人見知りのせいで就活にことごとく失敗した樋口まりあは、祖母の紹介で「コメヘン」という食品商社の面接を受けることに。祖母の同級生だという社長の面接を受けたその場で採用が決まり、大学で学んだ化学を活かせると思ったのも束の間、彼女に与えられた仕事は社長秘書だった。しかも現在秘書を務めている吉沢ゆかりは間もなく退職してしまうというのだ。そして初出勤日、緊張するまりあを引き連れて他の社員たちの紹介をしながら、ゆかりは社員たちと「大阪」だの「広島」だのという謎のやり取りをしていて……。
米偏のつくものなら何でも扱うという商社「コメヘン」で、社長秘書として……だけではなく、なぜか料理上手になっていく主人公の成長を描くシリーズ1巻。ちなみに、タイトルから想像した内容は「気が優しくて力持ち的、ついたあだ名は〈ひぐま〉なコックさんのいる洋食屋が舞台のハートフルストーリー」だったのだが、まさか〈ひぐま〉=ひぐ(ち)ま(りあ)だとは……というギャップがまず面白い(笑)。
食品商社の社長秘書といえど、地方の中小企業ということもあり、社長の米田をはじめとして社内の雰囲気は実にアットホーム。そして主人公・まりあの先輩であるゆかりは単なる社長秘書ではなく、時には社長のお客様相手だったり、あるいは社内のイベント(例えばまりあのような新人が入ってきたときなど)で手料理をふるまっているというのだからさあ大変。しかも初出勤日にゆかりが作ったのは、社員ひとりひとりから好みを聞いてそれぞれ作り分けたお好み焼きだし(だから「大阪」「広島」)、彼女が見に付けているエプロンにはなぜか「ゆかりんキッチン」と書かれているしで、その本格さにはまりあでなくとも驚きの連続だったりする。
面倒見はいいけど思いのほか毒舌めなゆかりに翻弄されつつ、まりあはなんとか秘書として、そして「ひぐまキッチン」として仕事をこなしていくことに。元々料理が得意なわけではないため、周囲の助けを借りてできた料理は素朴なものばかりだが、それが客人たちの心をつかんでいくというのもまたいい。そもそも、料理するのはまりあひとりだが、材料を調達したり、客人の情報を得たりするのは、周囲にいる他の社員たちのサポートあってこそ。「秘書」という役割から考えると普通ではないこの業務に対し、まりあがちゃんと向き合っていることや、周囲の信頼を得て、社内にも彼女の居場所ができているということ自体が心強い。そんな彼女の料理の腕前が今後どうなっていくのかも期待したい。