phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: *か行の作家

旗師・冬狐堂二 狐闇 (徳間文庫)
北森鴻
徳間書店
2020-12-10

ある骨董市で2枚の青銅鏡を競り落とした陶子だったが、帰宅して箱を開けると、そのうちの1枚が競りで見た時とは異なるものにすり替えわっていた。三角縁神獣鏡のレプリカのようなその鏡の佇まいにすっかり魅了されてしまう陶子。しかし後日、その神獣鏡の本来の持ち主と名乗る人物が現れ、返却せざるを得なくなってしまう。その持ち主から挨拶とお詫びがてら会食に誘われた陶子は、帰る前に酔い覚ましとして車内で仮眠をとっていたはずが、目覚めると見知らぬ病室に寝かされていた。そこに現れた警官いわく、陶子は泥酔状態で運転し、自損事故を起こしたのだ、と。身に覚えのない陶子は必死に抵抗するが、その判定は覆らず、運転免許は取り消されてしまう。さらに時同じくして、少し前に陶子が入手した絵画が何者かに盗まれていたため被害届を出していたのだが、事故した車のトランクにその絵が隠されていたことが判明。また、同時期にその絵の贋作のようなものが発見されていたことから、警察は陶子が詐欺を目論んでいたものとして、骨董業者の鑑札まで剥奪されてしまうのだった……。

古美術×ミステリーシリーズ、復刊第2弾。またしても何者かの罠にはめられ、骨董業者としての資格を失ってしまった主人公・宇佐見陶子が、犯人の狙いを探るため、そして自身のプライドをかけて、強大な歴史の闇に立ち向かっていく長編作となっている。

前回の敵は(一応)いち個人ではあったが、今回の敵はその正体も目的も知れないという、想像以上に深い闇に覆われた相手。そんな陶子をサポートしてくれるのは、前巻にも登場したカメラマンの硝子だけでなく、骨董商仲間の越名集治、民俗学者の蓮丈那智、そして越名の知人で「古代技術研究家」の滝隆一朗の3人。しかしそれぞれの知恵を集約させてもなお、最後の最後まで見通しが立たないというのだから恐ろしい。もちろん最終的に真相は解き明かされるのだが、それでもなにか釈然としないものが残る。それこそが「歴史の闇」そのものなのかもしれない。


◇前巻→「旗師・冬狐堂 一 狐罠」

旗師・冬狐堂一 狐罠 (徳間文庫)
北森鴻
徳間書店
2020-11-06

若いながらも確かな鑑定眼で頭角を現している骨董商・宇佐見陶子は、同業者である橘薫堂の橘に騙され、贋作を買わされてしまう。プライドを傷つけられた陶子は、恩師にして元夫である大学教授Dの伝手を頼りに、贋作師である潮見老人に「仕事」を依頼するのだった――もちろん「目利き殺し」を仕掛け返し、橘に復讐するために。一方その頃、橘薫堂で外商を担当していた女性が遺体で発見される。担当刑事の根岸と四阿は、その奇妙な検視結果に首を傾げつつ、陶子の元へと向かう。被害者の持っていたノートには、陶子に関する情報が事細かに書かれていたのだった……。

1997年以降、複数の出版社からバラバラに刊行されていた古美術ミステリ「旗師・冬狐堂」シリーズが、このたび徳間文庫からまとめて復刊されることに。本作はそのシリーズ1巻となっており、復讐に燃えるヒロイン・陶子が、奇妙な殺人事件に巻き込まれながらも復讐を果たそうとする姿が描かれていく。

シリーズタイトルにもなっている「旗師」というのは、店舗を持たない骨董商のことだという。恩師であり、かつては夫でもあった英国紳士「プロフェッサーD」に仕込まれた知識と審美眼でもって闇深き骨董業界を渡り歩いてきた陶子は、贋作作り、そして「目利き殺し」――その品物が抱える瑕疵を様々な手段でごまかすこと――という最も深い闇に手を染めることとなる。そのために陶子が目の当たりにしたのは、贋作師である潮見老人が見せた、贋作作りの神髄だった。実在しない「逸品」を、当時の材料や制作方法にできる限り近付けて作り上げる、その過程は壮絶のひとことに尽きる。物語はその「逸品」を手に、陶子が老獪な骨董商・橘薫堂を相手にどう立ち回り、そしてどのようにして勝とうとしているのかを丹念に描いており、読んでいるこちらも手に汗握るような展開になっている。

ちなみに、帯には「私は嘘を食って育つ魔性の女」とあり、それは確かに陶子の持つ一面を表してはいるが、しかし彼女は思ったほどの「強い女」ではなく、隙のある振る舞いをしたり、詰めの甘さを露呈してしまうこともしばしば。しかしそんな姿にもなんとなく好感を覚えてしまうのは、きっと私だけではないだろう。

一方で、陶子は知らず知らずのうちにある殺人事件に巻き込まれてしまうことに。被害者と陶子には面識がないにもかかわらず、なぜ被害者は陶子のことを調べていたのか――そもそもなぜ、彼女は殺されなければならなかったのか。そこには陶子も驚くようなある過去の出来事が隠されていた。そしてその出来事は、陶子の復讐計画にも影を落とすこととなる。最終的に彼女の復讐がどうなるか、それは読んでからのお楽しみということにはなるのだが、彼女はこの大きな賭けの結果、何を失い、そして何を得ることができたのだろうか。それでも歩みを止めない彼女の後ろ姿が、ふと見えたような気がした。

憎悪人間は怒らない (ハヤカワ文庫JA)
上遠野 浩平
早川書房
2020-08-20

犬の散歩中、コノハ・ヒノオ少年は鳩にたかられている老人「ボンさん」と出会う。動物を簡単に手なずける「ボンさん」に憧れを抱いたヒノオだったが、保護者であるウトセラ・ムビョウから「その人と二度と話してはいけない」と告げられ、ショックを受けて家を飛び出してしまう。「ボンさん」と出会った場所に戻ったヒノオの前に現れたのは、「ボンさん」ではなく、紫色の詰襟のような服を着た男だった。フォルテッシモと名乗ったその男は「ボンさん」を――他者の憎悪を表に引き出す能力を持つ「憎悪人間」カーボンを探しているというのだが……。(「憎悪人間は怒らない」)

ブギーポップシリーズのスピンオフとなる、統和機構の「製造人間」ウトセラ・ムビョウをめぐる連作集第2弾。2018〜2020年にかけて「SFマガジン」に掲載された短編6本に、書き下ろしとなる幕間「憎悪人間は肯定しない」が収録されている。

今巻で中心となるのは、タイトルにもなっている「憎悪人間」カーボン。動物に異様なまでにたかられる性質の持ち主であるこの老人は、他人が抱えている憎悪を自然に表に引き出すという能力を持っている。この能力によって、統和機構に仇なそうとする人物をあらかじめ見つけることができるだけでなく、その「憎悪」を告白する過程で何らかの重要な情報を得ることもできるのだが、そのカーボンが統和機構を裏切り、姿を消したというところから物語は始まっていく。ただし、行方不明と言いつつもヒノオ、そしてウトセラの前に姿を見せるなど、その行動には謎が多い。いつしかヒノオとウトセラは、彼の真の目的を知り、その手助けをする羽目にもなってしまうのだ。

人類を支える「システム」たる統和機構ももちろん一枚岩ではないということが露呈してしまった本作。その中にあってウトセラは何を思うのか、そしてヒノオは本当に「無能人間」であるのか、それはまだわからない。けれどもしかしたらカーボンとの出会いによって、ヒノオはその在り方を変えてしまうのかもしれない。


◇前巻→「製造人間は頭が固い」


精霊の声が聞こえる能力を持っていた少女サリは、ランカトル王国の公安局で「精霊使い」として働いていた。能力は高いが傲慢な「魔法使い」ラルフをパートナーとし、数々の問題を解決してきたサリ。だがある時、魔物や精霊に興味を持つ王弟デューカによる「鑑賞会」に駆り出されたサリは、精霊使いと思しき少女が「魔物の子」として捕らえられ、見世物にされていることにショックを受ける。さらにその時、少女を助けるために美貌の魔物が姿を現してしまう。デューカの命令で魔物を攻撃しようとしたラルフだったが、とっさに少女をかばおうとしたサリもろとも、魔物の放つ光に包まれて昏倒。数日後、目覚めたサリは、自身の能力が失われていることに気付き……。

「精霊使い」サリと「魔法使い」ラルフの能力が入れ替わってしまった上、諸事情により追われる身となってしまってさあ大変!なファンタジー長編1巻。雑誌「小説Wings」にて2018〜2019年にかけて発表された2作と、過去編となる書き下ろし番外編が収録されている。

目に見える異能力である「魔法使い」は人々から認められ、尊敬される存在ではあるが、普通の人には見えも聞こえもしない精霊の声を聴きとる「精霊使い」は、大きな街でこそその存在を認知されているものの、地方では魔物の成りそこないのような扱いを受け、迫害されることも多い存在だった。主人公のサリも幼いころから迫害を受けていたし、公安局の「精霊使い」となってもなお、「魔法使い」たちからは見下され、相棒となったラルフとの折り合いもあまりよくないという状況。特にラルフは魔法使いとしても名門の出でプライドが高く、サリのことも能力こそ認めているものの、彼女をひとりの人間として見ているかどうかは怪しいので、もともとのサリの生い立ちともあいまって、仲良くするなんていうのは難しいにも程があるとしか言いようがない。

しかし、そんなふたりの能力が入れ替わってしまったことで事態は急変。シロガネと呼ばれる魔物によって能力を入れ替えられたふたりだが、簡単に元に戻すこともできないということで、ふたりはそれぞれ、相手の能力と向き合い、折り合いをつけつつ、連携をとって解決策を探さねばならないという状況に。サリの方はともかく、ラルフの方がいろいろと心配な点が多いのだが(主に性格的な面で)、今巻だけでもずいぶん視野が広がった模様で少しは安心できなくもない。そんな今後のふたりの関係の変化が気になるところ。


30歳を過ぎたフリーライターの高原晶は、自身の将来について考え始めていた。仕事仲間の独立、懇意にしていた編集者の異動、そして彼氏から結婚をほのめかされたこと……。そんな中、男性誌の編集者である塩谷といつものように呑んでいた晶は、取材で訪れた「ホストクラブ」という業種のワンパターンぶりに疑問を呈し、「若い子でも簡単に出入りできるクラブのようなホストクラブ」というアイディアを思いつく。それを聞いた塩谷は、憂夜というホストらしき男性を晶に引き合わせ、彼女のアイディア通りの店を開くと宣言して……。

過去にドラマ化もされたライトミステリ連作集「インディゴの夜」シリーズの前日譚。晶と塩谷が「club indigo」を開くまでの紆余曲折を描く長編小説となっている。

今回はミステリ色はなく、当時の晶が置かれていた状況を軸に、「club indigo」開店に至るあれこれ――憂夜やなぎさママとの出会いやメンバー探し、開店までに他のホストクラブとの間に起きていたいざこざ等が描かれていく。なぎさママとのガチンコ勝負(?)や、当時付き合っていた彼氏との関係の変化なども興味深いが、やはり一番気になったのは憂夜の存在だったりする(笑)。塩谷さんが連れてきたという話は本編でもあったが、やはりその経緯はこの前日譚でも謎のまま。さらに終盤には憂夜を「兄弟」と呼ぶ人物はいったい何者だったのか……と、ますます謎が深まった気がしてならない。そんなところも含めて、ぜひ本編の再開を期待したい。


◇本編1巻→「インディゴの夜」

皇帝と拳銃と (創元推理文庫)
倉知 淳
東京創元社
2019-11-11

学内で「皇帝」と称されるほどに絶大な権力を持つ主任教授・稲見は、経費の不正使用に気付き恐喝してきた事務員を、事故に見せかけて殺すことに成功する。その翌日、稲見の元を訪れたのは、西洋の絵画に出てくる「死神」のような陰鬱な容貌の中年刑事・乙姫と、その部下で俳優とも見まがうような美貌の青年刑事・鈴木だった。計画は完璧で、どうあっても自分にたどり着くことはないと確信していた稲見だったが、「死神」の捜査の手は次第に稲見へと近付いていき……。(「皇帝と拳銃と」)

見る者すべてが「死神」を連想するような風貌の中年刑事が、完璧に見えたいくつもの殺人事件を解決してゆく倒叙ミステリ短編集。

倒叙ミステリであるため、読者には犯人の正体が最初から明かされている。しかし本作に収録されている4作は、その殺害方法が明かされないものや、動機が明かされないものも。それらを「死神」がどう暴いていくかが面白い点なのだが、「死神」は派手なパフォーマンスや天才的な推理力を持っているわけではなく、その綽名にふさわしく、淡々とさりげなく、しかし確実に標的の首を刈り取るように、ともすれば見過ごしてしまいそうな小さな証拠を見つけ、それを犯人に提示していくのだ。読み進めるにつれて、その恬淡とした振る舞いがだんだんクセになってくる。また、そんな感じなのに小劇場系劇団や女性に人気の恋愛小説など、妙なサブカル知識をさらっと出してくるというギャップからも目が離せないので、今後の活躍にも期待したい。


遠い未来、衰退の一途を辿る人類は、生き残るためにある「賭け」に出る。集団は各地に隔離され、「見守り」と呼ばれる存在が注意深く彼らの生存を文字通り見守る中、人々は「母」と呼ばれる存在に育てられ、国も宗教も争乱もなく、かつて「人間」が引き起こしたおびただしい出来事も知らぬまま、ただ生きているのだった……。

第44回泉鏡花賞受賞作となった本作は、遠い未来の地球で、様々なかたちで生き延びる人類と、それを見守る存在たちの姿を描く長編小説。

今のわたしたちのような者もいるだろうし、他の動物と融合あるいは交雑して、姿が変わってしまっている者もいるのかもしれない――そうして生き延びた「人間」たちは、各地で穏やかに暮らしている。そんな彼らを見守っているのは「母」と呼ばれる存在と、彼女たちのもとで観察者あるいは監督者として育てられた「見守り」と呼ばれる存在だった。短編連作のような形で、人間、「見守り」、母それぞれの視点から、遠い未来の姿が描かれていく。その様は確かに「神話」のようなもので、やがて物語は「母」の正体、そしてこの「世界」を創ったであろう少女の物語へと収束していく。エリという少女は自らの手で人間(のようなもの)を創り、レマという少女は夢の中で、神の視点から人類の歴史を垣間見る。見守り、見守られる人々の位置が入れ替わりながら、この「神話」は円環を成していく。人の営みが繰り返されるという、その神秘をひしひしと感じさせられたような気がした。

化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2017-06-22

夏休みを迎え、シフト勤務に切り替わった舞衣。そんな中、四宮大学に飛び級で大学生となった16歳の少女・エリーが留学してくることになった。知人からの依頼もあってエリーの監督をすることになった沖野と共に、舞衣はエリーの生活をサポートすることに。他者との交流にあまり積極的ではないエリーとなんとか距離を縮めようとする舞衣は、エリーが有機化学の世界に入ってきたきっかけが、四宮大に所属する学生・二見の影響であることを知る。しかし舞衣が調べた結果、二見はエリーが沖野と共に手掛けている「トーリタキセルA」の合成実験に失敗し、大学を中退して現在は行方不明になっているらしく……。

化学系ライトミステリシリーズ第6弾は初の長編作。留学生のエリーと、彼女が手掛けている実験を巡り、学内で起きていたきな臭い事件をふたりが解決していくという展開に。

今回も舞衣の好奇心と行動力、そしてこれまでに培ってきた観察力と人脈によって、失踪していた二見青年の居場所を突き止めることに成功。一方、二見が失敗した研究は、沖野の母校である東理大と共同で行っていたということで、そちらについては沖野が調べを進めてくれるという、まさに二人三脚で挑んだ今回の事件。そんな中、母校に関わるということは、沖野を連れ戻したがっている先輩・氷上が出てくるということ。今回もそのツンデレっぷりは健在で、なんだかんだ言いつつ(そして相変わらず舞衣のことを目の敵にしつつ)、沖野のためにいろいろと調べごとをしてくれるあたり、いい人だなあと思わずにはいられない(笑)。

「ギフテッド」――天才と呼ばれるエリーの存在を巡り、氷上からの問いかけに答えられなかった沖野。しかし舞衣のある言葉がきっかけで、その答えはすんなりと導き出されてしまう。この1件だけでも、ふたりの関係性――少なくとも沖野にとっての舞衣という存在がどういうものであるかがなんとなく見えてくる。相変わらず、あるいはますますいい関係になっているようで何より、となんだか母親のような気持ちになってくるのは私だけではないと思いたい(笑)。


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー5」

化学探偵Mr.キュリー5 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2016-12-21

社会人2年目の春を迎えた舞衣は、庶務課主催の新入生歓迎会の準備に追われていた。そんな折、四宮大学にあるふたつの科学系サークルの代表者から相談を受けることに。なんでも部員減少により両サークルとも存続が危ぶまれているため、統合してひとつのサークルとして再出発しようと考えているらしいのだが、統合後のサークル名を巡って対立しているのだという。そのため、ある実験で対決し、勝った方のサークル名を残すことになったので、その対決を新入生歓迎会の中で開かせてほしいのだ、とも。すでに参加サークルの応募は締め切られているため、舞衣はその依頼を却下するが、その代わりにと対決の審査をしてくれる科学系の教授か准教授を紹介してほしいと言われ、引き受けざるを得なくなってしまう。そこで舞衣は沖野に相談に行くのだが、あっさりと断られてしまい……。(「化学探偵と無上の甘味」)

好奇心旺盛な庶務課職員・舞衣と、そんな舞衣に毎度振り回されてしまう准教授の「Mr.キュリー」こと沖野が、学内で起きる様々なトラブルを解決していくシリーズ5巻。ふたりの関係も2年目に突入ということで、今回も息の合った(?)コンビぶりを見せてくれる展開に。

サークル存続を巡る甘味調合対決から始まり、学生時代の同級生のダイエットに隠された秘密、四宮大生を襲う通り魔事件、引きこもり高校生の進路相談……等々、今回も舞衣のもとには様々なトラブルが持ち込まれてくる(中には大学は関係なく、舞衣の友人知人からのトラブルも含まれていたりするが……)。そんな舞衣を、沖野はことさら「災厄を呼ぶ祟り神」のように茶化し、拝んでは遠ざけるような素振りを見せるのだが、結局はやはり手を貸してくれるという流れがなんとも楽しい。

そんな中、「化学探偵と冷暗の密室」では、ふたりが地下の冷蔵室に閉じ込められてしまうというハプニングが発生。もちろん無事に助かりはするのだが、その前後でふたりが示していた態度がなかなか意味深。沖野の方は、閉じ込められる前に舞衣に対してやたらと不機嫌な態度をとっているのだが、実はその少し前に沖野の教え子である女生徒が舞衣を合コンに誘っていたので、もしかしたらそのことを知っていたのでは……?と勘繰りたくなってくる。一方、事件後に沖野のことを「カッコいい」と感じていた舞衣。例の合コンの参加者に言い寄られていた舞衣はその誘いをきっぱり断るのだが、その際に相手から「沖野先生と付き合っているのでは?」と言われたこともあり、無意識のうちに気にし始めているのかもしれない。ということで、ふたりの微妙なようやく前進なるか……?


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー4」

化学探偵Mr.キュリー4 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2016-03-18

庶務課が運営している「なんでも相談窓口」に、構内に猫が増えてきたという苦情が相次いで寄せられる。さっそく数や種類を把握しようと調査に出た舞衣が見たのは、野良猫におそるおそる近付こうとする沖野の姿だった。そんなふたりの前に現れたのは「大学猫を守る会」と名乗るサークルの会長・堺と、以前別の「事件」で関わり、ふたりとも顔見知りである早苗。ふたりに猫を預けた舞衣たちだったが、そこで早苗から密かに相談を持ち掛けられる――実は早苗には猫アレルギーがあるようで、本当は猫に接するのが難しいのだが、彼氏である堺のそばにいたいため、どうにかアレルギーを治す方法を探してほしい、と。皮膚科に通っても効果がなかったという早苗のため、舞衣はある漢方薬の店を紹介するのだが、それでもアレルギーは治るどころか悪化する一方で……。(「化学探偵と猫騒動」)

大学内で起きる様々な事件を、准教授と庶務課の女子職員が相変わらずの名コンビ(?)ぶりで解決していくライトミステリシリーズ第4弾。今回は珍しく、沖野単独の謎解きエピソード「沖野春彦と偽装の真意」と、その裏側で起きていた舞衣単独のエピソード「七瀬舞衣と三月の幽霊」も収録されている。

猫アレルギーに隠された秘密、落とし物のUSBメモリが引き起こす詐欺事件、そして舞衣の親友である人気アイドル・剣也が殺人事件の謎解きに挑戦!?という変わり種エピソードもあるなど、今回は3巻までとは少し趣が異なる展開に。そして最後には前述の通り、外出先で沖野がある事件の謎解きをすることになるエピソードと、同じころに舞衣が大学で起きた事件の謎解きをえるエピソードも収録されている。沖野はともかく、舞衣がひとりで謎解きができるのか?と少し心配になったものの、沖野の助言を受けて見事解決していくところに、彼女の成長ぶりが見られてなんだか微笑ましくなってくる。ふたりが出会って今巻で1年経ったということなのだが、沖野が自ら「これからもよろしく」と舞衣に告げるラストにはぐっとくるものがあった。今後のふたりの関係も要注意ということで(笑)。


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー3」

化学探偵Mr.キュリー3 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2015-06-23

舞衣のもとに三波桜という女子学生が相談にやってきた。友人である村杉和弘の家に何度も藁人形が投げ込まれるようになり、同じ頃から彼の体調も悪くなりつつあるのだという。本人はまったく気にしていないが、心配になった桜は舞衣に犯人探しを依頼。捜査に乗り出した舞衣だったが、その中でしばしば村杉和弘の双子の兄・達弘が不審な行動をとっているのを目撃し……。(「化学探偵と呪いの藁人形」)

「Mr.キュリー」と綽名される化学科の准教授・沖野が、トラブルを引き寄せる体質持ち?な庶務課の女子職員・舞衣と共に、様々なトラブルを化学的に解き明かしていく日常の謎系ライトミステリシリーズ第3弾。

いつの間にか「クイーン・オブ・オカルティズム」などという二つ名を獲得していた舞衣。もはや沖野の「Mr.キュリー」という綽名がかすんできそうな気もするがそれはさておき(笑)。今回も藁人形の呪いに始まり、人目を避け夜中に実験を繰り返す学生の抱える秘密を明らかにし、さらには知人の飼い犬を助けるために薬を作ろうとする少年の手助けをする沖野。特に中編「化学探偵と化学少年の奮闘」では、科学に興味を持つ少年に積極的に関わってくるなど、これまで以上にやる気を出す沖野の姿が見られる。しかし最後に置かれた短編「化学探偵と見えない毒」では一転して舞衣を拒絶するような素振りも。先輩研究者である氷上の登場で明らかになったのは沖野の抱える過去と後悔。沖野の拒絶にショックを受ける舞衣だったが、転んでもただでは起きないというか、無意識のうちに氷上を挑発し、いつの間にか彼の協力を取り付けてしまっているのだから、なかなか図太いというか人たらし(?)というかなんというか(笑)。図らずも舞衣が氷上を利用していることに呆れる沖野だったが、その台詞の影にはもしかしてヤキモチが……?という邪推をしてしまったのはきっと私だけではないだろう(笑)。


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー2」

化学探偵Mr.キュリー2 (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2014-07-23

小学生の園田勇太は3月生まれであるために他の同級生たちよりも身体が小さく、一緒に遊んでいてもついていけず、周囲から呆れられ見放されることもしばしば。河原でこっそり悔し泣きしていた勇太だったが、ふとあたりを見回すと、あるゲームに登場する魔術師めいた老人を発見。彼が謎の壺から炎を出すところを目撃してしまう。その「魔法」を習得すれば友人たちを見返してやれると考えた勇太は、学校行事で訪れた四宮大学にて、案内役を務めた沖野という准教授に「魔法」の使い方について質問するが……。(「化学探偵と炎の魔術師」)

「Mr.キュリー」と綽名される化学科の准教授・沖野が、庶務課の女子職員・舞衣が持ち込む様々なトラブルを化学的に解き明かしていく日常の謎系ライトミステリシリーズ第2弾。

今回も舞衣が持ち込むトラブルは大小様々。小学生が目撃した「魔法」に隠された計画、アイドルオーディションと盗まれた試薬の関係、クッキーを食べた直後に体調を崩した祖母の本当の死因、学内で開発された水を飲むと幻覚が見える?理由、そして開かずの間に現れる人魂の謎。相変わらず好奇心旺盛な舞衣は、職務に対する使命感も相まって真摯に対応していくのだが、沖野に対しては強引すぎるくらいの態度で毎度毎度協力を要請していく。時には大学の外に飛び出す舞衣に引きずられつつ、口では文句を言いながらもさほど面倒がっていない沖野の態度がなんとも微笑ましい。しかし一方で、舞衣もまた沖野に負けず劣らず妙な評判が高まっていることも判明。いつの間にかオカルトサークルの「終身名誉顧問」にされているのにはつい笑ってしまった。実は沖野の綽名よりもよほど実害を被っているのでは……(笑)。


◇前巻→「化学探偵Mr.キュリー」

化学探偵Mr.キュリー (中公文庫)
喜多 喜久
中央公論新社
2013-07-23

四宮大学の庶務課に勤務している七瀬舞衣は、課長の猫柳から構内のあちこちに穴を掘られているという妙な事件の話を聞かされる。かねてより学生のモラル低下を懸念した学校は「モラル向上委員」を設置しており、舞衣はその委員に任命された先生と共に、今回の事件についての調査を命じられるのだった。委員となった理学部化学科の准教授、「Mr.キュリー」こと沖野春彦の元を訪れて協力を要請する舞衣だったが、顔を合わせた沖野はあからさまにやる気なし。しかし掘り返された場所のひとつが農学部の浦賀教授管理の畑であることを知った沖野は急に興味を示し、舞衣を伴って教授の元へと向かうが……。

大学随一の秀才と名高い准教授・沖野が、庶務課の舞衣が持ち込んだ学内の事件を化学知識で解決していくライトミステリ連作集。

ちなみにタイトルおよび綽名の「Mr.キュリー」とは、舞衣の上司である猫柳(趣味:ウィキペディアの編集)によって付けられたもの。母方の祖父がフランス人で姓が「キュリー」だったことから、キュリー夫人と紐付けてつけられたという、当人にとってはある意味迷惑な呼び名であるらしいが、実際に本人は人付き合いが悪く、生徒から慕われるタイプの教員でもないため、特にその綽名が呼ばれている形跡がないのでプラマイゼロといったところだろうか(笑)。

そんな彼の平穏な日常を賑やかしていくのが、事務員である舞衣の存在。最初は舞衣が持ち込む事件や相談、はたまた教員に課せられる事務仕事などを突っぱねていた沖野だが、物怖じしない性格の舞衣に押されたのか、だんだん彼女の持ち込む事件に積極的に関わっていくのがなんとも面白い。かと思えば、舞衣が男友達(しかもアイドル)と一緒にいるところを見て不機嫌になるなど、いつの間にか「あれ?あれあれあれ?」と言いたくなるような反応を見せていることもあり、それはそれでますます楽しくなってくるので、今後このふたりの関係がどう変化していくのかも気になるところ。


クリスマスを間近に控えたある日、閉鎖されていたはずの礼拝堂で老人の遺体が発見される。1年ほど前にも生徒が事故死したのと同じ場所で起きた事件ということで、生徒たちは動揺を隠せない。そんな中、見知らぬ上級生がパトリックの元を訪れる。ハロルドと名乗るその上級生は、1年前に亡くなった生徒――アンソニーの友人で、彼が事故死、あるいは自殺したとはどうしても信じられないのだという。今回の老人もアンソニーと似たような死に方をしていたことから、なにか共通点があるのではないかと考えたハロルドは、死者呼び出し交信できるという噂があるパトリックに、事件調査の協力を持ち掛けてきたのだ。もちろんそんな能力など持っていないパトリックだったが、代わりに「罪喰い」という古い儀式を持ち出して犯人探しに協力しようとするのだった……。

パトリック・ハーン――のちに「小泉八雲」となる青年の青春時代を描く学園ミステリシリーズ第2弾。

今巻では3本の中短編が収録されているが、どのエピソードにも共通しているのが「もうひとりの自分」。ドッペルゲンガーか、あるいはイマジナリーフレンドか――いずれにせよ、当人の生死に関わらず、意識はその身を離れ「もうひとりの自分」を作り出す。その「自分」が訴えようとしているのは、善意なのか、それとも悪意なのか。突然「もうひとりの自分」――しかも初めて見た時は幼かったが、日に日に成長し、現在の自分の姿かたちに近付いていく――を見てしまったオーランドが動揺を隠せない「名もなき残響」に始まり、死者の魂が蝶に変じるという言い伝えを目の当たりにする「Heavenly Blue Butterfly」、そして神学校内で起きた怪死事件が思わぬ真実を暴き立てる「罪を喰らうもの」へと物語は繋がってゆく。

人間の業、あるいは悪意に満ちた事件の中で、オーランドとパトリックはその友情を深めてゆく。パトリックの怪異に惹かれるという性質は、ともすれば彼の足元の危うさをも意味している。自分を母親共々捨てた父親を恨みながら、しかしその死を手放しで喜ぶこともでもない。怪異というありえないはずのものをその目で見据えることで、現実なるものの存在意義を軽くしようとするパトリックの立ち位置は、地で「深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という言葉を想起させる。けれど、オーランドの存在はそんな彼を、確実にこちら側に引き留めているのだろう。そんなふたりがこの先も同じような関係のままでいられるのか――今後彼らがどうなるのかが気になるところ。


◇前巻→「ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲」


19世紀の英国――両親を亡くしたオーランド・レディントンは、彼を引き取った父方の一族の命令で、ロンドンから遠く離れた神学校に送られることとなる。その道中の列車の中で、持参していたチェロのケースを棺と形容する少年と出くわす。彼はオーランドが向かっている神学校の生徒のようで、学校のことを詳しく教えてくれるのだが、いつしか話題は列車に現れる幽霊の話に。パトリキオス・レフカディオス・ハーンと名乗るその少年はオーランドのルームメイトであり、先ほど語った「列車の幽霊」のような奇妙な話を蒐集しているのだという……。

のちに「小泉八雲」と名乗り「怪談」を著すことになる、ラフカディオ・ハーンの青春時代を綴る短編連作集。

……とはいえ作中ではまだ「怪異話の好きな変わり者」パトリック・ハーンとして、ルームメイトとなった語り手・オーランドと共に、少年たちが集う神学校で様々な怪異に出くわすという物語。夜の寄宿舎に現れた「砂男」と「聖母マリア」、日本から運ばれてきた人魚の木乃伊、墓地に現れた亡霊……これらの正体を、ふたりは次々と暴いてみせる。実際のところ、どれも人間のなした事であり、そこに「怪異」などという非科学的な現象は生じていない。怪異を好んで集めておきながらも、パトリックの方が現実的なことを口にすることもしばしばだし、逆にオーランドの方がパトリックに感化され、超常現象が実在するかのような仮説を立てることも。そのでこぼこ具合がなんとも面白い。

しかし結局のところ、人智を越えた現象と言うのは(今のところ)存在せず、人の心の動きがもたらすハプニングでしかないという結果がふたりの前にはもたらされる。それをしってがっかりするとかそういうことではないが、ではなぜパトリックはこうした怪異を集めているのだろうか。オーランドもそうだが、彼の生い立ちにもいろいろと問題があり、孤独(のようなもの)を抱えていることは確か。その空虚を埋めたくて怪異を求めているのか、それとも何か別の理由があるのか……。

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