税・申告漏れの常習犯となっている飲食店経営者・平岩の家へ徴収業務に向かうことに。鏡の見立てでは、必ず自宅に金を隠し持っているとのことだったが、いくら探してもそれらしいものは出てこない。しかし鏡が平岩を挑発している台詞から、彼が異動前の置き土産代わりにヒントを与えてくれているのだと考えたぐー子は、見事自力で現金を見つけ出すが……。(「幻の国産コーヒー」)

約6年ぶりとなるシリーズ第4弾は初の短編集。2010〜2018年にかけて発表された6本が収録されている。

短編でもぐー子は鏡に振り回されつつあちらこちらで大忙し。そんな中、徴収官5年目を迎えたぐー子が「専科」と呼ばれる専門研修に半年間向かう「五年目の鮭」というエピソードが。公式の研修ではあるものの、国税局に勤める若手たちにとっての婚活の場でもあるということで張り切って挑むぐー子だったが、あっさり撃沈するというオチがなんとも彼女らしい(笑)。とはいえこれまで鏡と共に行ってきた実務経験が、研修でこれでもかとばかりに活かされているのを見ると、やはりいいコンビなのだなあと思わざるを得ない。なので巻末に置かれた最新エピソード「対馬ロワイヤル」(2018年発表)はぐー子と鏡のいいコンビぶりが最大限発揮されていて、ああこれこれ、という懐かしくも楽しい気持ちに。この流れでまた続編も期待したい。


◇前巻→「トッカン the 3rd おばけなんてないさ」

政略結婚
高殿 円
KADOKAWA
2017-06-24

加賀藩主・前田斉広の娘である勇は、生後半年にして加賀大聖寺藩主の三男・利極との婚約が決まっていたものの、他の姉妹たちの結婚や、徳川の姫君の降嫁などもあり、実際に嫁いだのは18歳になってからだった。初めて目にした夫の線の細さと色の白さから、思わず「さとうだいこんのよう」と考えてしまった勇だったが、心優しい夫や姑、そして兄のもとに降嫁した溶姫などに囲まれ、穏やかな日々を過ごしていた。唯一の悩みは子がなかなかできなかったことで、勇も正室の務めとして側室を勧めたものの、利極はそれを拒否。とはいえ勇もついに懐妊し、娘が産まれてますます幸せな日々が続くものと思っていたが、その矢先に利極が急死し……。(「第一章 てんさいの君」)

2015〜2017年にかけて各種地方紙に連載されていた、幕末から昭和の時代をそれぞれ生き抜いてきた3人の女性の姿を描く大河ロマン長編。

第1章の勇は幕末にあって藩主に嫁いだお姫様。第2章の万里子は明治から大正にかけ、洋行帰りで「自由」を追い求める先進的な女性。そして第3章の花音子は没落した公家華族の娘で、レビュー劇場で歌手を務め、やがてスターダムにのし上がり戦後までを駆け抜けた「華族女優」。女性が抑圧され、ひたすら「家」を守るための道具として扱われていた時代にありながら、彼女たちは時にそれを肯定し、あるいは否定しながら、自らの信念に基づいて突き進んでゆくのだ。

個人的に一番好きなのは第1章の勇。絵に描いたような政略結婚とはいえ、どれだけ周囲が勧めても利極が側室を持たず、勇を大切にしてくれるというエピソードからすでに涙が止まらない。お家第一の世の中にあってこういった態度を取るのはいいことではないのだろうが、やはり現代を生きるこちらにしてみれば(あるいは少女小説脳ということになるかもしれないが)、妻のことを大切に、かつ尊重してくれている――あるいは愛してくれているというのがよくわかる。だからこそ夫を喪った後の彼女の女傑ぶりも、すべてが亡き夫のためなのだということがわかるからこそ、最後まで何度も泣いてしまった。そしてそんな彼女に遺されていた「てんさい」の皿が、のちの万里子や花音子のもとに渡っていくという展開にも。

主君 井伊の赤鬼・直政伝
高殿 円
文藝春秋
2017-01-27

木俣守勝が主である徳川家康から問われたのは、この20年もの間、いったい誰に仕えていたのかということだった。幼い頃より家康の家臣として生きてきたはずだったが、守勝はとっさに答えられないでいた。それは約3年前に亡くなった井伊直政の存在があまりにも大きいためだった――かつて家康の小姓として働き、しかし自身のお家騒動がきっかけで一時は明智に仕えていた守勝。やがて徳川方に戻った折に、偶然引き合わされたのが万千代――のちの井伊直政だった。当時小姓だった万千代は、その気性の激しさのせいで周囲から敬遠されることも多かったが、文武に優れていたことで家康の覚えもめでたく、どんどん出世を遂げていった。しかしその歯に衣着せぬ物言いや、目上の者にも物怖じしない性格が変わることもなく、さらに普段は冷淡そのものなのに、戦となると我先にと戦場に躍り出て勇猛果敢に戦うという無鉄砲さも年々ひどくなるばかり。家康に命じられたこともあり、いつしか守勝は直政の側近のような立場になっていたのだった……。

作者にとって2作目となる歴史小説は 「剣と紅」の主人公・井伊直虎の後継者である井伊直政の生涯を、彼に長らく仕えた木俣守勝の視点から描く長編作。

守勝が直政に仕えていた――というのは外野から見ればまさにその通りなのだが、守勝本人にとってはそうではなかった。元より家康直参であるという思いを強く持ち続けていた守勝にとって、あくまでも自分は「直政のお目付け役」――それ以上でも以下でもないはずだった。しかし直政と共に生き、その不可解な行動および思考回路を見つめ続けてきた守勝は、直政にとってかけがえのない人物だったことは確か。守勝も心のどこかではきっとそれをわかっていたはずなのに、最後の最後までそれを拒む心も捨てられずにいた。しかしそのささやかなすれ違いが、やがて大きな後悔を生むことになるのだ。

家康の言う通り、戦乱の世にあって、唯一の主を定め一心不乱に付き従うというのは困難だったに違いない。しかし直政は愚直なまでに家康のみを主と定め、ただそれだけを自身の行動基軸として生きてきた――たとえその根幹に井伊家再興という願いがあったとしても、それでも。「主に仕える」というのはどういうことなのか。誰のために、あるいは何のために戦うのか――守勝と直政、あるいは家康も含め、彼らが見ていたものは同じようで違っていたのかもしれない。しかし最後にそれに気付けたことは、守勝にとって後悔でもあったけど、同時に救いになったのでは、と思う。

上流階級 富久丸百貨店外商部II
高殿 円
光文社
2016-10-18

顧客に依頼された海外旅行の引率を終え、ようやく帰国した静緒の前に現れたのは、同居人である枡家の母親・吹雪四季子だった。静緒に会いに来たという四季子の真意は掴めないが、その言動から察するに彼女は枡家がゲイであることを把握しており、その隠れ蓑として静緒に枡家との結婚を勧めているとしか思えない。静緒は帰宅した枡家から、彼の家庭の事情を聞かされる羽目になってしまう。一方、外商員としての売上ノルマも順調に増えているうえ、催事への来客が伸び悩んでいることを指摘された静緒は、新しい催事企画にも頭を悩ませることになり……。

老舗百貨店の外商部を舞台に、唯一の女性外商員・静緒が様々な難題に立ち向かうお仕事小説第2弾。

今回も静緒の周辺はトラブルだらけ。枡家の母親襲来に始まり、やり手のイケメンバイヤー・堂上に接近されるわ、実はその堂上と枡家はかつての恋人同士でその痴情のもつれに巻き込まれるわ、顧客のひとり・鶴の孫娘の教育相談に乗っていたらいつの間にか一緒にフランス旅行することになるわ、別の顧客でヤクザの愛人をしている珠理が妊娠をきっかけに逃げるための算段をつけることになるわ、その過程で例のヤクザと対決することになるわ……。時間がいくらあっても足りないのでは?と言いたくなるくらい働き続ける静緒の姿にはもうなんというかただ「が、頑張って……」くらいしか言いようがないが、しかしここまで思い切り働けるというバイタリティは少しうらやましいな、とも思う。

そんな中で特にクローズアップされているのが「少数派」ということ。独身であること、セクシャルマイノリティであること、何事にも興味が持てないこと、ヤクザの愛人であること……そして金持ちであること。「世間一般」のモデルロールから少しでもはみ出た者に対して、「世間一般」の目は厳しい――例え彼らが「世間一般」になんの迷惑をかけていないとしても。多様性として認め合えばいいだけなのに、一方で理解する、あるいは理解させるということはとても難しい。しかし理解してくれる人だってきっといるのだと、枡家や珠理のケースは教えてくれる。ささやかでもいい、そういった想いを少しずつ拾い集めて生きていけばいいのだと、そう言われたような気がした。


◇前巻→「上流階級 富久丸百貨店外商部」


富久丸百貨店外商部において唯一の女性外商員である鮫島静緒。催事などで販売員をしていた静緒にその異動命令が下された背景には、カリスマ外商員・葉鳥の退職に伴い、彼の顧客を引き継がせるためという理由があった。これまで売場を担当してきた静緒にとって、外商とは全く畑違いの業務。必死になって葉鳥から引き継いだ顧客の対応をしつつも、思うように新規開拓ができず悩んでいた。そんな折、葉鳥から提案されたのは、高級住宅地に住むことで知り合いを作るということだった。折しも葉鳥の顧客がしばらく海外暮らしとなるため、その間だけ自宅に住んでおいてほしいと頼まれているのだという。静緒はその提案を受け入れ、芦屋のマンションへと引っ越すことに。しかしそれは、彼女が苦手としている後輩――「本店王子」こと枡家修平とのルームシェアであることが判明し……。

「小説宝石」に2012〜2013年にかけて連載されていた、女性外商員・静緒の奮闘を描くお仕事小説。

高校卒業後、製菓学校に進学し、製菓店のアルバイトから中途採用で富久丸百貨店に入り、現場でいくつかの成功をおさめたのち、突然の辞令で男性ばかりの外商部に唯一配属になったたたき上げの女性――という経歴が目にまばゆいのが主人公の鮫島静緒。実生活ではバツイチのアラフォーということで、自ら「恋愛には向いていない」あるいは「平凡」とうそぶき仕事に邁進している彼女だが、とにかく一般人には想像もつかないし、おおよそ「平凡」な人物には到底勤まりそうにないのがこの「外商部」という仕事。個人的には裕福な「上得意様」の家を訪ねては高価なものを売りつける、というイメージしか抱いていなかったのだが、でもって基本的にはまあ間違っていないのだが、その仕事ぶりはかなりのハードさ。とてもじゃないが私には勤まらないな、というのが正直な感想だった。商品知識と顧客の個人情報を瞬時に組み立てて、相手が望むであろうものを先回りして提案するうえ、立ち居振る舞いや教養までもが求められる。そしてそれこそが、百貨店という唯一無二のブランドを裏打ちしているのだろう。

しかし顧客との関係の中で、静緒は「外商」のすべきこと、あるいは存在意義について考えていく。ネットがあればなんでも買える世の中で、わざわざ百貨店を通じてモノを買う意味はいったいなんなのだろう、と。確かに顧客の目線で考えれば、同じものをよそから安く買うことだってできるはず。しかしこの作品に登場する人々はそれをしない。できない、という理由もあるのかもしれないが、したくないという理由だってそこにはある。クリスマス・イブに地元に戻り、そこでパティスリーを開いている親友と語り合う中で静緒がそれに気付くというエピソードがとても印象に残った。


「世界の改心」と呼ばれる大規模な軍縮協定が結ばれてからまもなく10年。表立った戦争は行われていないものの、裏では諜報戦が横行。そんな中、殺人権を持たない日本の警察組織において、戸籍を持たないエージェントによって秘密裏にスパイおよび殺人行為を行う機関があった――それが警備局特別公安五係、通称「サクラ」。家族を謎の人物に惨殺されてひとり生き残り、長じて「サクラ」の養成機関に入った海棠鋭利が相棒として引き会わされたのは、御津見珀という青年だった。任務に失敗すれば命はなく助けも来ない「サクラ」にあって、唯一これを救うことができる存在――それが相棒たる「メサイア」。しかしこの珀は、これまでにふたりのメサイアを立て続けに亡くしているらしく……。

舞台化・映画化もされた本作は、死と隣り合わせの任務に身を投じるスパイ「サクラ」のふたりの活躍と過去を描く長編作。

相棒となったふたりだが、スパイという職業柄、あるいはふたりの元々の性格や過去のこともあってか、特に和気藹々とした仲良しコンビということにはもちろんならない。信じるとか信じないとかそういう次元ではなく、与えられた任務をただこなしてなくふたり。しかし首相の息子の警護という大きな任務を通じ、ふたりはそれぞれの過去に接近してゆくことになる。サクラになるということは、つまり死人になるということ。しかし自分の人生と共に捨てたはずの――あるいは捨てざるを得なかった――過去はふたりを苛み、追いかけてくる。そこで初めて目に見えてくるのが、ふたりの間にいつしか芽生えていた絆。そんなさりげない描写がたまらない。

綺麗な言葉で取り繕ったとしても、結局「サクラ」である鋭利たちが国家の捨て駒であることに変わりはない。本編では理解のある上司・一嶋も、書き下ろし短編「哲学者より愛をこめて」で描かれるその振る舞いは、愛情は確かにあるけれどどこか壊れていると感じてしまうし、初版に折り込まれている短編「サクラノモリ」では、死んでも墓すら作られないという事実が描かれる。それでもたくさんの絶望を胸に抱えたまま、「メサイア」というたったひとりの存在をよすがに、任務に身を投じてゆく彼らの姿がとても愛おしいと、そう思った。


井伊家22代目当主のひとり娘・香は幼い頃から霊感のようなものを持ち、天災を予見し領民を救ったことから「小法師」と呼ばれ慕われていたが、本人は神格化すらされるその状態を心のどこかでは重荷に感じてもいた。そんなある時、許嫁であった従兄弟・亀乃丞の父たちが謀反の疑いで殺されてしまう。香の機転で亀乃丞は遠くへと逃げのびるが、そこに家老である小野家の嫡男・政次がつけ込むかのように接近してくる。香と政次の縁談を整えようとする小野家に対し、拒み切れなくなった香は自ら髪を切り、出家を宣言し……。

女だてらに井伊家当主となったという実在の人物・井伊直虎を題材にした歴史長編。それとなく未来が視えるという能力を持っていたという設定で、若くして出家し、長じて女地頭となり戦国時代を生き抜いた彼女の生き様が描かれてゆく。

元々は当主のひとり娘として、従兄弟の亀乃丞と結婚し一族を支えることになっていた香。しかし亀乃丞が国を出ざるを得なくなったことで状況は一変。やがて許嫁は元服し直親と名を変えて戻ってくるが、その時すでに香は出家していたし、彼も戻るにあたって後見人の娘を娶っていたことで、ふたりは再会こそすれど恋愛関係にはならない。一方、家老の息子であり、たびたび井伊家を陥れようと画策する小野政次は、なにかにつけて香に近付き、彼女の能力を畏れつつも興味を隠さない。政次の権力への執着と香への執着は表裏一体で、ともすれば政次は城主の座よりも香を手にしたかっただけではないかとすら思えてくるくらい。それなりに想っていた直親を失い、敵であるはずの政次をしかし憎み切れず、出家したはずなのに香の周辺はなんとも因縁めいた関係が引きも切らない。これだけでも業が深いというか、香の生涯の過酷さを物語っているかのよう。

女にとって紅は自分を飾るものだが、男にとっては死化粧となる。それを身をもって知った香は紅を捨て、剣を取って生きてゆくことを決める。そんな香が生涯ただ1度だけ紅を用いた時があったというエピソードは、母親が揃えてくれた嫁入り道具のほとんどが使われずに残っていたことと合わせて、彼女がいかに女としてではなく、井伊家の主として生き抜いたかという証とも言える。そんな彼女を女性として見てくれていたのは直親でも政次でもなく、彼女を慕って身ひとつでやってきた直親の元愛妾・きぬだったというのも切ない話。けれど今も昔も、女のことがわかるのは女だけなのかもしれないとも思う。

カーリー <3.孵化する恋と帝国の終焉> (講談社文庫)カーリー <3.孵化する恋と帝国の終焉> (講談社文庫)
高殿 円

講談社 2014-10-15
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第2次世界大戦の影響でオルガ女学院が閉鎖され、シャーロットがインドを離れてから4年。大学へ進学したシャーロットは、再びインドに戻るため勉強と情報収集に励んでいた。そんな中、義弟フェビアンの伝手で、インドの王族も招待されているというホームパーティーに参加したシャーロット。そこで知り合ったのはカプールタラ藩王国の第4王子で、その華やかな姿から「ル・パオン・ロワイヤル(王家の孔雀)」と呼ばれる美貌の青年・ナリンダーだった。シャーロットのインドへの、そしてカーリーへの想いを知ったル・パオンは、シャーロットを婚約者としてインドに招くことを提案。戸惑いつつもカーリーのためにその提案をのんだシャーロットは、再びインドの地へと足を踏み入れるが……。

というわけで8年ぶりの新作となる3巻。大戦終盤という微妙な時期ということもあり、目まぐるしく蠢き続ける世界情勢。シャーロットとカーリー、そして友人たちはその激動の渦に否応なしに飲み込まれてゆく。

美貌の王子ル・パオンの提案もすごいが、それを戸惑いながら受けてしまうシャーロットの決断力も半端なく、なんというか冒頭から飛ばすなあという感じ。しかし物語はこちらの想像以上の展開を見せる――大戦終盤、それはすなわちインド独立の前夜。印・英の関係だけではなく、宗教問題、議会と藩王たちのそれぞれの思惑など複雑に絡み合い、そこにインドの抱える階級問題も関わってくることで、ますますシャーロットとカーリーの立場は遠くなってゆく。偽装とはいえ、一国の王子との婚約ということで、何かとおおごとになってしまうシャーロットの周辺。さらにル・パオンからもたらされるのは、カーリー――アムリーシュが次期藩王として認められつつあることと、彼の婚約という事実だった。

アムリーシュの方は最初からシャーロットに惹かれていたが、シャーロットはまだ(この3巻開始時点では)彼のことを「アムリーシュ」ではなく親友の「カーリー」、あるいは自分と境遇を同じくする異父弟としてしか見ていない節があった。しかしアムリーシュの婚約話を機に、無意識のうちではアムリーシュに惹かれている自分に気付きつつあるようにも見える。まさにサブタイトルにあるように、シャーロットの想いは孵化し始める。とはいえ作中ではなかなかアムリーシュは姿を見せず、シャーロットはアムリーシュを取り巻く状況の混迷具合を目の当たりにするはめに。ようやく再会できたかと思えば意味ありげな発言をしてアムリーシュは姿を消すし、ようやく登場したシャーロットの父は何者かに襲われるわ「シャーロットの実母はミリセントではない」と言い出すわだし、ル・パオンとの婚約披露パーティーに来られなくなったパティがピンチに陥っているしで、シャーロットも読んでいるこちらも気が休まる暇がないという状態。ついでに言えば、その気はないと言いつつシャーロットに婚約話を持ちかけたル・パオンの真意も気になる。ただの退屈しのぎではないような気がするのだが、さて。


◇前巻→「カーリー2 二十一発の祝砲とプリンセスの休日」

カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日> (講談社文庫)カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日> (講談社文庫)
高殿 円

講談社 2013-03-15
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叔母の反対を押し切ってオルガ女学院に残ったシャーロットは、最愛の親友カーリーと共に楽しい学院生活を送っていた。そんなある日、女学院にインド内でも指折りの大国バローダの第1王女・クリシュナ――パティが転入してくる。寄宿舎内きってのお嬢様・ヴェロニカを特別室から追い出したパティは、自分の侍女としてカーリーを指名し、翌日からもやりたい放題。シャーロットはカーリーを取り上げられてしまったうえ、かつて派手にやり合ったこともあるヴェロニカと同室にさせられておおいに落胆する。しかしある時、シャーロットはパティのおかげで初めて「ステーション」――英国保護区の外へ出ることに。そこで新聞記者のエドワードと出会ったシャーロットは、彼とパティが恋仲であること、そしてパティがもうすぐハイデラバードへ嫁がされることを知り……。

1巻に引き続きこちらもファミ通文庫からの復刊。インドでカーリーと共に寄宿舎生活を続けることを選んだシャーロットにまたもや事件がふりかかる。

よく言えば天衣無縫、悪く言えば傍若無人なお姫さま・パティに振り回される学院内。特にシャーロットは一番の被害者で、カーリーとは引き離されるわ、編入時にさんざん嫌がらせされたヴェロニカと同室になるわでもうさんざん。しかしパティの運命――明るく快活な彼女が、意に染まぬ結婚を強いられていること、そして密かに愛する男性がいることを知ったシャーロットは、パティのために一肌脱ぐことに。ヴェロニカと和解したことといい、つくづくシャーロットの素直さがよく出ているエピソードではある。

1巻で明かされていることだが、カーリーの正体は、シャーロットの母・ミリセントと、現パンダリーコット藩王との間に生まれた王子・アムリーシュ。実は幼い頃、ロンドンでふたりは出会っていて、それ以来アムリーシュはシャーロットに惹かれているのだが、シャーロットはそのことに全く気付いていない。そういうすれ違い部分がこれまた少女小説的においしい要素なのだが、2巻ではそういったシーンが多くて嬉しいやらやきもきするやら。
特にヒンディー語の授業にかこつけてカーリーがシャーロットに「愛している」と言わせたり(言わされているシャーロットは意味がわかっていない)、自分からも愛の告白をしてみたりするくだりにはもうどうしたらいいか!と楽しくなる反面、ふたりが異父姉弟かも、という事実がひっかかってくる。相変わらず行方不明なままのミリセントの行方ももちろん気になるところ。

パティの駆け落ち騒動が意外な結末を迎える中、ついにシャーロットにも別れの時が来てしまう。エセルバードから彼の正体、さらにカーリーの正体を知らされ、衝撃を受けるシャーロット。さらに彼女に届いたのは、オルガ女学院閉鎖の報せ。否応なくイギリスへと引き戻されてしまったシャーロットは、カーリーと再会することが出来るのだろうか。


◇前巻→「カーリー1 黄金の尖塔の国とあひると小公女」

カーリー <1.黄金の尖塔の国とあひると小公女> (講談社文庫)カーリー <1.黄金の尖塔の国とあひると小公女> (講談社文庫)
高殿 円

講談社 2012-10-16
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父親の仕事の都合で祖国イギリスを離れ、インドへ向かった14歳の少女・シャーロット。藩王国のひとつ・パンダリーコット内の英国保護区、その中にあるオルガ女学院に入学したシャーロットは、美しいルームメイト・カーリーと出会う。当初はクラス内での上下関係にまつわるいざこざに巻き込まれたシャーロットだったが、カーリーをはじめとして友人も増え、楽しい学校生活を送っていた。そんなある時、数年前にインドで亡くなったという実母ミリセントの話を友人たちにしたところ、もしかしたら彼女はまだ生きているのでは?という流れに。紅茶の輸出業で有名になっている女性実業家「紅茶夫人」の経歴とミリセントのそれがよく似ていることに気付いたシャーロットたちは、もうすぐ開かれるという紅茶夫人のパーティに潜り込んで紅茶夫人を見てみよう、という計画を練るが、様々な事情によってそれは頓挫。しかし学院の隣のお屋敷に住むオーキッド商会の跡取り息子・エセルバードとひょんなことで知り合ったシャーロットは、彼に連れられて紅茶夫人のパーティーに参加することになり……。

2006年にファミ通文庫から刊行されたシリーズ第1巻が講談社文庫で復刊。当時、ファミ通文庫HPで発表されていた短編「恋と寄宿舎とガイ・フォークス・デイ」も併録されている。

主人公のシャーロットは実母ミリセントと生まれてすぐに離ればなれとなり、家庭をあまり顧みない外交官の父親、そりの合わない継母とその連れ子に悩まされるという、なんとも不遇な生い立ちの少女。そのせいかどこか引っ込み思案だったり、思考や行動が幼かったりもするのだが、厳しい校風のオルガ女学院に入り、進歩的な考えの友人たちと一緒に過ごすうちに、目覚ましく成長してゆくという、まさに少女小説のヒロインのお手本のような娘。そしてそんな彼女が何よりも憧れ、慕い、心の支えにしているのが、ルームメイトであるカーリーの存在だった。物語はシャーロットとカーリーの関係を軸にしつつ、やがては亡くなったはずのシャーロットの母親・ミリセントの正体と行方、そしてカーリーの「正体」に迫ってゆくことになる。

最初は昔のコバルト文庫のような、古き良き女子校もののような雰囲気を醸し出していたが、エセルバードの誘いで「紅茶夫人」のパーティーに潜入するあたりからきな臭いものが漂い始める。物語の舞台は第2次世界大戦直前の、英国統治下のインド。欧州の様々な思惑はインドまで流れ、その国内をもかきまわしてゆく。次第に歴史小説、あるいは陰謀小説めいた展開になっていき、シャーロットも大人たちの思惑に巻き込まれて危険な目に遭ったりもするのだが、最終的に彼女は自分の信じたもの――友情のため、思い切った行動に出ることに。そういうあたりはやっぱり正統派少女小説で、これをよくファミ通文庫でやってたよな(打ち切りにはなったけど)……と今更ながら驚いてしまったり。

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱
高殿円

早川書房 2014-07-24
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2012年のロンドン。アフガン帰りで仕事もなければ住むところもない軍医ジョー・ワトソンは、友人からシャーリー・ホームズなる女性とのルームシェアを提案される。とりあえずその日の夜は古巣である研究所の死体安置所に泊まることにしたジョーは、20代前半とおぼしき美女の遺体の横で眠ることに。しかし翌朝目覚めると、隣に安置されていたはずの美女は遺体ではなく生きた人間。しかも彼女こそ、ジョーとルームシェアする予定の女性・シャーリーで……。

雑誌「ミステリマガジン」にて発表された、コナン・ドイルのホームズシリーズの登場人物を女性化し、舞台を現代に移したSF風味のホームズ・パスティーシュ。

とにかくこの女性ホームズ――シャーリーはどこをとっても規格外な美女。頭脳明晰、眉目秀麗、しかし変わり者で、自称「心がない」ときた。人工心臓の持ち主であるからか刹那的な一面も持つが、基本的には真面目で(ただしその「真面目」もなんとなく常識外のような……)、なぜか姉絡みの仕事であるロンドン・ヤードの手助け――シャーリーいわく「顧問探偵」の仕事はきちんとこなす。そんなエキセントリックなシャーリーに、ジョーは振り回されながらも馴染み、やがて助手よろしく事件現場にも付いて行くように。

今作では、ほぼ同じ時刻に別々の場所で、まったく関係のない女性4人が同じ死に方をしているという事件の謎をシャーリーが解き明かす「シャーリー・ホームズと緋色の憂欝」、そしてシャーリーの姉で政府高官だという女性・マイキーにジョーが「品定め」をされてしまうはめになる「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」の2編を収録。シャーリーの最大の敵であるモリアーティ教授(こちらも女性)との対決や、「緋色の憂欝」のラストのジョーの独白――のちに何らかの理由でシャーリーが昏睡状態に陥ること――など、いろいろと続きそうな要素がたくさんあるので、続刊に期待。

トッカン the 3rd: おばけなんてないさトッカン the 3rd: おばけなんてないさ
高殿 円

早川書房 2012-06-22
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上司であるトッカン・鏡とのコンビも2年目となり、ぐー子もだいぶ徴収官として成長してきた今日この頃。そんなぐー子に鏡が振ってきたのは、霊感商法相手の徴収だった。400万もの滞納があるうえ、代表の原ぜん子は目下行方不明中。東京にあるという事務所にも自宅にもいるふうではない。地道な情報収集を続けるぐー子だったが、ひょんなことから鏡を怒らせ、別の案件も振られたうえで栃木への出張を命じられる。新たな案件というのは、栃木にある廃業寸前の運送会社が、税金を滞納したまま別の仕事をしており、それを申告していないのでは?という情報提供があったためで……。

シリーズ3巻、今回は東京だけでなく、鏡の故郷であるという栃木も舞台に。そこで登場したのは、これまた鏡の同級生であり、元力士の記者・綿貫。そして前巻のラストでもちらっと現れた、読者モデルのごとき美女――つまり、鏡の元妻である森華子。ぐー子は霊感商法と運送会社の案件、加えて東京で対応中だった酒屋の案件を抱えつつ、鏡の過去にも少しずつ触れることに。

今回のサブタイトルは「おばけなんてないさ」。分かる人には分かる、子供向けの歌の1節ではあるが、今回の物語には実にいろいろな意味で登場してくる。おばけ――幽霊。いる(かもしれない)のに、目には見えないもの。見えなければそれは「ない」のと同じ。見えないから「ない」ということもあれば、見ないふりをして「ないことにする」ということもあるだろう。ぐー子は仕事の中で、様々な「おばけ」を見ていることに気付かされる。そして同時に、見えないけれど確かにそこに「ある」ものの存在にも気付かされることになる。自分の目だけでは気付けない、本当の姿に。

とまあ、またそうやって成長していくぐー子ではあるが、それでは鏡との関係はどうなのかというと……確実にではないけれど、何かが少しずつ動き始めているという印象。これもまた、今まで見えてこなかったもののひとつなのかも。今回の案件を終え、鏡に褒められたぐー子だったが、なぜか彼女はとっさにその言葉を拒んでしまったり、あるいは埋め立てられてなくなってしまった川についての鏡の回答にざわめいたり。その時、彼女が抱いていた想いは何だったのか……想像しただけでなんていうか、こう……!


◇前巻→「トッカンvs勤労商工会」

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